(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034802
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】黒リン/層状リン酸ジルコニウム複合体及びその製造方法、並びにナトリウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
C01B 25/00 20060101AFI20240306BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20240306BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240306BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C01B25/00 Z
H01M10/054
H01M4/36 C
H01M4/38 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139295
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】岡田 友彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友利
(72)【発明者】
【氏名】上條 智哉
(72)【発明者】
【氏名】清水 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】新井 進
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AL01
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM07
5H050AA07
5H050BA15
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA19
5H050CB01
5H050EA11
5H050FA17
5H050FA18
(57)【要約】
【課題】ナトリウムイオンの吸蔵放出に伴う劣化が抑制された黒リン材料を提供することを目的の一つとする。
【解決手段】[1]黒リン粒子の表面の少なくとも一部が層状リン酸ジルコニウムで被覆された、黒リン/層状リン酸ジルコニウム複合体。[2]黒リン粒子の表面の少なくとも一部が層状リン酸ジルコニウムで被覆されてなる黒リン/層状リン酸ジルコニウム複合体を含む負極材と、ナトリウムを含む正極材と、を備えたナトリウムイオン電池。[3]リン酸ジルコニウムと、黒リン粉末と、pH調整剤と、水とを含む反応液を加熱することにより、黒リン粒子の表面の少なくとも一部が層状リン酸ジルコニウムで被覆された黒リン/層状リン酸ジルコニウム複合体を得る、黒リン/層状リン酸ジルコニウム複合体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒リン粒子の表面の少なくとも一部が層状リン酸ジルコニウムで被覆された、黒リン/層状リン酸ジルコニウム複合体。
【請求項2】
黒リン粒子の表面の少なくとも一部が層状リン酸ジルコニウムで被覆されてなる黒リン/層状リン酸ジルコニウム複合体を含む負極材と、ナトリウムを含む正極材と、を備えたナトリウムイオン電池。
【請求項3】
リン酸ジルコニウムと、黒リン粉末と、pH調整剤と、水とを含む反応液を加熱することにより、黒リン粒子の表面の少なくとも一部が層状リン酸ジルコニウムで被覆された黒リン/層状リン酸ジルコニウム複合体を得る、黒リン/層状リン酸ジルコニウム複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒リン/層状リン酸ジルコニウム複合体及びその製造方法、並びにナトリウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のナトリウムイオン電池(NIB)は正極にナトリウム系層状化合物が用いられ、負極に炭素系電極が用いられている。リチウムイオン電池でも多用される炭素系電極をNIBに適用すると、ナトリウムイオンのイオン半径がリチウムイオンよりも大きいため、電池の可逆容量が小さいという問題がある。炭素系電極の代替材料として期待されている黒リンは、炭素の約8.65倍の可逆容量を持ち、リンの同素体の中で最も安定である。しかしながら、ナトリウムイオンの吸蔵/放出に伴う体積の膨張/収縮の比が4倍にもなり、黒リンが微粉化して劣化する問題がある。先行技術には、黒リン表面をニッケルや酸化チタンなどで被覆することにより、体積膨張に対する緩衝能を黒リンに付与する例がある(非特許文献1,2)。しかしながら、黒リンを被覆する材料が導電物質である場合、電解液の酸化分解は避けられない。また絶縁体(半導体)であってもイオン伝導体でない場合は、充放電に大きな抵抗となってしまう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】"Electrochemical Na-Insertion/Extraction Property of Ni-Coated Black Phosphorus Prepared by an Electroless Deposition Method" M. Shimizu, et al., ACS Omega, 2, 4306 (2017).
