(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034959
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240306BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139560
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 ジャア
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA05
5H770AA21
5H770BA02
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA22
5H770DA41
5H770JA11W
5H770JA13W
5H770KA01W
5H770QA12
5H770QA16
5H770QA28
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ノイズを低減できる電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力変換装置1は、第1、第2パワーモジュール141、142と、バスバ11、12と、金属性の筐体9と、を備える。両パワーモジュールは、バスバと接続される各々の直流側端子が他方のパワーモジュール側に向かうように並列配置される。バスバは、両パワーモジュールの直流側端子とそれぞれ接続される第1、第2導体部100、101を含む。両パワーモジュールの間には、筐体と電気的に接続されるとともに、第1、第2導体部と対向する導電性の壁部102が設けられる。第1、第2導体部はそれぞれ、バスバを構成する正極バスバ11および負極バスバ12を積層させた領域を含む。第1導体部は、正極バスバおよび負極バスバのいずれか一方が壁部と対向し、第2導体部は、第1導体とは極性が異なる正極バスバおよび負極バスバのいずれか一方が壁部と対向する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1インバータ回路を構成する第1パワーモジュールと、
前記第1インバータ回路と並列に接続された第2インバータ回路を構成する第2パワーモジュールと、
前記第1パワーモジュールおよび前記第2パワーモジュールへ直流電力を伝達する直流バスバと、
前記第1パワーモジュールおよび前記第2パワーモジュールを収容する金属筐体とを備え、
前記第1パワーモジュールおよび前記第2パワーモジュールは、前記直流バスバと接続される各々の直流側端子が他方のパワーモジュール側に向かうように並列配置され、
前記直流バスバは、前記第1パワーモジュールの直流側端子と接続される第1導体部と、前記第2パワーモジュールの直流側端子と接続される第2導体部と、を含み、
前記第1パワーモジュールおよび前記第2パワーモジュールの間には、前記金属筐体と電気的に接続されるとともに、前記第1導体部および前記第2導体部と対向する導電性の壁部が設けられ、
前記第1導体部は、前記直流バスバを構成する正極バスバおよび負極バスバを積層させた領域を含み、
前記第2導体部は、前記正極バスバおよび前記負極バスバを積層させた領域を含み、
前記第1導体部は、前記正極バスバおよび前記負極バスバのいずれか一方が前記壁部と対向し、
前記第2導体部は、前記第1導体とは極性が異なる、前記正極バスバおよび前記負極バスバのいずれか一方が前記壁部と対向する、電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載された電力変換装置であって、
前記壁部は、前記第1導体部と対向する第1壁と、前記第2導体部と対向する第2壁と、を有し、前記第1壁と前記第2壁とが空間を隔てて設けられている電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載された電力変換装置であって、
前記壁部は、前記第1導体部と対向し、かつ前記第2導体部と対向するU字状の形状を有する電力変換装置。
