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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034708
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】耐熱グリース
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/02 20060101AFI20240306BHJP
   C10M 119/24 20060101ALN20240306BHJP
   C10M 105/18 20060101ALN20240306BHJP
   C10M 105/38 20060101ALN20240306BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20240306BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20240306BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240306BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20240306BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240306BHJP
【FI】
C10M169/02
C10M119/24
C10M105/18
C10M105/38
C10N50:10
C10N20:02
C10N30:06
C10N30:08
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139150
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】595141111
【氏名又は名称】カントーカセイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100169236
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 貴史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敏
(72)【発明者】
【氏名】品田 光夫
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB34A
4H104BE28B
4H104CD04A
4H104CJ02A
4H104DA02A
4H104EA03A
4H104EA08B
4H104LA03
4H104LA04
4H104LA20
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】離油度、摩擦特性、低温性といった潤滑グリースに必要な特性について、従来の耐熱グリースと同等以上の特性を有しつつ、130℃以上の使用環境下における耐熱性について、従来の耐熱グリース以上の特性を有する耐熱グリースを提供する。
【解決手段】平均粒子径が2μm以下であるメラミンシアヌレートを増ちょう剤として含むことを特徴とする耐熱グリースである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が2μm以下であるメラミンシアヌレートを増ちょう剤として含むことを特徴とする耐熱グリース。
【請求項2】
前記メラミンシアヌレートを前記耐熱グリース中に20~50質量%含む請求項1に記載の耐熱グリース。
【請求項3】
基油にハロゲン系化合物を含まない請求項1に記載の耐熱グリース。
【請求項4】
前記基油にフェニルエーテル油またはポリオールエステル油のいずれか一方を少なくとも含む請求項3に記載の耐熱グリース。
【請求項5】
40℃における前記基油の粘度が80mm/s以上である請求項4に記載の耐熱グリース。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱グリースに関し、特に増ちょう剤としてメラミンシアヌレートを含む耐熱グリースに関する。
【背景技術】
【0002】
グリースは増ちょう剤、基油が主成分であり各々の種類によって分類される。耐熱グリースとして、例えば増ちょう剤の種類にはウレアもしくはリチウム、カルシウムやバリウム等の複合型金属石鹸が、基油にはエステル油やポリアルファオレフィン油が一般的に用いられており、優れた耐熱性、低温性や潤滑性から車載製品や家電製品を含み幅広い分野で使用されている。
【0003】
耐熱グリースとして、増ちょう剤がポリテトラフルオロエチレンと基油がパーフルオロポリエーテル油からなるフッ素グリースが知られており、極めて優れた耐熱性から特に厳しい高温環境下での要求事項を満足させうる性能を有する。(例えば特許文献1および2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61-113694号公報
【特許文献1】特開2007―308578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような、特許文献1または2に記載の耐熱グリースであっても、130℃以上の使用環境下においては、増ちょう剤や基油の熱劣化によるグリースの変質が起こるという欠点を有していた。
【0006】
