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特開2024-34899水素ガスバリア膜および水素ガスバリア構造体
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  • 特開-水素ガスバリア膜および水素ガスバリア構造体 図1
  • 特開-水素ガスバリア膜および水素ガスバリア構造体 図2
  • 特開-水素ガスバリア膜および水素ガスバリア構造体 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034899
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】水素ガスバリア膜および水素ガスバリア構造体
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/30 20060101AFI20240306BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20240306BHJP
   B32B 9/04 20060101ALI20240306BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20240306BHJP
   B32B 15/18 20060101ALI20240306BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20240306BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C23C16/30
B32B9/00 A
B32B9/04
B32B15/04 B
B32B15/18
C01G23/00 C
C23C16/455
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139460
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 康雄
(72)【発明者】
【氏名】大西 真司
【テーマコード(参考)】
4F100
4G047
4K030
【Fターム(参考)】
4F100AA13A
4F100AA19A
4F100AA21A
4F100AB04B
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100JD02A
4F100JM02A
4F100YY00A
4G047CA01
4G047CA05
4G047CB04
4G047CC03
4G047CD02
4K030AA13
4K030BA02
4K030BA18
4K030BA38
4K030BA42
4K030CA02
4K030HA01
(57)【要約】
【課題】従来よりも優れた水素ガスバリア特性を有する水素ガスバリア膜、および、これを備えた水素ガスバリア構造体を提供すること。
【解決手段】水素ガスバリア膜(3)は、AlTiONからなり、Nを30at%以上含む。水素ガスバリア構造体(1)は、基材(2)と、前記基材の表面(21)上に形成された前記水素ガスバリア膜とを備えている。前記基材は、例えば、鉄系材料からなる。好ましくは、例えば、前記水素ガスバリア膜は、Nを32~42at%含む。前記水素ガスバリア膜は、例えば、200nm以下の膜厚で形成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスバリア膜(3)であって、
AlTiONからなり、Nを30at%以上含む、
水素ガスバリア膜。
【請求項2】
前記水素ガスバリア膜は、Nを32~42at%含む、
請求項1に記載の水素ガスバリア膜。
【請求項3】
前記水素ガスバリア膜は、200nm以下の膜厚で形成された、
請求項1または2に記載の水素ガスバリア膜。
【請求項4】
水素ガスバリア構造体(1)であって、
基材(2)と、
前記基材の表面(21)上に形成された水素ガスバリア膜(3)と、
を備え、
前記水素ガスバリア膜は、AlTiONからなり、Nを30at%以上含む、
水素ガスバリア構造体。
【請求項5】
前記水素ガスバリア膜は、Nを32~42at%含む、
請求項4に記載の水素ガスバリア構造体。
【請求項6】
前記水素ガスバリア膜は、200nm以下の膜厚で形成された、
請求項4または5に記載の水素ガスバリア構造体。
【請求項7】
前記水素ガスバリア膜は、前記表面上に単層または二層で形成された、
請求項6に記載の水素ガスバリア構造体。
【請求項8】
前記基材は、鉄系材料からなる、
請求項4に記載の水素ガスバリア構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスバリア膜およびこれを備えた水素ガスバリア構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスバリア膜として、SiONを中心とした無機薄膜が多数提案されているが、水素に関しては、効果が得られない。水素ガスバリア膜としては、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1に記載された水素バリア機能膜は、第1層と第2層とを交互に積層した多層膜である。第1層の層数をnとし、第2層の層数をmとした場合に、第1層と第2層との合計層数すなわちn+mは、10以上1000以下である。かかる水素バリア機能膜は、全体の膜厚が0.5μm以上2μm以下である。また、第1層の膜厚および第2層の膜厚は、それぞれ、5nm以上10nm以下である。