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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034817
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】濁水処理シート
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20240306BHJP
   B01D 29/27 20060101ALI20240306BHJP
   B01D 29/00 20060101ALI20240306BHJP
   E02B 3/02 20060101ALI20240306BHJP
   E03F 5/14 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
B01D39/16 A
B01D23/04
B01D25/04
E02B3/02 Z
E03F5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139325
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】523419521
【氏名又は名称】エム・エーライフマテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(71)【出願人】
【識別番号】000175021
【氏名又は名称】三井化学産資株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】小川 亮太
(72)【発明者】
【氏名】弘中 淳市
(72)【発明者】
【氏名】西村 淳
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 秀憲
(72)【発明者】
【氏名】小林 是則
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 香織
【テーマコード(参考)】
2D063
4D019
4D116
【Fターム(参考)】
2D063AA00
2D063DB04
2D063DB10
4D019AA03
4D019BB03
4D019BC13
4D019CA04
4D019DA02
4D116BB01
4D116BC07
4D116BC17
4D116BC74
4D116BC75
4D116DD04
4D116DD05
4D116EE04
4D116EE06
4D116EE08
4D116EE12
4D116FF15B
4D116GG12
4D116GG21
4D116GG34
4D116HH24B
4D116HH25B
4D116KK01
4D116QA55C
4D116QA55D
4D116QA55F
4D116SS01
4D116SS05
4D116VV15
4D116ZZ05
(57)【要約】
【課題】濾過性能、排水性能、及び経済性に優れる濁水処理シートを提供する。
【解決手段】本発明の濁水処理シートは、スパンボンド製法によって形成された第1の層と、メルトブローン製法によって形成された第2の層とを備えている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
濁水処理シートであって、
スパンボンド不織布を含む第1の層と、メルトブローン不織布を含む第2の層とを備えている濁水処理シート。
【請求項2】
前記第2の層の片側面および他側面の双方に前記第1の層が積層されている請求項1に記載の濁水処理シート。
【請求項3】
前記第1の層及び第2の層は、疎水性の熱可塑性樹脂によって形成された請求項1又は2のいずれかに記載の濁水処理シート。
【請求項4】
親水処理が施されている請求項3に記載の濁水処理シート。
【請求項5】
プラスチック製の網によって形成された支持部材と共に使用される請求項1に記載の濁水処理シート。
【請求項6】
プラスチック製の網によって形成された支持部材を更に備える請求項1に記載の濁水処理シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濁水処理シートに関する。
【背景技術】
【0002】
港湾、河川、貯水池等において底面の土砂を取り除く浚渫工事を行うことで、粉粒物を含む懸濁液を含んだ浚渫土が発生する。この浚渫土の含水比が高い状態ではそのまま廃棄処分をすることができないため、処分可能な適宜の含水比まで低下させた上で、処分することとしている。この際、掘り出された浚渫土は、織物製の通水性を有する濾過袋体、いわゆる土嚢に詰められ、所定の日数放置することで脱水し、含水比を下げることが行われている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