【非特許文献2】"TiO2-Nanocoated Black Phosphorus Electrodes with Improved Electrochemical Performance" Y. Luo. et al., ACS Appl. Mater. Interfaces 2018, 10, 42, 36058-36066.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ナトリウムイオンの吸蔵放出に伴う劣化が抑制された黒リン材料を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1] 黒リン粒子の表面の少なくとも一部が層状リン酸ジルコニウムで被覆された、黒リン/層状リン酸ジルコニウム複合体。
[2] 黒リン粒子の表面の少なくとも一部が層状リン酸ジルコニウムで被覆されてなる黒リン/層状リン酸ジルコニウム複合体を含む負極材と、ナトリウムを含む正極材と、を備えたナトリウムイオン電池。
[3] リン酸ジルコニウムと、黒リン粉末と、pH調整剤と、水とを含む反応液を加熱することにより、黒リン粒子の表面の少なくとも一部が層状リン酸ジルコニウムで被覆された黒リン/層状リン酸ジルコニウム複合体を得る、黒リン/層状リン酸ジルコニウム複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る黒リン/層状リン酸ジルコニウムは、黒リン粒子の少なくとも一部が層状リン酸ジルコニウム(ZrP)によって被覆されている。絶縁体であるZrP層間のプロトンは種々の陽イオンと交換可能であり、ナトリウムイオンとの可逆的交換も容易である。つまり、ZrPはナトリウムイオンを伝導する絶縁体であるので、NIBの負極材として好適であり、電解液の酸化分解を防止できる。また、黒リン粒子の膨張収縮にともなう劣化を抑制できる。
本発明に係る製造方法によれば、上記黒リン/層状リン酸ジルコニウム複合体が容易に得られる。
本発明に係るナトリウムイオン電池にあっては、繰り返し充放電に対する負極材の劣化が低減されており、耐久性が向上している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】実施例1,2で得た試料のXRDパターンである。
【
図7】実施例5で作製したナトリウムイオン電池の定電流充放電試験の結果である。
【
図8】比較例1で作製したナトリウムイオン電池の定電流充放電試験の結果である。
【
図9】実施例6で作製したナトリウムイオン電池の定電流充放電試験の結果である。
【
図10】実施例5,6、比較例1で作製したナトリウムイオン電池の初回充電過程の電圧-容量特性を示すグラフである。
【
図11】実施例5,6、比較例1の充放電10サイクル目の充放電容量を比較した棒グラフである。
【
図12】実施例7で作製したナトリウムイオン電池の初回充電過程の電圧-容量特性を示すグラフである。
【
図13】Y. Cheng, et al., Inorg. Chem., 57, 4370 (2018).から引用した、リン酸ジルコニウムのα型とγ型の層構造である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
≪黒リン/層状リン酸ジルコニウム複合体≫
本発明の第一態様は、黒リン粒子の表面の少なくとも一部が層状リン酸ジルコニウムで被覆された、黒リン/層状リン酸ジルコニウム複合体(以下、黒リンZrP複合体ということがある。)である。
【0009】
黒リン粒子の形状は特に制限されず、例えば、球状形状、回転楕円体形状、薄片形状、板状形状、不定形等が挙げられる。黒リン粒子の体積は、これを被覆する層状リン酸ジルコニウム(ZrP)の全体積よりも大きいことが好ましい。黒リンZrP複合体がいわゆるコアシェル構造を有する場合、コアを形成する黒リンの体積はシェルを構成するZrPよりも大きくなりやすい。
【0010】
黒リン粒子の平均粒子径は特に制限されず、例えば、0.1μm~10mmが挙げられる。後述するようにナトリウムイオン電池の負極材料として使用する場合、0.5μm~1000μmが好ましく、1μm~500μmがより好ましく、10μm~100μmがさらに好ましい。ここで、黒リン粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定における体積基準のメジアン径(D50)であることが好ましい。
【0011】
