(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034966
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】クッション構造体
(51)【国際特許分類】
A47C 27/00 20060101AFI20240306BHJP
A47C 27/08 20060101ALI20240306BHJP
A47C 27/10 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
A47C27/00 Q
A47C27/08 G
A47C27/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139571
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】594176202
【氏名又は名称】株式会社デルタツーリング
(74)【代理人】
【識別番号】100101742
【弁理士】
【氏名又は名称】麦島 隆
(72)【発明者】
【氏名】アンジェロ・サビオ
(72)【発明者】
【氏名】ドメニコ・アニュスデイ
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悦則
(72)【発明者】
【氏名】小倉 由美
(72)【発明者】
【氏名】川崎 誠司
(72)【発明者】
【氏名】中本 良
(72)【発明者】
【氏名】谷水 健一
【テーマコード(参考)】
3B096
【Fターム(参考)】
3B096AA01
3B096AB02
(57)【要約】
【課題】身体の下に敷くクッションとして適し、リラックスした状態での使用に適するクッション構造体を提供する。
【解決手段】ボール支持部材220が2枚の被覆シート221を積層させて構成され、ボール210の直径より大きさの小さいボール膨出用開口部221aを備えた各ボール収容部222に弾性変形可能なボール210を配設している。隣接するボール収容部222間は固着されており、間隔保持用開口部221cも形成されている。ボール210は、荷重がかかることにより上下方向に弾性力が作用するだけでなく、平面方向にも運動できる。ボール支持部材220は被覆シート221から形成されているため、平面方向に変位した後、原位置に復帰しやすく、隣接するボール210同士が直接接触することも防止される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カバー内にボールクッションが収容されて構成されるクッション構造体であって、
前記ボールクッションは、
弾性変形可能な複数のボールと、前記複数のボールを支持するボール支持部材とを有して構成され、
前記ボール支持部材が、
積層された2枚の被覆シートを有し、
前記2枚の被覆シートのそれぞれが、平面方向に間隔をおいて前記ボールの直径未満の大きさのボール膨出用開口部が複数形成されていると共に、隣接する前記ボール膨出用開口部間の略中間において、前記2枚の被覆シート同士が、前記ボール膨出用開口部の中心を通過する直線に略直交する方向に所定の長さで固着された固着部を有し、かつ、複数のボール膨出用開口部に取り囲まれた範囲内に間隔保持用開口部が形成され、
前記2枚の被覆シートの間であって、一のボール膨出用開口部を中心として見た場合に、その周囲に位置する複数の固着部及び複数の間隔保持用開口部に取り囲まれた範囲が、前記ボール1個分のボール収容部を形成しており、
前記ボールが、前記各ボール収容部に、前記ボール膨出用開口部から一部を膨出させ、前記ボール膨出用開口部から前記各固着部までのボール被覆部が、前記ボールの表面に密接して収容されている
ことを特徴とするクッション構造体。
【請求項2】
前記ボール膨出用開口部が、縦横に所定間隔毎に形成されていると共に、前記固着部が、縦方向又は横方向にそれぞれ隣接する前記ボール膨出用開口部間の略中間に設けられ、前記間隔保持用開口部が、縦横に隣接する4つのボール膨出用開口部に取り囲まれた範囲の略中央部に形成され、
一のボール膨出用開口部を中心として見た場合に、4つの固着部及び4つの間隔保持用開口部に取り囲まれた範囲がボール1個分の前記ボール収容部を形成している請求項1記載のクッション構造体。
