(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003482
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20240105BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20240105BHJP
B60B 35/02 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/18
B60B35/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102662
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 彩水
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216BA30
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB07
3J216CB12
3J216CB13
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC35
3J216CC41
3J216CC48
3J216CC68
3J216DA01
3J216DA11
3J216DA12
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA73
3J701DA09
3J701FA13
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】ハブに対するスリンガの装着部の軸方向長さが徒に大きくなることを防止しつつ、前記ハブに対する前記スリンガの相対回転および軸方向の相対変位を防止する。
【解決手段】スリンガ5は、円周方向1箇所に形成されたスリンガ不連続部25と、外周面に備えられ、かつ、ハブ3の回転フランジ12の軸方向内側面に備えられたハブ側嵌合面部14に内嵌されるスリンガ側嵌合面部26と、径方向内側に向かうほど軸方向内側に向かう方向に湾曲する湾曲部27と、該湾曲部27の軸方向内側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がり、かつ、ハブ3の外周面に形成された係止溝13の軸方向外側部分に係止された係止爪部28とを有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に備えられた複列の内輪軌道と、その軸方向内側面に、径方向内側を向いたハブ側嵌合面部を有し、前記複列の内輪軌道のうち、軸方向外側の内輪軌道よりも軸方向外側に位置する部分から径方向外側に向けて突出する回転フランジと、外周面のうち、軸方向に関して前記軸方向外側の内輪軌道と前記回転フランジとの間に備えられた係止溝とを含むハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体と、
円周方向1箇所に形成されたスリンガ不連続部と、外周面に備えられ、かつ、前記ハブ側嵌合面部に内嵌されるスリンガ側嵌合面部と、径方向内側に向かうほど軸方向内側に向かう方向に湾曲する湾曲部と、該湾曲部の軸方向内側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がり、かつ、前記係止溝の軸方向外側部分に係止された係止爪部とを有するスリンガと、
前記係止溝の軸方向内側部分に係止された止め輪と、
その先端部を、前記スリンガの軸方向内側面に摺接させたアキシアルリップと、その先端部を、前記ハブの外周面のうち、軸方向に関して前記軸方向外側の内輪軌道と前記係止溝との間部分に摺接させたラジアルリップとを有するシールリングと、
を備える、ハブユニット軸受。
【請求項2】
前記ハブ側嵌合面部の軸方向寸法が、前記スリンガの厚さ寸法以上、前記止め輪の厚さ寸法以下である、
請求項1に記載のハブユニット軸受。
【請求項3】
前記スリンガが、軸方向内側面に筋目を有しており、
前記スリンガ不連続部が、前記筋目の形成方向に形成されている、
請求項1または2に記載のハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車輪および制動用回転体を懸架装置に対して回転自在に支持するためのハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪および制動用回転体は、ハブユニット軸受により懸架装置に対して回転自在に支持される。ハブユニット軸受は、内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、外輪よりも軸方向外側に位置する部分から径方向外側に突出する回転フランジを有するハブと、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備える。
【0003】
なお、軸方向外側は、ハブユニット軸受を自動車に組み付けた状態での車体の幅方向外側をいい、反対に、ハブユニット軸受を自動車に組み付けた状態での車体の幅方向中央側を、軸方向内側という。
【0004】
ハブユニット軸受は、外輪の内周面とハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐ密封装置をさらに備える。特開2017-180599号公報(特許文献1)には、それぞれの先端部を、ハブの表面に摺接させた複数本のシールリップを有する密封装置が記載されている。複数本のシールリップのうち、最も径方向外側のシールリップは、その先端部を、回転フランジの軸方向内側面のうちの径方向内側部分に摺接させている。
