(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034878
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】タイヤのシミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20240306BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20240306BHJP
G06F 30/20 20200101ALN20240306BHJP
G06F 30/10 20200101ALN20240306BHJP
【FI】
G06F30/23
B60C19/00 Z
G06F30/20
G06F30/10 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139422
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】石田 孝明
【テーマコード(参考)】
3D131
5B146
【Fターム(参考)】
3D131BB09
3D131BC55
3D131LA34
5B146AA05
5B146DJ01
5B146DJ02
5B146DJ07
5B146DJ11
5B146EA01
5B146EC08
(57)【要約】
【課題】 計算時間を短縮しながらタイヤの温度の予測精度を向上することができるタイヤのシミュレーション方法を提供する。
【解決手段】 タイヤのシミュレーション方法である。この方法は、タイヤ及び路面を、それぞれ、有限個の要素でモデリングしたタイヤモデル及び路面モデルをコンピュータに入力する工程S1を含む。コンピュータは、予め定められた走行速度条件に基づいて、タイヤモデルに作用する遠心力を計算する工程S2と、タイヤモデルに、予め定めた荷重及び内圧と、遠心力とを作用させて、路面モデルに静的に接地させたタイヤモデルの変形を計算する工程S3と、変形したタイヤモデルの発熱量及び放熱量を計算する工程S4と、発熱量及び放熱量に基づいて、タイヤモデルの要素の温度を計算する工程S5とを実行する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのシミュレーション方法であって、
タイヤ及び路面を、それぞれ、有限個の要素でモデリングしたタイヤモデル及び路面モデルをコンピュータに入力する工程を含み、
前記コンピュータは、
予め定められた走行速度条件に基づいて、前記タイヤモデルに作用する遠心力を計算する工程と、
前記タイヤモデルに、予め定めた荷重及び内圧と、前記遠心力とを作用させて、前記路面モデルに静的に接地させた前記タイヤモデルの変形を計算する工程と、
前記変形したタイヤモデルの発熱量及び放熱量を計算する工程と、
前記発熱量及び前記放熱量に基づいて、前記タイヤモデルの前記要素の温度を計算する工程とを実行する、
タイヤのシミュレーション方法。
【請求項2】
前記タイヤモデルのタイヤ周方向の領域を、前記路面モデルに接触する接地領域と、それ以外の非接地領域とに区分する工程をさらに含み、
前記遠心力を計算する工程は、前記接地領域と、前記非接地領域とで、互いに異なる遠心力を計算する、請求項1に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項3】
前記接地領域の遠心力は、前記非接地領域の遠心力よりも小さい、請求項2に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項4】
前記遠心力を計算する工程は、前記タイヤモデルに作用する遠心力を、前記走行速度条件から特定される遠心力よりも小さく計算する、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タイヤのシミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、タイヤモデルの温度に関連する物理量を計算するシミュレーション方法が記載されている。この方法では、タイヤモデルのトレッド部モデルのうち、路面に接地する第1要素、及び、路面に接地しない第2要素に、異なる熱伝達率が定義されて、走行中のタイヤモデルの温度に関する物理量が計算されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の方法では、路面モデル上を転動するタイヤモデルが、シミュレーションの単位時間毎に計算されている。このような動的解析には、多くの時間を要するという問題があった。
