(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034882
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】杭穴の掘削方法、杭の施工方法、及び杭
(51)【国際特許分類】
E02D 7/00 20060101AFI20240306BHJP
E02D 5/34 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
E02D7/00 A
E02D5/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】27
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139427
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】515277300
【氏名又は名称】ジャパンパイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】中野 恵太
【テーマコード(参考)】
2D041
2D050
【Fターム(参考)】
2D041AA03
2D041EA04
2D041FA04
2D041FA06
2D050CA01
2D050CA05
2D050CA06
2D050CB01
2D050CB07
2D050CB43
(57)【要約】
【課題】容易且つ安価な方法で汚染物質の拡散を抑制することができる杭穴の掘削方法、杭の施工方法、及び杭を提供すること。
【解決手段】杭穴の掘削方法は、地盤に合わせてベントナイト又は難透水性材料を含む掘削液を調整する調整工程と、調整工程で調整した掘削液を用いて地盤に杭穴を掘削する掘削工程と、を有する。調整工程では、杭穴内の掘削土と掘削液の混合物が、杭穴に接する汚染されていない透水層の透水係数より小さい透水係数となるように、掘削液を調整する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に合わせてベントナイト又は難透水性材料を含む掘削液を調整する調整工程と、
前記調整工程で調整した掘削液を用いて前記地盤に杭穴を掘削する掘削工程と、を有し、
前記調整工程では、前記杭穴内の掘削土と前記掘削液の混合物が、前記杭穴に接する汚染されていない透水層の透水係数より小さい透水係数となるように、前記掘削液を調整する、
杭穴の掘削方法。
【請求項2】
前記地盤は、不透水層と、前記不透水層の上層にある汚染物質を含む第1透水層と、前記不透水層の下層にある汚染されていない第2透水層と、を含み、
前記杭穴は、前記第1透水層、前記不透水層、及び前記第2透水層を通って延設され、
前記調整工程では、前記混合物の透水係数が前記第2透水層の透水係数より小さくなるように、前記掘削液を調整する、
請求項1に記載の杭穴の掘削方法。
【請求項3】
前記地盤は、汚染されていない第1透水層と、前記第1透水層の下にある汚染物質を含む第2透水層と、を含み、
前記杭穴は、前記第1透水層と前記第2透水層を通って延設され、
前記調整工程では、前記混合物の透水係数が前記第1透水層の透水係数より小さくなるように、前記掘削液を調整する、
請求項1に記載の杭穴の掘削方法。
【請求項4】
前記調整工程は、前記掘削液の注入量と前記ベントナイト又は前記難透水性材料の濃度の少なくとも一方を調整する、
請求項1-3のいずれか1項に記載の杭穴の掘削方法。
【請求項5】
前記杭穴の掘削速度を調整する工程をさらに有する、
請求項4に記載の杭穴の掘削方法。
【請求項6】
前記調整工程では、前記混合物に含まれる前記掘削土の種類と量の少なくとも一方を考慮して、前記掘削液を調整する、
請求項1-3のいずれか1項に記載の杭穴の掘削方法。
【請求項7】
前記調整工程では、前記混合物に含まれる前記掘削土の種類と量の少なくとも一方を考慮して、前記掘削液の注入量と前記ベントナイト又は前記難透水性材料の濃度の少なくとも一方を調整する、
請求項1-3のいずれか1項に記載の杭穴の掘削方法。
【請求項8】
地盤に合わせてベントナイト又は難透水性材料を含む掘削液を調整する調整工程と、
前記調整工程で調整した掘削液を用いて前記地盤に杭穴を掘削する掘削工程と、を有し、