【0005】
特開2017-180599号公報に記載されているように、ハブの外周面のうち、シールリップの先端部が摺接する部分には、総型の研削砥石(回転砥石)を用いた仕上加工が施されている。総型の研削砥石を用いてハブの外周面に仕上加工を行う際には、軸方向摺接面に、凹部と凸部とを径方向に関して交互に配置してなる、螺旋状の研削筋目が形成される。このような研削筋目が形成されると、密封装置のシールリップの先端部が、前記研削筋目の凹部の内側に深く入り込み、ハブが回転した際に、径方向に往復移動させられ、振動する可能性がある。このため、前記シールリップが径方向に振動し、シール鳴きと呼ばれる異音が発生したり、前記シールリップの先端部が前記ハブの外周面に貼りつくことに伴って、摩擦抵抗が増大したりする可能性がある。
【0006】
特開2016-80141号公報には、金属板を曲げ成形してなり、ハブのうちで回転フランジの軸方向内側に隣接する部分に外嵌固定されるスリンガと、それぞれの先端部を、前記スリンガの表面に摺接させた複数本のシールリップを有するシールリングとを備える密封装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-180599号公報
【特許文献2】特開2016-80141号公報
【特許文献3】特開2017-32008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特開2016-80141号公報に記載の密封装置では、それぞれのシールリップの先端部を、ハブの表面ではなく、金属板製で、表面性状を良好に確保しやすいスリンガの表面に摺接させているため、シール鳴きやシールリップの貼りつきなどの問題が生じるのを防止できる。
【0009】
ところで、ハブユニット軸受には、主に自動車が旋回走行する際に、路面反力に基づくモーメント荷重が加わる。回転フランジの径方向内側の端部(基端部)には、このようなモーメント荷重に基づく応力が集中しやすく、弾性変形が繰り返し生じる。このため、ハブのうちで回転フランジの軸方向内側に隣接する部分に外嵌されたスリンガは、ハブに対して相対回転(クリープ)したり、軸方向に相対変位したりしやすい。
【0010】
ハブに対するスリンガの軸方向に関する嵌合幅を大きくしたり、特開2017-32008号公報に記載の密封装置のように、回転フランジに備えられ、かつ、径方向外側に開口する凹部に、スリンガに備えられた係合爪部を係合させたりすれば、スリンガがハブに対して相対回転したり、軸方向に相対変位したりすることを防止できる。しかしながら、ハブに対するスリンガの装着部の軸方向長さが大きくなり、その分、転動体同士の列間距離が小さくなって、ハブユニット軸受のモーメント剛性が低下したり、寿命を確保しにくくなったりする可能性がある。
【0011】
本発明は、ハブに対するスリンガの装着部の軸方向長さが徒に大きくなることを防止しつつ、前記ハブに対する前記スリンガの相対回転および軸方向の相対変位を防止することができる、ハブユニット軸受の構造を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様のハブユニット軸受は、外輪と、ハブと、複数個の転動体と、スリンガと、止め輪と、シールリングとを備える。
【0013】
前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有する。
【0014】
前記ハブは、複列の内輪軌道と、回転フランジと、係止溝とを有する。
【0015】
前記複列の内輪軌道は、前記ハブの外周面に備えられている。
【0016】
前記回転フランジは、軸方向内側面に、径方向内側を向いたハブ側嵌合面部を有し、前記複列の内輪軌道のうち、軸方向外側の内輪軌道よりも軸方向外側に位置する部分から径方向外側に向けて突出している。
【0017】
前記係止溝は、前記ハブの外周面のうち、軸方向に関して前記軸方向外側の内輪軌道と前記回転フランジとの間に備えられている。
【0018】
前記複数個の転動体は、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置されている。
【0019】
前記スリンガは、スリンガ不連続部と、湾曲部と、係止爪部とを有する。
【0020】
前記スリンガ不連続部は、円周方向1箇所に形成されている。
【0021】
前記湾曲部は、径方向内側に向かうほど軸方向内側に向かう方向に湾曲している。
【0022】
前記係止爪部は、前記湾曲部の軸方向内側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がり、かつ、前記係止溝の軸方向外側部分に係止されている。
【0023】
前記止め輪は、前記係止溝の軸方向内側部分に係止されている。
【0024】
前記シールリングは、その先端部を、前記スリンガの軸方向内側面に摺接させたアキシアルリップと、その先端部を、前記ハブの外周面のうち、軸方向に関して前記軸方向外側の内輪軌道と前記係止溝との間部分に摺接させたラジアルリップとを有する。
【0025】
本発明の一態様のハブユニット軸受では、前記ハブ側嵌合面部の軸方向寸法を、前記スリンガの厚さ寸法以上、前記止め輪の厚さ寸法以下とすることができる。
【0026】
