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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034910
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】磁場装置および溶湯駆動方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 44/06 20060101AFI20240306BHJP
   F27D 27/00 20100101ALI20240306BHJP
【FI】
H02K44/06
F27D27/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139477
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】503332824
【氏名又は名称】株式会社ヂーマグ
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 康
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 謙三
【テーマコード(参考)】
4K056
【Fターム(参考)】
4K056AA05
4K056AA06
4K056CA01
4K056EA13
(57)【要約】
【課題】効率良く大きな駆動力で溶湯を駆動可能な磁場装置、および当該磁場装置を用いた溶湯駆動方法を提供する。
【解決手段】実施形態の磁場装置1は、中心軸の周りに回転駆動される回転体2と、回転体2上に固定され、上面がN極に磁化された磁石3と、回転体2上に固定され、上面がS極に磁化された磁石4と、を備え、磁石3と磁石4は幅よりも長さの方が長い溝部Gを形成するように対向配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸の周りに回転駆動される回転体と、
前記回転体上に固定され、上面がN極に磁化された第1の磁石と、
前記回転体上に固定され、上面がS極に磁化された第2の磁石と、を備え、
前記第1の磁石と前記第2の磁石は、幅よりも長さの方が長い溝部を形成するように対向配置されている、磁場装置。
【請求項2】
前記溝部は前記回転体の中心を通る、請求項1に記載の磁場装置。
【請求項3】
前記溝部は前記回転体の一方の端から前記回転体の他方の端まで延在する、請求項1に記載の磁場装置。
【請求項4】
前記溝部の幅は、前記溝部の長さの1/10以下である、請求項1に記載の磁場装置。
【請求項5】
前記回転体には、前記第1および第2の磁石以外に磁石が設けられていない、請求項1に記載の磁場装置。
【請求項6】
前記回転体は円盤形状であり、前記溝部は前記回転体の中心を通り、前記第1および第2の磁石は略半円形である、請求項1に記載の磁場装置。
【請求項7】
前記第1および第2の磁石は、前記回転体の中心を挟んで平行配置された棒状の磁石である、請求項1に記載の磁場装置。
【請求項8】
前記第1および第2の磁石の長さは、前記回転体の直径に略等しい、請求項7に記載の磁場装置。
【請求項9】
中心軸の周りに回転駆動される回転体と、
前記回転体の上に固定され、上面がN極に磁化された第1の磁石と、
前記回転体の上に固定され、上面がS極に磁化された第2の磁石と、を備え、
前記第1の磁石と前記第2の磁石は、互いに接触して境界線を形成するように配置されている、磁場装置。
【請求項10】
前記境界線は前記回転体の中心を通る、請求項9に記載の磁場装置。
【請求項11】
前記境界線は前記回転体の一方の端から前記回転体の他方の端まで延在する、請求項9に記載の磁場装置。
【請求項12】
前記第1および第2の磁石は略半円形磁石または棒状の磁石である、請求項9に記載の磁場装置。
【請求項13】
前記回転体には、前記第1および第2の磁石以外に磁石が設けられていない、請求項9に記載の磁場装置。
【請求項14】