前記調整工程では、前記杭穴内の掘削土と前記掘削液の混合物の透水係数が望ましくは10-6[m/sec]以下、より望ましくは10-8[m/sec]以下になるように前記掘削液を調整する、
杭穴の掘削方法。
【請求項9】
前記地盤は、不透水層と、前記不透水層の上層にある汚染物質を含む第1透水層と、前記不透水層の下層にある汚染されていない第2透水層と、を含み、
前記杭穴は、前記第1透水層、前記不透水層、及び前記第2透水層を通って延設される、
請求項8に記載の杭穴の掘削方法。
【請求項10】
前記地盤は、汚染されていない第1透水層と、前記第1透水層の下にある汚染物質を含む第2透水層と、を含み、
前記杭穴は、前記第1透水層と前記第2透水層を通って延設される、
請求項8に記載の杭穴の掘削方法。
【請求項11】
前記調整工程は、前記掘削液の注入量と前記ベントナイト又は前記難透水性材料の濃度の少なくとも一方を調整する、
請求項8-10のいずれか1項に記載の杭穴の掘削方法。
【請求項12】
前記杭穴の掘削速度を調整する工程をさらに有する、
請求項11に記載の杭穴の掘削方法。
【請求項13】
前記調整工程では、前記混合物に含まれる前記掘削土の種類と量の少なくとも一方を考慮して、前記掘削液を調整する、
請求項8-10のいずれか1項に記載の杭穴の掘削方法。
【請求項14】
前記調整工程では、前記混合物に含まれる前記掘削土の種類と量の少なくとも一方を考慮して、前記掘削液の注入量と前記ベントナイト又は前記難透水性材料の濃度の少なくとも一方を調整する、
請求項8-10のいずれか1項に記載の杭穴の掘削方法。
【請求項15】
地盤に合わせてベントナイト又は難透水性材料を含む掘削液を調整する調整工程と、
前記調整工程で調整した掘削液を用いて前記地盤に杭穴を掘削する掘削工程と、
前記掘削工程で掘削した前記杭穴内の掘削土と前記掘削液の混合物にセメント系材料を注入して混合し、根固め部と杭周面部の少なくとも一方を形成する工程と、
前記杭穴内の前記根固め部と前記杭周面部の少なくとも一方に柱状体を埋設して固化させる工程と、を有し、
前記調整工程では、前記根固め部と前記杭周面部の少なくとも一方を形成する工程で形成される前記根固め部と前記杭周面部の少なくとも一方が、前記杭穴に接する汚染されていない透水層の透水係数より小さい透水係数となるように、前記掘削液を調整する、
杭の施工方法。
【請求項16】
前記調整工程は、前記掘削液の注入量と前記ベントナイト又は前記難透水性材料の濃度の少なくとも一方を調整する、
請求項15に記載の杭の施工方法。
【請求項17】
前記杭穴の掘削速度を調整する工程をさらに有する、
請求項16に記載の杭の施工方法。
【請求項18】
前記調整工程では、前記根固め部と前記杭周面部の少なくとも一方を形成する工程で形成される前記根固め部と前記杭周面部の少なくとも一方に含まれる前記掘削土の種類と量の少なくとも一方を考慮して、前記掘削液を調整する、
請求項15に記載の杭の施工方法。
【請求項19】
前記調整工程では、前記根固め部と前記杭周面部の少なくとも一方を形成する工程で形成される前記根固め部と前記杭周面部の少なくとも一方に含まれる前記掘削土の種類と量の少なくとも一方を考慮して、前記掘削液の注入量と前記ベントナイト又は前記難透水性材料の濃度の少なくとも一方を調整する、
請求項15に記載の杭の施工方法。
【請求項20】
前記調整工程では、前記根固め部と前記杭周面部の少なくとも一方を形成する工程で形成される前記根固め部と前記杭周面部の少なくとも一方の透水係数が望ましくは10-6[m/sec]以下、より望ましくは10-8[m/sec]以下になるように前記掘削液を調整する、
請求項15に記載の杭の施工方法。
【請求項21】
地盤に合わせてベントナイト又は難透水性材料を含む掘削液を調整する調整工程と、
前記調整工程で調整した掘削液を用いて前記地盤に杭穴を掘削する掘削工程と、
前記掘削工程で掘削した前記杭穴内の掘削土と前記掘削液の混合物にセメント系材料を注入して混合し、根固め部と杭周面部の少なくとも一方を形成する工程と、
前記杭穴内の前記根固め部と前記杭周面部の少なくとも一方に柱状体を埋設して固化させる工程と、を有し、
