(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034796
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】制振シート
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20240306BHJP
B32B 19/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
F16F15/02 Q
B32B19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139283
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義貴
(72)【発明者】
【氏名】藤永 悠志
(72)【発明者】
【氏名】樋口 将成
(72)【発明者】
【氏名】生友 良平
(72)【発明者】
【氏名】河村 名展
(72)【発明者】
【氏名】北原 浩
(72)【発明者】
【氏名】村松 大輔
【テーマコード(参考)】
3J048
4F100
【Fターム(参考)】
3J048AA06
3J048AC03
3J048AD05
3J048BD04
3J048BE14
3J048EA03
4F100AA01
4F100AA01A
4F100AA19
4F100AA19A
4F100AD00
4F100AD00A
4F100AK01
4F100AK01A
4F100AR00A
4F100BA01
4F100DE01
4F100DE01B
4F100DG01
4F100DG01A
4F100JA05
4F100JA05A
4F100JB16
4F100JB16A
4F100JH02
4F100JH02A
(57)【要約】
【課題】制振対象物に対する形状追従性に優れた制振シートを提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る制振シートは、セラミック粉体と、有機繊維と、を含む。制振シートは、制振シートに含まれる有機繊維の含有量が、2wt%以上45wt%以下に設定されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック粉体と、有機繊維と、を含む制振シートであって、
当該制振シートに含まれる前記有機繊維の含有量が、2wt%以上45wt%以下に設定されている制振シート。
【請求項2】
前記有機繊維は、熱可塑性を有している請求項1に記載の制振シート。
【請求項3】
熱膨張粉体を含む請求項1又は請求項2に記載の制振シート。
【請求項4】
前記有機繊維のガラス転移温度は、前記熱膨張粉体の膨張開始温度よりも低い請求項3に記載の制振シート。
【請求項5】
前記セラミック粉体は、平均粒子径が45μm以上のアルミナ粉体である請求項1又は請求項2に記載の制振シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のマフラー内に配置された消音部材として、ウレタンスポンジにセラミック粒子を含浸した後、ウレタンスポンジを焼失させることで、3次元網目構造をなす多孔質の酸化物セラミックを形成する構成が知られている(例えば、下記特許文献1,2参照)。
この構成によれば、ガスが消音部材を通過する過程で、多孔によって音が減衰されるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-070760号公報
【特許文献2】特開2020-070761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来技術にあっては、消音部材が無機物で、かつ比較的硬質な構造体として形成される。そのため、従来の消音部材では、加工性や柔軟性が低く、複雑な構造をなす制振対象物に対して所望の状態で設置することが難しかった。
【0005】
本発明は、制振対象物に対する形状追従性に優れた制振シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を採用した。
(1)本発明の一態様に係る制振シート(例えば、実施形態における制振シート12)は、セラミック粉体(例えば、実施形態における第1粉体22)と、有機繊維(例えば、実施形態における基材21)と、を含む制振シートであって、当該制振シートに含まれる前記有機繊維の含有量が、2wt%以上45wt%以下に設定されている。
【0007】
本態様によれば、制振対象物の振動に伴い制振シートが振動することで、制振シート中において、有機繊維やセラミック粉体同士が擦れ合う。これにより、制振シートに入力された振動エネルギーが、熱エネルギーに変換されることで、制振シートにおいて振動を減衰させることができる。その結果、振動に伴う放射音の発生を抑制できる。
特に、本態様では、粉体間の摩擦によって振動を減衰させることで、従来のように空気の粘性摩擦によって放射音を低減する構成に比べ、制振シートの薄型化が可能になる。その結果、薄型で所望の制振効果を得ることができる制振シートを提供できる。