【請求項4】
請求項1に記載された電力変換装置であって、
前記第1導体部と前記壁部の間、および前記第2導体部と前記壁部との間には、絶縁体が配置される電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車に搭載されている電力変換装置は、ノイズ電流により発生する伝導性ノイズの対応について、国際規格に追加された高電圧伝導ノイズ規格に基づき各カーメーカーが制定した独自規格を満たす必要がある。それと同時に、電力変換装置は搭載される電気自動車の発展に合わせて、近年、小型化や低背化と低コスト化の要求が高まっている。そのため、電力変換装置に備わるフィルタ装置は、低コスト化及び小型化を維持させつつ高周波ノイズ減衰性能を向上させることが強く求められている。特許文献1には、電力用半導体素子と、該半導体素子の一面及び他面にそれぞれ接合された第1の電極板及び第2の電極板と、該半導体素子を制御する制御回路との接続端子と、該半導体素子並びに該第1電極板及び第2電極板を封止する絶縁性の樹脂モールドと、を含む半導体モジュールと、誘導体となる第1絶縁部材及び第2絶縁部材を介して前記半導体モジュールを両側から保持する導電性の第1保持部材及び第2保持部材と、から成り、前記第1電極板及び/又は第2の電極板と、前記第1保持部材及び/又は第2保持部材と、前記第1絶縁部材及び/又は第2絶縁部材とによりノイズ抑制用バイパスコンデンサが形成されていることを特徴とするパワーモジュールの実装構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている発明では、ノイズ抑制に改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様による電力変換装置は、第1インバータ回路を構成する第1パワーモジュールと、前記第1インバータ回路と並列に接続された第2インバータ回路を構成する第2パワーモジュールと、前記第1パワーモジュールおよび前記第2パワーモジュールへ直流電力を伝達する直流バスバと、前記第1パワーモジュールおよび前記第2パワーモジュールを収容する金属筐体とを備え、前記第1パワーモジュールおよび前記第2パワーモジュールは、前記直流バスバと接続される各々の直流側端子が他方のパワーモジュール側に向かうように並列配置され、前記直流バスバは、前記第1パワーモジュールの直流側端子と接続される第1導体部と、前記第2パワーモジュールの直流側端子と接続される第2導体部と、を含み、前記第1パワーモジュールおよび前記第2パワーモジュールの間には、前記金属筐体と電気的に接続されるとともに、前記第1導体部および前記第2導体部と対向する導電性の壁部が設けられ、前記第1導体部は、前記直流バスバを構成する正極バスバおよび負極バスバを積層させた領域を含み、前記第2導体部は、前記正極バスバおよび前記負極バスバを積層させた領域を含み、前記第1導体部は、前記正極バスバおよび前記負極バスバのいずれか一方が前記壁部と対向し、前記第2導体部は、前記第1導体とは極性が異なる、前記正極バスバおよび前記負極バスバのいずれか一方が前記壁部と対向する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ノイズを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】電力変換装置におけるコモンモード高電圧伝導ノイズの等価回路図
【
図4】上部正極バスバおよび上部負極バスバの斜視図
【
図5】下部正極バスバおよび下部負極バスバの斜視図
【
図6】下部正極バスバおよび下部負極バスバを壁部と組み合わせた状態を示す図
【
図9】比較例電力変換装置におけるコモンモード高電圧伝導ノイズの等価回路図
【
図10】電力変換装置および比較例電力変換装置におけるコモンモード高電圧伝導ノイズの周波数特性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
―第1の実施の形態―
以下、
図1~
図10を参照して、電力変換装置の第1の実施の形態を説明する。
【0009】