また、浚渫等により掘り出された水分を含む汚泥に対し予め凝集剤を添加して、土粒子をフロック化して容器に収容し、静圧を加えることにより脱水を行い、土粒子を排出することなく廃棄処理に適した含水比まで低下させることも行われている(例えば特許文献2を参照)。
【0004】
さらに、粉粒物を含む懸濁液は上記した浚渫工事や土木工事の現場に限定されず、例えば、コンクリート又は石材を加工する工場においても発生する。このような懸濁液を濾過処理すべく、メルトブローン製法により親水性を有するポリアミド樹脂を使用して製造された不織布を濾過材として濾過装置を構成し、コンクリート又は石材から発生する粉粒物(スラッジ)等を濾過することも提案されている(特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3135695号公報
【特許文献2】特開平05-261400号公報
【特許文献3】特開2002-028416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された土嚢に浚渫土を詰め脱水する場合、大型の設備を設置する必要がなく、またメンテナンス等の手間が掛からないため、容易に実施することが可能である。しかし、一般的に使用されている織物製の濾過袋体では、粒子径の大きな粉粒物を捕捉することは可能であるものの、含水比を下げる過程で発生する濁水を抑制することが困難であり、また、時間経過と共に濁水の発生は抑制される傾向があるものの、土嚢の目詰まりと共に排水性が低下するため、所望の含水比に低下するまでに時間が掛かるという問題がある。
【0007】
また、特許文献2に記載されている浚渫等により掘り出された水分を含む土砂の脱水を行う方法では、凝集剤を添加してフロック化し静圧を与えるための機械設備が必要であり、設備を設置するコストと、メンテナンスを実施するための手間が掛かるという問題がある。
【0008】
さらに、特許文献3に記載されているように、コンクリート又は石材を加工する際に発生する粉粒物(スラッジ)を濾過すべく濾過装置を構成する場合、発生する粉粒物の粒径は比較的小さく、必要な濾過条件を限定的に想定することが可能であることから、メルトブローン法により親水性を有するポリアミド樹脂を選択して製造される不織布のシートが濾過材として採用されている。しかし、浚渫土のように、濁水に含まれる粉粒物の材質、形状、寸法が様々であることが想定される場面では、上記した特許文献3に記載のメルトブローン製法により形成された濾過材のみでは、捕集し濾過する際の強度が不足し、濾過材として機能させることが困難である。そこで、濾過材の目付量を大きくすることが考えられるが、前記したポリアミド樹脂からなる濾過材の目付量を大きくすると、重量が増して作業現場での作業性が低下すると共に、メルトブローン製法により形成したポリアミド樹脂からなる不織布のシートは高価であり、濾過材としてのコストも増大することから、新たな濁水処理シートが求められている。
【0009】
本発明は、上記事実に鑑みなされたものであり、その主たる技術課題は、濾過性能、排水性能、及び経済性に優れる濁水処理シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、スパンボンド不織布を含む第1の層と、メルトブローン不織布を含む第2の層とを備えている濁水処理シートが提供される。
【0011】
前記第2の層の片側面および他側面の双方に前記第1の層が積層されていることが好ましい。前記第1の層及び第2の層は、疎水性の熱可塑性樹脂によって形成されていることが好ましい。前記濁水処理シートは、親水処理が施されていることが好ましい。前記濁水処理シートは、プラスチック製の網によって形成された支持部材と共に使用されることが好ましい。また、前記濁水処理シートは、プラスチック製の網によって形成された支持部材を更に備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の濁水処理シートは、スパンボンド不織布を含む第1の層と、メルトブローン不織布を含む第2の層とを備えていることにより、濾過性能、排水性能、及び経済性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の効果を示す濁水濾過試験1の実施態様を示す斜視図である。
図2図1に示す実験の結果を示す図である。
図3】(a)本発明の効果を示す濁水濾過試験2の実施態様を示す斜視図、(b)(a)に示す実施態様の断面図である。
図4図3に示す実験の結果を示す図である。