第1層は、TiSiNbN、TiMoN、TiAlN、およびAlCrNのうちのいずれかの合金窒素化合物からなり、第2層は、TiSiNbN、TiMoN、TiAlN、およびAlCrNのうちで第1層とは異なる合金窒素化合物からなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-139009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の通り、従来の一般的なガスバリア膜のように、単にアモルファス膜を用いることだけでは、水素ガスバリア膜としての機能を奏することはできない。また、適用範囲が限定的となり、配管等の複雑な形状には適用困難である。一方、特許文献1に記載された水素バリア機能膜は、膜厚が厚く、高コストとなる。また、窒化膜は応力が高くなる傾向があるところ、膜厚が厚いと応力がさらに高くなる。応力が高いと、クラックや剥離が発生しやすくなる。さらに、結晶膜では、粒界からクラックが発生して、かかるクラックが水素透過経路となるため、バリア性能を低下させる可能性がある。一方、単結晶膜とするためには、大きな結晶サイズが必要となるが、現実的に不可能である。
【0005】
本発明は、上記に例示した事情等に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、例えば、従来よりも優れた水素ガスバリア特性を有する水素ガスバリア膜、および、これを備えた水素ガスバリア構造体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の水素ガスバリア膜は、AlTiONからなり、Nを30at%以上含む。
請求項4に記載の水素ガスバリア構造体(1)は、
基材(2)と、
前記基材の表面(21)上に形成された水素ガスバリア膜(3)と、
を備え、
前記水素ガスバリア膜は、AlTiONからなり、Nを30at%以上含む。
【0007】
なお、出願書類中の各欄において、各要素に括弧付きの参照符号が付されている場合がある。この場合、参照符号は、同要素と後述する実施形態に記載の具体的構成との対応関係の単なる一例を示すものである。よって、本発明は、参照符号の記載によって、何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る水素ガスバリア構造体の概略的な構成を示す断面図である。
図2図1に示された水素ガスバリア膜による水素ガスバリア特性を比較例と対比した表である。
図3図1に示された水素ガスバリア膜における窒素含有量と水素ガスバリア特性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、一つの実施形態に対して適用可能な各種の変形例については、当該実施形態に関する一連の説明の途中に挿入されると、当該実施形態の理解が妨げられるおそれがある。このため、変形例については、当該実施形態に関する一連の説明の途中には挿入せず、その後にまとめて説明する。
【0010】
(構成)
図1を参照すると、本実施形態に係る水素ガスバリア構造体1は、基材2と水素ガスバリア膜3とを備えている。水素ガスバリア膜3は、基材2の表面21上に形成されている。すなわち、水素ガスバリア構造体1は、基材2と水素ガスバリア膜3との接合体様の構造を有している。
【0011】
基材2は、鉄系材料、例えば、クロムを含有する鉄鋼材料すなわちステンレス鋼により形成されている。具体的には、例えば、基材2は、SUS316L等のオーステナイト系ステンレス鋼によって形成され得る。かかる基材2における表面21は、Fe成分を含んだ界面として形成されている。
【0012】
水素ガスバリア膜3は、AlTiONからなり、Nを30at%以上含む。具体的には、窒素含有率は、例えば、30~50at%である。窒素含有率が50at%より高くなると、酸素の含有率が極端に低くなり、窒化膜となってしまう。好適には、水素ガスバリア膜3は、Nを32~42%含む。水素ガスバリア膜3は、不純物として、0.4at%以上のClを含んでいてもよい。水素ガスバリア膜3は、200nm以下の膜厚で(すなわち薄膜として)形成されている。本実施形態においては、水素ガスバリア膜3は、基材2の表面21上に、単層で設けられている。また、水素ガスバリア膜3は、最表面31および基材界面32にてAlOが主成分となるように形成されている。最表面31は、水素ガスバリア膜3における、基材2との接合界面である基材界面32とは反対側の面である。水素ガスバリア膜3は、気相成長法(例えばALD)により形成され得る。ALDは原子層堆積法の略称である。
【0013】
(製造方法)
以下、本実施形態に係る水素ガスバリア構造体1および水素ガスバリア膜3の製造方法の概要について、SUS316L等のオーステナイト系ステンレス鋼からなる基材2を用いた例を具体例として説明する。
【0014】
まず、オーステナイト系ステンレス鋼からなる基材2を用意する。用意した基材2をアセトン等の有機溶剤で脱脂処理した後、基材2の表面21をアルカリ性薬液で処理する。かかるアルカリ薬液処理により、基材2の表面21と水素ガスバリア膜3との密着性が向上する。アルカリ性薬液としては、第4級アンモニウム水酸化物の溶液が好適に用いられる。利用可能な第4級アンモニウム水酸化物は、具体的には、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(すなわちTMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(すなわちTEAH)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、等であり、TMAHが特に好適に用いられ得る。なお、第4級アンモニウム水酸化物は1種または2種以上を用いることができる。基材2の表面21上に、気相成長法(例えばALD)により水素ガスバリア膜3を形成することで、図1に示された水素ガスバリア構造体1が得られる。酸素含有量や窒素含有量は、HOやNHのパルスで制御することができる。
【0015】
(効果)
