(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034709
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】巻厚測定システム及びトンネル覆工用型枠
(51)【国際特許分類】
E21D 11/10 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
E21D11/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139151
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000216025
【氏名又は名称】鉄建建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596007979
【氏名又は名称】大栄工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】宇田 誠
(72)【発明者】
【氏名】小林 雅彦
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155CA03
2D155DA08
2D155LA13
(57)【要約】
【課題】苦渋作業の解消による働き方改革と、高い作業効率による生産性向上を、同時に達成可能な、巻厚測定システム及びトンネル覆工用型枠を提供する。
【解決手段】本発明の巻厚測定システム1は、型枠体A2の外周面に設けた複数の収容溝12と、基端を収容溝12内に軸支した検測杆11と、検測杆11の先端を打設空間Sに向けて起立可能な起立手段13と、起立手段13による検測杆11の起立角度θを計測可能な測角手段14と、を有する、計測装置10と、起立手段13を制御可能な、操作手段21と、検測杆11の起立角度θから計測装置10の設置位置に対応する巻厚Tを算定可能な、演算手段22と、を有する制御装置20と、備え、検測杆11を収容溝内12に収容した状態において、検測杆11の表面と型枠体A2の外周面とが、略面一になることを特徴とする。本発明のトンネル覆工用型枠Aは、略半筒状の型枠体A2と、型枠体A2に設けた巻厚測定システム1と、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略半筒状の型枠体を備えるトンネル覆工用型枠において、前記型枠体の外周面とトンネル内周面の間に構成した打設空間の巻厚を測定するための、巻厚測定システムであって、
前記型枠体の外周面に設けた複数の収容溝と、基端を前記収容溝内に軸支した検測杆と、前記検測杆の先端を前記打設空間に向けて起立可能な起立手段と、前記起立手段による前記検測杆の起立角度を計測可能な測角手段と、を有する計測装置と、
前記起立手段を制御可能な操作手段と、前記検測杆の起立角度から前記計測装置の設置位置に対応する巻厚を算定可能な演算手段と、を有する制御装置と、備え、
前記検測杆を前記収容溝内に収容した状態において、前記検測杆の表面と前記型枠体の外周面とが、略面一になることを特徴とする、
巻厚測定システム。
【請求項2】
前記演算手段が算定した複数の前記計測装置の巻厚に基づいて、打設空間内へのコンクリート総打設量を推定する、打設量推定手段を備えることを特徴とする、請求項1に記載の巻厚測定システム。
【請求項3】
前記演算手段が算定した複数の前記計測装置の巻厚を、画面表示及び/または紙出力可能な出力手段を備えることを特徴とする、請求項1に記載の巻厚測定システム。
【請求項4】
略半筒状の型枠体と、
前記型枠体に設けた請求項1乃至3のいずれか一項に記載の巻厚測定システムと、を備えることを特徴とする、
トンネル覆工用型枠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻厚測定システム及びトンネル覆工用型枠に関し、特に苦渋作業の解消による働き方改革と、高い作業効率による生産性向上を、同時に達成可能な、巻厚測定システム及びトンネル覆工用型枠に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル工事では、吹付コンクリート面に防水シートを敷設した後、トンネル内空に移動式のトンネル覆工用型枠を配置し、防水シート面と型枠体の外面の間に画設した打設空間内にコンクリートを打設することで、覆工コンクリートを成型する。覆工コンクリートの所定の厚み(巻厚)を確保するため、コンクリートの打設に先立ち、覆工巻厚検査を行う(非特許文献1)。
