(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034798
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】改質寒天およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 17/60 20160101AFI20240306BHJP
A23L 29/256 20160101ALI20240306BHJP
【FI】
A23L17/60 101
A23L29/256
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139286
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100150326
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 知久
(72)【発明者】
【氏名】福田(増田) 佳南
(72)【発明者】
【氏名】黒瀧 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】松元 一頼
【テーマコード(参考)】
4B019
4B041
【Fターム(参考)】
4B019LP05
4B041LC04
4B041LD01
4B041LH10
4B041LP01
(57)【要約】
【課題】 より低い温度でそれ自体を水等の媒体に溶解させることができ、かつ当該溶解を経て固化させたゼリーをより低い温度で再溶解させることができる、改質寒天およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の改質寒天は、水溶性の還元糖を含有する。ここで、25℃の水に溶解する該還元糖の含有量は全体1g当たり25mgから90mgである。このような改質寒天は、例えば、原料寒天に過熱水蒸気を付与することにより製造することができる。ここで、原料寒天に付与される過熱水蒸気の温度T1(℃)は160℃から600℃であり、温度T1(℃)と付与時間T2(分間)との積Aは、11,000≦A≦50,000の関係式を満たす。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性の還元糖を含有する改質寒天であって、25℃の水に溶解する該還元糖の含有量が全体1g当たり25mgから90mgである、改質寒天。
【請求項2】
前記改質寒天1gと水100mLとの混合物を沸騰湯浴中で30分間加熱して放冷後15℃下で保管して得られたゼリーが、70℃の湯浴中に20分間配置されることにより、溶解前の該ゼリーの質量に対して70質量%以上の割合で溶解する、請求項1に記載の改質寒天。
【請求項3】
改質寒天の製造方法であって
原料寒天に過熱水蒸気を付与する工程を含み、
該原料寒天に付与される該過熱水蒸気の温度T1(℃)が160℃から600℃であり、
該温度T1(℃)と付与時間T2(分間)との積Aが、以下の関係式:
11,000≦A≦50,000
を満たす、方法。
【請求項4】
前記温度T1が200℃から500℃である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記温度T1が230℃から400℃である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記時間T2が19分間から300分間である、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記時間T2が30分間から180分間である、請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質寒天およびその製造方法に関し、より詳細には熱可逆性食品素材として利用可能な改質寒天およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
寒天は、ゲル化剤の1種であり、ゼラチン、デンプン、カラギナン等の他のゲル化剤と比較して糊状感のない食感を提供できる。寒天は、食品に加えて化粧品および医療品の原材料としても使用されている。
【0003】