しかも、本態様では、有機繊維とセラミック粉体を含んだシート状に形成されているため、加工性や柔軟性を確保し易い。そのため、制振対象物が複雑な形状である場合であっても、制振対象物の表面形状に倣って制振シートを簡単に設置できる。よって、制振シートを制振対象物に密着させ易く、制振対象物の振動が制振シートに伝達され易くなり、制振シートでの制振効果を確保し易い。
【0008】
(2)上記(1)の態様に係る制振シートにおいて、前記有機繊維は、熱可塑性を有していることが好ましい。
本態様によれば、制振シートの加熱処理時に基材の断裂を抑制し、制振対象物の表面形状に合わせて制振シートを柔軟に加工することができる。
【0009】
(3)上記(1)又は(2)の態様に係る制振シートにおいて、熱膨張粉体(例えば、実施形態における第2粉体23)を含むことが好ましい。
本態様によれば、制振対象物に対して制振シートをセットした後、熱膨張粉体を膨張させることで、制振対象物に対して制振シートを密着させ易い。これにより、制振対象物の振動が制振シートに伝達され易くなり、制振シートでの制振効果を確保し易い。
特に、膨張可能な材料(例えば、膨張不織布等)を基材に選定する場合に比べて、膨張後の制振シートにおいてセラミック粉体同士が離間することを抑制できる。そのため、セラミック粉体同士の摩擦による制振効果を確保し易い。
【0010】
(4)上記(3)の態様に係る制振シートにおいて、前記有機繊維のガラス転移温度は、前記熱膨張粉体の膨張開始温度よりも低いことが好ましい。
本態様によれば、加熱処理時において、有機繊維を変形(伸長)させつつ、熱膨張粉体を膨張させることができる。これにより、制振シートの破断を抑制し、制振対象物の表面形状に合わせて制振シートを柔軟に加工することができる。
【0011】
(5)上記(1)から(4)の何れかの態様に係る制振シートにおいて、前記セラミック粉体は、平均粒子径が45μm以上のアルミナ粉体であることが好ましい。
本態様によれば、制振シートの体積変化時に効果的に摩擦熱を発生させることができる。これにより、制振対象物の振動を効果的に減衰させることができる。
しかも、セラミック粉体の平均粒子径が45μm以上に設定されているため、セラミック粉体に掛かるコストを抑えつつ、制振シートの体積変化に伴い、セラミック粉体同士を積極的に擦り合わせることができる。
【発明の効果】
【0012】
上記態様によれば、制振対象物への形状追従性に優れた制振シートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】加熱処理後における制振シートのCT画像である。
【
図4】加熱処理前における制振シートのCT画像である。
【
図5】加熱処理前における制振シートの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、実施形態に係る制振構造1の概略図である。
図1に示す制振構造1は、例えば車両のエンジンルームに設けられている。制振構造1は、オイルパン10と、カバー部品11と、制振シート12と、を備えている。
オイルパン10は、シリンダヘッド及びシリンダブロックにより画成されたエンジン本体の下方に設けられている。オイルパン10は、エンジン本体とともにエンジンを構成する。オイルパン10は、エンジン本体で発生する振動が伝達されることで、エンジンの外部に放射音を発生する放射音発生源である。不図示のオイルポンプから送り出されるオイルは、エンジン本体内に収納されたオイル供給部品を通過した後、オイルパン10に戻される。なお、オイル供給部品としては、例えばピストンやクランクシャフト、カムシャフト、VTC(Valve Timing Control SYSTEM)等、種々の潤滑部材や冷却部材、油圧デバイスが挙げられる。
【0015】
カバー部品11は、オイルパン10の外表面をオイルパン10の下方から覆っている。カバー部品11は、オイルパン10に対して剛性が異なっている。したがって、カバー部品11は、オイルパン10の振動に伴い、オイルパン10と相対変位する。
【0016】
カバー部品11は、外周部等にカバー取付片11aを有している。カバー取付片11aは、オイルパン10の外周部に形成されたパン取付片10aに対して締結等によって固定されている。カバー部品11とオイルパン10との間において、取付片10a,11a以外の部分(中央部)には、間隔Sが設けられている。間隔Sは、平均寸法が1mm程度に設定されている。
【0017】
図2は、
図1の要部拡大図である。
図2に示すように、制振シート12は、カバー部品11とオイルパン10との間の間隔Sに敷き詰められている。制振シート12は、オイルパン10の外表面及びカバー部品11の内表面に隙間なく密接している。制振シート12は、基材21と、第1粉体22と、第2粉体23と、を含んでいる。
【0018】
