(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034855
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレートフィルム、及び、ポリブチレンテレフタレート樹脂積層板
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240306BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240306BHJP
B29C 59/04 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B32B27/36
B29C59/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139378
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】桜井 大地
(72)【発明者】
【氏名】時安 智代
(72)【発明者】
【氏名】吉末 幸浩
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4F209
【Fターム(参考)】
4F071AA45
4F071AF25Y
4F071AF27Y
4F071AF32Y
4F071AH03
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC08
4F071BC12
4F071BC16
4F100AB01A
4F100AK42
4F100AK42B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100CB00
4F100EH17B
4F100EH46
4F100EJ17
4F100EJ17A
4F100EJ17B
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4F100YY00B
4F209AA25
4F209AF01
4F209AG01
4F209AG03
4F209AG05
4F209AH48
4F209PA04
4F209PB02
4F209PC06
4F209PC07
4F209PC08
4F209PJ09
4F209PN04
4F209PN06
4F209PQ01
(57)【要約】
【課題】表面硬度が高く、厨房や浴室等の温度や湿度が高く、カビ又は油脂等が付着しやすい箇所に適用しても汚染物質の除去性が高く、さらに、つや消し(マット調)の外観を有する、ポリブチレンテレフタレートフィルム、及び、ポリブチレンテレフタレート樹脂積層板等を提供する。
【解決手段】基材に積層する第1面と、前記第1面と反対側の第2面とを有し、前記第2面の60°光沢度が4.7~15.0%であり、前記第2面の表面性状におけるRvが14.1μm以下、Rtが29.7μm以下、Rkuが3.0以下、であるポリブチレンテレフタレートフィルム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に積層する第1面と、前記第1面と反対側の第2面とを有し、
前記第2面の60°光沢度が4.7~15.0%であり、
前記第2面の表面性状におけるRvが14.1μm以下、Rtが29.7μm以下、Rkuが3.0以下、である、
ポリブチレンテレフタレートフィルム。
【請求項2】
前記60°光沢度が8.7~9.9%である、請求項1に記載のポリブチレンテレフタレートフィルム。
【請求項3】
前記第2面における、JIS K 5600における引っかき硬度(鉛筆法)に基づいた表面硬度がHB以上である、請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレートフィルム。
【請求項4】
前記第2面の表面性状におけるRzが15.3μm~25.0μm である、請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレートフィルム。
【請求項5】
厚みが35μm~120μmである、請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレートフィルム。
【請求項6】
基材と、
前記基材の少なくとも一方の面に積層されるポリブチレンテレフタレート樹脂層と、を含み、
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂層における、前記基材の積層面と反対側の面における60°光沢度が5.0~15.0%であり、且つ、表面性状におけるRvが12.2μm以下、Rtが26.4μm以下、Rkuが2.7以下、である、ポリブチレンテレフタレート樹脂積層板。
【請求項7】
前記60°光沢度が8.0~12.0%である、請求項6に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂積層板。
【請求項8】
前記基材の積層面と反対側の面における、JIS K 5600における引っかき硬度(鉛筆法)に基づいた表面硬度が、HB以上である、請求項6又は7に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂積層板。
【請求項9】
前記基材の積層面と反対側の面における、表面性状におけるRzが14.3μm~22.1μmである、請求項6又は7に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂積層板。
【請求項10】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂層の厚みが35μm~120μmである、請求項6又は7に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂積層板。
【請求項11】