前記第1の磁石および前記第2の磁石はフェライト磁石である、請求項1~13のいずれかに記載の磁場装置。
【請求項15】
請求項1または請求項9に記載の磁場装置を、前記第1および第2の磁石の磁力線が炉または渦室内の溶湯を貫通するように設置し、
前記回転体を回転させることにより前記溶湯を撹拌する、溶湯撹拌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場装置および溶湯駆動方法に関し、より詳しくは、回転体に固定された異種極の複数の磁石を有し、一方の磁極の最大磁束から他方の磁極の最大磁束まで短時間で変化させて大きな磁束変化を引き起こす磁場装置、および当該磁場装置を用いた溶湯駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁石を回転駆動させて溶湯を駆動する磁場装置が知られている。特許文献1および2には、回転体の上に4つの永久磁石を90度間隔で固定した磁場装置が記載されている。これらの永久磁石は、上下面側が磁極とされており、且つ、隣り合う永久磁石は互いの極性が異なるように磁化されている。特許文献1では、磁場装置は渦室の下方に配置されている。特許文献2では、メインバスの側方に配置された溶湯駆動槽の上方に磁場装置が配置されている。
【0003】
図7を参照して従来の磁場装置を説明する。この磁場装置は、回転軸50の周りに回転する回転体20と、この回転体20の上に固定された2つの直方体状の永久磁石30および40とを備えている。磁石30は上面がN極に、下面がS極になるように磁化されている。磁石40は上面がS極に、下面がN極になるように磁化されている。
【0004】
磁石30から出た磁力線は、炉または渦室内の溶湯を貫き、溶湯を貫通した磁束が磁石40に入る。回転体20が回転することにより溶湯を貫通する磁力線が移動する。これにより、溶湯に渦電流が発生し、溶湯は磁石の回転方向と同じ方向に回転することになる。このような永久磁石を利用した磁場装置は、電磁石を用いるものに比べて消費電力や発熱が少ない等の利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5766572号
【特許文献2】特許第5813693号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の磁場装置において、溶湯を駆動する力は永久磁石の磁力に依存するため、ネオジム磁石等の磁力が強い希土類磁石を用いることが有利である。しかし、希土類磁石の原料となるレアアースは、国際情勢等により調達することが困難な場合がある。他方、比較的安価で入手し易いフェライト磁石を用いることが考えられるが、磁力が弱いため従来の構成では十分な溶湯駆動力を得ることが困難であった。
【0007】
本発明は、上記認識に基づいてなされたものであり、効率良く大きな駆動力で溶湯を駆動可能な磁場装置、および当該磁場装置を用いた溶湯駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に係る磁場装置は、
中心軸の周りに回転駆動される回転体と、
前記回転体上に固定され、上面がN極に磁化された第1の磁石と、
前記回転体上に固定され、上面がS極に磁化された第2の磁石と、を備え、
前記第1の磁石と前記第2の磁石は、幅よりも長さの方が長い溝部を形成するように対向配置されている。
【0009】
また、前記磁場装置において、
前記溝部は前記回転体の中心を通るようにしてもよい。
【0010】
また、前記磁場装置において、
前記溝部は前記回転体の一方の端から前記回転体の他方の端まで延在するようにしてもよい。
【0011】
また、前記磁場装置において、
前記溝部の幅は、前記溝部の長さの1/10以下であるようにしてもよい。
【0012】
また、前記磁場装置において、
前記回転体には、前記第1および第2の磁石以外に磁石が設けられていないようにしてもよい。
【0013】
また、前記磁場装置において、
前記回転体は円盤形状であり、前記溝部は前記回転体の中心を通り、前記第1および第2の磁石は略半円形であるようにしてもよい。