前記調整工程では、前記固化させる工程で固化させた前記根固め部と前記杭周面部の少なくとも一方が、前記杭穴に接する汚染されていない透水層の透水係数より小さい透水係数となるように、前記掘削液を調整する、
杭の施工方法。
【請求項22】
前記調整工程は、前記掘削液の注入量と前記ベントナイト又は前記難透水性材料の濃度の少なくとも一方を調整する、
請求項21に記載の杭の施工方法。
【請求項23】
前記杭穴の掘削速度を調整する工程をさらに有する、
請求項22に記載の杭の施工方法。
【請求項24】
前記調整工程では、固化した前記根固め部と前記杭周面部の少なくとも一方に含まれる前記掘削土の種類と量の少なくとも一方を考慮して、前記掘削液を調整する、
請求項21に記載の杭の施工方法。
【請求項25】
前記調整工程では、固化した前記根固め部と前記杭周面部の少なくとも一方に含まれる前記掘削土の種類と量の少なくとも一方を考慮して、前記掘削液の注入量と前記ベントナイト又は前記難透水性材料の濃度の少なくとも一方を調整する、
請求項21に記載の杭の施工方法。
【請求項26】
前記調整工程では、固化した前記根固め部と前記杭周面部の少なくとも一方の透水係数が望ましくは10-6[m/sec]以下、より望ましくは10-8[m/sec]以下になるように前記掘削液を調整する、
請求項21に記載の杭の施工方法。
【請求項27】
汚染物質を含む掘削土、ベントナイト又は難透水性材料、及びセメント系材料を混合した根固め部と杭周面部の少なくとも一方を用いて、プレボーリング工法によって地盤の杭穴に施工した杭であって、
前記根固め部と前記杭周面部の少なくとも一方の透水係数が、前記杭穴に接する前記地盤の汚染されていない透水層の透水係数より小さい、
杭。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、汚染物質を含む透水層を通して杭穴を掘削する方法、この杭穴に杭を施工する方法、及び杭に関する。
【背景技術】
【0002】
杭の施工方法として、例えば、プレボーリング工法が知られている。プレボーリング工法では、例えば、掘削液を使用して地盤を掘削して所定深さの杭穴を形成し、掘削土砂にセメントミルクを注入して杭穴内で撹拌混合し、撹拌混合したソイルセメントの中に既製杭を沈設する。ソイルセメントが固化することで、既製杭と一体化されて杭が形成される。
【0003】
杭穴を形成する地盤に汚染物質を含む透水層がある場合、この透水層を通る杭穴を介して汚染されていない別の透水層へ汚染物質が拡散する可能性がある。
【0004】
このため、例えば、特許文献1に記載された発明では、このような地盤に杭穴を形成する場合、汚染物質を含む透水層を掘削した土砂を杭穴から排出して、杭穴の内壁に汚染物質の漏れを防止するためのシーリング層を設けた後、杭を施工するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の施工方法では、汚染物質を含む透水層から杭穴への汚染物質の漏れを防止するため、杭穴の内壁にシーリング層を形成する。そのため、杭穴を形成した後、杭穴の内壁にシーリング層を設けるまでの間に、汚染物質が杭穴内に侵入する可能性があり、杭穴から汚染物質を完全に排出することは難しい。また、特許文献1の施工方法では、杭穴の内壁にシーリング層を設けた後、シーリング層が崩壊してしまった場合には、汚染物質が杭穴内に侵入してしまう。
【0007】
この発明は、容易且つ安価な方法で汚染物質の拡散を抑制することができる杭穴の掘削方法、杭の施工方法、及び杭を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様に係る杭穴の掘削方法は、地盤に合わせてベントナイト又は難透水性材料を含む掘削液を調整する調整工程と、調整工程で調整した掘削液を用いて地盤に杭穴を掘削する掘削工程と、を有する。調整工程では、杭穴内の掘削土と掘削液の混合物が、杭穴に接する汚染されていない透水層の透水係数より小さい透水係数となるように、掘削液を調整する。
【0009】
この態様の杭穴の掘削方法によれば、杭穴内の混合物に汚染物質が含まれていたとしても、混合物から汚染されていない透水層へ汚染物質が拡散することを抑制することができ、容易且つ安価な方法で汚染物質の拡散を抑制することができる。
【0010】