【0005】
計算時間を短縮するために、タイヤモデルを転動させない静的解析を行うことも考えられる。しかし、静的解析では、タイヤ走行中の状態が十分に再現できないため、タイヤの温度の予測精度については、さらなる改善の余地があった。
【0006】
本開示は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、計算時間を短縮しながらタイヤの温度の予測精度を向上することができるタイヤのシミュレーション方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、タイヤのシミュレーション方法であって、タイヤ及び路面を、それぞれ、有限個の要素でモデリングしたタイヤモデル及び路面モデルをコンピュータに入力する工程を含み、前記コンピュータは、予め定められた走行速度条件に基づいて、前記タイヤモデルに作用する遠心力を計算する工程と、前記タイヤモデルに、予め定めた荷重及び内圧と、前記遠心力とを作用させて、前記路面モデルに静的に接地させた前記タイヤモデルの変形を計算する工程と、前記変形したタイヤモデルの発熱量及び放熱量を計算する工程と、前記発熱量及び前記放熱量に基づいて、前記タイヤモデルの前記要素の温度を計算する工程とを実行する、タイヤのシミュレーション方法である。
【発明の効果】
【0008】
本開示のタイヤのシミュレーション方法は、上記の工程を採用することにより、計算時間を短縮しながらタイヤの温度の予測精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】タイヤのシミュレーション方法を実行するためのコンピュータの一例を示す斜視図である。
【
図2】タイヤのシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図3】タイヤモデル及び路面モデルの一例を示す斜視図である。
【
図5】変形計算工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6】タイヤモデルの外面の熱伝達率と、走行速度条件との関係の一例を示すグラフである。
【
図7】本開示の他の実施形態の処理手順の一例を説明するフローチャートである。
【
図8】タイヤモデル及び路面モデルの側面図である。
【
図9】タイヤモデルの要素の温度と、走行速度との関係を示すグラフである。
【
図10】タイヤモデルの要素の温度差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の一形態が図面に基づき説明される。なお、各図面は、開示の内容の理解を高めるためのものであり、誇張された表示が含まれる他、各図面間において、縮尺等は厳密に一致していない点が予め指摘される。
【0011】
[タイヤのシミュレーション方法(第1実施形態)]
本実施形態のタイヤのシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある。)は、走行中のタイヤの温度が予測される。本実施形態のシミュレーション方法には、コンピュータが用いられる。
図1は、シミュレーション方法を実行するためのコンピュータ1の一例を示す斜視図である。
【0012】
[コンピュータ]
コンピュータ1は、例えば、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成されている。本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。記憶装置には、本実施形態のシミュレーション方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。したがって、コンピュータ1は、走行中のタイヤの温度を予測するシミュレーション装置として構成される。
【0013】
[タイヤモデル及び路面モデル入力工程]
図2は、タイヤのシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、タイヤ及び路面(図示省略)を、それぞれ、有限個の要素でモデリングしたタイヤモデル及び路面モデルが、コンピュータ1に入力される(工程S1)。
図3は、タイヤモデル2及び路面モデル3の一例を示す斜視図である。
図4は、タイヤモデル2の一例を示す断面図である。なお、
図3では、タイヤモデル2が簡略化して示されており、要素F(i)及びトレッドパターンなどが省略されている。
【0014】
