(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034909
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】マトリックス支援レーザー脱離イオン化法における二価金属のイオン化剤、二価金属の質量分析方法、及びキレート剤の使用
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20240306BHJP
H01J 49/16 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
G01N27/62 V
H01J49/16 400
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139475
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】505089614
【氏名又は名称】国立大学法人福島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】平 修
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 仁美
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA04
2G041FA10
2G041FA16
2G041JA04
2G041JA08
(57)【要約】
【課題】生体組織等の中に分布する二価金属イオンを分析するための非常に鮮明な画像を得られる分析方法と、当該分析方法で使用される材料を提供する。
【解決手段】マトリックス支援レーザー脱離イオン化法における二価金属のイオン化剤が、グリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミン4酢酸、メタリン酸ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、及びピロリン酸二水素二ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含むキレート剤を有効成分とする。二価金属の質量分析方法が、キレート剤と、この二価金属のイオンが分布している第1の試料を混合し、この二価金属キレート錯体が分布している第2の試料を得るキレート化工程と、この第2の試料にエネルギー線を照射し、この二価金属キレート錯体をイオン化するイオン化工程を含み、このキレート剤がこれらの化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミン4酢酸、メタリン酸ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、及びピロリン酸二水素二ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含むキレート剤を有効成分とすることを特徴とする、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法における二価金属のイオン化剤。
【請求項2】
請求項1に記載されたイオン化剤において、前記二価金属がマグネシウム、カルシウム、マンガン、カドミウム、亜鉛、バリウム、鉄、及び銅(II)からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1に記載されたイオン化剤。
【請求項3】
二価金属の質量分析方法において、
キレート剤と、当該二価金属のイオンが分布している第1の試料を混合し、当該二価金属キレート錯体が分布している第2の試料を得るキレート化工程と、
当該第2の試料にエネルギー線を照射し、当該二価金属キレート錯体をイオン化するイオン化工程を含み、
当該キレート剤がグリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミン4酢酸、メタリン酸ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、及びピロリン酸二水素二ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする質量分析方法。
【請求項4】
請求項3に記載された質量分析方法において、前記エネルギー線がレーザー光を含むことを特徴とする、請求項3に記載された質量分析方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載された質量分析方法において、前記前記二価金属がマグネシウム、カルシウム、及びマンガンからなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項3又は4に記載された質量分析方法。
【請求項6】
キレート剤の使用であって、
当該キレート剤がグリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミン4酢酸、メタリン酸ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、及びピロリン酸二水素二ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、
当該キレート剤をマトリックス支援レーザー脱離イオン化法における二価金属のイオン化に使用することを特徴とする、キレート剤の使用。
【請求項7】
請求項6に記載されたキレート剤の使用であって、前記二価金属がマグネシウム、カルシウム、及びマンガンからなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項6に記載されたキレート剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法における二価金属のイオン化剤、二価金属の質量分析方法、及びキレート剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析技術は、試料に含まれる原子又は分子の質量電荷比(m/z)を測定することで、試料に含まれる物質の種類と性質を調べる分析方法であり、近年、有機化学と生化学分野において、試料に含まれる様々な成分の分析に用いられている。質量分析技術として、装置に導入された試料に対してイオンビーム又はレーザー光を照射し、試料に含まれる物質をイオン化して脱離し、脱離された物質を検出して質量電荷比(m/z)を測定する手法が開発されている。
