(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034760
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】容量推定装置、水素充填装置および容量推定方法
(51)【国際特許分類】
F17C 13/02 20060101AFI20240306BHJP
F17C 5/06 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
F17C13/02 301A
F17C5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139225
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】判田 圭
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172BA01
3E172BB05
3E172BB12
3E172BB17
3E172BD03
3E172EA02
3E172EA14
3E172EA22
3E172EA23
3E172EA35
3E172EA48
3E172JA08
3E172KA03
3E172KA22
3E172KA23
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水素充填装置の容量情報が正確でない場合であっても水素タンクの容量を正確に推定する。
【解決手段】容量推定装置は、第1ガス密度(ρ
1)と第2ガス密度(ρ
2)とを取得するガス密度取得部(64)と、第1補正膨張率(θ
1)と第2補正膨張率(θ
2)とを取得する膨張率取得部(66)と、総充填量(dm)を取得する充填量取得部(56)と、供給部の容量(V
tube)と第1ガス密度(ρ
1)と第2ガス密度(ρ
2)と第1補正膨張率(θ
1)と第2補正膨張率(θ
2)と総充填量(dm)とに基づいて水素タンクの容量(V3)を推定する容量推定部(68)とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素充填装置の供給部から車両の水素タンクに水素ガスが充填される場合に、前記水素タンクの容量を推定する容量推定装置であって、
第1時点における前記水素タンク内のガス圧力とタンク温度とに基づいて前記水素タンク内の第1ガス密度を取得し、前記第1時点よりも後の第2時点における前記ガス圧力と前記タンク温度とに基づいて前記水素タンク内の第2ガス密度を取得するガス密度取得部と、
前記第1時点における前記ガス圧力に基づいて所定状態における前記水素タンクの膨張率を補正した第1補正膨張率と、前記第2時点における前記ガス圧力に基づいて前記膨張率を補正した第2補正膨張率とを取得する膨張率取得部と、
前記第1時点から前記第2時点までの間において前記水素充填装置から前記水素タンクに充填された前記水素ガスの総充填量を取得する充填量取得部と、
前記供給部の容量と、前記第1ガス密度と、前記第2ガス密度と、前記第1補正膨張率と、前記第2補正膨張率と、前記総充填量とに基づいて、前記水素タンクの容量を推定する容量推定部と、
を備える、容量推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の容量推定装置であって、
前記供給部には、前記水素タンクへと送られる前記水素ガスの流量を検出するための流量センサが備えられ、
前記供給部の容量は、前記供給部のうちの、前記流量センサから前記水素タンクまでの間の容量である、容量推定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の容量推定装置であって、
前記ガス圧力が閾値を超えているか否かを判定する圧力判定部をさらに備え、
前記ガス圧力が前記閾値を超えていると前記圧力判定部が判定した場合は、前記容量推定部は前記水素タンクの容量を推定し、前記ガス圧力が前記閾値以下であると前記圧力判定部が判定した場合は、前記容量推定部は前記水素タンクの容量を推定しない、容量推定装置。
【請求項4】
車両の水素タンク内の初期圧に応じた水素ガスの充填速度を示す充填制御マップに基づいて前記水素タンクに前記水素ガスを充填する水素充填装置であって、
請求項1に記載の容量推定装置と、
前記初期圧に基づいて前記水素タンクの暫定容量を取得する暫定容量取得部と、
前記容量推定装置が推定した前記水素タンクの容量と前記暫定容量との差が許容範囲内であるか否かを判定する容量判定部と、
前記差が許容範囲外であると前記容量判定部が判定した場合に、前記初期圧に応じた充填速度よりも遅い充填速度で前記水素タンクに前記水素ガスを充填する充填制御部と、
を備える、水素充填装置。
【請求項5】
水素充填装置の供給部から車両の水素タンクに水素ガスが充填される場合に、前記水素タンクの容量を推定する容量推定方法であって、
第1時点における前記水素タンク内のガス圧力とタンク温度とに基づいて前記水素タンク内の第1ガス密度を取得する第1のガス密度取得ステップと、
前記第1時点における前記ガス圧力に基づいて所定状態における前記水素タンクの膨張率を補正した第1補正膨張率を取得する第1の補正膨張率取得ステップと、
前記第1時点よりも後の第2時点における前記ガス圧力と前記タンク温度とに基づいて前記水素タンク内の第2ガス密度を取得する第2のガス密度取得ステップと、
前記第2時点における前記ガス圧力に基づいて前記膨張率を補正した第2補正膨張率を取得する第2の補正膨張率取得ステップと、
前記第1時点から前記第2時点までの間において前記水素充填装置から前記水素タンクに充填された前記水素ガスの総充填量を取得する充填量取得ステップと、
前記供給部の容量と、前記第1ガス密度と、前記第2ガス密度と、前記第1補正膨張率と、前記第2補正膨張率と、前記総充填量とに基づいて、前記水素タンクの容量を推定する容量推定ステップと、