【0014】
また、前記磁場装置において、
前記第1および第2の磁石は、前記回転体の中心を挟んで平行配置された棒状の磁石であるようにしてもよい。
【0015】
また、前記磁場装置において、
前記第1および第2の磁石の長さは、前記回転体の直径に略等しいようにしてもよい。
【0016】
本発明の第2の態様に係る磁場装置は、
中心軸の周りに回転駆動される回転体と、
前記回転体の上に固定され、上面がN極に磁化された第1の磁石と、
前記回転体の上に固定され、上面がS極に磁化された第2の磁石と、を備え、
前記第1の磁石と前記第2の磁石は、互いに接触して境界線を形成するように配置されている。
【0017】
また、前記磁場装置において、
前記境界線は前記回転体の中心を通るようにしてもよい。
【0018】
また、前記磁場装置において、
前記境界線は前記回転体の一方の端から前記回転体の他方の端まで延在するようにしてもよい。
【0019】
また、前記磁場装置において、
前記第1および第2の磁石は略半円形磁石または棒状の磁石であるようにしてもよい。
【0020】
また、前記磁場装置において、
前記回転体には、前記第1および第2の磁石以外に磁石が設けられていないようにしてもよい。
【0021】
また、前記磁場装置において、
前記第1の磁石および前記第2の磁石はフェライト磁石であるようにしてもよい。
【0022】
本発明に係る溶湯撹拌方法は、
本発明の第1または第2の態様に係る磁場装置を、前記第1および第2の磁石の磁力線が炉または渦室内の溶湯を貫通するように設置し、
前記回転体を回転させることにより前記溶湯を撹拌する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、効率良く大きな駆動力で溶湯を駆動可能な磁場装置、および当該磁場装置を用いた溶湯駆動方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1の実施形態に係る磁場装置の平面図(上側)および側面図(下側)である。
図2】磁場装置(回転体)を回転させたときの、磁場装置上方のある点における磁束の時間変化を示すグラフである。
図3】第2の実施形態に係る磁場装置の平面図(上側)および側面図(下側)である。
図4】第3の実施形態に係る磁場装置の平面図(上側)および側面図(下側)である。
図5】実施形態に係る磁場装置を用いた溶湯駆動システムの第1の例の一部断面図である。
図6】実施形態に係る磁場装置を用いた溶湯駆動システムの第2の例の一部断面図である。
図7】従来の磁場装置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図においては、同等の機能を有する構成要素に同一の符号を付している。また、図面は模式的なものであり、各構成要素の厚みと平面寸法との関係、各構成要素間の厚みの比率等は現実のものとは異なる場合がある。また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件および物理的特性、並びにそれらの程度を特定する、たとえば、「平行」、「直交」、「等しい」等の用語や寸法、物理的特性の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0026】
以下、磁場装置1の3つの実施形態についてそれぞれ説明する。
(第1の実施形態)
図1を参照して、第1の実施形態に係る磁場装置について説明する。図1は、本実施形態に係る磁場装置1の平面図(上側)および側面図(下側)を示している。
【0027】
磁場装置1は、回転体2と、磁石3と、磁石4と、回転軸5とを備えている。
【0028】
回転体2は、本実施形態では円盤形状であり、磁石3および磁石4が固定される載置面2aを有している。回転体2の中心には回転軸5が設けられている。回転軸5はモータ(図示せず)により回転駆動され、それにより、回転体2は載置面2aと直交する中心軸の周りに回転する。なお、回転体2は、たとえば、炭素鋼(SS材)から構成される。
【0029】