タイヤモデル2は、解析対象のタイヤ(図示省略)をモデリングしたものである。解析対象のタイヤは、実在するか否かについては問われない。また、解析対象のタイヤとしては、乗用車用の空気入りタイヤが例示されるが、トラック・バスなどの重荷重用タイヤ、及び、エアレスタイヤ等、他のカテゴリーのタイヤであってもよい。
【0015】
図4に示されるように、タイヤモデル2は、例えば、解析対象のタイヤ(図示省略)が、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素F(i)(i=1、2、…)でモデリング(離散化)されることで定義されうる。
【0016】
数値解析法としては、例えば、有限要素法、有限体積法、差分法、又は、境界要素法(本実施形態では、有限要素法)が適宜採用されうる。要素F(i)には、例えば、三次元の4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などが用いられる。各要素F(i)は、複数の節点5を含んで構成されている。各要素F(i)には、要素番号、節点5の番号、節点5の座標値、及び、材料特性(例えば密度、ヤング率、減衰係数、熱伝導率、及び、熱伝達率等)などの数値データが定義される。
【0017】
工程S1では、図示しないタイヤのトレッドゴム等を含むゴム部分、タイヤの骨格をなすカーカスプライ、及び、カーカスプライのタイヤ半径方向外側に配されるベルトプライが、要素F(i)でそれぞれ離散化(モデリング)される。これにより、タイヤモデル2には、ゴム部材モデル(例えば、サイドウォールゴムモデルなど)6、カーカスプライモデル7、及び、ベルトプライモデル8が設定される。
【0018】
図3に示されるように、工程S1では、路面(図示省略)に関する情報に基づいて、路面が、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)を用いて離散化される。これにより、工程S1では、路面をモデリングした路面モデル3が設定される。
【0019】
要素G(i)は、変形不能に定義された剛平面要素として定義される。要素G(i)には、複数の節点10が設けられている。さらに、要素G(i)は、要素番号や、節点10の座標値等の数値データが定義される。
【0020】
本実施形態では、平滑な表面を有する路面モデル3が定義されているが、このような態様に限定されない。例えば、アスファルト路面のような微小凹凸、不規則な段差、窪み、うねり、又は、轍等の実走行路面に近似した凹凸などが設けられた路面モデル3(図示省略)が定義されてもよい。タイヤモデル2及び路面モデル3は、
図1に示したコンピュータ1に入力される。
【0021】
[遠心力計算工程]
次に、本実施形態のシミュレーション方法は、コンピュータ1(
図1に示す)が、予め定められた走行速度条件に基づいて、タイヤモデル2に作用する遠心力を計算する(工程S2)。走行速度条件については、温度の予測が求められるタイヤ(図示省略)の走行状態に基づいて、適宜設定される(例えば、10~300km/h)。遠心力f(i)は、下記式(1)で計算される。
【0022】
【数1】
ここで、
m(i):要素F(i)の質量
r(i):要素F(i)の半径
p(i):要素F(i)の密度
V(i):要素F(i)の体積
ω:タイヤ角速度
v:タイヤ周速度
R:タイヤ半径
【0023】
上記式(1)において、質量m(i)は、タイヤモデル2の各要素F(i)の質量である。この質量m(i)は、各要素F(i)に設定された密度p(i)と体積V(i)との積で求められる。
【0024】
上記式(1)において、タイヤ周速度vは、走行速度条件(走行速度)から特定される。タイヤ半径Rは、タイヤの正規状態において、タイヤの回転軸からトレッド部のタイヤ半径方向の最外端までの距離(図示省略)で特定される。そして、タイヤ周速度vを、タイヤ半径Rで除することで、タイヤ角速度ωが求められる。
【0025】
上記式(1)において、半径r(i)は、タイヤモデル2の各要素F(i)について、タイヤ回転軸から要素F(i)の重心までの距離が設定される。この各要素F(i)の半径r(i)に、各要素(i)の質量m(i)を乗じ、さらに、タイヤ角速度の二乗ω2が乗じられることにより、各要素F(i)の遠心力がそれぞれ求められる。そして、各要素F(i)の遠心力の総和が求められることにより、タイヤモデル2の遠心力fが求められる。遠心力fは、コンピュータ1に入力される。
【0026】
「正規状態」とは、タイヤが正規リム(以下、単に「リム」という場合がある。)にリム組みされ、かつ、正規内圧が充填され、しかも無負荷の状態である。以下、特に言及されない場合、タイヤの各部の寸法等はこの正規状態で測定された値である。