を含む、容量推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容量推定装置、水素充填装置および容量推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギーへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギーの効率化に貢献する燃料電池に関する研究開発が行われている。例えば、水素充填装置の研究開発が行われている。水素充填装置は、FCV(Fuel Cell Vehicle)の水素タンクに水素ガスを充填する装置である。
【0003】
水素充填装置は、充填制御マップに基づいて水素タンクに水素ガスを充填する。充填制御マップは、水素タンクへの水素ガスの充填速度を示す制御マップである。水素充填装置は、充填速度が異なる複数の充填制御マップを記憶している。
【0004】
水素充填装置は、FCVから送信されてくる車両情報を用いて、使用する充填制御マップを決定する。車両情報には、容量情報が含まれている。容量情報は、水素タンクの容量を示す(特許文献1も参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】判田圭、大島伸司、蓮仏達也ら著 「International Journal of Hydrogen Energy Volume 46, Issue 67, 28 September 2021, Pages 33511-33522 Precooling temperature relaxation technology in hydrogen refueling for fuel-cell vehicles - ScienceDirect」 2021年
【非特許文献2】判田圭、 Steve Mathisonら著 「FCV用新水素充填方式の開発,自動車技術会論文集, Vol.47, No.2, p.407-412(2016)」 2016年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、不正な改造等の様々な理由により、容量情報が正確でない場合が有り得る。容量情報が正確でない場合、水素充填装置は、充填制御マップを正しく決定することができない。このような事情から、仮に容量情報が正確でない場合であっても水素タンクの容量を正確に推定することが、一課題である。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、水素充填装置の供給部から車両の水素タンクに水素ガスが充填される場合に、前記水素タンクの容量を推定する容量推定装置であって、第1時点における前記水素タンク内のガス圧力とタンク温度とに基づいて前記水素タンク内の第1ガス密度を取得し、前記第1時点よりも後の第2時点における前記ガス圧力と前記タンク温度とに基づいて前記水素タンク内の第2ガス密度を取得するガス密度取得部と、前記第1時点における前記ガス圧力に基づいて所定状態における前記水素タンクの膨張率を補正した第1補正膨張率と、前記第2時点における前記ガス圧力に基づいて前記膨張率を補正した第2補正膨張率とを取得する膨張率取得部と、前記第1時点から前記第2時点までの間において前記水素充填装置から前記水素タンクに充填された前記水素ガスの総充填量を取得する充填量取得部と、前記供給部の容量と、前記第1ガス密度と、前記第2ガス密度と、前記第1補正膨張率と、前記第2補正膨張率と、前記総充填量とに基づいて、前記水素タンクの容量を推定する容量推定部と、を備える、容量推定装置である。
【0010】
本発明の第2の態様は、車両の水素タンク内の初期圧に応じた水素ガスの充填速度を示す充填制御マップに基づいて前記水素タンクに前記水素ガスを充填する水素充填装置であって、上記第1の態様に係る容量推定装置と、前記初期圧に基づいて前記水素タンクの暫定容量を取得する暫定容量取得部と、前記容量推定装置が推定した前記水素タンクの容量と前記暫定容量との差が許容範囲内であるか否かを判定する容量判定部と、前記差が許容範囲外であると前記容量判定部が判定した場合に、前記初期圧に応じた充填速度よりも遅い充填速度で前記水素タンクに前記水素ガスを充填する充填制御部と、を備える、水素充填装置である。
【0011】
本発明の第3の態様は、水素充填装置の供給部から車両の水素タンクに水素ガスが充填される場合に、前記水素タンクの容量を推定する容量推定方法であって、第1時点における前記水素タンク内のガス圧力とタンク温度とに基づいて前記水素タンク内の第1ガス密度を取得する第1のガス密度取得ステップと、前記第1時点における前記ガス圧力に基づいて所定状態における前記水素タンクの膨張率を補正した第1補正膨張率を取得する第1の補正膨張率取得ステップと、前記第1時点よりも後の第2時点における前記ガス圧力と前記タンク温度とに基づいて前記水素タンク内の第2ガス密度を取得する第2のガス密度取得ステップと、前記第2時点における前記ガス圧力に基づいて前記膨張率を補正した第2補正膨張率を取得する第2の補正膨張率取得ステップと、前記第1時点から前記第2時点までの間において前記水素充填装置から前記水素タンクに充填された前記水素ガスの総充填量を取得する充填量取得ステップと、前記供給部の容量と、前記第1ガス密度と、前記第2ガス密度と、前記第1補正膨張率と、前記第2補正膨張率と、前記総充填量とに基づいて、前記水素タンクの容量を推定する容量推定ステップと、を含む、容量推定方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水素タンクの容量を正確に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る水素充填システムと車両とを示す模式図である。
【
図2】
図2は、制御装置(容量推定装置)のブロック図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る水素充填方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図3の容量推定処理ステップS6を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[一実施形態]