近年では、特に所定濃度以上の寒天を含んでいてもゼリー強度が低く、ソフトで離水を伴わないゲルを作製できる低強度寒天の開発が所望されている。例えば、特許文献1および2は、寒天を低pH条件下または高圧条件下で加熱することにより、寒天の構成成分を低分子化および/または低強度化して、より取り扱い易い改質寒天を作製することが提案されている。
【0004】
しかし、これら改質寒天を得る方法はいずれも煩雑なものである。
【0005】
例えば、寒天を低pH条件下で加熱する場合は、溶解した寒天を中和しかつ乾燥させる工程が必要であった。他方寒天を高圧条件下で加熱するためには、エクストルーダーのような大型機器が必要であった。また、上記加熱はいずれも、その前に乾燥寒天に対して水を添加しなければならないという前段階の工程も必須であった。
【0006】
さらに、このようにして作製された改質寒天の水等への媒体の溶解や、当該溶解を経て固化させたゼリーを再度溶解のためには90℃以上の高温または長時間の加熱が必要であった。この点においても、従来の改質寒天は、取り扱いが満足し得るとは言い難いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3023244号公報
【特許文献2】特許第3414954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、より低い温度でそれ自体を水等の媒体に溶解させることができ、かつ当該溶解を経て固化させたゼリーをより低い温度で再溶解させることができる、改質寒天およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、水溶性の還元糖を含有する改質寒天であって、25℃の水に溶解する該還元糖の含有量が全体1g当たり25mgから90mgである、改質寒天である
【0010】
1つの実施形態では、上記改質寒天1gと水100mLとの混合物を沸騰湯浴中で30分間加熱して放冷後15℃下で保管して得られたゼリーは、70℃の湯浴中に20分間配置されることにより、溶解前の該ゼリーの質量に対して70質量%以上の割合で溶解する。
【0011】
本発明はまた、改質寒天の製造方法であって
原料寒天に過熱水蒸気を付与する工程を含み、
該原料寒天に付与される該過熱水蒸気の温度T1(℃)が160℃から600℃であり、
該温度T1(℃)と付与時間T2(分間)との積Aが、以下の関係式:
11,000≦A≦50,000
を満たす、方法である。
【0012】
1つの実施形態では、上記温度T1は200℃から500℃である。
【0013】
1つの実施形態では、上記温度T1は230℃から400℃である。
【0014】
1つの実施形態では、上記時間T2は19分間から300分間である。
【0015】
1つの実施形態では、上記時間T2は30分間から180分間である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、それ自体の溶解および当該溶解を経て固化させたゼリー再溶解のために付与する温度を90℃未満に抑えることができる。これにより、熱に弱い他の食品素材と合わせて新たな加工食品を提供できる。さらに、本発明の改質寒天の製造には、pHの変動(特に低下)や中和等の操作は不要であり、エクストルーダーのような大型機器も特に必要としない。その結果、効率良く改質寒天を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(改質寒天)
本願発明について説明する前に以下の用語について説明する。
【0018】
本明細書中に用いられる用語「原料寒天」は、テングサ、オゴノリなどの紅藻類に含まれる粘液質を凍結および/または乾燥したものであって、一般に「寒天」と呼ばれるものを指して言う。これに対し、本明細書中に用いられる用語「改質寒天」は、原料寒天に人為的な処理を加えることによって、原料寒天が有する1つまたはそれ以上の性質が異なるものに変更(改質)された寒天を指して言う。
【0019】
本発明の改質寒天は水溶性の還元糖を含有する。本発明の改質寒天において、25℃の水に溶解する還元糖の含有量は全体1g当たり25mg~90mg、好ましくは30mg~85mg、より好ましくは35mg~75mgである。このような還元糖の含有量は、改質寒天中の冷水可溶性成分に含まれる還元糖がグルコースであるとみなした場合の当該グルコースに相当する量であり、含有量の数値が大きいほど、その改質寒天は冷水に対して可溶性の成分が多く含まれていることを表す。