黒リンZrP複合体の平均粒子径は特に制限されず、例えば、0.1μm~10mmが挙げられる。後述するようにナトリウムイオン電池の負極材料として使用する場合、0.5μm~1000μmが好ましく、1μm~500μmがより好ましく、10μm~100μmがさらに好ましい。ここで、黒リンZrP複合体の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定における体積基準のメジアン径(D50)であることが好ましい。
【0012】
黒リン粒子の総質量に対する黒リンの含有率としては、例えば60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。黒リン以外の含有成分として、黒リン粒子の原料である赤リンが挙げられる。
【0013】
本態様の黒リンZrP複合体における黒リン粒子の全表面積に対するZrPの被覆率としては、例えば50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、95%以上が最も好ましく、100%であってもよい。ここで、黒リン粒子の被覆率は、黒リンZrP複合体のSEM像から推定することができる。通常、未被覆の領域は平滑な表面であり、被覆された領域は、ZrPの微粒子が付着した粗面である。SEM像から推定することが困難である場合、EDX(エネルギー分散型X線分光法)によって、測定領域に占めるZr元素の存在領域の割合として算出してもよい。
【0014】
本態様の黒リンZrP複合体の厚さ方向の断面構造は、TEM観察によって、黒リン粒子の表面にZrPを含む最表層が存在する構造として確認することができる。
【0015】
本態様における層状リン酸ジルコニウム(ZrP)は、公知の結晶性リン酸ジルコニウムのXRDパターンに特徴的なピークを示す。一般に、結晶性リン酸ジルコニウムの層構造として、
図13に示すα型とγ型が知られている。
リン酸ジルコニウムの組成式は、Zr(PO
4)
n-1(HPO
4)
2(2-n)(H
2PO
4)
n-1・nH
2O(α型n=1、γ型n=2)で表される。α型では1種類、γ型では2種類のプロトンが層間に存在する。
【0016】
本態様の黒リンZrP複合体を構成するZrPは、α型であってもよいし、γ型であってもよい。
本態様の黒リンZrP複合体を構成するZrPは、少なくとも一部が結晶性であればよく、不定形が混在していても構わない。
【0017】
ZrPを含む最表層の厚さとしては、例えば100~1000nmが挙げられる。
最表層の厚さは透過型電子顕微鏡(TEM)によって確認することができる。
【0018】
≪黒リン/層状リン酸ジルコニウム複合体の製造方法≫
本発明の第二態様は、リン酸ジルコニウムと、黒リン粉末と、pH調整剤と、水とを含む反応液を加熱することにより、黒リン粒子の表面の少なくとも一部が層状リン酸ジルコニウムで被覆された黒リン/層状リン酸ジルコニウム複合体を得る、黒リン/層状リン酸ジルコニウム複合体の製造方法である。本態様の製造方法によって第一態様の黒リンZrP複合体を製造することができる。
【0019】
反応液に配合するリン酸ジルコニウムは非晶質であってもよいし、晶質(結晶性)であってもよいが、反応液における溶解性を高める観点から、非晶質が好ましく、吸水性が高い多孔質性のリン酸ジルコニウムゲルであることがより好ましい。
リン酸ジルコニウムは公知方法によって準備することができる。
【0020】
反応液に配合する黒リン粉末の平均粒子径は、得られる黒リンZrP複合体の平均粒子径に反映される。黒リンZrPの平均粒子径は原料の黒リン粒子の0.1~10%増しとなり易い。
【0021】
反応液の総質量に対する黒リンの配合量は、例えば、0.1~10質量%が好ましく、0.2~5質量%がより好ましく、0.5~2質量%がさらに好ましい。
反応液の総質量に対するリン酸ジルコニウムの配合量は、例えば、1~50質量%が好ましく、9~34質量%がより好ましく、16~24質量%がさらに好ましい。
反応液に配合した黒リンとリン酸ジルコニウムの質量比としては、例えば、(黒リンの質量/リン酸ジルコニウムの質量)=0.5~20が好ましく、1~10がより好ましく、2~8がさらに好ましく、3~6が最も好ましい。
上記の好適な配合であると、被覆率の高い黒リンZrP複合体がより容易に得られる。
【0022】