【請求項3】
前記ボールが、直径50~80mmであり、
前記ボール支持部材は、前記ボールを収容する前の状態で、前記ボール膨出用開口部の直径が25~45mm、前記ボール膨出用開口部を通過する直線に沿った前記ボール膨出用開口部を挟んだ一組の固着部間の距離が80~120mm、前記間隔保持用開口部の直径が50~90mmであり、
前記ボール収容部に前記ボールを収容した状態で、隣接する2つのボールの中心間の距離が60~95mmであり、
前記ボール収容部に前記ボールを収容した状態で、前記ボールの最大圧縮時の高さが25~40mmであり、その際の最大直径が55~90mmである
請求項1記載のクッション構造体。
【請求項4】
前記被覆シートが、塑性素材、弾性素材又は粘弾性素材のいずれか又はそれらの二以上の組み合わせにより形成されている請求項1記載のクッション構造体。
【請求項5】
前記ボールが、気体注入可能ボールであり、前記ボール支持部材に支持される各ボールへの気体の注入量により、各ボールの内圧を部分的に異ならせている請求項1記載のクッション構造体。
【請求項6】
前記ボール支持部材に支持された各ボールのうち、使用者の骨の突出部によって集中荷重がかかる箇所に対応するボールの内圧が、他のボールの内圧よりも低く設定されている請求項5記載のクッション構造体。
【請求項7】
前記カバーが、三次元立体編物から形成されている請求項1記載のクッション構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クッション構造体に関し、特に、着座姿勢、寝姿勢などリラックス時において使用するのに適するクッション構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、板状に成形したポリプロピレン、ポリエチレン等の発泡樹脂を車両用シートのクッション材として用いる技術が開示されている。発泡樹脂は軽量であるものの、曲げ荷重や圧縮荷重に対して割れや歪みを生じやすい。そのため、車両用シートのクッション材として利用されることはあまりなかったものの、特許文献1では、高い伸度と回復率を有する弾性被覆材を板状の発泡樹脂成形体の外面に接着することで、曲げ荷重に対する割れ等の発生を防止し、車両用シートのクッション材への積極的な適用を可能にしている。
【0003】
特許文献2は、発泡粒子と粉砕低反発合成樹脂粒子を外袋内に充填したクッション体を開示している。発泡粒子として、直径0.5~0.8mm程度のもの、粉砕低反発合成樹脂粒子として直径1.0~1.5mm程度のものを用い、所定の割合で外袋内に充填することで、発泡粒子の流動性による人体へのフィット感と、粉砕低反発合成樹脂粒子の弾性による支持感とのバランスを図ることを特徴としている。
【特許文献1】WO2009/142301号公報
【特許文献2】特開2009-225922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたクッション材は、直径98mm又は直径30mmの加圧板で50mm/minで加圧して得られる荷重-たわみ特性から求められるばね定数が、人の臀部筋肉を同様の条件で加圧して得られる荷重-たわみ特性から求められるばね定数に近似している。このため、臀部の痛みを感じにくく、長時間着座によっても疲れを感じにくいという特徴を有している。そこで、本発明者らは、このクッション材の構造を、車両用シートから切り離し、公園のベンチや地面、スポーツグランドの観覧席などで、着座姿勢又は寝姿勢で敷いて使用するもの、すなわち、リラックスした状態で使用するクッション材として検討した。しかしながら、かかる特性を有するものは、上記のように直径98mm又は直径30mmで測定される加圧板を用いた測定において人の臀部筋肉に近似するばね特性を有しているとしても、使用者が硬い着座感を意識することが比較的多いことが判明した。
【0005】