また、この態様の杭穴の掘削方法は、不透水層と、不透水層の上層にある汚染物質を含む第1透水層と、不透水層の下層にある汚染されていない第2透水層と、を含む地盤に適用されてもよい。杭穴は、第1透水層、不透水層、及び第2透水層を通って延設される。調整工程では、混合物の透水係数が第2透水層の透水係数より小さくなるように、掘削液を調整する。これにより、不透水層の上層の第1透水層から不透水層の下層の第2透水層へ汚染物質が拡散する不具合を抑制することができる。
【0011】
また、この態様の杭穴の掘削方法は、汚染されていない第1透水層と、第1透水層の下にある汚染物質を含む第2透水層と、を含む地盤に適用されてもよい。杭穴は、第1透水層と第2透水層を通って延設される。調整工程では、混合物の透水係数が第1透水層の透水係数より小さくなるように、掘削液を調整する。これにより、第2透水層から上方にある第1透水層へ汚染物質が拡散する不具合を抑制することができる。
【0012】
また、この態様の杭穴の掘削方法の調整工程では、掘削液の注入量とベントナイト又は難透水性材料の濃度の少なくとも一方を調整してもよい。また、この態様の杭穴の掘削方法は、杭穴の掘削速度を調整する工程をさらに有してもよい。また、この態様の杭穴の掘削方法の調整工程では、混合物に含まれる掘削土の種類と量の少なくとも一方を考慮して、掘削液を調整してもよい。また、この態様の杭穴の掘削方法の調整工程では、混合物に含まれる掘削土の種類と量の少なくとも一方を考慮して、掘削液の注入量とベントナイト又は難透水性材料の濃度の少なくとも一方を調整してもよい。また、調整工程では、混合物の透水係数が望ましくは10-6[m/sec]以下、より望ましくは10-8[m/sec]以下になるように掘削液を調整してもよい。これにより、容易且つ安価な方法で汚染物質の拡散を抑制することができる。
【0013】
一態様に係る杭の施工方法は、地盤に合わせてベントナイト又は難透水性材料を含む掘削液を調整する調整工程と、調整工程で調整した掘削液を用いて地盤に杭穴を掘削する掘削工程と、掘削工程で掘削した杭穴内の掘削土と掘削液の混合物にセメント系材料を注入して混合し、根固め部と杭周面部の少なくとも一方を形成する工程と、杭穴内の根固め部と杭周面部の少なくとも一方に柱状体を埋設して固化させる工程と、を有する。調整工程では、根固め部と杭周面部の少なくとも一方を形成する工程で形成される根固め部と杭周面部の少なくとも一方が、杭穴に接する汚染されていない透水層の透水係数より小さい透水係数となるように、掘削液を調整する。
【0014】
この態様の杭の施工方法によれば、杭穴内の根固め部と杭周面部の少なくとも一方に汚染物質が含まれていたとしても、根固め部と杭周面部の少なくとも一方から汚染されていない透水層へ汚染物質が拡散することを抑制することができ、容易且つ安価な方法で汚染物質の拡散を抑制することができる。
【0015】
また、この態様の杭の施工方法の調整工程では、掘削液の注入量とベントナイト又は難透水性材料の濃度の少なくとも一方を調整してもよい。また、この態様の杭の施工方法は、杭穴の掘削速度を調整する工程をさらに有してもよい。また、この態様の杭の施工方法の調整工程では、根固め部と杭周面部の少なくとも一方に含まれる掘削土の種類と量の少なくとも一方を考慮して、掘削液を調整してもよい。また、この態様の杭の施工方法の調整工程では、根固め部と杭周面部の少なくとも一方を形成する工程で形成される根固め部と杭周面部の少なくとも一方に含まれる掘削土の種類と量の少なくとも一方を考慮して、掘削液の注入量とベントナイト又は難透水性材料の濃度の少なくとも一方を調整してもよい。また、この態様の杭の施工方法の調整工程では、根固め部と杭周面部の少なくとも一方を形成する工程で形成される根固め部と杭周面部の少なくとも一方の透水係数が望ましくは10-6[m/sec]以下、より望ましくは10-8[m/sec]以下になるように掘削液を調整してもよい。これにより、容易且つ安価な方法で汚染物質の拡散を抑制することができる。
【0016】
一態様に係る杭の施工方法は、地盤に合わせてベントナイト又は難透水性材料を含む掘削液を調整する調整工程と、調整工程で調整した掘削液を用いて地盤に杭穴を掘削する掘削工程と、掘削工程で掘削した杭穴内の掘削土と掘削液の混合物にセメント系材料を注入して混合し、根固め部と杭周面部の少なくとも一方を形成する工程と、杭穴内の根固め部と杭周面部の少なくとも一方に柱状体を埋設して固化させる工程と、を有する。調整工程では、固化させる工程で固化させた根固め部と杭周面部の少なくとも一方が、杭穴に接する汚染されていない透水層の透水係数より小さい透水係数となるように、掘削液を調整する。