【0003】
例えば、イオン化支援剤を用いるマトリックス支援レーザー脱離イオン化(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization:MALDI)法(以下「MALDI」という)は、近年、細菌、真菌類などの様々な微生物を同定する微生物同定分野において急速に普及している。その大きな理由の一つは、熟練された技術を必要とせず、低コストで且つ迅速に同定作業が行えるためである。特許文献1には、特定の方法で調製された微生物由来のタンパク質等の目的物質の試料にレーザー光を照射して当該試料中の目的物質をイオン化し、生成されたイオン又はそれに由来するイオンを質量分析する方法が示されている。
【0004】
一方、別の質量分析技術として、標的物質のイオン化を支援するナノ微粒子を使用して試料のみをイオン化するナノ微粒子支援レーザー脱離/イオン化法(Nano-Particle Assisted Laser Desorption/Ionization;Nano-PALDI)が提案されている。特許文献2には、官能基が表面に付与されたポリマーにより被覆された金属酸化物からなるコアを有する機能性ナノ微粒子とマトリクス機能物質を含み、当該機能性ナノ微粒子は、当該マトリクス機能物質が当該官能基に共有結合的に修飾されている、質量分析用イオン化支援剤と、試料を混合し、得られた混合物にレーザー光を照射する質量分析方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-94519号公報
【特許文献2】特開2017-106744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、皮膚、毛根、植物体等の生体組織中に分布する金属イオン(1価、2価、及び3価以上)は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)、又はICP-MS(質量分析)法により定量的、及び定性的に測定されてきたが、視覚的な局在解析においては課題が残っていた。イメージング質量分析法がこの課題を解決できる手段ではあるが、従来のイメージング質量分析では金属イオンを検出することは困難である。そこで、検出の工夫に加え、感度、画像解像度において改善の余地があった。そこで、従来のイメージング質量分析法より更に高感度かつ高精細画像を得られる分析方法が希求されていた。
【0007】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、従来のナノ微粒子支援型質量分析(Nano-PALDI)法等の従来のイメージング質量分析法に代わり、生体組織等の試料中に分布する二価金属イオンを分析するための非常に鮮明な画像を得られる分析方法と、当該分析方法で使用される材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に鑑み検討を重ね、二価金属イオンを、キレート剤として知られているグリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)及びエチレンジアミン4酢酸(EDTA)からなる群から選ばれる少なくとも1つでキレート化して得られるキレート錯体にエネルギー線を照射して当該キレート錯体をイオン化し、分離し、検出して質量分析を実施すると、生体組織等の試料中に分布する二価金属イオンを分析するための非常に鮮明な画像を得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0009】
本発明は、グリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミン4酢酸、メタリン酸ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、及びピロリン酸二水素二ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含むキレート剤を有効成分とする、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法における二価金属のイオン化剤に関する。
前記二価金属は、好ましくは、マグネシウム、カルシウム、マンガン、カドミウム、亜鉛、バリウム、鉄、及び銅(II)からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0010】
また本発明は、キレート剤と、当該二価金属のイオンが分布している第1の試料を混合し、当該二価金属キレート錯体が分布している第2の試料を得るキレート化工程と、当該第2の試料にエネルギー線を照射し、当該二価金属キレート錯体をイオン化するイオン化工程を含み、当該キレート剤がグリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミン4酢酸、メタリン酸ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、及びピロリン酸二水素二ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする質量分析方法に関する。
前記エネルギー線は、好ましくはレーザー光を含む。
前記二価金属は、好ましくは、マグネシウム、カルシウム、及びマンガンからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0011】