図1は、電力変換装置1の全体構成図である。電力変換装置1は、高電圧バッテリ2と第1モータ6および第2モータ8との間で電力を変換する。たとえば電力変換装置1は、高電圧バッテリ2から得る直流電力を交流電力に変換して第1モータ6および第2モータ8に供給できる。たとえば電力変換装置1は、第1モータ6および第2モータ8から得る交流電力を直流電力に変換して高電圧バッテリ2に供給できる。電力変換装置1は、直流から交流への変換、および交流から直流への変換の少なくとも一方が実現できればよい。筐体9は金属製であり、電力変換装置1の基準電位となる。
【0010】
電力変換装置1は、高電圧直流ケーブル4および高電圧電源インピーダンス安定回路網(Line Impedance Stabilization Network:LISN)3を介して高電圧バッテリ2と接続される。高電圧電源インピーダンス安定回路網3は、正極LISN回路部31と、負極LISN回路部32とを備える。電力変換装置1は、第1高電圧交流ケーブル5を介して第1モータ6と接続される。第1モータ6は、符号6Mで示すUVWの各相に対応するコイルを備え、コイルと筐体9間の浮遊容量6-Csを有する。電力変換装置1は、第2高電圧交流ケーブル7を介して第2モータ8と接続される。第2モータ8は、符号8Mで示すUVWの各相に対応するコイルを備え、コイルと筐体9間の浮遊容量8-Csを有する。
【0011】
電力変換装置1は、正極バスバ11と、負極バスバ12と、ノイズフィルタ装置13と、第1インバータ回路を構成する第1パワーモジュール141と、第2インバータ回路を構成する第2パワーモジュール142と、第1平滑コンデンサCx1と、第2平滑コンデンサCx2と、筐体9とを備える。筐体9は導電性を有する。筐体9は導電性材料により形成されてもよいし、導電性を有する材料を用いたコーティングがされてもよい。
【0012】
第1パワーモジュール141は、U、V、Wの各相に対応するスイッチング回路である第1スイッチング回路SW1~第3スイッチング回路SW3を備える。第2パワーモジュール142は、U、V、Wの各相に対応するスイッチング回路である第4スイッチング回路SW4~第6スイッチング回路SW6を備える。第1スイッチング回路SW1は、1対の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタおよび1対のダイオードを備え、これらが上アームおよび下アームを構成する。符号1-Cs1は、第1パワーモジュール141の正極部~筐体間浮遊容量である。符号1-Cs2は、第1パワーモジュール141の交流出力部~筐体間浮遊容量である。符号1-Cs3は、第1パワーモジュール141の負極部~筐体間浮遊容量である。第2スイッチング回路SW2~第6スイッチング回路SW6の構成は第1スイッチング回路SW1と同様なので説明を省略する。なお、第2スイッチング回路SW2~第6スイッチング回路SW6も、第1スイッチング回路SW1と同様に浮遊容量を有する。
【0013】
ノイズフィルタ装置13は、第1接地コンデンサCy1と、第2接地コンデンサCy2と、磁性体コアLcとを備える。以下では、第1接地コンデンサCy1と、磁性体コアLcとをあわせて第2ノイズフィルタ部131とも呼ぶ。第1接地コンデンサCy1は、正極バスバ11と筐体9とを接続する第11接地コンデンサCy11と、負極バスバ12と筐体9とを接続する第12接地コンデンサCy12とを備える。第2接地コンデンサCy2は、正極バスバ11と筐体9とを接続する第21接地コンデンサCy21と、負極バスバ12と筐体9とを接続する第22接地コンデンサCy22とを備える。なお、接地コンデンサCy1とCy2および磁性体コアLcは、コモンモードノイズ低減用である。
【0014】