覆工巻厚検査では、型枠体の検査窓から打設空間内へスケールロッドを付き出し、スケールロッドの先端を防水シート越しに覆工コンクリート面へ押し付けることで巻厚を測定している。
また、特許文献1には、型枠体の適宜の箇所に検出部を設け、検出部のシリンダからトンネル内周面に向けてロッドを進退可能に構成し、計測部によってロッドの進出距離を検出する、巻厚測定装置が開示されている。この巻厚測定装置は、複数のロッドの進出距離に基づく機械的手段によって、効率的に覆工巻厚検査を行うことができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】2016年制定トンネル標準示方書[山岳工法編]・同解説(公益社団法人土木学会:2016年9月17日発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術には、以下の問題点がある。
<1>作業員による覆工巻厚検査は、狭隘な型枠体内の通路上で行われるが、位置によっては通路上に這いつくばるなど無理な姿勢を取らざるを得ず、肉体的負担や作業服の汚れ等を伴うため、作業員にとって負担の大きい苦渋作業となっている。
<2>作業員による覆工巻厚検査は、作業効率が低く、測定には1か所あたり5分程度の時間がかかる。仮に測定箇所が型枠体の周方向8か所×4列=32箇所ある場合、合計で160分もの時間が浪費されることとなり、工程を圧迫する要因となっている。
<3>作業員による覆工巻厚検査は、作業員の手作業と目視によって測定されるため、測定結果の客観性と信頼性に欠ける。
<4>特許文献1の巻厚測定装置は、ロッドを型枠体内から外向きに進出させる構造であり、ロッドを型枠体の表面から標準的な巻厚である30cm以上進出させる必要がある。このため、ロッドの収納時には、ロッドが型枠体の内側に30cm以上後退すると共に、ロッドを進退させるシリンダ等の装置が型枠体の内側に突起するため、限られた型枠体内の空間を広く占有する。
【0006】
本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決するための、巻厚測定システム及びトンネル覆工用型枠を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の巻厚測定システムは、型枠体の外周面に設けた複数の収容溝と、基端を収容溝内に軸支した検測杆と、検測杆の先端を打設空間に向けて起立可能な起立手段と、起立手段による検測杆の起立角度を計測可能な測角手段と、を有する計測装置と、起立手段を制御可能な操作手段と、検測杆の起立角度から計測装置の設置位置に対応する巻厚を算定可能な演算手段と、を有する制御装置と、備え、検測杆を収容溝内に収容した状態において、検測杆の表面と型枠体の外周面とが、略面一になることを特徴とする。
【0008】
本発明の巻厚測定システムは、演算手段が算定した複数の計測装置の巻厚に基づいて、打設空間内へのコンクリート総打設量を推定する、打設量推定手段を備えていてもよい。
【0009】
本発明の巻厚測定システムは、演算手段が算定した複数の計測装置の巻厚を、画面表示及び/または紙出力可能な出力手段を備えていてもよい。
【0010】
本発明のトンネル覆工用型枠は、略半筒状の型枠体と、型枠体に設けた巻厚測定システムと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の巻厚測定システム及びトンネル覆工用型枠は、以下の効果の内少なくとも1つを備える。
<1>苦渋作業からの解放
型枠体に取付けた複数の検測杆によって巻厚を自動的に一括測定するシステムであるため、測定に伴う作業員の苦渋作業を解消しすることができる。これによっていわゆる働き方改革を達成することができる。
<2>高い作業効率
操作手段への指令1つで瞬時に覆工巻厚検査を終了することができるため、作業効率が非常に高く、生産性向上に資する。
<3>信頼性・検証可能性