図1は、一実施形態に係る水素充填システムSYSと車両10とを示す模式図である。
【0015】
車両10は、例えばFCVである。車両10は、水素タンク12と燃料電池14と送信器16とを備える。水素タンク12は水素ガスを蓄える。燃料電池14は、水素タンク12に蓄えられた水素ガスを用いて発電する。車両10は、燃料電池14が生じた電力を用いて走行する。
【0016】
送信器16は、後述する受信器36に車両情報SIGを送信する通信器である。車両情報SIGは、温度情報TIRと、圧力情報PIRと、容量情報VIRとを含む。
【0017】
温度情報TIRは、水素タンク12の温度であるタンク温度を示す情報(信号)である。圧力情報PIRは、水素タンク12内のガス圧力を示す情報(信号)である。容量情報VIRは、水素タンク12の容量を示す情報(信号)である。なお、便宜のために、容量情報VIRが示す水素タンク12の容量は、以下の説明において第1暫定容量V1とも記載される。
【0018】
送信器16は、水素タンク12への水素充填が完了するまで、受信器36に車両情報SIGを逐次送信する。例えば送信器16は、第1時点におけるタンク温度を示す温度情報TIR(車両情報SIG)を送信した後に、第1時点よりも後の第2時点におけるタンクの温度を示す温度情報TIR(車両情報SIG)を送信する。送信器16は、車両情報SIGを3回以上送信してもよい。
【0019】
水素充填システムSYSは、水素タンク12に水素ガスを充填するためのシステムである。水素充填システムSYSは、例えば水素ステーションに備えられる。水素充填システムSYSは、蓄圧器18と水素充填装置20とを備える。
【0020】
蓄圧器18は、圧縮された水素ガスを貯蔵する装置である。
【0021】
水素充填装置20は、蓄圧器18によって圧縮された水素ガスを水素タンク12に供給する装置である。水素充填装置20は、供給部22と、プレクーラ24と、調整弁26と、圧力センサ28と、供給部用温度センサ30と、プレクーラ用温度センサ32と、外気温センサ34と、受信器36と、制御装置(容量推定装置)38とを備える。
【0022】
供給部22は、供給管40とノズル42とを備える。供給管40は、蓄圧器18とノズル42とを接続する。ノズル42は、水素タンク12に接続可能である。ノズル42と水素タンク12とが接続されることで、蓄圧器18から水素タンク12へと水素ガスを供給することが可能となる。
【0023】
プレクーラ24は、水素タンク12に充填される前の水素ガスを予冷する熱交換器である。プレクーラ24は、供給管40と接続される。
【0024】
調整弁26は、蓄圧器18から水素タンク12へと供給される水素ガスの流量を調整する弁である。調整弁26は、供給管40のうちの、蓄圧器18とプレクーラ24との間に備えられる。調整弁26は、後述する充填制御部60に制御される。
【0025】
圧力センサ28は、供給部22に備えられる。より具体的には、圧力センサ28は、供給管40に備えられる。圧力センサ28は、供給部22内のガス圧力に応じた検出信号を出力する。当該検出信号は制御装置38に入力される。
【0026】
供給部22内のガス圧力と水素タンク12内のガス圧力とは、水素タンク12への水素ガスのプレショット充填が行われることにより、ほぼ均一になる。したがって、プレショット充填後においては、圧力センサ28の検出信号に基づいて水素タンク12内のガス圧力を検出することが可能である。プレショット充填は、例えば後述する充填制御部60が行う。なお、プレショット充填は既知の手法であるため、プレショット充填のより詳しい説明は割愛する。
【0027】
供給部用温度センサ30は、供給部22に備えられる。供給部用温度センサ30は、供給部22の温度に応じた検出信号を出力する。当該検出信号は制御装置38に入力される。
【0028】
プレクーラ用温度センサ32は、プレクーラ24に備えられる。プレクーラ用温度センサ32は、プレクーラ24の温度に応じた検出信号を出力する。当該検出信号は制御装置38に入力される。
【0029】
外気温センサ34は、外気温(水素ステーション内の温度)に応じた検出信号を出力する。当該検出信号は制御装置38に入力される。外気温センサ34は、例えば水素充填装置20に備えられる。ただし、外気温センサ34は、水素充填装置20とは別の場所に設置されてもよい。
【0030】
受信器36は、送信器16と通信して、車両情報SIGを受信する通信器である。なお、送信器16と受信器36との通信方式は、例えば赤外線通信である。ただし、送信器16と受信器36とは、赤外線通信以外の方式を用いて通信してもよい。
【0031】
図2は、制御装置(容量推定装置)38のブロック図である。
【0032】
制御装置38は、水素充填装置20に備えられるコンピュータである。制御装置38は、記憶部44と演算部46とを備える。
【0033】
記憶部44は、不図示の揮発性メモリと、不図示の不揮発性メモリとによって構成され得る。揮発性メモリとしては、例えばRAM(Random Access Memory)等が挙げられ得る。不揮発性メモリとしては、例えばROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等が挙げられ得る。データ等が、例えば揮発性メモリに記憶され得る。プログラム、データテーブル、マップ等が、例えば不揮発性メモリに記憶され得る。記憶部44の少なくとも一部が、後述するようなプロセッサ、集積回路等に備えられていてもよい。
【0034】
記憶部44は、制御プログラム48と充填制御マップ50と第1閾値TH1と第2閾値TH2とを記憶する。
【0035】
制御プログラム48は、本実施形態に係る容量推定方法を水素充填装置20に行わせるための内容を含んだプログラムである。
【0036】
充填制御マップ50は、水素タンク12内の初期圧PIと、水素タンク12の容量と、供給部22の熱容量の有効率TMRと、水素ガスの充填速度(昇圧率)との対応関係を示す。充填制御マップ50は、初期圧PIと容量と有効率TMRとの組み合わせに応じた複数の充填速度を示す。初期圧PIは、本番充填が開始される前における水素タンク12内のガス圧力である。なお、本番充填と有効率TMRとの説明は後述する。
