(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034924
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】灌注流体圧測定装置、カテーテル装置
(51)【国際特許分類】
A61B 18/12 20060101AFI20240306BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
A61B18/12
A61M25/00 520
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139500
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】594170727
【氏名又は名称】日本ライフライン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】宮本 久生
(72)【発明者】
【氏名】大島 祐介
【テーマコード(参考)】
4C160
4C267
【Fターム(参考)】
4C160KK03
4C160KK13
4C160KK25
4C160KK54
4C160KK57
4C160KL03
4C160MM38
4C267AA02
4C267BB02
4C267BB08
4C267BB42
4C267BB62
4C267CC19
4C267HH07
(57)【要約】
【課題】灌注処置のコストを低減できる灌注流体圧測定装置等を提供する。
【解決手段】灌注流体圧測定装置としての制御装置700は、体内に挿入されるアブレーションカテーテル100を通じて灌注される灌注流体の圧力を取得する圧力センサ500から、基準時の基準値を取得する基準値取得部701と、圧力センサ500から、基準時と異なる通常時の通常値を取得する通常値取得部702と、基準値と通常値の差に基づいて、通常時における灌注流体の圧力を取得する圧力取得部703と、を備える。圧力取得部703によって取得された圧力が閉塞検出閾値を超えた状態において、灌注流体の流路の閉塞を検出する閉塞検出部704を更に備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内に挿入されるカテーテルを通じて灌注される流体の圧力を取得する圧力センサから、基準時の基準値を取得する基準値取得部と、
前記圧力センサから、前記基準時と異なる通常時の通常値を取得する通常値取得部と、
前記基準値と前記通常値の差に基づいて、前記通常時における前記流体の圧力を取得する圧力取得部と、
を備える灌注流体圧測定装置。
【請求項2】
前記圧力取得部によって取得された圧力が閉塞検出閾値を超えた状態において、前記流体の流路の閉塞を検出する閉塞検出部を更に備える、請求項1に記載の灌注流体圧測定装置。
【請求項3】
前記通常値取得部は、前記圧力センサから、前記基準時より後の複数の前記通常時に亘って複数の前記通常値を取得し、
前記圧力取得部は、前記基準値と前記各通常値の差に基づいて、前記各通常時における前記流体の圧力を取得する、
請求項1または2に記載の灌注流体圧測定装置。
【請求項4】
前記基準値取得部によって取得された前記基準値が正常範囲外であった場合に、異常を報知する異常報知部を更に備える、請求項1または2に記載の灌注流体圧測定装置。
【請求項5】
前記カテーテルによる各灌注処置の間に前記圧力取得部によって取得された最大圧力を記録する最大圧力記録部と、
前回の灌注処置において前記最大圧力記録部によって記録された最大圧力が注意喚起閾値を超えている場合に、前記カテーテルの使用者の注意を喚起する注意喚起部と、
を更に備える請求項1または2に記載の灌注流体圧測定装置。
【請求項6】
前記カテーテルへの前記流体の供給開始後に前記圧力取得部によって取得される圧力の上昇値が異常検出閾値に満たない場合に、異常を検出する異常検出部を更に備える、請求項1または2に記載の灌注流体圧測定装置。
【請求項7】
前記カテーテルは、前記流体を灌注しながら、その先端側に設けられる電極を通じて体内に電気的処置を施す、請求項1または2に記載の灌注流体圧測定装置。
【請求項8】
体内に挿入されて流体を灌注するカテーテルと、
前記カテーテルに供給される前記流体の圧力を取得する圧力センサから、基準時の基準値を取得する基準値取得部と、
前記圧力センサから、前記基準時と異なる通常時の通常値を取得する通常値取得部と、
前記基準値と前記通常値の差に基づいて、前記通常時における前記流体の圧力を取得する圧力取得部と、