反応液のpHは7未満の酸性が好ましく、5以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。反応液のpHが酸性であると、ZrPによる被覆率が高い黒リンZrP複合体が得られる。反応液のpHを酸性に調整するために、本態様の反応液にはpH調整剤が配合される。pH調整剤としては、酸、塩基、及びこれらを組み合わせた緩衝剤が挙げられる。酸性側のpH緩衝剤としては、リン酸とリン酸塩を組み合わせた緩衝剤が好ましい。反応液に配合されるpH緩衝剤の濃度は特に制限されず、例えば0.1~1.0Mが挙げられる。
【0023】
全材料を配合した反応液をよく混合し、加熱することにより、目的の黒リンZrP複合体が生成する。
加熱温度は、例えば60~120℃が好ましく、80~100℃がより好ましい。
上記加熱温度における反応時間は、24~72時間程度で完了させ得る。
その後、反応液を自然に冷却し、濾過や遠心分離等の常法によって、反応液から目的の黒リンZrP複合体を回収することができる。
【0024】
反応液から回収した黒リンZrP複合体は、吸着されたNaイオンを除去する目的で塩酸水溶液に一晩程度漬けておき、その後イオン交換水で洗浄することが好ましい。
洗浄後の黒リンZrP複合体を乾燥すれば、粉末状の黒リンZrP複合体が得られる。
【0025】
≪ナトリウムイオン電池≫
本発明の第三態様は、黒リン粒子の表面の少なくとも一部が層状リン酸ジルコニウムで被覆されてなる黒リン/層状リン酸ジルコニウム複合体を含む負極材と、ナトリウムを含む正極材と、を備えたナトリウムイオン電池である。
本態様のナトリウムイオン電池は充電可能な二次電池であってもよいし、一次電池であってもよい。本態様の黒リン/層状リン酸ジルコニウム複合体として第一態様の黒リンZrP複合体を適用することができる。
【0026】
ナトリウムイオン電池の負極に備えられた黒リン粒子が、充電時にナトリウムイオンを吸蔵し、放電時にナトリウムイオンを放出する機能を有し、負極材として有用であることは公知である。本態様の負極に備えられた黒リンZrP複合体にあっては、黒リン粒子の上記機能が維持されつつ、ナトリウムイオンの吸蔵・放出に伴う黒リン粒子の膨張・収縮による劣化が抑制されている。この結果、本態様のナトリウムイオン電池にあっては、充放電を繰り返すことによる容量低下が緩和され、耐久性が向上している。このように優れた効果が奏されるメカニズムとして、黒リン粒子を被覆するZrPが、黒リン粒子の膨張・収縮による割れを抑制していると推測される。
【0027】
本態様のナトリウムイオン電池の構成は、負極材として黒リンZrP複合体を含むこと以外は従来のナトリウムイオン電池の構成と同様にすればよい。
負極材としての黒リンZrP複合体の使用方法は、従来の黒リン粒子と同様でよい。
【0028】
ナトリウムイオン電池の負極として、銅等の金属製の集電体の表面に負極材からなる負極層が備えられたものが挙げられる。負極材には、黒リンZrP複合体以外に、黒リンZrPの粒子同士を結着させるバインダ樹脂を含むことが好ましい。また、負極の導電性を高めるためにカーボンブラック等の炭素材料が含まれていてもよい。
【0029】
負極材の総質量に対する黒リンZrP複合体の含有量は、例えば10~99質量%が好ましく、20~90質量%がより好ましく、30~80質量%がさらに好ましい。
負極材の総質量に対するバインダ樹脂の含有量は、例えば1~60質量%が好ましく、5~50質量%がより好ましく、10~40質量%がさらに好ましい。
負極材の総質量に対する炭素材料の含有量は、例えば0.1~19質量%が好ましく、1~9質量%がより好ましく、3~7質量%がさらに好ましい。
【0030】
ナトリウムイオン電池の正極として、例えば、アルミニウム等の金属製の集電体の表面に正極材からなる正極層が備えられたもの、又は種々の金属化合物や金属ナトリウムそのものが挙げられる。正極材として、ナトリウムイオンをインターカレーション可能なナトリウム系層状酸化物(例えばNaNi0.5Mn0.5O2)、硫化チタン、種々のポリ酸(ポリオキソメタレート)、プルシアンブルー及びその類似体、プルシアンホワイト及びその類似体等が挙げられる。また、正極材としてバインダ樹脂が用いられてもよい。
【0031】