一方、特許文献2のものは、発泡粒子と粉砕低反発合成樹脂粒子を外袋内に充填しただけであり、着座時には、着座者の体型に沿ってそれらが外袋内で流動し、フィット感が得られるという利点はある。しかし、その流動した位置に発泡粒子等が偏ってしまい、その後、着座者が座り直した際には発泡粒子等の硬さを感じやすい。このような着座感の硬いものは、筋肉や神経の圧迫、血流の阻害等を生じやすく、しびれや疲労が着座後早期に生じやすい。そのため、特許文献2のものは短時間での使用にはそれほど支障はないと考えられるものの、上記のようにリラックスした状態で、しかもスポーツ観戦など連続使用時間が比較的長い用途で使用するクッション材としては適していない。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、しびれや疲労が生じるような違和感を抑制し、リラックスした状態での使用に適するクッション構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のクッション構造体は、
カバー内にボールクッションが収容されて構成されるクッション構造体であって、
前記ボールクッションは、
弾性変形可能な複数のボールと、前記複数のボールを支持するボール支持部材とを有して構成され、
前記ボール支持部材が、
積層された2枚の被覆シートを有し、
前記2枚の被覆シートのそれぞれが、平面方向に間隔をおいて前記ボールの直径未満の大きさのボール膨出用開口部が複数形成されていると共に、隣接する前記ボール膨出用開口部間の略中間において、前記2枚の被覆シート同士が、前記ボール膨出用開口部の中心を通過する直線に略直交する方向に所定の長さで固着された固着部を有し、かつ、複数のボール膨出用開口部に取り囲まれた範囲内に間隔保持用開口部が形成され、
前記2枚の被覆シートの間であって、一のボール膨出用開口部を中心として見た場合に、その周囲に位置する複数の固着部及び複数の間隔保持用開口部に取り囲まれた範囲が、前記ボール1個分のボール収容部を形成しており、
前記ボールが、前記各ボール収容部に、前記ボール膨出用開口部から一部を膨出させ、前記ボール膨出用開口部から前記各固着部までのボール被覆部が、前記ボールの表面に密接して収容されている
ことを特徴とする。
【0008】
前記ボール膨出用開口部が、縦横に所定間隔毎に形成されていると共に、前記固着部が、縦方向又は横方向にそれぞれ隣接する前記ボール膨出用開口部間の略中間に設けられ、前記間隔保持用開口部が、縦横に隣接する4つのボール膨出用開口部に取り囲まれた範囲の略中央部に形成され、
一のボール膨出用開口部を中心として見た場合に、4つの固着部及び4つの間隔保持用開口部に取り囲まれた範囲がボール1個分の前記ボール収容部を形成していることが好ましい。
【0009】
前記ボールが、直径50~80mmであり、
前記ボール支持部材は、前記ボールを収容する前の状態で、前記ボール膨出用開口部の直径が25~45mm、前記ボール膨出用開口部を通過する直線に沿った前記ボール膨出用開口部を挟んだ一組の固着部間の距離が80~120mm、前記間隔保持用開口部の直径が50~90mmであり、
前記ボール収容部に前記ボールを収容した状態で、隣接する2つのボールの中心間の距離が60~95mmであり、
前記ボール収容部に前記ボールを収容した状態で、前記ボールの最大圧縮時の高さが25~40mmであり、その際の最大直径が55~90mmである
ことが好ましい。
【0010】
前記被覆シートが、塑性素材、弾性素材又は粘弾性素材のいずれか又はそれらの二以上の組み合わせにより形成されていることが好ましい。
また、前記ボールが、気体注入可能ボールであり、前記ボール支持部材に支持される各ボールへの気体の注入量により、各ボールの内圧を部分的に異ならせた構成とすることができる。
この場合、使用者の骨の突出部によって集中荷重がかかる箇所に対応する前記ボールの内圧が、他のボールの内圧よりも低く設定されていることが好ましい。
さらに、前記カバーが、三次元立体編物から形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のクッション構造体は、ボール支持部材が2枚の被覆シートを積層させて構成され、ボールの直径より大きさの小さいボール膨出用開口部を備えた各ボール収容部に弾性変形可能なボールを配設している。また、隣接するボール収容部間は固着されており、間隔保持用開口部も形成されている。そのため、ボールは、荷重がかかることにより上下方向に弾性力が作用するだけでなく、平面方向にも運動できる。また、隣接するボール同士が直接接触することも防止される。それにより、ボールが隣接するボールに接触して圧縮されることもなく、着座姿勢や寝姿勢で身体の下に敷いて使用する場合でも、予め想定しているボール本来ののクッション特性を十分機能させることができ、リラックスした状態での使用に適する。