請求項6又は7に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂積層板を用いた、ユニットバス用、キッチン用、又は内装用のパネル。
【請求項12】
ダイから溶融ポリブチレンテレフタレート樹脂を吐出する吐出工程と、
吐出された前記溶融ポリブチレンテレフタレート樹脂を、表面性状におけるRvが17.6μm以下、Rtが37.1μm以下、Rkuが3.75以下、のロールエンボス面を有するエンボスロールを用いてエンボス形成するエンボス工程と、
前記エンボス形成されたフィルムを冷却する冷却工程と、
を含む、ポリブチレンテレフタレートフィルムの製造方法。
【請求項13】
金属板をポリブチレンテレフタレート樹脂の融点±10℃に加熱する金属板加熱工程と、
加熱した前記金属板の少なくとも片面に、表面性状におけるRvが14.1μm以下、Rtが29.7μm以下、Rkuが3.0以下のエンボス面を有するポリブチレンテレフタレートフィルムを、前記エンボス面とは反対側の面を当接して一対のロールで圧接する圧接工程と、
を含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレートフィルム、及び、ポリブチレンテレフタレート樹脂積層板等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、厨房や浴室用の内装材として、ポリエステル等の樹脂を鋼板等の基材に積層したポリエステル樹脂積層板が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、鋼板表面に、ポリオレフィンやフィラー配合PET等の樹脂フィルムを積層してなる浴室内装材が開示されている。そしてこの浴室内装材は、樹脂フィルム表面を、60度光沢で50未満、JIS B0601に規定する最大高さRmaxで40μm未満もしくはISO 4287/1に規定する平均山間隔Smで80μm未満とすることにより、防カビ剤を配合しなくても長期に亘ってカビ発生を抑制するとともに優れた汚れ除去性を持たせることを課題としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される技術においては、以下に示すように未だ市場のニーズを満たすものではなかった。すなわち近年、取り扱い時の耐傷つき性等の観点から、より高い表面硬度を有する内装材の開発が求められている。しかしながら、上記特許文献に開示されたような内装材では、表面硬度に関する要求を満たすことができない。
【0006】
さらには近年、内装材の外観のバリエーションとして、つや消し(マット調)の外観が求められている。つや消しの外観は一般的に、樹脂表面にエンボス加工等により細かな凹凸を形成することにより実現される。しかしながら、上記のような表面硬度の高い素材の場合、エンボス加工の際に凹凸がより転写されやすく、形状によっては凹凸に入り込んだ汚れが拭き取り掃除により除去できずに残りやすいという問題があった。
【0007】
上記のような種々の問題に鑑みて、本発明者らは、表面硬度が高く、さらにつや消し(マット調)の外観を有していても汚染物質の除去性が高い内装材を開発すべく、鋭意検討した。
【0008】
その結果、ポリブチレンテレフタレートフィルムを用いて、表面の凹凸形状を特定の状態に制御することにより、上記課題が同時に解決することを見出し、本開示に想到したものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態におけるポリブチレンテレフタレートフィルムは、(1)基材に積層する第1面と、前記第1面と反対側の第2面とを有し、前記第2面の60°光沢度が4.7~15.0%であり、前記第2面の表面性状におけるRvが14.1μm以下、Rtが29.7μm以下、Rkuが3.0以下、であることを特徴とする。
【0010】
上記(1)において、(2)前記60°光沢度は、8.7~9.9%であることが好ましい。
【0011】
上記(1)又は(2)において、(3)前記第2面における、JIS K 5600における引っかき硬度(鉛筆法)に基づいた表面硬度がHB以上であることが好ましい。
【0012】
上記(1)又は(2)において、(4)前記第2面の表面性状パラメータにおけるRzが15.3μm~25.0μmであることが好ましい。
【0013】
上記(1)又は(2)において、(5)厚みが35μm~120μmであることが好ましい。
【0014】
また本実施形態におけるポリブチレンテレフタレート樹脂積層板は、(6)基材と、前記基材の少なくとも一方の面に積層されるポリブチレンテレフタレート樹脂層と、を含み、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂層における、前記基材の積層面と反対側の面における60°光沢度が5.0~15.0%であり、且つ、表面性状におけるRvが12.2μm以下、Rtが26.4μm以下、Rkuが2.7以下、であることを特徴とする。
【0015】
上記(6)において、(7)前記60°光沢度が8.0~12.0%であることが好ましい。
【0016】
また、上記(6)又は(7)において、(8)前記基材の積層面と反対側の面における、JIS K 5600における引っかき硬度(鉛筆法)に基づいた表面硬度が、HB以上であることが好ましい。
【0017】
また、上記(6)又は(7)において、(9)前記基材の積層面と反対側の面における、表面性状におけるRzが14.3μm~22.1μmであることが好ましい。
【0018】
また、上記(6)又は(7)において、(10)ポリブチレンテレフタレート樹脂層の厚みが50μm~120μmであることが好ましい。
【0019】
(11)本実施形態におけるユニットバス用、キッチン用、又は内装用のパネルは、上記(6)又は(7)に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂積層板を用いたことを特徴とする。
【0020】