を備えるカテーテル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、灌注流体圧測定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、先端側に設けられる電極を通じて体内の対象部位に焼灼(アブレーション)処置を施すカテーテルが開示されている。このカテーテルの先端側には、灌注(イリゲーション)用の開口が設けられている。当該開口を通じてカテーテル外(すなわち体内)に灌注される生理食塩水等の流体は、焼灼処置のために高温になった電極を冷却すると共に、当該電極の周辺の血液等の体液を撹拌および/または希釈することで、焼灼処置に伴う熱等によって体液が固まる(例えば、血液が固まって血栓が形成される)ことを防止する。
【0003】
特許文献1では、カテーテルに灌注用の流体を供給する供給チューブ内の灌注流体圧を直接的に測定する圧力センサ(トランスデューサ)が設けられている。この圧力センサによって測定された灌注流体圧が閾値を超えた場合、カテーテルの先端側の灌注用の開口から流体が適切に噴射されていない恐れがあるため、カテーテルによる焼灼処置が直ちに停止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1における圧力センサは、供給チューブ内の灌注流体に直接的に接触しながら高精度に圧力を測定できる反面、当該灌注流体やカテーテルの先端側の灌注用の開口から僅かに混入しうる体液による劣化および/または汚染が起こりうる。このため、実際の医療現場では、カテーテルによる各回の焼灼処置(灌注処置)が終わると、圧力センサは供給チューブと共に廃棄される。つまり、圧力センサは供給チューブと共に使い捨てとされており、灌注処置のコストを押し上げる一つの原因になっていた。
【0006】
本開示はこうした状況に鑑みてなされたものであり、灌注処置のコストを低減できる灌注流体圧測定装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の灌注流体圧測定装置は、体内に挿入されるカテーテルを通じて灌注される流体の圧力を取得する圧力センサから、基準時の基準値を取得する基準値取得部と、圧力センサから、基準時と異なる通常時の通常値を取得する通常値取得部と、基準値と通常値の差に基づいて、通常時における流体の圧力を取得する圧力取得部と、を備える。
【0008】
この態様では、基準時に圧力センサから取得される基準値と、通常時に圧力センサから取得される通常値の差に基づいて、通常時における流体の圧力が取得される。このように、異なる取得時における圧力センサの取得値の相対値(差)に基づいて灌注流体圧を測定する構成としたことで、特許文献1のように高精度な圧力センサが必要とされない。従って、安価な圧力センサを使用して灌注処置のコストを低減できる。
【0009】
本開示の別の態様は、カテーテル装置である。この装置は、体内に挿入されて流体を灌注するカテーテルと、カテーテルに供給される流体の圧力を取得する圧力センサから、基準時の基準値を取得する基準値取得部と、圧力センサから、基準時と異なる通常時の通常値を取得する通常値取得部と、基準値と通常値の差に基づいて、通常時における流体の圧力を取得する圧力取得部と、を備える。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本開示に包含される。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、灌注処置のコストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】アブレーションカテーテルの全体的な構成の例を示す。
【
図6】開口部を含むシャフトの先端部の断面を示す。
【
図8】供給チューブに取り付けられた圧力センサによって出力された電圧の例を示す。
【
図9】最大圧力記録部および注意喚起部による処理のフローチャートである。
【
図10】異常検出部による処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態(以下では実施形態とも表す)について詳細に説明する。説明および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する説明を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本開示の範囲を何ら限定するものではない。実施形態に記載される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本開示の本質的なものであるとは限らない。
【0014】
図1は、本開示の実施形態に係るカテーテル装置の機能ブロック図である。カテーテル装置は、アブレーションカテーテル100と、電源装置200と、ポンプ300と、供給チューブ400と、圧力センサ500と、制御装置700を備える。