【0012】
また、ボールとして直径50~80mmのものを用いると共に、ボール収容部にボールを収容した状態で、隣接する2つのボールの中心間の距離が60~95mmの範囲となる構成にすると、使用者の身体を部分的に押圧するような違和感がなく、よりリラックスした状態の使用に適する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一の実施形態に係るクッション構造体の一部を切り欠いて示した斜視図である。
【
図2】
図2は、カバーのファスナーを開け、内部に収容されたボールクッションを示した図である。
【
図4】
図4は、ボールクッションの一部を示した平面図である。
【
図5】
図5は、ボールクッションの一部を示した断面図である。
【
図6】
図6(a)は、展開状態におけるボール支持部材の一部を示した平面図であり、
図6(b)は、その一部断面図である。
【
図7】
図7(a)は、部分的に圧力を異ならせたボールクッションの一例を示した斜視図であり、
図7(b)は、10Nの負荷をかけたときのボールの高さを示した図である。
【
図8】
図8(a)は、クッション構造体を椅子の座部及び背部に積層配置した事例を説明するための正面方向から見た図であり、
図8(b)はその側面方向から見た図である。
【
図9】
図9(a)は、
図8で用いた座部用クッション構造体の側面方向から見た図であり、
図9(b)はその背面方向から見た図である。
【
図10】
図10(a)は、
図8で用いた背部用クッション構造体の側面方向から見た図であり、
図10(b)は、
図8(a),(b)の椅子に配置した状態における背部用クッション構造体の平面方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に示した本発明の実施形態に基づき、さらに詳細に説明する。
図1及び
図2は、本発明の一の実施形態に係るクッション構造体100を示す図である。本実施形態のクッション構造体100は、ボールクッション200及びカバー300を有して構成される。
【0015】
ボールクッション200は、
図3~
図5に示したように、ボール210と、ボール支持部材220を有して構成される。ボール210は、弾性変形可能なものが用いられ、直径100mm以下、好ましくは直径50~80mmの範囲のもの、より好ましくは55~75mmの範囲のものが用いられる。ゴム等の弾性反発力を有するものであれば、中実のボールでもよいが、好ましくは、ソフトテニスボール、硬式テニスボール等、気体が注入されたボールである。気体の注入量を調節することで所望の弾性に調整することが比較的容易である。
【0016】
また、各ボール210に注入する気体の注入量を調整し、ボール支持部材220に配置される全てのボール210の内圧を一律にするのではなく、ボール210によって異ならせることともできる。ウレタンパッドなどを用いたクッションの場合、所定の形状とするために成型用の型の設計から行う必要があるが、気体注入形式のボール210を用いれば、ボール210の配置によってボール210の注入量を異ならせれば、圧力の高い部分や低い部分を所望の位置に設定できる。すなわち、ボール210への気体の注入用の調整により、背や臀部に当接する面の形状を所定の形状に設定できる。
【0017】
また、例えば、使用者の骨が突出し、集中荷重がかかる位置に配設されるボール210のみ、気体の注入量を調節して他のボール210よりも内圧を低くすることも好ましい。これにより、全てのボール210を均一な内圧とする場合よりも、使用時においてクッション構造体100に包まれるような感覚となり、フィット感や使用感に優れ、心地よい感じを与える。例えば、椅子の背もたれとの間に挿入して使用するクッション構造体100の場合には、背骨付近に位置する1個から数個のボール210の内圧を他のボール210よりも低く設定することが好ましい。椅子の座面に敷いたり、床や地面上に敷いたりして臀部下で使用する場合には、座骨や尾骨の位置に対応する1個から数個のボール210の内圧を他のボール210よりも低く設定することが好ましい。
【0018】