機械的手段による測定であるため、測定結果の客観性と信頼性が高い。また、測定結果をデータやレポートとして出力・保管できるため、検証性に優れる。
<4>品質証明
操作手段への指令1つで計測できるため、覆工巻厚検査を必要に応じて随時実行することができる。これによって、例えばコンクリートの打設の直前に再度覆工巻厚検査を行うことで、品質証明とすることができる。
<5>型枠体内空間の有効利用
型枠体の表面に設けた収容溝内から検測杆を起立させて巻厚を計測する構造であるため、設備が型枠体内に大きく突出しない。このため、型枠体内の限られた空間を有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の巻厚測定システム及びトンネル覆工用型枠について詳細に説明する。
なお、本発明における「周方向」とは型枠体の周面に沿った方向を、「軸方向」とはトンネル覆工用型枠の長手方向に沿った方向を意味する。
また、「打設空間」とは型枠体の外周面とトンネル内周面の間に構成するコンクリート打設用の空間を意味する。ここで「トンネル内周面」とは、防水シート面を意味するが、防水シートを設けない場合には吹付けコンクリート面を意味する。
【実施例0014】
[巻厚測定システム]
<1>全体の構成(
図1)
本発明の巻厚測定システム1は、トンネル覆工用型枠Aにおいて、打設空間S内の巻厚Tを測定するためのシステムである。
巻厚測定システム1は、複数の検測装置10と、検測装置10を制御する制御装置20と、を少なくとも備える。
複数の検測装置10は、制御装置20と電気的に接続する。
複数の検測装置10は、型枠体A2に設置する。
本例では、型枠体A2の内、天型枠A21に3つ、側型枠A22に各2つ、合計7つの検測装置10を型枠体A2の周方向に配列して一列を構成し、これを型枠体A2の軸方向に沿って6列配置する。
【0015】
<1.1>トンネル覆工用型枠(
図2)
トンネル覆工用型枠Aは、トンネル内をトンネル軸方向に移動可能な基台A1と、基台A1上に架設した型枠体A2と、型枠体A2に設置した巻厚測定システム1を少なくとも備える。
基台A1は、概ね門形に組んだ複数の鋼材をトンネル延長方向に連結してなる枠状体である。
基台A1の下部には移動用の車輪を備える。
型枠体A2は、全体として略半筒状を呈し、トンネルの天端に対応する天型枠A21と、天型枠A21の両側縁に連結する2つの側型枠A22と、を備える。
【0016】
<2>検測装置(
図3)
検測装置10は、検測杆11を起立させて起立角度θを計測する装置である。
型枠体A2の外周面に設けた複数の収容溝12と、基端を収容溝12内に軸支した検測杆11と、検測杆11の先端を打設空間Sに向けて起立可能な起立手段13と、起立手段13による検測杆11の起立角度θを計測可能な測角手段14と、を備える。
検測杆11は、収容溝12内から先端を起立/傾倒可能に軸支する。本例では検測杆11として金属製の長尺板体を採用する。
収容溝12は、型枠体A2の軸方向に沿って矩形に画設する。
収容溝12の形状は検測杆11の外形に対応し、検測杆11を倒して収容溝12内に収容した状態において、検測杆11が収容溝12を塞ぎ、検測杆11の表面と型枠体A2の外周面とを略面一となるように構成する。
【0017】
<2.1>起立手段
起立手段13は、検測杆11を打設空間S内へ起立させる手段である。
本例では起立手段13として、電動モータユニットとトルクリミッタを備える電動アクチュエータを採用する。
電動モータの回転を検測杆11の支軸に連動させることで、検測杆11の先端を起立させることができる。また、電気信号を逆転させることで、検測杆11を収容溝12内に倒して収容することができる。
検測杆11の先端がトンネル内周面に接触してモータのトルクが高くなると、トルクリミッタが作動してモータを停止させる。これによって、検測杆11の変形と起立手段13の破損を防ぐと共に、検測杆11の過度の押し付けによる防水シートの破損を回避することができる。
なお起立手段13は電動アクチュエータに限らず、電動ジャッキ、油圧ジャッキ、又はエアジャッキ等であってもよい。要は検測杆11を打設空間S内へ起立させられればよい。
【0018】
<2.2>測角手段
測角手段14は、検測杆11の起立角度θを計測する手段である。