【0015】
本開示は灌注機構を備える任意のタイプのカテーテルに適用できるが、本実施形態では電源装置200からの高周波電力(以下では略して高周波とも表す)が印加される先端側の電極を通じて体内の対象部位に焼灼処置を施すアブレーションカテーテル100を例示する。このアブレーションカテーテル100は、不整脈等の処置方法であるカテーテルアブレーション(以下では略してアブレーションとも表す)または高周波アブレーション(RFA: Radiofrequency Ablation)に利用される。不整脈の原因となっている典型的には心臓内または付近の血管等の脈管内の異常部位(脈管自体や病巣等の周辺組織)まで先端部が挿入されたアブレーションカテーテル100は、先端電極を異常部位に近接または接触させる。この状態で電源装置200が先端電極に高周波を印加することで異常部位を焼灼する。なお、本開示は他のタイプのカテーテル、例えば、電極に高い電圧を印加することによって発生する電界によって不整脈部位等の対象部位に電気的処置を施すパルス電界アブレーション(PFA: Pulsed Field Ablation)用または不可逆電気穿孔法(IRE: Irreversible Electroporation)用のカテーテルや、流体を灌注しながら先端側に設けられる電極を通じて体内に他の任意の電気的処置を施す他の電気カテーテル等にも適用できる。
【0016】
具体的な構成については後述するが、アブレーションカテーテル100の先端側(先端電極の近傍)には、灌注(イリゲーション)用の開口が設けられている。当該開口を通じてアブレーションカテーテル100外(すなわち体内)に灌注される流体(以下では、灌注流体とも表す)は、焼灼処置のために高温になった先端電極を冷却すると共に、当該先端電極の周辺の血液等の体液を撹拌および/または希釈することで、焼灼処置に伴う熱等によって体液が固まる(例えば、血液が固まって血栓が形成される)ことを防止する。生理食塩水等の灌注流体は、ポンプ300から供給チューブ400を通じてアブレーションカテーテル100の基端部に供給される。そして、アブレーションカテーテル100内に形成されている流路を通じて基端部から先端部まで流れた灌注流体は、灌注用の開口から噴射される。
【0017】
供給チューブ400には、体内に挿入されるアブレーションカテーテル100を通じて灌注される灌注流体の圧力を取得する圧力センサ500が設けられる。圧力センサ500は、特許文献1のように実質的に供給チューブ400内に設けられて、そこを流れる灌注流体に直接的に接触しながら圧力を測定するものでもよいが、本実施形態では供給チューブ400の外周に設けられる(供給チューブ400に外付けされる)。この圧力センサ500は、供給チューブ400の外径の変化に基づいて、その内部を流れる灌注流体の圧力の変化を間接的に測定する。
【0018】
このように、灌注流体に直接的に接触しながら圧力を測定するものではないため、本実施形態に係る外付け型の圧力センサ500の精度は、特許文献1のような内蔵型の圧力センサに劣る場合が多い。しかし、供給チューブ400外の圧力センサ500には、供給チューブ400内の灌注流体やアブレーションカテーテル100の先端側の灌注用の開口から僅かに混入しうる体液との接触による劣化および/または汚染の恐れがない。このため、アブレーションカテーテル100による各回の焼灼処置(灌注処置)が終わって供給チューブ400が廃棄される際にも、圧力センサ500は廃棄されずに次回以降の焼灼処置に再利用される。外付け型の圧力センサ500は、使い捨ての内蔵型の圧力センサに比べて単価が高くなる傾向にあるが、複数回(例えば100回以上)に亘って再利用可能であることから、一回の焼灼処置当たりの圧力センサ500のコストが従来と比べて著しく下がる。なお、本実施形態に係る圧力センサ500の比較的低い精度を補う方法については後述する。
【0019】
制御装置700は、電源装置200およびポンプ300を制御して焼灼処置および灌注処置を実行し、当該各処置の実行前および実行中に圧力センサ500によって取得された灌注流体の圧力を測定する。
【0020】
図2は、アブレーションカテーテル100の全体的な構成の例を示す。アブレーションカテーテル100は、可撓性を有し体内に挿入される管状のシャフト10を先端側(
図2における左側)に備え、操作者によって操作されるハンドル部70を基端側(
図2における右側)に備える。
【0021】
アブレーションカテーテル100の操作者である医師等は、ハンドル部70を把持しながらアブレーションカテーテル100を操作する。具体的には、アブレーションカテーテル100の操作者は、ハンドル部70の本体を手で把持しながら指でつまみ状の操作部75を回転させることで、後述するプルワイヤを通じてシャフト10の先端部(