コモンモード電流は、スイッチング回路SW1~SW6が、周期的にオン状態/オフ状態となるスイッチング動作時に発生する、対地電圧変動によるものである。この電圧変動により、それぞれの浮遊容量を通して、電力変換装置1および第1モータ6と第2モータ8の筐体間にコモンモード電流が流れ、その電流により高電圧伝導ノイズが発生する。それぞれの浮遊容量とは、第1パワーモジュール141と筐体9との間に寄生する浮遊容量1-Cs1~1-Cs3、第2パワーモジュール142と筐体9との間に寄生する浮遊容量1-Cs4~1-Cs6、第1モータ6のコイル6Mと筐体9との間に存在する浮遊容量6-Cs、および第2モータ8のコイル8Mと筐体9との間に存在する浮遊容量8-Csである。そのため、高電圧伝導ノイズを低減するためには、コモンモード電流を低減する必要がある。電力変換装置1では、ノイズフィルタ装置13の構成を用いることにより、高電圧伝導ノイズの主な発生要因であるノイズ電流に対応させ、高電圧伝導ノイズ規格にも対応しながらノイズを減衰させている。
【0015】
(ノイズ規格について)
高電圧伝導ノイズ規格を説明する。ノイズ規格は、一般的に0.15MHzから108MHzまでの周波数帯での規制値を規定するものである。高電圧伝導ノイズ規格は、2016年10月に国際無線障害特別委員会(CISPR)が作成した国際規格であるCISPR25Ed4において追加された規格である。これは、特に種々の用途で用いられているFM放送周波数帯域(76MHz~108MHz)のノイズを、他の周波数帯域に比べて低くするように規制する内容である。高電圧伝導ノイズは、たとえば、車載電気電子機器の誤動作を引き起こす恐れがある。そのため、出荷前の段階において電力変換装置1で発生する高電圧伝導ノイズ量を実測し、そのノイズ発生量が、各国法規制及び顧客要求仕様で規定される規制値以下にならなければならない。
【0016】
(従来の技術とその課題)
一般に、電力変換装置を高電圧伝導ノイズ規格に適合させるために、ノイズフィルタ装置が採用されている。車載用の電力変換装置など高電圧や大電流が必要とされる場合には、複数のモータの駆動や電力増加のため、2つ以上のパワーモジュールを使用することがある。たとえば2つのパワーモジュールを備える場合には、低背化を目的として2つのパワーモジュールを直列に接続し、さらにノイズフィルタ装置を直列に配置されることが多い。
【0017】
このような構成では、それぞれのパワーモジュールからノイズフィルタ装置に含まれる設置コンデンサまでの電流経路が長く、かつ2つの電流経路の長さが異なる問題が生じる。具体的には、電流経路が長いことが原因で、電流経路の寄生インダクタンスによるインピーダンスが増加する。また、2つの電流経路の長さが異なることが原因で、経路に存在する寄生成分により発生する共振点が増加する。この2つの問題により、FMラジオ帯など高周波帯でノイズ減衰性能が悪化する課題がある。
【0018】
本実施の形態では、
図1に示したように、第1パワーモジュール141直近の正極バスバ11と筐体9との間、および第2パワーモジュール142直近の負極バスバ12と筐体9間に、それぞれ第1近接接地コンデンサCw21と第2近接接地コンデンサCw22を設ける。これにより、パワーモジュールの近くに接地Yコンデンサが設けられ、電流経路の長さを短縮し経路のインピーダンスを低減できる。更に、電流経路の長さも同じくなるため、共振点の増加も抑制できる。
【0019】
図2は、電力変換装置1におけるコモンモード高電圧伝導ノイズの等価回路図である。
図2において、破線よりも左側は電力変換装置1の内部を示している。符号Vs1は、第1パワーモジュール141に発生するコモンモードノイズを模擬するノイズ源である。符号Cpm1は、第1パワーモジュール141と筐体9との間に存在するトータル寄生容量である。符号Vs2は、第2パワーモジュール142に発生するコモンモードノイズを模擬するノイズ源である。符号Cpm2は、第2パワーモジュール142と筐体9との間に存在するトータル寄生容量である。
【0020】
符号Lg1は、第1パワーモジュール141の筐体9との接地点であるP02と、第1接地コンデンサCy1の筐体9との接地点であるP01と、の間に存在する寄生インダクタンスである。符号Lg2は、第2パワーモジュール142の筐体9との接地点であるP03と、第1接地コンデンサCy1の筐体9との接地点であるP01と、の間に存在する寄生インダクタンスである。符号L_bpは、第1パワーモジュール141および第2パワーモジュール142へ直流電力を伝達する第1接地コンデンサCy1までの正極バスバ11のインダクタンスである。符号L_bnは、第1パワーモジュール141および第2パワーモジュール142へ直流電力を伝達する第1接地コンデンサCy1までの負極バスバ12のインダクタンスである。
