(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034867
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】凝集剤注入制御装置、凝集剤注入制御方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
B01D 21/30 20060101AFI20240306BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20240306BHJP
B01D 21/32 20060101ALI20240306BHJP
C02F 1/52 20230101ALI20240306BHJP
【FI】
B01D21/30 A
B01D21/01 B
B01D21/32
C02F1/52 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139394
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】有村 良一
(72)【発明者】
【氏名】小林 伸次
(72)【発明者】
【氏名】小城 和高
(72)【発明者】
【氏名】横山 雄
(72)【発明者】
【氏名】金谷 道昭
【テーマコード(参考)】
4D015
【Fターム(参考)】
4D015BA21
4D015BA28
4D015CA14
4D015EA03
4D015EA32
4D015FA02
4D015FA15
(57)【要約】
【課題】 凝集剤の注入量をより適切に制御することができる凝集剤注入制御装置を提供する。
【解決手段】 実施形態による凝集剤注入制御装置1は、凝集剤が注入された被処理水である混和水におけるフロックの凝集状態を制御量とし、被処理水に対する凝集剤の注入量を操作量としてフィードバック制御を行う凝集剤注入制御部12と、フィードバック制御における制御量の目標値を、凝集剤が注入された被処理水のフロックの荷電状態の分布情報に基づいて決定する制御目標値決定部11と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝集剤が注入された被処理水である混和水におけるフロックの凝集状態を制御量とし、被処理水に対する凝集剤の注入量を操作量としてフィードバック制御を行う凝集剤注入制御部と、
前記フィードバック制御における前記制御量の目標値を、前記凝集剤が注入された被処理水のフロックの荷電状態の分布情報に基づいて決定する制御目標値決定部と、
を備える凝集剤注入制御装置。
【請求項2】
前記制御目標値決定部は、前記凝集剤が注入された被処理水のフロックの荷電状態の分布情報において、個々のフロックの荷電状態と、フロックの個数と、に少なくとも基づいて前記制御量の目標値を決定する、
請求項1に記載の凝集剤注入制御装置。
【請求項3】
前記制御目標値決定部は、所定の荷電状態の条件を満たすフロックの個数が第1閾値以上であるときに前記制御量の目標値を増加させ、所定の荷電状態の条件を満たすフロックの個数が第2閾値未満であるときに前記制御量の目標値を減少させる、請求項2記載の凝集剤注入制御装置。
【請求項4】
前記制御目標値決定部は、前記凝集剤が注入された被処理水のフロックの荷電状態の分布情報において、個々のフロックの荷電状態と、個々のフロックの荷電状態の値を積算した積算値と、に少なくとも基づいて前記制御量の目標値を決定する、
請求項1に記載の凝集剤注入制御装置。
【請求項5】
前記制御目標値決定部は、所定の荷電状態の条件を満たすフロックの荷電状態を積算した積算値が第3閾値以上であるときに前記制御量の目標値を増加させ、所定の荷電状態の条件を満たすフロックの荷電状態を積算した積算値が第4閾値未満であるときに前記制御量の目標値を減少させる、請求項4記載の凝集剤注入制御装置。
【請求項6】
前記制御目標値決定部は、所定時間の後にプラントに流入することが予想される原水の濁度に基づいて、前記制御量の目標値を調整する、
請求項1に記載の凝集剤注入制御装置。
【請求項7】
前記混和水の電気泳動中の個々のフロックの移動速度、易動度、および、前記混和水のゼータ電位の少なくともいずれかに基づいて前記混和水におけるフロックの荷電状態の指標値を測定する凝集状態測定部を備える、
請求項1に記載の凝集剤注入制御装置。
【請求項8】
凝集剤が注入された被処理水である混和水におけるフロックの荷電状態を制御量とし、被処理水に対する凝集剤の注入量を操作量としてフィードバック制御を行い、
前記フィードバック制御における前記制御量の目標値を、前記凝集剤が注入された被処理水のフロックの荷電状態の分布情報に基づいて決定する、
凝集剤注入制御方法。
【請求項9】
凝集剤が注入された被処理水である混和水におけるフロックの荷電状態を制御量とし、被処理水に対する凝集剤の注入量を操作量としてフィードバック制御を行う凝集剤注入制御ステップと、
前記フィードバック制御における前記制御量の目標値を、前記凝集剤が注入された被処理水のフロックの荷電状態の分布情報に基づいて決定する制御目標値決定ステップと、
をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、凝集剤注入制御装置、凝集剤注入制御方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
水処理プラントでは、処理すべき原水への凝集剤の注入量を制御する凝集剤注入制御装置が用いられている。しかしながら、従来の凝集剤注入制御装置による制御では、凝集剤の注入量を原水の水質や、運用事業者のニーズである処理水質のレベルに応じて適切に制御することができず、処理後の水の水質が安定しない場合があった。特に、近年では、局所豪雨や台風等の発生頻度が上昇しており、高濁度の原水が比較的短時間に発生するという状況が多く発生している。そのため、このような短時間での原水の変化に対しても適切に凝集剤流入量を制御できる技術が求められている。また、処理後の水の水質の悪化を避けるために、あらかじめ多くの凝集剤を注入しているケースもあり、こういった場合、凝集剤コストの増加や汚泥発生量の増加に伴う汚泥処分コストの増加につながっていた。運用業者においては、より低コストで確実な凝集処理を行うことができる技術が求められている。
【0003】
従来、例えば、浄水場、下水処理場、又は産業排水処理施設等では、処理すべき原水へ凝集剤を注入し、原水中に含まれる懸濁物等をフロック化する。そして、生成されたフロックを沈降分離することで原水中に含まれる懸濁物等を除去する。さらに、この操作の後の沈澱処理水を、砂ろ過にてろ過することで、沈降分離では除去されなかった微細なフロックを除去する。凝集剤としては、例えば、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、及び硫酸アルミニウム(硫酸ばんど)といったアルミニウム系の無機凝集剤が広く用いられる。その他、鉄系凝集剤、並びに、カチオン性及びアニオン性の有機の高分子凝集剤も用いられている。
【0004】
例えば、浄水場において使用する河川やダム湖の原水中の懸濁物は、通常、負に帯電しており、電気的に反発しあって水中に存在している。ここにプラス電荷の凝集剤を添加し、撹拌することで、懸濁物と凝集剤が電気的に引き合い、懸濁物の負電荷が中和されていく。これにより反発力が小さくなり、懸濁物の結合が進みやすくなりフロック化が進む。例えば、浄水場においては、大きなプラス電荷をもつアルミ系の無機凝集剤を原水に添加し、懸濁物をフロック化して沈澱させている。このとき、沈澱池出口の濁度は処理水質の管理指標の一つである。沈澱池出口の濁度に影響を及ぼす要素は、原水濁度、凝集剤の注入量、pH、水温、アルカリ度、混和池での撹拌強度、沈澱池の形状、沈澱池への傾斜板の設置の有無、及び滞留時間等がある。
【0005】
浄水場において沈澱池出口濁度を良好な値(例えば、濁度0.5度程度)に保つための適切な凝集剤の注入率は、原水の水質変動に影響を受けて絶えず変化する。ここで、凝集剤の注入結果が、沈澱池出口における濁度に反映されるまでの時間は、処理プロセスを流れている被処理水の滞留時間に依存し、一般的に3~6時間程度である。このため、沈澱池出口における濁度を測定し、その測定結果に基づいて凝集の良否を判断し、凝集剤の注入率を制御するのでは、原水の水質が刻一刻と変化している場合では、対応が遅くなってしまう。