【0017】
この態様の杭の施工方法によれば、杭穴内の根固め部と杭周面部の少なくとも一方に汚染物質が含まれていたとしても、根固め部と杭周面部の少なくとも一方から汚染されていない透水層へ汚染物質が拡散することを抑制することができ、容易且つ安価な方法で汚染物質の拡散を抑制することができる。
【0018】
また、この態様の杭の施工方法の調整工程では、掘削液の注入量とベントナイト又は難透水性材料の濃度の少なくとも一方を調整してもよい。また、この態様の杭の施工方法は、杭穴の掘削速度を調整する工程をさらに有してもよい。また、この態様の杭の施工方法の調整工程では、固化した根固め部と杭周面部の少なくとも一方に含まれる掘削土の種類と量の少なくとも一方を考慮して、掘削液を調整してもよい。また、この態様の杭の施工方法の調整工程では、固化した根固め部と杭周面部の少なくとも一方に含まれる掘削土の種類と量の少なくとも一方を考慮して、掘削液の注入量とベントナイト又は難透水性材料の濃度の少なくとも一方を調整してもよい。また、この態様の杭の施工方法の調整工程では、固化した根固め部と杭周面部の少なくとも一方の透水係数が望ましくは10-6[m/sec]以下、より望ましくは10-8[m/sec]以下になるように掘削液を調整してもよい。これにより、容易且つ安価な方法で汚染物質の拡散を抑制することができる。
【0019】
一態様に係る杭は、汚染物質を含む掘削土、ベントナイト又は難透水性材料、及びセメント系材料を混合した根固め部と杭周面部の少なくとも一方を用いて、プレボーリング工法によって地盤の杭穴に施工される。根固め部と杭周面部の少なくとも一方の透水係数は、固化及び未固化の両方の状態において、杭穴に接する地盤の汚染されていない透水層の透水係数より小さい。これにより、汚染物質を含む地盤に形成した杭穴に隣接して汚染されていない透水層があっても、杭に含まれる汚染物質が汚染されていない透水層へ拡散することを抑制することができ、容易且つ安価な方法で汚染物質の拡散を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、容易且つ安価な方法で汚染物質の拡散を抑制することができる杭穴の掘削方法、杭の施工方法、及び杭を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、杭の施工方法の一実施形態を説明するための図である。
【
図2】
図2は、
図1とともに施工方法の一実施形態を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、実施形態について説明する。
ここでは、
図1に示す地層を有する地盤Gを掘削して杭穴1を形成し、この杭穴1に杭10を施工するプレボーリング工法において、本発明を適用した実施形態について説明する。地盤Gは、地表にある第1透水層2、第1透水層2の下層にある不透水層4、不透水層4の下層にある第2透水層6、及び第2透水層6の下層にある支持層8を含むものとする。
【0023】
本実施形態では、第1透水層2が汚染物質を含む層であり、不透水層4がシルト層であり、第2透水層6が汚染されていない層であるものとする。本実施形態の地盤Gは、第1透水層2、不透水層4、及び第2透水層6を含んでいればよく、第1透水層2より上層及び/或いは第2透水層6より下層に他の層を含んでいてもよい。
【0024】
或いは、地表にある第1透水層2が汚染されていない層であり、その下にある第2透水層6が汚染物質を含む層である地盤に対し、本発明を適用することもできる。第1透水層2は、必ずしも地表にある必要もない。また、この場合、両者の間にある不透水層4は必須の構成ではない。例えば、不透水層4の上層に汚染物質を含む第1透水層があり、その上層に汚染されていない第2透水層がある地盤に本発明を適用することができる。
【0025】
