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特開2024-34944ハイブリダイゼーション用バッファー組成物及びハイブリダイゼーション方法
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  • 特開-ハイブリダイゼーション用バッファー組成物及びハイブリダイゼーション方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034944
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ハイブリダイゼーション用バッファー組成物及びハイブリダイゼーション方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20240306BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALI20240306BHJP
   C12Q 1/6837 20180101ALI20240306BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12Q1/6813 Z
C12Q1/6837 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139527
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森弘 惇一
(72)【発明者】
【氏名】高光 恵美
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QS32
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】変異箇所が複数隣接して存在する場合であっても核酸プローブに対する非特異的ハイブリダイズを抑制し、ターゲット核酸の優れた検出効率を達成する。
【解決手段】ブロッキング用核酸は、複数の検出対象塩基に対応する複数の非検出対象塩基を含む非ターゲット核酸に対して相補的な塩基配列を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の変異箇所について検出対象塩基を含むターゲット核酸と、当該ターゲット核酸に対して相補的な塩基配列を含む核酸プローブとのハイブリダイゼーションに使用するバッファー組成物であって、前記ターゲット核酸には上記所定の変異箇所の他に1又は複数の変異箇所が含まれ、これら変異箇所における検出対象塩基に対応する複数の非検出対象塩基を含む非ターゲット核酸に対して相補的な塩基配列を含むブロッキング用核酸を含有する、ハイブリダイゼーション用バッファー組成物。
【請求項2】
上記ブロッキング用核酸は、前記複数の変異箇所における非検出対象塩基に対応する塩基が5’側から2塩基より内側、且つ、3’側から3塩基より内側に位置することを特徴とする請求項1記載のハイブリダイゼーション用バッファー組成物。
【請求項3】
上記ブロッキング用核酸は、複数の非検出対象塩基に対応する複数の塩基を20塩基以内に有することを特徴とする請求項1記載のハイブリダイゼーション用バッファー組成物。
【請求項4】
上記ブロッキング用核酸は、複数の非検出対象塩基に対応する複数の塩基のうち、隣り合う塩基の間隔の少なくとも1カ所が5~20塩基離間していることを特徴とする請求項1記載のハイブリダイゼーション用バッファー組成物。
【請求項5】
上記核酸プローブが基板上に固定されてなるマイクロアレイに使用されることを特徴とする請求項1記載のハイブリダイゼーション用バッファー組成物。
【請求項6】
上記ターゲット核酸を増幅する核酸増幅反応の後の反応液と混合されることを特徴とする請求項1記載のハイブリダイゼーション用バッファー組成物。
【請求項7】
所定の変異箇所について検出対象塩基を含むターゲット核酸と、当該ターゲット核酸に対して相補的な塩基配列を含む核酸プローブとのハイブリダイゼーション方法であって、前記ターゲット核酸には上記所定の変異箇所の他に1又は複数の変異箇所が含まれ、これら変異箇所における検出対象塩基に対応する複数の非検出対象塩基を含む非ターゲット核酸に対して相補的な塩基配列を含むブロッキング用核酸を含有するハイブリダイゼーション用バッファー組成物と、上記ターゲット核酸を含有する溶液とを混合し、その後、上記核酸プローブと上記ターゲット核酸とのハイブリダイズを行う、ハイブリダイゼーション方法。
【請求項8】
上記ブロッキング用核酸は、前記複数の変異箇所における非検出対象塩基に対応する塩基が5’側から2塩基より内側、且つ、3’側から3塩基より内側に位置することを特徴とする請求項7記載のハイブリダイゼーション方法。
【請求項9】
上記ブロッキング用核酸は、複数の非検出対象塩基に対応する複数の塩基を20塩基以内に有することを特徴とする請求項7記載のハイブリダイゼーション方法。
【請求項10】
上記ブロッキング用核酸は、複数の非検出対象塩基に対応する複数の塩基のうち、隣り合う塩基の間隔の少なくとも1カ所が5~20塩基離間していることを特徴とする請求項7記載のハイブリダイゼーション方法。
【請求項11】
上記核酸プローブが基板上に固定されてなるマイクロアレイに、上記ハイブリダイゼーション用バッファー組成物と、上記ターゲット核酸を含有する溶液とを混合した混合液を接触させることを特徴とする請求項7記載のハイブリダイゼーション方法。
【請求項12】