【0037】
第1閾値TH1は、水素タンク12内のガス圧力の所定値である。第1閾値TH1は、後述する圧力判定部62の説明も踏まえ、例えば実験に基づいて予め決定される。第2閾値TH2は、後述する第1暫定容量V1と推定容量V3との許容誤差である。
【0038】
演算部46は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサ(Processor)によって構成され得る。すなわち、演算部46は、処理回路(Processing Circuitry)によって構成され得る。
【0039】
演算部46は、車両情報取得部52と、有効率取得部54と、充填量取得部56と、暫定容量取得部58と、充填制御部60と、圧力判定部62と、ガス密度取得部64と、膨張率取得部66と、容量推定部68と、容量判定部70とを備える。
【0040】
車両情報取得部52と、有効率取得部54と、充填量取得部56と、暫定容量取得部58と、充填制御部60と、圧力判定部62と、ガス密度取得部64と、膨張率取得部66と、容量推定部68と、容量判定部70とは、演算部46が制御プログラム48を実行することで実現される。なお、車両情報取得部52と、有効率取得部54と、充填量取得部56と、暫定容量取得部58と、充填制御部60と、圧力判定部62と、ガス密度取得部64と、膨張率取得部66と、容量推定部68と、容量判定部70との少なくとも一部がASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の集積回路によって実現されるようにしてもよい。また、車両情報取得部52と、有効率取得部54と、充填量取得部56と、暫定容量取得部58と、充填制御部60と、圧力判定部62と、ガス密度取得部64と、膨張率取得部66と、容量推定部68と、容量判定部70との少なくとも一部が、ディスクリートデバイスを含む電子回路によって構成されるようにしてもよい。
【0041】
車両情報取得部52は、受信器36を通じて車両情報SIGを取得する。すなわち、車両情報取得部52は、温度情報TIRと、圧力情報PIRと、容量情報VIRとを取得する。
【0042】
有効率取得部54は、供給部22の熱容量の有効率TMRを取得する。有効率取得部54は、例えば数式(1)に基づいて有効率TMRを算出する(非特許文献1も参照)。数式(1)において、T
tubeは、供給部22の平均温度である。有効率取得部54は、例えば供給部用温度センサ30の検出信号に基づいて、供給部22の平均温度(T
tube)を取得する。T
precoolingは、プレクーラ24によって冷却された水素ガスの温度である。有効率取得部54は、例えばプレクーラ用温度センサ32の検出信号に基づいて、冷却された水素ガスの温度(T
precooling)を取得する。T
ambは、外気温である。有効率取得部54は、例えば外気温センサ34に基づいて外気温(T
amb)を取得する。mC
stationは、上述した供給部22の熱容量である。mC
modelは、熱容量の基準値である。供給部22の熱容量と熱容量の基準値とは、例えば水素充填のモデルケースを想定した実験に基づいて、定数として予め決められる。
【数1】
【0043】
充填量取得部56は、水素充填装置20が水素タンク12に充填した水素ガスの量である水素充填量を取得する。充填量取得部56は、流量センサ72の検出信号を用いて水素充填量を取得する。
【0044】
流量センサ72は、例えばマスフロメータである。流量センサ72は、蓄圧器18から水素タンク12へと供給される水素ガスの流量に応じた検出信号を出力する。流量センサ72は、供給管40のうちの、蓄圧器18とプレクーラ24との間に備えられる(
図1参照)。
【0045】
なお、水素タンク12内のガス圧力と、水素充填装置20(供給部22)内のガス圧力とが均一でない場合は、流量センサ72(マスフロメータ)を用いたとしても、水素充填量を正確に算出することは難しい。したがって、充填量取得部56は、プレショット充填後に水素充填が行われる場合に流量センサ72が出力する検出信号に基づいて、水素充填量を取得することが好ましい。
【0046】
暫定容量取得部58は、水素タンク12の第2暫定容量V2を示す情報を取得する。第2暫定容量V2は、水素タンク12の容量の推定値である。第2暫定容量V2は、プレショット充填に応じた供給部22内のガス圧力の変化量に基づいて算出される。暫定容量取得部58は、圧力センサ28の検出信号に基づいて、プレショット充填に応じた供給部22内のガス圧力の変化量を取得することができる。
【0047】
充填制御部60は、充填制御マップ50を用いて、水素タンク12に充填する水素ガスの充填速度を決定する。ここで、水素ガスの充填速度を決定するために、充填制御部60は、第1暫定容量V1と第2暫定容量V2との差が所定値以上であるか否かを判定する。
【0048】
第1暫定容量V1と第2暫定容量V2との差が所定値以上である場合、充填制御部60は、充填制御マップ50の中で最も遅い充填速度を選択する。第1暫定容量V1と第2暫定容量V2との差が所定値以上である場合に充填制御部60が充填制御マップ50の中で最も遅い充填速度を選択する一理由は、次の通りである。
【0049】
第1暫定容量V1と第2暫定容量V2との差が所定値以上である場合、容量情報VIRが誤っている可能性がある。容量情報VIRが誤っている場合、温度情報TIRと、圧力情報PIRとの各々も誤っている可能性がある。容量情報VIR、温度情報TIR、圧力情報PIRが誤っている状況下において速い充填速度が選択されることは、水素充填中に水素タンク12がオーバヒートするリスクを高める。そこで、第1暫定容量V1と第2暫定容量V2との差が所定値以上である場合、充填制御部60は、できるだけ遅い充填速度を選択した方が好ましい。これにより、水素充填中に水素タンク12がオーバヒートするリスクを最低限に抑えることができる。
