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特開2024-34931ポリオール組成物、ポリウレタンフォーム用組成物及び連続気泡硬質ポリウレタンフォーム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034931
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ポリオール組成物、ポリウレタンフォーム用組成物及び連続気泡硬質ポリウレタンフォーム
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/00 20060101AFI20240306BHJP
   C08G 18/48 20060101ALI20240306BHJP
   C08G 18/40 20060101ALI20240306BHJP
   C08G 101/00 20060101ALN20240306BHJP
【FI】
C08G18/00 L
C08G18/48 079
C08G18/40 009
C08G101:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139511
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】515266223
【氏名又は名称】コベストロ、ドイチュラント、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】COVESTRO DEUTSCHLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田邊 敬康
(72)【発明者】
【氏名】和田 英紀
(72)【発明者】
【氏名】吉原 裕一
【テーマコード(参考)】
4J034
【Fターム(参考)】
4J034BA07
4J034BA08
4J034CA02
4J034CB01
4J034CC12
4J034CC62
4J034CC65
4J034CD04
4J034DA01
4J034DB01
4J034DB04
4J034DB05
4J034DB07
4J034DC02
4J034DF01
4J034DF02
4J034DF03
4J034DF11
4J034DG00
4J034DG03
4J034DG04
4J034DH00
4J034DM01
4J034EA11
4J034FA01
4J034FB01
4J034FC01
4J034FD03
4J034GA06
4J034GA65
4J034HA01
4J034HA07
4J034HA08
4J034HC03
4J034HC12
4J034HC13
4J034HC17
4J034HC22
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC65
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034KB02
4J034KB03
4J034KB05
4J034KC02
4J034KC16
4J034KC17
4J034KC18
4J034KC23
4J034KD02
4J034KD03
4J034KD07
4J034KD11
4J034KD12
4J034KE02
4J034NA02
4J034NA03
4J034NA05
4J034NA08
4J034QA01
4J034QA02
4J034QB16
4J034QB17
4J034QB19
4J034QC01
4J034RA10
4J034RA12
4J034RA14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】乳化剤としてNPEを使用せずとも、相安定性に優れ、しかも、自己消火性にも優れる連続気泡硬質ポリウレタンフォームを形成できるポリオール組成物を提供する。
【解決手段】連続気泡硬質ポリウレタンフォーム製造用ポリオール組成物であって、ポリオール成分、乳化剤、発泡剤、整泡剤及び触媒を含み、前記発泡剤は水を前記ポリオール組成物100質量%に対して5~25質量%含み、前記乳化剤は、一般式(1)

(式(1)中、Rは、不飽和炭化水素基、及び、芳香族炭化水素基で置換されてもよい飽和炭化水素基から選ばれる少なくとも1種の基(ノニル基及びドデシル基を除く)、Rは、水素、メチル基又はエチル基、nは0~3の数、mは1~30の数である)で表される芳香族アルコキシレートを含み、前記芳香族アルコキシレートのHLBが11~16である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続気泡硬質ポリウレタンフォームを製造するために用いられるポリオール組成物であって、
ポリオール成分、乳化剤、発泡剤、整泡剤及び触媒を含み、
前記発泡剤は水を含み、
前記水は、前記ポリオール組成物の総質量100質量%に対して5~25質量%含まれており、
前記乳化剤は、下記一般式(1)
【化1】
(式(1)中、
は、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基で置換されてもよい飽和炭化水素基、及び、水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基(ただし、オクチル基及びノニル基を除く)を示し、
は、水素、メチル基又はエチル基を示し、
nは0~3の数であり、
mは1~30の数である)
で表される芳香族アルコキシレートを含み、
前記芳香族アルコキシレートのHLBが11~16である、ポリオール組成物。
【請求項2】
前記ポリオール成分が、水酸基価15~120mgKOH/g、かつ、平均官能基数(f)が2~3であるポリオールAを含有する、請求項1に記載のポリオール組成物。
【請求項3】
前記ポリオール成分が、水酸基価200~800mgKOH/g、かつ平均官能基数(f)が3~8であるポリオールBを含有する、請求項1に記載のポリオール組成物。
【請求項4】
前記芳香族アルコキシレートは、
a)前記式(1)において、Rがベンジル基である化合物、
b)カシューナッツシェルリキッド由来の化合物、
c)ポリオキシエチレンフェニルエーテル、
あるいは、
d)ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル
である、請求項1に記載のポリオール組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリオール組成物と、ポリイソシアネートとを含み、イソシアネートインデックスが30~120である、ポリウレタンフォーム用組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリオール組成物を用いて得られる、連続気泡硬質ポリウレタンフォーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオール組成物、ポリウレタンフォーム用組成物及び連続気泡硬質ポリウレタンフォームに関する。
【背景技術】
【0002】
連続気泡を有する低密度硬質ポリウレタンフォームは、優れた断熱性能を有することから、住宅用断熱材、建築現場用断熱材等の各種断熱材として広く利用されている。斯かる硬質ポリウレタンフォームは、発泡剤として水を使用し、ポリオール成分、乳化剤、発泡剤、整泡剤及び触媒を均一に混合したポリオール組成物とポリイソシアネートとを、混合し、反応及び発泡させることで形成できることが知られている。