上記ターゲット核酸を含有する溶液は、上記ターゲット核酸を増幅する核酸増幅反応の後の反応液であり、当該反応液と上記ハイブリダイゼーション用バッファー組成物とを混合することを特徴とする請求項7記載のハイブリダイゼーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出対象塩基を含むターゲット核酸と、当該ターゲット核酸に対して相補的な塩基配列を含む核酸プローブとのハイブリダイゼーションに使用するハイブリダイゼーション用バッファー組成物及びハイブリダイゼーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一本鎖の核酸分子同士が相補的な塩基間で水素結合し、これら核酸分子が二本鎖を形成することを、ハイブリダイゼーションと呼んでいる。言い換えると、測定対象の核酸分子の塩基配列が既知であれば、当該塩基配列に対して相補的な塩基配列を有する核酸分子を用いて測定対象の核酸分子を検出することができる。より具体的には、測定対象の核酸分子に相補的な塩基配列を有する核酸プローブを固定化した固相に、蛍光標識した測定対象となる核酸を反応させ、その後、未反応の核酸分子を洗浄・除去し、そして、固相に結合している標識物質の活性を測定する方法である。ハイブリダイゼーション方法においてはDNAの配列を正確に認識することで、測定対象の核酸分子を検出することができる。
【0003】
このようなハイブリダイゼーションにおいて、測定対象の核酸分子を正確に検出するには、核酸プローブが核酸分子を正確に認識することが重要である。よって従来、ハイブリダイゼーションを行う際は、反応液の塩濃度や反応温度を適宜調節する方法や、核酸プローブと測定対象以外の核酸分子との非特異的なハイブリダイズを抑制するブロッキング剤を使用する方法が用いられている。ブロッキング剤としては、例えば、サケ精子DNAや酵母tRNAなどの測定対象の核酸分子や核酸プローブに対して、相補的な塩基配列を有しない核酸成分、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、Nラウロイルサルコシン(N-LS)などの界面活性剤、牛血清アルブミン(BSA)、カゼインなどのタンパク質が知られている。
【0004】
特許文献1には、測定対象の核酸分子における固有の配列にハイブリダイズし、且つ固相上へ捕捉される核酸配列を含む捕捉配列プローブに対して特異的にハイブリダイズするブロッカープローブを使用する方法が開示されている。特許文献1に記載の方法では、捕捉配列プローブが測定対象の核酸分子にハイブリダイズした後、ブロッカープローブを反応液に添加することで、ハイブリダイズしていない捕捉配列プローブが測定対象の核酸分子に存在する交差反応性核酸配列にハイブリダイズすることを防ぎ、そのために検出の特異性を向上させることができる。
【0005】
さらに、特許文献2には、測定対象の核酸分子をマイクロアレイを用いて検出する際にブロッキング剤として、ロックド核酸(LNA)といった改変ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドを使用することが開示されている。
【0006】
さらにまた、特許文献3には、測定対象の核酸分子における検出対象塩基よりも5’末端側にハイブリダイズする5’末端側ブロック核酸、検出対象塩基よりも3’末端側にハイブリダイズする3’末端側ブロック核酸を用いて、測定対象の核酸分子を核酸プローブで検出する方法が開示されている。特許文献3によれば、プローブ核酸と標的核酸とのハイブリダイゼーションにおける塩基配列特異性が高く、塩基配列中の一塩基のみの相違を高精度に検出する必要のあるSNPのタイピングや、特定の塩基配列を有する核酸の検出や分離の効率及び特異性を向上できるとされている。
【0007】
さらにまた、特許文献4には、検出対象の塩基(例えば、SNPにおけるマイナーアレ
ル)を含むターゲット核酸をプローブ核酸とのハイブリダイゼーションで検出する際に、検出対象以外の塩基(同SNPにおけるメジャーアレル)を含む非ターゲット核酸に対して相補的な塩基配列を含むブロッキング用核酸を使用することが開示されている。特許文献4によれば、ブロッキング用核酸を使用することで、検出対象塩基を含むターゲット核酸以外の核酸分子とプローブ核酸との非特異的ハイブリダイズを抑制することができ、ターゲット核酸とプローブ核酸との特異的ハイブリダイズに基づく、ターゲット核酸の検出効率を大幅に向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2004-511220号公報
【特許文献2】特表2005-502346号公報
【特許文献3】特開2010-200701号公報
【特許文献4】WO2015/045741
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、SNPのような変異箇所が隣接、近接して複数存在する場合、検出対象塩基を含むターゲット核酸を核酸プローブで検出する際、上述したようなブロッキング用核酸ではターゲット核酸の検出効率が低下するといった問題があった。そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、SNPのような変異箇所が隣接、近接して複数存在する場合であっても核酸プローブに対する非特異的ハイブリダイズを抑制し、ターゲット核酸の優れた検出効率を達成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述した目的を達成するために鋭意検討した結果、プローブ核酸を用いて、SNPのような変異箇所が隣接、近接して複数含まれるターゲット核酸を検出する際の検出効率を向上できるブロッキング用核酸を設計することに成功し、本発明を完成するに至った。本発明は以下を包含する。
【0011】
(1)所定の変異箇所について検出対象塩基を含むターゲット核酸と、当該ターゲット核酸に対して相補的な塩基配列を含む核酸プローブとのハイブリダイゼーションに使用するバッファー組成物であって、前記ターゲット核酸には上記所定の変異箇所の他に1又は複数の変異箇所が含まれ、これら変異箇所における検出対象塩基に対応する複数の非検出対象塩基を含む非ターゲット核酸に対して相補的な塩基配列を含むブロッキング用核酸を含有する、ハイブリダイゼーション用バッファー組成物。
(2)上記ブロッキング用核酸は、前記複数の変異箇所における非検出対象塩基に対応する塩基が5’側から2塩基より内側、且つ、3’側から3塩基より内側に位置することを特徴とする(1)記載のハイブリダイゼーション用バッファー組成物。
(3)上記ブロッキング用核酸は、複数の非検出対象塩基に対応する複数の塩基を20塩基以内に有することを特徴とする(1)記載のハイブリダイゼーション用バッファー組成物。