【0050】
第1暫定容量V1と第2暫定容量V2との差が所定値未満である場合、充填制御部60は、充填制御マップ50と、初期圧PIと、水素タンク12の容量と、有効率TMRとに基づいて、充填速度を決定する。充填制御部60は、プレショット充填後に圧力センサ28が出力する検出信号に基づいて、初期圧PIを取得することができる。ただし、充填制御部60は、圧力情報PIRに基づいて初期圧PIを取得してもよい。充填制御部60は、第1暫定容量V1または第2暫定容量V2を水素タンク12の容量として用いる。充填制御部60は、有効率取得部54によって取得された有効率TMRを用いる。
【0051】
また、充填制御部60は、決定した充填速度に基づいて調整弁26を制御して、水素タンク12に水素ガスを充填する。以下の説明において、充填制御部60が決定した充填速度に基づいて行われる水素充填は、プレショット充填との区別のために、本番充填とも記載される。充填制御部60は、例えばMC Fomula方式(非特許文献2も参照)に基づいて本番充填を行う。
【0052】
圧力判定部62は、水素タンク12内のガス圧力が第1閾値TH1を超えているか否かを判定する。より具体的には、圧力判定部62は、本番充填開始以降における水素タンク12内のガス圧力が第1閾値TH1を超えているか否かを判定する。圧力判定部62は、圧力センサ28の検出信号に基づいて、水素タンク12内のガス圧力を取得する。圧力判定部62が第1閾値TH1と比較するガス圧力は、以下の説明においてガス圧力Piとも記載される。
【0053】
ガス圧力Piが第1閾値TH1以下であると圧力判定部62が判定した場合、充填制御部60は、そのまま本番充填を継続する。その一方で、ガス圧力Piが第1閾値TH1を超えていると圧力判定部62が判定した場合、充填制御部60と、ガス密度取得部64と、膨張率取得部66と、容量推定部68と、容量判定部70とは、以下に説明される処理を実行する。
【0054】
ガス密度取得部64は、水素タンク12内のガス圧力とタンク温度とに基づいて、水素タンク12内のガス密度を取得する。ここで、ガス密度取得部64は、圧力センサ28の検出信号に基づいて、水素タンク12内のガス圧力を取得する。また、ガス密度取得部64は、温度情報TIRに基づいて、タンク温度を取得する。ガス密度取得部64は、例えば気体の状態方程式と、水素タンク12内のガス圧力と、タンク温度とを用いて、水素タンク12内のガス密度の近似値を算出する。ガス密度取得部64は、当該近似値を、水素タンク12内のガス密度として取得する。
【0055】
ガス密度取得部64は、少なくとも第1時点と第2時点との各々における水素タンク12内のガス密度を取得する。第1時点と第2時点との各々は、本番充填の実行期間に含まれる一時点である。ただし、第2時点は第1時点よりも後の一時点である。第1時点は、本番充填の開始時点でもよい。
【0056】
以下の説明において、第1時点における水素タンク12内のガス密度は、第1ガス密度ρ1とも記載される。ガス密度取得部64は、気体の状態方程式と、第1時点における水素タンク12内のガス圧力と、第1時点におけるタンク温度とに基づいて、第1ガス密度ρ1を取得する。
【0057】
第1ガス密度ρ1に対し、第2時点における水素タンク12内のガス密度は、以下の説明において第2ガス密度ρ2とも記載される。ガス密度取得部64は、気体の状態方程式と、第2時点における水素タンク12内のガス圧力と、第2時点におけるタンク温度とに基づいて、第2ガス密度ρ2を取得する。
【0058】
膨張率取得部66は、第1時点における水素タンク12内のガス圧力を用いて所定膨張率を補正する。所定膨張率は、所定状態における水素タンク12の膨張率である。以下の説明において、第1時点における水素タンク12内のガス圧力を用いて補正された膨張率は、第1補正膨張率θ1とも記載される。
【0059】
膨張率取得部66は、例えば数式(2)を用いて第1補正膨張率θ
1を算出する。数式(2)において、θ
1は、第1補正膨張率θ
1である。PRは、水素タンク12の定格圧力(定数)である。P
1は、第1時点におけるガス圧力である。θ
0は、所定膨張率(定数)である。
【数2】
【0060】
また、膨張率取得部66は、第2時点における水素タンク12内のガス圧力を用いて所定膨張率を補正する。以下の説明において、第2時点における水素タンク12内のガス圧力を用いて補正された膨張率は、第2補正膨張率θ2とも記載される。膨張率取得部66は、第1補正膨張率θ1と同様の計算方法を用いて、第2補正膨張率θ2を算出することができる。すなわち、数式(2)のθ1を第2補正膨張率θ2に置換し、且つ、数式(2)のP1を第2時点におけるガス圧力に置換して計算することで、膨張率取得部66は第2補正膨張率θ2を取得することができる。
【0061】
容量推定部68は、第1ガス密度ρ1と、第2ガス密度ρ2と、第1補正膨張率θ1と、第2補正膨張率θ2と、総充填量dmと、供給部22の容量Vtubeとに基づいて、水素タンク12の容量を推定する。なお、総充填量dmは、第1時点から第2時点までの間における水素充填量である。総充填量dmは、充填量取得部56によって、流量センサ72の検出信号に基づいて取得される。供給部22の容量Vtubeは、供給部22のうちの、流量センサ72から水素タンク12までの部分の容積である。
【0062】
以下の説明において、容量推定部68によって推定される水素タンク12の容量は、推定容量V3とも記載される。容量推定部68は、数式(3)を用いて、推定容量V3を推定することができる。なお、数式(3)において、ρ
1は第1ガス密度ρ
1である。ρ
2は第2ガス密度ρ
2である。θ
1は第1補正膨張率θ
1である。θ
2は第2補正膨張率θ
2である。dmは総充填量dmである。V
tubeは、供給部22の容量V
tubeである。
【数3】
【0063】
数式(3)を用いることで、容量推定部68は、水素タンク12の容量を精度よく推定することができる。その一理由は次の通りである。
【0064】