ナトリウムイオン電池の正極(又は対極)と負極(又は作用極)の間には、ナトリウムイオンが伝導する電解質層が設けられる。電解質層の形態は固体、ゲル(半固体)、液体のいずれであってもよい。電解液は水系であってもよいが、エネルギー密度を高める観点から非水系(有機溶媒)が好ましい。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合溶媒が挙げられる。混合比は体積比で例えば、EC:DMC=1:3~3:1が好ましく、1:2~2:1がより好ましく、1.0:1.2~1.2~1.0がさらに好ましい。この混合溶媒の総体積100体積%に加えて、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を好ましくは1~10体積%、より好ましくは2~8体積%、さらに好ましくは3~7体積%の割合で添加すると、本態様のナトリウムイオン電池の充放電の繰り返しに関する耐久性をより高めることができる。
【0032】
電解質としては、例えば、NaPF6やNaN(SO2CF3)2(ナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、略称:NATFSA)等が挙げられる。上記の非水系電解液に含まれる電解質の濃度は、例えば0.1~2.0Mが好ましく、0.5~1.5Mがより好ましく、0.8~1.2Mがさらに好ましい。
【実施例0033】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0034】
[黒リンの合成]
Cheol-Min Park, Hun-Joon Sohn "Black Phosphorus and its Composite for Lithium Rechargeable Batteries"(Adv. Mater.2007,19, 2465-2468)に記載の方法で黒リンを得た。具体的には、1.5gの赤リンを、フリッチュ社製の遊星ボールミル(Pulverisette 6 Classic Line)で、Arガス雰囲気で30時間粉砕し、黒リン粒子(平均粒子径:10μm)を得た。生成物が黒リン粒子であることはX線回折パターンで確認した。
【0035】
[リン酸ジルコニウムゲルの合成]
S. Yamanaka, et al., J. Inorg. Nucl. Chem, 41, 45-48 (1978)に記載された方法でリン酸ジルコニウムゲルを得た。具体的には、リン酸0.86mLに塩酸5mLと脱イオン水1.36mLを加えて混合した溶液に、塩化酸化ジルコニウム八水和物2.62gを塩酸5mLに溶かした液を攪拌しながら加え、一晩室温にて保持した。得られた沈殿をろ過により固液分離をし、ろ紙上の沈殿を2%リン酸および脱イオン水の順で、ろ液に塩化物イオンが存在しなくなるまで繰り返し洗浄をした。洗浄後の固体を100℃で1日間乾燥させ、リン酸ジルコニウムゲルを得た。
【0036】
[実施例1]
1Mのリン酸水溶液4mLと1Mのリン酸ナトリウム水溶液6mLを混合し、pH2に調製したpH緩衝剤水溶液に、黒リン0.1gとリン酸ジルコニウムゲル(ZrPゲル)0.02gを分散させ、100℃で2日間、テフロン(登録商標)製内筒型密閉容器内で加熱した。反応後、遠心分離により沈殿物を回収した。続いて沈殿物に含まれるナトリウムイオンをプロトンに置換するための塩酸処理を、1MのHCl水溶液10mLに一晩磁気攪拌で処理する手順で行い、脱イオン水で洗浄した後、乾燥して、粉末状の試料(BP01_ZrP002)を得た。
試料のSEM像を
図1,2に示す。これらのSEM像から、黒リン粒子の表面を板状の微粒子が覆っていることがわかった。
試料のX線回折(XRD)パターンを測定した結果を
図3に示す。原料の黒リンの回折パターンと比べて、試料ではα型ZrPの002面に帰属される回折ピークが観測された(図中の網掛け部)。
以上の結果から、試料は、黒リン粒子の表面がα型ZrPの板状微粒子によって被覆された複合粒子であることがわかった。
【0037】
[実施例2]
ZrPゲルの配合量を0.03gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、粉末状の試料(BP01_ZrP003)を得た。
試料のSEM像を
図4,5に示す。これらのSEM像から、黒リン粒子の表面を板状の微粒子が覆っていることがわかった。また、被覆密度は実施例1の試料よりも高いことがわかった。
試料のX線回折(XRD)パターンを測定した結果を
図3に併記する。原料の黒リンの回折パターンと比べて、試料ではα型ZrPの002面に帰属される回折ピークが観測された。
以上の結果から、試料は、黒リン粒子の表面がα型ZrPの板状微粒子によって被覆された複合粒子であることがわかった。
【0038】
[実施例3]
ZrPゲルの配合量を0.04gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、粉末状の試料(BP01_ZrP004)を得た。