図5】本発明の濁水処理シートを河川工事において設置した簡易堰の濁水処理シートとして使用した態様を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に基づいて構成される濁水処理シートの実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
本発明に基づき構成される濁水処理シートは、粉粒物を含む濁水を処理するのに好適なシートであり、少なくともスパンボンド不織布を含む第1の層と、メルトブローン不織布を含む第2の層とを備えている。
【0016】
第1の層は、上記したように、少なくともスパンボンド不織布を含む層である。スパンボンド不織布とは、スパンボンド製法によって形成されるものであり、例えば、原料となる疎水性の熱可塑性樹脂であるポリプロピレン樹脂のチップを加熱して溶解し、ノズルから繊維状に押出しして延伸し、ネット状のコンベア上で集積して形成され、高温のロールで加熱すると共に、エンボスロールで型押ししてウエブを成形する。このようにして形成される第1の層は、長繊維の不織布となる。
【0017】
第2の層は、上記したように、少なくともメルトブローン不織布を含む層である。メルトブローン不織布とは、メルトブローン製法によって形成されるものであり、例えば、原料となる疎水性の熱可塑性樹脂であるポリプロピレン樹脂のチップを加熱して溶解し、ノズルから加熱された高温の空気を噴射して微細繊維を延伸、押出しして、前記の高温の空気で吹付けられた微細繊維をネット状のコンベア上で集積しウエブを成形する。上記した製法の違いにより、第2の層を形成する繊維径は、第1の層を形成する繊維径よりも極めて細く形成され、第2の層は第1の層と比較して細目のシートを形成する。
【0018】
上記した第1の層と第2の層とは、例えば溶着、接着剤等により積層される。なお、第1の層、第2の層は、上記した疎水性の熱可塑性樹脂であるプロピレン単独重合体のポリプロピレン樹脂によって形成されることに限定されない。具体的には、ポリプロピレンランダム共重合体、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・1-ブテンランダム共重合体、プロピレン・1-ブテンランダム共重合体等のポリオレフィン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン-6、ナイロン-66、ポリメタキシレンアジパミド等)、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル・ビニルアルコール共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル-一酸化炭素共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、アイオノマー、又はこれらの混合物等を例示することができる。さらに言えば、第1の層と第2の層とには、一方の層を形成する樹脂と、他方の層を形成する樹脂とを異なる樹脂によって形成してもよい。また、第1の層、第2の層には、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、ブロッキング防止剤、滑剤等の種々公知の添加剤を加えておいてもよい。
【0019】
また、本発明に基づき構成される濁水処理シートは、第1の層側が、濁水が投入される濁水投入面であり、前記第一の層を通過した濁水が前記第2の層に投入されるように構成される。また、前記第2の層の片側面および他側面の双方に前記第1の層が積層されて構成され、すなわち第2の層を第1の層によって挟むサンドイッチ構造を備えるものであってもよい。さらに、本発明に基づき構成される濁水処理シートは、少なくとも第1の層に対し適宜の親水処理が施されていてもよい。
【0020】
本発明に基づき構成された濁水処理シートとして具体的に示す実施例と、比較例とを用いて実施した濁水濾過試験1、2について以下に説明する。
【0021】
<濁水濾過試験1>
濁水濾過試験1は、以下のような条件によって実施した。
本発明に基づき構成され実施例として用意した濁水処理シートと、比較例として用意したシートを三角形に折り隙間が生じないように縫製して、表面積が100cmとなるように底部に開口を有しない図1に示すような略逆円錐形のフィルタF1~F8,G1~G2を形成した。図示のように、用意したフィルタをビーカー2の上部に配設して、上方から、含水比と濁度が一定に調整された試験土10を50ml投入し、排水時間、及びビーカー2によって回収された水の濁度(SS)を確認した。試験土10としては、含有される粉粒物の粒度分布が0.0045~2mmに調整された関東ローム層の土砂を使用し、投入時の含水比が164%、濁度(SS)が60000±5000となるように調整したものを使用した。なお、以下に説明する細孔径は、パームポロメーター(PMI社製、CFP-1200AE)を使用し、JIS-K3832に準拠したバブルポイント法により測定したものである。