ボール支持部材220は、積層された2枚の被覆シート221,221を有して構成される(
図5参照)。被覆シート221,221は、塑性素材、弾性素材又は粘弾性素材のいずれか又はそれらの二以上の組み合わせにより形成することができる。これらの素材は、合成樹脂製のフィルム、天然繊維又は合成繊維から形成される布地若しくは不織布等のいずれであってもよい。塑性素材若しくは伸度の小さい素材を用いることで、面剛性を高くすることができ、例えばベッドに敷いて使用する場合等において、寝返りなどの姿勢変化や起き上がる際に支点が形成され、それらの動きをサポートできる。このような被覆シート221,221の素材としては、例えば、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリオレフィン、あるいはこれらのエラストマー等からなるプラスチックフィルムを用いることができる。また、綿や絹等の天然繊維を用いた織布も好ましい。これらの塑性素材や伸度の低い素材は、例えば椅子の背もたれと使用者の背の間に挿入して使用する場合も、使用者の背への追従性が高まることから好ましい。一方、着座状態で尻下に敷く場合には、座骨結節に荷重が集中すると共に、大腿筋にせん断力が作用し、神経圧迫や血流阻害が生じ、臀部にしびれが発生しやすいことから弾性フィルムを用いることが好ましい。
【0019】
このように、本実施形態によれば、被覆シート221,221の素材により、変形しにくく姿勢の変化を行いやすい構成としたり、体圧分散性を高めた構成としたりすることができる。また、被覆シート221,221の一部と他の部分とで異なる素材を用いたり、2枚の被覆シート221,221のうち一方は塑性素材(あるいは伸度の低い素材)を用い、他方は弾性素材を用いる等することにより、種々の特性とすることができる。
【0020】
各被覆シート221は、それぞれ、平面方向に間隔をおいて、本実施形態では、
図4~
図6に示したように、縦横に所定間隔毎にボール膨出用開口部221aが形成されている。
【0021】
ボール膨出用開口部221aの中心を通り、ボール膨出用開口部221aの外方に延びる直線P1,P2上であって、縦方向又は横方向に隣接するボール膨出用開口部221a、221a間の中間付近に、直線P1,P2に略直交する方向に所定長さにわたって、積層された2枚の被覆シート221,221同士を固着した固着部221bが形成されている。固着手段は限定されるものではなく、使用する被覆シート221の素材により適宜の手段が用いられる。例えば、綿糸等からなる織布であれば、縫合や接着等の手段が用いられ、合成樹脂製のフィルムであれば、溶着(振動溶着等)や接着等の手段が用いられる。
【0022】
また、縦横に隣接する4つのボール膨出用開口部221aに取り囲まれた範囲の略中央部には間隔保持用開口部221cが形成されている。この間隔保持用開口部221cを有することにより、ボール210が後述のボール被覆面221dと一体になって平面方向に動き易くなり、体動への追従性が高まる。
【0023】
そして、一のボール膨出用開口部221aを中心として見た場合に、その周囲に存在する4つの固着部221b及び4つの間隔保持用開口部221cに取り囲まれた範囲がボール210の1個分のボール収容部222を構成する。
【0024】
よって、ボール収容部222においては、2枚の被覆シート221,221のうち、ボール膨出用開口部221aから、その周囲に位置する4つの固着部221bに至るまでの範囲がボール210の表面を被覆するボール被覆面221dを構成する。ボール被覆面221dがボール210に密接するため、上記のように、被覆シート221,221の種類や特性に応じて、ボール210と共に変形する際の特性を様々な特性とすることができる。
【0025】
ボール210をボール収容部222に収容する際には、固着部221bを形成して該ボール収容部222を形成した後、ボール膨出用開口部221aからボール210を2枚の被覆シート221間に挿入する。このとき、ボール210は、気体の注入量を少なくしておき、例えば、通常の20~80%程度としておき、あるいは、気体を全く注入しない状態としておく。これにより、ボール210を容易に変形させることができ、ボール210より直径の小さなボール膨出用開口部221aから容易にボール210を挿入できる。この点でも、ボール210としては中実のものよりも、気体を注入して使用するタイプのものを用いることが好ましい。