なお、載置面2aは必ずしも平面でなくてもよく、たとえば、凹凸を有する面または曲面に、磁石3および磁石4を格納可能な凹部が設けられたものであってもよい。
【0030】
また、回転体2の平面形状は円形に限らず、多角形、星形、矩形、楕円形などであってもよい。円形以外の形状の場合、回転軸5は回転体2の重心に設けられる。
【0031】
また、回転体2は必ずしも板状でなくてもよい。たとえば、回転体2は、円柱体であり、その底面(上面)に磁石3および磁石4が固定されてもよい。
【0032】
本実施形態では、図1に示すように、磁石3および磁石4は、回転体2の載置面2a上に固定されている。磁石3および磁石4は非磁性のカバー(図示せず)で被覆されていてもよい。磁石3は上面がN極に、下面がS極に磁化されている。磁石4は上面がS極に、下面がN極に磁化されている。なお、「上面」は駆動対象の溶湯に対向する面のことであり、必ずしも鉛直方向上側の面を意味するものではない。
【0033】
磁石3および磁石4は、フェライト磁石等の永久磁石である。フェライト磁石は比較的安価で軽量であるため、磁場装置1のコストを低減するとともに磁場装置の軽量化を図ることができる。また、フェライト磁石等の焼結磁石は、保磁力Hcが高いため、磁力線を遠くに飛ばすことができる。したがって、磁石3,4の高さを抑えることができ、磁場装置1を低背化することができる。なお、本発明において磁石の種類は特に限定されるものでなく、磁石3および磁石4は、ネオジム磁石等のレアアースを用いた磁石であってもよい。
【0034】
図1に示すように、本実施形態において、磁石3および磁石4は略半円形である。磁石3および磁石4は、溝部Gを除いて、回転体2の載置面2aを覆っている。
【0035】
なお、磁石3,4は、1枚の略半円形状の永久磁石であってもよいし、あるいは、複数の矩形の磁石を貼り合わせて略半円形状に構成されたものであってもよい。
【0036】
磁石3および磁石4は、溝部Gを形成するように対向配置されている。溝部Gは幅Wよりも長さL1の方が長い。本実施形態では、溝部Gは、回転体2の一方の端から他方の端まで延在する。溝部Gが長く延在するほど(すなわち、半円形の磁石3および磁石4の弦の長さが長いほど)、回転体2が回転する際、磁場装置1の上方において磁束変化の及ぶ範囲を広くすることができる。
【0037】
なお、溝部Gは、幅Wよりも長さL1の方が長い溝として形成されていれば、厳密に回転体2の端まで形成されていなくてもよい。
【0038】
図1に示すように、溝部Gは回転体2の中心(重心)を通る。これにより、溝部Gの長さが最大化され、回転体2の回転時において磁束変化の及ぶ範囲を広くすることができる。なお、本願において回転体の「中心」は、回転体の中心点に限らず、中心点を含む領域(中心領域)であってもよい。また、溝部Gは「中心」以外の領域を通ってもよい。
【0039】
溝部Gの幅Wは、詳しくは後述するが、溶湯を通る磁束の時間変化率(dφ/dt)を大きくするために、小さいことが望ましい。たとえば、幅Wは長さL1の1/10以下である。
【0040】
なお、溝部Gの内部に、非磁性体の部材(回転体2の突起など)が存在してもよい。たとえば、溝部Gと同じ大きさのリブ(図示せず)が回転体2上に設けられ、磁石3,4が当該リブに接するように固定されてもよい。
【0041】
<磁力の時間変化>
次に、図2を参照して、磁場装置1(回転体2)を回転させたときの磁束の時間変化について説明する。図2は、磁場装置1上方の固定された点Pにおける磁束φの時間変化を示すグラフである。ここでは、回転体2が一定の回転速度で反時計回り(図1の回転方向RD)に回転する場合を例に説明する。なお、回転体2が時計回りに回転する場合でも磁束の時間変化は同様になる。また、図2の点線は従来の磁場装置における磁束の時間変化を示している。従来の磁場装置の磁石30,40の幅(磁極幅)は溝部Gの幅Wと同じであるとしている。
【0042】