【0006】
水質変動が生じた際に対応を早くするため、原水の濁度及び水温等から凝集剤の注入率を演算するフィードフォワード制御(以下、FF制御)が用いられている場合がある。しかしながら、FF制御は、過去の経験に基づいてFF制御の演算式を作成し、演算式に基づいて凝集剤の注入量を決定するため、演算式の作成に用いた過去の運転実績の影響を受ける。例えば、過去の運転実績が最適な注入量よりも多めであった場合、又は安全面を考慮して多めの注入を行っていた場合等には、それらに基づいた演算式であれば、凝集剤の注入率が多めに演算される傾向がある。この結果、凝集剤の過剰注入を招き、凝集剤コストの増大をもたらしてしまう。また、過剰な凝集剤の使用は汚泥の増量につながるため、汚泥処理コストの増加、及び汚泥中のアルミ含有量増加により汚泥の再利用を妨げる等の弊害をもたらしてしまう。
【0007】
その他、FF制御を運用していくにあたっては、ベテランの運転員により絶えず微調整がされている場合がある。その日その日の原水水質や処理水質を監視しながら、運転員がFF制御のパラメータを調整している場合である。この方式は、処理後の水の水質がベテラン運転員の経験やノウハウに依存してしまい、技術継承が課題となっている浄水場の運転管理においては、将来的には安定した処理が見込めない可能性がある。
【0008】
そこで、処理過程の水質指標や凝集物の性状を表す指標を用いて、凝集反応における凝集状態の良否を定量的に表すことで凝集剤注入量を制御する開発がなされている。この方式は、凝集剤注入後の凝集状態に基づいて凝集剤注入量を調整するので、従来のやり方とは異なりフィードバック制御方式である。最適な凝集剤注入率を決定する際に、原水の水質に影響を受けない凝集状態の判別指標として、凝集剤注入後のフロックの荷電状態が挙げられる。荷電状態を測定する方法はいくつか開発されているが、そのなかでも電気泳動法と画像処理とによって測定される凝集物の荷電状態から凝集剤注入率を汎用的に設定する方法が提案されている。
【0009】
電気泳動法によって測定されるフロックの荷電状態から凝集剤注入率を制御する方式では、例えば、個々のフロックの電気泳動の速度を表す情報を用いる。この個々のフロックの電気泳動の速度を表す情報に基づいて、混和水中のフロックの電気泳動の速度の平均値を算出する。1回の測定での情報取得時間は1~5分である。この間、個々のフロックは数10個から数100個観測される。ここでは、各フロックの電気泳動の速度を統計的に処理することにより、1回の測定における電気泳動速度の平均値を求めている。
【0010】
凝集剤注入率の制御においては、測定されたフロックの電気泳動速度の平均値と荷電状態の目標値とを用いて凝集剤注入率を制御する。制御方式としては、一般的なフィードバック制御であり、例えば、P制御やPI制御やPID制御が用いられる。フィードバック制御においては、フロック荷電状態の制御目標値を設定する必要がある。ここでは、運転員が手入力で目標値を設定してもよいし、原水水質や処理水質、ろ過池の目詰まりの速度の情報から目標値を演算してもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第6270655号公報
【特許文献2】特開2020-142188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のような電気泳動法と画像処理とによりフロックの荷電状態を連続的に計測し、凝集剤注入率をフィードバック制御する制御システムにおいては、次のような課題があった。例えば、浄水場において、原水の水質は季節的にも変動するため、それに合わせてフロック荷電状態の制御目標値を絶えず調整しなければ、常に安定した処理水質を得ること難しかった。また豪雨時などに見られる高濁度原水時においても、原水水質が大きく変動するため、これを適切に処理することを考えると、短期間にフロック荷電状態の制御目標値を調整する必要があり、これを運転員の手入力で実施するには負担が大きい。
【0013】
本発明の実施形態は上記事情を鑑みて成されたものであって、凝集剤の注入量をより適切に制御することができる凝集剤注入制御装置、凝集剤注入制御方法及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
実施形態の凝集剤注入制御装置は、凝集剤が注入された被処理水である混和水におけるフロックの凝集状態を制御量とし、被処理水に対する凝集剤の注入量を操作量としてフィードバック制御を行う凝集剤注入制御部と、前記フィードバック制御における前記制御量の目標値を、前記凝集剤が注入された被処理水のフロックの荷電状態の分布情報に基づいて決定する制御目標値決定部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、第1実施形態の凝集剤注入制御装置が適用された水処理プラントのシステム構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す水処理プラントのシステムにおいて分取流路に設けられるセルの一例を概略的に示す図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態の凝集剤注入制御装置において凝集剤が注入された被処理水である混和水におけるフロックの凝集状態を表す荷電状態の分布情報の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、水処理プラントにおいて高濁度の原水が流入した際に用いられる凝集剤注入率の設定値の一例を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、第1実施形態の凝集剤注入制御装置が凝集状態目標値を制御目標値として決定する際に用いる、荷電状態が不充分のフロックの存在を表すヒストグラムの一例を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、第1実施形態の凝集剤注入制御装置が凝集状態目標値を制御目標値として決定する際に用いる、荷電状態が不充分のフロックの存在を表すヒストグラムの一例を示す図である。
【
図6A】
図6Aは、第1実施形態の凝集剤注入制御装置において凝集剤が注入される前の原水中粒子の荷電状態の分布情報の一例を示した図である。
【
図6B】
図6Bは、第1実施形態の凝集剤注入制御装置において凝集剤注入後であって濁度上昇前の被処理水の荷電状態の分布情報一例を示した図である。
【
図6C】
図6Cは、第1実施形態の凝集剤注入制御装置において凝集剤が注入された後の被処理水における荷電中和不足のフロックが増加することを示した分布情報の一例を示した図である。
【
図6D】
図6Dは、第1実施形態の凝集剤注入制御装置において凝集剤が注入される前の原水中粒子の荷電状態の分布情報の一例を示した図である。
【
図6E】
図6Eは、第1実施形態の凝集剤注入制御装置において凝集剤注入後であって濁度上昇前の被処理水の荷電状態の分布情報一例を示した図である。
【
図6F】
図6Fは、第1実施形態の凝集剤注入制御装置において凝集剤が注入された後の被処理水における荷電中和不足のフロックの増加を抑制していることを示した分布情報の一例を示した図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態の凝集剤注入制御装置による、高濁度原水時における制御目標値の自動調整例を示す図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態の凝集剤注入制御装置による制御目標値の自動調整の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、第1実施形態の凝集剤注入制御装置による制御目標値の自動調整の手順の他の例を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、第1実施形態の凝集剤注入制御装置による制御目標値(SV)の自動調整の結果の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、第2実施形態における水処理プラントのシステム構成の一例を概略的に示す図である。
【
図12】
図12は、第2実施形態の凝集剤注入制御装置が適用された水処理プラントのシステム構成の一例を概略的に示す図である。