以下、本実施形態に係る水素ガスバリア構造体1すなわち水素ガスバリア膜3により奏される水素ガスバリア性能について、実施例および比較例を用いて説明する。
【0016】
上記の通り、特許文献1に記載された、窒化膜からなる水素バリア機能膜は、膜厚が厚い(すなわち具体的には0.5μm~2μm)。このため、高コストとなる。また、応力が高くなる。応力が高くなることで、クラックや剥離が発生しやすくなり、バリア性能が低下する。特に、結晶膜であるため、粒界を起点としてクラックが発生しやすい。
【0017】
この点、酸化膜であるAlTiOは、バリア性能に優れるものの、薄膜化する(例えば膜厚を200nm以下とする)と充分なバリア性能が得られなくなる。そこで、発明者は、鋭意研究の結果、AlTiO膜に窒素をドープすることで、薄膜化と充分なバリア性能とを両立させることができることを見出した。発明者の検討によれば、窒素ドープにより、膜が緻密化され、水素が透過しにくくなるものと推定される。また、アモルファス構造であるため、クラックの発生が良好に抑制されるとともに、基材2との密着性も向上する。
【0018】
図2は、実施例における水素ガスバリア膜3の水素ガスバリア特性を、比較例と対比しつつ示す。実施例1における水素ガスバリア膜3は、膜厚175nmのAlTiON薄膜であって、窒素含有量が42at%、アルミニウム含有量が28at%、チタン含有量が19at%、酸素含有量が8at%である。実施例2は、実施例1と同一の窒素含有率のAlTiON膜であって、膜厚を85nmとした例である。実施例3、4は、実施例1と同一の膜厚のAlTiON膜における窒素含有率を変化させた例である。比較例1は、実施例1とほぼ同一の膜厚で、窒素含有量を0とした、AlTiO薄膜の例である。比較例2は、比較例1とほぼ同一の膜厚である、膜厚160nmのAlO薄膜を用いた例である。比較例3は、比較例2と同一膜厚160nmのTiO薄膜を用いた例である。図3は、ほぼ同一の膜厚である、実施例1、3、および4、ならびに比較例1を用いて、窒素含有率と水素透過係数との関係をプロットしたグラフである。
【0019】
図2に示されているように、窒素含有量が42at%の実施例1において、非常に良好な水素ガスバリア性能が得られた。なお、窒素含有量が40~44at%、アルミニウム含有量が25~30at%、チタン含有量が16~23at%、酸素含有量が6~10at%の範囲で変動しても、ほぼ同様の水素ガスバリア性能が得られた。また、水素ガスバリア膜3の膜厚が85nmと非常に薄膜化された実施例2においても、非常に良好な水素ガスバリア性能が得られた。
【0020】
なお、AlTiO薄膜である比較例1は、AlO薄膜である比較例2やTiO薄膜である比較例3よりも、水素ガスバリア性能が高い。しかしながら、窒素ドープを行っていない酸化膜すなわちAlTiO薄膜である比較例1よりも、窒素ドープされたAlTiON薄膜である実施例の方が、水素ガスバリア性能が高い。特に、窒素含有量が32~42at%である実施例1~3において、非常に良好な水素ガスバリア性能が得られた。図3のグラフを参照すると、窒素含有率が21%の例(すなわち実施例4)と32%の例(すなわち実施例3)とで、水素透過係数に大きな差が生じている。かかるグラフから、窒素含有量を少なくとも30%以上とすることで水素透過係数が10-16台まで低下することが、高い確度で推定される。
【0021】
このように、本実施形態に係る、AlTiON薄膜である水素ガスバリア膜3は、単層で薄く形成しても、非常に良好な水素ガスバリア性能を奏することが可能である。したがって、本実施形態によれば、低コスト化、低応力化、クラック発生抑制、密着性向上、等の優れた効果が、同時に達成され得る。
【0022】
(変形例)
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。故に、上記実施形態に対しては、適宜変更が可能である。以下、代表的な変形例について説明する。以下の変形例の説明においては、上記実施形態との相違点を主として説明する。また、上記実施形態と変形例とにおいて、互いに同一または均等である部分には、同一符号が付されている。したがって、以下の変形例の説明において、上記実施形態と同一の符号を有する構成要素に関しては、技術的矛盾または特段の追加説明なき限り、上記実施形態における説明が適宜援用され得る。
【0023】
基材2は、SUS316L等のオーステナイト系ステンレス鋼には限定されない。また、水素ガスバリア膜3の形成方法は、ALDに限定されず、一般的な物理蒸着あるいは化学蒸着等を用いることが可能である。水素ガスバリア膜3の層数についても、特段の限定はなく、例えば、二層構造や三層構造であってもよい。
【0024】
上記実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、構成要素の個数、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数値に限定される場合等を除き、その特定の数値に本発明が限定されることはない。同様に、構成要素等の形状、方向、位置関係等が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に特定の形状、方向、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、方向、位置関係等に本発明が限定されることはない。
【0025】
変形例も、上記の例示に限定されない。すなわち、例えば、上記に例示した以外で、複数の実施形態同士が、技術的に矛盾しない限り、互いに組み合わされ得る。同様に、複数の変形例が、技術的に矛盾しない限り、互いに組み合わされ得る。
【符号の説明】
【0026】
1 水素ガスバリア構造体
2 基材
21 表面
3 水素ガスバリア膜
31 最表面
32 基材界面
図1
図2
図3