本発明の一態様のハブユニット軸受では、前記スリンガは、軸方向内側面に筋目を有することができ、かつ、前記スリンガ不連続部を、前記筋目の形成方向に形成することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一態様のハブユニット軸受によれば、ハブに対するスリンガの装着部の軸方向長さが徒に大きくなることを防止しつつ、前記ハブに対する前記スリンガの相対回転および軸方向の相対変位を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の第1例のハブユニット軸受を示す断面図である。
【
図3】
図3(A)は、スリンガを取り出してハブに装着する前の状態を軸方向から見た端面図であり、
図3(B)は、スリンガを取り出してハブに装着した状態を軸方向から見た端面図である。
【
図4】
図4(A)は、止め輪を取り出して軸方向から見た端面図であり、
図4(B)は、
図4(A)のB-B断面図である。
【
図5】
図5は、スリンガの別例についての
図4に相当する図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施の形態の第2例を示す、
図2に相当する図である。
【
図8】
図8は、第2例の変形例を示す、
図2に相当する図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施の形態の第3例を示す、
図2に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[第1例]
図1~
図4(B)は、本発明の実施の形態の1例を示している。本例のハブユニット軸受1は、外輪2と、ハブ3と、複数個の転動体4a、4bと、スリンガ5と、止め輪6と、シールリング7とを備える。本例のハブユニット軸受1は、従動輪用の構造を備え、かつ、転動体4a、4bとして玉を使用している。
【0030】
なお、以下の説明において、ハブユニット軸受1に関して、軸方向、径方向、および円周方向とは、特に断らない限り、外輪2の軸方向、径方向、および円周方向をいう。外輪2の軸方向、径方向、および円周方向は、ハブ3の軸方向、径方向、および円周方向と一致する。また、軸方向外側は、ハブユニット軸受1を自動車に組み付けた状態での車体の幅方向外側をいい、軸方向内側は、ハブユニット軸受1を自動車に組み付けた状態での車体の幅方向内側をいう。
【0031】
外輪2は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。外輪2は、内周面に、複列の外輪軌道8a、8bを有し、かつ、軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ9を有する。静止フランジ9は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する支持孔10を有する。
【0032】
本例では、支持孔10は、ねじ孔により構成されている。外輪2は、懸架装置のナックルに備えられた通孔を挿通した支持ボルトを、静止フランジ9の支持孔10に軸方向内側から螺合することで、懸架装置に対し支持固定され、車輪が回転する際にも回転しない。
【0033】
ハブ3は、複列の内輪軌道11a、11bと、回転フランジ12と、係止溝13を備え、外輪2の径方向内側に外輪2と同軸に配置されている。
【0034】
複列の内輪軌道11a、11bは、ハブ3の外周面に備えられている。
【0035】
回転フランジ12は、ハブ3のうち、複列の内輪軌道11a、11bのうちの軸方向外側の内輪軌道11aよりも外側に位置する部分であって、外輪2の軸方向外側の端部よりも軸方向外側に位置する部分から、径方向外側に向けて突出するように備えられている。回転フランジ12は、軸方向内側面に、径方向内側面を向いたハブ側嵌合面部14を有する。
【0036】
本例では、回転フランジ12は、軸方向内側面の径方向内側の端部に、軸方向外側に向けて凹んだ凹部15を全周にわたって有し、かつ、該凹部15の内面のうち、径方向内側を向いた径方向外側面に、ハブ側嵌合面部14を有する。ハブ側嵌合面部14は、ハブ3の中心軸を中心とする円筒面により構成されている。なお、本例では、ハブ側嵌合面部14を、外輪2の軸方向外側の端部内周面よりも径方向内側に位置させている。
【0037】
なお、凹部15の内面のうち、軸方向内側を向き、かつ、ハブ3の中心軸に直交する平坦面である底面41と、ハブ3の外周面のうちで軸方向外側の内輪軌道11aの軸方向外側に隣接する円筒面状の溝肩部42とは、円弧形または略円弧形の断面形状を有する凹曲面部43により接続されている。
【0038】
回転フランジ12は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔16を有する。取付孔16のそれぞれには、ディスクやドラムなどの制動用回転体、および、車輪を構成するホイールを、回転フランジ12に対し結合固定するためのスタッド17が圧入状態でセレーション嵌合されている。すなわち、本例では、取付孔16は、円筒孔により構成されている。
【0039】
制動用回転体およびホイールは、それぞれの中心部に備えられた中心孔に、ハブ3の軸方向外側の端部に備えられた円筒状のパイロット部18を挿通し、かつ、それぞれの径方向中間部の円周方向複数箇所に備えられた通孔に、スタッド17を挿通した状態で、スタッド17の先端部にハブナットを螺合することにより、回転フランジ12に結合固定される。
【0040】