本例では測角手段14として、起立手段13内に組み込んだ、ロータリーエンコーダを採用する。ロータリーエンコーダは、軸の機械的変位量をデジタル信号に変換し、この信号を処理して軸の回転角を計測する。
測角手段14は、起立手段13による検測杆11の起立角度θを計測し、電気信号として、制御装置20の演算手段22に送信する。
ただし測角手段14はこれに限らず、例えば非接触タイプのロータリーセンサ又は接触タイプのロータリーセンサ等であってもよい。
【0019】
<3>制御装置
制御装置20は、検測装置10を制御する装置である。
制御装置20は、CPU等の演算装置、ROMやRAM等の記憶装置、キーボードやタッチパネル等の入力インターフェースを備え、検測装置10と有線又は無線にて接続する。
本例では制御装置20として、汎用コンピュータ(PC)を採用する。ただし制御装置20はPCに限らず、専用のアプリケーションプログラムをインストールしたスマートフォンやタブレット端末であってもよい。
制御装置20は必ずしもトンネル覆工用型枠Aの内部にある必要はなく、外部から検測装置10等と遠隔接続していてもよい。
【0020】
<3.1>操作手段
操作手段21は、検測装置10を操作する手段である。
操作手段21を操作し、起立手段13へ電気信号を送信することで、特定の単数又は複数の検測装置10における検測杆11を、起立又は傾倒させる。
また、操作手段21によって、演算手段22が算定した特定の検測杆11に対応する巻厚Tを記録し、後述する出力手段30に送信してアウトプットさせることができる。
【0021】
<3.2>演算手段
演算手段22は、検測装置10に対応する部分の巻厚Tを算定する手段である。
演算手段22は、各検測装置10から、測角手段14が計測した検測杆11の起立角度θを受信し、当該起立角度θから各検測装置10に対応する巻厚Tを算定する。
検測杆11の表面における、先端から支軸上の位置までの距離をLとすると、例えば以下の数式から巻厚Tを算定できる(
図4)。
[数1] T=L×sinθ
なお、検測杆11の支軸の位置が検測杆11の表面より内部にある場合は、起立角度θによって、巻厚Tの算定値に誤差が生じ得る。その場合には、必要に応じて、上記算定式に公知の適宜の調整式を加えることができる。
【0022】
<4>出力手段
出力手段30は、巻厚Tを出力する手段である。ここで、出力の方法は、電子データの画面表示であると紙媒体のプリントアウトであるとを問わない。
本例では出力手段30として、制御装置20のPCのディスプレイを採用し、演算手段22が測定した複数の測定ポイントの巻厚測定結果を、ディスプレイ上に一覧表示可能に構成する。
詳細には例えばディスプレイ上に型枠体A2を模したモデルを表示し、各検測装置10における測定数値(巻厚T及び起立角度θ等)、及び当該数値が設計上の閾値内に収まっているかどうかを各検測装置10と対応表示する。
なお出力手段30は、PC等のディスプレイに限らず、測定結果をレポート形式で印刷可能なプリンタ等であってもよい。
【0023】
<5>巻厚測定システムの使用方法(
図5)
巻厚測定システム1は、例えば以下のように使用する。
トンネル覆工用型枠Aを移動し、トータルステーション等を用いて打設位置にセットする。
セット後、PCの操作手段21を操作して、起立手段13によって全ての検測杆11を起立させる。
各検測杆11の先端がトンネル内周面に接触すると、トルクリミッタによって起立手段13が停止し、測角手段14が停止状態における起立角度θを測定して、演算手段22に送信する。
演算手段22は、検測杆11の起立角度θから、各検測装置10における巻厚Tを算定し、出力手段30であるディスプレイに一覧表示する。
測定後は、操作手段21を操作し、起立手段13によって全ての検測杆11を倒して収容溝12内に収容する(
図2)。この際、検測杆11が収容溝12を塞ぎ、検測杆11の表面と型枠体A2の外周面とが面一となるため、型枠体A2の外面をそのまま型枠面として使用することができる。
本発明の巻厚測定システム1は、ボタン操作一つで全ての側定位置の巻厚Tを同時に測定できるため、例えば覆工巻厚検査の後、コンクリートの打設の直前に再度巻厚Tを測定することで、覆工巻厚検査の結果と照合して品質証明とすることができる。