特開 2024-34928 ジャイロの軸受装置

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2024034928

(43)【公開日】2024-03-13

(54)【発明の名称】ジャイロの軸受装置

(51)【国際特許分類】

   F16C 35/063 20060101AFI20240306BHJP

   F16C 19/04 20060101ALI20240306BHJP

   A63H 1/00 20190101ALI20240306BHJP

【ＦＩ】

F16C35/063

F16C19/04

A63H1/00 C

【審査請求】未請求

【請求項の数】2

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2022139506

(22)【出願日】2022-09-01

(71)【出願人】

【識別番号】399132962

【氏名又は名称】知久 守

(72)【発明者】

【氏名】知久 守

【テーマコード（参考）】

2C150

3J117

3J701

【Ｆターム（参考）】

2C150AA05

2C150DA39

2C150EB32

2C150EB33

2C150EH06

2C150EH08

2C150EH16

2C150FB33

3J117AA02

3J117CA06

3J117DA01

3J117DB10

3J701AA02

3J701AA42

3J701AA52

3J701AA62

3J701AA81

3J701EA01

3J701FA60

3J701GA60

(57)【要約】      （修正有）

【課題】本発明は、ジャイロの性能改善を目的にボールベアリングを採用し、その取り付けおよび組み立てを容易にしたジャイロスコープの軸受装置を提供する。
【解決手段】円盤の軸の両端外径寸法を、ベアリング内輪内径寸法－（３０μｍ以上）に施す事で、圧入する事なく嵌め込み可能にする。リングの軸受箱を取り付けた位置の直交方向両側を圧縮して、円盤の軸方向を伸長する。２つのベアリングの間に円盤の軸を収めて、圧縮および伸長を解除する。円盤の軸の両端はベアリング内輪に嵌め込まれる。よって、軸をベアリングに嵌め込む工程を後工程にした。ベアリング軸受箱は簡単な形状にでき、加工を容易にした。ベアリング軸受箱のリングへの取り付けと、円盤およびその軸とベアリング軸受箱を取り付けたリングとの組み立てが容易になった。その結果、軸受にベアリングの採用を容易にしたジャイロの軸受装置。
【選択図】図１

【特許請求の範囲】

【請求項1】

金属リングの内側直径方向に、回転の軸を持つ円盤およびその軸と、弾性を持つ金属であるステンレス、またはアルミニウムを材料とし、直径方向の対向する２箇所に、貫通する穴を備える金属リングと、ベアリング、およびベアリングを固定する軸受箱で、主要部分が構成される。ベアリング内輪内周に嵌め込む軸の両端外径寸法を、すきま嵌め推奨寸法よりも緩く、ベアリング内輪内径寸法－（３０μｍ以上）に施す。これにより圧入する事なく嵌め込み可能とする第一の手段と、金属リングのベアリングおよび軸受箱を取り付けた位置の、直交方向両側を圧縮する。軸受箱を取り付けた方向は、ほぼ同じ寸法で伸長する。軸受箱に固定した２つのベアリングの間に円盤の軸の長さを収めて、圧縮および伸長を解除する。金属リングの形状は元に戻り、円盤の軸の両端は、ベアリング内輪に後から嵌め込まれる様にした第二の手段、この、２つの手段によって、ベアリング、軸受箱、金属リングの組み立てを前工程に、円盤の軸をベアリング内輪に嵌め込む工程を後工程とした。工程をこの順番にしたことで、ベアリングの取り付けおよび組み立てを容易にした、ジャイロの軸受装置。

【請求項2】

金属リングに取り付けるための、扇形等、ネジ止め用の形状とネジ穴が不要で、旋盤等の回転切削のみで加工可能な、太さが２段階の円柱構造であり、太い方の内側に、ベアリング外輪を嵌め込む内径寸法で穴加工を施す。外径寸法は、ベアリング外輪外径＋４．０ｍｍ以下とする。一方、細い方は、金属リングを貫通して取り付けるため、カシメ固定用とする。または、ネジ山を施して、ナットにて固定用とする。この様にして、簡単な形状にした軸受箱である、請求項１記載の軸受装置。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、ジャイロの性能改善を目的にボールベアリングを採用し、その取り付けおよび組み立てを容易にした軸受に関するものである。