なお、回転フランジの取付孔を、ねじ孔により構成することもできる。この場合には、制動用回転体に備えられた通孔と、ホイールに備えられた通孔とを挿通したハブボルトを、取付孔に軸方向外側から螺合することにより、制動用回転体および車輪を回転フランジに結合固定する。
【0041】
係止溝13は、ハブ3の外周面のうち、軸方向に関して軸方向外側の内輪軌道11aと回転フランジ12との間に全周にわたって形成されている。係止溝13は、矩形の断面形状を有する。
【0042】
本例では、ハブ3は、内輪19とハブ輪20とを組み合わせてなる。
【0043】
内輪19は、軸受鋼などの硬質金属により構成されている。内輪19は、外周面に、軸方向内側の内輪軌道11bを有する。
【0044】
ハブ輪20は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。ハブ輪20は、軸方向外側の内輪軌道11aと、回転フランジ12と、係止溝13と、凹部15と、パイロット部18とを備える。
【0045】
ハブ輪20は、軸方向外側の内輪軌道11aよりも軸方向内側に位置する部分に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径が小さく、内輪19が外嵌される小径段部21を有する。さらに、ハブ輪20は、小径段部21の軸方向外側の端部に、軸方向内側を向いた段差面22を有し、かつ、小径段部21の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がったかしめ部23を有する。
【0046】
ハブ3は、ハブ輪20の小径段部21に内輪19を外嵌し、かつ、ハブ輪20の段差面22とかしめ部23との間で内輪19を軸方向両側から挟持することにより、内輪19とハブ輪20とを結合固定することで構成されている。
【0047】
なお、ハブ輪のうちで内輪の軸方向内側の端部から突出した軸方向内側の端部にナットを螺合することで、前記ハブ輪と前記内輪とを結合することもできる。
【0048】
なお、本例のハブユニット軸受1は、従動輪用のハブユニット軸受であるため、ハブ3は、中実に構成されている。
【0049】
ただし、本発明のハブユニット軸受は、駆動輪用のハブユニット軸受に適用することもできる。この場合、ハブは、中心部に、軸方向に貫通するスプライン孔を有する。スプライン孔には、エンジンや電動モータを駆動源として回転駆動する駆動軸の先端部がスプライン係合される。自動車の走行時には、駆動軸によりハブを回転駆動することで、ハブの回転フランジに結合固定された車輪および制動用回転体を回転駆動する。
【0050】
複数個の転動体4a、4bは、複列の外輪軌道8a、8bと複列の内輪軌道11a、11bとの間に、それぞれ複数個ずつ、保持器24a、24bにより保持された状態で転動自在に配置されている。これにより、ハブ3は、外輪2の径方向内側に回転自在に支持される。
【0051】
スリンガ5は、防錆処理が施された冷間圧延鋼板やステンレス鋼板などの防錆性能を有する金属板に、プレスによる打ち抜き加工および曲げ加工を施すことにより造られている。
【0052】
スリンガ5は、円周方向1箇所にスリンガ不連続部(割部)25を有する。したがって、スリンガ5をハブ3に装着する以前の状態では、
図3(A)に示すように、スリンガ5の円周方向両側の端部同士の間には、円周方向の隙間が存在している。すなわち、スリンガ5は、欠円環状に構成されている。換言すれば、スリンガ5は、軸方向から見て略C字形の端面形状を有する。なお、スリンガ5は、
図3(B)に示すように、スリンガ不連続部25を閉じた状態、すなわち円周方向両側の端部同士を当接させた状態で、軸方向から見た輪郭形状(外形形状)が円形となるように形状が規制されている。
【0053】
本例では、スリンガ不連続部25は、スリンガ5の軸方向内側面に形成された筋目の方向に形成されている。すなわち、スリンガ5の軸方向内側面には、該スリンガ5の素材となる金属板を得るべく、金属材料に圧延によるロール加工を施したり、磨き加工を施したりすることに伴って、直線状の筋目が形成されている。本例では、スリンガ不連続部25は、筋目の形成方向に沿って伸長している。
【0054】
なお、スリンガ5の軸方向内側面に形成された直線状の筋目の深さは、総型の研削砥石によりハブ3の外周面に仕上加工を施すことに伴って、回転フランジ12の軸方向内側面に形成される螺旋状の研削筋目の深さよりも小さい。
【0055】
さらにスリンガ5は、スリンガ側嵌合面部26と、湾曲部27と、係止爪部28とを備える。
【0056】
スリンガ側嵌合面部26は、スリンガ5の外周面に備えられ、かつ、ハブ側嵌合面部14に内嵌される。
【0057】
本例では、スリンガ5は、径方向外側部分に、中空円形板状の側板部29を有し、かつ、側板部29の外周面に、スリンガ側嵌合面部26を有する。スリンガ側嵌合面部26は、スリンガ5の中心軸を中心とする円筒面により構成されている。ただし、本発明では、スリンガは、湾曲部の外周面に、スリンガ側嵌合面部を有することもできる。
【0058】
湾曲部27は、径方向内側に向かうほど軸方向内側に向かう方向に湾曲している。本例では、湾曲部27は、円弧形または略円弧形の断面形状を有し、側板部29の径方向内側の端部から径方向内側に向かうほど軸方向内側に向かう方向に湾曲している。
【0059】
係止爪部28は、湾曲部27の軸方向内側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がり、かつ、係止溝13の軸方向外側部分に係止されている。本例では、係止爪部28は、中空円形板状に構成されている。