図2における左端部)を所望の方向に偏向(首振り)させられる。図示の例では、操作部75が時計回り方向(A1方向)に回転されるとシャフト10の先端部が時計回り方向(A方向)に回転し、操作部75が反時計回り方向(B1方向)に回転されるとシャフト10の先端部が反時計回り方向(B方向)に回転する。
【0022】
ハンドル部70の基端部(
図2における右端部)、すなわち、アブレーションカテーテル100全体の基端部には、供給チューブ400の先端部が着脱可能に接続される。供給チューブ400の不図示の基端部は、
図1におけるポンプ300に着脱可能に接続される。前述のように、生理食塩水等の灌注流体は、ポンプ300から供給チューブ400を通じてアブレーションカテーテル100(ハンドル部70)の基端部に供給される。なお、実際のハンドル部70には、
図1における電源装置200からの配線も接続されるが、
図2では図示が省略されている。
【0023】
供給チューブ400内の灌注流体の圧力を取得する圧力センサ500は、供給チューブ400の外周の周方向の少なくとも一部を囲むように着脱可能に取り付けられる。例えば、圧力センサ500は、軸方向(
図2における左右方向)を法線方向とする断面が、中心角が好ましくは180度より大きい円弧状やコの字状等の、供給チューブ400の外周に安定的に密着可能な形状を有するクリップ状等に形成されている。供給チューブ400内の灌注流体の圧力が上がると供給チューブ400の外径が大きくなり、供給チューブ400内の灌注流体の圧力が下がると供給チューブ400の外径が小さくなる。供給チューブ400の外周に密着する形状を有する圧力センサ500は、灌注流体の圧力の変化に応じた供給チューブ400の外径の変化を測定する。
【0024】
ハンドル部70から先端側に延びるシャフト10の先端部、すなわち、アブレーションカテーテル100全体の先端部には、灌注部材20と、先端電極30と、リング電極40が設けられる。
図3は、シャフト10の先端部の拡大図である。
図4は、
図3のIV-IV断面図である。
【0025】
灌注部材20は、シャフト10の先端部に取り付けられる絶縁性の部材である。灌注部材20の先端部には、先端電極30が取り付けられる。灌注部材20より基端側のシャフト10の表面には、その全周を囲む複数のリング電極40が設けられる。
図2に示されるように、複数のリング電極40は離間して配置される。
図3には、最も先端側にある一つのリング電極40のみが示されている。
【0026】
図4に示されるように、先端電極30は、先端側から基端側に向かって、先端部31と、略円柱状の頸部32と、頸部32より小径の略円筒状の取付部33を備える。先端電極30の取付部33が、灌注部材20の内管部23に挿入されることで、先端電極30が灌注部材20に固定される。内管部35は内管部23と連通している。内管部23は、シャフト10の内部に延在する中央ルーメン13と連通している。内管部23と中央ルーメン13は、継手チューブ51によって接続されている。
【0027】
中央ルーメン13の内部には、電源装置200(
図1)からの配線に接続された不図示の導線が通される。この導線の一部は、内管部35において先端電極30の内周面に接続される。このように、先端電極30と電源装置200が電気的に接続される。同様に、中央ルーメン13の内部を通される導線の一部は、各リング電極40の内周面に接続される。このように、各リング電極40も電源装置200に電気的に接続される。電源装置200は、先端電極30と各リング電極40の間に任意の電圧を印加できる。先端電極30を不整脈部位等に近接させた状態で、電源装置200が先端電極30と各リング電極40の間に高周波を印加することで異常部位が焼灼される。
【0028】
アブレーションカテーテル100の内部には、軸方向に延びる一対のプルワイヤ61、62が設けられる。
図4のV-V断面図である
図5に示されるように、第1プルワイヤ61および第2プルワイヤ62がそれぞれ通るワイヤルーメン12は、中央ルーメン13に関して点対称な位置に設けられる。
【0029】
図4に示されるように、灌注部材20の内部には、二つのワイヤルーメン12とそれぞれ連通する二つのワイヤガイド27が設けられる。二つのワイヤガイド27と、二つのワイヤルーメン12は、二つの継手チューブ53によって接続されている。二本のプルワイヤ61、62の先端部は、灌注部材20の先端部に固定される。また、二本のプルワイヤ61、62の基端部は、操作部75(
図2)の回転軸に関して点対称な位置に固定される。
【0030】
図2において、操作部75が時計回り方向(A1方向)に回転されると第1プルワイヤ61が基端側に引っ張られてシャフト10の先端部が時計回り方向(A方向)に回転し、操作部75が反時計回り方向(B1方向)に回転されると第2プルワイヤ62が基端側に引っ張られてシャフト10の先端部が反時計回り方向(B方向)に回転する。