【
図13】
図13に、第2実施形態の凝集剤注入制御装置が備える、流水質計の濁度と制御目標値との対応表の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態の凝集剤注入制御装置、凝集剤注入制御方法及びコンピュータプログラムを、図面を参照して説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の凝集剤注入制御装置が適用された水処理プラントのシステム構成の一例を示す図である。
【0017】
水処理プラントは、処理対象の水に含まれる懸濁物質等の固形物を凝集剤によって凝集させ、凝集した固形物の重力沈降によって固形物を被処理水から分離する固液分離プロセスを実現する設備である。以下では、水処理プラントが処理対象とする水、又は水処理プラントが処理中の水を「被処理水」といい、水処理プラントによる処理を終えて放流可能又は再利用可能となった水を「処理済み水」という。また、以下では、水処理プラントの内外から固液分離プロセスに流入する被処理水のうち、流入直後の被処理水を「原水」という。換言すれば、原水は初期状態の被処理水であり、凝集剤が未注入のものである。
【0018】
また、以下に説明する実施形態の凝集剤注入制御装置が適用されるシステムは、上述のような固液分離プロセスを実現するものであれば特定の水処理プラントや水処理設備に限定されない。例えば、実施形態の凝集剤注入制御装置は、浄水場等の水処理プラントに適用されてもよいし、製紙工場や食品工場などの各種工場に設けられた水処理設備に適用されてもよい。例えば、浄水場においては、河川水やダム湖水、地下水、雨水、下水等が原水となりうる。また、製紙工場や食品工場等の産業プラントでは、それらの工業排水が原水となりうる。このような凝集剤注入制御装置の適用先の一例として、
図1に浄水場において固液分離プロセスを実現する水処理プラント100を示す。
【0019】
水処理プラント100は、固液分離プロセスを実現する各種設備と、凝集剤注入制御装置1と、を備える。例えば、水処理プラント100は、固液分離プロセスを実現する設備として、着水井3、急速混和池4(混和池)、フロック形成池5、沈澱池6、濾過池7、凝集剤注入装置8、および、pH調整剤注入装置10を備える。被処理水は、河川やダム湖から導水され、まず着水井3に着水した後、急速混和池4、フロック形成池5、沈澱池6、濾過池7の順に送られる。すなわち、被処理水の流れに関して最も上流に位置する設備が着水井3であり、最も下流に位置する設備が濾過池7である。
【0020】
着水井3は、水処理プラント100に流入する原水を貯える貯水槽である。着水井3では、植物や土砂等の比較的比重の大きい固形物が重力沈降し、その上澄み水が被処理水として後段の急速混和池4に送られる。なお、着水井3には原水水質計31が備えられる。
【0021】
原水水質計31は、着水井3に着水した原水の水質を測定する。具体的には、原水水質計31は、固液分離プロセスの処理結果に影響する可能性のある水質の指標値を測定する。原水水質計31は、例えば、原水の濁度や色度、水温、導電率、pH(水素イオン濃度指数)、アルカリ度、紫外線吸光度等の諸量を測定する。原水の紫外線吸光度は、原水に含まれる有機物量の指標値として用いることができ、その測定には例えば260nmの波長の紫外線が用いられる。原水水質計31によって測定された各種指標値はプラントデータとして凝集剤注入制御装置1に入力される。
【0022】
また、着水井3と急速混和池4との間の配水管には流量計32が備えられる。
流量計32は、着水井3から急速混和池4に送られる被処理水の流量を測定する。流量計32によって測定された流量はプラントデータとして凝集剤注入制御装置1に入力される。
また着水井3と急速混和池4との間の配水管には、着水井3から送られてきた被処理水にpH調整剤を注入し、被処理水のpHが、凝集がより適切に行われるpHに調整される。被処理水に注入されるpH凝集剤は、例えば、酸性側に調整する硫酸、アルカリ性側に調整する苛性ソーダ等の薬剤であり、pH調整剤注入装置10によって行われる。
【0023】
急速混和池4は、着水井3から送られてきた被処理水に凝集剤を注入し、凝集剤が注入された被処理水を急速攪拌するための貯水槽である。混和水に注入される凝集剤は、例えばポリ塩化アルミニウム(PAC:Poly Aluminum Chloride)や硫酸アルミニウム(硫酸ばんど)等の薬剤であり、凝集剤注入装置8によって行われる。また、急速混和池4には急速攪拌機41が備えられる。
【0024】
急速攪拌機41は、急速混和池4において凝集剤が注入された被処理水を攪拌する。例えば、急速攪拌機41はフラッシュミキサである。急速攪拌機41は、一定の攪拌速度で動作するものであってもよいし、モータの制御によって攪拌速度を調節できるものであってもよい。急速混和池4では、凝集剤の注入、及び急速攪拌機41の攪拌によって被処理水中に微小なフロックが形成される。このような微小なフロックを含む被処理水は後段のフロック形成池5に送られ、フロック形成池5以降の設備においてフロックのさらなる集塊化が促進される。
【0025】
また、急速混和池4とフロック形成池5との間の配水管には混和水水質計42が備えられる。
混和水水質計42は、凝集剤が注入された被処理水(以下「混和水」ともいう。)の水質を測定する。具体的には、混和水水質計42は、固液分離プロセスの処理結果に影響する可能性のある水質の指標値を測定するとともに、混和水中のフロックの凝集状態に関する指標値(以下「凝集状態指標値」という。)を測定する凝集状態測定部である。例えば、混和水水質計42は、固液分離プロセスの処理結果に影響する可能性のある、混和水の水質の指標値として、アルカリ度、pH、導電率を測定する。また、混和水水質計42は、混和水のフロックの電気泳動速度を凝集状態指標値として測定する。また混和水水質計42は、混和水のゼータ電位、流動電流値、コロイド電荷量の少なくとも一つをフロックの荷電状態の指標値として測定してもよい。混和水水質計42によって測定された各種指標値は、プラントデータとして凝集剤注入制御装置1に入力される。
【0026】
通常、水中に存在する懸濁物質は、その表面がマイナスに帯電しており、マイナス同士の反発力によって水中に安定して存在する。これにより水に濁りが生じる。一方、凝集剤は、水中ではプラスに帯電する。したがって、懸濁物質を含む被処理水に凝集剤が注入されると、凝集剤が懸濁物質に付着する。懸濁物質に付着した凝集剤は、懸濁物質のマイナスの荷電を打ち消し(以下「中和する」という。)、懸濁物質の表面電荷を0[mV]に近づける。懸濁物質の表面電荷が0[mV]に近づくと、それに伴ってゼータ電位も0[mV]に近づく。したがって、凝集剤は、懸濁物質同士の反発を弱めて衝突回数を増加させる。この凝集剤の作用により、衝突したフロック同士が徐々に集塊化していき、より大きなフロックが形成される。
【0027】
また、水処理プラント100は、凝集状態指標値である混和水のフロックの電気泳動速度を測定する具体的な手段の一例として解析部9を備える。
解析部9は、分取された混和水の一部を分析して凝集状態指標値を測定する装置(凝集状態測定部)である。
図1は、一部の混和水が急速混和池4とフロック形成池5との間の配水管から分取される構成を示す。この構成は一例であり、混和水は必ずしも急速混和池4とフロック形成池5との間の配水管から分取される必要はない。例えば、混和水は急速混和池4から採取されてもよいし、フロック形成池5から取得されてもよい。また、分取流路を設けることができない場合には、混和水の分取は人手によって行われてもよい。本実施形態では、混和水の分取は、急速混和池4とフロック形成池5との間の配水管を流れる混和水の一部を、配水管とは別の流路(以下「分取流路」という。)に流すことによって実現されるものとする。なお、解析部9は、凝集剤注入制御装置1に含まれていてもよい。
【0028】
解析部9は、凝集状態指標値を測定する構成として光源部91、撮像部92及び速度測定部93を備える。
光源部91は、分取流路を流れる混和水に光を照射する。光源部91は、例えばレーザー光や可視光を照射する光源である。光源部91は、照射する光の強度や波長を変更可能なように構成されてもよい。光源部91から照射された光は、一部が混和水中のフロックの表面で散乱され、その他は混和水を透過して撮像部92の光学系に受光される。