【0022】
(実施例)
・フィルタF1
本発明の実施例を構成するフィルタF1は、スパンボンド製法により形成したポリプロピレン樹脂の第1の層と、メルトブローン製法により形成したポリプロピレン樹脂の第2の層とを備え、第2の層の片側面と他側面の両方に第1の層を積層した3層構造のシートにより形成されている。第1の層の目付は10.5g/mであり、第2の層の目付は4g/mであり、フィルタF1の目付は、25g/mである。フィルタF1の細孔径は、第2の層によって規定される9.5μmである。このフィルタF1を構成するポリプロピレン樹脂の不織布は疎水性であり、フィルタF1に対する親水処理は施していない。
・フィルタF2
本発明の実施例を構成するフィルタF2は、上記したフィルタF1を2枚重ねて構成したものであり、合計の目付が50g/mであり、細孔径はフィルタF1と同様に第2の層によって規定される9.5μmである。
・フィルタF3
本発明の実施例を構成するフィルタF3は、上記したフィルタF1を3枚重ねて構成したものであり、合計の目付が75g/mであり、細孔径はフィルタF1、F2と同様に9.5μmである。
・フィルタF4
本発明の実施例を構成するフィルタF4は、上記したフィルタF1に対して親水処理を施したものであり、フレキソ印刷によって親水化用の溶剤系親水剤を第1の層に塗布して構成したものである。目付、及び細孔径は、フィルタF1と同様である。
・フィルタF5
本発明の実施例を構成するフィルタF5は、上記したフィルタF4を2枚重ねて構成したものであり、目付は50g/mであり、細孔径はフィルタF1と同様である。
・フィルタF6
本発明の実施例を構成するフィルタF6は、上記したフィルタF4を3枚重ねて構成したものであり、目付は75g/mであり、細孔径はフィルタF1と同様である。
・フィルタF7
本発明の実施例を構成するフィルタF7は、スパンボンド製法により形成したポリプロピレン樹脂の第1の層と、メルトブローン製法により形成したポリプロピレン樹脂の第2の層とを備え、第2の層の片側面と他側面の両方に第1の層を備えた3層構造のシートであり、グラビア塗工により親水化用の溶剤系親水剤を第1の層に塗布したものである。フィルタF7の第1の層の目付は16g/mであり、第2の層の目付は180g/mであることから、フィルタF7の目付は212g/mである。フィルタF7の細孔径は、第2の層によって規定される5.4μmである。
・フィルタF8
本発明の実施例を構成するフィルタF8は、上記したフィルタF7を2枚重ねて構成したものであり、目付は424g/mであり、細孔径は、フィルタF7と同様に5.4μmである。
【0023】
(比較例)
・フィルタG1
比較例を構成するフィルタG1は、スパンボンド製法により形成されたポリプロピレン樹脂の長繊維の不織布からなる単層のシートをフィルタとしたものであり、目付は140g/mであり、細孔径は67.4μmである。このフィルタG1を構成するポリプロピレン樹脂の不織布のシートは疎水性であり、スプレー塗工により水系親水剤を塗布している。
・フィルタG2
比較例を構成するフィルタG2は、上記したフィルタG1を2枚重ねて構成したものであり、目付は280g/mであり、細孔径は、フィルタG1と同様に67.4μmである。上記フィルタG1と同様に、スプレー塗工により水系親水剤を塗布している。
【0024】
上記した濁水濾過試験1の実験結果を図2に示している。なお、図2で親水処理が施されていない「無」と表記したフィルタを使用する場合は、少なくとも第1の層に対し、予め水で浸漬処理を施した上で実験を開始した。以下の実験結果で説明する濁度(SS)は、濁度計(製品名Turb550、セントラル科学株式会社製)を使用して比濁計濁度単位(NTU)で測定(測定範囲0.01~1000NTU)し、予め実験により求めた相関関係に基づき排水中の浮遊物質(濁度(SS))の量(mg/L)に換算して算出したものを示している。
【0025】
(実施例の実験結果)
・フィルタF1
排水時間は60分であり、排水開始から1秒程度の濁水が確認されたものの、その後は、目視では濁水が確認されない程度に浄化された水が排水された。ビーカー2によって回収された水の濁度(SS)は28mg/Lであり、水質汚濁防止法の排水基準を十分に満たす水が排水された。
・フィルタF2
排水時間はフィルタF1に対し改善され40分となり、排水開始から濁水が確認されない清浄な水が排水され、その後も、目視では濁水が確認されない程度に浄化された水が排水された。ビーカー2によって回収された水の濁度(SS)は5mg/Lであり、環境基本法に規定される河川環境基準を十分に満たす水が排水された。