【0027】
「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムである。正規リムは、例えば、JATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば"Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0028】
「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧である。正規内圧は、例えば、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITSAT VARIOUSCOLD INFLATION PRESSURES"に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0029】
[変形計算工程]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、予め定めた荷重及び内圧と、遠心力fとに基づいて、路面モデル3に静的に接地させたタイヤモデル2の変形を計算する(変形計算工程S3)。
図5は、変形計算工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0030】
本実施形態の変形計算工程S3では、内圧充填後のタイヤモデル2が計算される(工程S31)。工程S31では、先ず、
図4に示されるように、タイヤのリム(図示省略)をモデリングしたリムモデル11によって、タイヤモデル2のビード部2c、2cが拘束される。さらに、内圧条件に相当する等分布荷重wに基づいて、タイヤモデル2の変形が計算される。これにより、内圧充填後のタイヤモデル2が計算される。内圧は、適宜設定することができ、例えば、上記の正規内圧が設定されるのが望ましい。
【0031】
タイヤモデル2の変形計算(後述する転動計算を含む)は、各要素F(i)の形状及び材料特性などをもとに、各要素F(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス、及び、減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、前記各種の条件を当てはめて運動方程式が作成され、これらが微小時間(単位時間T(x)(x=0、1、…))毎に計算される。これにより、タイヤモデル2の変形計算が行われる。
【0032】
タイヤモデル2の変形計算(後述する転動計算を含む)には、例えば、LSTC社製の LS-DYNA などの市販の有限要素解析アプリケーションソフトが用いられる。なお、単位時間T(x)は、求められるシミュレーション精度に応じて、適宜設定される。
【0033】
次に、本実施形態の変形計算工程S3では、荷重負荷後のタイヤモデル2が計算される(工程S32)。工程S32では、
図3に示されるように、
図4に示した遠心力fによってタイヤ半径方向外側にせり出したタイヤモデル2(二点鎖線で示す)と、路面モデル3との接触が計算される。そして、路面モデル3を移動不能に固定した状態で、タイヤモデル2の回転軸12に、荷重Lが設定される。これにより、本実施形態の変形計算工程S3では、荷重L及び内圧(
図4に示した等分布荷重w)と、遠心力f(
図4に示す)とに基づいて、路面モデル3に静的に接地させたタイヤモデル2が計算される。
【0034】
荷重Lは、適宜設定することができる。荷重Lは、例えば、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている正規荷重が設定されるのが望ましい。正規荷重は、例えば、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。
【0035】
次に、本実施形態の変形計算工程S3では、遠心力fに基づいて、タイヤモデル2の変形が計算される(工程S33)。本実施形態の工程S33では、内圧充填後のタイヤモデル2の各要素F(i)に、工程S2で計算された遠心力fがそれぞれ定義される。これにより、遠心力fによってタイヤ半径方向外側にせり出したタイヤモデル2(
図4で二点鎖線で示す)が計算される。
【0036】
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、変形したタイヤモデル2の発熱量及び放熱量を計算する(工程S4)。本実施形態の工程S4では、路面モデル3に静的に接地させたタイヤモデル2に基づく静的解析が実施される。
【0037】