【0003】
斯かる硬質ポリウレタンフォームの製造において、ポリオール組成物に含まれる発泡剤としての水の含有量は、ポリオール組成物中に5質量%~25質量%であり、ポリオール組成物中でポリオール成分と水との間で相不安定となり液分離を引き起こしやすい。そこで、ポリオールと水との相溶性を向上させるべく、乳化剤を併用することが一般的に行われている。乳化剤としては、従来、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(ノニルフェノールエトキシレート;NPEともいう)が一般的に使用されていたが、NPEは内分泌撹乱物質となり得ることが疑われていることから、NPEを含まない水発泡型の低密度硬質ポリウレタンフォームが求められている。
【0004】
例えば、特許文献1は、ノニルフェノールエトキシレート(NPE)を実質的に含まず、特定のHLBを有するアルキルアルコールエトキシレートを乳化剤として使用して、ポリウレタンフォームを製造する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-166472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、連続気泡を有する低密度硬質ポリウレタンフォームに用いられるポリオール組成物として、特許文献1に開示される技術において使用されているアルキルアルコールエトキシレートは、前述のNPEに比べてポリオール組成物に相安定性を付与しにくいことから、時間の経過及び温度上昇等によりポリオールと水との相溶性が低下するという現象(例えば、液分離や濁りの現象)を引き起こしやすいことが懸念される。これにより、例えば、夏場での現場施工において、ポリオール組成物が液分離や濁り等不均一となって発泡異常が引き起こされ、また、これらを防止するために再撹拌等の措置が必要になるという問題があった。この問題は、アルキルアルコールエトキシレートの配合量を多くする等の方法によって解消できる可能性はあるものの、この方法ではポリウレタンフォームの物性、特に難燃性能や自己消火性能が却って低下しやすくなり、必ずしも適した方法とはいえなかった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、乳化剤としてNPEを使用せずとも、相安定性に優れ、しかも、自己消火性にも優れる連続気泡硬質ポリウレタンフォームを形成することが可能であるポリオール組成物及び該組成物を含むポリウレタンフォーム用組成物並びに連続気泡硬質ポリウレタンフォームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、HLBが11~16であり、特定の構造を有する芳香族アルコキシレートを乳化剤として使用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
連続気泡硬質ポリウレタンフォームを製造するために用いられるポリオール組成物であって、
ポリオール成分、乳化剤、発泡剤、整泡剤及び触媒を含み、
前記発泡剤は水を含み、
前記水は、前記ポリオール組成物の総質量100質量%に対して5~25質量%含まれており、
前記乳化剤は、下記一般式(1)
【0010】
【化1】
【0011】
(式(1)中、
は、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基で置換されてもよい飽和炭化水素基、及び、水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基(ただし、オクチル基及びノニル基を除く)を示し、
は、水素、メチル基又はエチル基を示し、
nは0~3の数であり、
mは1~30の数である)
で表される芳香族アルコキシレートを含み、
前記芳香族アルコキシレートのHLBが11~16である、ポリオール組成物。
項2
前記ポリオール成分が、水酸基価15~120mgKOH/g、かつ、平均官能基数(f)が2~3であるポリオールAを含有する、項1に記載のポリオール組成物。
項3
前記ポリオール成分が、水酸基価200~800mgKOH/g、かつ平均官能基数(f)が3~8であるポリオールBを含有する、項1又は2に記載のポリオール組成物。
項4
前記芳香族アルコキシレートは、
a)前記式(1)において、R1がベンジル基である化合物、
b)カシューナッツシェルリキッド由来の化合物、
c)ポリオキシエチレンフェニルエーテル、
あるいは、
d)ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル
である、請求項1に記載のポリオール組成物。
項5
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリオール組成物と、ポリイソシアネートとを含み、イソシアネートインデックスが30~120である、ポリウレタンフォーム用組成物。
項6
項1~4のいずれか1項に記載のポリオール組成物を用いて得られる、連続気泡硬質ポリウレタンフォーム。
項7
項5に記載のポリウレタンフォーム用組成物を用いて得られる、連続気泡硬質ポリウレタンフォーム。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリオール組成物は、乳化剤として特定の芳香族アルコキシレートを含むことで、乳化剤としてNPEを使用せずとも、ポリオール成分と水との相溶性を高めることができ、結果として優れた相安定性を有することができ、しかも、自己消火性にも優れる連続気泡硬質ポリウレタンフォームを形成することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0014】
1.ポリオール組成物
本発明のポリオール組成物は、連続気泡硬質ポリウレタンフォームを製造するために用いられ、ポリオール成分、乳化剤、発泡剤、整泡剤及び触媒を含む。ポリオール組成物において、前記発泡剤は水を含み、前記水は、前記ポリオール組成物の総質量100質量%に対して5~25質量%含まれる。ポリオール組成物において、前記乳化剤は、下記一般式(1)で表される芳香族アルコキシレートを含み、そのHLBが11~16である。
【0015】
【化2】
【0016】
ここで、前記式(1)中、Rは、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基、及び、水酸基で置換されてもよい飽和炭化水素基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基(ただし、オクチル基及びノニル基を除く)を示し、Rは、水素、メチル基又はエチル基を示し、nは0~3の数であり、mは1~30の数である。
【0017】
本発明のポリオール組成物は、乳化剤として前記芳香族アルコキシレートを含むので、乳化剤としてNPEを使用せずとも、ポリオール成分と水との相溶性を高めることができる。これにより、本発明のポリオール組成物は、優れた相安定性を有する。また、本発明のポリオール組成物を用いて得られる連続気泡硬質ポリウレタンフォームは、自己消火性にも優れる。従って、本発明のポリオール組成物は、連続気泡硬質ポリウレタンフォームを形成するための原料の使用に好適である。