数式(3)のうち、右辺の分母部分は、第1時点から第2時点までの時間経過に応じた水素ガスのガス密度の変化を表している。しかも、当該ガス密度の変化は、第1時点から第2時点までの時間経過に応じた膨張率の変化が考慮されている。したがって、数式(3)の右辺の分母部分は、水素タンク12内のガス密度の変化を精度よく表している。
【0065】
数式(3)のうち、右辺の分子部分は、第1時点から第2時点までの期間において水素タンク12に充填された水素ガス量を表している。当該水素ガス量は、供給部22内の水素ガス量を総充填量dmから差し引いた値である。供給部22内の水素ガス量を総充填量dmから差し引いた値を水素タンク12に充填された水素ガス量としている一理由は、次の通りである。
【0066】
総充填量dmは、第1時点から第2時点までの間における水素充填量である。より正確には、総充填量dmは、供給部22を通じて水素タンク12へと送られた水素ガス量である。ただし、供給部22内を流動する水素ガスの一部は、供給部22内にある。したがって、第1時点から第2時点までの期間において水素タンク12に充填された水素ガス量をできるだけ正確に得るためには、供給部22内の水素ガス量を総充填量dmから差し引く必要がある。
【0067】
また、本実施形態によれば、供給部22の容量Vtubeは、供給部22のうちの流量センサ72から水素タンク12までの部分の容積である。供給部22のうちの流量センサ72から水素タンク12までの部分の容積を供給部22の容量Vtubeとしている一理由は、次の通りである。なお、便宜のために、供給部22のうちの流量センサ72よりも蓄圧器18側の部分は、以下の説明において上流部分40aとも記載される。また、供給部22のうち上流部分40a以外の部分は、下流部分40bとも記載される。
【0068】
流量センサ72は、蓄圧器18から水素タンク12へと供給される水素ガスの流量に応じた検出信号を出力する。より正確には、流量センサ72は、供給部22のうちの流量センサ72の設置位置を通過した水素ガスの流量に応じた検出信号を出力する。換言すれば、流量センサ72の検出信号には、上流部分40a内の水素ガス量が反映されない。したがって、数式(3)における供給部22内の水素ガス量をできるだけ正確に表すためには、下流部分40bのみの容量を用いる必要がある。
【0069】
このように、容量推定部68は、供給部22内の水素ガス量と水素タンク12の膨張率の変化とが考慮された推定容量V3を取得する。推定容量V3は、供給部22内の水素ガス量と水素タンク12の膨張率の変化とが考慮されている分、第2暫定容量V2よりも水素タンク12の実際の容量に近い値となる。
【0070】
容量判定部70は、第2閾値TH2を用いて、推定容量V3と第1暫定容量V1との差(誤差)が許容範囲内であるか否かを判定する。例えば容量判定部70は、|V3-V1|/V1<TH2が成立するか否かを判定する。これにより、容量判定部70は、推定容量V3と第1暫定容量V1との誤差が許容範囲内であるか否かを判定する。ここで、容量判定部70は、第2暫定容量V2を第1暫定容量V1として用いてもよい。
【0071】
推定容量V3と第1暫定容量V1との誤差が許容範囲外であると容量判定部70が判定した場合、充填制御部60は、初期圧PIに応じた充填速度よりも遅い充填速度で水素タンク12に水素ガスを充填する。例えば、推定容量V3と第1暫定容量V1との誤差が許容範囲外であると容量判定部70が判定した場合、充填制御部60は、充填制御マップ50の中で最も遅い充填速度に切り替えて、本番充填を続行する。これにより、本番充填中に水素タンク12がオーバヒートするリスクが低減される。その一理由は次の通りである。
【0072】
上述した通り、本番充填を開始する場合において、充填制御部60は第1暫定容量V1または第2暫定容量V2を用いて充填速度を決定する。仮に、推定容量V3と第1暫定容量V1との誤差が許容範囲外である場合、第2暫定容量V2と第1暫定容量V1とは誤った数値である可能性が高い。また、その誤った数値に基づいて決定された充填速度を用いて本番充填を継続することで、水素タンク12がオーバヒートするリスクが高まる。そこで、推定容量V3と第1暫定容量V1との誤差が許容範囲外である場合、充填制御部60は、充填速度を遅くする。充填速度を遅くすることで、水素タンク12がオーバヒートするリスクを抑えることができる。
【0073】
なお、本実施形態によれば、ガス圧力Piが第1閾値TH1を超えていないと圧力判定部62が判定した場合、容量推定部68は推定容量V3を推定しない。その一理由は次の通りである。
【0074】
水素タンク12内のガス圧力がある程度低い場合は、水素タンク12の温度もある程度低い。水素タンク12の温度がある程度低い場合は、水素充填中に水素タンク12がオーバヒートするリスクが低い。したがって、水素タンク12内のガス圧力がある程度低い場合は、水素充填中に水素タンク12がオーバヒートするリスクが低い。水素タンク12がオーバヒートするリスクが低い場合には、充填速度を変更せずに水素充填をできるだけ速やかに完了させる方が、水素充填装置20のユーザにとっては好ましい。これを踏まえ、水素タンク12内のガス圧力が第1閾値TH1以下である場合には、充填制御部60は、推定容量V3に基づいて充填速度を切り替えなくてもよい。このような理由から、ガス圧力が第1閾値TH1以下である場合には、容量推定部68は推定容量V3を推定しなくてもよい。
【0075】
図3は、本実施形態に係る水素充填方法を示すフローチャートである。
【0076】
制御装置38は、例えば
図3の水素充填方法を実行することができる。
図3の水素充填方法は、初期情報取得ステップS1と、プレショット充填ステップS2と、充填速度決定ステップS3と、充填制御ステップS4とを含む。また、
図3の水素充填方法は、圧力判定ステップS5と、容量推定処理ステップS6と、容量判定ステップS7と、充填速度変更ステップS8と、終了判定ステップS9とをさらに含む。
【0077】
初期情報取得ステップS1では、車両情報取得部52が、受信器36を介して車両情報SIG(TIR、VIR、PIR)を取得する。制御装置38は、初期情報取得ステップS1において取得された容量情報VIRに基づいて、第1暫定容量V1を取得することができる。