本実施形態におけるポリブチレンテレフタレートフィルムの製造方法は、(12)ダイから溶融ポリブチレンテレフタレート樹脂を吐出する吐出工程と、吐出された前記溶融ポリブチレンテレフタレート樹脂を、表面性状パラメータにおけるRvが17.6μm以下、Rtが37.1μm以下、Rkuが3.75以下、のロールエンボス面を有するエンボスロールを用いてエンボス形成するエンボス工程と、前記エンボス形成されたフィルムを冷却する冷却工程と、を含むことを特徴とする。
【0021】
本実施形態におけるポリブチレンテレフタレート樹脂積層板の製造方法は、(13)金属板をポリブチレンテレフタレート樹脂の融点±10℃に加熱する金属板加熱工程と、加熱した前記金属板の少なくとも片面に、表面性状パラメータにおけるRvが14.1μm以下、Rtが29.7μm以下、Rkuが3.0以下のエンボス面を有するポリブチレンテレフタレートフィルムを、前記エンボス面とは反対側の面を当接して一対のロールで圧接する圧接工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、表面硬度が高く、厨房や浴室等の温度や湿度の高い箇所に適用しても汚染物質の除去性が高く、さらに、つや消し(マット調)の外観を有する、ポリブチレンテレフタレートフィルム、及び、ポリブチレンテレフタレート樹脂積層板等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施形態におけるポリブチレンテレフタレートフィルムを模式的に示す断面図である。
【
図2】本実施形態におけるポリブチレンテレフタレートフィルムの製造方法を示す模式図である。
【
図3】本実施形態におけるポリブチレンテレフタレート樹脂積層板を模式的に示す断面図である。
【
図4】本実施形態におけるパネルを模式的に示す断面図である。
【
図5】実施例及び比較例における樹脂層エンボス面の拡大写真である。
【
図6】実施例及び比較例における汚染回復率の試験後における外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示を以下の実施形態により詳細に説明する。なお、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0025】
[ポリブチレンテレフタレートフィルム]
本実施形態におけるポリブチレンテレフタレートフィルム10(以下、単に「フィルム10」とも称する。)について説明するが、本発明は以下の記載に制限されるものではない。
【0026】
図1に示すように、本実施形態におけるポリブチレンテレフタレートフィルム10は、第1面10a、及び第2面10b、を有する。このうち、第1面10aは、後述する基材15に積層される側の面であり、第2面10bは、その反対側の面である。第2面10bは後述するように凹凸形状が形成されており、その凹凸面により、つや消し(マット調)の外観を有する。なお、本明細書において以下、「凹凸形状」を「エンボス形状」、又は単に「エンボス」等とも称する。また「凹凸面」を「エンボス面」等とも称するものとする。
【0027】
本実施形態におけるポリブチレンテレフタレートフィルム10は、ポリブチレンテレフタレート(以下「PBT」とも称する。)樹脂からなるものである。適用されるPBT樹脂の種類としては、共重合PBTでもよいし、PBTホモポリマーであってもよい。また、PBT樹脂の特性を損なわない範囲で、PBT樹脂以外のポリエステル樹脂をブレンドしてもよい。PBT樹脂にブレンドするポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、又はこれらの共重合樹脂及びこれらの混合物を使用することができる。
【0028】
本実施形態におけるポリブチレンテレフタレートフィルム10は、特に第2面10bにおいて、所定の表面硬度を有することが好ましい。具体的には、第2面10bが、JIS K 5600における引っかき硬度(鉛筆法)に基づいて、HB以上の表面硬度であることが好ましい。この観点から、PBT樹脂は樹脂の結晶性が高いものが好ましく、PBT樹脂中のポリブチレンテレフタレート成分の含有率は70%以上が好ましい。
【0029】
本実施形態におけるポリブチレンテレフタレートフィルム10は、上記のとおり表面硬度HB以上を達成する限りにおいて、延伸フィルムであってもよいし、未延伸フィルムであってもよい。
【0030】
本実施形態におけるポリブチレンテレフタレートフィルム10は、透明フィルムであってもよいし、着色フィルムであってもよい。着色フィルムの場合、ポリブチレンテレフタレートフィルム10を製造する際に、樹脂に公知の顔料やフィラー等を配合して着色を施すことができる。また、透明フィルムの場合、ポリブチレンテレフタレートフィルムの第1面10aと化粧柄が印刷された着色樹脂フィルムとを接着剤を介して積層することにより、印刷化粧シートとすることもできる。
【0031】
本実施形態におけるポリブチレンテレフタレートフィルム10は、その厚みが35μm~120μmであることが好ましい。本実施形態におけるポリブチレンテレフタレートフィルム10は、上述のとおり所定の表面硬度を有するため、上記厚みでも、取り扱い時の傷つき等を抑制することができる。
【0032】
次に、本実施形態におけるポリブチレンテレフタレートフィルム10の第2面10bの特徴について詳細に記載する。
【0033】
本実施形態におけるポリブチレンテレフタレートフィルム10は、第2面10bにおいて、60°光沢度が4.7~15%であることを特徴とする。すなわち、上述のとおり第2面10bに形成されるエンボス形状により、前記光沢度の値が実現される。
【0034】
60°光沢度の値は、マット調の外観を有するフィルムの観点から、上記数値の範囲内であることが好ましい。なお、ポリブチレンテレフタレートフィルム10の第2面10bにおける60°光沢度は、JIS Z8741に準拠して、光沢計を用いて、60°鏡面光沢を測定することにより求めることができる。
【0035】
なお、本実施形態におけるポリブチレンテレフタレートフィルム10は、好ましいマット調の外観の観点から、第2面10bにおいて、60°光沢度を、8.7~9.9%とすることができる。
【0036】