時刻0は図1の状態を示しており、この状態において点Pは磁石3の中央領域の上方に位置する。このとき、磁石3の磁束+Φが点Pを通過している。その後、時刻tまでの間、点Pの磁束はほぼ+Φである。時刻tにおいて、溝部Gの一方端(半円形の磁石3の直線部分)が点Pに達する。また、時刻tにおいて、溝部Gの他方端(半円形の磁石4の直線部分)が点Pに達する。図2に示すように、時刻tから時刻tまでの間に点Pを通る磁束は+Φから-Φまで大きく変化する。
【0043】
なお、時刻tから時刻tまでの時間は溝部Gの幅Wに基づく。すなわち、回転体2の回転速度が一定の条件において、溝部Gの幅Wが小さくなるにつれて時刻tから時刻tまでの時間は短くなる。その結果、磁束の時間変化率は大きくなる。
【0044】
その後、時刻tから時刻tまでの間、点Pの磁束はほぼ-Φである。時刻tにおいて溝部G(図1の平面図における溝部Gの下側部分)が点Pに達する。時刻tは、磁石4が点Pから離れる時刻である。図2に示すように、時刻tから時刻tまでの間に点Pを通る磁束は-Φから+Φまで大きく変化する。時刻tにおいて溝部Gは点Pを離れ、磁石3が点Pに達する。その後、時刻tと時刻tの真ん中の時刻において、時刻0と同じ状態(図1に示す位置関係)に戻る。
【0045】
上記から分かるように、点Pを通る磁束は上記の変化を周期的に繰り返す。図2において、第2周期の時刻t、t、tおよびtは、第1周期の時刻t、t、tおよびtにそれぞれ対応する。時刻tと時刻tの真ん中の時刻が時刻0に対応する。
【0046】
上記のように、磁場装置1の上方において、時刻tから時刻tまでの時間に点Pを通る磁束は、+Φから-Φまで変化する。同様に、時刻tから時刻tまでの時間に点Pを通る磁束は、-Φから+Φまで変化する。よって、溝部Gが点Pを通過する時間に、磁場装置の上方に存在する溶湯を貫通する磁束の時間変化率dφ/dtは、式(1)で表される。
dφ/dt=2Φ/T ・・・(1)
ここで、Tは、溝部Gが点Pを通過する時間であり、たとえば、時間t-tまたは時間t-tである。
【0047】
レンツの法則により、点Pにおいて溶湯には、式(1)の磁束の時間変化率に比例する誘導起電力Vemfが発生する。この誘導起電力Vemfにより溶湯中に誘導電流が流れ、誘導電流の周りに二次磁場(磁界)が発生する。発生した磁場と磁場装置1の磁場(一次磁場)とが反発または吸引することで溶湯が駆動される。
【0048】
従来の磁場装置(図7)の場合、図2の点線に示すように、磁束の時間変化は、磁石30および磁石40のいずれか一方のみにより引き起こされる。すなわち、磁束の時間変化は単体の磁石により引き起こされる。このため、磁束の変化量はΦとなる。
【0049】
これに対し、本実施形態の磁場装置1では、磁石3と磁石4が形成する溝部Gにおいて磁束を変化させるようにしたので、磁束の時間変化量は2Φとなり、従来の磁場装置よりも大きくすることができる。すなわち、磁場装置1では、磁束の時間変化は異種極の磁石により引き起こされ、磁束は+Φから-Φまで(または、-Φから+Φまで)大きく変化する。これにより、誘導起電力Vemfが大きくなる。その結果、溶湯に発生する渦電流が大きくなり、溶湯駆動力を大きくすることができる。
【0050】
たとえば、溝部Gの幅Wが従来の磁場装置の磁石30,40の幅と同じ場合、本実施形態によれば、磁束の時間変化量が約2倍になることから、溶湯駆動力を約2倍にすることができる。さらに、幅Wを半分の大きさにすれば、溶湯駆動力を約4倍にすることができる。
【0051】
このように本実施形態によれば、溶湯駆動力を大幅に向上させることができる。したがって、フェライト磁石等の比較的磁力の弱い磁石を用いる場合、あるいは磁力の強い磁石を比較的少量用いる場合であっても、十分に大きな駆動力で炉または渦室等の溶湯を駆動することができる。
【0052】