・フィルタF3
排水時間はフィルタF2と略同様の39分となり、排水開始から濁水が確認されない清浄な水が排水され、その後も、目視では濁水が確認されない程度に浄化された水が排水された。ビーカー2によって回収された水の濁度(SS)は3mg/Lであり、環境基本法に規定される河川環境基準を十分に満たす水が排水された。
・フィルタF4
排水時間は41.7分となり、親水処理が施されていないフィルタF1に対して排水時間が短縮された。また、排水開始から1秒程度の濁水が確認されたが、その後は、目視では濁水が確認されない程度に浄化された水が排水された。ビーカー2によって回収された水の濁度(SS)は17mg/Lであり、環境基本法に規定される河川環境基準を十分に満たす水が排水された。
・フィルタF5
排水時間はフィルタF4に対し大幅に改善されて、28.7分となり排水時間が短縮された。また、排水開始から濁水が確認されない清浄な水が排水され、その後も、目視では濁水が確認されない程度に浄化された水が排水された。ビーカー2によって回収された水の濁度(SS)は3.7mg/Lであり、フィルタF4による結果からさらに改善されて、環境基本法に規定される河川環境基準を十分に満たす水が排水された。
・フィルタF6
排水時間はフィルタF4と略同様の28分となり、排水開始から濁水が確認されない清浄な水が排水され、その後も、目視では濁水が確認されない程度に浄化された水が排水された。ビーカー2によって回収された水の濁度(SS)は3.3mg/Lであり、フィルタF4による結果からさらに改善されて、環境基本法に規定される河川環境基準を十分に満たす水が排水された。
・フィルタF7
排水時間は20.7分となり、上記のフィルタF1~F6に対して排水時間が短縮された。なお、試験土10の投入開始から30秒程度の無排水時間があり、その後排水が開始された。排水開始から濁水が確認されない清浄な水が排水され、その後も、目視では濁水が確認されない程度に浄化された水が排水された。ビーカー2によって回収された水の濁度(SS)は2.7mg/Lであり、上記のフィルタF1~F6に対してより優れた濾過性能を発揮し、環境基本法に規定される河川環境基準を十分に満たす水が排水された。
・フィルタF8
排水時間は20分となり、上記のフィルタF7に対して排水時間がさらに短縮された。なお、試験土10の投入後から8分程度の無排水時間があったが、その後排水が開始された。排水開始から濁水が確認されない清浄な水が排水され、その後も、目視では濁水が確認されない程度に浄化された水が排水された。ビーカー2によって回収された水の濁度(SS)は2mg/Lであり、上記のフィルタF7に対し、さらに濾過性能が改善され、環境基本法に規定される河川環境基準を十分に満たす水が排水された。
【0026】
(比較例)
・フィルタG1
排水時間は22分であったが、排水開始当初から濁水が排出されると共に、ビーカー2によって回収された水の濁度(SS)は測定限界を超える920mg/L以上であった。
・フィルタG2
排水時間は22.7分であり、排水開始当初から濁水が排出されると共に、ビーカー2によって回収された水の濁度(SS)は測定限界の920mg/L以上であった。
【0027】
<濁水濾過試験2>
上記した濁水濾過試験1を踏まえ、以下に説明する条件に基づいて実施した濁水濾過試験2について、図3、4を参照しながら説明する。
【0028】
<濁水濾過試験2>
容量が1mの土嚢を5つ用意し、本発明に基づき構成された上記の実施例として示したフィルタF4、F5、F7を使用して前記土嚢の内袋H1~H3を製作し、比較例として示したフィルタG1を使用して前記土嚢の内袋J1を製作した。次いで、3つの土嚢に前記内袋H1~H3を装着して土嚢12A~12Cとし、1つの土嚢に前記内袋J1を装着して土嚢12Dとし、1つの土嚢には内袋を装着せず土嚢12Eとした。なお、本実験で使用される土嚢は、JIS Z1651(2017)に準拠した1回のみの使用を前提とするクロスシングル形の通水性を有する土嚢である。このように用意した土嚢12A~12Eを、図3(a)、(b)に示すように、排水パン30に設置したネスティングラック20に保持し、下面が排水パン30の底面から浮いた状態として設置した。次いで、濁水濾過試験1で使用した初期の含水比が164%の試験土10を各土嚢12A~12Eに0.8m投入し、いずれのフィルタにおいても排水が安定する試験土10の投入完了後5~10分の間に排水された水の濁度(SS)を計測し、21日放置した後の含水比を計測した。
【0029】
上記した条件に基づき行った実験の結果を図4に示す。なお、濁度(SS)は、上記した濁水濾過試験1と同様の手法によって計測したものであり、含水比の計測は、土嚢12A~12Eに投入された試験土10の中央部2ヶ所、及び側面側2ヶ所からサンプリングした試験土10の含水比を測定して、平均値を求めて実験結果としている。