静的解析では、タイヤモデル2が路面モデル3に静的に接触(接地)した状態で受ける歪を、タイヤが負荷転動しているときの一瞬間に受ける動的な歪と実質的に等しいものとして仮定し、静的な計算結果から動的な歪の履歴が求められる。このような静的解析は、例えば、タイヤモデル2を路面モデル3に転動させる動的解析に比べて、計算時間を短縮することが可能となる。このような静的解析には、例えば、上記の有限要素解析アプリケーションソフトが用いられうる。
【0038】
発熱量は、従来と同様に、タイヤモデル2のタイヤ周方向の歪及び応力の変動量、並びに、タイヤモデル2の各要素F(i)の損失係数に基づいて計算される。一方、放熱量は、タイヤモデル2の外面2o及び内腔面2i(
図4に示す)に設定された熱伝達率、外気の温度、及び、各要素F(i)の熱伝導率に基づいて計算される。このような発熱量及び放熱量の計算は、例えば、特許文献(特開2017-9482号公報)に基づいて実施することができる。
【0039】
なお、実際のタイヤ(図示省略)の外面の放熱量は、その外面に接触する空気の風量に比例して大きくなる傾向がある。風量は、タイヤの走行速度(走行速度条件)に比例して大きくなる。このため、タイヤモデル2の外面2oの熱伝達率が、走行速度に応じて大きく設定されてもよい。これにより、タイヤモデル2の放熱量を高い精度で計算することが可能となる。なお、外面2oの熱伝達率と、走行速度との関係は、実際のタイヤを用いた実験や、流体シミュレーション等で予め取得されるのが望ましい。
図6は、タイヤモデル2の外面2oの熱伝達率と、走行速度条件との関係の一例を示すグラフである。
図6では、サイドウォール外面の熱伝達率が代表して示されている。
【0040】
タイヤモデル2の発熱量及び放熱量は、要素F(i)ごとに計算される。発熱量及び放熱量は、コンピュータ1に入力される。
【0041】
[タイヤモデルの温度を計算する工程]
次に、本実施形態のシミュレーション方法は、コンピュータ1が、発熱量及び放熱量に基づいて、タイヤモデル2の要素F(i)の温度を計算する(工程S5)。工程S5では、タイヤモデル2の各要素F(i)において、発熱量と放熱量との熱収支が計算される。これにより、工程S5では、タイヤモデル2の走行時での各要素F(i)の温度が計算される。
【0042】
本実施形態のシミュレーション方法では、タイヤモデル2の各要素F(i)の温度が収束していない場合、各要素F(i)の温度を更新して、変形計算工程S3~工程S5が再度実施されてもよい。これにより、走行速度条件で走行中のタイヤ(図示省略)について、定常状態の温度の予測が可能となる。
【0043】
本実施形態では、走行速度条件(タイヤ周速度v)から計算された遠心力fに基づいて、路面モデル3に静的に接地させたタイヤモデル2の変形が計算されるため、タイヤ走行中の状態を再現したタイヤモデル2を計算することができる。これにより、本実施形態では、路面モデル3を転動したタイヤモデル2を計算する動的解析を行わなくても、タイヤモデル2の各要素F(i)の発熱量等を高い精度で計算することができる。したがって、本実施形態のシミュレーション方法は、計算時間を短縮しながら、タイヤの温度の予測精度を向上することができる。
【0044】
[判断工程]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、タイヤモデル2の温度が、許容範囲内であるか否かが判断される(工程S6)。許容範囲は、タイヤ(図示省略)に求められる性能に応じて、適宜設定されうる。許容範囲は、例えば、タイヤモデル2の構成部材モデル(サイドウォールゴムモデルなど)ごとに設定されてもよいし、タイヤモデル2の要素F(i)ごとに設定されてもよい。
【0045】
工程S6において、タイヤモデルの温度が許容範囲内である場合(工程S6で、「Y」)、タイヤモデル2の作成に用いられたタイヤの設計因子に基づいて、タイヤ(図示省略)が製造される(工程S7)。他方、タイヤモデル2の温度が許容範囲内でない場合は(工程S6で、「N」)、設計因子が変更されて(工程S8)、工程S1~工程S6が再度実施される。このように、本実施形態のシミュレーション方法では、タイヤモデル2の温度が許容範囲内になるまで、タイヤの設計因子が変更されるため、所望の性能を有する(例えば、耐久性能の優れた)タイヤを、効率良く設計することができる。
【0046】
[タイヤのシミュレーション方法(第2実施形態)]
これまでの実施形態では、タイヤモデル2の各要素F(i)に、同一の遠心力が定義されたが、このような態様に限定されない。
図7は、本開示の他の実施形態の処理手順の一例を説明するフローチャートである。