【0021】
符号Ic1は、第1パワーモジュールから発生するコモンモード電流である。符号Ic2は、第2パワーモジュールから発生するコモンモード電流である。符号Ic3は、Ic1のうち、第1接地コンデンサCy1によりバイパスするコモンモード電流である。符号Ic4は、Ic2のうち、第1接地コンデンサCy1によりバイパスするコモンモード電流である。符号Ic5は、電力変換装置外部へ流出するコモンモード電流である。
【0022】
符号Ic6は、Ic1のうち、第1接地コンデンサCy1によりバイパスするコモンモード電流と、Ic1とIc2のうち、第1近接接地コンデンサCw21によりバイパスするコモンモード電流を合計したコモンモード電流である。符号Ic7は、Ic2のうち、第1接地コンデンサCy1によりバイパスするコモンモード電流と、Ic1とIc2のうち、第2近接接地コンデンサCw22によりバイパスするコモンモード電流を合計したコモンモード電流である。符号3-1は、高電圧電源インピーダンス安定回路網3のコモンモード等価回路である。符号4-1は、高電圧直流ケーブル4のコモンモード等価回路である。
【0023】
図3は、電力変換装置1の斜視図である。
図3に示す構成は、後述する壁部102を除いて
図1または
図2に示したものである。
図3以下のいくつかの図面では、相関関係を明示するために相互に直交するXYZ軸を記載している。図示左右方向がX軸であり、X軸マイナス側からプラス側にかけて第1パワーモジュール141、壁部102、および第2パワーモジュール142が並んでいる。第1パワーモジュール141および第2パワーモジュール142が有する正極バスバ11および負極バスバ12に接続される端子は、壁部102側に向かうように配置されている。
【0024】
正極バスバ11は、上部正極バスバ11Uおよび下部正極バスバ11Dから構成される。負極バスバ12は、上部負極バスバ12Uおよび下部負極バスバ12Dから構成される。上部正極バスバ11Uおよび上部負極バスバ12Uは、XY平面に広がる平板の中央部をZ軸マイナス側に凹ませた形状を有する。上部正極バスバ11Uおよび上部負極バスバ12Uは、この凹ませた部位において下部正極バスバ11Dおよび下部負極バスバ12Dと接続される。
図3では、上部正極バスバ11Uおよび上部負極バスバ12UはZ方向に隙間を空けて重なっている。正極バスバ11および負極バスバ12の形状は次の
図4および
図5で詳しく説明する。
【0025】
図3の下部中央に示す壁部102は、筐体9と同一の電位を有する導電体である。壁部102は、中空または中実の直方体の形状を有し、周囲を下部正極バスバ11Dおよび下部負極バスバ12Dが囲んでいる。ただし壁部102は、下部正極バスバ11Dおよび下部負極バスバ12Dとは接触しておらず、後述するように静電容量を生じさせるごくわずかな隙間を隔てて下部正極バスバ11Dおよび下部負極バスバ12Dと近接する。
【0026】
図4は、上部正極バスバ11Uおよび上部負極バスバ12Uの斜視図である。
図4の視点は、
図3と同一である。上部正極バスバ11Uおよび上部負極バスバ12UはY軸方向の寸法は略同一である。上部正極バスバ11UのX方向における略中央はZ軸マイナス側に凹んでおり、かつ2か所が切り欠かれている。この凹み箇所のそれぞれを、上部正極第1接続部11U1および上部正極第2接続部11U2と呼ぶ。上部負極バスバ12UのX方向における略中央はZ軸マイナス側に凹んでおり、かつ2か所が切り欠かれている。この凹み箇所のそれぞれを、上部負極第1接続部12U1および上部負極第2接続部12U2と呼ぶ。
【0027】
上部正極第1接続部11U1、上部正極第2接続部11U2、上部負極第1接続部12U1、および上部負極第2接続部12U2は、X軸方向の幅が略同一であり、
図3に示した組み立てられた状態でも相互に接触しない。上部正極第1接続部11U1、上部正極第2接続部11U2、上部負極第1接続部12U1、および上部負極第2接続部12U2は、壁部102との固定に用いる貫通穴を有する。貫通穴については後述する。