【0030】
(実施例)
・土嚢12A
試験土10の投入後5~10分の排水の濁度は、環境基本法に規定される河川環境基準を十分に満たす12.9mg/Lであった。さらに、21日後の含水比は、126%まで低下した。
・土嚢12B
試験土10の投入後5~10分の排水の濁度は、環境基本法に規定される河川環境基準を十分に満たす12.0mg/Lであった。さらに、21日後の含水比は、126%まで低下した。
・土嚢12C
試験土10の投入後5~10分の濁度は、環境基本法に規定される河川環境基準を大幅に下回る3.7mg/Lであった。さらに、21日後の含水比は、115%まで低下した。
【0031】
(比較例)
・土嚢12D
試験土10の投入後5~10分で排水された水の濁度は、396.5mg/Lであり、十分な濾過性能を発揮しなかった。さらに、21日後の含水比は、141%であり、上記の土嚢12A~12Cと比較して十分な低下がみられなかった。
・土嚢12E
土嚢12Eは、内袋が無い状態であり、試験土10を投入してから5~10分の間に排水された水の濁度は、920mg/L以上(測定限界以上)であり、全く濾過性能が発揮されていなかった。さらに、21日後の含水比は、135%であり、上記の土嚢12A~12Cと比較して十分な低下がみられなかった。
【0032】
上記した濁水濾過試験1、2の結果から理解されるように、スパンボンド製法によって形成された第1の層と、メルトブローン製法によって形成された第2の層とが積層されている濁水処理シートを、粉粒物を含む濁水のフィルタとして使用した場合は、排水量が確保されると共に、濁水を浄化するのに十分な濾過性能が発揮される。また、スパンボンド製法により形成したシートを第1の層とし、メルトブローン製法により形成したシートを第2の層として積層していることから、メルトブローン製法により形成したシートのみをフィルタとして使用する場合に比較して、必要な濾過性能を、低い目付量で実現することが可能になる。
【0033】
上記した濁水濾過試験1、2で示した実施例は、いずれもスパンボンド製法により形成した第1の層と、メルトブローン製法により形成した第2の層とを備え、第2の層の片側面と他側面の両方に第1の層を備える3層構造の濁水処理シートを採用した例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。少なくとも上記の第1の層と第2の層とを積層した2層構造を備えた濁水処理シートであればよく、排水性能、濾過性能等が許容される範囲で、別途の第3の層を配設することは任意であり、用途に応じて適宜選択される。上記した実施例のように、スパンボンド製法により形成した粗目の第1の層を濁水の投入面とし、メルトブローン製法により形成した細目の第2の層を下流側に設定することで、2層構造であっても、上記した3層構造と同等の排水性能、濾過性能を有するフィルタとして使用することができる。なお、本発明に基づき構成される濁水処理シートを、第2の層の片側面と他側面の両方に第1の層を備える3層構造とすることで、濁水処理シートを使用する作業現場では、表裏を気にすることなく使用することができ、好都合である。
【0034】
本発明に基づき構成される濁水処理シートは、スパンボンド製法によって形成された第1の層と、メルトブローン製法によって形成された第2の層とを備えるものであり、前記した製法によりシートを構成することが可能な樹脂であれば、親水性のポリアミド樹脂を含め、いずれの樹脂を採用することも可能である。上記した特許文献3では、メルトブローン製法により形成した親水性のポリアミド樹脂で単層のシートをフィルタとして形成しているが、強度を確保すべく目付量を大きくする必要があるため、現場における作業性が低下すると共にコストが高くなり、経済性において不利になる。しかし、本発明によれば、スパンボンド製法により形成された第1の層によって強度が確保されるため、仮に第2の層にポリアミド樹脂を採用したとしても、作業性に優れたシートが提供されると共に全体としてコストを低減することが可能になる。
【0035】
さらに、上記した実施形態の説明では、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂等の疎水性の熱可塑性樹脂を使用して第1の層、及び第2の層を形成し積層して本発明の濁水処理シートを形成してもよいことについて説明した。疎水性の熱可塑性樹脂からなるメルトブローン製法により形成した層を含む不織布は、一般におむつの耐水性フィルタとして使用されており、水と馴染み難いことから濁水を処理するフィルタの不織布としては適さないものと考えられている。しかし、本発明の発明者により、疎水性の熱可塑性樹脂を使用して本実施形態の濁水処理シートを形成した場合であっても、当該濁水処理シートが含水した状態において十分な濾過性能、排水性を確保できることが見いだされた。そして、上記した疎水性の熱可塑性樹脂からなる不織布は、入手が容易であり、極めて経済性に優れており、親水性のポリアミド樹脂からなる不織布を濁水処理シートとして採用する場合に比較して優位であり、より好ましい。