試料のSEM像及びXRDの結果(不図示)から、試料は、黒リン粒子の表面がα型ZrPの板状微粒子によって被覆された複合粒子であることがわかった。
【0039】
[実施例4]
ZrPゲルの配合量を0.05gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、粉末状の試料(BP01_ZrP005)を得た。
試料のSEM像を
図6に示す。このSEM像から、黒リン粒子の表面を板状の微粒子が覆っていることがわかった。また、被覆密度は実施例1~3の試料よりも高いことがわかった。
試料のX線回折(XRD)パターンを測定した結果(不図示)には、α型ZrPの002面に帰属される回折ピークが観測された。
以上の結果から、試料は、黒リン粒子の表面がα型ZrPの板状微粒子によって被覆された複合粒子であることがわかった。
【0040】
[実施例5]
<負極>
実施例1で得た粉末試料(BP01_ZrP002)0.25gと、ポリアクリル酸0.15gと、カーボンブラック0.1gと、脱イオン水1.75mLとを、ボールミルを用いて混合し(5分×2回)、負極材スラリーを得た。続いて銅箔に負極材スラリーを63.5μm厚で塗布し、真空乾燥(120℃、2時間)した後、直径約1cmの円形に切り抜き、負極を得た。
【0041】
<正極材>
金属Naをナイフで薄く切り取り、パッキン打抜ポンチセットで打ち抜き、直径約1cmの円形の正極材を得た。
【0042】
<電解液>
エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の体積比50:50の混合溶媒に、ヘキサフルオロリン酸ナトリウムを1Mで溶解し、さらにフルオロエチレンカーボネート(FEC)を5体積%で加え、電解液を得た。
【0043】
<電池組み立て>
Arガス雰囲気のグローブボックス内において、正極(又は対極)と負極(又は作用極)を対向させ、電解液(300μL)を含浸したセパレータを間に挟み、これらをセル筐体に収納することによって、二極式セル(Naイオン二次電池)を得た。
【0044】
<定電流充放電試験>
上記の二極式セルを用い、電圧範囲0.005~2.0V(vs. Na/Na
+)、制御値0.1Cの条件で、定電流充放電試験を行った。その結果を
図7に示す。
【0045】
[比較例1]
実施例1で得た粉末試料(BP01_ZrP002)の代わりに、実施例1の原料である単体の黒リン0.25gを用いたこと以外は、実施例5と同様にして二極式セルを得て、同条件で定電流充放電試験を行った。その結果を
図8に示す。
【0046】
[実施例6]
実施例1で得た粉末試料(BP01_ZrP002)の代わりに、実施例2で得た粉末試料(BP01_ZrP003)0.25gを用いたこと以外は、実施例5と同様にして二極式セルを得て、同条件で定電流充放電試験を行った。その結果を
図9に示す。
【0047】
[各セルの性能比較]
初回充電過程の電圧-容量特性を
図10に示す。比較例1に比べて実施例5,6の電位が低いことから、黒リン粒子がα型ZrPによって充分に被覆されており、Naイオンの透過の程度が低くなっていることがわかった。
実施例5の二極式セル(BP01_ZrP002使用)は、初回充電過程で黒リンの理論容量(2596mAh/g)を超える容量を示した。
実施例6の二極式セル(BP01_ZrP003使用)は、初回充電過程で黒リンの理論容量よりも若干低い容量を示したが、初回放電過程よりも後では、実施例5よりも高い容量を示した。
実施例6の二極式セルでは、電解液の分解に伴う容量増加はほとんど見られなかった。
実施例5,6及び比較例1の充放電10サイクル目の容量を
図11に示す。比較例1に対して、実施例5は約1.2倍、実施例6は約1.3倍の高い容量を示した。この結果から、実施例5,6の二極式セルは比較例1に比べて耐久性(サイクル特性)が向上していることがわかった。
【0048】
以上の結果をまとめると、黒リン粒子を被覆するα型ZrPはナトリウムイオンを伝導し、電解液の酸化劣化を防止し、充放電に伴う黒リン粒子の膨張収縮を緩衝する機能があることがわかった。
【0049】
[実施例7]
実施例1で得た粉末試料(BP01_ZrP002)の代わりに、実施例4で得た粉末試料(BP01_ZrP005)0.25gを用いたこと以外は、実施例5と同様にして二極式セルを得て、同条件で定電流充放電試験を行った。その初回充電過程の電圧-容量特性を
図12に示す。