【背景技術】

【0002】

円盤およびその軸（以下、「円盤軸」とする。）と、軸の両端を支える軸受と、軸受を固定するリングで主要な部分が構成され、軸に糸を巻き付けて、糸の端を引っ張る事で円盤を回転させる装置にジャイロスコープ（図６）がある。円盤が高速回転している間は、外枠リングの姿勢を変えても円盤軸は方向を一定に保つ方向保持性と、高速回転している円盤軸に角度を変える力を加えると、軸は９０度異なった方向に作用して角度変化するプレセッションの性質を持つ。（前畑幸弥著 「ジャイロコンパスとオートパイロット」 株式会社成山堂書店 ２０１３年）。また、玩具の地球こま（特許第６０３３４８１号、図１）がある。円盤が高速回転している間は、歳差運動という首振り状態でも倒れずに姿勢を維持する性質がある。この２種類の装置をジャイロと定義し、動力を備えたジャイロコンパスおよび角速度を検出する電子式ジャイロセンサー等を除く。

【0003】

ジャイロの軸受は、一般に円盤の軸の両端凸部がリングに取り付けられた軸受の凹部に嵌め込まれた単純な構造になっている。円盤の惰性による回転持続時間は軸受に影響を受けるため、軸受の改良が進んでいる。

【0004】

近年ボールベアリング内輪の内径が２．５ｍｍ、外輪の外径が６．０ｍｍ等の小型のボールベアリング（深溝玉軸受、以下「ベアリング」とする。）が作られる様になった。円盤の惰性による回転持続時間が短い欠点の性能改善に、ベアリングによる軸受にすれば良いと考える。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0005】

【特許文献1】特許第６０３３４８１号

【特許文献2】実開昭５４－０７７８８８

【非特許文献】

【0006】

【非特許文献1】前畑幸弥著 「ジャイロコンパスとオートパイロット」 株式会社成山堂書店 ２０１３年

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0007】

解決しようとする課題は、軸受にベアリングを採用したとき、軸受箱の加工、取り付け、組み立てが容易ではない点である。

【0008】

一般に、軸をベアリング内輪に嵌め込むのと、ベアリング外輪を軸受箱に嵌め込むのは、共に圧入である。圧入は、軸をベアリング内輪に嵌め込む時は軸を固定し、内輪を力点とする。ベアリング外輪を軸受箱に嵌め込む時は軸受箱を固定し、外輪を力点とする。ベアリング内部の玉等に想定外の力が加わり、破損および損傷するのを避けるためである。力点に圧力を加えるのは、治具を用いる。円盤軸とベアリング内輪、ベアリング外輪と軸受箱を、圧入によって一体化する。すると、リングに軸受箱を取り付けるのは、後工程になる。リングに軸受箱を取り付けた後では、２つのベアリングの間に、軸の長さが収まらず圧入もできないからである。組み立ての順番は、円盤軸とベアリング、およびベアリングと軸受箱が前工程で一体化される。その後工程で、リングの直径方向に対向する位置に、円盤軸、ベアリング、軸受箱が一体化された物を取り付ける順番になる。（図３）

【0009】

ベアリング外輪を軸受箱へ圧入する前工程で、外輪を力点に圧力を加えるには、円盤が邪魔になる。（図３）ｃ また、後工程でリングに取り付ける軸受箱は、扇形等、ネジ止め用の形状とネジ穴を必要とする。このため、旋盤等の切削のみでは加工困難であり、フライス盤等、複数の工作機械を必要とする複雑な構造になる。さらに、軸受箱一つの固定に、少なくとも二つのネジ止めを必要とする等、取り付けおよび組み立てが容易ではない。（図３）ｄ