さらに、本実施形態におけるポリブチレンテレフタレートフィルム10は、第2面10bにおいて、表面性状パラメータにおけるRvが14.1μm以下、Rtが29.7μm以下、Rkuが3.0以下、である、ことを特徴とする。ここで、表面性状パラメータにおけるRvは最大谷深さ、Rtは最大断面高さ、Rkuはクルトシス(尖り度)、を示すパラメータである。これらの表面性状パラメータは、ISO 4287:1997に準拠して、接触式表面粗さ測定機又はレーザー顕微鏡等を用いて測定することができる。
【0037】
表面性状パラメータにおけるRv、Rt、及び、Rkuの値を、上記数値範囲内にすることにより、本実施形態のポリブチレンテレフタレートフィルム10における残留汚れの除去率(汚染回復率)を向上させることができる。
【0038】
本実施形態において第2面10bの表面性状パラメータをRv、Rt及びRkuの数値で特定する理由は、以下のとおりである。一般的に、厨房や浴室内の内装パネルにおいて、表面に凹凸が形成されたマット調のパネルの場合、高温多湿状況での使用により、凹凸内にカビ、油脂等の汚染物質が入り込んでしまうことがある。そして、凹凸内に入り込んだ汚染物質の拭き取りに時間がかかる、または、凹凸内に入り込んだまま除去できない事態となる場合がある。
【0039】
このような汚染物質を除去するために、家庭では一般的にはスポンジ等の柔らかい素材の清掃用具を用いて清掃が行われることが多い。スポンジ等の柔らかい清掃用具は、その柔らかさによりパネル表面の凹凸内に入り込むことが可能であるが、当該凹凸形状が尖りすぎている場合には、スポンジ等が凹部に到達できず汚染物質を除去することができない。そのため、スポンジ等によって汚染物質が容易に凹内から掻き出されるように、第2面10bの表面性状パラメータを特定した。
【0040】
すなわち本実施形態におけるポリブチレンテレフタレートフィルム10は、第2面10bにおいて上記表面性状のパラメータを制御することにより、凹凸内に汚れが入り込んだとしても、スポンジ等の一般的な清掃用具を用いて容易に除去することができる。そのため、マット調の外観を有するユニットバス用、キッチン用又は内装用のパネルに適用した場合でも、清潔な状態を長期間保つことができる。
【0041】
本実施形態のポリブチレンテレフタレートフィルム10において、残留汚れの除去率(汚染回復率)は、JIS A1718に準拠した方法により評価することができる。具体的には、フィルム10のエンボス面に、カーボンブラックのワセリンペーストを擦り込んだのち、中性洗剤による洗浄を行い、除去性を確認することで評価できる。
【0042】
本実施形態におけるポリブチレンテレフタレートフィルム10は、上記方法により評価した汚染回復率が、84%以上であることが、実用性の観点からは好ましい。
【0043】
なお、上記した汚染回復率の観点から、本実施形態におけるポリブチレンテレフタレートフィルム10は、表面性状パラメータにおけるRzが15.3μm~25.0μmであることが、さらに好ましい。なお、上記Rzは、最大高さを示すパラメータである。
【0044】
本実施形態において、ポリブチレンテレフタレートフィルム10の第2面10bにおける表面性状パラメータの各値を上述のとおりとするためには、フィルム製造時にエンボス加工するために使用するエンボスロールのロールエンボス面を制御することで実現できる。すなわち、ポリブチレンテレフタレートフィルム10の第2面10bにおけるエンボス形状は、エンボスロールのロールエンボス面の形状が製造時に転写されることにより形成される。ここで一般的に、樹脂フィルムの製造時におけるエンボスの転写のし易さは、樹脂の性質により異なる。言い換えれば、エンボス戻りが発生しやすい樹脂と、そうでない樹脂とが存在する。よって、本実施形態においては、ポリブチレンテレフタレートフィルム10の原料となる樹脂に応じて、転写率を鑑みて、エンボスロールのロールエンボス面を設計する必要がある。なお、具体的なポリブチレンテレフタレートフィルム10の製造方法については、後述する。
【0045】
[ポリブチレンテレフタレートフィルムの製造方法]
本実施形態におけるポリブチレンテレフタレートフィルム10の製造方法について以下に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。
【0046】
ポリブチレンテレフタレートフィルム10の製造方法としては、(i)ダイから溶融ポリブチレンテレフタレート樹脂を吐出する吐出工程、(ii)吐出された前記溶融ポリブチレンテレフタレート樹脂を、表面性状におけるRvが17.6μm以下、Rtが37.1μm以下、Rkuが3.75以下、のロールエンボス面を有するエンボスロールを用いてエンボス形成するエンボス工程、(iii)前記エンボス形成されたフィルムを冷却する冷却工程、を含む。
【0047】
上記(i)吐出工程は、
図2に示されるような公知のフィルム押出成形機EM等を用いて、ダイDから溶融PBT樹脂を吐出する工程である。ここで、溶融PBT樹脂としては上述のとおり、共重合PBT樹脂でもよいし、PBTホモポリマーであってもよい。また、PBT樹脂とPBT樹脂以外のポリエステル樹脂のブレンド樹脂でもよい。溶融樹脂の温度としては、240~260℃程度が好ましい。なお、ポリブチレンテレフタレートフィルム10の厚みは、ダイDにおけるリップ(図示せず)の開き具合により、適宜調節することができる。
【0048】
上記(ii)エンボス工程について、フィルム押出成形機EM等において、ダイDから吐出された溶融PBT樹脂は、
図2のエンボスロールERを用いてエンボス形状を付与される。
【0049】
具体的に、エンボスロールERは、表面性状におけるRvが17.6μm以下、Rtが37.1μm以下、Rkuが3.75以下、のエンボス面を有している。溶融PBT樹脂MRが、エンボスロールERのロールエンボス面ERbに接触すると、その温度差によりロールエンボス面ERb面側のPBT樹脂は速やかに冷却され固化されると同時に、溶融状態のPBT樹脂がロールエンボス面ERbに入り込んだ後に冷却固化されることによりエンボス模様が転写される。このようにして、第2面10bにエンボス形状が付与されたポリブチレンテレフタレートフィルム10が製造される。