基材21は、第1粉体22及び第2粉体23を担持する機能を有している。基材21には、例えばフィブリル化された有機繊維を用いてもよい。有機繊維としては、例えばパルプ(セルロース)等の有機天然繊維や、熱可塑性繊維(例えば、アクリル繊維、アラミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維等)が好適に用いられている。基材21に用いられる有機繊維は、1種でもよく、2種以上を組み合わせてもよい。熱可塑性繊維を基材21に用いる場合、ガラス転移温度は30℃以上、220℃以下が好ましく、70℃以上、200℃以下がより好ましい。ガラス転移温度が上述した範囲にあることで、第1粉体22(熱膨張粉体)が膨張した後もシート強度を維持しやすい。熱可塑性繊維は、フィブリル化されているもの(フィブリル化繊維)と、フィブリル化されていないもの(以下、ストレート繊維ともいう。)と、の双方が混入されているものが好ましい。フィブリル化繊維は、粉体22,23の担持性に寄与する。ストレート繊維は、シート強度に寄与する。この場合、ストレート繊維の繊維長及び繊維径(長さ方向に直交する断面円相当の直径)は、フィブリル化繊維それぞれの繊維長及び繊維径よりも大きいことが好ましい。具体的に、ストレート繊維の平均繊維長は3mm~12mmが好ましく、平均繊維径は3~20μmが好ましい。フィブリル化繊維の平均繊維長は0.4~3mm未満が好ましく、平均繊維径は0.1~3μm未満が好ましい。なお、繊維長、繊維径は、制振シート等のSEM写真をもとに任意の100繊維を観察して、ストレート繊維とフィブリル化繊維を選別した後に測定することができる。また、基材21の材料中にパルプ等の天然有機繊維が含まれている場合には、パルプ可溶溶媒でパルプを溶かした後に上述した測定方法で繊維長、繊維径を測定することができる。なお、有機繊維の平均繊維長、平均繊維径は、数平均繊維長、数平均繊維径を指す。
【0019】
ガラス転移温度は、例えばQ200(TAインスツルメントジャパン社製)を用いて以下の条件で測定した際の、セカンドヒート時ショルダーと終点の中間値を指す。
試料容器:AL製 Tzero Pan
昇温速度:10℃/min(ファーストヒート、セカンドヒート共。ファーストヒート後に急速冷却)
雰囲気:窒素(50ml/min)
本発明の制振シートに熱可塑性繊維が含まれているか否かは定性的にはIR分析により特定することができる。また、定量的にはセルロース可溶溶媒によるセルロースの除去、燃焼灰分による有機物の無機物の比率特定等の手法を用いて特定することができる。
【0020】
本実施形態において、制振シート12全体に含まれる基材21の含有量は、2wt%以上45wt%以下に設定されていることが好ましい。基材21は、坪量100g/m2以上に設定されていることが好ましい。なお、坪量とは、制振シート12の1m2当たりに含まれる基材21や粉体22,23等の重量を意味する。
【0021】
図3は、加熱処理後における制振シート12のCT画像である。
図2、
図3に示すように、第1粉体22は、基材21に担持された状態で、制振シート12の厚さ方向に複数の層状に形成されている。第1粉体22には、耐油性や耐熱性に優れ、摩擦抵抗の高い材料が用いられる。このような材料としては、不定形アルミナ等のセラミック材料が挙げられる。第1粉体22の平均粒子径は、第2粉体23の平均粒子径よりも小さいことが好ましく、例えば10μm以上90μm以下に設定されている。なお、本実施形態において平均粒子径とは、マイクロトラック法(レーザー回折・散乱法)によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(Dv50)を意味する。第1粉体22の坪量は、基材21や第2粉体23の坪量よりも多いことが好ましく、例えば1060g/m
2以上に設定されている。
【0022】
第2粉体23には、加熱処理によって不可逆的に膨張可能な材料(熱膨張粉体)が用いられる。第2粉体23の膨張開始温度は、エンジンの使用温度領域以上かつ基材21のガラス転移温度以上に設定されていることが好ましい。第2粉体23の膨張率(加熱処理前の第2粉体23全体の体積に対する加熱処理後の第2粉体23全体の体積)は、1.7倍以上であることが好ましい。このような材料としては、膨張黒鉛(例えば、富士黒鉛工業株式会社製EXP-32S160等)が好適に挙げられる。膨張黒鉛は、鱗状の粉体であって、主に制振シート12の厚さ方向に膨張可能である。なお、上記材料を用いる場合、第2粉体23は坪量80g/m2以上に設定されていることが好ましい。
【0023】
図4は、加熱処理前における制振シート12のCT画像である。
図4に示すように、上述した制振シート12は、第1成形工程や第2成形工程を経て製造される。第1成形工程では、例えば基材21や各粉体22,23等が分散された溶液を紙漉き処理によってシート状に形成した後、乾燥処理等を施す。これにより、各粉体22,23が基材21に担持された不織布状のベースシート12Aが完成する。ベースシート12Aは、第2粉体23が膨張しておらず、基材21の弾性によって弾性変形可能である。