なお、図1に示すように、回転体2には、2つの磁石3および磁石4以外に磁石が設けられていない。これにより、磁石3の上面のN極から出た磁力線が上方に高く飛んでから磁石4の上面のS極に戻るようにでき、より多くの溶湯を磁力線が貫通するようにすることができる。これに対し、磁石3および磁石4以外に磁石を設けた場合、磁石3のN極から出た磁力線の一部が他の磁石に向かうため、回転体2の上方の磁束が減少する。したがって、本実施形態では、回転体2には2つの磁石3および磁石4以外に磁石が設けられていない。ただし、磁場装置1と駆動対象の溶湯とが比較的近い位置にある場合や、複数の溝部を設けることで効率的な溶湯駆動が可能な場合は、磁石3および磁石4以外の磁石を回転体2に設けてもよい。本段落の記載内容は、以下に説明する第2および第3の実施形態についても当てはまる。
【0053】
なお、溝部Gは、上記のような直線形状に限らず、たとえば、複数の直線状の溝部が連結した屈曲形状であってもよい。その他、溝部Gは、S字状、波形形状、蛇行形状等の曲線、あるいは、曲線と直線の組み合わせの形状であってもよい。
【0054】
また、溝部Gの幅は長さ全体にわたって一定でなくてもよい。たとえば、回転体2の中心から端部にいくにつれて溝部Gの幅が狭くなるようにしてもよい。あるいは、回転体2の中心と端部との中間領域において溝部Gの幅が狭くなるようにしてもよい。
【0055】
(第2の実施形態)
次に、図3を参照して、第2の実施形態に係る磁場装置を説明する。第2の実施形態と第1の実施形態との間の相違点の一つは磁石の形状である。第1の実施形態では半円形状の磁石を使用したのに対し、第2の実施形態では棒状の磁石を使用する。以下、第1の実施形態との相違点を中心に第2の実施形態に係る磁場装置1Aを説明する。
【0056】
磁場装置1Aは、図3に示すように、回転体2と、棒状の磁石3Aおよび4Aと、回転軸5とを備えている。回転体2と回転軸5は第1の実施形態と同じであるので説明を省略する。
【0057】
磁石3Aは上面がN極に、下面がS極に磁化されている。磁石4Aは上面がS極に、下面がN極に磁化されている。なお、磁石3A,4Aは細長い略直方体状であるが、上面および下面が磁極になっている点で、通常の棒磁石(一端がN極に磁化され、他端がS極に磁化されている。)とは異なる。
【0058】
図3に示すように、回転体2上に磁石3Aと磁石4Aが溝部Gを形成するように平行に配置されている。溝部Gは幅Wよりも長さL2の方が長い。
【0059】
図3に示すように、溝部Gは、回転体2の中心を通り、回転体2の一方の端から他方の端まで延在する。すなわち、磁石3A,4Aの長さL2は、回転体2の直径に略等しい。これにより、溝部Gの長さが最大化され、回転体2の回転時において磁束変化の及ぶ範囲を広くすることができる。
【0060】
溝部Gの幅Wは、詳しくは後述するが、溶湯を通る磁束の時間変化率(dφ/dt)を大きくするために、小さいことが望ましい。たとえば、幅Wは長さL2の1/10以下である。
【0061】
磁石3Aおよび磁石4Aは、フェライト磁石等の永久磁石である。なお、磁石3A,4Aの幅は所要の磁場強度が得られる程度に確保されており、たとえば、図3に示すように溝部Gの幅W以上である。なお、磁石3および磁石4は、ネオジム磁石等のレアアースを用いた磁石であってもよい。
【0062】
上記のように、第2の実施形態では、溝部Gを形成するように棒状の磁石3Aおよび磁石4Aを平行に配置している。これにより、第1の実施形態の場合と同様に、回転体2を回転させたときの磁束変化量を大きくすることができ、その結果、溶湯駆動力を大きくすることができる。
【0063】
また、第2の実施形態では、磁石3A,4Aの外側端部(溝部Gを形成する端部の反対側の端部)においても磁束の変化を引き起こすため、より効率的に溶湯を駆動することができる。
【0064】
さらに、第2の実施形態では棒状の磁石を用いるため、半円形の磁石を用いる第1の実施形態に比べて磁石の使用量を減らすことができる。よって、磁場装置の製造コストをさらに低減することができる。加えて、磁石の使用量が減るため、さらなる軽量化を図ることができる。その結果、磁場装置を製造工場から使用される場所に輸送するコストや設置工事に要するコストや手間を低減することができる。
【0065】
(第3の実施形態)