そこで、本発明の主たる目的は、離油度、摩擦特性、低温性といった潤滑グリースに必要な特性について、従来の耐熱グリースと同等以上の特性を有しつつ、130℃以上の使用環境下における耐熱性について、従来の耐熱グリース以上の特性を有する耐熱グリースを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的の実現に向け鋭意検討した。その結果、特定の平均粒子径を有するメラミンシアヌレートを増ちょう剤として含む耐熱グリースが、離油度、摩擦特性、低温性といった潤滑グリースに必要な特性について、従来の耐熱グリースと同等以上の特性を有しつつ、130℃以上の使用環境下における耐熱性について、従来の耐熱グリース以上の特性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の耐熱グリースは、平均粒子径が2μm以下であるメラミンシアヌレートを増ちょう剤として含むことを特徴とする。ここで、平均粒子径とは、レーザー回折光散乱法による粒度分布測定において、体積基準による累積粒度分布のD50(メジアン径)である。この測定器としては、例えば(株)堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒子分布測定装置LA-950S2がある。
【0009】
また、本発明の耐熱グリースは、メラミンシアヌレートを耐熱グリースの中に20~50質量%含むことが好ましく、また、基油にハロゲン系化合物を含まないことが好ましく、また、基油にフェニルエーテル油またはポリオールエステル油のいずれか一方を少なくとも含むことが好ましく、さらにまた、40℃における基油の粘度が80mm/s以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、離油度、摩擦特性、低温性といった潤滑グリースに必要な特性について、従来の耐熱グリースと同等以上の特性を有しつつ、130℃以上の使用環境下における耐熱性について、従来の耐熱グリース以上の特性を有する耐熱グリースを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
前述のように本発明に係る耐熱グリースは、平均粒子径が2μm以下であるメラミンシアヌレートを増ちょう剤として含むことで130℃以上の使用環境下における耐熱性について、従来の耐熱グリース以上の特性を有する。
【0012】
このため、耐熱性向上のためにフッ素化合物等のハロゲン化合物を含む基油を使用する必要はない。フッ素化合物等のハロゲン化合物を含む基油は、近年環境問題が取りざたされていることから、本発明の耐熱グリースは環境にやさしいとの効果も有する。さらに、フッ素化合物等のハロゲン化合物を含む基油は非常に高価であるため、本発明の耐熱グリースは低コストに寄与し得るとの効果も有する。
【0013】
これらの効果、特性を有する本発明は、小型化が進み耐熱耐久性が求められる電気電子分野や車載分野等での使用に適している。
【0014】
以下、本発明の各構成成分について、詳しく説明する。
【0015】
[増ちょう剤]
前述のように本発明に係る耐熱グリースは、平均粒子径が2μm以下であるメラミンシアヌレートを増ちょう剤として含む。メラミンシアヌレートは、グラファイト構造を持つため、これを増ちょう剤として使用することで従来の耐熱グリースと同等以上の優れた摩擦特性の機能付与が可能になる。また、メラミンシアヌレートは、熱分解温度が250℃以上であるため、これを増ちょう剤として使用することで130℃以上の使用環境下における耐熱性について、従来の耐熱グリース以上の特性付与が可能になる。
【0016】
本発明のメラミンシアヌレートの平均粒子径は、2μm以下であれば本発明の効果を得ることができるが、1μm以下がより好ましい。
【0017】
メラミンシアヌレートは、従来からグリースの極圧特性や摩耗特性を向上させるために各種グリースに個体添加剤として使用されることがあったものの、グリースの増ちょう効果が乏しいため増ちょう剤として使用することは難しいとされてきた。しかしながら、本発明で使用する平均粒子径が2μm以下のメラミンシアヌレートは高いグリースの増ちょう効果を有し、増ちょう剤として使用することができる。平均粒子径が2μm以下であるメラミンシアヌレートを増ちょう剤として使用することにより、NLGIグレードでのちょう度規格1号から3号に調整することができる。
【0018】
本発明に使用できるメラミンシアヌレートの具体例として、MC-6000(日産化学(株)製)やMelamine Cyanurate HM01(Lianyungang Hanming New Materials社製)などが挙げられる。
【0019】
[基油]
前述のように、本発明に係る耐熱グリースは、耐熱性向上のためにフッ素化合物等のハロゲン化合物を含む基油を使用する必要はなく、基油としては、公知のものが使用できる。例えば鉱油、ポリアルファオレフィン油、エステル油、フェニルエーテル油、シリコーン油もしくはパーフルオロポリエーテル油などが使用される。基油の粘度が低いほど油分離が起こりやすいため、拡散防止剤が塗布面に配向されるよりも先に油の拡散が起こるが、40℃における基油の粘度が16mm/s以上であれば本願発明に使用することができる。
【0020】
特にその中で、非ハロゲン系であり耐熱性に優れるポリオールエステル油もしくはフェニルエーテル油が望ましく、さらに、耐熱グリースの耐熱性をより高めるとの観点から、40℃における基油の粘度は50mm/s以上が好ましく、80mm/s以上がより好ましい。また、トルクを低くすることができるとの観点から、40℃における基油の粘度は400mm/s以下が好ましく、300mm/s以下がより好ましい。
ポリオールエステル油としては、3エステル基以上で構成される例えばトリメチロールプロパン系やペンタエリスリトール系由来のもの、具体例として、Synative ES TMP(BASF社製)やSynative ES(BASF社製)などが挙げられる。