【0020】
ここで、上記還元糖の含有量は、所定量の改質寒天および3,5-ジニトロサリチル酸(DNS)試薬を含む水溶液の540nmでの吸光度を測定し、その測定値を、DNS試薬を含有する種々の濃度のグルコース水溶液から得られた吸光度540nmでの検量線(DNS法検量線)に適用することにより、当該改質寒天1gに含まれる25℃の水に対する可溶性成分中の還元糖をすべてグルコースであるとみなし、それに相当する量として算出することができる。
【0021】
改質寒天1gに含まれる上記還元糖の含有量が25mgを下回ると、これを用いて得られるゼリーなどの寒天製品が加熱によって容易に溶融しない、または他の媒体(例えば水)に対して容易に溶解しないことがある。改質寒天1gに含まれる上記還元糖の含有量が90mgを上回ると、当該寒天は製造時に焦げ易くなり、その結果水に対して溶解し難いものになることがある。
【0022】
本発明の改質寒天はまた、上記改質寒天1gと水100mLとの混合物を沸騰湯浴中で30分間加熱して放冷後15℃下で保管して得られたゼリーが、70℃の湯浴中に20分間配置されることにより、溶解前の該ゼリーの質量に対して、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上の割合で溶解する。得られるゼリーがこのような割合で70℃の湯浴に溶解することにより、本発明の改質寒天は、それ自体の溶解および当該溶解を経て固化させたゼリー再溶解のために付与する温度を90℃未満に抑えることができる。
【0023】
本発明の改質寒天は、90℃以上の高温または長時間の加熱を必要とする従来の改質寒天と比較してより低い温度での溶解が可能である。また、本発明の改質寒天を用いて得られたゼリーもまた、従来の改質寒天を用いたゼリーと比較してより低い温度での再溶解が可能である。その結果、本発明の改質寒天をその他の食品素材を混合し、ゼリー状の加工食品を作製した場合、90℃よりも低い温度でそのゼリー状態が崩壊する熱可逆性の新たな加工食品を提供することができる。
【0024】
(改質寒天の製造方法)
上記改質寒天は、例えば以下のようにして製造することができる。
【0025】
本発明の改質寒天の製造方法では、原料寒天に過熱水蒸気が付与される。
【0026】
原料寒天は、例えば、粉末状、フレーク状、固形状、角状、および糸状、ならびにそれらの組み合わせのいずれの形状を有していてもよい。本発明では、高純度でありかつ品質が安定しているとの理由から、原料寒天として粉末寒天を用いることが好ましい。
【0027】
原料寒天は、例えば400~1000、好ましくは500~900のゼリー強度を有する。ここで、本明細書中に用いられる用語「ゼリー強度」とは、日寒水式の測定方法により測定される強度であって、具体的には水に1.5質量%の割合で原料寒天または改質寒天を含有する混合物を加熱して完全に原料寒天または改質寒天を当該水に溶解させ、20℃で15時間放置して凝固させたゲルについてその表面1cm2当たり20秒間耐え得る最大荷重(g)を指して言う。
【0028】
使用される原料寒天の量は特に限定されない。原料寒天の量は、後述する過熱水蒸気の付与装置の規模や付与の様式(例えば、バッチまたは連続式)等によって適切な量を当業者が適宜選択することができる。
【0029】
過熱水蒸気は、沸点(例えば、大気圧下100℃)に達した水で構成される水蒸気をさらに加熱して得られるガスであり、160℃~600℃、好ましくは200℃~500℃、より好ましくは230℃~400℃の温度T1を有する。使用する過熱水蒸気の温度が160℃を下回ると、それが付与される原料寒天を効率良く改質することができないことがある。使用する過熱水蒸気の温度が600℃を上回ると、当該温度を達成し得る装置が大型化または複雑化するか、あるいは現実的に作製が困難となることがある。
【0030】