(4)上記ブロッキング用核酸は、複数の非検出対象塩基に対応する複数の塩基のうち、隣り合う塩基の間隔の少なくとも1カ所が5~20塩基離間していることを特徴とする(1)記載のハイブリダイゼーション用バッファー組成物。
(5)上記核酸プローブが基板上に固定されてなるマイクロアレイに使用されることを特徴とする(1)記載のハイブリダイゼーション用バッファー組成物。
(6)上記ターゲット核酸を増幅する核酸増幅反応の後の反応液と混合されることを特徴とする(1)記載のハイブリダイゼーション用バッファー組成物。
(7)所定の変異箇所について検出対象塩基を含むターゲット核酸と、当該ターゲット
核酸に対して相補的な塩基配列を含む核酸プローブとのハイブリダイゼーション方法であって、前記ターゲット核酸には上記所定の変異箇所の他に1又は複数の変異箇所が含まれ、これら変異箇所における検出対象塩基に対応する複数の非検出対象塩基を含む非ターゲット核酸に対して相補的な塩基配列を含むブロッキング用核酸を含有するハイブリダイゼーション用バッファー組成物と、上記ターゲット核酸を含有する溶液とを混合し、その後、上記核酸プローブと上記ターゲット核酸とのハイブリダイズを行う、ハイブリダイゼーション方法。
(8)上記ブロッキング用核酸は、前記複数の変異箇所における非検出対象塩基に対応する塩基が5’側から2塩基より内側、且つ、3’側から3塩基より内側に位置することを特徴とする(7)記載のハイブリダイゼーション方法。
(9)上記ブロッキング用核酸は、複数の非検出対象塩基に対応する複数の塩基を20塩基以内に有することを特徴とする(7)記載のハイブリダイゼーション方法。
(10)上記ブロッキング用核酸は、複数の非検出対象塩基に対応する複数の塩基のうち、隣り合う塩基の間隔の少なくとも1カ所が5~20塩基離間していることを特徴とする(7)記載のハイブリダイゼーション方法。
(11)上記核酸プローブが基板上に固定されてなるマイクロアレイに、上記ハイブリダイゼーション用バッファー組成物と、上記ターゲット核酸を含有する溶液とを混合した混合液を接触させることを特徴とする(7)記載のハイブリダイゼーション方法。
(12)上記ターゲット核酸を含有する溶液は、上記ターゲット核酸を増幅する核酸増幅反応の後の反応液であり、当該反応液と上記ハイブリダイゼーション用バッファー組成物とを混合することを特徴とする(7)記載のハイブリダイゼーション方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物及びハイブリダイゼーション方法によれば、複数の検出対象塩基を含むターゲット核酸以外の核酸分子とプローブ核酸との非特異的ハイブリダイズをブロッキング用核酸により抑制することができ、当該ブロッキング用核酸がターゲット核酸とプローブ核酸との特異的ハイブリダイズを阻害することなく、ターゲット核酸の検出効率を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】複数の非検出対象塩基に対応する複数の塩基を含むブロッキング用核酸又は従来のブロッキング用核酸を使用したときの野生型プローブ及び変異型プローブにおける蛍光強度を測定した結果を示す特性図である。
図2】複数の非検出対象塩基に対応する複数の塩基を含むブロッキング用核酸における当該複数の塩基の位置を代えたときの野生型プローブ及び変異型プローブにおける蛍光強度を測定した結果を示す特性図である。
図3】(A)野生型モデル検体における野生型プローブ及び変異型プローブの蛍光強度を示す特性図、(B)変異型5%モデル検体における野生型プローブ及び変異型プローブの蛍光強度を示す特性図、及び(C)各変異について算出した判定値を示す特性図である。
図4】CXCR4(S338X)遺伝子における複数の変異について、複数の非検出対象塩基に対応する複数の塩基を含むブロッキング用核酸又は従来のブロッキング用核酸を使用したときの判定値を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物は、所定の変異箇所について検出対象塩基を含むターゲット核酸と、当該ターゲット核酸に対して相補的な塩基配列を含む核酸プローブとのハイブリダイゼーションに使用するバッファー組成物である。特に
、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物には、核酸プローブに対する非特異的ハイブリダイズを抑制する機能を有するブロッキング用核酸が含まれている。
【0016】
ここで、ターゲット核酸とは、所定の変異箇所について検出対象塩基を含む核酸分子、すなわち核酸断片を意味する。ターゲット核酸は、DNAからなる核酸分子でも良いし、RNAからなる核酸分子でも良いし、DNAとRNAとを含む核酸分子(DNA-RNA複合体)でもよい。また、核酸としては、アデニン、シトシン、グアニン、チミン及びウラシル、並びに、ペプチド核酸(PNA)及びロックド核酸(LNA)等の人工核酸を含む意味である。
【0017】
検出対象塩基とは、例えば染色体の所定の位置における変異箇所の特定の塩基を意味しており、特に限定されないが、一塩基多型(SNP)等の変異箇所における特定の塩基の種類を意味している。例えば、所定の一塩基多型がA(アデニン)又はC(シトシン)を取りうるとして、いずれか一方の塩基、すなわち当該一塩基多型におけるA(アデニン)を検出対象塩基とすることができる。ここで、検出対象塩基としては、遺伝子多型におけるメジャーアレル及びマイナーアレルのいずれでも良いし、リスクアレルであってもなくても良い。なお、所定の変異箇所について、特定の塩基を検出対象塩基とした場合、当該特定の塩基以外の塩基を非検出対象塩基と称する。すなわち、所定の一塩基多型がA(アデニン)又はC(シトシン)を取りうるとして、当該一塩基多型におけるA(アデニン)を検出対象塩基とした場合、当該一塩基多型におけるC(シトシン)が非検出対象塩基となる。
【0018】
本発明においては、ターゲット核酸は、複数の変異箇所を含んでおり、そのうちの少なくとも1つの変異箇所について検出対象塩基を含んでいる。なお通常、ターゲット核酸は、複数の変異箇所を含んでおり、そのうちの1つの変異箇所のみが検出対象塩基であり、他の変異箇所が全て非検出対象塩基となっている。ただし、ターゲット核酸は、複数の変異箇所の全てが検出対象塩基であっても良いし、2以上の変異箇所が検出対象塩基であり、他の変異箇所が非検出対象塩基であってもよい。