【0029】
撮像部92は、カメラ等の撮像装置を用いて構成される。撮像部92は、分取流路を流れる混和水を撮像可能な位置に配置される。例えば、分取流路の途中にはセルと呼ばれる透明な容器が設置され、光源部91と撮像部92とがセルを混和水の流れに対して垂直方向から挟んで対向するように配置される。このような配置により、セルを流れる混和水に流れに対して垂直な方向から光が照射され、撮像部92はセルを透過した光を受光する。撮像部92は、受光した光の強度をデジタル値に変換することによってセルを通過する混和水の画像データを生成する。撮像部92は、セルを通過する混和水を所定の撮像周期(例えば1/3秒周期)で撮像し、生成した画像データを時系列に速度測定部93に出力する。
【0030】
速度測定部93は、撮像部92から出力される画像データに基づいて混和水中のフロックの凝集状態を示す指標値(凝集状態指標値)を測定する。具体的には、速度測定部93は、フロックの電気泳動速度を凝集状態指標値として測定する。この際、流路を遮断し、流水の動きが無い状態として、流路の左右に設置した電極に電圧を加えることで、封入された混和水中のフロックが電気泳動される。また速度測定部93は、電気泳動法によって測定された、混和水の電気泳動中の個々のフロックの移動速度、易動度、混和水のゼータ電位の少なくともいずれかに基づくフロックの荷電状態の指標値として測定してもよい。速度測定部93は、撮像部92から出力される時系列の画像データを用いて混和水中のフロックの電気泳動速度を測定し、その測定データを後述する凝集剤注入制御部12および制御目標値決定部11に出力する。
【0031】
図2は、
図1に示す水処理プラントのシステムにおいて分取流路に設けられるセルの一例を概略的に示す図である。
図2には、y軸負方向から流入する混和水300をy軸正方向に通過させるセルの例を示す。セル200には、混和水300の流れに対して垂直方向の電場を形成する正極220及び負極210と、正極220及び負極210に電圧を印加する電源230が備えられる。電源230が正極220及び負極210に電圧を印加した状態で混和水300を通水することにより、セル200において混和水中のフロックの電気泳動が発生する。電圧を印加する際は、y軸方向の流路は電磁弁などにより遮断されており、電圧の印加前は、フロックはほぼ静止した状態となっている。
【0032】
電気泳動中の動きを具体的に説明すると、表面電荷がマイナスであるフロックは電圧の印加によって正極220方向(すなわちx軸(y軸と直交する方向)の負方向)に移動する。従って、表面電荷がマイナスであるフロックの電気泳動速度の平均値は負となる。一方、表面電荷がプラスであるフロックは電圧の印加によって負極210方向(すなわちx軸の正方向)に移動する。従って、表面電荷がプラスであるフロックの電気泳動速度の平均値は正となる。
【0033】
これに対して表面電荷が中和しているフロックは電場の影響をほとんど受けなくなる。そのため、表面電荷が中和しているフロックの移動方向は、電圧が印加されている状況においても一定ではない。従って個々のフロックの移動速度のばらつきが大きくなり、移動速度の電極方向への動きが小さくなる。従って、表面電荷が0に近くなることからフロックの電気泳動速度の絶対値は小さくなる。
【0034】
速度測定部93は、セル200中を電気泳動するフロックを含む混和水が撮像された画像に対してソフトウェアによる画像解析処理を施すことにより画像内のフロックを検出し、検出した個々のフロックの移動速度を求める。移動速度は、連続して撮像された画像間におけるフロックの位置と、撮像周期とに基づいて求められる。速度測定部93は、検出したフロックごとに移動速度を測定し、各フロックの移動速度の分布図(ヒストグラム)を算出する。また同時に、各フロックの移動速度から平均値(以下「平均移動速度」という。)を算出する。
【0035】
図3は、第1実施形態の凝集剤注入制御装置において凝集剤が注入された被処理水である混和水におけるフロックの凝集状態を表す荷電状態の分布情報の一例を示す図である。
図3には、各移動速度(荷電状態)についてフロック個数を示した分布図(ヒストグラム)の一例を示している。横軸の移動速度は電気泳動速度のことであり、移動速度の絶対値が大きいほど、フロックが電荷を帯びていることを示す。また、移動速度の絶対値が0に近づくほど、フロックの荷電が中和されていることを示す。
【0036】
図3に示す通り、個々のフロックの荷電状態(移動速度)は均一ではなく、ばらつきを持っている。凝集剤注入制御装置は、個々のフロックについて求めた移動速度を統計処理して平均値を求めることで、1バッチの測定における代表値として用いることができる。
なお、速度測定部93は、各フロックについて求めた移動速度の平均値の数バッチ分の移動平均をとり、この移動平均値を平均移動速度として算出してもよい。速度測定部93は、このように算出した平均移動速度を凝集状態指標値として凝集剤注入制御部12に出力する。この平均移動速度(フロックの凝集状態)がフィードバック制御における制御量として用いられる。
【0037】
フロック形成池5は、被処理水中により大きなフロックを形成するための貯水槽である。フロック形成池5には、緩速攪拌機54、55、56が備えられ、緩速攪拌機54、55、56による被処理水の攪拌によってフロックのさらなる集塊化が促進される。例えば、フロック形成池5は、
図1に示すように3つの攪拌池51、52、53に分けられ、攪拌池51、52、53の各々に緩速攪拌機54、55、56の一つが設置される。例えば、緩速攪拌機54、55、56はフロキュレータである。攪拌池51、52、53のうち攪拌池51は、被処理水の流れに関して最も上流に位置し、攪拌池53は最も下流に位置する。
【0038】
攪拌池51には急速混和池4から送られた被処理水が流入する。攪拌池51では、緩速攪拌機54による被処理水の攪拌により、微細なフロックが衝突を繰り返すことによってより大きな粒径のフロックが形成される。攪拌池51の被処理水は、所定時間の攪拌の後に後段の攪拌池52に送られる。
【0039】
攪拌池52には攪拌池51から送られた被処理水が流入する。攪拌池52では、緩速攪拌機55による被処理水の攪拌により、さらに大きな粒径のフロックが形成される。ここで、攪拌強度が強すぎると集塊化したフロックが破壊されてしまうため、緩速攪拌機55は、緩速攪拌機54よりも弱い強度で被処理水を攪拌することが望ましい。これにより、フロックのさらなる集塊化が促進される。攪拌池52の被処理水は、所定時間の攪拌の後に後段の攪拌池53に送られる。
【0040】
攪拌池53には攪拌池52から送られた被処理水が流入する。攪拌池53では、緩速攪拌機56による被処理水の攪拌により、さらに大きな粒径のフロックが形成される。ここでも、集塊化したフロックが破壊されないように、緩速攪拌機56は緩速攪拌機55よりも弱い強度で被処理水を攪拌することが望ましい。これにより、フロックのさらなる集塊化が促進される。攪拌池53の被処理水は、所定時間の攪拌の後に後段の沈澱池6に送られる。
【0041】
沈澱池6は、フロック形成池5から流入する被処理水を貯える貯水槽である。被処理水が所定時間沈澱池6に貯留されることにより、フロック形成池5において形成された粒径の大きなフロックが重力により沈降する。例えば、被処理水は、3時間程度沈澱池6に貯留される。これにより、フロックが被処理水から分離され、その上澄み水が後段の濾過池7に送られる。なお、沈澱池6の最下流部には、濾過池7に送られる被処理水に対してオゾン処理や生物活性炭処理等の付加的な処理を施す設備が備えられてもよい。また、沈澱池6に沈澱したフロックは汚泥として引き抜かれ、図示しない汚泥処理設備に送られる。また、沈澱池6の下流部には沈澱池水質計61が備えられる。
【0042】
沈澱池水質計61は、濾過池7に送られる被処理水の水質を測定する。具体的には、沈澱池水質計61は、固液分離プロセスの処理結果に関する各種指標値を測定する。例えば、沈澱池水質計61は、固液分離プロセスの処理結果に関する指標値として、被処理水の濁度及び粒子数を測定する。沈澱池水質計61によって測定された各種指標値はプラントデータとして凝集剤注入制御装置1に入力される。粒子数とは、例えば、粒径分画ごとの粒子の個数のことである。
【0043】
濾過池7は、沈澱池6から流入する被処理水を濾過する濾過設備を備えた貯水池である。濾過池7では、被処理水に残留する微小な固形物が濾過によって分離される。濾過された被処理水は処理済み水として放流又は再利用される。また、濾過池7の下流部には濾過池水質計71が備えられる。