【0078】
プレショット充填ステップS2では、充填制御部60が調整弁26を制御して、プレショット充填を実行する。これにより、水素タンク12内のガス圧力と、供給部22内のガス圧力とが均一になる。水素タンク12内のガス圧力と、供給部22内のガス圧力とが均一になることで、制御装置38は、圧力センサ28の検出信号に基づいて水素タンク12内のガス圧力を取得できるようになる。例えば、制御装置38は、プレショット充填後に圧力センサ28が出力する検出信号に基づいて、水素タンク12の初期圧PIを取得することができる。また、プレショット充填ステップS2が完了することで、制御装置38は、流量センサ72の検出信号に基づいて、水素充填量を取得することができる。
【0079】
充填速度決定ステップS3では、充填制御部60が、本番充填用の充填速度を決定する。ここで、第1暫定容量V1と第2暫定容量V2との差が所定値以上である場合、充填制御部60は、例えば充填制御マップ50の中で最も遅い充填速度を選択する。なお、充填制御部60が第1暫定容量V1と第2暫定容量V2とを比較できるように、暫定容量取得部58は、第2暫定容量V2を予め取得する。第1暫定容量V1と第2暫定容量V2との差が所定値未満である場合、充填制御部60は、初期圧PIと第2暫定容量V2と有効率TMRと充填制御マップ50とを用いて、本番充填用の充填速度を決定する。なお、充填制御部60が本番充填用の充填速度を決定できるように、有効率取得部54は、有効率TMRを予め取得する。
【0080】
充填制御ステップS4では、充填制御部60が調整弁26を制御して、本番充填を行う。ここで、充填制御部60は、充填速度決定ステップS3において決定した充填速度に基づいて、本番充填を行う。
【0081】
圧力判定ステップS5では、圧力判定部62が、本番充填開始後における水素タンク12内のガス圧力Piが第1閾値TH1を超えているか否かを判定する。水素タンク12内のガス圧力Piが第1閾値TH1を超えていると圧力判定部62が判定した場合(S5:YES)、制御装置(容量推定装置)38は、容量推定処理ステップS6(容量推定方法)を開始する。
【0082】
図4は、
図3の容量推定処理ステップS6を例示するフローチャートである。
【0083】
容量推定処理ステップ(容量推定方法)S6は、第1のガス密度取得ステップS61と、第1の補正膨張率取得ステップS62とを含む。また、容量推定処理ステップS6は、第2のガス密度取得ステップS63と、第2の補正膨張率取得ステップS64と、充填量取得ステップS65と、容量推定ステップS66とをさらに含む。
【0084】
第1のガス密度取得ステップS61では、ガス密度取得部64が、第1ガス密度ρ1を取得する。ガス密度取得部64は、気体の状態方程式と、第1時点における水素タンク12内のガス圧力と、タンク温度とに基づいて、第1ガス密度ρ1を取得する。
【0085】
第1の補正膨張率取得ステップS62では、膨張率取得部66が、第1補正膨張率θ1を取得する。膨張率取得部66は、数式(2)を用いて、第1補正膨張率θ1を取得する。
【0086】
第2のガス密度取得ステップS63では、ガス密度取得部64が、第2ガス密度ρ2を取得する。ガス密度取得部64は、気体の状態方程式と、第2時点における水素タンク12内のガス圧力と、タンク温度とに基づいて、第2ガス密度ρ2を取得する。
【0087】
第2の補正膨張率取得ステップS64では、膨張率取得部66が、第2補正膨張率θ2を取得する。膨張率取得部66は、数式(2)を用いて、第2補正膨張率θ2を取得する。
【0088】
充填量取得ステップS65では、充填量取得部56が、第1時点から第2時点までの期間における水素充填量を取得する。すなわち、充填量取得ステップS65では、充填量取得部56が総充填量dmを取得する。充填量取得部56は、流量センサ72の検出信号に基づいて、総充填量dmを取得する。
【0089】
容量推定ステップS66では、容量推定部68が、推定容量V3を推定する。容量推定部68は、数式(3)を用いて、推定容量V3を推定する。
【0090】
容量推定ステップS66が完了すると、容量判定部70が、
図3の容量判定ステップS7を開始する。容量判定ステップS7では、容量判定部70が、推定容量V3と第1暫定容量V1との差(誤差)と、第2閾値TH2とを用いて、当該誤差が許容範囲内であるか否かを判定する。例えば容量判定部70は、
図3に示すように、|V3-V1|/V1<TH2が成立するか否かを判定する。
【0091】
推定容量V3と第1暫定容量V1との誤差が許容範囲外であると容量判定部70が判定した場合(S7:NO)、充填制御部60が充填速度変更ステップS8を開始する。充填速度変更ステップS8では、充填制御部60が、本番充填用の充填速度を、充填速度決定ステップS3において決定した充填速度よりも遅い充填速度に切り替える。なお、充填制御マップ50中の最も遅い充填速度が充填速度決定ステップS3において選択されていた場合、充填制御部60は、充填速度変更ステップS8をスキップしてもよい。
【0092】
推定容量V3と第1暫定容量V1との誤差が第2閾値TH2未満であると容量判定部70が判定した場合(S7:YES)、充填制御部60は、終了判定ステップS9を開始する。終了判定ステップS9では、充填制御部60が、水素タンク12が満充填されたか否かを判定する。充填制御部60は、水素タンク12内の水素ガスのガス密度(ガス圧力、タンク温度)に基づいて、水素タンク12が満充填されたか否かを判定する。
【0093】
なお、ガス圧力Piが第1閾値TH1以下であると圧力判定ステップS5において圧力判定部62が判定した場合も(S5:NO)、充填制御部60は、終了判定ステップS9を開始する。
【0094】
水素タンク12が満充填された場合(S9:YES)、
図3の水素充填方法は終了する。水素タンク12が満充填されていない場合(S9:NO)、充填制御ステップS4が再び実行される。
【0095】
なお、