【0028】
図5は、下部正極バスバ11Dおよび下部負極バスバ12Dの斜視図である。
図5の視点は、
図3と同一である。下部正極バスバ11Dおよび下部負極バスバ12DはY軸方向の寸法は略同一である。下部正極バスバ11DのX方向における略中央はZ軸プラス側に飛び出しており、かつ2か所が切り欠かれている。この飛び出し箇所のそれぞれを、下部正極第1接続部11D1および下部正極第2接続部11D2と呼ぶ。下部負極バスバ12DのX方向における略中央はZ軸プラス側に突き出しており、かつ2か所が切り欠かれている。この飛び出し箇所のそれぞれを、下部負極第1接続部12D1および下部負極第2接続部12D2と呼ぶ。下部正極第1接続部11D1、下部正極第2接続部11D2、下部負極第1接続部12D1、および下部負極第2接続部12D2は、X軸方向の幅が略同一であり、
図3に示した組み立てられた状態でも相互に接触しない。下部正極第1接続部11D1、下部正極第2接続部11D2、下部負極第1接続部12D1、および下部負極第2接続部12D2は、壁部102との固定に用いる貫通穴を有する。
【0029】
図6は、下部正極バスバ11Dおよび下部負極バスバ12Dを壁部102と組み合わせた状態を示す図である。ただし
図6では、壁部102の右側面が見える視点と、壁部102の左側面が見える視点の2種類の視点を示している。下部正極バスバ11Dおよび下部負極バスバ12Dが組み合わされると、
図6に示すようにY軸のマイナス側からプラス側にかけて、下部正極第1接続部11D1、下部負極第1接続部12D1、下部正極第2接続部11D2、下部負極第2接続部12D2の順で並ぶ。
【0030】
図6の左に示す視点は壁部102の左側面、すなわちX軸マイナス側の側面を示す。壁部102の左側面では、下部負極バスバ12Dが外側にあり、下部正極バスバ11Dが内側にある。
図6の右に示す視点は壁部102の右側面、すなわちX軸プラス側の側面を示す。壁部102の右側面では、下部負極バスバ12Dが内側にあり、下部正極バスバ11Dが外側にある。換言すると、壁部102の左右の壁面では対向するバスバの極性が異なる。
【0031】
図3に示したように、壁部102のX軸マイナス側には第1パワーモジュール141が配され、壁部102のX軸プラス側には第2パワーモジュール142が配される。下部正極バスバ11Dおよび下部負極バスバ12Dの一部であり、第1パワーモジュール141の直流側端子と接続される個所を第1導体部100と呼ぶ。下部正極バスバ11Dおよび下部負極バスバ12Dの一部であり、第2パワーモジュール142の直流側端子と接続される個所を第2導体部101と呼ぶ。
【0032】
なお
図6では、作図の都合により下部正極第1接続部11D1、下部正極第2接続部11D2、下部負極第1接続部12D1、および下部負極第2接続部12D2のそれぞれと壁部102のZ軸プラス側の端部との距離が短く表示されている。しかし実際には、壁部102のZ軸プラス側において壁部102と下部正極バスバ11Dおよび下部負極バスバ12Dとの間で放電が生じないように対処されている。たとえば、壁部102のZ軸プラス側の面に絶縁層が設けられてもよいし、壁部102のZ軸プラス側において壁部102と下部正極バスバ11Dおよび下部負極バスバ12Dとの間に十分な絶縁距離が設けられてもよい。
【0033】
図7は、第1導体部100および第2導体部101を示す模式図である。ただし
図7では、下部正極バスバ11Dおよび下部負極バスバ12Dの上部は記載を省略している。また
図7では、下部正極バスバ11D、下部負極バスバ12Dおよび壁部102のそれぞれを容易に識別可能なようにハッチングを施している。
【0034】
第1導体部100において、下部正極バスバ11Dと壁部102の対向する面積は広く、且つ、両者の隙間は絶縁距離を考慮してもごくわずかである。そのため、下部正極バスバ11Dと壁部102の対向部分により、数百pF程度の静電容量を形成できる。また、誘電率が高いモールドなど絶縁物を挿入することにより、更にnF程度の静電容量を形成することが可能となる。下部正極バスバ11Dと壁部102の対向部分により形成される静電容量が、