図8は、タイヤモデル2及び路面モデル3の側面図である。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0047】
この実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、
図8に示されるように、タイヤモデル2のタイヤ周方向の領域を、路面モデル3に接触する接地領域13と、それ以外の非接地領域14とに区分する(工程S9)。この実施形態の工程S9は、遠心力を計算する工程S2に先立って行われる。
【0048】
この実施形態の工程S9では、先ず、
図5に示した変形計算工程S3の工程S31と同一の手順に基づいて、内圧充填後のタイヤモデル2(
図4に示す)が計算される。次に、工程S9では、内圧充填後のタイヤモデル2と路面モデル3との接触が計算され、タイヤモデル2の回転軸12に荷重Lが設定される。これにより、荷重負荷後のタイヤモデル2が計算される。なお、工程S9での荷重負荷後のタイヤモデル2には、遠心力f(
図4に示す)は定義されていない。
【0049】
次に、この実施形態の工程S9では、荷重負荷後のタイヤモデル2に基づいて、タイヤモデル2のタイヤ周方向の領域が、路面モデル3に接触する接地領域13と、それ以外の非接地領域14とに区分される。
【0050】
接地領域13及び非接地領域14は、適宜設定されうる。本実施形態の接地領域13は、タイヤモデル2の接地面15のうち、タイヤ周方向の最外端16、16と、回転軸12とを結ぶ分割線17、17で区分される領域として定義される。一方、非接地領域14は、接地領域13以外の領域として定義される。
【0051】
実際のタイヤの接地領域(図示省略)は、タイヤの転動時において、路面に沿って平行移動するとみなせるため、遠心力は作用しない。しかしながら、実際のタイヤでは、タイヤの転動によって生じる遠心力で変形した非接地領域が、慣性力を持って路面に衝突して(路面からの衝撃力を受けて)接地領域となるため、非接地領域に比べて、接地領域がタイヤ半径方向内側に凹む(潰れる)。したがって、タイヤ走行中の状態を、より精度良く再現したタイヤモデル2を計算するためには、路面からの衝撃力による凹みを考慮した接地領域13の変形を計算することが重要である。
【0052】
本実施形態では、路面からの衝撃力による凹みを考慮した接地領域13の変形を計算するために、接地領域13と非接地領域14とで、互いに異なる遠心力f1及びf2が計算される。
【0053】
接地領域13は、路面モデル(路面)3によってタイヤ半径方向内側に圧縮(押圧)される。このため、接地領域13の各要素F(i)の半径r1は、路面モデル3に圧縮されない非接地領域14の各要素F(i)の半径r2に比べて小さくなる。したがって、接地領域13の各要素F(i)の半径r1(i)が上記式(1)に代入された接地領域13の遠心力f1(二点鎖線で示す)と、非接地領域14の各要素F(i)の半径r2(i)が上記式(1)に代入された非接地領域14の遠心力f2(二点鎖線で示す)とで、互いに異ならせることができる。
【0054】
この実施形態のシミュレーション方法において、次に実施される工程S2(図)では、接地領域13と、非接地領域14とで、互いに異なる遠心力f1及びf2が計算される。このような遠心力f1及びf2が計算されることにより、変形計算工程S3では、接地領域13での凹みを考慮した変形計算と、非接地領域14での遠心力を考慮した変形計算とが可能となる。したがって、この実施形態のシミュレーション方法は、タイヤ走行中の状態がさらに再現されたタイヤモデル2が計算されるため、計算時間を短縮しながら、タイヤ(図示省略)の温度の予測精度を、さらに向上することが可能となる。
【0055】
上述したように、接地領域13の半径r1(i)は、非接地領域14の半径r2(i)に比べて小さくなる。一方、要素F(i)の密度p(i)、体積V(i)、及び、タイヤ角速度ωは、接地領域13と非接地領域14とで区別されない(即ち、同一となる)。したがって、非接地領域14の半径r2(i)よりも、接地領域13の半径r1(i)を小さくするだけで、非接地領域14の遠心力f2よりも、接地領域13の遠心力f1が小さく計算されうる。これにより、変形計算工程S3では、タイヤ走行中の状態を、より精度良く再現したタイヤモデル2を計算することができ、計算時間の短縮しながらタイヤの温度の予測精度をさらに向上することが可能となる。
【0056】
接地領域13の遠心力f
1及び非接地領域14の遠心力f
2は、適宜計算されうる。この実施形態では、タイヤ赤道C(
図4に示す)において、タイヤモデル2の回転軸12からの接地面15までの半径(最短半径)r