【0018】
以下、本発明のポリオール組成物に含まれる各成分を説明する。なお、以下の説明において、本発明のポリオール組成物を用いて得られる「連続気泡硬質ポリウレタンフォーム」を単に「硬質ポリウレタンフォーム」と略記することがある。
【0019】
(乳化剤)
乳化剤は、前記式(1)で表される芳香族アルコキシレートを必須成分として含有する。斯かる芳香族アルコキシレートを含むことで、NPE等の内分泌撹乱物質として懸念されている化合物を含むことなく、ポリオール組成物中のポリオール成分と水との相溶性を高めることができ、ポリオール組成物に優れた相安定性を付与することができる。また、ポリオール組成物を用いて得られる硬質ポリウレタンフォームに優れた自己消火性を付与することも可能となる。
【0020】
前記式(1)において、Rが、不飽和炭化水素基である場合、斯かる不飽和炭化水素基の炭素数(鎖長)は、例えば、1~20であり、好ましくは1~15である。不飽和炭化水素基において、不飽和基は、例えば、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合であり、好ましくは炭素-炭素二重結合である。不飽和炭化水素基において、不飽和基(二重結合又は三重結合)の個数は、例えば、0~3個であり、好ましくは1~2個である。
【0021】
前記式(1)において、Rが、芳香族炭化水素基で置換されてもよい飽和炭化水素基である場合、斯かる飽和炭化水素基の炭素数は、例えば、1~5であり、好ましくは1~3、より好ましくは1~2である。なお、念のために注記に過ぎないが、Rが、芳香族炭化水素基で置換されてもよい飽和炭化水素基とは、芳香族炭化水素基で置換されていない飽和炭化水素基を包含することも意味し、さらには、何らの置換基を有さない飽和炭化水素基も包含することを意味する。
【0022】
前記式(1)において、Rが、芳香族炭化水素基で置換された飽和炭化水素基である場合、芳香族炭化水素基は、例えば、炭素数6~18のアリール基を挙げることができる。芳香族炭化水素基はさらに置換基を有することもできる。この場合の置換基としては、水酸基、カルボキシ基、炭化水素基、ハロ基、ニトロ基、シアノ基、オキソ基、スルホ基が挙げられ、炭化水素基としては、炭素数1~10のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルカジエニル基等が例示される。
【0023】
芳香族炭化水素基で置換されてもよい飽和炭化水素基の具体例としては、ベンジル基(Ph-CH-、Phはフェニル基を表す)、スチレン化部位(Ph-CH-CH、Phはフェニル基を表す)が挙げられる。
【0024】
前述のように、前記式(1)において、Rはオクチル基及びノニル基が除かれる。すなわち、前記式(1)で表される芳香族アルコキシレートは、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル及びポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(前述のNPE)は除く。
【0025】
前記式(1)において、Rは、不飽和炭化水素基、及び、芳香族炭化水素基で置換された飽和炭化水素基、及び、水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基であることが好ましい。すなわち、前記式(1)のRは、オクチル基及びノニル基を含むアルキル基を除くことが好ましい。仮に前記式(1)で表される芳香族アルコキシレートが、Rがアルキル基である化合物を含むにしても、その含有割合は芳香族アルコキシレートの全質量に対し、10質量%以下、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下である。
【0026】
前記式(1)において、nは0~3の数であり、nが0の場合、式(1)で表される芳香族アルコキシレートの芳香環にはRが結合していないことを意味する。この場合、芳香族アルコキシレートは、例えば、ポリオキシエチレンフェニルエーテルである。
【0027】
前記式(1)において、nは1、2又は3である場合、式(1)で表される芳香族アルコキシレートの芳香環にはRが結合している。nが2又は3である場合、芳香環に結合するRは同一であってもよいし、異なっていてもよい。特に、前記式(1)で表される芳香族アルコキシレートがカシューナッツシェルリキッド由来である場合は、2個又は3個のRは互いに異なるものとなり得る。
【0028】
前記式(1)において、mは1~30の数であり、好ましくは2~25である。
【0029】
前記式(1)で表される芳香族アルコキシレートは、下記a)、b)、c)又はd)であることが好ましい。
a)前記式(1)において、R1がベンジル基である化合物、
b)カシューナッツシェルリキッド由来の化合物、
c)ポリオキシエチレンフェニルエーテル、
d)ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル
言い換えれば、前記式(1)で表される芳香族アルコキシレートは、
a)少なくとも1個(好ましくは3個以下)のベンジル基を有するフェノール化合物、
b)カシューナッツシェルリキッド、
c)フェノール、又は
d)ジスチレン化フェノールと、
アルキルオキサイドとの付加反応によって生成する芳香族アルコキシレート(又はそれらの組み合わせ)であることが好ましい。この場合、ポリオール組成物は、より優れた相安定性を有することができ、また、自己消火性能により優れる硬質ポリウレタンフォームが得られやすい。なお、カシューナッツシェルリキッドの部位を有する化合物と、アルキルオキサイドとの付加反応によって生成する芳香族アルコキシレートは、「前記式(1)で表される芳香族アルコキシレートが、カシューナッツシェルリキッド由来の化合物と、アルキルオキサイドとの付加反応によって生成する芳香族アルコキシレート」と読み替えることができる。
【0030】
上記の付加反応で使用する原料及び反応条件は特に限定されず、公知の所定の原料を使用することができ、また、反応条件も公知と同様とすることができる。
【0031】
前記式(1)で表される芳香族アルコキシレートは、HLBが11~16(すなわち、11以上、16以下)である。これにより、ポリオール組成物中のポリオール成分と水との相溶性を高めることができ、ポリオール組成物に優れた相安定性を付与することができ、また、ポリオール組成物を用いて得られる硬質ポリウレタンフォームに優れた自己消火性を付与することができる。
【0032】
前記式(1)で表される芳香族アルコキシレートのHLBが11未満である場合、ポリオール組成物中のポリオール成分と水との相溶性が低下して相安定性が損なわれ、また、ポリオール組成物を用いて得られる硬質ポリウレタンフォームの密度を低くすることも難しくなり、低い密度を有する硬質ポリウレタンフォームの形成できないおそれがある。一方、前記式(1)で表される芳香族アルコキシレートのHLBが16を超過すると、ポリオール成分と水との相溶性が低下して相安定性が損なわれ、また、常温で高粘度または固体の状態となりポリオール組成物中に均一に配合することが難しくなる問題が発生する。
【0033】
前記式(1)で表される芳香族アルコキシレートのHLBは、11.2以上であること好ましく、12.0以上であることより好ましく、また、15.5以下であることが好ましく、15.0以下であることがより好ましく、14.8以下であることがさらに好ましい。