【0050】
ここで樹脂の性質によっては、ロールエンボス面ERbにおけるエンボス形状と、得られたフィルム10の第2面10bに形成されたエンボス形状とは、同じにはならない場合がある。すなわち、エンボス転写率は100%とならず、一般的に「エンボス戻り」と称される現象が発生することがある。この場合、上述のエンボスロールERのロールエンボス面におけるRv、Rt、又はRkuの数値は、得られたフィルム10におけるエンボス面(第2面10b)のRv、Rt、又はRkuの数値とは合致しない。具体的には、ロールエンボス面における表面性状パラメータの方が、フィルム10におけるエンボス面の表面性状パラメータよりも大きい値となる。
【0051】
なお、表面性状パラメータを上記のように制御されたエンボスロールERのエンボス形状の調整は、以下のとおり行うことができる。エンボスロールERは通常、金属エンボスロールを適用できる。ロールエンボス面は、放電加工、エッチング、酸洗、ブラスト処理、研磨、めっき、等の工程により、上記表面性状パラメータ範囲内とすることができる。具体的にはロールエンボス面は、硬質Cuめっき表面にエッチングを施した後、酸洗処理、研磨、硬質クロムめっきの順に処理して調整することができる。またその際、エッチング深度を30~50μm、酸洗処理後のロールエンボス面の深度は20~30μmとすることができる。酸洗時の条件としては、硝酸系の酸を使用し、25±5℃の温度にて2時間程度の処理を行うことができる。またロールエンボス面の研磨前の光沢値40±10%、クロムめっき後の光沢値を70±10%とすることができる。
【0052】
上記(iii)エンボス形成されたフィルム10を冷却する冷却工程について、以下に説明する。エンボスロールERによりエンボス形状を付与されたフィルム10は、引取ロールTRに第1面10aが接触した状態で、下流の工程(切断や巻取り等の工程)に送られる。すなわち、フィルム10の第1面10aは、引取ロールTRに接触することにより冷却されると共に、第2面10bは、空気に暴露されることにより冷却される。第1面10aが冷却されることにより、形成されたエンボス形状は固定される。得られたフィルム10は、その第2面10bにおいて、表面性状におけるRvが14.1μm以下、Rtが29.7μm以下、Rkuが3.0以下、を有する。
【0053】
なお、上述の引取ロールTRは、フィルム10に対する冷却の機能以外にも、フィルム10に引張力を付与する機能等も有する。すなわち、エンボスロールERを通過中のフィルム10に対して、引取ロールTRを用いて適切な力で引張力を付与することにより、ロールエンボス面の形状の、フィルム10の第2面10bへの転写率を向上させることができる。引取ロールTRの張力としては、130±10Nを付与することができる。
【0054】
なお、エンボスロールERのエンボス面に関して、さらに、表面性状パラメータにおけるRzが15.3μm~25.0μmであることが、得られるフィルムの汚染回復率の観点からは好ましい。
【0055】
なお、フィルム押出成形機EMや一対のロールセットに関して、
図2に示される形態に限られず、金属のエンボスロール及びゴム等のニップロールで挟み込んでエンボス形状を形成する方法であってもよい。また、上記製造方法におけるロール速度は、30±10メートル/分(mpm)であることが好ましい。
【0056】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂積層板]
次に、本実施形態におけるポリブチレンテレフタレート樹脂積層板100について説明するが、本発明は以下の記載に制限されるものではない。
【0057】
図3に示すように、本実施形態におけるポリブチレンテレフタレート樹脂積層板100は、基材15と、基材15の少なくとも一方の面に積層されるポリブチレンテレフタレート樹脂層11と、を含む。
【0058】
このうち、ポリブチレンテレフタレート樹脂層11としては、上述した本実施形態におけるポリブチレンテレフタレートフィルム10を適用することができる。
【0059】
(ポリブチレンテレフタレート樹脂層11について)
本実施形態におけるポリブチレンテレフタレート樹脂積層板100において、ポリブチレンテレフタレート樹脂層11は、基材15への積層面とは反対の面(第2面10b)において、60°光沢度が5.0~15.0%であることを特徴とする。すなわち、ポリブチレンテレフタレート樹脂層11は、基材15への積層面とは反対の面において、凹凸形状を有しており、その凹凸形状により上記光沢度の値が実現される。なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂層11の60°光沢度は、JIS Z8741に準拠して、光沢計を用いて、60°鏡面光沢を測定することにより求めることができる。
【0060】
なお、本実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂層11において上記第2面10bの60°光沢度は、8.0~12.0%であることが、マット調の外観の観点からはさらに好ましい。
【0061】
さらに本実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂層11は、基材15への積層面とは反対の面(第2面10b)において、表面性状におけるRvが12.2μm以下、Rtが26.4μm以下、Rkuが2.7以下、である、ことを特徴とする。
【0062】
表面性状におけるRv、Rt、及び、Rkuの値を、上記数値範囲内にすることにより、本実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂層11の汚染回復率を向上させることができる。なお本実施形態の汚染回復率は、上述のポリブチレンテレフタレートフィルム10と同様に測定及び評価が可能である。すなわち、JIS A1718に準拠し、樹脂層のエンボス面(第2面10b)にカーボンブラックのワセリンペーストを擦り込んだ後、中性洗剤による洗浄を行い、除去性を確認することで評価できる。