図3によれば、水素タンク12が満充填されていない場合(S9:NO)において、容量推定処理ステップS6~容量判定ステップS7も、再び実行される可能性がある。ここで、上述した第1時点と第2時点との各々は、容量推定処理ステップS6が実行される度に変更されてもよい。例えば2回目に行われる容量推定処理ステップS6において用いられる第1時点は、1回目に行われる容量推定処理ステップS6において用いられる第1時点よりも後の一時点でもよい。同様に、2回目に行われる容量推定処理ステップS6において用いられる第2時点は、1回目に行われる容量推定処理ステップS6において用いられる第2時点よりも後の一時点でもよい。1回目の容量推定処理ステップS6と2回目の容量推定処理ステップS6とで第1時点を変更せずに、第2時点のみが変更されてもよい。
【0096】
[上述した開示から把握しうる発明]
上述した開示から把握しうる発明について、以下に記載する。
【0097】
<第1の発明>
第1の発明は、水素充填装置(20)の供給部(22)から車両(10)の水素タンク(12)に水素ガスが充填される場合に、前記水素タンクの容量を推定する容量推定装置(38)であって、第1時点における前記水素タンク内のガス圧力とタンク温度とに基づいて前記水素タンク内の第1ガス密度(ρ1)を取得し、前記第1時点よりも後の第2時点における前記ガス圧力と前記タンク温度とに基づいて前記水素タンク内の第2ガス密度(ρ2)を取得するガス密度取得部(64)と、前記第1時点における前記ガス圧力に基づいて所定状態における前記水素タンクの膨張率を補正した第1補正膨張率(θ1)と、前記第2時点における前記ガス圧力に基づいて前記膨張率を補正した第2補正膨張率(θ2)とを取得する膨張率取得部(66)と、前記第1時点から前記第2時点までの間において前記水素充填装置から前記水素タンクに充填された前記水素ガスの総充填量(dm)を取得する充填量取得部(56)と、前記供給部の容量(Vtube)と、前記第1ガス密度と、前記第2ガス密度と、前記第1補正膨張率と、前記第2補正膨張率と、前記総充填量とに基づいて、前記水素タンクの容量(V3)を推定する容量推定部(68)と、を備える、容量推定装置である。これにより、水素タンクの容量を正確に推定することができる。
【0098】
上記の容量推定装置であって、前記供給部には、前記水素タンクへと送られる前記水素ガスの流量を検出するための流量センサ(72)が備えられ、前記供給部の容量(Vtube)は、前記供給部のうちの、前記流量センサから前記水素タンクまでの間の容量でもよい。これにより、供給部内に残留する水素ガス量と、当該水素ガス量に応じた検出信号を出力する流量センサの設置位置とを考慮して、水素タンクの容量をより正確に推定することができる。
【0099】
上記の容量推定装置であって、前記ガス圧力が閾値(TH1)を超えているか否かを判定する圧力判定部(62)をさらに備え、前記ガス圧力が前記閾値を超えていると前記圧力判定部が判定した場合は、前記容量推定部は前記水素タンクの容量を推定し、前記ガス圧力が前記閾値以下であると前記圧力判定部が判定した場合は、前記容量推定部は前記水素タンクの容量を推定しなくてもよい。これにより、水素充填装置は水素充填を速やかに完了できるので、ユーザにとっては好ましい。
【0100】
<第2の発明>
第2の発明は、車両(10)の水素タンク(12)内の初期圧(PI)に応じた水素ガスの充填速度を示す充填制御マップ(50)に基づいて前記水素タンクに前記水素ガスを充填する水素充填装置(20)であって、上記の容量推定装置(38)と、前記初期圧に基づいて前記水素タンクの暫定容量(V2)を取得する暫定容量取得部(58)と、前記容量推定装置が推定した前記水素タンクの容量と前記暫定容量との差が許容範囲内であるか否かを判定する容量判定部(70)と、前記差が許容範囲外であると前記容量判定部が判定した場合に、前記初期圧に応じた充填速度よりも遅い充填速度で前記水素タンクに前記水素ガスを充填する充填制御部(60)と、を備える、水素充填装置である。これにより、水素タンクの容量を正確に推定することができる。
【0101】
<第3の発明>
第3の発明は、水素充填装置(20)の供給部(22)から車両(10)の水素タンク(12)に水素ガスが充填される場合に、前記水素タンクの容量を推定する容量推定方法であって、第1時点における前記水素タンク内のガス圧力とタンク温度とに基づいて前記水素タンク内の第1ガス密度(ρ1)を取得する第1のガス密度取得ステップ(S61)と、前記第1時点における前記ガス圧力に基づいて所定状態における前記水素タンクの膨張率を補正した第1補正膨張率(θ1)を取得する第1の補正膨張率取得ステップ(S62)と、前記第1時点よりも後の第2時点における前記ガス圧力と前記タンク温度とに基づいて前記水素タンク内の第2ガス密度(ρ2)を取得する第2のガス密度取得ステップ(S63)と、前記第2時点における前記ガス圧力に基づいて前記膨張率を補正した第2補正膨張率(θ2)を取得する第2の補正膨張率取得ステップ(S64)と、前記第1時点から前記第2時点までの間において前記水素充填装置から前記水素タンクに充填された前記水素ガスの総充填量(dm)を取得する充填量取得ステップ(S65)と、前記供給部の容量(Vtube)と、前記第1ガス密度と、前記第2ガス密度と、前記第1補正膨張率と、前記第2補正膨張率と、前記総充填量とに基づいて、前記水素タンクの容量(V3)を推定する容量推定ステップ(S66)と、を含む、容量推定方法である。これにより、水素タンクの容量を正確に推定することができる。
【0102】
なお、本発明は、上述した開示に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。
【符号の説明】
【0103】
10…車両 12…水素タンク
20…水素充填装置 22…供給部
28…圧力センサ 38…制御装置(容量推定装置)
50…充填制御マップ 56…充填量取得部
58…暫定容量取得部 60…充填制御部
62…圧力判定部 64…ガス密度取得部
66…膨張率取得部 68…容量推定部
70…容量判定部 72…流量センサ