本発明において、原料寒天への過熱水蒸気の付与は、過熱水蒸気の温度T1(℃)と、付与時間T2(分間)との積A(すなわちA=T1×T2)が所定範囲を満たすようにして行われる。このA(℃・分)は、11,000以上50,000以下、好ましくは13,000以上48,000以下、より好ましくは14,000以上47,000以下である。過熱水蒸気を原料寒天に付与する際、当該温度T1(℃)と付与時間T2(分間)との関係においてAが11,000を下回ると、原料寒天の改質が不十分となり、得られた改質寒天を溶解させるための温度および/または当該改質寒天を用いて固化させたゼリーの再溶解のために付与するための温度を90℃未満に抑えることが困難となることがある。過熱水蒸気を原料寒天に付与する際、当該温度T1(℃)と付与時間T2(分間)との関係においてAが50,000を上回ると、当該寒天は製造時に焦げ易くなり、その結果水に対して溶解し難いものになることがある。
【0031】
さらに、本発明において、過熱水蒸気の付与時間T2は好ましくは19分間~300分間、より好ましくは30分間~180分間である。過熱水蒸気の付与時間T2をこのような範囲内に設定することにより、それ自体の溶解および当該溶解を経て固化させたゼリー再溶解のいずれもが向上した改質寒天を得ることができる。
【0032】
原料寒天への過熱水蒸気の付与は、例えば、閉鎖系領域内または開放系環境下において原料寒天を過熱水蒸気に接触させることによって行われる。ここで、本明細書中に用いられる用語「閉鎖領域系」とは、外気と遮断可能な任意の区画(例えば、容器、処理槽)で構成される空間を指して言う。これに対し、本明細書における用語「開放系環境」とは、上記「閉鎖系領域」以外の任意の空間を示す用語として用いられ、例えば外気との遮断がなされていない(いわゆる開放系の)容器内、処理槽内、処理台上の任意の空間がこれに包含される。
【0033】
原料寒天への過熱水蒸気の付与を閉鎖系領域内で行う場合、閉鎖系領域を構築するために用いられる装置は、例えば、工業用または家庭用のバッチ条件下で過熱水蒸気を供給可能な装置であり、具体的には、過熱水蒸気オーブンレンジ、過熱水蒸気撹拌混合式殺菌装置、過熱水蒸気静置式殺菌装置などが挙げられる。
【0034】
原料寒天への過熱水蒸気の付与を開放系環境下で行う場合、開放系環境を構築するために用いられる装置は、例えば、製品の開放撹拌下で過熱水蒸気を供給可能な装置、および製品の連続生産のため開放下で過熱水蒸気を供給可能な装置であり、具体的には、開放容器中で固定された処理台上に配置されたまたは撹拌下にある原料寒天に対して過熱水蒸気を連続的に供給可能な装置、開放容器中で連続供給される原料寒天に対して順次過熱水蒸気を接触させる装置などが挙げられる。例えば、より具体的には、本体内に過熱水蒸気の供給手段を有し、かつ容器底部に撹拌羽根、容器側面に取り外し可能な解砕羽根、容器上部に空気および過熱水蒸気の排出口を有する過熱水蒸気撹拌混合式殺菌装置などが挙げられる。当該装置の容器内は常圧であってもよく、または加圧されていてもよいが、常圧であることが好ましい。
【0035】
原料寒天への過熱水蒸気の付与は循環式または非循環式のいずれの様式で行われてもよい。原料寒天に過熱水蒸気を付与する際の過熱水蒸気量および原料寒天の量はいずれも特に限定されない。過熱水蒸気量および原料寒天の量は、用いる装置の容器の容量に応じて決定され得る。
【0036】
本発明の製造方法においては、原料寒天への過熱水蒸気の付与は、上記閉鎖系領域内または開放系環境下において、原料寒天を所定の処理台上に配置した状態で行うことができる。さらに、過熱水蒸気の付与の際、例えば、原料寒天を処理台上に薄く広げて配置することで、原料寒天は過熱水蒸気に対してより均一に曝露され、原料寒天を一層均等に改質することができる。あるいは、この過熱水蒸気の付与の際、例えば、撹拌羽根を有する容器内で原料寒天を撹拌しながら過熱水蒸気を供給することにより、この原料寒天に過熱水蒸気を均一に曝露し、より均質に原料寒天を改質することができる。
【0037】
本発明の製造方法では、上記閉鎖系領域内または開放系環境下において加熱が行われる場合、この領域内または環境下の酸素濃度が空気中の濃度よりも低い濃度に設定されていることが好ましい。例えば、領域内または環境下の酸素濃度が1%以下に保持されていることが好ましい。領域内または環境下の酸素濃度が空気中の濃度よりも低いことにより、原料寒天に過熱水蒸気を付与する際に、この原料寒天が閉鎖系領域内または開放系環境下に存在する酸素を通じて無用な酸化が起こることを回避できるからである。このような酸素濃度は、例えば、過熱水蒸気の付与の際に、予め閉鎖系領域内に過熱水蒸気を導入すると同時に当該領域内の空気(酸素を含む)を当該領域外に排出することにより調整可能である。酸素濃度の調整は、例えば市販の過熱水蒸気オーブンレンジ、過熱水蒸気撹拌混合式殺菌装置および過熱水蒸気静置式殺菌装置を用いて行われ得る。