1が、上記式(1)の半径rに設定される。これにより、工程S2では、路面からの衝撃力による凹みを考慮した接地領域13の変形計算を可能とする遠心力f
1が、高い精度で計算されうる。
【0057】
この実施形態では、タイヤ赤道Cにおいて、タイヤモデル2の回転軸12からトレッド部2a(非接地領域14)のタイヤ半径方向の最外端までの半径(最大半径)r2が、上記式(1)の半径rに設定される。これにより、工程S2では、タイヤ半径方向外側へのせり上がりが相対的に大きい非接地領域14での遠心力f2が、高い精度で計算されうる。
【0058】
上述したように、接地領域13は、遠心力が作用しないため、接地領域13の遠心力f1がゼロに設定されてもよい。これにより、接地領域13の遠心力f1が、非接地領域14の遠心力f2よりも小さく設定されうる。なお、動的解析中のタイヤモデル(転動中のタイヤ)では、遠心力fによってせり出した非接地領域14が、路面モデル3に衝突して接地領域13となるため、接地領域13には、路面モデル3からの反力(荷重)と遠心力との相殺された力が作用する。したがって、このような相殺された力を考慮するために、接地領域13の遠心力f1は、上記のように計算されるのが望ましい。接地領域13の遠心力f1、及び、非接地領域14の遠心力f2は、コンピュータ1に入力される。
【0059】
[タイヤのシミュレーション方法(第3実施形態)]
これまでの実施形態では、タイヤモデル2に作用する遠心力fが、走行速度条件(タイヤ周速度v)から特定される遠心力で設定されたが、このような態様に限定されない。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0060】
ところで、転動中の実際のタイヤでは、転動によって生じる慣性力が作用するため、トレッド部が路面に接地する際に、トレッド部が衝撃力を受ける。この衝撃力により、実際の接地領域13のトレッド部は、これまでの実施形態の遠心力fによってタイヤ半径方向外側にせり出したタイヤモデル2に比べて、タイヤ半径内側に凹む傾向がある。このため、上述の走行速度条件(タイヤ周速度v)から特定された遠心力fでは、工程S5で計算されるタイヤモデル2の温度と、タイヤ(図示省略)の温度の実験値とが乖離する場合がある。
【0061】
この実施形態の遠心力を計算する工程S2では、遠心力を計算する工程S2において、タイヤモデル2に作用する遠心力fが、走行速度条件(タイヤ周速度v)から特定される遠心力よりも小さく計算される。この実施形態では、上記式(1)のタイヤ周速度vに、予め定められた走行速度条件よりも小さい値が設定される。これにより、タイヤモデル2に作用する遠心力fが小さく計算される。このような小さな遠心力fで変形したタイヤモデル2が計算されることで、工程S5で計算されるタイヤモデル2の温度が、タイヤ(図示省略)の温度の実験値から乖離するのを防ぐことができる。したがって、この実施形態のシミュレーション方法では、計算時間の短縮しながら、タイヤの温度の予測精度をさらに向上させることができる。
【0062】
上記式(1)のタイヤ周速度vに設定される値は、遠心力fを小さく計算することができれば、適宜設定されうる。この実施形態のタイヤ周速度vには、予め定められた走行速度条件(実速度)の1%~5%の値が設定されるのが望ましい。タイヤ周速度vは、半径rと同様に、接地領域13と非接地領域14とで異ならせてもよい。この場合、接地領域13の遠心力f1が、非接地領域14の遠心力f2よりも小さく計算されるように、接地領域13のタイヤ周速度vを、非接地領域14のタイヤ周速度vよりも小さく設定されてもよい。
【0063】
以上、本開示の特に好ましい実施形態について詳述したが、本開示は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例0064】
図2に示した処理手順に基づいて、タイヤモデルの要素の温度が計算された(実施例1~3)。実施例1~3では、下記の走行速度条件に基づいて、タイヤモデルに作用する遠心力が計算された。遠心力は、走行速度条件ごとに計算された。
【0065】
実施例1は、
図5に示した処理手順に基づいて、タイヤモデルの全ての要素に、走行速度条件で特定される遠心力が、一律に定義された。
【0066】
実施例2及び実施例3は、
図7に示した処理手順に基づいて、タイヤモデルのタイヤ周方向の領域を、接地領域と非接地領域とに区分する工程が実施された。実施例2では、非接地領域に遠心力が定義されたが、接地領域の遠心力がゼロに設定された。実施例3では、接地領域の遠心力が、非接地領域の遠心力よりも小さく(走行速度条件の5%)設定された。