【0060】
止め輪6は、係止溝13の軸方向内側部分に係止されている。止め輪6は、
図4(A)に示すように、円周方向1箇所に、止め輪不連続部51を有する欠円環状に構成されている。すなわち、止め輪6は、Cリングにより構成されている。止め輪6は、
図4(B)に示すように、係止溝13の軸方向内側部分に係止される以前の自由状態で、径方向から見て略円弧形または略弓形の曲がり(反り)を有する。また、本例では、止め輪6の径方向幅を、係止溝13の径方向深さとほぼ同じとしている。
【0061】
ハブ側嵌合面部14の軸方向寸法L14は、スリンガ5の厚さ寸法T5以上、かつ、止め輪6の厚さ寸法T6以下である(T5≦L14≦T6)。また、係止溝13の軸方向幅W13は、スリンガ5の厚さ寸法T5と止め輪6の厚さ寸法T6との和よりもわずかに大きい(W13>T5+T6)。
【0062】
ハブ3に対してスリンガ5および止め輪6を装着する際には、まず、スリンガ5を、円周方向両側の端部同士の間隔、すなわちスリンガ不連続部25の円周方向幅を弾性的に拡げた状態で、スリンガ5の内側にハブ3を軸方向外側から挿入する。換言すれば、ハブ3の周囲にスリンガ5を軸方向内側から外嵌する。ハブ3の外周面のうち、係止溝13の周囲にスリンガ5が位置した状態で、スリンガ5を弾性的に復元させることにより、該スリンガ5の内径を縮径させ、係止爪部28を係止溝13の内側に挿入する。すなわち、係止爪部28を、軸方向に隙間がある状態で係止溝13に係止する。
【0063】
この状態からさらに、スリンガ5を弾性的に縮径させ、スリンガ側嵌合面部26をハブ側嵌合面部14に内嵌する。このとき、係止爪部28と係止溝13との間には、軸方向にわずかに隙間が残るようにしておく。その後、止め輪6を、係止溝13の軸方向内側部分に係止することで、係止溝13の内側での係止爪部28の軸方向の相対変位を阻止し、ハブ3に対するスリンガ5の軸方向内側への変位を阻止する。これにより、ハブ3に対してスリンガ5および止め輪6を装着する。
【0064】
ハブ3に対してスリンガ5および止め輪6を装着した状態で、スリンガ5の円周方向両側の端部は、当接乃至近接対向する。すなわち、スリンガ不連続部25の円周方向幅が、0乃至極小になる。また、スリンガ5が拡径する方向に弾性的に復元する力により、スリンガ側嵌合面部26が、ハブ側嵌合面部14に弾性的に押し付けられる。
【0065】
さらに、ハブ3に対してスリンガ5および止め輪6を装着した状態で、スリンガ5の径方向外側の端部の軸方向内側面は、回転フランジ12の軸方向内側面のうち、凹部15の径方向外側に隣接する部分と同じか、あるいは、当該部分より軸方向外側に位置する。すなわち、スリンガ5の径方向外側部分は、凹部15の内側に配置される。
【0066】
本例では、スリンガ5は、湾曲部27と係止爪部28との間部分に、スリンガ5の中心軸を中心とする円筒部を有していない。すなわち、スリンガ5は、ハブ3の外周面のうち、軸方向に関して軸方向外側の内輪軌道11aと回転フランジ12との間部分に、圧入により外嵌固定される部分を有していない。
【0067】
シールリング7は、その先端部を、スリンガ5の軸方向内側面に摺接させた少なくとも1本のアキシアルリップ30と、その先端部を、ハブ3の外周面のうち、軸方向に関して軸方向外側の内輪軌道11aと係止溝13との間部分に摺接させた少なくとも1本のラジアルリップ31a、31bとを備える。本例では、シールリング7は、1本のアキシアルリップ30と、2本のラジアルリップ31a、31bとを備える。
【0068】
本例では、シールリング7は、芯金32と、シール材33とを備える。
【0069】
芯金32は、軟鋼板などの金属板を曲げ成形することにより、全体を円環状に構成されている。芯金32は、外輪2の軸方向外側の端部に締り嵌めで内嵌固定された嵌合筒部34と、該嵌合筒部34の軸方向外側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった支持板部35とを有する。
【0070】
シール材33は、ゴムのごときエラストマーなどの弾性材により構成され、芯金32の支持板部35の表面に加硫接着により結合固定されている。シール材33は、基部36、並びに、1本のアキシアルリップ30および2本のラジアルリップ31a、31bを有する。なお、
図2では、アキシアルリップ30およびラジアルリップ31a、31bのそれぞれを、自由状態で示している。
【0071】
基部36は、支持板部35の表面、具体的には、支持板部35の軸方向外側面、内周面、および軸方向内側面の径方向内側の端部を覆っている。
【0072】
アキシアルリップ30は、先端部を、スリンガ5の軸方向内側面、具体的には側板部29の軸方向内側面に摺接させている。本例では、アキシアルリップ30は、基部36のうちで支持板部35の軸方向外側面の径方向中間部を覆う部分から軸方向外側かつ径方向外側に向かう方向に伸長している。
【0073】
それぞれのラジアルリップ31a、31bは、先端部を、ハブ3の外周面のうち、軸方向に関して軸方向外側の内輪軌道11aと係止溝13との間部分に摺接させている。本例では、2本のラジアルリップ31a、31bのうち、軸方向外側のラジアルリップ31aは、基部36のうちで支持板部35の径方向内側の端部を覆う部分から軸方向外側かつ径方向内側に向かう方向に伸長しており、軸方向内側のラジアルリップ31bは、基部36のうちで支持板部35の径方向内側の端部を覆う部分から軸方向内側かつ径方向内側に向かう方向に伸長している。
【0074】