【0038】
本発明の製造方法では、原料寒天への過熱水蒸気の付与の際、当該原料寒天および過熱水蒸気は他の熱源(例えば、電熱線、オイルヒーターなど)により加熱されてもよい。他の熱源は、例えば、装置内の容器や処理槽を覆うジャケットの形態を有し、閉鎖系領域内または開放系環境下の温度を維持するために用いられ得る。
【0039】
このようにして、改質寒天を得ることができる。
【0040】
得られた改質寒天は、熱可逆性を有する食品素材としてそのまま使用されてもよく、あるいは他の成分と混合して使用されてもよい。
【0041】
ここで、他の成分の例としては、日持ち向上剤、pH調整剤、食感改良剤、乳化剤、保存料、安定剤、甘味料、発色剤、着色料、調味料、酸化防止剤、糖類、および加工用助剤、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。他の成分の使用量は、上記改質寒天が有する効果を阻害しない範囲において適切な量が当業者によって選択され得る。
【0042】
本発明の改質寒天は、例えば、様々な加工食品を製造するための熱可逆性の食品素材の1種として使用することができる。このような加工食品としては特に限定されないが、例えば、レンジアップスープ、肉汁等によるジューシー感が高められた肉製品(例えば餃子、ハンバーグ)、チルド食品や弁当に付随するタレ類、飲料が挙げられる。本発明の改質寒天はまた、化粧品や医療品の原材料としても有用である。
【実施例0043】
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
なお、各実施例および比較例で得られた改質寒天または寒天を以下のように評価した。
【0045】
1.改質寒天等に含まれる還元糖(冷水可溶性成分)量の測定
(1)DNS試薬の調製
1質量%の3,5-ジニトロサリチル酸(DNS)水溶液132mLに、4.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液45mLを添加して混合し、これに酒石酸カリウムナトリウム・4水和物38.25gを溶解させることにより水溶液Aを得た。
【0046】
一方、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液3.3mLにフェノール1.5gを溶解した(液量15mL)。この溶液10.35mLに炭酸ナトリウム1.035mg添加して溶解させることにより水溶液Bを得た。
【0047】
その後、水溶液Aおよび水溶液Bを全量混合してDNS試薬を得た。得られたDNS試薬はアルミホイルを巻いて遮光した瓶に入れ、使用まで室温で保存した。
【0048】
(2)冷水可溶性成分(25℃の水に溶解する還元糖)の含有量
a)各実施例または比較例で得られた改質寒天または寒天0.05gと、脱イオン水1.0mLをエッペンドルフチューブに入れ、25℃で30秒間ボルテックスした後、遠心分離(15,000rpm、5分間)により回収した上清0.2mLに、脱イオン水1.0mLとDNS試薬0.6mLとを加えて軽くボルテックスし、5分間沸騰湯浴中で煮沸した。
b)煮沸した溶液にさらに脱イオン水3.0mLを添加かつ混合し、10分間放置した。
c)その後、この溶液の540nmの吸光度を、分光光度計(日本分光株式会社製V-730)を用いて測定した。なお、寒天を加えることなく上記a)およびb)の操作を行った水溶液を、ブランクとして同様に吸光度を測定し、先の測定値からこのブランクの測定値を差し引いた値を各実施例または比較例の吸光度の実測値として採用した。
d)一方、0~3mg/mLのグルコース水溶液を調製して、上記a)~c)と同様の操作を行い、各水溶液に含まれるグルコース濃度に対する吸光度をプロットしてDNS法検量線を作成した。得られた検量線はy=0.5676x-0.0173(ここで、yは540nmにおける吸光度の実測値であり、xはグルコース濃度(mg/mL)である)であり、R2は0.9954であった。