【0031】
図3に示されるように、灌注部材20の先端側の外周には、複数の開口部26が周方向に沿って形成されている。また、複数の開口部26と隣接する頸部32には、これらとそれぞれ軸方向に繋がる複数の開口部36が周方向に沿って形成されている。シャフト10の先端部の断面(
図7のVI-VI断面)であって、開口部26および開口部36を含む断面を
図6に示す。開口部26と開口部36の各対は、灌注部材20およびシャフト10の内部に繋がる各開口25に連通する。このように、開口25、開口部26、開口部36を介して、アブレーションカテーテル100の内外が連通する。
【0032】
図5に示されるように、シャフト10の内部には、基端が供給チューブ400と接続されて軸方向に先端まで連通する複数の流路ルーメン11が、中央ルーメン13の周囲に形成されている。供給チューブ400から供給されて各流路ルーメン11の先端まで流れた灌注流体は、
図6に示されるように、シャフト10と各外管部21を接続する各継手チューブ52内を通り、灌注部材本体22の内部の貯留空間24に至る。
【0033】
貯留空間24内の灌注流体は、その先端側の開口25、開口部26、開口部36を通じてアブレーションカテーテル100外に噴射される。先端電極30自体に構成される開口部36から噴射された灌注流体は、焼灼処置のために高温になった先端電極30の外周および/または周辺を直接的かつ効果的に冷却および/または撹拌できる。なお、開口25および/または貯留空間24は、
図4のVII-VII断面図である
図7に示されるように、二本のプルワイヤ61、62によって周方向に略二分された略半円弧状の断面を有する。
【0034】
このように、各開口25および/または各貯留空間24には、先端側において開口部26/36の対の半数が接続され、基端側において流路ルーメン11の半数が接続される。ポンプ300(
図1)から供給チューブ400を通じてアブレーションカテーテル100に供給された灌注流体は、8本の流路ルーメン11を通じて流れた後に、二つの貯留空間24に一旦合流する。そして、各貯留空間24の灌注流体は、それぞれ4本の開口部26/36に略4等分されてアブレーションカテーテル100外に灌注(噴射)される。
【0035】
図1において、灌注流体圧測定装置としても機能する制御装置700は、基準値取得部701と、通常値取得部702と、圧力取得部703と、閉塞検出部704と、異常報知部705と、最大圧力記録部706と、注意喚起部707と、異常検出部708を備える。これらの機能ブロックは、コンピュータの中央演算処理装置、メモリ、入力装置、出力装置、コンピュータに接続される周辺機器等のハードウェア資源と、それらを用いて実行されるソフトウェアの協働により実現されてもよい。コンピュータの種類や設置場所は問わず、上記の各機能ブロックは、単一のコンピュータのハードウェア資源で実現してもよいし、複数のコンピュータに分散したハードウェア資源を組み合わせて実現してもよい。
【0036】
基準値取得部701は、供給チューブ400に取り付けられた圧力センサ500から、基準時の基準値を取得する。基準時は、圧力センサ500が供給チューブ400に取り付けられている間の任意の時点でよい。また、後述する通常時も、同じ圧力センサ500が同じ供給チューブ400に取り付けられている間の任意の時点でよい(但し、基準時とは異なる)。基準時および通常時は相対的な概念である。例えば、第1の通常時に対する第1の基準時は、第2の基準時に対する第2の通常時となりうる。換言すれば、圧力センサ500が供給チューブ400に取り付けられている間の各時点は、他の通常時に対する基準時にもなりえるし、他の基準時に対する通常時にもなりえる。本実施形態では、説明の簡素化のみを目的として、圧力センサ500が供給チューブ400に取り付けられた後の実質的に最初の取得時点を基準時とし、当該圧力センサ500が当該供給チューブ400から取り外されるまでの間の一または複数の取得時点を通常時とする。
【0037】
前述の通り、供給チューブ400に取り付けられた圧力センサ500が直接的に測定するのは供給チューブ400の外径の変化である。従って、基準値取得部701は、基準時の供給チューブ400の外径に基づく電気信号(以下では電圧とする)を基準値として圧力センサ500から取得する。通常値取得部702は、供給チューブ400に取り付けられた圧力センサ500から、基準時と異なる通常時の通常値を取得する。基準値取得部701と同様に、通常値取得部702は、通常時の供給チューブ400の外径に基づく電圧を通常値として圧力センサ500から取得する。このように、通常値取得部702は、供給チューブ400の外径に基づく電圧を圧力センサ500から取得するという点では基準値取得部701と同じである。このため、実際には、基準値取得部701および通常値取得部702を、一つの回路または部品として実装できる(もちろん、別の回路または部品として実装してもよい)。