このようなシールリング7により、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在し、かつ、転動体4a、4bが配置された転動体設置空間37の軸方向外側の開口部を塞いでいる。これにより、泥水などの異物が、転動体設置空間37の軸方向外側の開口部から該転動体設置空間37に侵入したり、転動体設置空間37に封入されたグリースが、該転動体設置空間37の軸方向外側の開口部から外部空間に漏洩したりすることを防止している。
【0075】
本例のハブユニット軸受1は、転動体設置空間37の軸方向内側の開口部を塞ぐカバー38をさらに備える。カバー38は、外輪2の軸方向内側の端部に締り嵌めで内嵌固定された円筒部39と、該円筒部39の軸方向内側の端部を塞ぐ底板部40とを有する。このようなカバー38により、異物が、転動体設置空間37の軸方向内側の開口部から該転動体設置空間37に侵入したり、転動体設置空間37に封入されたグリースが、該転動体設置空間37の軸方向内側の開口部から外部空間に漏洩したりすることを防止している。なお、カバー38に代えて、組み合わせシールリングにより、転動体設置空間の軸方向内側の開口部を塞ぐこともできる。
【0076】
本例のハブユニット軸受1では、シールリング7のアキシアルリップ30を、螺旋状の研削筋目が形成された回転フランジ12の軸方向内側面ではなく、金属板製で、表面性状を良好に確保しやすいスリンガ5の軸方向内側面に摺接させているため、シール鳴きやシールリップの貼りつきなどの問題が生じるのを防止することができる。
【0077】
本例のハブユニット軸受1では、スリンガ5の外周面に備えられたスリンガ側嵌合面部26を、回転フランジ12に備えられたハブ側嵌合面部14に内嵌し、かつ、スリンガ5の径方向内側の端部に備えられた係止爪部28を、ハブ3の外周面に形成された係止溝13の軸方向外側部分に係止している。そして、止め輪6を係止溝13の軸方向内側部分に係止することで、スリンガ5の軸方向内側への変位を阻止している。これにより、スリンガ5および止め輪6をハブ3に対して、相対回転および軸方向の相対変位を阻止した状態で支持している。
【0078】
本例のハブユニット軸受1では、ハブ3の外周面のうち、軸方向に関して軸方向外側の内輪軌道11aと回転フランジ12との間部分に、スリンガ5は圧入されていない。ハブ3に対してスリンガ5を装着するための構造として、当該部分には、スリンガ5の係止爪部28と止め輪6とを係止する係止溝13のみが形成されている。係止溝13の軸方向幅W13は、スリンガ5の厚さ寸法T5と止め輪6の厚さ寸法T6との和よりもわずかに大きい、すなわち金属板2枚分の厚さ程度の大きさである。したがって、ハブ3に対するスリンガ5の装着部の軸方向長さが徒に大きくなることを防止しつつ、ハブ3に対するスリンガ5の相対回転および軸方向の相対変位を防止することができる。このため、複列に配置された転動体4a、4b同士の列間距離を確保しやすく、ハブユニット軸受1のモーメント剛性および寿命を確保しやすい。
【0079】
本例のハブユニット軸受1では、スリンガ5のスリンガ不連続部25は、スリンガ5の軸方向内側面に形成された筋目の方向に形成されている。このため、アキシアルリップ30の先端部がスリンガ不連続部25を通過することによる、アキシアルリップ30の振動への影響を小さく抑えることができる。
【0080】
また、アキシアルリップ30の振動への影響を小さく抑える面からは、スリンガ不連続部25は、主たる回転方向、すなわち自動車が前進する際のハブ3の回転方向(正転方向)に向かうほど径方向内側に向かう方向に伸長していることが好ましい。したがって、スリンガ不連続部25の円周方向位相を、左車輪用のハブユニット軸受1のスリンガ5と、右車輪用のハブユニット軸受1のスリンガ5とで異ならせる必要がある。換言すれば、左車輪用のハブユニット軸受1のスリンガ5と、右車輪用のハブユニット軸受1のスリンガ5とを、別の品番で管理する必要がある。
【0081】
スリンガ5を、左車輪用のハブユニット軸受1と右車輪用のハブユニット軸受1とで区別しない場合には、
図5(A)および
図5(B)に示すように、スリンガ不連続部25を径方向に形成することが好ましい。
【0082】
スリンガ5の軸方向内側面に、ショットブラスト処理若しくはバレル加工などの表面粗さを改善するための表面処理、あるいは、撥水、および/若しくは低摩擦化のための被覆処理または化成処理などを施すこともできる。これらの処理を施すことで、スリンガ5の軸方向内側面に形成された筋目が低減乃至消滅する場合には、スリンガ不連続部25の形成方向は特に限定されず、いずれの方向に形成してもよい。
【0083】
本例では、止め輪6は、係止溝13の軸方向内側部分に係止される以前の自由状態で、径方向から見て略円弧形または略弓形の曲がり(反り)を有する。このため、係止溝13の軸方向幅W13が、スリンガ5の厚さ寸法T5と止め輪6の厚さ寸法T6との和よりもわずかに大きい場合であっても、スリンガ5の係止爪部28と止め輪6とを、係止溝13に係止した状態で、スリンガ5および止め輪6の軸方向のがたつきを防止できる。
【0084】
なお、本例では、止め輪6として、
図4(A)に示すように、係止溝13に係止する以前の状態で、円周方向両側の端部同士が当接する止め輪を使用しているが、本発明を実施する場合、
図6に示すように、係止溝に係止する以前の自由状態で、円周方向両側の端部が、径方向に重畳する止め輪6を使用することができる。