【0036】
また、上記したように、第2の層の目付は、4g/m以上で良好な結果が確認されていることから、少なくとも当該範囲で目付を設定することが好ましい。さらに、上記した実験結果からみて、本発明に基づき構成された第1の層と第2の層を備える濁水処理シートをさらに複数重ねた場合に(例えば、上記のフィルタF2、フィルタF5)で、排水性能、濾過性能が向上することが確認されており、本発明に基づき構成された第1の層と第2の層を備えるシートをさらに複数重ねることが好ましい。さらにいえば、上記した実験結果からみて、第1の層に対して親水処理をしない濁水処理シートと比較し、親水処理を施した場合の方が排水性能及び濾過性能が向上したことが確認されており、少なくとも第1の層に対し親水処理をすることが好ましい。
【0037】
なお、上記した実施例では、本発明に基づく濁水処理シートを縫製し、土嚢の内袋として使用する例について説明したが、本発明に基づき構成される濁水処理シートの使用形態はこれに限定されず、濁水を処理する目的であれば、いずれの場面においても使用することができる。例えば、図5に示すように、右方側の工事現場(図示はしていない)で発生した粉粒物を含む工事浸水W0を、左方側の河川Rに排出する現場において、河川Rの手前側の位置に配設される堰、簡易堰のフィルタとして使用することができる。図示の実施例では、断面略三角形状の鋼製の枠材42に、本発明に基づき構成された濁水処理シート44(例えば上記したフィルタF1~F8から採用)を敷設し、前記枠材42を、ペグ、アンカー等の固定部材43により地面Lに固定する。右方から流れてくる工事浸水W0は、上記の如く簡易な設備によって設置された濁水処理シート44を通過することで浄化され、河川Rに清浄な水が排出される。その際に、プラスチック製の網を支持部材として予め用意し、本発明に基づき形成された濁水処理シートを該支持部材に重ねて支持させることで一体とし、該濁水処理シートが該支持部材を更に備える構成として流通するようにして、上記した濁水の処理を行う現場で堰、簡易堰のフィルタとして使用されてもよい。このような工事現場で使用される濁水処理シート44は、広い面積が必要であるが、本発明に基づき形成された濁水処理シート44は、濾過性能と耐久性に優れている上に、低目付で実現することが可能であるから、作業現場においても、取り扱いが容易である。
【0038】
また、本発明に基づき構成される濁水処理シートは、面状材であるジオグリッドやジオネットを筒状又は籠状に形成して水槽、簡易水槽を構成し、前記の水槽又は簡易水槽に泥土、泥水を充填する際の内袋として採用してもよい。より具体的には、例えば、上記した土嚢に替えて、プラスチック製(例えばポリオレフィンを原料とする樹脂)の網によって籠状の支持部材を形成し、本発明に基づく濁水処理シートにより形成した内袋を該籠状の支持部材の内側に配設して、浚渫土の脱水に使用することもできる。その場合は、上記した土嚢を使用する場合に比べ、浚渫土の保持に耐え得る強度を確保しながら、排水速度の向上を図ることができる。
【0039】
さらに、本発明に基づき構成される濁水処理シートは、従来の土木用不織布が用いられる濁水の処理が求められる用途においても有用に活用することができる。例えば、護岸や排水溝を設置する際の吸い出し防止材として使用したり、排水層、貯留槽の目詰まり防止材として、より具体的には、透水性の暗渠排水、トンネル裏面の排水路、雨水貯留槽、道路や鉄道における噴泥防止が必要な箇所に設置したり、盛土の水平排水材、層厚管理材、盛土背面排水材として使用したり、さらには、軟弱地盤の表層に敷設したり、土砂セパレーションとして敷設したりしてもよい。その際に、プラスチック製の網を支持部材として予め用意し、本発明に基づき形成された濁水処理シートを該支持部材に重ねて支持させることで一体とし、該濁水処理シートが該支持部材を更に備える構成として流通するようにして、濁水の処理を行う現場で使用されることが好ましい。
【符号の説明】
【0040】
2:ビーカー
10:試験土
12:土嚢
12A~12C:土嚢(実施例)
12D、12E:土嚢(比較例)
20:ネスティングラック
30:排水パン
F1~F8:フィルタ(実施例)
G1、G2:フィルタ(比較例)
H1~H3:内袋(実施例)
H4:内袋(比較例)
図1
図2
図3
図4
図5