次に、図4を参照して、第3の実施形態に係る磁場装置を説明する。第3の実施形態と第1および第2の実施形態との間の相違点の一つは溝部の有無である。第1および第2の実施形態では2つの磁石を溝部が形成されるように配置したのに対し、第3の実施形態では2つの磁石を接触配置するため溝部が形成されない。以下、第1および第2の実施形態との相違点を中心に第3の実施形態に係る磁場装置1Bを説明する。
【0066】
磁場装置1Bは、図4に示すように、回転体2と、棒状の磁石3Aおよび4Aと、回転軸5とを備えている。回転体2と回転軸5は第1の実施形態と同じであるので説明を省略する。
【0067】
磁石3Aと磁石4Aは、互いに接触して境界線BLを形成するように配置されている。本実施形態において、図4に示すように、略直方体状の2つの磁石3Aおよび磁石4Aは互いの側面が接触するように配置されている。境界線BLは、第1および第2の実施形態で説明した溝部Gの幅を狭くしていった場合の極限に相当する。境界線BLは、回転体2が回転駆動された際に、境界線BLの上方に存在する溶湯を貫く磁束を+Φから-Φまで(あるいは-Φから+Φまで)極めて急峻に変化させる。
【0068】
したがって、第3の実施形態によれば、第2の実施形態に比べてさらに効率良く溶湯を駆動することができる。すなわち、磁石の種類および大きさが同じならば、より大きな溶湯駆動力を得ることができる。
【0069】
境界線BLは、回転体2の中心を通り、回転体2の一方の端から他方の端まで延在する。すなわち、磁石3A,4Aの長さL2は、回転体2の直径に略等しい。これにより、回転体2の回転時において磁束変化の及ぶ範囲を可及的に広くすることができる。
【0070】
上記のように、第3の実施形態では、互いに接触して境界線BLを形成するように磁石3Aおよび磁石4Aを配置している。これにより、第1および第2の実施形態で説明した溝部Gよりも、回転体2を回転させたときの磁束の時間変化率dφ/dtを大きくすることができる。そのため、第1および第2の実施形態に比べて溶湯駆動力を大きくすることができる。
【0071】
また、第3の実施形態では、磁石3A,4Aの外側端部(すなわち、境界線BLを形成する端部と反対側の端部)においても磁束の変化を引き起こすため、より効率的に溶湯を駆動することができる。
【0072】
さらに、第3の実施形態では棒状の磁石を用いるため、半円形の磁石を用いる第1の実施形態に比べて磁石の使用量を減らすことができる。よって、磁場装置の製造コストをさらに低減し、さらなる軽量化を図ることができる。
【0073】
なお、境界線BLを形成する本実施形態で使用する磁石は棒状の磁石に限られない。たとえば、棒状の磁石3A,4Aに代えて、第1の実施形態で説明したような略半円形の磁石を用いてもよい。この場合、2つの略半円形の磁石の弦に相当する部分が接触して境界線BLを形成する。
【0074】
また、境界線BLは、上記のような直線形状に限らず、たとえば、複数の直線状の溝部が連結した屈曲形状であってもよい。その他、境界線BLは、S字状、波形形状、蛇行形状等の曲線、あるいは、曲線と直線の組み合わせの形状であってもよい。
【0075】
また、上記のように磁石3Aと磁石4Aの側面の全領域が互いに接触して境界線を形成する場合に限られず、側面の一部の領域が接触して境界線が形成されてもよい。たとえば、磁石3Aと磁石4Aの側面の一部に凹部が設けられる場合、凹部において境界線は形成されないが、凹部以外の領域で互いの側面が接触し境界線が形成される。
【0076】
<溶湯撹拌システム100>
図5を参照して、磁場装置1を用いた溶湯駆動システムの第1の例として溶湯撹拌システム100を説明する。
【0077】
溶湯撹拌システム100は、溶湯撹拌装置110と、溶湯撹拌装置110の上に配置された炉120とを備えている。炉120は、溶湯Mを貯留する炉であり、たとえば保持炉、溶解炉である。
【0078】
溶湯撹拌装置110は、前述の磁場装置1と、回転軸5に接続され回転体2を回転駆動する駆動装置9と、磁場装置1および駆動装置9を格納し、耐火物からなる筐体111とを有する。なお、磁場装置1は、磁場装置1Aまたは1Bであってもよい。駆動装置9はモータであるが、原動機であってもよい。
【0079】