【0063】
なお、上記した汚染回復率の観点から、本実施形態におけるポリブチレンテレフタレート樹脂層11は、表面性状におけるRzが14.3μm~22.1μmであることが、さらに好ましい。
【0064】
本実施形態におけるポリブチレンテレフタレート樹脂層11は、基材15への積層面とは反対の面において、JIS K 5600における引っかき硬度(鉛筆法)に基づいて、表面硬度HB以上であることが好ましい。
【0065】
本実施形態におけるポリブチレンテレフタレート樹脂層11は、その厚みが35μm~120μmであることが好ましい。
【0066】
(基材15について)
一方で、本実施形態におけるポリブチレンテレフタレート樹脂積層板100は、基材15としては、特に限定されないが、鋼板や、その他金属板(たとえば、アルミニウム板)などを用いることができる。鋼板としては、冷延鋼板、冷延鋼板に亜鉛、亜鉛合金、アルミニウム合金などをめっきしためっき鋼板、冷延鋼板に電解クロム酸処理、リン酸クロメート処理、各種のノンクロム処理などの化成処理を施した表面処理鋼板、またはこれらのめっき鋼板にこれらの化成処理を施した表面処理めっき鋼板などを用いることが好ましい。
【0067】
本実施形態におけるポリブチレンテレフタレート樹脂積層板100において、基材15の厚みは、特に制限されるものではないが、例えば0.18mm~1.2mm程度の厚みが適用可能である。
【0068】
基材15とポリブチレンテレフタレート樹脂層11との積層界面には、図示しない接着剤層が形成されていてもよいし、形成されていなくてもよい。言い換えれば、ポリブチレンテレフタレート樹脂層11と基材15とは、接着剤により積層されてもよいし、接着剤を用いずに熱圧着等の方法で積層されてもよい。
【0069】
基材15とポリブチレンテレフタレート樹脂層11との間に形成され得る接着剤層の種類としては、公知の樹脂積層用の接着剤が挙げられる。具体的には、ポリエステル系、ウレタン系、アクリル系又はエポキシ系等の接着剤を適宜用いる事ができる。
【0070】
なお、基材15とポリブチレンテレフタレート樹脂層11との間には、別の樹脂層が形成されていてもよい。これらの別の樹脂層としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、などを挙げることができる。また、ポリブチレンテレフタレート樹脂層11は、上述のとおり、ポリブチレンテレフタレートフィルムの第1面10aと化粧柄が印刷された着色樹脂フィルムとを接着剤を介して積層した印刷化粧シートを適用することができる。なお、基材15と当該別の樹脂層との間や、当該別の樹脂層とポリブチレンテレフタレート樹脂層11との間は、公知の接着剤を用いて積層されていてもよい。
【0071】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂積層板の製造方法]
次に、本実施形態におけるポリブチレンテレフタレート樹脂積層板の製造方法について説明するが、本発明は以下の記載に制限されるものではない。
【0072】
本実施形態におけるポリブチレンテレフタレート樹脂積層板の製造方法としては、(iv)金属板をポリブチレンテレフタレート樹脂の融点±10℃に加熱する金属板加熱工程、及び、(v)加熱した前記金属板の少なくとも片面に、表面性状におけるRvが14.1μm以下、Rtが29.7μm以下、Rkuが3.0以下のエンボス面を有するポリブチレンテレフタレートフィルムを、前記エンボス面とは反対側の面を当接して一対のロールで圧接する圧接工程、を含む。
【0073】
具体的には、本実施形態におけるポリブチレンテレフタレート樹脂積層板の製造方法は、上述した本実施形態におけるポリブチレンテレフタレートフィルム10を、加熱した基材15に圧接して積層する方法であってもよい。
【0074】
上記(iv)金属板加熱工程は、公知のラミネート板製造ライン等を用いて、基材15となる金属板を、積層するフィルム状態の樹脂の融点付近の温度に加熱する工程である。
【0075】
上記工程により、接着剤を用いずに樹脂を基材となる金属板に積層することが可能となる。また、積層するフィルム表面に形成されたエンボス面の形状(表面性状パラメータ)を好ましい範囲に保ったままで基材に積層することができる。なお、フィルム状態の樹脂を基材に積層する際に接着剤を用いる場合には、基材又はフィルムの積層面に予め接着剤層を形成しておくことが可能である。
【0076】
本実施形態では、積層されるポリブチレンテレフタレート樹脂の融点が220~230℃であるため、基材15となる金属板を210~240℃に加熱することが好ましい。なお、金属板の加熱温度を、樹脂の融点±10℃の範囲内とする理由としては、基材と樹脂との密着性の観点や、熱による樹脂の性質変化を抑制する観点、樹脂フィルム表面のエンボス形状を好ましい範囲に維持する観点、等が挙げられる。
【0077】
また、本実施形態の(v)圧接工程について、一対のロールを用いて、上記(iv)金属板加熱工程で加熱された基材15となる金属板と、片面にエンボス形状を有するポリブチレンテレフタレートフィルムとを、接触させて積層させる(熱圧着する)工程である。この際、フィルムのエンボス形状が無い面が加熱された基材15に接触して熱圧着される。また、熱圧着された樹脂積層板は、引き続き後述のとおり冷却される。よって、フィルムのエンボス形状は、表面性状パラメータが好ましい範囲内に維持される。
【0078】
具体的に、積層されるポリブチレンテレフタレートフィルムは、その片面に、表面性状におけるRvが14.1μm以下、Rtが29.7μm以下、Rkuが3.0以下のエンボス面を有する。一方で、上記熱圧着の際に、一対のロールで圧接されるため、得られた樹脂積層板における樹脂層のエンボス面は、表面性状におけるパラメータが積層前と比較して変化する。具体的には、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂積層板における樹脂層のエンボス形状は、表面性状において、Rvが12.2μm以下、Rtが26.4μm以下、Rkuが2.7以下、であることが好ましい。