【0044】
濾過池水質計71は、濾過池7で濾過された被処理水の水質を測定する。具体的には、濾過池水質計71は、水処理プラント100で処理された最終段階の被処理水の固液分離の処理結果に関する各種指標値を測定する。例えば、濾過池水質計71は、固液分離プロセスの処理結果に関する指標値として、被処理水の濁度及び粒子数を測定する。濾過池水質計71によって測定された各種指標値はプラントデータとして凝集剤注入制御装置1に入力される。
【0045】
このような各種の水処理設備を有する水処理プラント100において、凝集剤注入制御装置1は、入力されるプラントデータに基づいて凝集剤注入装置8が注入する凝集剤の注入量(以下「凝集剤注入量」という。)を制御する。一般に、凝集剤注入量は、単位時間当たりに注入される凝集剤の量で表される。また、凝集剤注入量は、単位時間当たりの被処理水の流量を用いて凝集剤の注入率(以下「凝集剤注入率」という。)に換算される。以下、本実施形態の凝集剤注入制御装置1の構成について詳細に説明するが、凝集剤注入量は、適宜、凝集剤注入率に置き換えることができる。
【0046】
凝集剤注入制御装置1は、制御目標値決定部11と、凝集剤注入制御部12とを備える。凝集剤注入制御装置1は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、プログラムを実行する。凝集剤注入制御装置1は、プログラムの実行によって、以下に説明する制御目標値決定部11及び凝集剤注入制御部12の種々の機能を実現することができる。なお、凝集剤注入制御装置1の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0047】
制御目標値決定部11は、凝集剤注入装置8の凝集剤注入率をフィードバック制御方式で決定する際の制御目標値を決定する。フィードバック制御は、制御量と制御目標値との偏差に基づいて操作量を変動させることで制御量を制御目標値に追従させる制御方式である。本実施形態では、制御目標値決定部11は、原水水質が季節的に徐々に変化していく場合でも、また高濁度の原水の流入時においても、沈澱池6の濁度を所定の管理目標値以下に維持することを目的として、凝集状態指標値の目標値(以下「凝集状態目標値」という。)を制御目標値として決定する。制御目標値決定部11は、決定した凝集状態目標値を凝集剤注入制御部12に出力する。
【0048】
凝集剤注入制御部12は、制御目標値決定部11によって決定された凝集状態目標値と、入力されるプラントデータ(具体的には、流量計32及び混和水水質計42の計測データ)とに基づいて、凝集剤が注入された被処理水である混和水におけるフロックの凝集状態を制御量とし、被処理水に対する凝集剤の注入量を操作量としてフィードバック制御を行う。凝集剤注入制御部12は、決定した凝集剤注入率を凝集剤注入装置8に通知する。この凝集剤注入率の制御周期は例えば5分周期で行われる。
【0049】
具体的には、凝集剤注入制御部12は、凝集状態指標値を制御量とするフィードバック制御において、制御目標値決定部11によって決定された凝集状態目標値に基づいて操作量となる凝集剤注入装置8の凝集剤注入率を決定する。例えば、凝集剤注入制御部12は、P制御(比例制御:Proportional Controller)やPI制御(比例積分制御:Proportional-Integral Controller)、PID制御(Proportional-Integral-Differential Controller)等のフィードバック制御を実行する。
【0050】
ここで、従来の凝集剤注入制御部は、原水の濁度と凝集剤注入率との対応表に基づいて、原水の濁度に応じた凝集剤注入率を決定するフィードフォワード制御を行っていた。
図4は、水処理プラントにおいて高濁度の原水が流入した際に用いられる凝集剤注入率の設定値の一例を示す図である。
【0051】
原水の濁度と凝集剤注入率との対応表の値は、原水の水質特性や水処理プラントの躯体的な要素、および撹拌機の撹拌強度により影響を受けるため、各水処理プラントにおいて、個別に検討され、設定されているのが通常である。
図4では、原水濁度に応じた凝集剤注入率の対応表であるが、凝集状態に影響する因子としては原水水温やpHおよびアルカリ度などがある。そのため、
図4のような対応表では、毎回毎回水質が異なる変化をする原水に対して汎用的に対応することが難しかった。
【0052】
さらに、実際の運用においては、対応表により決定された凝集剤注入率を、オペレータがその時の原水の水質やフロックの形成状況に応じて微調整することが多く人的負荷が高くなりがちであった。これに対して本実施形態の水処理プラント100では、凝集剤注入率が凝集状態指標値を制御目標値とするフィードバック制御によって調整されるためオペレータによる調整が不要となる。ただし、平常時とは異なる高濁度の原水が流入した場合、平常時の制御目標値をそのまま使用したのでは処理済み水の水質が悪化する可能性があった。これは、高濁度の原水の流入時には原水中の懸濁物質の量が増加するため、平常時と同様の制御目標値では凝集剤が不足するためである。また、季節的に徐々に原水水質が変化していった際には、各季節において制御目標値を設定する必要があった。
【0053】
図5Aおよび
図5Bは、第1実施形態の凝集剤注入制御装置が凝集状態目標値を制御目標値として決定する際に用いる、荷電状態が不充分のフロックの存在を表すヒストグラムの一例を示す図である。
図5Aおよび
図5Bでは、同じ制御目標値(SV)でフィードバック制御が行われている。ここで、
図5Aでは、原水のヒストグラムに対して、凝集剤注入後の混和水のヒストグラムは、より荷電中和側にシフトしているのに対して、
図5Bでは荷電中和が不充分なフロックの存在が多いことを示している。
【0054】
この状態で処理を行った際、処理済みの水である沈澱池出口の濁度は
図5Bのほうが上昇することになる。このように荷電中和が不充分なフロックが増えることで処理水質が悪化することから、
図5Bのように荷電中和が不充分なフロックが増えた際は、制御目標値(SV)をよりプラス側に調整することで、荷電中和が不充分なフロックの量を抑制することができるとの知見を得た。この知見に基づいて制御目標値決定部11の動作について示す。
【0055】
制御目標値決定部11では、あらかじめ荷電中和が不足しているフロックの個数の許容できる閾値を設定しておく。閾値としては、例えば、ある移動速度よりも荷電中和していない、つまり荷電状態がマイナス側であるフロックの個数が所定の個数未満、といったものであってもいいし、各移動速度(荷電状態)の数値を、その荷電状態のフロックの個数分だけ積算した積算値の総和(総荷電量)が所定の値未満、といったものであってもよいし、個数や積算値が所定の範囲内といったものでもよい。例えば、移動速度-6μm/sのフロックが5個、移動速度-5.5μm/sのフロックが10個あるときには、これらのフロックの総電荷量は、(-6[μm/s]×5)+(-5.5[μm/s]×10)=-90[μm/s]となる。
【0056】
本実施形態では、例えば、移動速度-6μm/sよりもマイナス側の(-6μm/sよりも小さい)フロックの総電荷量が、所定の範囲内となるように制御目標値(SV)を調整している。上記総電荷量を所定の範囲内とすることで、凝集剤が不足し、荷電中和が進んでいないフロックが増加する状態を避けることができるし、また、凝集剤が過剰に入り、ほとんどのフロックが過度に荷電中和している状態を避けることができる。また、この閾値は処理済みの水である沈澱池出口の濁度に対応して設定されるものであればよい。つまり、より濁度の低い水を求める際は、より荷電中和が進んだ状態に相当する閾値の設定になる。
【0057】
上記のように、本実施形態の凝集剤注入制御装置1によれば、荷電中和不足しているフロックの個数や積算値(総電荷量)を制御目標値(SV)の自動調整にリアルタイムに取り込むことで、プラント運転の負担を増加させることなく、処理水質の安定を図ることができる。
例えば、高濁度原水の流入時のように、フロックが多量に生成し始めた際は、平常時と同じ制御目標値(SV)でフィードバック制御を行っていたら、荷電中和が不足しているフロックの個数が増えてしまう。この状況を
図6A乃至
図6Cのヒストグラムで示す。