図6に示すような止め輪6を使用すれば、該止め輪を係止溝に係止した状態で、円周方向両側の端部同士の間の隙間を小さく抑えることができる。あるいは、円周方向に関して波打つように湾曲する形状を有する止め輪を使用することもできる。
【0085】
本例では、止め輪6の径方向幅を、係止溝13の径方向深さとほぼ同じとしているため、止め輪6を係止溝13に係止した状態で、該止め輪6の外径を、溝肩部42の外径と一致させることができる。このため、シールリング7の軸方向外側のラジアルリップ31aの先端部が、軸方向にずれ動いた場合でも、該ラジアルリップ31aの先端部の摺接面に対する締め代が変化することを防止できる。すなわち、シールリング7によるシール性能が低下したり、摺動抵抗が増大したりするのを防止できる。
【0086】
なお、ラジアルリップの先端部が、止め輪に干渉するのを確実に防止することができる場合には、
図7に示す第2例の止め輪6aのように、止め輪6aを係止溝13に係止した状態で、該止め輪6aの外径を、溝肩部42の外径よりも大きくしたり、止め輪の円周方向両側の端部に、該止め輪を縮径させるための工具を引っ掛けるための耳部を設け、該耳部を、溝肩部よりも径方向外側に突出させたりすることもできる。
【0087】
本例のハブユニット軸受1は、軸方向外側列の転動体4aのピッチ円直径と、軸方向内側列の転動体4bのピッチ円直径とが等しい、等径PCD型の構造を備えるが、本発明は、軸方向内側列の転動体のピッチ円直径が、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径よりも大きいか、または、小さい、異径PCD型のハブユニット軸受に適用することもできる。また、本例のハブユニット軸受1では、転動体4a、4bとして玉を使用しているが、玉に代えて円すいころを使用することもできる。
【0088】
[第2例]
図7は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例では、ハブ3aの回転フランジ12aの軸方向内側面に備えられ、かつ、径方向内側を向いたハブ側嵌合面部14aを、外輪2の軸方向外側の端部外周面よりも径方向外側に位置させている。すなわち、回転フランジ12aの軸方向内側面に形成した凹部15aの底面41aの径方向幅を、第1例における底面41の径方向幅よりも大きくしている。これに合わせて、スリンガ5aの側板部29aの径方向幅を、第1例における側板部29の径方向幅よりも大きくしている。
【0089】
さらに、スリンガ5aは、側板部29aの径方向外側の端部から軸方向内側に向けて折れ曲がった円筒状の庇部44を有し、該庇部44の軸方向内側部分の内周面を、外輪2の軸方向外側の端部外周面に対向させている。本例では、スリンガ5aは、庇部44の軸方向内側の端部外周面に、ハブ側嵌合面部14aに内嵌されるスリンガ側嵌合面部26aを有する。
【0090】
なお、本例では、止め輪6aの径方向幅を、係止溝13の径方向深さよりも大きくしている。このため、止め輪6aを係止溝13に係止した状態で、該止め輪6aの径方向外側部分は、溝肩部42よりも径方向外側に突出する。
【0091】
本例の場合も、ハブ3aに対するスリンガ5aの装着部の軸方向長さが徒に大きくなることを防止しつつ、ハブ3aに対するスリンガ5aの相対回転および軸方向の相対変位を防止することができる。
【0092】
さらに本例では、スリンガ5aの庇部44の軸方向内側部分の内周面を、外輪2の軸方向外側の端部外周面に対向させているため、泥水などの異物が、外輪2の軸方向外側の端面と、回転フランジ12aの軸方向内側面との間部分から、アキシアルリップ30の先端部とスリンガ5aの軸方向内側面との摺接部に侵入するのを効果的に防止できる。このため、スリンガ5aとシールリング7とによるシール性能を、第1例の構造に比べて、より良好に確保することができる。
【0093】
本例では、庇部44を円筒状に構成し、かつ、該庇部44の内径を、軸方向全長にわたって、外輪2の軸方向外側の端部の外径よりも大きくしているが、
図8に示すように、スリンガ5bの庇部44aを、段付円筒状に構成することもできる。すなわち、外輪2の軸方向外側の端部の外径よりも小さい内径を有する軸方向外側の小径部45と、外輪2の軸方向外側の端部の外径よりも大きい内径を有する軸方向内側の大径部46とを、中空円形板状の接続板部52により接続してなる。そして、大径部46の内周面を、外輪2の軸方向外側の端部外周面に近接対向させ、かつ、接続板部52の軸方向内側面を、外輪2の軸方向外側の端面に近接対向させる。これにより、スリンガ5bの庇部44aと、外輪2の軸方向外側の端部との間に、断面略L字形のラビリンスシール50を構成することができる。なお、この場合、スリンガ5bは、小径部45の軸方向外側の端部外周面に、スリンガ側嵌合面部26aを有する。
【0094】
その他の部分の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0095】
[第3例]
図9は、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例では、ハブ3bの回転フランジ12bの軸方向内側面に備えられ、かつ、径方向内側を向いたハブ側嵌合面部14bを、外輪2の軸方向外側の端部内周面よりも径方向外側に、かつ、外周面よりも径方向内側に位置させている。すなわち、回転フランジ12bの軸方向内側面に形成した凹部15bの底面41bの径方向幅を、第1例における底面41の径方向幅よりも大きく、かつ、第2例における底面41aよりも小さくしている。これに合わせて、スリンガ5cの側板部29bの径方向幅を、第1例における側板部29の径方向幅よりも大きく、かつ、第2例における側板部29aの径方向幅よりも小さくしている。