【0024】
図5は、加熱処理前における制振シート12の概略断面図である。
続いて、
図1、
図5に示すように、ベースシート12Aを、オイルパン10とカバー部品11との間に挟み込んだ状態で、加熱処理を行う。これにより、第2粉体23が主に制振シート12の厚さ方向に膨張する。その結果、オイルパン10の外表面及びカバー部品11の内表面に隙間なく密接した状態で、制振シート12が成形される。
【0025】
本実施形態では、エンジン本体からオイルパン10に伝達された振動によりオイルパン10とカバー部品11とが相対変位する。これにより、オイルパン10とカバー部品11との間に配置された制振シート12が体積変化(圧縮及び膨張)を繰り返す。この際、制振シート12中において、基材21や粉体22,23(特に第1粉体22同士)が互いに擦れ合うことで、摩擦熱が発生する。その結果、制振シート12に入力された振動エネルギーが、熱エネルギーに変換されることで、制振シート12において振動を減衰させることができる。その結果、振動に伴う放射音の発生を抑制できる。
特に、本実施形態では、粉体22,23間の摩擦によって振動を減衰させることで、従来のように空気の粘性摩擦やシート自体の振動によって放射音を低減する構成に比べ、制振シート12の薄型化が可能になる。その結果、薄型で所望の制振効果を得ることができる制振シート12を提供できる。
【0026】
本実施形態の制振シート12は、セラミック粉体からなる第1粉体22と、有機繊維からなる基材21と、を含む制振シート12であって、制振シート12に含まれる有機繊維の含有量が、2wt%以上45wt%以下に設定されている構成とした。
この構成によれば、基材21の含有量を2wt%以上とすることで、粉体22,23を担持しつつ、自立性のある制振シート12を提供できる。また、基材21の含有量を45%以下とすることで、制振シート12中に十分な量の第1粉体22を含ませることができ、制振シート12の体積変化に伴い第1粉体22によって効果的に摩擦熱を発生させることができる。これにより、制振シート12による制振効果を確保し易い。
しかも、本実施形態の制振シート12は、有機繊維とセラミック粉体を含んだシート状に形成されているため、加工性や柔軟性を確保し易い。そのため、制振対象物(例えば、オイルパン10)が複雑な形状である場合であっても、制振対象物の表面形状に倣って制振シート12を簡単に設置できる。よって、制振シート12を制振対象物に密着させ易く、制振対象物の振動が制振シート12に伝達され易くなり、制振シート12での制振効果を確保し易い。
【0027】
本実施形態の制振シート12は、基材21が熱可塑性を有している構成とした。
この構成によれば、制振シート12の加熱処理時に基材21の断裂を抑制し、制振対象物の表面形状に合わせて制振シート12を柔軟に加工することができる。
【0028】
本実施形態の制振シート12は、熱膨張粉体からなる第2粉体23を含んでいる構成とした。
この構成によれば、オイルパン10とカバー部品11との間に制振シート12を配置した後、第2粉体23を膨張させることで、オイルパン10とカバー部品11とに制振シート12を密着させ易い。これにより、オイルパン10の振動が制振シート12に伝達され易くなり、制振シート12での制振効果を確保し易い。
特に、膨張可能な材料(例えば、膨張不織布等)を基材に選定する場合に比べて、膨張後の制振シート12において粉体22,23同士が離間することを抑制できる。そのため、粉体22,23同士の摩擦による制振効果を確保し易い。
【0029】
本実施形態の制振シート12において、基材21のガラス転移温度は、第2粉体23の膨張開始温度よりも低い構成とした。
この構成によれば、加熱処理時において、基材21を変形(伸長)させつつ、第2粉体23を膨張させることができる。これにより、制振シート12の破断を抑制し、制振対象物の表面形状に合わせて制振シート12を柔軟に加工することができる。
【0030】
本実施形態の第1粉体22は、平均粒子径が45μm以上のアルミナ粉体である構成とした。
この構成によれば、微小粒子径の第1粉体22を含ませることで、第1粉体22全体での表面積を確保し易くなり、制振シート12の体積変化時に効果的に摩擦熱を発生させることができる。これにより、オイルパン10の振動を効果的に減衰させることができる。
しかも、第1粉体22の平均粒子径が45μm以上に設定されているため、第1粉体22に掛かるコストを抑えつつ、制振シート12の体積変化に伴い、第1粉体22同士を積極的に擦り合わせることができる。
【0031】
本発明の制振シートの製造方法は特に限定されない。
例えば粉末担持抄造法によって製造することができる。粉末担持抄造法とは、一般的な抄造法のプロセスを用い、粉末を分散した抄造スラリーを用いて抄造を行う方法である。より具体的には、繊維および粉体と分散媒(水や有機溶媒等)を撹拌した後、抄造スラリーを作製し、角形手漉き装置等(例えば、東洋精機社製)を用いてシート化し、フェロタイプの乾燥装置等を用いて乾燥することで、制振シートを得ることができる。粉末担持抄造法のプロセスは、バッチ式、連続式を問わない。