【0034】
ここで、前記式(1)で表される芳香族アルコキシレートのHLBは乳化剤の親水性部分と親油性部分との親和性の程度を表す値であり、0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く、20に近いほど親水性が高くなることを示す。HLBは一般的に、下記式
HLB値=20×親水部の式量の総和/分子量
によって計算できる。
【0035】
乳化剤に含まれる前記式(1)で表される芳香族アルコキシレートは1種単独とすることができ、あるいは2種以上とすることもできる。とりわけ前記式(1)で表される芳香族アルコキシレートが、カシューナッツシェルリキッド由来の化合物と、アルキレンオキサイドとの付加反応によって生成する芳香族アルコキシレートである場合は、Rの種類(特に炭素数15である不飽和炭化水素基の種類)が異なる複数の芳香族アルコキシレートが含まれ得る。
【0036】
前記式(1)で表される芳香族アルコキシレートは、例えば、公知の方法で製造して入手することができ、あるいは、市販品等から入手することも可能である。
【0037】
本発明のポリオール組成物は、本発明の効果が阻害されない限り、乳化剤として、前記式(1)で表される芳香族アルコキシレート以外のその他の乳化剤を含むことができる。その他の乳化剤の種類は、前述のNPE以外である限り特に限定されず、例えば、公知の乳化剤を広く併用することができる。乳化剤は、前記式(1)で表される芳香族アルコキシレートを80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましい。乳化剤は、前記式(1)で表される芳香族アルコキシレートのみであってもよい。
【0038】
(ポリオール成分)
本発明のポリオール組成物に含まれるポリオール成分は特に限定されず、例えば、硬質ポリウレタンフォームを製造するために使用されるポリオール化合物を広く挙げることができる。
【0039】
ポリオール化合物としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルエーテルポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリラクトンポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリマーポリオール、シリコーンポリオール等を含むことができ、ポリエーテルポリオールを含むことが好ましい。
【0040】
ポリオール成分は、水酸基価15~120mgKOH/g、かつ、平均官能基数(f)が2~3であるポリオールAを含有することが好ましい。この場合、ポリオール組成物を用いて得られる硬質ポリウレタンフォームは連通気泡のフォームになりやすく優れた寸法安定性を付与することができる。
【0041】
本明細書において、水酸基価とは、試料1g中の遊離水酸基を無水酢酸で完全にアセチル化した後、それを中和するのに要する水酸化カリウムのmg数であって、JIS K 1557(2007)に準拠して測定された値を意味する。具体的には水酸基価は、無水酢酸を用いて試料中の水酸基をアセチル化し、アセチル化に関与しなかった無水酢酸を水酸化カリウムエタノール溶液で滴定した後、この結果に基づいて下記式
水酸基価〔mgKOH/g〕=[((A-B)×c×56.1)/S]+酸価
(ここで、Aは、空試験に用いた0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液の量(mL)、Bは、滴定に用いた0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液の量(mL)、cは、水酸化ナトリウム溶液の濃度(mol/l)、Sは、試料採取量(g)を示す)
により求められる。
【0042】
本明細書において、平均官能基数(f)とは、一分子当たりの官能基の数、とりわけ一分子当たりの水酸基の数をいう。平均官能基数は剛性時に使用する開始剤の官能基数で制御することができる。平均官能基数(f)は、ポリオールの有する水酸基価(OHV)と数平均分子量(Mn)から、次の計算式
平均官能基数(f)=Mn(g/mol)×OHV(mgKOH/g)/56100
により求められる。
【0043】
ポリオールAは、水酸基価が15~56mgKOH/gであることが好ましい。
【0044】
ポリオールAの質量平均分子量も特に制限されず、例えば、従来の硬質イソシアヌレートフォームの製造に使用されるポリポリオール化合物と同様の範囲とすることができ具体的には、3000以上、10000以下であることが好ましい。本明細書でいう質量平均分子量(Mw)(重量平均分子量ともいう)は、GPC測定によって測定することができる。
【0045】
ポリオールAは水酸基価20~120mgKOH/g、かつ、平均官能基数(f)が2~3である、ポリエーテルポリオールであることが好ましい。
【0046】
ポリオール成分は、前記ポリオールAに替えて、もしくは前記ポリオールAと共に、水酸基価200~800mgKOH/g、かつ平均官能基数(f)が3~8であるポリオールBを含有することも好ましい。この場合、ポリオール成分と水との相溶性が高まりやすく、ポリオール組成物に優れた相安定性を付与することができ、また、ポリオール組成物を用いて得られる硬質ポリウレタンフォームに優れた自己消火性を付与することができる。
【0047】
ポリオールBは、水酸基価が300~500mgKOH/gであることが好ましい。また、ポリオールBは、平均官能基数(f)が3~6であることが好ましい。
【0048】
ポリオールBの質量平均分子量も特に制限されず、例えば、従来の硬質イソシアヌレートフォームの製造に使用されるポリポリオール化合物と同様の範囲とすることができ具体的には、300以上、1500以下であることが好ましい。本明細書でいう質量平均分子量(Mw)(重量平均分子量ともいう)は、GPC測定によって測定することができる。
【0049】
ポリオールBは水酸基価200~800mgKOH/g、かつ平均官能基数(f)が3~8である、ポリエーテルポリオールであることが好ましい。
【0050】
ポリオールA及びBは、エチレンオキシド単位、プロピレンオキシド単位等の構造単位を含むことができ、その他、炭素数が3以上のアルキレンオキシド、スチレンオキシド等の各種環状エーテルに由来する構造単位等を含むこともできる。
【0051】
ポリオール成分に含まれるポリオールA及びBいずれも1種又は2種以上とすることができる。ポリオールA及びBはいずれも、例えば、公知の方法で製造して入手することができ、あるいは、市販品等から入手することも可能である。ポリオールA及びBはいずれも、例えば、環状エーテルの重付加反応、多価アルコールの縮合反応、その他、環状エーテルと多価アルコールとの付加重合によって製造することができる。原料となる環状エーテル及び多価アルコールの種類は特に限定されず、目的物であるポリオール化合物の構造に応じて、適宜選択することができる。
【0052】
ポリオール成分は、ポリオールA及びポリオールBの両方を含むことが好ましく、この場合、ポリオール成分は、ポリオールA及びポリオールBを合わせて80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましい。ポリオール成分は、ポリオールA及びポリオールBのみであってもよい。