【0058】
図6Aは、第1実施形態の凝集剤注入制御装置において凝集剤が注入される前の原水中粒子の荷電状態の分布情報の一例を示した図である。
図6Bは、第1実施形態の凝集剤注入制御装置において凝集剤注入後であって濁度上昇前の被処理水の荷電状態の分布情報一例を示した図である。
図6Cは、第1実施形態の凝集剤注入制御装置において凝集剤が注入された後の被処理水における荷電中和不足のフロックが増加することを示した分布情報の一例を示した図である。
【0059】
図6Aの凝集剤注入前の原水の荷電状態のヒストグラムに対して、
図6Bの凝集剤注入後の混和水のヒストグラムはより荷電中和側にシフトしていることがわかる。ここでは、凝集剤注入制御装置1は、制御目標値(SV)-4μm/sでフィードバック制御を行っている。次に、
図6Cの、原水濁度が上昇し、濁度125度においてフィードバック制御を続けていた際の混和水のヒストグラムでは、平均移動速度は-4μm/sのままであり、制御目標値(SV)に対する制御性としては良好であるが、荷電中和不足のフロックが多量に増えていることがわかる。この際、処理水である沈澱池出口の濁度は、原水濁度上昇前と比べて悪化した。
【0060】
次に、処理水である沈澱池出口の濁度が、原水濁度上昇前と比べて悪化しなかったケースを
図6D乃至
図6Fで示す。
図6Dは、第1実施形態の凝集剤注入制御装置において凝集剤が注入される前の原水中粒子の荷電状態の分布情報の一例を示した図である。
図6Eは、第1実施形態の凝集剤注入制御装置において凝集剤注入後であって濁度上昇前の被処理水の荷電状態の分布情報一例を示した図である。
図6Fは、第1実施形態の凝集剤注入制御装置において凝集剤が注入された後の被処理水における荷電中和不足のフロックの増加を抑制していることを示した分布情報の一例を示した図である。
【0061】
図6Dの凝集剤注入前の原水の荷電状態のヒストグラムに対して、
図6Eの凝集剤注入後の混和水のヒストグラムはより荷電中和側にシフトしていることがわかる。ここでは、凝集剤注入制御装置1は、制御目標値(SV)-4.5μm/sでフィードバック制御を行っている。次に、原水濁度が上昇し、濁度125度においては制御目標値(SV)をより荷電中和側である-3.5μm/sでフィードバック制御を行った。
図6Fに示すこの際の混和水のヒストグラムでは、荷電中和不足のフロックが増えていないことがわかる。これは、制御目標値(SV)をより荷電中和側(プラス側)に設定したことで、荷電状態を表すヒストグラムが、全体的にプラス側にシフトし、荷電中和不足のフロックが減ったためである。この際、処理水である沈澱池出口の濁度は、原水濁度上昇前とほぼ同程度であり、悪化することはなかった。
【0062】
上記のような特徴に基づいて、凝集剤注入制御装置1は、荷電中和が不足しているフロックが増加してきたことを検知し、制御目標値(SV)をより荷電中和側に自動調整することで、高濁度時のように原水水質が急激に変動する際でも、処理水濁度を悪化させることなくフィードバック制御を継続することが可能となる。
【0063】
なお、この方式は、高濁時において、原水濁度がきれいになっていく際にも適用できる。つまり、原水濁度が高濁時のピークを迎えてから、徐々に低下していく際には、荷電中和が不足しているフロックの個数が閾値よりも少なくなっていく現象が逆に起こる。そこで、凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、制御目標値(SV)をよりマイナス側へ(減少させるように)自動調整することで、荷電中和が不足しているフロックの個数を一定レベルに維持することができ、これにより凝集剤の過剰注入を防止することができる。原水濁度が、濁度上昇前のレベルに戻った際には、濁度上昇前の制御目標値(SV)と同様の値に戻るように自動調整すればよいことになる。
【0064】
図7は、第1実施形態の凝集剤注入制御装置による、高濁度原水時における制御目標値の自動調整例を示す図である。
一例として、豪雨などにより原水濁度が大きく変化する高濁度原水時を想定して説明すると、濁度上昇前の平常時においては、荷電中和が進んでいないフロックが所定の範囲内に収まっている状態である。この範囲内であれば、管理しようとする処理水の濁度を一定のレベルに維持することができている。
【0065】
次に、濁度が上昇し始めると、所定の範囲内のフロックの個数が徐々に増えてくることが観察される。そのため、凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、制御目標値(SV)をより荷電中和側、つまりプラス側に調整することで、所定の範囲内のフロックの個数が減少するように凝集剤注入を行う。
【0066】
次に、濁度が最大値であるピーク値となった付近においては、所定の範囲内のフロックの個数が更に増えてくることが観察される。そのため、凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、制御目標値(SV)をより荷電中和側、に調整することで、所定の範囲内のフロックの個数が減少するように凝集剤注入を行う。この調整により処理水質が悪化するのを防ぐことが可能となる。
【0067】
また、高濁時の水質の変化は、その時その時において様々であるが、本実施形態の凝集剤注入制御装置1は、荷電中和が不足しているフロックの個数に基づいて凝集剤注入率を調整することになるため、様々な水質の変化にたいしても汎用的に対応できる自動制御が実現できる。
【0068】
次に、濁度下降時においては、濁度ピーク時において制御目標値(SV)を最もプラス側に調整した状態のままで制御を継続していると、所定の範囲内のフロックの個数が徐々に減少していく頃が観察される。この状態を続けると、処理水質は低下するが、凝集剤の過剰注入となる。そのため、凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、制御目標値(SV)をより荷電中和側から反対方向、つまりマイナス側に調整する(減少させる)ことで、所定の範囲内のフロックの個数を維持できるように凝集剤注入を行う。この調整により凝集剤が過剰に注入されることを防ぐことが可能となる。
【0069】
荷電中和不足のフロック個数に基づいて制御目標値(SV)の自動調整を行う際は、凝集剤注入制御装置1は、1バッチの測定周期ごとに制御目標値(SV)の自動調整の有無を判定してもよいし、数バッチ分の合算のデータを用いて制御目標値(SV)の自動調整の有無を判定してもよい。また凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、制御目標値(SV)の調整幅を、あらかじめ設定した調整幅、例えば+0.5μm/sとし、段階的に制御目標値(SV)を調整してもよく、あらかじめ設定された荷電中和不足の粒子個数と制御目標値(SV)との対応表を用いて、対応表に基づいて制御目標値(SV)を動かしてもいい。
【0070】
図8は、第1実施形態の凝集剤注入制御装置による制御目標値の自動調整の手順の一例を示すフローチャートである。なお、以下の説明において、〇、△、□、◇は、任意の設定値である。また、SV
nを調整前の制御目標値とし、SV
n+1を調整後の制御目標値とする。
図8に示す例では、凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、1バッチの測定後に、毎回、制御目標値(SV)の自動調整の有無を判定し、必要に応じて制御目標値(SV)の調整を行うものである(ステップSA1)。
【0071】
はじめに、凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、設定した荷電状態の閾値(〇μm/s)以下のフロックの個数を求める。これは、1バッチの測定後に、そのバッチにおける個数でもいいし、数バッチ分の個数の平均値でも良い。次に、凝集剤注入制御装置1は、その個数が設定した許容範囲の個数(△個以上□個未満)であるかを判定する(ステップSA2)。例えば、-4μm/s以下のフロックが10個以上30個未満の範囲であれば処理水質を良好に維持できるとすると、その個数の範囲の最大値(第1閾値)と最小値(第2閾値)とを閾値として設定する。
【0072】