汚染物質は、例えば、油分、重金属、有機溶媒、農薬などであり、鉛(Pb)、砒素(As)、シアン(CN)、フッ素(F)などの土壌含有量を測定して評価することができる。本実施形態では、このような汚染物質を含む第1透水層2の下層に不透水層4があるため、地盤Gに杭穴1を形成しなければ、第1透水層2の汚染物質が不透水層4の下層にある第2透水層6へ拡散することはない。
【0026】
しかし、本実施形態のように、不透水層4を貫通して第1透水層2と第2透水層6をつなぐ杭穴1を形成すると、杭穴1を介して第1透水層2の汚染物質が第2透水層6へ拡散する可能性が生じる。また、第2透水層6が汚染物質を含む場合には、杭穴1を介して第1透水層2へ第2透水層6の汚染物質が拡散する可能性がある。
【0027】
例えば、本実施形態のように、地表にある第1透水層2が汚染物質を含んでいると、第1透水層2を掘削した掘削土が汚染物質を含む可能性があり、掘削土と掘削液の混合物(以下、掘削泥水と称する場合もある)が汚染物質を含む可能性がある。この掘削泥水に含まれる汚染物質は、杭穴1が不透水層4を貫通するまでは、第2透水層6へ拡散することはない。しかし、杭穴1が不透水層4を貫通して第2透水層6まで達すると、掘削泥水に含まれる汚染物質が第2透水層6に拡散する可能性が生じる。
【0028】
また、第2透水層6が汚染物質を含んでおり、且つ第1透水層2が汚染されていない場合には、杭穴1が第2透水層6まで達すると、第2透水層6を掘削した掘削土が汚染物質を含む可能性があり、掘削泥水が汚染物質を含む可能性がある。この場合、掘削泥水を介して第1透水層2へ汚染物質が拡散する可能性がある。また、この場合、後述するように根固め部及び杭周面部(以下、杭周部と称する)のソイルセメントを築造する際にも、第2透水層6の掘削土に含まれる汚染物質が第1透水層2へ拡散する可能性が考えられる。
【0029】
本実施形態では、このような不具合を防止するため、杭穴1を掘削する掘削液を「調整」して、第1透水層2の汚染物質が第2透水層6に拡散しないようにした。不透水層4を貫通する杭穴1を形成しても、第1透水層2を掘削した掘削土と掘削液の混合物である掘削泥水の透水係数が第2透水層6の透水係数より小さければ、掘削泥水から第2透水層6へ汚染物質が拡散することを抑制することができる。このため、本実施形態では、第1透水層2の掘削土と掘削液の混合物である掘削泥水の透水係数が汚染されていない第2透水層6の透水係数より小さくなるように、掘削液を「調整」した。
【0030】
また、第1透水層2が汚染されていない層であって、且つ第2透水層6が汚染物質を含む層である場合であっても、同様に、掘削液を「調整」することによって、第2透水層6の汚染物質が第1透水層2へ拡散する不具合を抑制することができる。この場合、掘削泥水の透水係数が汚染されていない第1透水層2の透水係数より小さくなるように掘削液を「調整」すればよい。
【0031】
本実施形態で使用する掘削液は、水に難透水材料(ベントナイト等)を混ぜたものである。ベントナイトの代表例として、ナトリウム系ベントナイトと、カルシウム系ベントナイトがあり、カルシウム系ベントナイトには、カルボキシメチルセルロース(CMC)を加えて使用する場合がある。なお、ベントナイトは、粘土鉱物であり、難透水材料の一種である。CMCは、水溶性高分子の一種である。
【0032】
掘削液の「調整」は、例えば、注入量と難透水材料の濃度の少なくとも一方の調整であり、少なくとも一方を調整することにより、掘削泥水の透水係数を調整することができる。また、掘削速度を調整することでも、掘削泥水の透水係数を調整することができる。掘削時、先端部分の掘削泥水の透水係数は、掘削速度(=掘削土の発生速度)、掘削液の吐出速度(吐出量)と濃度によって決まる。
【0033】
なお、本実施形態においては、第1透水層2に含まれる礫や砂の種類と量も、掘削泥水の透水係数に影響することが分かっている。つまり、汚染物質を含む層の礫や砂の種類と量が掘削泥水の透水係数に影響する。このため、掘削液及び/或いは掘削速度を調整する際には、第1透水層2の掘削土に含まれる礫や砂の種類と量の少なくとも一方を考慮して調整することが望ましい。なお、杭穴1が第2透水層6に到達した後は、第2透水層6の礫や砂も掘削泥水の透水係数に影響する。
【0034】