【0053】
ポリオール成分は、ポリオールA及びポリオールBの両方を含む場合、両者の含有割合は特に限定されず、例えば、ポリオールA及びポリオールBの総質量100質量部あたり、ポリオールAの含有量が1~99質量部とすることができ、10~90質量部であることが好ましく、20~80質量部であることがより好ましく、30~70質量部であることがさらに好ましく、40~60質量部であることが特に好ましい。
【0054】
(発泡剤)
本発明のポリオール組成物は、発泡剤として水を含む。発泡剤は水以外の発泡剤を含むことができ、あるいは、発泡剤は水のみとすることもできる。水以外の発泡剤は、例えば、従来の硬質ポリウレタンフォームを製造するために使用される各種発泡剤を挙げることができ、カルボン酸化合物等の化学発泡剤、ハイドロフロオロオレフィン及びハイドロクロロフロオロオレフィンに代表されるハロゲン化炭化水素化合物等の物理発泡剤を広く挙げることができる。
【0055】
本発明のポリオール組成物では、発泡剤としての水は、前記ポリオール組成物の総質量100質量%に対して5~25質量%含まれる。ポリオール組成物の総質量100質量%に対して水が5質量%未満又は25質量%を超過すると、所望の密度を有する硬質ポリウレタンフォームを得ることができず、また、ポリオール組成物の相安定性の低下及び硬質ポリウレタンフォームの自己消火性の低下を引き起こす。水は、前記ポリオール組成物の総質量100質量%に対して7~20質量%含まれることが好ましく、9~17質量%含まれることがさらに好ましい。ここでいうポリオール組成物の総質量とは、後記するポリイソシアネートは含まない。
【0056】
(整泡剤)
整泡剤の種類は特に限定されず、例えば、公知の整泡剤を広く挙げることができる。整泡剤としては、例えば、シリコーン系整泡剤、含フッ素化合物系整泡剤等が挙げられ、中でもシリコーン系整泡剤が好ましい。整泡剤は、1種であってもよく、2種以上の成分を組み合わせた組成物であってもよい。
【0057】
シリコーン系整泡剤は、ポリオキシアルキレン・ジメチルポリシロキサンコポリマーを主成分とするシリコーン整泡剤を挙げることができる。該シリコーン系整泡剤はポリオキシアルキレン-ジメチルポリシロキサンコポリマー単独であっても、これに他の併用成分を含んでいてもよい。他の併用成分としては、ポリアルキルメチルシロキサン、グリコール類およびポリオキシアルキレン化合物等が例示できる。また、整泡剤の別の好ましい態様として、ポリオキシアルキレン-ジメチルポリシロキサンコポリマー、ポリアルキルメチルシロキサンおよびポリオキシアルキレン化合物から選択される2種以上を含む組成物も挙げられ、この場合、フォームの安定性の点から有利である。
【0058】
整泡剤の市販品の例としては、MOMENTIVE社製の商品名:L-5388、L-6189、L-6186、L-6188、L-6164、L-6630、Y-16312などが挙げられる。また、別の市販品の例としては、EVONIK社製の商品名:B8123、B8580、B8110、B8870、B8871、B8228、B84721、BF2470、B84817、B8523、B8232、B8871、B4900、B8002などが挙げられ、東レ・ダウ・コーニング社製の商品名:SRX-294A、SRX-280A、SRX-294A、SRX-298、SH-190、SH-192、SH-194、SZ-1142、SZ-580などが挙げられる。
【0059】
整泡剤の含有割合は特に限定されず、例えば、公知の硬質ポリウレタンフォームと同様の含有割合とすることができる。整泡剤の含有割合は、ポリオール組成物及び後記ポリイソシアヌレートの全質量に対し、0.2~5質量%であることが好ましい。
【0060】
(触媒)
触媒の種類は特に限定されず、例えば、従来の硬質ポリウレタンフォームの製造に用いられる公知の触媒を広く挙げることができる。触媒としては、例えば、水とイソシアネートとの反応を促進する触媒(泡化触媒)、ポリオールとイソシアネートとの反応を促進する触媒(樹脂化触媒)、イソシアネートの三量化反応(即ち、イソシアヌレート環の形成)を促進する触媒(三量化触媒)が好適に挙げられる。ポリオール組成物に含まれる触媒は、1種又は2種以上とすることができる。不揮発性のイソシアネート反応性触媒や高分子アミン触媒を用いることが好ましい。ここで、イソシアネート反応性触媒とは、分子中にイソシアネート反応性の活性水素基を1つ以上有する反応型アミン触媒とされる。イソシアネート反応性触媒を使用することは、フォームの連続気泡性の向上や低密度化、スプレー発泡における作業性(吹付け厚み量、垂れ下がり性)の向上において有利である。
また、不揮発性のアミン触媒は、アイレインボー(目の霞み)などの発泡作業者に対する毒性を避ける上で好ましい。
【0061】
前記イソシアネート反応性触媒の好適な具体例としては、N,N,N’-トリメチルアミノエチルエタノールアミン、ジメチルアミノエトキシエタノール、N,N,N’-トリメチル-N’-ヒドロキシエチル-ビスアミノエチルエーテル、N-[2-(2-ジメチルアミノエトキシ)エチル]-N-メチル-1,3-プロパンジアミン等が挙げられる。
【0062】
泡化触媒としては、例えば、ジモルホリン-2,2-ジエチルエーテル、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン、ビス(ジメチルアミノエチル)エーテル、2-(2-ジメチルアミノエトキシ)エタノール、及びN,N,N’-トリメチル-N’-ヒドロキシエチルビスアミノエチルエーテル等が挙げられる。
【0063】
樹脂化触媒としては、例えば、トリエチレンジアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N,N’’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、N-ジメチルアミノエチル-N’-メチルピペラジン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、1,2-ジメチルイミダゾール、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、ビス(ジメチルアミノプロピル)アミン等のアミン触媒、N,N-ジメチルアミノエタノール、N,N,N’-トリメチルアミノエチルエタノールアミン、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N,N-ジイソプロパノールアミン、N-(2-ヒドロキシエチル)-N’-メチルピペラジン、N,N-ジメチルアミノヘキサノール、及び5-ジメチルアミノ-3-メチル-1-ペンタノール等のアルカノールアミン触媒;並びにオクチル酸第一スズ、ジラウリル酸ジブチル第二スズ、オクチル酸鉛、カルボン酸ビスマス、及びジルコニウム錯体等の金属触媒等が挙げられる。これらのアミン触媒およびアルカノールアミン触媒としては、炭酸を付加させて合成したアミン炭酸塩やギ酸、酢酸等のカルボン酸を付加させて合成したアミンカルボン酸塩を使用してもよい。
【0064】