設定した荷電状態の閾値以下のフロックの個数が許容範囲に含まれる場合、凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、制御目標値(SV)の調整を終了する(ステップSA6)。この場合、凝集剤注入制御装置1は、制御目標値(SVn+1)を制御目標値(SVn)と同じ値とする。
【0073】
設定した荷電状態の閾値以下のフロックの個数が許容範囲に含まれない場合、凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、制御目標値(SVn)を増加させればいいのか、減少させればいいのかの判定を行う(ステップSA3)。
【0074】
例えば、凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、設定した荷電状態の閾値以下のフロックの個数が、許容範囲の最大値(□個)以上であれば(ステップSA3「Yes」)、制御目標値(SVn)を増加させた値SVn+1(=SVn+◇)に変更する(ステップSA5)。例えば、凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、設定した荷電状態の閾値以下のフロックの個数が、許容範囲の最大値(□個)以上でないとき(すなわち設定した荷電状態の閾値以下のフロックの個数が許容範囲の最小値△未満であるとき)には(ステップSA3「No」)、過剰注入になっている恐れがあるので制御目標値SVnを減少させたSVn+1(=SVn-◇)に変更する(ステップSA4)。ここでの増加分もしくは減少分は、設定値であればよく、例えば0.5μm/s刻みでも構わない。
【0075】
凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、ステップSA4およびステップSA5を行った後に、制御目標値SVn+1の調整を終了する(ステップSA6)。このように計測ごとに制御目標値SVを調整し、更新された制御目標値SVで凝集剤注入の制御を行うことで、濁度の変化に対してリアルタイムに凝集剤注入量を制御可能となる。
【0076】
次に、個々のフロックの移動速度の数値をフロックの個数分だけ積算した積算値(総電荷量)を用いて制御目標値(SV)の自動調整の有無を判定する場合について説明する。
【0077】
図9は、第1実施形態の凝集剤注入制御装置による制御目標値の自動調整の手順の他の例を示すフローチャートである。なお、以下の説明において、〇、△、□、◇は、任意の設定値であり、
図8に示す値と異なる値であり得る。また、SV
nを調整前の制御目標値とし、SV
n+1を調整後の制御目標値とする。
【0078】
図9に示す例では、凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、1バッチの測定後に、毎回、制御目標値(SV)の自動調整の有無を判定し、必要に応じて制御目標値(SV)の調整を行うものである(ステップSB1)。
【0079】
はじめに、凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、設定した荷電状態の閾値(〇μm/s)以下のフロックの総電荷量を求める。これは、1バッチの測定後に、そのバッチにおける総電荷量でもいいし、数バッチ分の総電荷量の平均値でも良い。次に、凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、その総荷電量が設定した許容範囲の総電荷量(△μm/s以上□μm/s未満)であるかを判定する(ステップSB2)。例えば、-4μm/s以下のフロックの総電荷量(積算値)が-50μm/sから-150μm/sの範囲であれば処理水質を良好に維持できるとすると、その総電荷量の範囲の最大値(第3閾値)と最小値(第4閾値)とを閾値として設定する。
【0080】
設定した荷電状態の閾値以下のフロックの総電荷量が許容範囲に含まれる場合、凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、制御目標値(SV)の調整を終了する(ステップSB6)。この場合、凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、制御目標値(SVn+1)を制御目標値(SVn)と同じ値とする。
【0081】
設定した荷電状態の閾値以下のフロックの総電荷量が許容範囲に含まれない場合、凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、制御目標値(SVn)を増加させればいいのか、減少させればいいのかの判定を行う(ステップSB3)。
【0082】
例えば、凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、設定した荷電状態の閾値以下のフロックの総電荷量が、許容範囲の最大値(□μm/s)以上であれば(ステップSA3「Yes」)、制御目標値(SVn)を増加させた値SVn+1(=SVn+◇)に変更する(ステップSB5)。例えば、凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、設定した荷電状態の閾値以下のフロックの総荷電量が、許容範囲の最大値(□μm/s)以上でないとき(すなわち設定した荷電状態の閾値以下のフロックの総荷電量が許容範囲の最小値△未満であるとき)には(ステップSB3「No」)、過剰注入になっている恐れがあるので制御目標値SVnを減少させたSVn+1(=SVn-◇)に変更する(ステップSB4)。ここでの増加分もしくは減少分は、設定値であればよく、例えば0.5μm/s刻みでも構わない。
【0083】
凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、ステップSB4およびステップSB5を行った後に、制御目標値SVn+1の調整を終了する(ステップSB6)。このように計測ごとに制御目標値SVを調整し、更新された制御目標値SVで凝集剤注入の制御を行うことで、濁度の変化に対してリアルタイムに凝集剤注入量を制御可能となる。また、総電荷量を用いて制御目標値(SV)の自動調整の有無を判定することで、条件を満たすフロックの個数は少ないがマイナス側に移動速度の大きなフロックが多く残っている状況において、制御目標値SVを自動調整することが可能となる。
【0084】
なお、荷電中和が不足しているフロックの増加に応じた制御目標値(SV)の調整は、上記の考え方によるシステムによる自動調整で凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11が決定してもよいし、ヒストグラムを運転員が確認しながら、手動で制御目標値(SV)を凝集剤注入制御装置1に入力されてもよい。このような対応をとることにより、凝集剤注入制御装置1は原水の濁度の上昇や下降に応じてより適切な制御目標値(SV)でフィードバック制御を行うことができるようになる。
【0085】
図10は、第1実施形態の凝集剤注入制御装置による制御目標値(SV)の自動調整の結果の一例を示す図である。
【0086】
第1実施形態の凝集剤注入制御装置1によれば、制御目標値がプラス側に高い値となるということは高濁度の原水が流入し、荷電中和が不足しているフロックの増加したときであり、凝集状態としてはより荷電が中和される方向に、つまり凝集剤がより多く注入される方向に制御目標値(SV)を調整することで、凝集剤注入率が制御される。このため、高濁度の原水の流入時において凝集剤が不足するような状況が発生することを抑制することができる。
【0087】
具体的には、流入する原水の濁度の変化に対して制御目標値が、
図10の例のように自動調整されることになる。ここで、原水濁度以外の原水pHやアルカリ度が変化した場合でも、制御目標値(SV)の調整は、荷電中和が不足しているフロックの個数(若しくは総電荷量などの他の指標)に応じて調整されるものであるため、原水濁度以外の原水pHやアルカリ度による凝集状態への影響も取り込むことができる。
【0088】
また、第1実施形態の凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11によれば、高濁度の原水の流入時において、濁度がピークを過ぎて下降していく期間においても、原水の濁度の低下に応じて荷電中和が不足しているフロックが減少していくことを検知して、制御目標値(SV)を自動で低く(荷電中和と逆方向に調整)していくことができる。これにより、濁度の下降期においても、凝集剤が過剰に注入されるのを抑制することができる。