さらに本発明は、キレート剤がグリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミン4酢酸、メタリン酸ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、及びピロリン酸二水素二ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、当該キレート剤をマトリックス支援レーザー脱離イオン化法における二価金属のイオン化に使用する、キレート剤の使用に関する。
前記二価金属は、好ましくは、マグネシウム、カルシウム、及びマンガンからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明のイオン化剤は、生体組織等の試料中に分布する二価金属イオンを分析するための非常に鮮明な画像を得られる分析方法で使用される材料である。本発明の質量分析方法は、生体組織等の試料中に分布する二価金属イオンを分析するための非常に鮮明な画像を得られる分析方法である。本発明のキレート剤の使用は、生体組織等の試料中に分布する二価金属イオンを分析するための非常に鮮明な画像を得られる分析方法における材料の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】エネルギー線がEGTA-M
2+錯体に照射されて得られる試料の説明図。
【
図2】イオン化されたEGTA-Ca
2+錯体を質量分析して得られるチャート。
【
図3】MALDIによる皮膚組織中のカルシウムイオンの分布状況を示す図。
【
図4】Nano-PALDIによる皮膚組織中のカルシウムイオンの分布状況を示す図。
【
図5】Nano-PALDIによる皮膚組織中のマンガンイオンの分布状況を示す図。
【
図6】Nano-PALDIによる皮膚組織中のマグネシウムイオンの分布状況を示す図。
【
図7】MALDIによる30代の人(左側)、60代の人(右側)の毛根組織中のカルシウムイオン、マグネシウムイオン、及びマンガンイオンの分布状況を示す図。
【
図8】Nano-PALDIによる30代の人の毛髪中のカルシウムイオン、マグネシウムイオン、及びマンガンイオンの分布状況を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明について更に詳細に説明する。
なお、数値範囲の「~」は、断りがなければ、以上から以下を表し、両端の数値をいずれも含む。また、数値範囲を示したときは、上限値および下限値を適宜組み合わせることができ、それにより得られた数値範囲も開示したものとする。
【0015】
<イオン化剤>
本発明のイオン化剤は、EGTA、EDTA、メタリン酸ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、及びピロリン酸二水素二ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含むキレート剤を有効成分とする。本発明のイオン化剤は、好ましくは、EGTA及びEDTAからなる群から選ばれる少なくとも1つを含むキレート剤を有効成分とする。本発明のイオン化剤の形態は、特定の形態に限定されないが、好ましくは液体である。前記液体は、例えば前記キレート剤の水溶液である。前記水溶液中の前記キレート剤の濃度は、好ましくは0.01~10.0mMの範囲である。前記水溶液のpHは、好ましくは水酸化ナトリウムによりpH7.5~9.5の範囲に調整される。
【0016】
金属イオンをそのままイオン化検出しようとすると、2価イオンをはじめとする多価(n)イオンの場合、その質量電荷比が、金属の質量の1/n(2価イオンの場合1/2)となり、2次イオン質量分析計(SIMS)のような質量電荷比1から測定できる特殊な質量分析計を除いて、通常の質量分析計(MALDI、ESI)では測定できないほどの低質量電荷比となる。キレート剤を用いることで300~1000程度の質量を金属に付与できることから、通常の質量分析計でも[(金属-キレート)+イオン]の形で検出が容易となる。
【0017】
キレート剤としては、グリコールエーテルジアミン四酢酸のように、金属イオンに包摂的に配位し立体的なキレート錯体を形成したり、または、例えばメタリン酸ナトリウム等のポリリン酸系化合物のようにポリマー構造をもつキレート剤を用いることで、イオン化のためにエネルギー線を照射しても、キレート錯体構造は壊れにくいと予想される。そのため、本発明では、キレート剤を用いることで、従来のイメージング質量分析法より更に高感度かつ高精細画像を得られると考えている。
【0018】
また、キレート錯体の分子量は、大きくなりすぎないことが好ましい。マトリックス支援レーザー脱離イオン化法では、感度を高めるため、キレート錯体の好ましい分子量は300~1000程度である。
【0019】
(二価金属)
本発明のイオン化剤に含まれる前記キレート剤によりキレート化される二価金属イオンとして、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、バリウムイオン、亜鉛イオン、銅(II)イオン、マンガンイオン、カドミウムイオン、及び鉄(II)イオンが挙げられる。これらの二価金属イオンは、皮膚、毛根、植物体等の生体組織等の中に広く分布している。
【0020】
本発明のイオン化剤に含まれる前記キレート剤によりキレート化される二価金属イオンは、好ましくはマグネシウムイオン、カルシウムイオン、マンガンイオン、カドミウム、亜鉛、バリウム、鉄、及び銅(II)からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0021】
<イオン化剤を使用する質量分析方法>
本発明の質量分析方法は、前記キレート剤と、前記二価金属イオンが分布している第1の試料を混合し、二価金属キレート錯体が分布している第2の試料を得るキレート化工程を含む。
前記第1の試料は、例えば皮膚、毛根、植物体等の生体組織である。前記第2の試料は、例えば前記イオン化剤として前記水溶液が前記生体組織に噴霧されて得られる。
【0022】
本発明の質量分析方法は、前記第2の試料にエネルギー線を照射し、前記二価金属キレート錯体をイオン化するイオン化工程を含む。
図1は、前記エネルギー線が、前記二価金属イオン(M
2+)をEGTAでキレート化して得られるEGTA-M