【0026】
ボール膨出用開口部221aからボール210を挿入後、気体を注入する。これにより、ボール210が膨らむと、ボール210は、2枚の被覆シート221,221のボール被覆面221dに密接すると共に、ボール210の一部が各被覆シート221,221に形成されたボール膨出用開口部221aから膨出し、ボール収容部222内に配置され、使用時においてボール膨出用開口部221aから離脱することもなくセットされる。
【0027】
ボール支持部材220は、
図6に示したようなボール210を収容する前の展開状態(2枚の被覆シート221,221が重なり合ってかつ平坦となっている状態)で、ボール膨出用開口部221aは、直径L1が、ボール210の直径未満、好ましくは、ボール210の直径の1/2~2/3程度であることが好ましく、ボール210が50~80mmの場合、直径25~45mmの範囲が好ましい。これにより、ボール210は、2枚の被覆シート221の各ボール膨出用開口部221aから一部が膨出する一方で、ボール210の表面が2枚の被覆シート221,221の各ボール被覆面221cが密接し、ボール膨出用開口部221aを通じて外方に飛び出ることが防止される。
【0028】
ボール被覆面221cをボール210に密接させた状態において、隣接するボール収容部222,222に収容されたボール210,210同士が平面方向に接触することを抑制するため、ボール膨出用開口部210aを通過する直線P1,P2に沿ったボール膨出用開口部210aを挟んだ一組の固着部221b,221b間の距離L2は80~120mmであることが好ましく、90~110mmであることがより好ましい。
【0029】
また、間隔保持用開口部221cの直径(間隔保持用開口部221cが円形ではなく、例えば略方形の場合はその対向辺間の距離)が50~90mmであることが好ましく、60~80mmであることがより好ましい。
【0030】
また、直径50~80mmのボール部材210を各ボール収容部222に収容した状態では、隣接する2つのボール210,210の中心間の距離L3は60~95mmの範囲となることが好ましく、より好ましくは、70~85mmの範囲とすることがより好ましい。但し、ボール支持部材220として、展開状態で上記の形状及び寸法要件を満たすものを用いることにより、直径50~80mmのボール部材210を各ボール収容部222に挿入した状態で隣接する2つのボール210,210の中心間の距離L3がこの範囲に収まる。
【0031】
さらに、ボール収容部222にボール210を収容した状態で、上方から設計上の荷重(10~20N)をかけた際に、ボール210の最大圧縮時の高さH1が25~40mmであり、その際の最大直径W1が55~90mmであることが好ましい。好ましくは、ボール210の弾性及びボール支持部材220の弾性は、上記の寸法要件の範囲でこの条件を満たす特性のものが用いられる。
【0032】
なお、ボール支持部材220に形成するボール収容部222の個数すなわち配置可能なボール210の数は限定されるものではなく、着座用であれば、座布団や椅子の座面に相当する大きさ、寝姿勢で使用する場合には、ベッドに相当する大きさとなるように調整される。
【0033】
カバー300は、上記のボールクッション200を収容できるように、
図1及び
図2に示したように、マチのある袋状に形成され、周面にファスナー301が設けられて開閉可能となっている。カバー300を形成する素材は限定されるものではないが、人に接して所定の触感を与える面であるため、風合い、肌触りなどが心地よいものが好ましい。例えば、フェルト生地、モケット生地、三次元立体編物などを用いることができる。但し、空気の流通性に優れると共に、素材自体の圧縮及び復元により内外の換気を促すことができることから三次元立体編物を用いることが好ましい。
【0034】