【課題を解決するための手段】

【0010】

本発明は、ベアリング内輪内周に嵌め込む円盤の軸の両端外径寸法を、すきま嵌め推奨寸法よりも、緩い寸法とする第一の手段と、リングを弾性のある金属として、弾性ひずみの範囲内で、軸受箱取り付け位置の直交方向を圧縮して、軸受箱を取り付けた方向を伸長する。２つのベアリングの間に円盤軸の長さを収めた後、圧縮および伸長を解除して、円盤の軸とベアリング内輪を嵌め込む第二の手段。この２つの手段によって、ベアリング外輪を軸受箱に圧入して嵌め込む工程と、軸受箱を金属リングに取り付ける工程を前工程とし、円盤の軸とベアリング内輪の嵌め込みを後工程とした。

【発明の効果】

【0011】

本発明によれば、軸受箱が簡単な形状にでき、加工が容易になる。および、金属リングへの取り付けが容易になる。また、円盤軸と、ベアリングおよび軸受箱を一体化した金属リングとの組み立てが容易になる。結果として、軸受にベアリングを容易に採用できるので、惰性による円盤の回転持続時間が改善される。

【図面の簡単な説明】

【0012】

【図1】図１は、ジャイロの軸受装置の実施内容を示した説明図である。（実施例１）

【図2】図２は、ベアリングを軸受箱に嵌め込む工程、および、軸受箱を金属リングにスピンカシメ加工で取り付ける工程の図である。

【図3】図３は、解決しようとする課題の説明図である。

【図4】図４は、軸受箱を金属リングにネジ止めで取り付け、地球こまに適用した図、その軸受箱、およびネジ止め部を拡大した図である。（実施例２）

【図5】図５は、本発明を実施した円盤の軸と、ベアリング内輪の回転状態を示す、軸方向から見た図である。

【図6】図６は、従来装置、ジャイロスコープの図である。

【発明を実施するための形態】

【0013】

ジャイロの軸受装置は、金属リングの内側直径方向に回転の軸を持つ円盤軸と、弾性を持つ金属を材料とし、直径方向に対向する２箇所に貫通する穴を備える金属リングと、ベアリング、およびベアリングを固定する軸受箱で主要部分が構成される。

【0014】

軸をベアリング内輪に嵌め込むのは、一般に圧入であると述べたが、本発明は特殊な場合として、圧入せずに嵌め込む。

【0015】

ベアリング内輪内周に嵌め込む円盤の軸の両端外径寸法を、すきま嵌め推奨寸法（ベアリング内輪内径－０μｍから－１０μｍ）より緩く、ベアリング内輪内径寸法－（３０μｍ 以上）に施す。これにより圧入する事なく嵌め込み可能とする、第一の手段とする。

【0016】

一般のベアリングの嵌め込み寸法を補足すると、しまり嵌めと、すきま嵌めがある。回転物の軸の両側を軸受する場合、片側一方をすきま嵌めとする。熱膨張によって伸長する軸がベアリング内輪に対して、移動できる程度の圧力で嵌め込む軸の外径寸法である。内輪内径が３．０ｍｍ以下の推奨寸法は、ｈ５からｈ７、（ＪＩＳ規格 Ｂ ０４０１－２ ２０１６）によると、ベアリング内輪内径－０μｍから－１０μｍである。軸をベアリング内輪に嵌め込むもう一方は、しまり嵌めとする。熱膨張による軸の伸長に関係なく、固定する圧力で嵌め込む軸の外径寸法である。推奨寸法はｋ５からｋ７、ベアリング内輪内径＋０μｍから＋１０μｍである。ベアリング外輪を軸受箱に嵌め込むのは、しまり嵌めで、外輪外径－０μｍから－１０μｍである。

