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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034814
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】可視光応答型光触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/39 20240101AFI20240306BHJP
   B01J 37/03 20060101ALI20240306BHJP
   B01J 27/18 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J37/03 Z
B01J27/18 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139321
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山本 伸一
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA08
4G169AA09
4G169AA11
4G169BA48A
4G169BB12C
4G169BB14A
4G169BB14B
4G169BC02C
4G169BC32A
4G169BC32B
4G169CA05
4G169CA10
4G169CA11
4G169CA17
4G169DA05
4G169EA01X
4G169EA01Y
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EC25
4G169ED04
4G169FA01
4G169FB08
4G169FC02
4G169FC07
4G169FC08
4G169HA02
4G169HA12
4G169HB10
4G169HC01
4G169HD03
4G169HE05
4G169HE06
4G169HE07
(57)【要約】
【課題】粒径が小さく光触媒効果に優れたAgPO粉末を提供する。
【解決手段】NaPOおよびAgNOを含む水溶液の沈殿物からなり、平均粒子径が0.95μm以下である、可視光応答型光触媒に関する。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NaPOおよびAgNOを含む水溶液の沈殿物からなり、平均粒子径が0.95μm以下である、可視光応答型光触媒。
【請求項2】
前記水溶液中の、NaPOに対するAgNOのモル比が0.5超である、請求項1に記載の可視光応答型光触媒。
【請求項3】
NaPOと、NaPOに対するモル比が0.5超のAgNOとを、水中で反応させる工程を含む、
請求項1または2に記載の可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項4】
NaPOとAgNOとの反応を100℃以下の均一沈殿法により行う、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
NaPOとAgNOとの反応を24時間以内で行う、請求項3に記載の製造方法。






【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光応答型光触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、光エネルギーを吸収して電子(e)と正孔(h)のペアを形成するが、この正孔(h)が触媒の表面にある水分を強い酸化力を持つヒドロキシラジカルに変えることで、このヒドロキシラジカルが汚染物資や汚れ、細菌などの有機物を分解し、その機能を発揮する。その効果は、吸収する光エネルギーの大きさに比例し、光触媒のバンドギャップエネルギーと関係する。吸収できる光エネルギーは、バンドギャップエネルギーEgが低いほど大きく、吸収可能な上限の波長λと下記式の関係にある。
Eg=プランク定数×光速度/λ=1240/λ
【0003】
光触媒として広く活用されている酸化チタンTiOは、バンドギャップエネルギーが3.2eVであり、波長388nm以下の紫外光を利用できるが、太陽光全エネルギーのわずか3%弱しか活用できない。特許文献1には、バンドギャップエネルギーがさらに低い単斜晶系バナジン酸ビスマスBiVOの効率的な製造方法が開示されており、バンドギャップエネルギーは2.4eVで、波長517nm以下の可視光と紫外光のエネルギーを利用できるが、太陽光全エネルギーの19%弱しか活用できない。
【0004】
一方、特許文献2~3にはリン酸銀AgPOが開示されている。リン酸銀AgPOは単斜晶系バナジン酸ビスマスよりバンドギャップエネルギーが2.2eVと低く、波長554nm以下の可視光と紫外光のエネルギーを利用でき、太陽光全エネルギーの24%を活用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-111476号公報
【特許文献2】特開2009-78211号公報