【0096】
スリンガ5cは、側板部29bの径方向外側の端部から軸方向内側に向けて折れ曲がった円筒状の庇部44bを有し、該庇部44bの軸方向内側の端部を、シールリング7aのうちで外輪2の軸方向外側の端面を覆う部分に対向させている。
【0097】
シールリング7aは、芯金32aと、シール材33aとを備える。
【0098】
芯金32aは、外輪2の軸方向外側の端部に締り嵌めで内嵌固定された嵌合筒部34aと、該嵌合筒部34aの軸方向内側の端部から略U字形に折り返され、さらに径方向内側に向けて折れ曲がった支持板部35aと、該嵌合筒部34aの軸方向外側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった円輪部47とを有する。
【0099】
芯金32aは、嵌合筒部34aを外輪2の軸方向外側の端部に、圧入により内嵌固定し、かつ、円輪部47の軸方向内側面を外輪2の軸方向外側の端面に突き当てることで軸方向に位置決めされている。
【0100】
シール材33aは、基部36aと、堰部48と、1本のアキシアルリップ30および2本のラジアルリップ31a、31bと、ラビリンスリップ49とを有する。
【0101】
基部36aは、支持板部35aの表面、具体的には、軸方向外側面、内周面、および軸方向内側面の径方向内側の端部と、円輪部47の軸方向外側面とを覆っている。
【0102】
堰部48は、円輪部47のうちで外輪2の軸方向外側の端部外周面よりも径方向外側に突出する部分を覆っている。堰部48は、外輪2の外周面に付着した水分が、該外輪2の外周面を伝ってラビリンスリップ49の外周面に滴り落ちるのを防止する。
【0103】
アキシアルリップ30は、基部36aのうちで支持板部35aの軸方向外側面を覆う部分から軸方向外側かつ径方向外側に向かう方向に伸長し、先端部を、スリンガ5cの側板部29bの軸方向内側面に摺接させている。
【0104】
それぞれのラジアルリップ31a、31bは、先端部を、ハブ3bの外周面のうち、軸方向に関して軸方向外側の内輪軌道11aと係止溝13との間部分に摺接させている。軸方向外側のラジアルリップ31aは、基部36aのうちで支持板部35aの径方向内側の端部を覆う部分から軸方向外側かつ径方向内側に向かう方向に伸長しており、軸方向内側のラジアルリップ31bは、基部36aのうちで支持板部35aの径方向内側の端部を覆う部分から軸方向内側かつ径方向内側に向かう方向に伸長している。
【0105】
ラビリンスリップ49は、基部36aのうちで円輪部47の軸方向外側面を覆う部分から軸方向外側に向けて伸長している。ラビリンスリップ49は、先端部を、回転フランジ12bの軸方向内側面に近接対向させている。
【0106】
本例によれば、ラビリンスリップ49の先端部を、回転フランジ12bの軸方向内側面に近接対向させることで、ラビリンスリップ49の先端部と回転フランジ12bの軸方向内側面との間にラビリンスシール50aを構成している。このため、泥水などの異物が、外輪2の軸方向外側の端面と、回転フランジ12bの軸方向内側面との間部分から、アキシアルリップ30の先端部とスリンガ5cの軸方向内側面との摺接部に侵入するのを、効果的に防止することができる。
【0107】
本例では、スリンガ5cの庇部44bを円筒状に構成し、かつ、該庇部44bを、ラビリンスリップ49よりも径方向内側に位置させているが、
図10に示すように、スリンガ5dの庇部44cを段付円筒状に構成することもできる。すなわち、庇部44cは、軸方向外側の小径部45aと、軸方向内側の大径部46aとを、中空円形板状の接続板部52aにより接続してなる。そして、大径部46aの内周面を、ラビリンスリップ49の外周面に近接対向させ、かつ、接続板部52aの軸方向内側面を、ラビリンスリップ49の先端部に近接対向させる。これにより、ラビリンスリップ49と、大径部46aおよび接続板部52aとの間部分に、ラビリンスシール50bを構成することができる。なお、この場合、スリンガ5dは、小径部45aの軸方向外側の端部外周面に、スリンガ側嵌合面部26bを有する。
【0108】
その他の部分の構成および作用効果は、第1例および第2例と同様である。
【符号の説明】
【0109】
1 ハブユニット軸受
2 外輪
3 ハブ
4a、4b 転動体
5、5a、5b、5c、5d スリンガ
6、6a 止め輪
7、7a シールリング
8a、8b 外輪軌道
9 静止フランジ
10 支持孔
11a、11b 内輪軌道
12、12a、12b 回転フランジ
13 係止溝
14、14a、14b ハブ側嵌合面部
15、15a、15b 凹部
16 取付孔
17 スタッド
18 パイロット部
19 内輪
20 ハブ輪
21 小径段部
22 段差面
23 かしめ部
24a、24b 保持器
25 スリンガ不連続部
26、26a、26b スリンガ側嵌合面部
27 湾曲部
28 係止爪部
29、29a、29b 側板部
30 アキシアルリップ
31a、31b ラジアルリップ
32、32a 芯金
33、33a シール材
34、34a 嵌合筒部
35、35a 支持板部
36、36a 基部
37 転動体設置空間
38 カバー
39 円筒部
40 底板部
41、41a、41b 底面
42 溝肩部
43 凹曲面部
44、44a、44b、44c 庇部
45、45a 小径部
46、46a 大径部
47 円輪部
48 堰部
49 ラビリンスリップ
50、50a、50b ラビリンスシール
51 止め輪不連続部
52、52a 接続板部