【0038】
図8は、実質的に同じ圧力センサ500を、三回に亘って実質的に同じ供給チューブ400に取り付けた際に、当該圧力センサ500によって出力された電圧の例を示す。三本のグラフのそれぞれが各回のセッティングに対応する。横軸は供給チューブ400内の灌注流体の圧力を表し、実験のために特許文献1のような測定精度の高い別の圧力センサによって測定された。横軸の原点(基準圧力)は基準時(基準測定時)、すなわち、各回の圧力センサ500のセッティング後の最初の取得時点を表す。その後、供給チューブ400内の灌注流体の圧力を段階的に上げながら、複数の通常時(通常測定時)に亘って圧力センサ500による通常取得を行った。
【0039】
まず基準時に着目すると、実質的に同じ圧力センサ500を実質的に同じ供給チューブ400に取り付け、更に供給チューブ400内の灌注流体の圧力が同じ(基準圧力)であるにも関わらず、各回のセッティングによって圧力センサ500の出力(基準値)が大きくばらついていることが分かる。供給チューブ400の外周に取り付けられる圧力センサ500は、その取付方や取付姿勢の影響を強く受けやすいためだと考えられる。このため、基準時のような一時点における圧力センサ500の出力の絶対値は、灌注流体の圧力を一意的に特定するものではない。
【0040】
一方、基準時より後の一連の通常時も併せて見ると、各回のグラフの圧力に応じた増加の仕方は同様であることが分かる。換言すれば、基準圧力より高い各圧力(各通常時)における通常値と、基準圧力(基準時)における基準値の差は、各回のセッティングによらず略一定である。従って、通常値と基準値の差は、圧力センサ500のセッティングに関わらず、通常時における灌注流体の圧力を表す。そこで、圧力取得部703は、基準値取得部701によって取得された基準値と、通常値取得部702によって取得された通常値の差に基づいて、通常時における供給チューブ400内の灌注流体の圧力を取得する。
【0041】
閉塞検出部704は、圧力取得部703によって取得された供給チューブ400内の灌注流体の圧力が閉塞検出閾値を超えた状態において、灌注流体の流路の閉塞を検出する。前述のように、灌注流体の流路は、ポンプ300とアブレーションカテーテル100の先端部の間に形成されている。具体的には、供給チューブ400に加え、
図6に示される流路ルーメン11、継手チューブ52、貯留空間24、開口25、開口部26、開口部36が、灌注流体の流路を構成する。このうちの少なくとも一部が閉塞されると、灌注流体の圧力が上昇して圧力取得部703の取得値が閉塞検出閾値を超える。この場合、アブレーションカテーテル100の先端側の灌注用の開口25等から灌注流体が適切に噴射されていない恐れがあるため、制御装置700はアブレーションカテーテル100による焼灼処置および/または灌注処置を直ちに停止する。具体的には、制御装置700は、電源装置200による高周波の印加を停止すると共に、ポンプ300による灌注流体の送出も停止する。このような焼灼処置および/または灌注処置の停止に加えてまたは代えて、灌注流体の流路の閉塞が検出された旨をアブレーションカテーテル100の使用者に報知してもよい。
【0042】
異常報知部705は、基準値取得部701によって取得された基準値が正常範囲外であった場合に異常を報知する。前述のように、基準値の絶対値は灌注流体の圧力測定において意味を持たないものの、過大な場合には圧力センサ500の供給チューブ400へのセッティングに問題がある恐れがあり、後続の通常時において正常な取得を行えない恐れがある。そこで、
図8における一番上のグラフのように基準値が正常範囲外であった場合、異常報知部705はアブレーションカテーテル100の使用者に異常を報知して、圧力センサ500の供給チューブ400へのセッティングのやり直し等を促す。
【0043】
最大圧力記録部706は、アブレーションカテーテル100による各回の灌注処置(焼灼処置)の間に圧力取得部703によって取得された最大圧力を記録する。注意喚起部707は、前回の灌注処置(焼灼処置)において最大圧力記録部706によって記録された最大圧力が注意喚起閾値を超えている場合に、アブレーションカテーテル100の使用者の注意を喚起する。前回の灌注処置における最大圧力が(注意喚起閾値より)大きかった場合、灌注流体の流路に閉塞や残圧が存在する恐れがあるため、注意喚起部707はアブレーションカテーテル100の使用者の注意を喚起して、今回の灌注処置の前の再点検や残圧開放処理等を促す。
【0044】