【0019】
複数の変異箇所を含むターゲット核酸は、これら複数の変異箇所を含む所定の領域を核酸増幅法により増幅することで調整することができる。また、ターゲット核酸としては、生物個体、組織及び細胞採取から採取した転写産物から逆転写反応により得られるcDNAとしても良い。ターゲット核酸の塩基長としては、特に限定されないが、例えば60~1000塩基とすることができ、60~500塩基とすることが好ましく、60~400塩基とすることがより好ましい。
【0020】
なお、複数の変異箇所のうちの少なくとも1つの変異箇所が検出対象塩基であるターゲット核酸に対して、当該検出対象塩基に対応する変異箇所が非検出対象塩基である核酸分子(核酸断片)を非ターゲット核酸と称する。非ターゲット核酸は、変異箇所の塩基が非検出対象塩基である場合、上述したターゲット核酸を取得する際に同時に取得される。例えば、ターゲット核酸をポリメラーゼ連鎖反応等の核酸増幅反応により取得する場合、一方のアレルが非検出対象塩基であれば、ターゲット核酸とともに非ターゲット核酸が増幅されることとなる。本発明においては、非ターゲット核酸は、複数の変異箇所のうちの少なくとも1つの変異箇所が非検出対象塩基であればよく、その他の変異箇所については検出対象塩基及び非検出対象塩基のいずれであってもよい。すなわち、非ターゲット核酸は、全ての変異箇所が非検出対象塩基でも良いし、ターゲット核酸における検出対象塩基に対応する塩基が非検出対象塩基であれば、その他の変異箇所のうち一部が非検出対象塩基でも良い。
【0021】
以上のように、ターゲット核酸及び非ターゲット核酸とは、特定の変異箇所に関して検
出対象塩基であるか非検出対象塩基であるかによって決まるものであり、他の変異箇所が検出対象塩基であるか非検出対象塩基であるかは問わない。例えば、核酸増幅方法により得られた核酸断片について、特定の変異箇所に関して検出対象塩基であれば当該変異箇所に関してターゲット核酸であるが、他の変異箇所が非検出対象塩基であれば当該他の変異箇所に関しては非ターゲット核酸となる。
【0022】
検出対象塩基を含むターゲット核酸を検出するには、ターゲット核酸において、少なくとも検出対象塩基を含む領域に対して相補的な塩基配列を有する核酸プローブを使用する。核酸プローブは、特に限定されないが、例えば10~30塩基長とすることができ、15~26塩基長とすることが好ましい。また、検出対象塩基に相補的な塩基は、核酸プローブを構成する塩基を文字列として見たときに、当該文字列の中心となる位置とすることが好ましい。なお、文字列の中心とは、偶数個の塩基からなる核酸プローブについては5’末端又は3’末端方向に1つずれている場合を含む意味である。
【0023】
なお、本発明において、ターゲット核酸及び非ターゲット核酸には複数の変異箇所が含まれている。これら複数の変異箇所は、それぞれ異なる核酸プローブによって検出される。すなわち、変異箇所毎に検出対象塩基に対応する核酸プローブを準備し、これら核酸プローブによって検出対象塩基を検出する。
【0024】
本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物において、ブロッキング用核酸は、非ターゲット核酸における複数の非検出対象塩基を含む領域に対して相補的な塩基配列を有する。よって、ブロッキング用核酸は、複数の変異箇所のうち少なくとも1つの変異箇所について検出対象塩基を有するターゲット核酸と、当該検出対象核酸に対応する核酸プローブとがハイブリダイズできる条件下において、複数の非検出対象塩基を含む非ターゲット核酸とハイブリダイズすることができる。
【0025】
ブロッキング用核酸において、非検出対象塩基に対応する塩基は、複数の検出対象塩基に対応して複数含まれるが、それらの位置は特に限定されない。特に、非検出対象塩基に対応する塩基は、ブロッキング用核酸における5’側から2塩基より内側、且つ、3’側から3塩基より内側に位置することが好ましい。ブロッキング用核酸において非検出対象塩基に対応する塩基の位置を上記範囲とすることによって、ターゲット核酸と核酸プローブとがハイブリダイズできる条件下において、非ターゲット核酸とブロッキング用核酸とを確実にハイブリダイズさせることができる。
【0026】
また、ブロッキング用核酸において、複数の非検出対象塩基に対応する塩基同士の位置関係は特に限定されないが、複数の非検出対象塩基に対応する塩基の間隔が20塩基以内であることが好ましい。さらに前記ブロッキング用核酸は、複数の非検出対象塩基に対応する複数の塩基のうち、隣り合う塩基の間隔の少なくとも1カ所が5~20塩基離間していることが好ましい。ブロッキング用核酸における、複数の非検出対象塩基に対応する複数の塩基の位置関係が上記範囲にあると、非ターゲット核酸とブロッキング用核酸とを確実にハイブリダイズさせることができ、核酸プローブを用いてターゲット核酸を高精度に検出することができる。言い換えると、非ターゲット核酸における複数の非検出対象塩基が20塩基以内にあるか、複数の非検出対象塩基に対応する複数の塩基のうち、隣り合う塩基の間隔の少なくとも1カ所が5~20塩基離間している場合には、非ターゲット核酸とのハイブリダイズ精度の高いブロッキング用核酸を設計することができる。
【0027】
また、ブロッキング用核酸としては、特に限定されないが、核酸プローブの塩基長に対して60%以上の長さであることが好ましい。また、ブロッキング用核酸は、核酸プローブの塩基長よりも短い長さであることが好ましい。例えば核酸プローブの長さが25塩基長とすると、ブロッキング用核酸の塩基長は14~24塩基長であることが好ましい。
【0028】
さらにまた、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物において、ブロッキング用核酸の濃度は、特に限定されないが、例えば、非ターゲット核酸の濃度及び/又はターゲット核酸の濃度に応じて、プライマー濃度に応じて適宜設定することができる。具体的にブロッキング用核酸の組成物中の濃度は、0.01~1.0μMとすることができ、0.05~1.0μMとすることが好ましく、0.125~1.0μMとすることがより好ましい。