三次元立体編物は、互いに離間して配置された一対のグランド編地同士を連結糸で結合することにより形成されている。各グランド編地は、例えば、繊維を撚った糸から、ウェール方向及びコース方向のいずれの方向にも連続したフラットな編地組織(細目)に形成したり、ハニカム状(六角形)のメッシュを有する編地組織に形成したりすることができる。連結糸は、一方のグランド編地と他方のグランド編地とが所定の間隔を保持するように、三次元立体編物に所定の剛性を付与している。従って、面方向に張力が付与されることにより、三次元立体編物を構成する対向するグランド編地の糸、あるいは、対向するグランド編地間を連結する連結糸を弦振動させることが可能となる。網目とこれらの糸の運動により換気が促される。
【0035】
三次元立体編物のグランド編地を形成する糸又は連結糸の素材としては、種々のものを用いることができるが、例えば、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、レーヨン等の合成繊維や再生繊維、ウール、絹、綿等の天然繊維が挙げられる。上記素材は単独で用いてもよいし、これらを任意に併用することもできる。好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などに代表されるポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66などに代表されるポリアミド系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレンなどに代表されるポリオレフィン系繊維、あるいはこれらの繊維を2種類以上組み合わせたものである。また、グランド糸又は連結糸の糸形状も限定されるものではなく、丸断面糸、異形断面糸、中空糸等のいずれでもよい。さらに、カーボン糸、金属糸等を使用することもできる。
【0036】
三次元立体編物は、このような構成からなるため、面剛性が高く摩擦係数が低いという特性を有する。従って、三次元立体編物をカバー300として用いた場合には、荷重の分散性に優れ、長時間の使用でもしびれや痛みの抑制に貢献できる。
【0037】
ボールクッション200をカバー300内に収容した本実施形態のクッション構造体100は、着座姿勢又は寝姿勢で使用者の身体の下に敷いて使用する。例えば、クッション構造体1を臀部下において使用する場合、使用者の体重により、各ボール210が圧縮される。このとき各ボール210は、それぞれがボール収容部222に配置され、隣接するボール収容部222,222間には固着部221bが存在し、かつ、間隔保持用開口部221cが存在するため、圧縮されて横方向に膨張変形しても、隣接するボール210,210同士が接触せず、ボール210自体の有する弾性特性が発揮される。
【0038】
しかも、ボール210,210の中心間の距離が上記のように設定されているため、使用者に接触している範囲において複数のボール210,210の凹凸を知覚しにくく、違和感なく使用できる。
【0039】
また、各ボール収容部222を構成する、ボール膨出用開口部221aの周囲から延び、4つの固着部221bに至るまでの範囲であるボール被覆面221dがボール210に密接する。これにより、ボール支持部材220を構成する被覆シート221の有する特性も併せて作用する。例えば、被覆シート221として伸度の低い素材を使用した場合には、剛性が高くなり、ボール210の弾性変形も抑制される。これにより、寝姿勢で身体の下に敷いた場合にも、起き上がり性がよくなる。一方、被覆シート221として弾性の高い素材を用いた場合には、尻下に敷いて使用する場合等において体圧分散性を高めることができる。すなわち、ボール210が面方向に運動する場合にその弾性反力が作用するため、使用者による面方向への動きに追従でき、フィット感を高め、違和感を軽減させる。
【0040】
また、カバー300として三次元立体編物を用いることにより、上記のように長時間の使用等において生じるしびれや痛みの発生の抑制に寄与できる。また、網目を備えているため、雨などで濡れた場合でも乾きやすく、屋外での使用にも適する。
【0041】
ここで
図7(a),(b)は、ボール210への気体の注入量を部分的に異ならせて、所望のクッション特性を付与したボールクッション200の例を示し、このうち、(a)はその外観を示し、(b)は、10Nの負荷をかけた時における各ボール210の高さを示している。
図7(b)中、各マス目内の数字が、各マス目に対応する位置の