三量化触媒としては、例えば、2,4,6-トリス(ジアルキルアミノアルキル)ヘキサヒドロ-S-トリアジン、1,3,5-トリス(N,N-ジメチルアミノプロピル)ヘキサヒドロ-S-トリアジン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、及び2,4-ビス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の芳香族化合物;酢酸カリウム、2-エチルヘキサン酸カリウム、及びオクチル酸カリウム等のカルボン酸アルカリ金属塩;並びにカルボン酸の、4級アンモニウム塩、及びその他オニウム塩等が挙げられる。
【0065】
ポリオール組成物における触媒の含有割合は特に限定されず、例えば、公知の硬質ポリウレタンフォームと同様の含有割合とすることができる。触媒の含有割合は、ポリオール組成物及び後記ポリイソシアヌレートの全質量に対し、0.1~7質量%であることが好ましい。
【0066】
(その他成分)
ポリオール組成物は、上述の発泡剤、触媒、整泡剤、乳化剤の他にも各種成分を含むことができ、例えば、架橋剤、沈降防止剤、破泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、難燃剤、撥水剤、抗菌剤、抗カビ剤、顔料及び染料等の添加剤も挙げられる。これらの添加剤も従来の硬質ポリウレタンフォームの製造に用いられるものを広く適用することができ、また、いずれも1種又は2種以上使用することができる。
【0067】
例えば、難燃剤としては、トリス(クロロプロピル)ホスフェート(例えば、トリス(1-クロロ-2-プロピル)ホスフェート)等の脂肪族ホスフェート化合物、その他、芳香族ホスフェート化合物、脂肪族ホスファイト化合物、芳香族ホスファイト化合物等を挙げることができる。架橋剤は、例えば、1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール、エタノールアミン類、ポリエチレンポリアミン類等のアミンが挙げられる。
【0068】
(ポリオール組成物)
本発明のポリオール組成物は、前記乳化剤、前記ポリオール成分、前記発泡剤、前記整泡剤及び前記触媒を含むものであり、硬質ポリウレタンフォームを製造するために原料として使用することができる。例えば、後記するようにポリイソシアネートと組み合わせることで、ポリウレタンフォーム用組成物を調製形成することができる。また、本発明のポリオール組成物と、ポリイソシアネートとの2液を準備して、これらを混合して対象となる部材等に吹き付けることで発泡体を製造することもでき、いわゆるスプレー発泡法等の原料としても使用することができる。
【0069】
本発明のポリオール組成物の調製方法は特に限定的ではなく、例えば、ポリオール成分、発泡剤としての水、整泡剤、触媒及び必要に応じて添加される難燃剤等を所定の割合で配合し、適宜の手段で混合することで、ポリオール組成物を調製することができる。ポリオール組成物の調製にあたっては、発泡剤以外の成分をあらかじめ配合して、その後、発泡剤を混合させてポリオール組成物を得てもよい。
【0070】
本発明のポリオール組成物は、クリームタイムが好ましくは15秒以下であり、より好ましくは10秒以下であり、さらに好ましくは8秒以下である。また、クリームタイムの下限は特に限定されず、例えば、0.5秒以上である。ここで、クリームタイムとは、ポリオール組成物とポリイソシアネート成分との混合を開始する時間をゼロ秒として、混合後の混合液において発泡が開始するまでの時間をいう。ポリイソシアネート成分としては、後記ポリウレタンフォーム用組成物に含まれるポリイソシアネートが挙げられる。
【0071】
本発明のポリオール組成物は、ゲルタイムが好ましくは70秒以下であり、より好ましくは40秒以下であり、さらに好ましくは20秒以下である。また、ゲルタイムの下限は特に限定されず、例えば、0.5秒以上である。ここで、ゲルタイムとは、前記ポリオール組成物とポリイソシアネート成分との混合開始後、混合液に木製の箸を挿入し引き抜いた場合に箸に付着した反応混合物が糸を引くように見えるまでの時間をいう。
【0072】
本発明のポリオール組成物は、ライズタイムが好ましくは100秒以下であり、より好ましくは70秒以下であり、さらに好ましくは40秒以下である。また、ライズタイムの下限は特に限定されず、例えば、0.5秒以上である。ここで、ライズタイムとは、前記混合液(ポリオール組成物とポリイソシアネート成分との混合液)において発泡が終了するまでの時間(すなわち、発泡によるフォーム表面の上昇が停止するまでの時間)をいう。
【0073】
本発明のポリオール組成物は、乳化剤として前記芳香族アルコキシレートを含むので、乳化剤としてNPEを使用せずとも、ポリオール成分と水との相溶性を高めることができる。これにより、本発明のポリオール組成物は、優れた相安定性を有する。
【0074】
例えば、本発明のポリオール組成物を40℃の環境下で保管したとしても、保管開始から10週間以上経過してもポリオール組成物が白濁しにくく、ポリオール成分と水との相溶性が高いものである。
【0075】
また、本発明のポリオール組成物を用いて得られる連続気泡硬質ポリウレタンフォームは、自己消火性にも優れる。
【0076】
従って、本発明のポリオール組成物は、連続気泡硬質ポリウレタンフォームを形成するための原料の使用に好適であり、連続気泡硬質ポリウレタンフォーム製造用として種々の用途に利用することができる。
【0077】
2.ポリウレタンフォーム用組成物
本発明のポリウレタンフォーム用組成物は、前記ポリオール組成物と、ポリイソシアネートとを含み、イソシアネートインデックスが30~120である。本発明のポリウレタンフォーム用組成物により、硬質ポリウレタンフォーム(連続気泡硬質ポリウレタンフォーム)を製造することができる。
【0078】
ポリイソシアネートは、二以上のイソシアネート基を有する化合物である。ポリイソシアネートの種類は特に限定されず、例えば、脂肪族、脂環式、芳香族又は芳香脂肪族のポリイソシアネートを広く挙げることができる。
【0079】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジメチルジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等が挙げられる。脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、シクロへキシレンジイソシアネート、メチルシクロへキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、ジメチルジシクロへキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、メチレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0080】
ポリイソシアネートは、ポリイソシアネート変性物であってもよく、例えば、ウレトジオン、イソシアヌレート、ウレタン、ウレア、アロファネート、ビウレット、カルボジイミド、イミノオキサジアジンジオン、オキサジアジントリオン、オキサゾリドン等の構造を有するポリイソシアネートが挙げられる。また、ポリイソシアネートは、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート基含有プレポリマーを使用してもよい。
【0081】
本発明のポリウレタンフォーム用組成物に含まれるポリイソシアネートは、1種のみとすることができ、あるいは2種以上とすることができる。
【0082】