【0029】
以上のように、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物は、ブロッキング用核酸を含むため、非ターゲット核酸と核酸プローブとの非特異的なハイブリダイズを抑制することができ、ターゲット核酸と核酸プローブとの特異的なハイブリダイズが阻害されることを防止できる。また、ブロッキング用核酸は、複数の非検出対象塩基に対応する塩基を有するため、複数の検出対象塩基に対応する複数の核酸プローブのいずれともハイブリダイズすることを防止することができる。このため、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物を使用することによって、ターゲット核酸における複数の検出対象塩基のそれぞれを核酸プローブで検出する場合であっても高精度に検出することができる。
【0030】
本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物は、核酸分子同士の相補的な結合を意味するハイブリダイゼーションを含むならば、如何なる系にも使用することができる。すなわち、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物は、サザンハイブリダイゼーション、ノーザンハイブリダイゼーション、in situ ハイブリダイゼーションに使用することができる。特に、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物は、担体(基板、中空繊維、微粒子を含む)に核酸プローブを固定し、固定化した核酸プローブを用いてターゲット核酸を検出(定性、定量を含む)する系に使用することが好ましい。より具体的に、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物は、核酸プローブを基板に固定したDNAマイクロアレイ(DNAチップ)を用いてターゲット核酸を検出する際に使用することが最も好ましい。
【0031】
以下、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物を、DNAマイクロアレイ(DNAチップ)を用いてターゲット核酸を検出する際に使用する系を例示的に説明する。なお、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物の実施形態は、以下の例に限定されるものではない。
【0032】
骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes:MDS)は、血球の形態異常と無効造血を特徴とする造血幹細胞腫瘍である。MDSで高頻度に変異がみられる遺伝子としてSF3B1遺伝子が知られている。より具体的には、SF3B1遺伝子におけるE622D変異、R625C変異、R625H変異、R625L変異、H662Q変異、K666N変異、K666T変異、K666R変異、K666E変異、K666Q変異、K666M変異、K700E変異及びG742D変異がMDSの予後と関連することが知られている。
【0033】
これらSF3B1遺伝子における変異を検出する際には、E622をコードする領域、R625をコードする領域、H662をコードする領域及びK666をコードする領域を含むターゲット核酸、並びにK700をコードする領域及びG742をコードする領域を含むターゲット核酸の2種類を核酸増幅反応によって準備する。この例において、E622をコードする領域、R625をコードする領域及びK666をコードする領域の各領域には、それぞれ複数の検出対象塩基が含まれる。またE622をコードする領域とR625をコードする領域、H662をコードする領域とK666をコードする領域は、それぞれ15塩基長以内の近傍に位置する。
【0034】
よって、これら複数の変異箇所を含むターゲット核酸に対しては、複数の非検出対象塩基を含む非ターゲット核酸とハイブリダイズする、複数の非検出対象塩基に対応する塩基を含むブロッキング用核酸を準備する。なお、この例では、上述した4種類の領域を含むターゲット核酸に対応する非ターゲット核酸の全てについてブロッキング用核酸を準備しても良いし、一部の非ターゲット核酸についてブロッキング用核酸を準備しても良い。後述する実施例では、上述の変異箇所について野生型を非検出対象塩基とし、E622をコードする領域からR625をコードする領域をカバーするブロッキング用核酸と、H662をコードする領域からK666をコードする領域をカバーするブロッキング用核酸をそれぞれ準備している。
【0035】
なお、K700をコードする領域及びG742をコードする領域を含むターゲット核酸については、K700をコードする領域とG742をコードする領域とが40塩基長以上離れており、それぞれ個別にひとつの非検出対象塩基を含むブロッキング用核酸を準備することができる。
【0036】
なお、核酸プローブ及びブロッキング用核酸は、より好ましくは一本鎖DNAである。核酸プローブ及びブロッキング用核酸は、例えば、核酸合成装置によって化学的に合成することで取得することができる。核酸合成装置としては、DNAシンセサイザー、全自動核酸合成装置、核酸自動合成装置等と呼ばれる装置を使用することができる。
【0037】
本例において、核酸プローブは、その5’末端を担体上に固定化することにより、マイクロアレイの形態で用いるのが好ましい。担体の材料としては、当技術分野で公知のものを使用でき、特に制限されない。例えば、白金、白金黒、金、パラジウム、ロジウム、銀、水銀、タングステンおよびそれらの化合物などの貴金属、およびグラファイト、カーボンファイバーに代表される炭素などの導電体材料;単結晶シリコン、アモルファスシリコン、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素などに代表されるシリコン材料、SOI(シリコン・オン・インシュレータ)などに代表されるこれらシリコン材料の複合素材;ガラス、石英ガラス、アルミナ、サファイア、セラミクス、フォルステライト、感光性ガラスなどの無機材料;ポリエチレン、エチレン、ポリプロビレン、環状ポリオレフィン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、含フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル・ブタジエンスチレン共重合体、ポリフェニレンオキサイドおよびポリスルホンなどの有機材料等が挙げられる。担体の形状も特に制限されないが、好ましくは平板状である。