【0017】

金属リングは弾性を持つ金属として、ステンレスまたはアルミニウムを材料とする。形状は、円盤軸を支持する円形リングであり、直径方向の対向する２箇所にベアリング軸受箱を取り付ける。そのため、直径方向に貫通する穴を備えている。

【0018】

金属リングのベアリングおよび軸受箱を取り付けた位置の直交方向両側を、治具で圧縮する。圧縮する寸法は、ベアリング内輪に嵌め込みされる軸の両端２箇所の長さプラスアルファである。すなわち、嵌め込み長さ寸法が２．６ｍｍならば２箇所で５．２ｍｍ、プラスアルファ０．８ｍｍ、合計６．０ｍｍなどとする。金属リングのベアリングおよび軸受箱を取り付けた方向は、ほぼ同じ寸法で伸長する。軸受箱に固定した２つのベアリングの間に、円盤の軸の長さを収めて、圧縮および伸長を解除する。金属リングは、ほぼ元の形状に戻る。この様にして、円盤の軸の両端は、ベアリング内輪に後から嵌め込まれる様にした、第二の手段とする。（図１）

【0019】

この２つの手段によって、ベアリング外輪を軸受箱に圧入固定する工程を前工程１、軸受箱を金属リングに取り付ける工程を前工程２、円盤の軸とベアリング内輪を嵌め込む工程を後工程とした。円盤軸、ベアリング、軸受箱、金属リングはこの順番で組み立てられ、一体化される。なお、前工程１、前工程２の組み立て順番が成り立つのは、第一および第二の２つの手段によって、円盤の軸の嵌め込みを後工程にしたからである。軸受箱の形状を簡単にでき、加工取り付けを容易にする効果がある。組み立てが簡単になり、軸受にベアリングを容易に採用できる。摩擦は小さく抑えられ、ジャイロの惰性による円盤回転の持続時間は改善される。

【0020】

（図２）ａは、ベアリング外輪を軸受箱へ圧入固定する前工程１である。前工程のため、ベアリングだけを軸受箱へ固定すればよい、円盤は邪魔にならない。（図２）ｂは、ベアリングを固定した軸受箱を、金属リングに取り付ける前工程２である。前工程にしたため、ネジ止めは不要であり、スピンカシメ加工で取り付けできる。軸受箱は、扇形等、ネジ止め用の形状とネジ穴が不要で、簡単な形状にできる。金属リングの直径方向に対向する２箇所に施された穴を貫通して、取り付けられる。

【0021】

軸受箱の形状は、真鍮またはアルミニウム等の金属を材料として、例えば、旋盤等の回転切削のみで加工可能な、太さが２段階の円柱構造にする。太い方の内側に、ベアリング外輪を嵌め込む内径寸法で穴加工を施す。外径寸法は、ベアリングを保持するための肉厚０．５ｍｍ程度を確保したうえで、小さいほうが良い。ベアリング外輪外径＋４．０ｍｍ以下とする。細い方は、カシメ固定用とする。または、（図４）ｂ １６の様に、ネジ山を施して、ナット固定用としても良い。また、加工は切削加工に限らず、ダイキャスト成形などでも良い。形状は円柱構造以外でも良い。ただし、第二の手段による、金属リングの圧縮および伸長の妨げにならない大きさと形状が重要である。太い部分の外径寸法をベアリング外輪外径＋４．０ｍｍ以下とするのは、そのためである。

【0022】

なお、第一および、第二の手段による前工程、後工程の順番と、ネジ止め用の扇形等不要の簡単な形状にした軸受箱は、相互な関係にある。発明の工程順番だから、扇形等不要の簡単な軸受箱にできる。また、扇形等不要の簡単な軸受箱にしたから、金属リングの圧縮が可能になり、第一の手段および第二の手段によって、前工程１、前工程２、後工程の順番にできる。