図1に示すように、地盤Gを掘削する掘削装置20は、掘削ロッド22の先端に掘削ヘッド24を備えている。掘削装置20は、掘削ヘッド24の他に、スクリュー26を備えている。掘削ロッド22は、掘削ヘッド24を介して吐出する掘削液やセメント系材料の一種であるセメントミルクを流通させる管を有する。掘削装置20は、図示しない杭打機の構成要素であり、周知の装置であるため、ここでは掘削装置20の詳細な説明を省略する。
【0035】
以下、
図1とともに
図2のフローチャートを参照して、上述した地盤Gに対する杭穴の掘削方法及び杭の施工方法の一実施形態について説明する。本実施形態の掘削方法及び施工方法を実施することにより、地盤Gの第1透水層2の汚染物質が杭穴1を通って第2透水層6へ拡散する不具合を抑制することができる。
【0036】
まず、
図2のステップ1として、杭を施工する地盤Gの地質を調査する。この調査では、地盤Gの複数個所からボーリングにより土を採取し、地層の状態、各層における礫、砂、粘土などの含有割合、汚染物質の有無、透水係数などを測定する。本実施形態では、この地質調査によって、
図1に示す地層であることが分かっている。
【0037】
次に、ステップ2として、掘削液を調整する(調整工程)。本実施形態で使用する掘削液は、水にベントナイトを混ぜたベントナイト水である。ベントナイト水の調整は、掘削土とベントナイト水の混合物(掘削泥水)の透水係数が第2透水層6の透水係数より小さくなるように、ベントナイト水の使用量とベントナイトの濃度を調整する。
【0038】
そして、ステップ2で調整した掘削液を用いて地盤Gを掘削して(掘削工程)杭穴1を形成する(
図1a、
図1b、
図2のステップ3)。地盤Gの掘削には、例えば、掘削装置20を備えた杭打機(図示せず)を用いる。掘削の際には、掘削装置20の掘削ロッド22を通して上記のように調整した掘削液を杭穴1内に注入し、掘削装置20を回転させるとともに、掘削ヘッド24を地盤Gに押し込む。杭穴1の内径は、少なくとも後述する杭本体12(柱状体)(
図1e)の杭径より大きい径である。
【0039】
本実施形態では、地表にある第1透水層2が汚染物質を含むため、第1透水層2の掘削土は汚染物質を含む可能性がある。よって、ステップ3の掘削工程により第1透水層2を掘削する際に杭穴1内で形成される掘削泥水も、汚染物質を含む可能性がある。なお、
図1(a)、
図1(b)に示すステップ3の掘削工程の間、杭穴1は掘削泥水で満たされる。掘削泥水の透水係数は第2透水層6の透水係数より低いので、汚染物質が杭穴1に侵入することが抑止される。
【0040】
ステップ3で第2透水層6の下層の支持層8まで杭穴1を掘削した後(
図1b)、ステップ4、5のように、杭穴1内でソイルセメントを築造する(
図1c、
図1d)。すなわち、杭穴1の掘削が終了した
図1(b)の状態から、掘削装置20を引き上げつつ杭穴1の底からセメントミルクを注入する(ステップ4)。これにより、掘削泥水の一部は杭穴1から排出される。
【0041】
そして、所定量のセメントミルクを杭穴1内に注入した後、掘削ヘッド24を杭穴1に沿って複数回往復移動させて、掘削装置20のスクリュー26によって杭穴1内に残った掘削泥水とセメントミルクを十分に撹拌混合し(ステップ5)、ソイルセメントによる杭周部を築造する。杭周部は、掘削泥水の一部を含むため、汚染物質を含む可能性がある。
【0042】
ステップ5で杭周部を築造した後、杭穴1から掘削装置20を引き上げて、
図1(e)、
図1(f)に示すように、杭周部に杭本体12を沈設する(ステップ6)。さらに、この状態(
図1fの状態)で、杭本体12を一定時間保持し(ステップ7)、杭周部を固化させて(ステップ8)、杭10の施工を完了する。この場合、杭周部に汚染物質を含む可能性のある杭10も汚染物質を含む可能性がある。
【0043】
以上のように、本実施形態によると、掘削液を「調整」することにより、掘削泥水の透水係数を汚染されていない第2透水層6の透水係数より小さくし、掘削工程の間中、この掘削泥水で杭穴1内を満たすようにした。このため、本実施形態によると、掘削泥水に含まれる汚染物質が第2透水層6に拡散する不具合を抑制することができる。ここでいう掘削泥水は、汚染物質を含む第1透水層2を掘削した掘削泥水と第2透水層6を掘削した掘削泥水を含む。
【0044】