【0038】
なお担体として、好ましくは表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC:Diamond Like Carbon)等のカーボン層と、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ホルミル基、ヒドロキシル基及び活性エステル基等の化学修飾基とを有する担体を用いる。表面にカーボン層と化学修飾基とを有する担体には、基板の表面にカーボン層と化学修飾基とを有するもの、およびカーボン層からなる基板の表面に化学修飾基を有するものが包含される。基板の材料としては、当技術分野で公知のものを使用でき、特に制限されず、上述の担体材料として挙げたものと同様のものを使用できる。
【0039】
このように作製したDNAマイクロアレイを用いて被検者における、ターゲット核酸を検出することができる。これには、被検者由来の試料からDNAを抽出する工程と、抽出したDNAを鋳型とし、SF3B1遺伝子の上記変異を含む領域を増幅する工程と、DNAマイクロアレイを用いて増幅された核酸を検出する工程とを含む。
【0040】
被検者は通常ヒトであり、骨髄異形成症候群に罹患した患者を挙げることができる。被検者由来の試料は特に制限されない。例えば、血液関連試料(血液、血清、血漿、骨髄液など)、リンパ液、糞便、がん細胞、組織または臓器の破砕物および抽出物などが挙げられる。
【0041】
まず、被検者から採取した試料からDNAを抽出する。抽出手段としては、特に限定されない。例えばフェノール/クロロホルム、エタノール、水酸化ナトリウム、CTABなどを用いたDNA抽出法を用いることができる。
【0042】
次に、得られたDNAを鋳型として用いて増幅反応を行い、SF3B1遺伝子をコードする核酸、好ましくはDNAを増幅させる。増幅反応としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic
acids)法等を適用することができる。増幅反応においては、増幅後の領域を識別できるように標識を付加することが望ましい。このとき、増幅された核酸を標識する方法としては、特に限定されないが、例えば増幅反応に使用するプライマーをあらかじめ標識しておく方法を使用してもよいし、増幅反応に標識ヌクレオチドを基質として使用する方法を使用してもよい。標識物質としては、特に限定されないが、放射性同位元素や蛍光色素、あるいはジゴキシゲニン(DIG)やビオチンなどの有機化合物などを使用することができる。
【0043】
またこの反応系は、核酸増幅・標識に必要な緩衝剤、耐熱性DNAポリメラーゼ、SF3B1遺伝子に特異的なプライマー、標識ヌクレオチド三リン酸(具体的には蛍光標識等を付加したヌクレオチド三リン酸)、ヌクレオチド三リン酸および塩化マグネシウム等を含む反応系である。
【0044】
上記のようにして得られた増幅核酸には、ターゲット核酸及び非ターゲット核酸が含まれる。核酸プローブとターゲット核酸のハイブリダイゼーション反応を行い、核酸プローブにハイブリダイズした核酸の量を、例えば標識を検出することにより測定できる。標識からのシグナルは、例えば、蛍光標識を用いた場合は、蛍光スキャナを用いて蛍光シグナル検出し、これを画像解析ソフトによって解析することによりシグナル強度を数値化することができる。また、核酸プローブにハイブリダイズした増幅核酸は、例えば、既知量のDNAを含む試料を用いて検量線を作成することにより、定量することもできる。
【0045】
このとき、上述した本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物を使用することで、ブロッキング用核酸により非ターゲット核酸と核酸プローブとの非特異的なハイブリダイズを抑制することができる。ハイブリダイゼーション用バッファー組成物を用いたハイブリダイゼーション反応は、好ましくはストリンジェントな条件下で実施する。ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、例えば、50℃で16時間ハイブリダイズ反応させた後、2×SSC/0.2% SDS、25℃、10分および2×SSC、25℃、5分の条件で洗浄する条件をさす。すなわち、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物には、ハイブリダイゼーション反応に必要な塩、例えばSSCや、公知のブロッキング剤、例えばSDSが含まれていても良い。
【0046】
また、増幅反応後のターゲット核酸及び非ターゲット核酸を含む反応液と本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物とを予め混合して、非ターゲット核酸とブロッキング用核酸との特異的なハイブリダイズを行った後、反応液をDNAマイクロアレイ
に接触させてターゲット核酸と核酸プローブとのハイブリダイゼーション反応を進行させても良い。或いは、増幅反応後のターゲット核酸及び非ターゲット核酸を含む反応液と本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物とをDNAマイクロアレイ上にて混合して、非ターゲット核酸とブロッキング用核酸との特異的なハイブリダイズ並びにターゲット核酸と核酸プローブとの特異的なハイブリダイズを同時に進行させても良い。
【実施例0047】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]
1.サンプル調製
本実施例では、野生型及び変異型モデル検体として、SF3B1遺伝子配列を搭載したプラスミドDNAを用いた。5%変異型モデル検体は野生型プラスミドと変異型プラスミドを95:5の割合で混合したものである。
【0049】
本実施例では、表1に示した遺伝子変異を検出するため、当該遺伝子変異を含む対象領域を増幅した。