図1に示した第1近接接地コンデンサCw21に相当する。なお第1導体部100における下部負極バスバ12Dと壁部102の間の距離は比較的長く、発生する静電容量は無視できる。
【0035】
第2導体部101において、下部負極バスバ12Dと壁部102の隙間はごくわずかであり、先ほどの説明と同様に静電容量が発生する。この静電容量が
図1に示した第2近接接地コンデンサCw22に相当する。なお第1導体部100における下部正極バスバ11Dと壁部102の間の距離は比較的長く、発生する静電容量は無視できる。
【0036】
(比較例)
図8は、比較例である比較例電力変換装置1Zの斜視図である。比較例電力変換装置1Zは、電力変換装置1と比較すると壁部102を備えない点が異なる。比較例である比較例電力変換装置1Zは壁部102を備えないので、電力変換装置1では壁部102と下部正極バスバ11Dや下部負極バスバ12Dとの間に生じた静電容量が存在しない。また比較例電力変換装置1Zは、第1導体部100と第2導体部101の対向する導体板の極性が同一である点も電力変換装置1と異なる。
【0037】
図9は、比較例電力変換装置1Zにおけるコモンモード高電圧伝導ノイズの等価回路図である。
図2に示した電力変換装置1におけるコモンモード高電圧伝導ノイズの等価回路図と
図9とを比較すると、
図2には存在していた第1近接接地コンデンサCw21および第2近接接地コンデンサCw22が存在しない。そのため、第1パワーモジュールのノイズ源Vs1および第2パワーモジュールのノイズ源Vs2からYコンデンサである第1接地コンデンサCy1までの電流経路が長いので、インピーダンスが大きい。さらに、ノイズ源Vs1から第1接地コンデンサCy1までの経路長と、ノイズ源Vs2から第1接地コンデンサCy1までの経路長とが異なるので共振点が増加する。
【0038】
図10は、電力変換装置1および比較例電力変換装置1Zにおけるコモンモード高電圧伝導ノイズの周波数特性を示す図である。たとえば70MHz~110MHzを対象周波数帯域に設定すると、この対象周波数領域の全域において電力変換装置1は比較例電力変換装置1Zよりもノイズレベルが低い。特に、ピークを持つ90MHz付近では電力変換装置1は比較例電力変換装置1Zよりもノイズレベルが10db低減する効果があった。
【0039】
上述した第1の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)電力変換装置1は、第1インバータ回路を構成する第1パワーモジュール141と、第1インバータ回路と並列に接続された第2インバータ回路を構成する第2パワーモジュール142と、第1パワーモジュールおよび第2パワーモジュールへ直流電力を伝達する直流バスバすなわち正極バスバ11および負極バスバ12と、第1パワーモジュール141および第2パワーモジュール142を収容する金属性の筐体9とを備える。第1パワーモジュール141および第2パワーモジュール142は、直流バスバと接続される各々の直流側端子が他方のパワーモジュール側に向かうように並列配置される。直流バスバである正極バスバ11および負極バスバ12は、第1パワーモジュール141の直流側端子と接続される第1導体部100と、第2パワーモジュール142の直流側端子と接続される第2導体部101と、を含む。第1パワーモジュール141および第2パワーモジュール142の間には、金属性の筐体9と電気的に接続されるとともに、第1導体部100および第2導体部101と対向する導電性の壁部102が設けられる。第1導体部100は、直流バスバを構成する正極バスバ11および負極バスバ12を積層させた領域を含む。第2導体部101は、正極バスバ11および負極バスバ12を積層させた領域を含む。第1導体部100は、正極バスバ11および負極バスバ12のいずれか一方が壁部102と対向する。第2導体部101は、第1導体部100とは極性が異なる、正極バスバ11および負極バスバ12のいずれか一方が壁部と対向する。
【0040】
そのため、第1導体部100と壁部102により第21接地コンデンサCy21を形成し、第2導体部101と壁部102により第22接地コンデンサCy22を形成するので、