一方、フェニルエーテル油としては、モレスコハイルーブLB-15、LB-68D、LB-100((株)MORESCO製)などが挙げられる。
【0021】
[その他の成分]
本発明に係る耐熱グリースは、例えば、酸化防止剤、極圧剤、摩耗防止剤、防錆剤、金属不活性剤など各種添加剤を必要に応じて配合することができる。
【0022】
[配合量]
本発明に係る耐熱グリース中のメラミンイソシアネートの配合量としては20~50質量%が好ましい。耐熱グリース中の増ちょう剤の配合量が20質量%以上であれば、本願発明の効果が得られるうえ、基油との接触面積が十分となり、油分離を十分防止することができる。また、耐熱グリース中の増ちょう剤の配合量が50質量%以下であれば、油分離を低くし、グリース化することができる。増ちょう剤の配合量は25質量%以上がより好ましく、30質量%以上が最も好ましい。また、40質量%以下がより好ましい。
【0023】
本発明に係る耐熱グリース中の基油の配合量としては50~80質量%が好ましく、基油の配合量が多いほど拡散防止剤の量を多く添加することが好ましい。また、前述の通り基油の粘度が低いほど油分離が起こりやすいため、拡散防止剤が塗布面に配向されるよりも先に油の拡散が起こる。そのため、基油の粘度が低いほど拡散防止剤の添加量を増やすことが望ましい。
【0024】
[耐熱グリースの製造方法について]
本発明の耐熱グリースは周知の一般的な方法により製造が可能である。例えば、基油と増ちょう剤を万能混錬機によって混錬しグリース基材を得、得られたグリース基材に対して必要に応じ各種添加剤を添加した後、3本ロールなどを用いて混錬を行うことで得ることができる。
【実施例0025】
(耐熱グリースの製造)
表1中に示す材料を用い、実施例1~3、比較例1のグリースを製造した。増ちょう剤としてのメラミンシアヌレートと各種グリース基油を表1中に示す秤量し、これらを容器に入れてヘラで十分攪拌混合させた後、3本ロールミルにて加圧分散処理を行い、NLGIちょう度規格2号のグリースを作成した。なお、表1中、配合量は「質量部」で表される。また、比較例2については、市販グリースを使用した。
【0026】
実施例1~3、比較例1、2の各グリースに対して、離油特性、摩擦特性、低温性の潤滑グリースに必要な特性と、耐熱性を各々測定した。結果を表1中に併せて記載する。
【0027】
(離油度の評価)
JIS K2220.11に準拠し測定した。離油度の評価基準は以下の通りとした。
◎:離油度が0.5質量%未満であった。
〇:離油度が0.5質量%以上1.0質量%未満であった。
×:離油度が1.0質量%以上であった。
【0028】
(摩擦特性の評価)
往復動試験機(装置名:HEIDON 14DR、新東科学(株)製)を用い、振幅10mm、荷重200gの条件にてのSUS製ボールとSUS製板の摺動の動摩擦係数を測定した。摩擦特性の評価基準は以下の通りとした。
◎:動摩擦係数が0.3未満であった。
〇:動摩擦係数が0.3以上0.4未満であった。
×:動摩擦係数が0.4以上であった。
【0029】
(耐熱性の評価)
恒温槽(装置名:THR050FA、(株)アドバンテック製)を用い、200℃、5時間の条件にて蒸発損失を測定した。耐熱性の評価基準は以下の通りとした。
◎:蒸発損失が3質量%未満であった。
〇:蒸発損失が3質量%以上7質量%未満であった。
×:蒸発損失が7質量%以上であった。
【0030】
(低温性の評価)
見掛粘度試験機(装置名:HAAKE、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)を用い、-20℃、25s-1の条件にて見掛粘度を測定した。低温性の評価基準は以下の通りとした。
◎:見掛粘度が20Pa・s未満であった。
〇:見掛粘度が20Pa・s以上40Pa・s未満であった。
×:見掛粘度が40Pa・s以上であった。
【0031】
【表1】
【0032】
(*1)Lianyungang Hanming New Materials社製メラミンシアヌレート 商品名:Melamine Cyanurate HM01、平均粒子径:0.9μm
(*2)日産化学(株)製メラミンシアヌレート 商品名:MC-4500、平均粒子径:4μm
(*3)(株)MORESCO製フェニルエーテル 商品名:MORESCOハイルーブLB-68D、40℃粘度:68mm/s
(*4)(株)MORESCO製フェニルエーテル 商品名:MORESCOハイルーブLB-100、40℃粘度:102mm/s
(*5)BASF社製ポリオールエステル 商品名:Synative ES―2811、40℃粘度:200mm/s
(*6)カントーカセイ(株)製グリース 商品名:FLOILグリース、増ちょう剤:ウレア(10質量%配合)、基油:PAO(90質量%配合)
【0033】
表1に示すように、グリースの離油特性に関して、平均粒子径が小さいメラミンシアヌレートを増ちょう剤として使用したグリースは離油が少ないことが確認できた。これは、メラミンシアヌレートの平均粒子径が小さいほど、基油に対して保持性が優れているためと考えられる。
増ちょう剤にメラミンシアヌレート(ナノ)もしくはメラミンシアヌレートを用いた場合、耐熱性が優れている結果となり、メラミンシアヌレート(ナノ)と高粘度のフェニルエーテルもしくはポリオールエステルのグリースの耐熱性が特に優れていた。
増ちょう剤にメラミンシアヌレート(ナノ)を用いた場合、摩擦特性に関しても優れた結果を示しており、低温性に関しても維持していることが確認できた。
【0034】
以上のように、本発明によれば、離油度、摩擦特性、低温性といった潤滑グリースに必要な特性について、従来の耐熱グリースと同等以上の特性を有しつつ、130℃以上の使用環境下における耐熱性について、従来の耐熱グリース以上の特性を有する耐熱グリースを提供することができる。