【0050】
【表1】
【0051】
本実施例では、表1に示した対象領域を増幅するため、表2に示したプライマーを設計した。
【0052】
【表2】
【0053】
以上のように調製したDNAサンプルを用いて、SF3B1遺伝子について対象領域をPCRにより増幅した。なお、PCRでは鋳型となるモデル検体を2pg/μLとした。反応液組成を表3に示した。
【0054】
【表3】
【0055】
そして、PCRのサーマルサイクルを、95℃で5分間の後、95℃で30秒、56℃で30秒及び72℃で90秒を1サイクルとして40サイクル行い、その後、72℃で10分間とし、最終的に4℃を維持した。
【0056】
本実施例では、表1に示したSF3B1遺伝子における1986C>G、1997A>G変異に対応する変異型プローブとこれに対応する野生型プローブを設計した。各プローブの塩基配列を表4にまとめて示した。
【0057】
【表4】
【0058】
2.遺伝子変異の検出
上記プローブを有するチップを用いて以下のようにハイブリダイズを行った。先ず、規定温度(52℃)に設定したチャンバー内に湿箱を載置し、チャンバー及び湿箱を十分予熱しておいた。PCR反応液4μLとハイブリダイズ緩衝液(2.25×SSC/0.23%SDS/0.2 nM IC5標識オリゴDNA(ライフテクノロジーズジャパン社製))2μLを混合し、この溶液を3μLとり、ハイブリカバーの中央凸部の上に滴下して、これをチップに被せた後、チップを予熱しておいた湿箱に入れ、湿箱ごと52℃に設定したハイブリダイズオーブン内で1時間反応
させた。ハイブリダイズ反応終了後、ハイブリカバーをはずしたチップを0.1×SSC/0.1% SDS溶液中で上下に数回振とうして洗浄した。その後、チップの蛍光強度を検出するまで1×SSC溶液(室温)に浸した。
【0059】
また、本実施例では、ハイブリダイズ緩衝液に表5に示したブロッカーオリゴDNA(ブロッキング用核酸)を添加した。ブロッカーオリゴDNAは、解析対象遺伝子の変異割合が小さい場合でも十分な検出感度が得られるように、変異検出用プローブの非特異的なハイブリダイズを抑制することを目的として添加されるもので、野生型由来の増幅産物と特異的にハイブリダイズするように設計されている。従来は一つの変異に対して1種類のブロッカーを添加する方法をとっていたが、本実施例では、近接する複数の変異箇所を含む配列のブロッカーオリゴDNAを設計した。すなわち、複数の変異箇所に対して1種類のブロッカーオリゴDNAを添加することで感度向上を図った。比較例として、複数の変異箇所それぞれに対して設計したブロッカーオリゴDNAを添加する従来手法で設計されたブロッカー配列を表6に示した。
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
検出直前にチップにカバーフィルムを被せ、BIOSHOT(東洋鋼鈑製)でチップの蛍光強度を検出した。
【0063】
結果を図1に示した。1986は、従来のブロッカー(1986W-3B)を添加したとき、ブロッカー濃度の上昇に伴い変異型プローブの特異的シグナルが減少していることが分かる。これは、近接する1997のブロッカー(1997W-4B)の配列が変異型プローブの配列と一部重なっていることから、1986を含む変異産物と結合したことが要因と考えられる。一方、共通ブロッカー(1986_1997W-4)を使用した場合には、ブロッカー濃度が上昇しても変異型プローブの特異的シグナルが維持されていることが分かる。複数の変異部位を含むブロッカーを使用することで、変異型産物への意図しない結合が抑えられ、特異性が高まったと考えられる。1997でも同様に、従来のブロッカー(1997W-4B)ではブロッカー濃度が上昇するとともに変異プローブの特異的シグナルが減少する傾向にあるが、共通ブロッカー(1986_1997W-4)ではブロッカー濃度が上昇しても変異型プローブの特異的シグナルが維持されていることが確認された。
【0064】
[実施例2]
本実施例では、実施例1で使用したモデル検体、実施例1で設計したプライマーを用いて実施例1と同様の手順によりPCRを実施した。本実施例では、表1に示したSF3B1遺伝子における1866G>T、1874G>T変異に対応する変異型プローブとこれに対応する野生型プローブを設計した。各プローブの塩基配列を表7にまとめて示した。
【0065】
ハイブリダイズ反応およびチップ蛍光強度の検出を実施した。なお、本実施例では、ハイブリダイズ緩衝液に表8に示したブロッカーオリゴDNAを添加した。また、非検出対象
塩基に対応する塩基が端部近傍に位置するように設計したブロッカーオリゴDNAを表9に示した。
【0066】
【表7】
【0067】
【表8】
【0068】
【表9】
【0069】
結果を図2に示した。実施例1と同様に、表9に示したブロッカーオリゴDNAを使用した場合、ブロッカー濃度の上昇に伴い変異型プローブの特異的シグナルが減少していることが分かる。表9に示したブロッカーオリゴDNAの配列には、1866、1874の両方の変異が含まれており、変異型産物は1塩基のミスマッチが存在する。しかし、非検出対象塩基に対応する塩基が端部近傍(末端から1塩基)であるため特異性が低く、変異型産物と結合したと考えられる。一方、表8に示した共通ブロッカーでは、1866、1874共にブロッカー濃度が上昇しても特異的シグナルが維持されており、共通ブロッカーが有効に作用していることが確認された。
【0070】
[実施例3]
本実施例では、実施例1で使用したモデル検体、実施例1で設計したプライマーを用いてPCRを実施した。本実施例で実施したPCRの反応液組成を表10に示した。また、本実施例では、PCRのサーマルサイクルを、95℃で5分間の後、95℃で30秒、60℃で30秒及び72℃で90秒を1サイクルとして40サイクル行い、その後、72℃で10分間とし、最終的に4℃を維持した。
【0071】
本実施例では、表1に示したSF3B1遺伝子における変異に対応する変異型プローブとこれに対応する野生型プローブを設計した。また一部のプローブにおいて、検出対象の遺伝子領域とハイブリダイズする塩基配列を繰り返して直列に連結したプローブDNA(タンデムプローブ)を設計した。配列を繰り返すことで得られる蛍光強度を高め、感度向上を図った。各プローブの塩基配列を表11にまとめて示した。表11中、Iはデオキシイノシンを意味している。