【特許文献3】特開2014-113576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光触媒として機能するAgPO粉末の粒径を細粒化できれば、表面積を増大でき、光触媒効果を向上させることが期待できる。しかし、特許文献2~3に記載された方法では、AgPO粉末の粒径の更なる細粒化は期待できない。本発明は、粒径の小さなAgPO粉末を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、リン酸銀AgPOについて、種々検討したところ、NaPOおよびAgNOを含む水溶液の沈殿物が、小粒径であり高い光触媒効果を有することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、NaPOおよびAgNOを含む水溶液の沈殿物からなり、平均粒子径が0.95μm以下である、可視光応答型光触媒に関する。
【0009】
前記水溶液中の、NaPOに対するAgNOのモル比が0.5超であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、NaPOと、NaPOに対するモル比が0.5超のAgNOとを、水中で反応させる工程を含む、前記可視光応答型光触媒の製造方法に関する。
【0011】
NaPOとAgNOとの反応を100℃以下の均一沈殿法により行うことが好ましい。
【0012】
NaPOとAgNOとの反応を24時間以内で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の可視光応答型光触媒は、小粒径であり高い光触媒効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1~2、比較例1~2で作製した可視光応答型光触媒のXRDチャートである。
図2】実施例2で作製した可視光応答型光触媒のXRDチャートである。
図3】実施例2で作製した可視光応答型光触媒で処理したメチレンブルー溶液の、波長に対する透過率をプロットした図である。
図4】実施例1~2、比較例1~2で作製した可視光応答型光触媒のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<可視光応答型光触媒>
本発明の可視光応答型光触媒は、NaPOおよびAgNOを含む水溶液の沈殿物からなり、平均粒子径が0.95μm以下であることを特徴とする。
【0016】
沈殿物を得るための水溶液は、NaPOおよびAgNOを含んでいればよく、NaPOおよびAgNOの溶解および混合方法は特に限定されないが、局所的な沈殿生成を抑制し、溶液内で均一に沈殿物を形成する均一沈殿法が好ましい。具体的な沈殿法としては、AgNOの水溶液にNaPOの水溶液を滴下する方法が挙げられる。AgNOの水溶液にNaPOの水溶液を滴下する場合、AgNOの水溶液の濃度は10~90w/v%が好ましく、30~70w/v%がより好ましく、40~60w/v%がさらに好ましい。滴下するNaPOの水溶液の濃度は、10~90w/v%が好ましく、30~70w/v%がより好ましく、40~60w/v%がさらに好ましい。
【0017】
NaPOおよびAgNOを含む水溶液において、NaPOに対するAgNOのモル比は、0.5超であるが、0.8以上が好ましく、1以上がより好ましく、1.5以上がさらに好ましい。NaPOに対するAgNOのモル比が0.5未満では、沈殿物の平均粒子径が大きく、光触媒効果が不十分となる傾向がある。
【0018】
なお、AgNOの水溶液にNaPOの水溶液を滴下する場合には、NaPOに対するAgNOのモル比は、NaPOの水溶液の滴下を終了した時点で反応系に存在するNaPOおよびAgNOに基づき算出する。
【0019】
沈殿物を得る際には、一般的にpH0~8とすることが好ましいが、水溶液のpHを制御しなくてもよい。また、沈殿物を得る際には、水溶液を攪拌することが好ましく、攪拌速度は50~500rpmが好ましく、100~400rpmがより好ましい。沈殿物を得る際の水溶液の温度は特に限定されないが、5~100℃が好ましい。
【0020】
沈殿反応の時間は0.02~24時間が好ましく、1~24時間がより好ましい。AgNOの水溶液にNaPOの水溶液を滴下する場合には、この間、NaPOの水溶液の滴下を継続することが好ましい。
【0021】
沈殿物を得る際には、反応系中に沈殿剤を存在させてもよい。沈殿剤としては特に限定されないが、尿素、ミョウバン、石灰乳等を挙げることができ、取扱いが容易で安価である点から尿素が好ましい。沈殿剤の量は、NaPOを1モルに対し、0.001~100モルが好ましい。
【0022】
沈殿物は、ろ過、遠心分離などにより回収できる。回収した沈殿物は、必要に応じて水、エタノール、メタノール、アセトンなどの洗浄液により洗浄してもよい。沈殿物は、さらにボールミルやビーズミルなどの粉砕機により粉砕してもよいが、本発明の方法では沈殿後の平均粒子径が小さいため、粉砕工程は必須ではない。
【0023】
NaPOおよびAgNOを含む水溶液の沈殿物は、下記式により表される。
AgNO
上記式において、xは0.5≦x≦1.5が好ましく、0.9≦x≦1.1がより好ましい。
【0024】
沈殿物は、X線回折チャートにおける面方位210でのX線回折ピーク強度が、他の面方位でのX線回折ピーク強度より高いことが好ましい。さらに、X線回折チャートにおける面方位210でのX線回折ピーク強度が、面方位211でのX線回折ピーク強度の1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましい。X線回折チャートにおける面方位210でのX線回折ピークは、AgPOのピークである。