磁場装置1は、回転体2の載置面2a(磁石3,4の上面)が炉120の底壁と対向するように炉120の下方に配置されている。これにより、図1に示すように、磁石3の上面のN極から出た磁力線MLは炉120の底壁を下から上に貫通して炉120内の溶湯Mを通った後、炉120の底壁を上から下に貫通して磁石4の上面のS極に入る。回転体2が駆動装置9により回転駆動されることで、溶湯Mを貫通する磁場が移動する。それにより、溶湯Mは回転体2と同じ方向に回転され撹拌される。
【0080】
前述のように、溝部G(または境界線BL)において、溶湯を貫く磁束は急激に大きく変化するため、フェライト磁石等の磁力が比較的弱い磁石を用いた場合であっても、溶湯Mを十分に大きな駆動力で撹拌することができる。
【0081】
なお、本願発明に係る磁場装置を利用した溶湯撹拌システムは上記の例に限られない。たとえば、磁場装置1は、炉120の上方や側方に配置されてもよい。磁場装置1が炉の上方に配置される場合、回転体2の載置面2aが溶湯Mの湯面に対向するように磁場装置1は配置される。また、磁場装置1が炉の側方に配置される場合、回転体2の載置面2aが炉の側壁に対向するように磁場装置1は配置される。
【0082】
<溶湯撹拌システム100A>
次に、図6を参照して、磁場装置1を用いた溶湯駆動システムの第2の例として溶湯撹拌システム100Aを説明する。本例では、磁場装置1を用いて溶湯ポンプが構成される。なお、溶湯撹拌システム100と同じ構成要素については適宜説明を省略する。
【0083】
溶湯撹拌システム100Aは、炉120と、炉120内に配置された溶湯ポンプ130とを備えている。溶湯ポンプ130は、炉120内の溶湯Mに、少なくとも下部(ポンプ室PR)が浸るように配置される。
【0084】
溶湯ポンプ130は、磁場装置1と、回転軸5に接続され回転体2を回転駆動する駆動装置9と、磁場装置1および駆動装置9を格納し、耐火物からなる筐体131とを有する。なお、磁場装置1は、磁場装置1Aまたは1Bであってもよい。
【0085】
筐体131の上部には、磁場装置1および駆動装置9が格納されている。この例では、駆動装置9は筐体131内に設けられた設置壁131c上に設置されている。設置壁131cには貫通孔が設けられており、この貫通孔に回転軸5が挿通されている。磁場装置1は、設置壁131cと隔離壁131dとの間に設けられた収納空間に、回転体2の載置面2a(磁石3のN極および磁石4のS極)が隔離壁131dと対向するように吊り下げられた状態で配置される。
【0086】
筐体131の下部には、ポンプ室PRが設けられている。ポンプ室PRは、吸入口131aおよび吐出口131bを介して外部と連通している。
【0087】
回転体2が駆動装置9により回転駆動されると、ポンプ室PR内の溶湯は、磁場装置1の移動磁場によって回転しながら加速され、その後、回転の接線方向に沿って設けられた吐出口131bから勢いよく外部に吐出される。溶湯の吐出に応じて、吸入口131aから炉120内の溶湯がポンプ室PRに吸入される。前述のように磁場装置1の溝部G(または境界線BL)によってポンプ室PR内の溶湯を貫く磁束は急激に大きく変化する。このため、フェライト磁石等の磁力が比較的弱い磁石を用いた場合であっても、ポンプ室PR内の溶湯を十分に大きな駆動力で回転駆動させることができ、その結果、溶湯ポンプ130の吐出量を増大させることができる。
【0088】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0089】
1,1A,1B 磁場装置
2,20 回転体
3,4,3A,4A,30,40 磁石
5,50 回転軸
9 駆動装置
100 溶湯撹拌システム
110 溶湯撹拌装置
111 筐体
120 炉
130 溶湯ポンプ
131 筐体
131a 吸入口
131b 吐出口
131c 設置壁
131d 隔離壁
G 溝部
BL 境界線
L1,L2 長さ
M 溶湯
ML 磁力線
PR ポンプ室
RD 回転方向
W 幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7