なお、制御目標値決定部11は、荷電状態が所定の閾値以上のフロックの個数又は総荷電量が所定の閾値以上であるか否かに応じて、制御目標値(SV)を自動で調整してもよい。例えば、制御目標値決定部11は、荷電状態が所定の閾値以上のフロックの個数又は総荷電量が所定の閾値以上であるときに、荷電中和が過剰に行われているものとして、制御目標値(SV)を自動で低くしてもよい。このことにより、凝集剤が過剰に注入されることを抑制できる。
【0089】
このように構成された第1実施形態の凝集剤注入制御装置1によれば、凝集剤の注入量をより適切に制御することが可能になる。具体的には、凝集剤注入制御装置1が、フロックの荷電状態の分布に基づいて、荷電中和不足のフロックの量を検知しながら制御目標値をリアルタイムに調整していくことで、凝集状態を制御目標値として凝集剤注入量を操作するフィードバック制御を行うことにより、原水の水質の変化に応じた適切な凝集剤注入量を決定することが可能になる。
【0090】
すなわち、本実施形態によれば、処理すべき原水の水質に変動があった場合でも、凝集剤の注入量をより適切に制御することができる凝集剤注入制御装置、凝集剤注入制御方法及びコンピュータプログラムを提供することができ、特に、フロック荷電状態に基づいて凝集剤注入量をフィードバックするシステムにおいて、フロック荷電状態の制御目標値をリアルタイムに自動で算出することができる凝集剤注入制御装置、凝集剤注入制御方法及びコンピュータプログラムを提供することができる。
【0091】
(第2実施形態)
図11は、第2実施形態の凝集剤注入制御装置が適用される水処理プラントのシステム構成の一例を概略的に示す図である。
なお、以下の説明において、上述の第1実施形態と同様の水処理プラント100の構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0092】
高濁度の原水の流入時において良好な処理済み水の水質を得るためには、荷電中和が不充分なフロックの量を、短期間でも増やさないように、凝集剤の注入量を管理することが重要な課題の1つとなる。そこで本実施形態では、水処理プラント100の着水井3の上流に、遠方監視のための上流原水水質計2が設けられた例を示す。
【0093】
上流原水水質計2は、水処理プラント100に流入する原水の水質の変化を早期に検出するために設置されるものである。
図11に示すように、一般に、上流原水水質計2は、測定時点から数時間後に水処理プラント100に流入する原水について水質の測定が可能な位置に設置されるとよい。具体的には、上流原水水質計2は、水処理プラント100に向かって流下している原水の水質の指標値として濁度や色度、pH(水素イオン濃度指数)等の諸量を測定する。
【0094】
本実施形態の凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、上流原水水質計2の計測値も利用して制御目標値SVを決定することにより、上記課題を解決している。例えば、上流原水水質計2で測定された値に基づいて、流入する原水の濁度が数時間後(例えば2~3時間後)に上昇することが予想される場合、凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、例えば、予め設定した原水濁度と制御目標値SVとの関係のテーブルを備え、このテーブルに格納された値に基づいて、予め制御目標値SVを高い値に変更しておくことにより、濁度の上昇期において荷電中和が不足しているフロックが増加する状況が発生することをより確実に抑制することができる。
この動作は、実際に荷電中和が不足しているフロックが増加するよりも前に、予め制御目標値SVを高い値に変更しておくことができるので、濁度上昇期の初期の段階での荷電中和が不足しているフロックの増加を、より抑制することが可能となる。
【0095】
なお、この手法は濁度の下降期においても有効である。一般に、凝集剤の過剰注入は汚泥の発生量を増加させることにつながるため、凝集剤の注入量を必要最小限に抑えたいという要望がある。特に、高濁度の原水の流入時においては、汚泥の元となる懸濁物質と凝集剤とが多量に存在することになるので汚泥の発生量も多くなる。このような場合、沈澱池6の下部に溜まった汚泥の引き抜きが遅れると処理済み水の水質に影響が出る場合もある。また、汚泥を一旦貯留しておく排泥池などの容積も限られているため、多量に汚泥が発生する状況は回避されることが望ましい。
このため、流入する原水の濁度が数時間後に低下することが予想される場合、凝集剤注入制御装置1制御目標値決定部11は、予め構築した原水濁度と制御目標値SVとの関係のテーブルに基づいて、予め制御目標値SVを低い値に変更しておくことにより、濁度の下降期において凝集剤が過剰に注入されることを抑制することができる。この際、荷電中和が不足しているフロックが増加することなく制御目標値SVを調整することで処理水濁度の悪化も避けることが可能となる。
【0096】
図12は、第2実施形態の凝集剤注入制御装置による制御目標値の自動調整の手順の一例を示すフローチャートである。なお、以下の説明において、〇、△、□、◇、◆は、任意の設定値である。また、SV
nを調整前の制御目標値とし、SV
n+1を調整後の制御目標値とする。
【0097】
本実施形態では、凝集剤注入制御装置1制御目標値決定部11は、荷電状態の測定後に(ステップSC1)、上流原水水質計2の測定値を確認し、閾値(◆)未満である場合(ステップSC2「No」)、つまり濁度が上昇していない場合は、
図8と同様の動作(ステップSC3-SC6)を行う。
上流原水水質計2の測定値を確認し、閾値(◆)以上であった場合(ステップSC2「Yes」)、凝集剤注入制御装置1制御目標値決定部11は、次に、浄水場での測定値が閾値(◆)以上かの判定を行う(ステップSC7)。
【0098】
浄水場での測定値が閾値(◆)以上でない場合は(ステップSC7「No」)、凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、上流原水水質計2の濁度と制御目標値SVとの対応表に基づき、制御目標値SVn+1を更新する(ステップSC8)。
【0099】
図13に、第2実施形態の凝集剤注入制御装置が備える、流水質計の濁度と制御目標値との対応表の一例を示す。
また、浄水場での測定値が閾値(◆)以上である場合は(ステップSC7「Yes」)、凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11は、
図8と同様の動作(ステップSC3-SC6)を行う。浄水場での濁度上昇がみられるということは、上述の荷電状態のヒストグラムに変化が生じ始めているということなので、
図8の対応をとればよいからである。
【0100】
なお、凝集剤注入制御装置1の制御目標値決定部11により上流原水水質計2の計測値に基づいて制御目標値SVを調整する操作は、
図10に示すように段階的に行われてもよい。この場合、制御目標値SVを変更する大きさや変更の頻度は、予想される濁度の変化の速度や変化量に応じて決定されるとよい。
【0101】
本実施形態によれば、上述の第1実施形態と同様に、処理すべき原水の水質に変動があった場合でも、凝集剤の注入量をより適切に制御することができる凝集剤注入制御装置、凝集剤注入制御方法及びコンピュータプログラムを提供することができ、特に、フロック荷電状態に基づいて凝集剤注入量をフィードバックするシステムにおいて、フロック荷電状態の制御目標値をリアルタイムに自動で算出することができる凝集剤注入制御装置、凝集剤注入制御方法及びコンピュータプログラムを提供することができる。
【0102】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0103】
1…凝集剤注入制御装置、2…上流原水水質計、3…着水井、4…急速混和池、5…フロック形成池、6…沈澱池、7…濾過池、8…凝集剤注入装置、9…解析部、10…pH調整剤注入装置、11…制御目標値決定部、12…凝集剤注入制御部、31…原水水質計、32…流量計、41…急速攪拌機、42…混和水水質計、51-53…攪拌池、54-56…緩速攪拌機、61…沈澱池水質計、71…濾過池水質計、91…光源部、92…撮像部、93…速度測定部、100…水処理プラント、200…セル、210…負極、220…正極、230…電源