なお、汚染物質の第2透水層6への拡散を抑制する効果をより高めるため、掘削泥水の透水係数が望ましくは10-6[m/sec]、より望ましくは10-8[m/sec]以下になるように、掘削液を調整することが望ましい。掘削泥水の透水係数を10-6[m/sec]以下にすることで、不透水層4の透水係数と同等となり、掘削泥水から汚染物質が拡散する不具合を抑制することができる。
【0045】
また、本実施形態によると、汚染物質が地盤Gのどの深度に存在するのか、或いは汚染物質が地盤Gに存在するのかが不明な場合であっても、ベントナイトを含む掘削液を用いて杭穴を掘削したときの掘削泥水の透水係数が10-6[m/sec]以下になるように掘削液を「調整」しておけば、杭施工を原因とした汚染物質の拡散の可能性を殆ど無くすことができる。つまり、この場合、汚染されていない第2透水層6の透水係数を測定する必要が無く、掘削泥水の透水係数と比較する必要も無い。
【0046】
また、本実施形態によると、杭施工に要する通常の設備を用いて、汚染物質の拡散を抑制できる施工が可能であり、汚染物質の拡散を抑制するためのシーリング層を設ける必要もない。また、シーリング層を設ける代わりにケーシングを用いた施工と比較しても、材料コストを安価にでき、工数を削減することができ、施工コストを安価にすることができる。
【0047】
なお、上述した実施形態では、地表にある第1透水層2が汚染物質を含み、その下層の不透水層4のさらに下層にある第2透水層6が汚染されていない地盤Gに杭を施工する場合について説明したが、第1透水層2が汚染されておらず、第2透水層6が汚染物質を含む場合であっても、同様に、本発明を適用することができる。また、この場合、不透水層4は、必須の構成ではない。
【0048】
また、上述した実施形態では、掘削泥水の透水係数を調整して汚染物質の拡散を抑制する方法について説明したが、ステップ4、5で説明したソイルセメントの形成工程において形成されるソイルセメントの透水係数を評価して、この透水係数が汚染されていない第2透水層6の透水係数より小さくなるように、ステップ3の掘削工程で用いる掘削液を「調整」するようにしてもよい。また、この場合、ソイルセメントの透水係数を望ましくは10-6[m/sec]以下、より望ましくは10-8[m/sec]以下に設定することが望ましい。
【0049】
上記のようにソイルセメントの透水係数を設定することで、杭穴1に築造した杭10の杭周部に含まれる可能性のある汚染物質が杭穴1の外へ漏れる不具合を生じることがなく、汚染物質を含む杭10であっても、汚染物質の拡散を抑制することができる。
【0050】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【0051】
例えば、杭本体12は、複数本の既製杭を連結したものであってもよい。既製杭として、例えば、コンクリート杭や鋼管杭などがある。コンクリート杭は、円筒形のストレート杭、節杭などがある。節杭は、長手方向に離間した複数の円環状の節部を軸部の周面上に一体に備える。杭本体12の長さは、杭本体12の先端が地盤Gの支持層8に達する長さにすることが望ましい。このため、杭穴1も、支持層8に達する深さに形成することが望ましい。しかし、杭本体12の長さは、必ずしも、その先端が支持層8に達する長さにする必要はない。また、杭穴1の長さも、支持層8に達する長さにする必要はない。例えば、杭10が摩擦杭である場合、先端を支持層8に到達させる必要はない。
【0052】
また、杭10は、上述した杭本体12の先端近くを囲むように設けた拡大根固め部と拡大杭周面部の少なくとも一方を有してもよい。拡大根固め部又は拡大杭周部は、根固め部又は杭周面部より大径のソイルセメントにより形成される。杭穴1の内壁面と杭本体12の外周面との間にソイルセメントを設けてソイルセメントが固化することにより杭周部と根固め部が形成される。根固め部及び杭周部に設けたソイルセメントが固化すると、根固め部及び杭周部が杭本体12と一体化されて杭10が形成される。
【0053】
また、杭本体12と杭穴1の間に設けるソイルセメントが、遅延剤等の添加剤を含んでもよい。
【符号の説明】
【0054】
1…杭穴、2…第1透水層、4…不透水層、6…第2透水層、8…支持層、10…杭、12…杭本体、20…掘削装置、22…掘削ロッド、24…掘削ヘッド、26…スクリュー、G…地盤。