e)この検量線に基づいて、上記c)で得られた各実施例または比較例の吸光度の実測値から、最終的に各実施例および比較例で得られた改質寒天または寒天1g中の冷水可溶性成分中に含まれる還元糖がすべてグルコースであるとみなし、当該グルコースに相当する量を還元糖の量(mg)として算出した。
【0049】
2.水中に添加されたゼリーの再溶解性試験
A1)200mLのビーカーに、水100mLと、各実施例または比較例で得られた改質寒天または寒天1gを入れて混合物を調製し、ビーカーの開口部をラップで覆いかつその周囲を輪ゴムで縛って蒸発を防ぎ、このビーカーを沸騰湯浴中で30分間加温することにより、混合物中の寒天成分を溶解させた。
【0050】
A2)次いで、このビーカーを室温まで放冷し、ビーカー内にゼリーが形成したことを確認した後、15℃の低温庫内で一晩静置した。
【0051】
A3)低温庫からゼリーを取り出して秤量(M0(g))し、それを70℃の湯浴中に添加してそのまま20分間加温した。
【0052】
A4)空のビーカー上にザルを置き、さらにその上に不織布フィルタ(株式会社武田コーポレーション製水切り用不織布排水口用)を置いて、この不織布フィルタ上に、上記加温したゼリーをすべて流し込み、1分間経過後に当該不織布フィルタ上に残存するゼリーを溶け残ったゼリーとみなして秤量(M1(g))した。これら2つの秤量値(M0およびM1)から、不織布フィルタを通過したゼリーの量(M0-M1(g))を、再溶解したゼリーの量(M2(g))とみなし、以下の式から再溶解したゼリーの割合P(%)を算出した。
【0053】
【0054】
A5)上記A1)~A4)の操作を合計3回行って、得られた再溶解したゼリーの割合P(%)の平均値(Pave(%);3回測定した結果の平均値)を「加熱温度70℃」の結果として算出した。
【0055】
また、上記A3の湯浴の温度を80℃に変更したこと以外は上記と同様にして、A1)~A4)の操作を合計3回行い、得られた再溶解したゼリーの割合P(%)の平均値(Pave(%);3回測定した結果の平均値)を「加熱温度80℃」の結果として算出した。
【0056】
3.ラーメンスープゼリーのレンジアップ試験
なお、実施例1、4および5で得られた改質寒天(E1)、(E4)および(E5)と、比較例1~5の改質寒天または寒天(C1)~(C5)については、以下のラーメンスープゼリーを作製しかつその評価も行った。
【0057】
B1)200mLのビーカーに、粉末ラーメンスープ3gを溶解した熱湯100gをフィルタでろ過して添加し、これに、上記実施例または比較例の改質寒天または寒天1gを添加し、そのビーカーを沸騰湯浴内に浸漬して20分間加熱した。このとき、ビーカーの開口部をラップで覆いかつその周囲を輪ゴムで縛って蒸発を防いだ。途中、ビーカーを湯浴から取り出して10秒間揺すって撹拌し、元の湯浴に戻した。さらに、20分間の加熱終了後に寒天が溶解していない場合はラップを外してスパチュラで撹拌して溶解させた。
【0058】
B2)このようにして得られたラーメンスープを室温まで放冷した後、15℃の低温庫で保冷することにより、ラーメンスープゼリーを得た。
【0059】
B3)次いで、直前まで保冷したラーメンスープゼリーを低温庫から取り出して秤量(RM0(g))し、密閉容器中で600Wの電子レンジ(株式会社東芝製ER-F7(S))でそれぞれ80秒間加熱して、ゼリーが溶解したラーメンスープを得た。その後容器を開放し、スパチュラで5回円を描くように撹拌した。
【0060】
B4)その後、空のビーカー上にザルを置き、さらにその上に不織布フィルタ(株式会社武田コーポレーション製水切り用不織布排水口用)を置いて、この不織布フィルタ上に、上記加温したゼリーをすべて流し込み、1分間経過後に当該不織布フィルタ上に残存するゼリーを溶け残ったゼリーとみなして秤量(RM1(g))した。これら2つの秤量値(RM0およびRM1)から、不織布フィルタを通過したゼリーの量(RM0-RM1(g)を、ラーメンスープゼリーのレンジアップを通じて再溶解したゼリーの量(RM2(g))とみなし、以下の式からラーメンスープゼリーのレンジアップを通じて再溶解したゼリーの割合RP(%)を算出した。
【0061】
【0062】
B5)上記B1)~B4)の操作を合計2回行って、得られた再溶解したゼリーの割合RP(%)の平均値(RPave(%);2回測定した結果の平均値)を算出した。
【0063】
(実施例1:改質寒天(E1)の作製)