【0023】

金属の弾性ひずみを補足する。外径７０ｍｍ、内径６４ｍｍ、幅１０ｍｍのステンレスとアルミニウムのリングを用いて実験を行った結果、寸法約６．０ｍｍの圧縮および伸長を加えた後の解除で、残った変形は０．４０ｍｍ未満であるのを確認している。したがって、材料はステンレスまたはアルミニウムに限る。ベアリング内輪に嵌め込む軸の長さ寸法は２．６ｍｍであり、０．１０ｍｍ程度のすきまを予定している。残った変形０．４０ｍｍ未満は、充分小さい値であり問題はない。

【0024】

円盤の軸とベアリング内輪の回転状態を補足する。軸とベアリング内輪は、すきま嵌め推奨寸法以上の、すきまを持って嵌め込まれているため、偏りをもって回転する。その状態は２種類ある。軸方向から見た（図５）に示す。１の状態は、軸の外周一部とベアリング内輪内周の一部が、１点で接して同じ周期で回転する芯ブレの状態（図５）ａである。２の状態は、軸の外周とベアリング内輪内周の接点が共に移動しながら回転する、芯ブレが無い状態（図５）ｂである。２種類の回転状態について動作、寿命、振動、騒音等を評価した。ジャイロ装置としては、いずれも問題ないレベルであった。

【実施例0025】

図１、図２は、本発明装置の実施例１の図である。（図２）ａは、軸受箱を固定しておいて、ベアリング外輪を力点に圧入してベアリングを嵌め込む前工程１である。（図２）ｂは、ベアリングが嵌め込まれた軸受箱の細い方を、金属リングの直径方向に対向する２箇所に施された穴を貫通して、カシメ固定する前工程２である。ベアリング、軸受箱、金属リングは、この前工程１と前工程２で一体化する。

【0026】

第一の手段で、ベアリング内輪内周に嵌め込む円盤の軸の両端外径寸法を、すきま嵌め推奨寸法（ベアリング内輪内径－０μｍから－１０μｍ）より緩く、ベアリング内輪内径寸法－（３０μｍ以上）に施す。これにより圧入する事なく嵌め込み可能とする。

【0027】

（図１）は第二の手段である。金属リングのベアリングおよび軸受箱を取り付けた位置の直交方向両側を、治具で圧縮する。圧縮する寸法は、ベアリング内輪に嵌め込みされる軸の両端２箇所の長さプラスアルファである。すなわち、嵌め込み長さ寸法が２．６ｍｍならば２箇所で５．２ｍｍ、プラスアルファ０．８ｍｍ、合計６．０ｍｍなどとする。金属リングのベアリングおよび軸受箱を取り付けた方向は、ほぼ同じ寸法で伸長する。軸受箱に固定した２つのベアリングの間に、円盤の軸の長さを収めて、圧縮および伸長を解除する。金属リングは、ほぼ元の形状に戻る。この様にして、円盤の軸の両端は、ベアリング内輪に後から嵌め込まれる。

【0028】

前工程１、前工程２で、一体化された金属リングの軸受箱に固定した２つのベアリング内輪に、第一および第二の２つの手段によって、円盤の軸が嵌め込まれる。これを後工程とした。円盤軸、ベアリング、軸受箱、金属リングはこの順番で組み立てられ、一体化される。軸受箱を金属リングに取り付けるネジ止めが不要であり、スピンカシメ加工で取り付けできる。軸受箱は、扇形等、ネジ止め用の形状とネジ穴が不要で、簡単な形状にできる。組み立てが簡単になり、軸受にベアリングを容易に採用できる。摩擦は小さく抑えられ、ジャイロの惰性による円盤回転の持続時間は改善される。

【実施例0029】

図４の実施例は、前工程２が、（実施例１）と異なる図である。ベアリングが嵌め込まれた軸受箱の細い方に、ネジ山を施しておき、金属リングの直径方向に対向する２箇所に施された穴を貫通して、ナットにてネジ止め固定する。