【0067】
実施例1~3では、各走行速度条件において、路面モデルに静的に接地させたタイヤモデルの変形が計算された。そして、変形したタイヤモデルの発熱量及び放熱量に基づいて、タイヤモデルの要素の温度が、走行速度条件ごとに計算された。
【0068】
比較のために、遠心力を考慮することなく(遠心力がゼロ)、路面モデルに静的に接地させたタイヤモデルの変形が計算された(比較例1)。そして、比較例1では、変形したタイヤモデルの発熱量及び放熱量に基づいて、各走行速度条件でのタイヤモデルの要素の温度が計算された。さらに、タイヤモデルを路面モデルに転動させる動的解析に基づいて、各走行速度条件でのタイヤモデルの要素の温度が計算された(比較例2)。
【0069】
タイヤの温度の予測精度を評価するために、実施例1~3及び比較例1~2のタイヤモデルと同一の構成を有するタイヤが製造された(実験例)。そのタイヤをドラム試験機(直径:1708mm)上で走行させ、各走行速度条件での温度が測定された。そして、実験例のタイヤの温度と、実施例1~3及び比較例1~2のタイヤモデルの温度とが比較され、タイヤの温度の予測精度が評価された。共通仕様は、次のとおりである。遠心力の大きさは、表1に記載のとおりである。
タイヤサイズ:330/710R18
リムサイズ:18×13J
内圧:160kPa
荷重:7.5kN
走行速度条件:150km/h、250km/h
キャンバー角:2度
室温:25℃
【0070】
【0071】
テストの結果、実施例1~3の計算時間は、動的解析を実施した比較例2の計算時間の10%~20%に低減することができた。したがって、実施例1~3は、比較例2に比べて、計算時間を短縮できることが確認できた。
【0072】
図9は、タイヤモデルの要素の温度と、走行速度との関係を示すグラフである。
図10は、タイヤモデルの要素の温度差を示すグラフである。
図10では、150km/hの温度と、250km/hの温度との差(絶対値)が示されている。
図9及び
図10では、トレッド部を構成する要素のうち、タイヤ軸方向外側に配された1つの要素の温度が代表して示されている。
【0073】
図9に示されるように、実施例1~3のタイヤモデルの温度は、比較例1のタイヤモデルの温度に比べて、実験例のタイヤの温度に近似させることができた。
図10に示されるように、走行速度条件が異なる温度差(温度上昇の勾配)について、実施例1~3は、比較例1に比べて、実験例から乖離するのを抑えることができた。したがって、実施例1~3は、比較例1に比べて、タイヤの温度の予測精度を向上させることができた。実施例2及び実施例3は、接地領域と非接地領域とで、互いに異なる遠心力が計算されるため、同一の遠心力が計算された実施例1に比べて、タイヤの温度の予測精度を向上させることができた。
【0074】
さらに、実施例3は、走行速度条件よりも小さい速度(5%)に基づいて、接地領域の遠心力が計算されたため、接地領域の遠心力がゼロに設定された実施例2に比べて、タイヤモデルの温度が、実験例のタイヤの温度から乖離するのを、効果的に防ぐことができた。
【0075】
[付記]
本開示は以下の態様を含む。
【0076】
[本開示1]
タイヤのシミュレーション方法であって、
タイヤ及び路面を、それぞれ、有限個の要素でモデリングしたタイヤモデル及び路面モデルをコンピュータに入力する工程を含み、
前記コンピュータは、
予め定められた走行速度条件に基づいて、前記タイヤモデルに作用する遠心力を計算する工程と、
前記タイヤモデルに、予め定めた荷重及び内圧と、前記遠心力とを作用させて、前記路面モデルに静的に接地させた前記タイヤモデルの変形を計算する工程と、
前記変形したタイヤモデルの発熱量及び放熱量を計算する工程と、
前記発熱量及び前記放熱量に基づいて、前記タイヤモデルの前記要素の温度を計算する工程とを実行する、
タイヤのシミュレーション方法。
[本開示2]
前記タイヤモデルのタイヤ周方向の領域を、前記路面モデルに接触する接地領域と、それ以外の非接地領域とに区分する工程をさらに含み、
前記遠心力を計算する工程は、前記接地領域と、前記非接地領域とで、互いに異なる遠心力を計算する、本開示1に記載のタイヤのシミュレーション方法。
[本開示3]
前記接地領域の遠心力は、前記非接地領域の遠心力よりも小さい、本開示2に記載のタイヤのシミュレーション方法。
[本開示4]
前記遠心力を計算する工程は、前記タイヤモデルに作用する遠心力を、前記走行速度条件から特定される遠心力よりも小さく計算する、本開示1ないし3のいずれかに記載のタイヤのシミュレーション方法。