【0032】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
実施例では、粉体や有機繊維の種類を調整して、制振シート12を介在させた制振サンプル100を複数作成し、各サンプルにおける損失係数を比較した。制振サンプル100は、
図6に示すように、例えば矩形板状に形成されている。制振サンプル100は、制振対象部材101と、カバー102と、の間にシム103が介在している。シム103は、制振対象部材101及びカバー102の外周縁間に配置された枠支持部103aと、制振対象部材101及びカバー102の中央部間に配置された中央支持部103bと、を備えている。制振対象部材101及びカバー102の間において、シム103によって形成された隙間に、制振シート12が配置されている。なお、損失係数は、加振機とサンプル100との間にインピーダンスヘッド(加速度及び荷重を測定可能なセンサ)を設置し、インピーダンスヘッドを介してサンプル100を加振することで、サンプル100の応答振動特性を測定したものである。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
表1は、各サンプル(実施例及び比較例)で用いた粉体の種類、及び粉体の各種条件(含有量等)をまとめたものである。表2は、各サンプルで用いた有機繊維の種類、及び有機繊維の各種条件(含有量等)をまとめたものである。表3は、各サンプルの坪量、密度、空隙率及び損失係数をまとめたものである。
【0038】
表における各項目の定義は、以下の通りである。
平均粒子径(μm):アルミナ粉体の平均粒子径
担持量(%):制振シート12に含まれる粉体全体の含有量。
坪量(g/m2):制振シート12全体の重量。
空隙率(%):(1-制振シートの見掛け密度/真密度の加重平均値)×100
【0039】
本測定では、比較例1における損失係数(0.100)に対して数値が大きいものを、制振効果が優れているものとして判断した。なお、実施例3~5では、制振シート12(基材21)に鉱物繊維を含有させた。鉱物繊維としては、チタン酸カリウムウイスカーやセピオライト等を挙げることができ、鉱物繊維を少量混合する事で、担持性を向上させることができる。更に、鉱物繊維が、樹枝状であると担持性を向上させやすい。鉱物繊維の平均繊維径は、0.1~2μmが好ましく、平均繊維長は、0.005~2mmがこの好ましい。なお、繊維長、繊維径は、制振シート等のSEM写真をもとに任意の100繊維を観察することにより測定することができる。鉱物繊維の平均繊維径、平均繊維長は、数平均を指す。
【0040】
実施例1-5から分かるように、制振シート12にセラミック粉体からなる第1粉体22が含まれることで、制振効果が発揮されていることが分かる。特に、実施例1-3,5で示されるように、第1粉体22の含有量を増加させることで、損失係数が増加した。すなわち、第1粉体22の含有量を増加させることで、制振シート12の体積変化に伴い第1粉体22によって効果的に摩擦熱を発生させることができたものと考えられる。なお、実施例4,5のように、担持量が同一の場合で比較すると、第1粉体22の含有量が多い実施例5の方が制振効果に優れる結果が得られた。但し、実施例4のように、第2粉体23の含有量を増加させることで、加熱処理時における制振シート12の加工性を向上させることができる。
【0041】
比較例1のように、基材21の含有量を多くすると(例えば、70%)、粉体(第1粉体22)の含有量を確保できなくなり(制振シート12に含まれる第1粉体22が相対的に少なくなり)、所望の制振効果が得られなかった。
【0042】
[その他の変形例]
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれら実施例に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
上述した実施形態では、制振構造1としてエンジンの一部を例にして説明したが、この構成に限られない。制振構造は、車両において、振動に伴い放射音を発生する部分であれば、例えばフロアパネル、ルーフパネル等の車両外装部分や、ダッシュボード等の車両内装部分、モータ等の駆動源等、適宜採用可能である。
【0043】
上述した実施形態では、セラミック粉体からなる第1粉体22及び熱膨張粉体からなる第2粉体23の双方が基材21に担持された構成について説明したが、この構成に限られない。制振シート12は、少なくともセラミック粉体が含まれていればよい。
上述した実施形態では、基材21が熱可塑性を有する構成について説明したが、この構成に限られない。基材21は、有機繊維であれば種々の材料を選択可能である。
【0044】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0045】
12:制振シート
21:基材(有機繊維)
22:第1粉体(セラミック粉体)
23:第2粉体(熱膨張粉体)