【0025】
沈殿物の平均粒子径は0.95μm以下であるが、0.8μm以下が好ましく、0.7μm以下がより好ましく、0.5μm以下がさらに好ましい。平均粒子径が0.95μmを超えると表面積が減少し、十分な光触媒活性を得られないことがある。平均粒子径はSEM画像に基づく画像解析から求めることができる。
【0026】
可視光応答型光触媒の光触媒活性は、例えば、メチレンブルー溶液を使用した脱色試験により評価できる。0.1mMのメチレンブルー溶液と可視光応答型光触媒を混合後、可視光を1時間または2時間照射する。その後、遠心分離により可視光応答型光触媒を除去し、得られた溶液の波長662nmの光透過率を測定し、下記式により算出される回復率が、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
回復率[%]=(溶液の透過率/水の透過率)×100
【0027】
本発明の可視光応答型光触媒は、脱臭、除菌、防汚用途に好適に使用できる。その他、可視光を利用した被浄化系に適用でき、特に被浄化水系に存在する内分泌攪乱物質であるノニルフェノール、ビスフェノールA、天然エストロゲン等の分解に好適に使用できる。
【実施例0028】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0029】
(1)可視光応答型光触媒の製造(実施例1~2、比較例1~2)
室温で、AgNO水溶液(濃度:45w/v%)にNaPO水溶液を滴下し、400rpmで攪拌する均一沈殿法により、沈殿物を生じさせた。反応に使用した原料のモル比を表1に示す。遠心分離による沈殿物の回収と水による洗浄を3回繰り返した。反応時間は1~24時間とした。洗浄後、沈殿物を100℃、1時間で乾燥し、粉末を得た。
【表1】
【0030】
(2)X線回折
実施例1~2、比較例1~2において3時間の攪拌で作製した可視光応答型光触媒を用い、XRD測定装置(株式会社リガク製RINT2500V)でX線回折を測定した。図1に、X線回折チャートを示す。33°~34°付近に回折ピークが存在することから、AgPOが形成されていることがわかる。実施例2(AgNO:NaPO=1:1)において回折ピークが最も高く、最も多い可視光応答型光触媒が得られた。
【0031】
また、実施例2(AgNO:NaPO=1:1)において3時間、6時間、9時間、12時間、24時間の攪拌で作製した可視光応答型光触媒を用い、XRD測定装置(株式会社リガク製RINT2500V)でX線回折を測定した。図2に、X線回折チャートを示す。いずれの攪拌時間でも、可視光応答型光触媒が得られた。
【0032】
(3)光触媒効果
実施例2において3時間、6時間、9時間、12時間、24時間の攪拌で作製した可視光応答型光触媒と、メチレンブルー3000μL(0.1mM)を有する水溶液をプラスチック容器に入れ、撹拌しながら太陽光シミュレーター装置(XES-301S+EL-100、株式会社三永電機製作所製)を用いて可視光(波長100~1400nm)を30分間照射した。照射後、溶液を、13,000rpmの回転速度で30分間遠心分離した。得られた溶液を石英セルに入れ、分光光度計(大塚電子株式会社製)を用い透過率を測定した。図3に、波長に対して透過率をプロットした図を示す。6時間の撹拌時間で作製された可視光応答型光触媒に、最も高い触媒反応が認められた。
【0033】
(4)SEM解析
実施例1~2、比較例1~2で作製した可視光応答型光触媒の粒径をSEM解析により測定した。SEM画像を図4に示す。また、SEM画像から10個の粒子の直径を測定し、その平均値を算出した。その結果を表2に示す。実施例1~2では、平均粒径が1μm以下であり、比較例1~2より粒径が微細化されていた。また、粉砕を行わなくても、直径のばらつきが比較的小さい可視光応答型光触媒を得られることが確認された。
【0034】
【表2】
【0035】
本開示(1)はNaPOおよびAgNOを含む水溶液の沈殿物からなり、平均粒子径が0.95μm以下である、可視光応答型光触媒である。
【0036】
本開示(2)は前記水溶液中の、NaPOに対するAgNOのモル比が0.5超である、本開示(1)に記載の可視光応答型光触媒である。
【0037】
本開示(3)はNaPOと、NaPOに対するモル比が0.5超のAgNOとを、水中で反応させる工程を含む、本開示(1)または(2)に記載の可視光応答型光触媒の製造方法である。
【0038】
本開示(4)はNaPOとAgNOとの反応を100℃以下の均一沈殿法により行う、本開示(3)に記載の製造方法である。
【0039】
本開示(5)はNaPOとAgNOとの反応を24時間以内で行う、本開示(3)または(4)に記載の製造方法である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、粒径が小さく光触媒効果に優れたAgPO粉末を提供する。この可視光応答型光触媒により環境汚染物質を浄化でき、例えば、被浄化水系に含まれるノニルフェノール、ビスフェノールA、天然エストロゲン等の内分泌攪乱物質を可視光により分解できる。

図1
図2
図3
図4