【0079】
上記(iv)金属板加熱工程を経た後、得られた樹脂積層板は冷却工程に送られることが好ましい。具体的には、冷却ロール、水スプレー、水冷槽、等の公知の冷却設備により冷却することができる。
【0080】
なお、本実施形態におけるポリブチレンテレフタレート樹脂積層板の製造方法は、下記のような方法であってもよい。すなわち、エンボス形状の形成されていないポリブチレンテレフタレートフィルムを金属板に積層した後、当該積層金属板上のポリブチレンテレフタレート樹脂が融点以上となるまで加熱し、金属エンボスロールとゴム製のニップロールで挟み込んでエンボス形状を成形することにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂積層板を製造してもよい。この場合、表面性状としてRvが17.6μm以下、Rtが37.1μm以下、Rkuが3.75以下、の金属エンボスロールを使用することにより、表面硬度が高く、厨房や浴室等の温度や湿度の高い箇所に適用しても汚染物質の除去性が高く、さらに、つや消し(マット調)の外観を有する、ポリブチレンテレフタレート樹脂積層板を製造することができる。
【0081】
[パネル]
実施形態におけるパネル200について以下に説明するが、下記に限定されるものではない。
【0082】
図4に示すように、本実施形態におけるパネル200は、主にはユニットバス用又はキッチン用に適用できる。パネル200は、樹脂エンボス面10bを有するポリブチレンテレフタレート樹脂層11と、前記樹脂エンボス面10bとは反対側の面に積層された基材15と、を備える。基材15は、ポリブチレンテレフタレート樹脂層11側から順に、金属第1基材15a、バック層15b、非金属層15c、金属第2基材15d、を含む。
【0083】
金属第1基材15aは、ポリブチレンテレフタレート樹脂層11を支持すると共に、パネル全体に強度を付与する機能を有する。金属第1基材15aとしては、上述と同様に、鋼板、ティンフリースチール、アルミニウム合金板、亜鉛めっき鋼板、亜鉛-コバルトーモリブデン複合めっき鋼板、亜鉛-ニッケル合金めっき鋼板、亜鉛-鉄合金めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板、ニッケルめっき鋼板、銅めっき鋼板あるいはステンレス鋼板などの金属板を使用できる。
【0084】
なお、金属第1基材15aとして磁性体を使用することにより、パネル200全体を磁性建材として使用することができる。具体的には、パネル200をキッチン用パネルとした場合に、マグネットで設置可能なフックやラックをパネル200表面に取り付ける事ができる。
【0085】
バック層15bは、上述の金属第1基材15aと非金属層15cとを接着させる機能を有する。バック層15bとしては、熱可塑性樹脂からなる接着剤、熱硬化性樹脂からなる接着剤、またはゴム系接着剤、熱硬化性塗料等を、適宜選択することができる。
【0086】
非金属層15cは、ユニットバス又はキッチン用パネル全体に厚みを付与しつつ、軽量化ができ、断熱性や耐火性等の機能を有する。非金属層15cとしては具体的には、石膏ボード、珪酸カルシウムボード、石綿スレートボードなどの無機質からなるボードを用いることができる。その他、例えば、木材単板、木材合板、パーチクルボードあるいはMDF等の木質板を適用してもよい。
【0087】
金属第2基材15dは、上述の金属第1基材15aと同種の金属であってもよいし、異なる金属であってもよい。
【0088】
なおパネル200の厚みとしては、特に制限はなく、用途に応じて適宜厚さを調整可能である。また、パネル200の基材15における各構成要素間の積層は、接着剤による積層など、適宜公知の方法を適用することができる。また本実施形態のパネル200において、バック層15b、非金属層15c、金属第2基材15d、は、必須の構成要件ではなく、用途に応じて適宜省略可能である。さらには、バック層15b、非金属層15c、金属第2基材15dは、パネル用途等に応じて、これらの積層順を適宜変更することもできるし、図示しない他の層を適宜追加することもできる。
【実施例0089】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0090】
(実施例1)
[金属エンボスロールのエンボス面の調整]
ポリブチレンテレフタレートフィルム表面にエンボス付与するため、金属エンボスロールにおけるエンボス面を、以下のように調整した。
幅1400mm×直径400mmの金属ロール表面に、電気めっきにより、厚み200μmの硬質Cuめっき層を形成した。次いで、得られた硬質Cuめっき層に、版深40μmの砂目柄エッチングを施した。得られたエッチング表面に酸洗処理を施し、エッチング表面をなだらかにした。酸洗処理後の版深は25μmであった。研磨材により研磨を行った後、厚み30μmの硬質クロムめっき層を形成した。このように、砂目柄エッチング、及び、その後の酸性処理により、表1に示す表面性状パラメータ(Ra、Rz、Rv、Rt、及びRku)のエンボス面を有する金属エンボスロールを得た。
【0091】
[ポリブチレンテレフタレートフィルムの作製]
ポリブチレンテレフタレート樹脂ペレット(融点:223℃、軟化点:180~190℃)を、250℃程度に加熱し、混練し、押出成形機の一対のロールセットに挟み込みながらエンボス付与した。なお、一対のロールセットは、上述の金属エンボスロール及びゴムロールから構成されるものとした。
【0092】
一対のロールセットに挟み込んだ樹脂を、次いで、冷却ローラーの表面に沿わせた後に巻き取った。このようにして、90μmの厚さの、片面にエンボス形状を有するポリブチレンテレフタレートフィルムを得た。得られたポリブチレンテレフタレートフィルムにおける、フィルムエンボス面の表面性状パラメータ(Ra、Rz、Rv、Rt、及びRku)は、各々、表2に示すとおりであった。