本発明のポリウレタンフォーム用組成物に含まれるポリイソシアネートは、ポリメリックMDIが好ましい。また、ポリイソシアネートの25℃における粘度は、50~400mPa・sが好ましい。ポリイソシアネートの粘度を上記範囲に設定することは、発泡方法に関わらずポリオール組成物との混合性を良好に保持し、連続気泡性硬質ポリウレタンフォームの外観不良を防止する上でも好ましい。
【0083】
本発明のポリウレタンフォーム用組成物は、イソシアネートインデックスが30以上、120以下である。イソシアネートインデックスがこの範囲を満たすことで、ポリウレタンフォーム用組成物は、所望の密度を有するポリウレタンフォームを形成しやすくなり、自己消火性能にも優れるものとなる。
【0084】
イソシアネートインデックスとは、ポリオール組成物中のイソシアネート基と反応する活性水素の合計に対するポリイソシアネート成分のイソシアネート基の比に100を乗じた値を意味する。ポリオール組成物中のイソシアネート基と反応する活性水素は、例えば、ポリオール成分に基づくものである。また、発泡剤がカルボン酸や水等である場合は、これらの発泡剤もイソシアネート基と反応する活性水素を有する。
【0085】
本発明のポリウレタンフォーム用組成物は、ポリオール組成物及びポリイソシアネートを含む限りは、他の成分を含むことができる。原料組成物は、ポリオール組成物及びポリイソシアネートのみからなるものであってもよい。なお、本発明では、ポリイソシアネート以外の成分はポリオール組成物を構成するものと見なすことができるので、ポリオール組成物及びポリイソシアネートのみからなることが好ましい。
【0086】
本発明のポリウレタンフォーム用組成物を調製する方法は特に限定されず、例えば、ポリオール組成物とポリイソシアネートを所定の割合で混合することで、ポリウレタンフォーム用組成物を調製することができる。
【0087】
本発明のポリウレタンフォーム用組成物のクリームタイム、ゲルタイム及びライズタイムは、前述の本発明のポリオール組成物のそれらと同様である。
【0088】
2.硬質ポリウレタンフォーム
本発明のポリオール組成物又はポリウレタンフォーム用組成物を用いて、硬質ポリウレタンフォーム(連続気泡硬質ポリウレタンフォーム)を得ることができる。従って、硬質ポリウレタンフォームは、前記ポリオール組成物又はポリウレタンフォーム用組成物の発泡成形体である。
【0089】
ポリオール組成物又はポリウレタンフォーム用組成物を用いて硬質ポリウレタンフォームを得る方法は特に限定されず、例えば、公知の硬質ポリウレタンフォームの製造方法を広く本発明でも採用することができる。従って、原料となる組成物を適宜の方法で発泡し、さらに必要に応じて成形することで、硬質ポリウレタンフォームを製造できる。
【0090】
硬質ポリウレタンフォームを得るための発泡方法は特に限定されず、既知の発泡手段、例えば、ハンドミキシング発泡、簡易発泡、連続発泡法、注入発泡法、フロス注入発泡法、スプレー発泡法等が利用できる。また、硬質ポリウレタンフォームを得るための成形方法も特に限定されず、既知の成形手段、例えば、モールド成形、スラブ成形、ラミネート成形、現場発泡成形等が利用できる。
【0091】
前記ポリオール組成物を用いる場合は、前述のポリイソシアネートを併用することで、硬質ポリウレタンフォームを製造できる。この場合、スプレー発泡法(噴霧発泡法)を好ましく採用できる。スプレー発泡は、噴霧によりポリオール組成物とポリイソシアネート化合物とを反応させる発泡方法であり、前記反応が、例えば触媒のような適切な選択により短時間で停止され得る。スプレー発泡は、例えば、建設現場において、壁、天井等の硬質フォーム断熱材を形成するために使用できる。
【0092】
硬質ポリウレタンフォームの形状及び大きさ等は特に限定されず、用途に応じて適宜設定することができる。例えば、硬質ポリウレタンフォームは、例えば、5~20kg/m、好ましくは8~14kg/m、より好ましくは9~13kg/mである。
【0093】
硬質ポリウレタンフォームは、本発明のポリオール組成物又はポリウレタンフォーム用組成物を用いて得られるので、フォームの状態が良好であり、低密度でありながら優れた自己消火性能を有する。従来、ポリオール組成物の相安定性を向上すべく、NPEに替えて他の乳化剤を使用すると、相安定性を向上できたとしても、難燃性能や自己消火性能が低下しやすかったところ、本発明では、ポリオール組成物の相安定性が良好でありながら、得られる硬質ポリウレタンフォームの自己消火性能にも優れる。
【0094】
従って、本発明の硬質ポリウレタンフォームは、種々の用途に広く適用することができ、特に断熱用途に好適である。例えば、本発明の硬質ポリウレタンフォームは、建築断熱材、建築現場用断熱材、輸送機器、電子機器、自動車内装部材等に好適に使用できる。
【0095】
本開示に包含される発明を特定するにあたり、本開示の各実施形態で説明した各構成(性質、構造、機能等)は、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各構成のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0096】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0097】
実施例及び比較例のポリオール組成物を製造するべく、下記に示す原料(ポリオール、難燃剤、整泡剤、触媒、発泡剤及び乳化剤)を準備し、適宜選択した。
【0098】
(ポリオールA)
・開始剤としてグリセリン(官能基数3)を用い、アルキレンオキシドとしてプロピレンオキシド86質量%とエチレンオキサイド14質量%を反応させて得たポリオールを準備した。このように得られたポリオールは、平均官能基数は3.0、水酸基価は35mgKOH/g、粘度830mPa・s(25℃)であった。
【0099】
(ポリオールB)
・開始剤としてスクロース、プロピレングリコール、水を85:6:9の質量比で用い、アルキレンオキシドとしてプロピレンオキシドのみを反応させて得たポリオールを準備した。このように得られたポリオールは、平均官能基数は5.6、水酸基価は380mgKOH/g、粘度12000mPa・s(25℃)であった。
【0100】
(難燃剤)
・トリス(1-クロロ-2-プロピル)ホスフェート
【0101】
(整泡剤)
・ポリウレタンフォーム用シリコーン整泡剤(エボニックジャパン社製「B84817」)
【0102】
(触媒)
・触媒1;2-(2-ジメチルアミノエトキシ)エタノール
・触媒2;N,N,N’-トリメチルアミノエチルエタノールアミン
・触媒3;N,N,N’-トリメチル-N’-ヒドロキシエチルビスアミノエチルエーテル
【0103】
(発泡剤)
・水
【0104】
(乳化剤)
・乳化剤1;
ポリオキシエチレンフェニルエーテル(青木油脂製「ブラウノンPH-5」、HLB14.0)
・乳化剤2;
カシューナッツシェルリキッド(CNSL)エトキシレート(Cardolite社製「GX5170」、HLB11.4)
・乳化剤3;
ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(花王製「エマルゲンA-60、HLB12.8)
・乳化剤4;
ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(花王製「エマルゲンA-90、HLB14.5)
・乳化剤5;
ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル(花王製「エマルゲンB-66、HLB13.2)
・乳化剤6;
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(DOW製「NP-9」、HLB12.9)
・乳化剤7;
ポリオキシエチレンベンジルエーテル(青木樹脂製「ブラウノンBA-2」、HLB9.0)
・乳化剤8;
ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(花王製「エマルゲンA-500、HLB18.0)
・乳化剤9;
ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル(花王製「エマルゲンLS-106」、HLB12.5)
・乳化剤10;
ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル(花王製「エマルゲンLS-110」、HLB13.4)
・乳化剤11;
ポリオキシエチレンアルキルエーテル)(花王製「エマルゲン707」、HLB12.1)
・乳化剤12;
ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル(花王製「エマルゲンMS-110」、HLB12.7)
【0105】
(ポリイソシアネート)
・ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(住化コベストロウレタン製「スミジュール44V20L」、イソシアネート基含有率31.5質量%)
【0106】
(実施例1)
表1に示す配合表に従って、ポリオール組成物を調製した。具体的には、ポリオールAを45.0質量部、ポリオールBを55.0質量部、難燃剤を35.0質量部、整泡剤を2.5質量部、触媒1を4.0質量部、触媒2を3.7質量部、触媒3を3.0質量部、発泡剤として水を25.0質量部、及び、乳化剤としてポリオキシエチレンフェニルエーテルを40.0質量部秤量して500mLポリカップに加え、メカニカルミキサーで撹拌することでポリオール組成物(配合ポリオール)を調製した。
【0107】
(実施例2~5)
表1に示すように乳化剤の種類を変更したこと以外は実施例1と同様の方法でポリオール組成物(配合ポリオール)を調製した。
【0108】
(比較例1~7)
表1に示すように乳化剤の種類を変更したこと以外は実施例1と同様の方法でポリオール組成物(配合ポリオール)を調製した。
【0109】
(評価方法)
各実施例及び比較例で得たポリオール組成物の液外観、相安定性評価、ポリオール組成物を用いたハンドフォーミングによる反応性評価、ポリオール組成物を用いたハンドフォーミングによるフォーム評価(密度及び自己消火性能)を行った。
【0110】
(液外観;相安定性評価前)
実施例及び比較例で得たポリオール組成物を調整翌日に液外観を目視し、透明液体(表1中、「クリア」と表記)であるか、濁り(表1中、「濁り」と表記)があるか、又は、液分離(表1中、「分離」と表記)があるかどうかを確認した。
【0111】
<相安定性(液外観)>
実施例及び比較例で得たポリオール組成物155mLを、30mL容量のねじ口試験菅に入れ、40℃の恒温槽で12週間保管し、所定の期間毎(4週間、6週間、10週間及び12週間毎)にポリオール組成物の外観を目視し、透明液体(表1中、「クリア」と表記)であるか、濁り(表1中、「濁り」と表記)があるか、又は、液分離(表1中、「分離」と表記)があるかどうかを確認した。
【0112】
<反応性>
ポリオール組成物を用いたハンドフォーミングにより、ポリオール組成物の反応性(すなわち、クリームタイム(秒)、ゲルタイム(秒)、ライズタイム(秒))を以下のように評価した。まず、15℃に保持したポリオール組成物と、ポリイソシアネート化合物としてスミジュール44V20L(NCO含有率31%)とを、体積比で1:1(重量比では46:54)となる比率で、300mLポリカップ容器に速やかに量りとって混合物を調製し、次いで、速やかに混合物をメカニカルミキサーで混合撹拌(5000rpm×2秒間)した。これにより得られた混合液を、平置きしたクラフト紙に速やかに流し落とし発泡させてポリウレタンフォームサンプルを得た。前記混合撹拌において、混合撹拌の開始を開始時間とし、その後、混合液が膨らみ始めるタイミングを目視で確認した時間をクリームタイム(秒)とし、また、組成物(樹脂)が硬化し始めて割り箸等の細い棒をフォームに突き刺し引き抜いた際に樹脂の糸引きが発生する時間をゲルタイム(秒)とし、さらに発泡により形成されるフォームの上昇が停止したタイミングを目視で確認した時間をライズタイム(秒)とした。
【0113】
<フォームの状態>
前記ポリウレタンフォームサンプルの外観を目視で確認し、下記判定基準にて評価した。
〇:崩落が無く、フォーム中のセル状態が均一で、収縮及び変形が見られなかった。
×:崩落があり、フォーム中のセル状態が不均一であり10mm以上のセルを含む、あるいは、収縮及び変形が見られた。
【0114】
<フォーム密度>
前記ポリウレタンフォームサンプルの中央位置から、後記する自己消火性評価に用いる試験体をバンドソーで切り出し、その重量および寸法の測定結果から密度を算出した。
【0115】
<自己消火性能>
JIS-A-9521の燃焼試験方法Bに準じて、ポリウレタンフォームの自己消火試験を行った。試験サンプルは、前述のポリウレタンフォームサンプルの中央位置から、縦50×横150×厚13mmの大きさで切り出すことで得た。この試験サンプルに炎を当ててから試験片の炎が消えるまでの時間を燃焼時間とし、また、試験サンプルの燃えた部分の長さ(自己消火性能)も計測した。この測定を計5サンプルで行い、それらの平均値を、ポリウレタンフォームサンプルの燃焼時間(秒)及び試験サンプルの燃えた部分の長さ(mm)とした。
【0116】
【表1】
【0117】
表1には、実施例及び比較例のポリオール組成物の配合条件並びに各種評価結果を示している。表1のポリオール組成物の配合条件において、各原料の使用量の単位は質量部である。
【0118】
実施例で得られたポリオール組成物は、相安定性に優れることがわかり、しかも、それらのポリオール組成物から得られポリウレタンフォームは、低密度でフォームの状態も良好であり、しかも、自己消火性にも優れるものであった。
【0119】
一方、比較例1のようにNPE等の内分泌撹乱物質である乳化剤を使用したポリオール組成物は、少なくとも保管から10週間濁りは見られなかったが、12週間経過すると濁りが見られた。また、自己消火性能も実施例で得たポリオール組成物を用いて得た硬質ポリウレタンフォームよりも劣るものであった。比較例4~7のように、所定の芳香族アルコキシレートを乳化剤として使用せずに得たポリオール組成物では、相安定性に劣っていた。比較例2は、乳化剤のHLBが所定の範囲よりも低く、ポリオール組成物の相安定性が劣っていた。比較例3は、乳化剤のHLBが所定の範囲よりも高く、ポリオール組成物の調製段階で濁りがあったため、目的のポリウレタンフォームを形成することができなかった。
【0120】
以上より、前述の式(1)で表され、かつ、所定のHLBを有する芳香族アルコキシレートを乳化剤として使用することで、相安定性に優れ、しかも、自己消火性にも優れる連続気泡硬質ポリウレタンフォームを形成できることがわかった。