【0072】
【表10】
【0073】
なお、ハイブリダイズ反応およびチップ蛍光強度の検出については、自動化検出装置(HySHOT HT-32またはBIOSHOT HT-32(医療機器届出番号:13B3X10232HT3201)、東洋鋼鈑製)を使用した。PCR産物30μlとハイブリダイズ緩衝液15μlを混合し、自動化検出装置にセットした。洗浄液(0.1×SSC/0.1%SDS溶液)、リンス液及び検出液(1×SSC)を調製し、装置の取り扱い説明書に従い、混合液、洗浄液、リンス液を自動検出装置にセットした。測定プログラムは表12のように設定した。
【0074】
【表11】
【0075】
【表12】
【0076】
以上のように測定した野生型プローブ及び変異型プローブにおける蛍光強度を用い、表1に示したSF3B1遺伝子変異について下記式によって判定値を算出した。
判定値=[変異型プローブの蛍光強度]/([野生型プローブの蛍光強度]+[変異型プローブの蛍光強度])
本実施例では、ハイブリダイズ緩衝液に表13に示したブロッカーオリゴDNA mixを添加した。
【0077】
【表13】
【0078】
結果を図3に示した。表1で示した遺伝子変異について、野生型モデル検体における各野生型プローブの蛍光強度はすべて10000以上であり、判定に十分な強度を得られた。また、変異型プローブへの非特異的な結合は4000以下であった。次に、変異型5%モデル検体における各プローブの蛍光強度はすべて10000以上と判定に十分な強度を得られた。また、判定値は、変異型モデル検体と野生型モデル検体の差が全て0.2以上であり、良好な分離であった。以上より、野生型モデル検体と5%変異型モデル検体を明確に区別して同時に検出できることが明らかとなった。
【0079】
[実施例4]
本実施例では、マクログロブリン血症、リンパ形質細胞性リンパ腫に関連するMYD88(L265P)遺伝子とCXCR4(S338X)遺伝子の体細胞変異を検出するキット(WMチップ)における検討結果を示す。表14にMYD88/CXCR4の対象検査変異を示した。また解析対象箇所を増幅するためのプライマーセットを表15に示した。また、野生型および変異型モデル検体として、CXCR4遺伝子配列を搭載したプラスミドDNAを用いた。10%変異型モデル検体は野生型プラスミドと変異型プラスミドを90:10の割合で混合したものである。
【0080】
【表14】
【0081】
【表15】
【0082】
表16のように調整したDNAサンプルを用いて、MYD88及びCXCR4の2つの対象領域をそれぞれPCRにて増幅した。PCRのサーマルサイクルを表17に示した。
【0083】
【表16】
【0084】
【表17】
【0085】
また、本実施例では、表14に示したCXCR4(S338X)遺伝子における変異に対応する変異型プローブとこれに対応する野生型プローブを設計した。各プローブの塩基配列を表18にまとめて示した。
【0086】
【表18】
【0087】
調整したハイブリダイズ緩衝液(2.25×SSC、0.23%SDS)、PCR産物を冷凍庫から取り出し、常温に戻した。ハイブリダイズ緩衝液(2.25×SSC、0.23%SDS)は表19に示したブロッカーオリゴDNAを添加した。ブロッカーオリゴDNAは、解析対象遺伝子の変異割合が小さい場合でも十分な検出感度が得られるに、変異検出用プローブの非特異的なハイブリダイズを抑制することを目的として添加されるもので、野生型由来の増幅産物と特異的にハイブリダイズするように設計された。実施例1、実施例2と同様に、本実施例では、近接する複数の変異を含む配列のブロッカーオリゴDNAを設計し、それらの変異に対して1種類のブロッカーを添加することで感度向上を図った。比較例として変異それぞれに対してブロッカーを添加する従来手法で設計されたブロッカー配列を表20に示した。
【0088】
【表19】
【0089】
【表20】
【0090】
PCR産物30μlとハイブリダイズ緩衝液15μlを混合し、自動化検出装置(HySHOT HT-32またはBIOSHOT HT-32)にセットした。洗浄液(0.1×SSC/0.1%SDS溶液)、リンス液及び検出液(1×SSC)を調製し、装置の取り扱い説明書に従い、混合液、洗浄液、リンス液をBIOHSHOTにセットした。その後、蛍光強度推定法により測定した。装置の試験条件は表21に示した。
【0091】
【表21】
【0092】
結果を図4に示す。共通ブロッカーの分離性能は従来ブロッカーに対し、同等もしくは上回る性能であることが確認された。
【0093】
[実施例5]
本実施例では、複数の非検出対象塩基に対応する複数の塩基を有するブロッキング用核酸(共通ブロッカー)が適用可能な、当該複数の塩基の位置及び当該塩基同士の間隔の最大値について、計算により求めた。ハイブリダイズ温度を60℃としたとき、標準的なターゲット配列として表22に示した野生型モデル配列(=ブロッカーモデル配列)を設定した。
【0094】
【表22】
【0095】
表22の配列を5’側、3’側から一塩基ずつT(元来Tの箇所はA)に変換したものを変異型モデル配列とし、野生型モデル配列とのミスマッチTm値を計算した(表23)。本実施例では、5’側、3’側それぞれ末端から6塩基まで変異させたモデル配列で計算した。なお、ミスマッチTm値と野生型モデル配列Tm値の差(=ΔTm)が1.5℃以上であることをブロッカーの特異性が良好で共通ブロッカーが適用可能基準とした。
【0096】
【表23】
※表中、太字下線が変換箇所
【0097】
表23に変異型モデル配列とミスマッチTmの計算結果を示した。ΔTmが1.5℃以上であった変異箇所の位置は5’側から2塩基、3’側から3塩基より内側のときであった。したがって、共通ブロッカーが適用可能な最大の変異間隔(変異を除く内側の塩基数)は、39塩基-(2塩基+3塩基)=34塩基であった。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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