【0093】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂積層板の作製]
基材である金属板として、板厚0.40mmの溶融亜鉛めっき鋼板を準備した。基材の積層面にポリエステルウレタン系接着剤を塗布した後、基材を、ポリブチレンテレフタレート樹脂の融点±10℃に加熱した。上記で得られたポリブチレンテレフタレートフィルムを巻き戻しつつ、フィルムのエンボスを有しない面を基材に接触させ、一対のロールにより熱圧着した。このようにして、基材上にポリブチレンテレフタレート樹脂層を有する、ポリブチレンテレフタレート樹脂積層板を得た。得られたポリブチレンテレフタレート樹脂積層板において、ポリブチレンテレフタレート樹脂層のエンボス面の表面性状パラメータ(Ra、Rz、Rv、Rt、及びRku)は、表3に示すとおりであった。
【0094】
<表面性状パラメータの測定>
ポリブチレンテレフタレートフィルム、及び、ポリブチレンテレフタレート樹脂積層板において、それぞれのエンボス面における表面性状パラメータである、算術平均高さRa、最大高さRz、最大谷深さRv、最大断面高さRt、クルトシスRku、の各値は、ISO 4287:1997に準拠して、以下のように測定した。触針式表面形状測定装置(Mitutoyo SJ-210)を使用し、測定長13.5mm、λc2.5mm、λs8.0μm、の条件で測定を行い、上述の各表面性状パラメータを得た。
【0095】
<60°光沢度の測定>
得られたポリブチレンテレフタレートフィルムのフィルムエンボス面、及び、ポリブチレンテレフタレート樹脂積層板の樹脂エンボス面(実施例1~10、比較例1~3)について、60°鏡面光沢度を測定した。測定は、JIS Z 8741に基づき、以下の条件にて行った。測定条件を以下に示す。また、測定結果を表1に示す。
製造会社: 日本電色工業株式会社
測定機器名: 光沢計VG-2000
測定方法: 鏡面光沢
測定角度: 60°
照明: ハロゲンランプ(電圧5V、電力9W、定格寿命5000時間)
測定面積: 14mm×45mm
検出素子: シリコンフォトセル(高速応答型)
測定温度: 23℃
標準板: 黒色
【0096】
<表面硬度の測定>
JIS K-5600に従い、引っかき硬度(鉛筆法)により評価を行った。
【0097】
<汚染回復率の測定及び評価>
得られたポリブチレンテレフタレートフィルムのフィルムエンボス面、及び、ポリブチレンテレフタレート樹脂積層板の樹脂エンボス面(実施例1~10、比較例1~3)について、JIS A1718に準拠した方法で、汚染回復率の測定及び評価を行った。まず、ポリブチレンテレフタレートフィルム、又は、ポリブチレンテレフタレート樹脂積層板を、100mm四方に切断し試験片とした。白色ワセリンとカーボンブラックを10:1の割合で混練した汚染物質1gを、試験片に、布で縦横それぞれ5往復均等に擦り込んだ。次に、布と5%化粧石鹸水で、汚染物質を縦横それぞれ10往復均等に拭き取った。試験前後で、試験片の拡散反射率を測定した。汚染回復率をYとし、「Y=Y1/Y0×100」の式により算出した。なお、Y0は試験前の拡散反射率、Y1は試験後の拡散反射率である。
【0098】
(実施例2~10)
金属エンボスロールのエンボス面、フィルムエンボス面、樹脂層エンボス面をそれぞれ表のとおりとした以外は、実施例1と同様に行った。得られた60°光沢度、表面硬度、汚染回復率の値を、それぞれ表に示した。また、実施例8~10については、樹脂層エンボス面の拡大写真(レーザー顕微鏡画像)を
図5に示した。さらに、実施例8、実施例10、比較例2については、汚染回復率の試験後における外観写真を
図6に示した。
【0099】
(参考例)
市販のポリエステル樹脂積層板である、表面にエンボス形状を有する、1,4-シクロヘキサンジメタノールが共重合されたポリエチレンテレフタレート(以下「PET/CHDM」と称す)樹脂積層板を、参考例として評価した。なお、PET/CHDM樹脂は非晶性樹脂であった。樹脂層エンボス面の三次元表面性状パラメータ(Ra、Rz、Rv、Rt、及びRku)、60°光沢度、表面硬度の値は、各々、表3に記載のとおりであった。得られた汚染回復率を表3に示した。
【0100】
(比較例1)
金属エンボスロールのエンボス面は、以下のとおり調整した。すなわち、鉄素地に、放電加工により版深48μmのエンボス面を形成した後、厚み60μmの硬質クロムめっきを形成した。得られたロールエンボス面の表面性状パラメータ(Ra、Rz、Rv、Rt、及びRku)は、表1に示すとおりであった。その他は、実施例1と同様に行った。得られたポリブチレンテレフタレートフィルム及びポリブチレンテレフタレート樹脂積層板における、エンボス面の表面性状パラメータ(Ra、Rz、Rv、Rt、及びRku)の値は、それぞれ、表2及び表3のとおりであった。また、汚染回復率を表3に示した。
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
実施例1~10によれば、本実施形態によるポリブチレンテレフタレートフィルム及びポリブチレンテレフタレート樹脂積層板は、高い表面硬度、及び、マット調の外観を有するエンボス面を備えつつ、汚染物質の除去性(汚染回復率)において優れた結果となった。
【0105】
一方で、比較例1によれば、ポリブチレンテレフタレートフィルム又はポリブチレンテレフタレート樹脂層のエンボス面の表面性状におけるRv、Rt、及びRkuの値が範囲外である場合、汚染物質の除去性(汚染回復率)において、好ましくない結果となった。なお、参考例の表面硬度はBであった。PET/CHDM樹脂は非晶性であり、PBT樹脂のような高い表面硬度を発現するのは困難と考えられる。
本開示によれば、ユニットバス用やキッチン用のパネルにおいて、外観をマット調とする表面の凹凸形状を備えつつ、カビ、油脂等の汚染物質が付着した際の除去性(汚染回復率)の高いポリブチレンテレフタレートフィルム及びポリブチレンテレフタレート樹脂積層板を提供することができ、産業上の利用可能性が極めて高い。