図2に示したように伝導ノイズの経路を形成できる。これにより、ノイズの経路を短くしてインピーダンスを小さくする効果と、2つの経路の経路長を等しくして共振点を減らす効果がある。また、下部正極バスバ11Dおよび下部負極バスバ12Dのそれぞれの位置を調整することで、第21接地コンデンサCy21および第22接地コンデンサCy22の静電容量を簡便に変更できる。
【0041】
(変形例1)
図11は、変形例1における電力変換装置1Aの斜視図である。電力変換装置1Aは、壁部102の代わりに2つの壁、すなわち第1導体部100と対向する第1壁103および第2導体部101と対向する第2壁104を備える点が第1の実施の形態と異なる。第1壁103と第2壁104は、筐体9を介してのみ電気的に接続される。
【0042】
この変形例1によれば、次の作用効果が得られる。
(2)壁部102は、第1導体部100と対向する第1壁103と、第2導体部101と対向する第2壁104と、を有し、第1壁103と第2壁104とが空間を隔てて設けられている。この場合は、第1壁103と第2壁104との間の空間を他の用途に利用できる。
【0043】
(変形例2)
図12は、変形例2における電力変換装置1Bの斜視図である。電力変換装置1Bは、壁部102の代わりにU字形状壁105を備える点が第1の実施の形態と異なる。
【0044】
この変形例2によれば、次の作用効果が得られる。
(3)壁部は、第1導体部100と対向し、かつ第2導体部101と対向するU字状の形状を有する。そのため、変形例1に比べて部品点数を削減しつつ、U字形状の上部は開放されているので、その空間を他の用途に利用できる。
【0045】
(変形例3)
図13は、変形例3における電力変換装置1Cの斜視図である。電力変換装置1Cは、壁部102と第1導体部100および第2導体部101との間に絶縁体106が配されている点が第1の実施の形態と異なる。
【0046】
図14は、
図13の壁部102の付近を拡大した拡大図である。本図は第1の実施の形態における
図7と対応する。
図14に示すように、壁部102はその周囲に絶縁体106が配されている。そのため、第1導体部100において下部正極バスバ11Dと壁部102とにより形成される第1近接接地コンデンサCw21、および第2導体部101において下部負極バスバ12Dと壁部102とにより形成される第2近接接地コンデンサCw22の静電容量は、絶縁体106の誘電率の影響も受ける。
【0047】
なお
図14では、下部正極バスバ11Dと絶縁体106との間に隙間があり、下部負極バスバ12Dと絶縁体106との間にも隙間があるが、この隙間は存在しなくてもよい。また、壁部102のZ軸プラス側の端部には絶縁体106が配されなくてもよい。さらに、絶縁体106は片側の側面にのみ配されてもよく、第1導体部100および第2導体部101の少なくとも一方と壁部102の間に配されてもよい。
【0048】
この変形例3によれば、次の作用効果が得られる。
(4)第1導体部100と壁部102の間、および第2導体部101と壁部102との間には、絶縁体106が配置される。そのため、物理的な距離に加えて絶縁体106の材料を変更することで誘電率も併用して、第1近接接地コンデンサCw21および第2近接接地コンデンサCw22の静電容量を調整できる。
【0049】
上述した各実施の形態および変形例は、それぞれ組み合わせてもよい。上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0050】
1、1A、1B、1C:電力変換装置
9 :筐体
11 :正極バスバ
11D :下部正極バスバ
11U :上部正極バスバ
12 :負極バスバ
12D :下部負極バスバ
12U :上部負極バスバ
100 :第1導体部
101 :第2導体部
102 :壁部
103 :第1壁
104 :第2壁
105 :U字形状壁
106 :絶縁体
141 :第1パワーモジュール
142 :第2パワーモジュール
Cy1 :第1接地コンデンサ
Cw21 :第1近接接地コンデンサ
Cw22 :第2近接接地コンデンサ