図9は、最大圧力記録部706および注意喚起部707による処理のフローチャートである。フローチャートの説明における「S」は、ステップまたは処理を意味する。S1では、最大圧力記録部706が、アブレーションカテーテル100による(前回)稼働時の間に圧力取得部703によって取得された最大圧力を記録する。S2では、(前回の)稼働を終えた圧力センサ500が、供給チューブ400またはアブレーションカテーテル100から取り外される。S3では、S2で取り外された圧力センサ500が(今回の)稼働のために供給チューブ400またはアブレーションカテーテル100に再設置される。
【0045】
S4では、注意喚起部707が、S1で記録された前回稼働時の最大圧力が注意喚起閾値以下であるか否かを判定する。S4で「Yes」と判定された場合はS5に進み、アブレーションカテーテル100は通常動作に入る。S4で「No」と判定された場合はS6に進み、注意喚起部707が、アブレーションカテーテル100の使用者に対して注意喚起メッセージを提示する。この注意喚起メッセージは、例えば、今回の稼働前にアブレーションカテーテル100の残圧開放処理を要求するものである。
【0046】
異常検出部708は、ポンプ300および供給チューブ400によるアブレーションカテーテル100への灌注流体の供給開始後、圧力取得部703によって取得される圧力の上昇値が異常検出閾値に満たない場合に異常を検出する。例えば、
図8における基準時をアブレーションカテーテル100への灌注流体の供給開始時とした場合、通常であれば灌注流体の供給が進むにつれて供給チューブ400内の圧力が
図8のグラフに従って上昇するため、圧力取得部703において有意な圧力の上昇が検出される。
【0047】
しかし、例えば、灌注流体の流路に漏れがある場合は、供給チューブ400内の圧力が十分に上昇しないことが考えられる。また、灌注流体の流路に閉塞がある場合、供給チューブ400内の圧力が基準時において既に過大であり、圧力センサ500の直接的な測定対象である供給チューブ400の外径がこれ以上は十分に増加できない(つまり供給チューブ400がこれ以上は十分に拡張できない)ことも考えられる。この場合も、見かけ上は圧力取得部703において有意な圧力の上昇が検出されない。異常検出部708は、このような灌注流体の流路における漏れや閉塞等の異常を、圧力取得部703によって取得される圧力の上昇値に基づいて検出する。異常検出部708によって異常が検出された場合、閉塞検出部704によって閉塞が検出された場合と同様に、制御装置700はアブレーションカテーテル100による焼灼処置および/または灌注処置を直ちに停止する。このような焼灼処置および/または灌注処置の停止に加えてまたは代えて、異常が検出された旨をアブレーションカテーテル100の使用者に報知してもよい。
【0048】
図10は、異常検出部708による処理のフローチャートである。S11では、圧力センサ500および供給チューブ400がアブレーションカテーテル100に設定される。S12では、ポンプ300が回転を開始し、供給チューブ400を通じたアブレーションカテーテル100への灌注流体の供給が開始される。S13では、圧力取得部703が、S12での灌注流体の供給開始後の所定時間に亘る圧力上昇値を取得する。
【0049】
S14では、異常検出部708が、S13で取得された圧力上昇値が異常検出閾値以上であるか否かを判定する。S14で「Yes」と判定された場合はS15に進み、アブレーションカテーテル100は通常動作を開始または継続する。S14で「No」と判定された場合はS16に進み、異常検出部708が、アブレーションカテーテル100の使用者に対して異常メッセージを提示する。この異常メッセージは、アブレーションカテーテル100の使用者に対して異常を報知すると共に、当該異常のためにアブレーションカテーテル100による焼灼処置および灌注処置が緊急停止された旨も報知する。
【0050】
以上、本開示を実施形態に基づいて説明した。例示としての実施形態における各構成要素や各処理の組合せには様々な変形例が可能であり、そのような変形例が本開示の範囲に含まれることは当業者にとって自明である。
【0051】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0052】
10 シャフト、11 流路ルーメン、20 灌注部材、24 貯留空間、25 開口、26 開口部、30 先端電極、36 開口部、40 リング電極、70 ハンドル部、100 アブレーションカテーテル、200 電源装置、300 ポンプ、400 供給チューブ、500 圧力センサ、700 制御装置、701 基準値取得部、702 通常値取得部、703 圧力取得部、704 閉塞検出部、705 異常報知部、706 最大圧力記録部、707 注意喚起部、708 異常検出部。