原料寒天として一般寒天(伊那食品工業株式会社製S-6;ゼリー強度610~650)1kgを、過熱水蒸気撹拌混合式殺菌装置(株式会社鍵庄製SS-MGS12)内に入れ、200℃の過熱水蒸気を120分間、当該原料寒天に付与することにより改質寒天(E1)を得た。
【0064】
得られた改質寒天(E1)についての還元糖の量、ゼリーの再溶解性試験、およびラーメンスープゼリーのレンジアップ試験の各結果を表1に示す。
【0065】
(実施例2~5:改質寒天(E2)~(E5)の作製と評価)
付与する過熱水蒸気の温度および時間を表1のように設定したこと以外は実施例1と同様にして改質寒天(E2)~(E5)を得た。得られた改質寒天(E2)~(E5)についての測定または試験結果をそれぞれ表1に示す。
【0066】
(比較例1:改質寒天(C1)の作製と評価)
付与する過熱水蒸気の温度を150℃に設定したこと以外は実施例1と同様にして改質寒天(C1)を得た。得られた改質寒天(C1)についての測定または試験結果を表1に示す。
【0067】
(比較例2:寒天(C2)の評価)
過熱水蒸気の付与を行わず、一般寒天そのものを寒天(C2)とした。この寒天(C2)についての測定または試験結果を表1に示す。
【0068】
(比較例3:寒天(C3)の評価)
実施例1で使用した一般寒天の代わりに、原料寒天として低強度寒天(伊那食品工業株式会社製AX-30;ゼリー強度10~50)を用い、この低強度寒天に対して過熱水蒸気の付与を行うことなく、そのものを寒天(C3)とした。この寒天(C3)についての測定または試験結果を表1に示す。
【0069】
(比較例4:寒天(C4)の評価)
実施例1で使用した一般寒天の代わりに、原料寒天として低強度寒天(伊那食品工業株式会社製BX-30;ゼリー強度10~50)を用い、この低強度寒天に対して過熱水蒸気の付与を行うことなく、そのものを寒天(C4)とした。この寒天(C4)についての測定または試験結果を表1に示す。
【0070】
(比較例5:寒天(C5)の評価)
実施例1で使用した一般寒天の代わりに、原料寒天として易溶性寒天(伊那食品工業株式会社製UX-100;ゼリー強度80~120)を用い、この易溶性寒天に対して過熱水蒸気の付与を行うことなく、そのものを寒天(C5)とした。この寒天(C5)についての測定または試験結果を表1に示す。
【0071】
【0072】
表1に示すように実施例1~5で得られた改質寒天(E1)~(E5)はいずれも、比較例2、4および5の寒天(C2)、(C4)および(C5)と比較して、80℃の水に対する再溶解したゼリーの割合(Pave)(%)が高く、かつ寒天1g当たりの還元糖量も高いことがわかる。
【0073】
一方、この80℃の水に対する再溶解したゼリーの割合(Pave)(%)については、比較例1および3の改質寒天(C1)および寒天(C3)も比較的高い値を示していた。
【0074】
しかし、これら(C1)および(C3)について、70℃の水に対する再溶解したゼリーの割合(Pave)(%)はいずれも、実施例1~5の改質寒天(E1)~(E5)の割合と比較して低くなっており、水の温度を70℃以上80℃未満に設定したような場合では、当該水への再溶解の性能は80℃に設定した場合と比べて著しく劣化する傾向にあったことがわかる。
【0075】
さらに改質寒天(C1)および寒天(C3)をラーメンスープゼリーに使用した際、それらのレンジアップを通じて再溶解したゼリーの割合(RPave)(%)が実施例1、4および5の改質寒天(E1)、(E4)および(E5)から得られる当該割合(RPave)(%)と比較して数値が低下していた。このことから、比較例1および3の改質寒天(C1)および寒天(C3)は、現実的な加工食品への利用を考慮すると、実施例1、4および5の改質寒天(E1)、(E4)および(E5)よりも劣るものであった。
【0076】
なお、表1に示すラーメンスープゼリーのレンジアップ試験の結果は、粉末ラーメンスープ3gに対して熱湯100gを用いた場合の結果に過ぎないが、通常1杯のラーメンには400mL前後の量のラーメンスープが使用されていることを考慮すると、上記ラーメンスープゼリーに使用した際の再溶解したゼリーの割合(RPave)(%)の結果は、実施例1、4および5と、比較例1および3との間で大きい差異を生じており、実際に調理や喫食を行う者にとっては、溶解の程度が全く異なるものであると実感できることがわかる。