2+錯体に照射されて得られる試料の説明図である。なお、図示されていないが、カウンターイオンはプロトンである。
【0023】
前記エネルギー線として、γ線、X線、紫外線等の電離性放射線;可視光線、赤外線等の非電離性放射線;YAGレーザー、ファイバーレーザー、半導体レーザー、CO2レーザー、エキシマレーザー、アルゴンレーザー等のレーザー光、及び超音波が挙げられる。これらのエネルギー線の1種又は2種以上が前記第2の試料に照射される。前記エネルギー線は、好ましくは前記レーザー光を含む。
【0024】
前記イオン化工程で得られたイオン化された前記キレート錯体は、通常の質量分析方法で使用される質量分析計により質量分析され、分析結果を示す非常に鮮明なカラー画像が得られる。
【0025】
前記キレート化工程で得られる前記第2の試料は、ナノ粒子を含んでいてよい。前記ナノ粒子として、前記nano-PALDI法で使用されるナノ粒子が挙げられる。前記第2の試料が前記ナノ粒子を含む場合、より鮮明なカラー画像を得られる。
【実施例0026】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
実験例1(キレート剤(EGTA)の金属(Ca)キレートの確認)
アルカリ下で1mMのEGTAを溶解した後、当該EGTA水溶液に0.1mMの塩化カルシウム水溶液をEGTA水溶液:塩化カルシウム水溶液=10:1(体積比)になるように加える。攪拌後、混合溶液1μLを、ナノ微粒子が塗布された質量分析測定基板に滴下し、乾燥する。その後、MALDI-TOF-MS装置にてキレートの有無を確認した。測定条件はネガティブイオン測定である。
【0028】
図2(A)に示されるチャートから、EGTA-Ca
2+錯体にsmartbeam(登録商標) 3Dレーザーを照射して得られるイオン化錯体(カウンターイオンはプロトン)のスペクトルが確認された。タンデムMS測定において、前記イオン化錯体が前記smartbeam(登録商標) 3Dレーザー照射により分解して得られたと予想される複数のフラグメントイオンのスペクトルも
図2に確認できた。
【0029】
実施例1
30代の人由来の皮膚サンプルブロックから凍結ミクロトーム装置を用いて厚さ10μmの切片を作成した。次に、顕微鏡像を取得した後、アルカリ下で1mMのEGTA水溶液600μLを自動噴霧装置(Techno Alpha社製TMスプレーヤー)にて、前記切片上へスプレーした。その後、酸化鉄ナノ微粒子(S. Taira et al. Anal Chem 2008 Vol. 80 Issue 12 Pages 4761-6)を1mg/mlになるようにメタノールで懸濁した600μLのナノ微粒子溶液をエアブラシを用いて塗布した。次に、MALDI-TOF-MS(Bruker社製rapiflex)装置を用いて、切片上のイメージング質量分析を行った。結果を
図4~6に示す。
【0030】
実施例2
実施例1のナノ微粒子溶液のエアブラシを用いた塗布に代えて、有機マトリクスであるα-Cyano-4-hydroxycinnamic acid(CHCA)を10mg/mlになるように70体積%アセトニトリル/29.9体積%水/0.1体積%トリフルオロ酢酸に溶解させ、自動噴霧装置にて切片上へスプレーをし、イメージング質量分析を行った。結果を
図3に示す。
【0031】
図3に示される実施例2の画像は、EGTA及び既存イオン化剤を用いるMALDI法によるものであり、
図4に示される実施例1の画像はEGTAを使用するNano-PALDI法によるイオン化法によるものである。
図4のNano-PALDI法により得られたカルシウムイオンの局在を示す画像は、
図3のカルシウムイオンの局在を示す画像よりも16倍鮮明(空間分解能が
図4においては5μm、
図3においては20μmであるから、縦横の2次元画像において4×4=16倍と定義した)であり、皮膚組織に分布するカルシウムイオンの分布状況が正確に分析できることが確認された。
その理由としては、MALDI法では切片上でイオン化される標的分子が有機マトリクス結晶内に取り込まれる必要がある(共結晶体の形成)。(実施例2の方法)この結晶サイズが小さければ小さいほど画像解像度をよくできるが、スプレーヤー装置を用いたとしても結晶を5μm以下に作成することは困難であった。有機マトリクス結晶に変えて、実施例1のようにナノ粒子を用いる場合、ナノ粒子は切片上で共結晶体を形成することなく物理的に静置するため、ナノサイズでイオン化支援材(実施例1の場合、ナノ粒子)を切片上に塗布することができる。その為、高精細な画像の取得が可能になったと考えられる。
【0032】
図5より、EGTAを有効成分とするイオン化剤を用いるNano-PALDI法により皮膚組織に分布するマンガンイオンの分布状況が正確に分析できることが確認された。
【0033】
図6より、EGTAを有効成分とするイオン化剤を用いるMALDI法により皮膚組織に分布するマグネシウムイオンの分布状況が正確に分析できることが確認された。
【0034】
実施例3
実施例1と同様の方法で、30代、60代の人の皮膚サンプルより切片を作成し、酸化鉄ナノ微粒子を噴霧後、イメージング質量分析を行った。結果を
図7に示す。
【0035】
図7より、カルシウムイオンは基底層から表皮にかけて濃度勾配を付けて局在すること、カルシウムイオン、マンガンイオン、及びマグネシウムイオンの産生量が加齢と共に落ちることが確認された。
【0036】
実施例4(毛髪金属キレートイメージング)
毛髪切片作成装置(YAC社製KATANA)を用いて30代の人の毛髪の縦断面切片を作成した。その後、顕微鏡像を取得した後、アルカリ下で1mMのEGTA水溶液600μLを自動噴霧装置(Techno Alpha社製TMスプレーヤー)にて、前記切片上へスプレーした。最後に実施例1と同様に前記酸化鉄ナノ微粒子を噴霧後、イメージング質量分析を行った。結果を
図8に示す。
【0037】
図8より、毛髪中のカルシウムイオン、マンガンイオン、及びマグネシウムイオンそれぞれが濃度勾配を付けて局在することが確認された。
【0038】
なお、
図1~8に示す画像は本来カラー画像であり、色により上記各二価金属イオンの濃度が特定範囲にあることを確認できる。