図7(a)の各ボール210の高さ(単位:mm)であり、各行の右横にその当該行に属する7個のボール210の高さの平均値を示している。これらの図に示したとおり、前方側2列、その後方2列、さらにその後方3列の順に、「圧力高」、「圧力中」、「圧力低」となるようにボール210への気体の注入量を調整している。このボールクッション200は、大腿部側が図の「前方」側となるように臀部下に敷き、例えば座骨付近が「圧力中」から「圧力低」の範囲、尾骨付近が「圧力低」の範囲となるように使用される。これにより、座骨から尾骨周辺では、圧力が低いため、圧力が高い範囲よりも接触面積が増加し、一点への荷重集中が抑制されて、筋肉のひきつれや圧迫が抑制され、座骨結節付近における神経の圧迫が抑制される。それにより長時間使用によるしびれや痛みの発生を軽減できる。また、「圧力高」の範囲が、座骨結節より前方から大腿部下に相当する範囲となるため、圧力が変化する付近において堰が形成され、尻滑りと言われる臀部の前方へのずれを抑制できる。このボールクッション200をカバー300内に配置することで、所望の接触面形状を備えたクッション構造体1を提供できる。
【0042】
本実施形態のクッション構造体100は、ボール210を複数有するため、所定の面積を有する椅子やベッドタイプの人体支持具に使用するのに適している。例えば、野球場の外野スタンドなどの各種競技場の芝生席や広めの観覧席に敷いて使用でき、それにより、リラックスした観戦に貢献できる。
【0043】
例えば、
図8(a),(b)は、2個のクッション構造体100A,100Bを用いて製作した椅子(応接用、事務用等の家具用椅子)1000の適用事例を示す。椅子1000には、三次元立体編物や二次元の布帛等から構成されるベースネットや、このベースネットをフレームに弾性的に支持するためのばね部材等が組み込まれた座部側ベース支持部1100及び背部側ベース支持部1200が設けられている。そして、座部側ベース支持部1100上に、一方のクッション構造体(座部用クッション構造体)100Aが積層配置され、背部側ベース支持部1200の正面側に他方のクッション構造体(背部用クッション構造体)100Bが積層配置される。
【0044】
各クッション構造体100A,100Bは、それぞれレザー製のカバー300を採用し、その内部に上記構成のボールクッション200が収容されている。このうち、座部用クッション構造体100Aは、
図9(a),(b)に示したように、前縁100A1側が相対的に高く、後縁100A2側が相対的に低くなっている。これは、ボールクッション200を構成する複数のボール210のうち、前縁100A1寄りに配置されたものの内圧が高く、後縁100A2寄りに配置されたものの内圧が低く設定されているためで、各ボール210は、
図7に示したものとほぼ同様の気体の注入量調整がされたものが収容されている。従って、座部用クッション構造体100Aは、座骨結節付近の接触面積が高くて反力が小さく、筋肉のひきつれや圧迫等が生じにくく、かつ、尻滑りも抑制でき、安定感のある着座感を提供できる。
【0045】
背部側クッション構造体100Bは、
図10(a)に示したように、カバー300内に収容されているボールクッション200として、下縁100B1寄りに配置されたボール210の内圧が高く、上縁100B2寄りに配置されたボール210の内圧が低く設定されている。これにより、別部材としてランバーサポートを配置しなくても、腰部に相当する付近をサポートできる。また、
図10(b)に示したように、脊柱に対応する幅方向中央付近100B3が、その両側よりも厚さが薄い凹状となっている。すなわち、幅方向中央付近100B3に対応するボール210の気体の注入量をその両側よりも少なくし、内圧を低下させている。これにより、背骨に対する接触面積が広がり、ボール210の内圧を高めたときのように点に近い接触感ではないため、痛み等を感じく、快適な座り心地を提供できる。この例に示したように、本実施形態によれば、ボール210への気体の注入量の調整によって、クッション構造体100A,100Bの表面形状やクッション特性を様々に調整できる。
【符号の説明】
【0046】
100,100A,100B クッション構造体
200 ボールクッション
210 ボール
220 ボール支持部材
221 被覆シート
221a ボール膨出用開口部
221b 固着部
221c 間隔保持用開口部
221d ボール被覆面
222 ボール収容部
300 カバー
301 ファスナー