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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034974
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】自己修復性永久磁石組成物および装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20240306BHJP
   H01F 1/059 20060101ALI20240306BHJP
   H01F 1/113 20060101ALI20240306BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20240306BHJP
   H01F 1/08 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
H01F1/057 180
H01F1/059 160
H01F1/113
H01F7/02 A
H01F1/08 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139582
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】522184121
【氏名又は名称】日本ペイントコーポレートソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】坂本 裕之
【テーマコード(参考)】
5E040
【Fターム(参考)】
5E040AA03
5E040AB03
5E040BB03
5E040CA01
(57)【要約】
【課題】永久磁石組成物が損傷した場合であっても、永久磁石組成物を交換することなく、機能を回復可能な自己修復性永久磁石組成物を提供すること。
【解決手段】着磁された磁性体粉末と、自己修復材料と、を含む、自己修復性永久磁石組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着磁された磁性体粉末と、
自己修復材料と、
を含む、自己修復性永久磁石組成物。
【請求項2】
前記自己修復材料が、ポリボロシロキサン、シクロデキストリンーアダマンタン誘導体および多官能ウレタン(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載の自己修復性永久磁石組成物。
【請求項3】
前記自己修復材料が、ポリボロシロキサンを含む、請求項2に記載の自己修復性永久磁石組成物。
【請求項4】
前記磁性体粉末が、Nd-Fe合金、ハードフェライト合金およびSm-Fe合金からなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載の自己修復性永久磁石組成物。
【請求項5】
前記ポリボロシロキサンが第1のポリマーであり、
第2のポリマーをさらに含む、請求項3に記載の自己修復性永久磁石組成物。
【請求項6】
ロボット、センサー、ポンプ、搬送装置、バルブ装置、把持装置、ブレーキ、クラッチ、ダンパ、ショックアブソーバー、制震装置、振動発電装置、ハプティクス、力触覚提示装置、医療機器、福祉機器および吸着装置からなる群より選択される装置に、請求項1~5のいずれか一項に記載の自己修復性永久磁石組成物を用いた、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己修復性永久磁石組成物および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石エラストマーは、永久磁石粉末とシリコーンゲルなどの弾性体とを混合して加熱および硬化させた永久磁石材料である(例えば、特許文献1)。永久磁石エラストマーは、その磁石形状が多様であり、柔軟であり得ることから、センサー、振動発電、アクチュエーターなどの多くの用途での展開が期待できる。
【0003】
しかし、従来の永久磁石エラストマーは、損傷するとその機能が低下してしまい、機能を回復するためには永久磁石エラストマーの交換が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-152337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、永久磁石組成物が損傷した場合であっても、永久磁石組成物を交換することなく、機能を回復可能な自己修復性永久磁石組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る自己修復性永久磁石組成物は、
着磁された磁性体粉末と、
自己修復材料と、
を含む、自己修復性永久磁石組成物である。これによって、自己修復性永久磁石組成物が損傷した場合であっても、自己修復性永久磁石組成物を交換することなく、機能を回復可能である。
【0007】
本発明に係る自己修復性永久磁石組成物の一実施形態では、前記自己修復材料が、ポリボロシロキサン、シクロデキストリンーアダマンタン誘導体および多官能ウレタン(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上である。
【0008】
本発明に係る自己修復性永久磁石組成物の一実施形態では、前記自己修復材料が、ポリボロシロキサンを含む。
【0009】
本発明に係る自己修復性永久磁石組成物の一実施形態では、前記磁性体粉末が、Nd-Fe合金、ハードフェライト合金およびSm-Fe合金からなる群より選択される1種以上である。
【0010】
本発明に係る自己修復性永久磁石組成物の一実施形態では、前記ポリボロシロキサンが第1のポリマーであり、自己修復性永久磁石組成物は、第2のポリマーをさらに含む。
【0011】
本発明に係る装置は、ロボット、センサー、ポンプ、搬送装置、バルブ装置、把持装置、ブレーキ、クラッチ、ダンパ、ショックアブソーバー、制震装置、振動発電装置、ハプティクス、力触覚提示装置、医療機器、福祉機器および吸着装置からなる群より選択される装置に、上記のいずれかの自己修復性永久磁石組成物を用いた、装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、自己修復性永久磁石組成物が損傷した場合であっても、自己修復性永久磁石組成物を交換することなく、機能を回復可能な自己修復性永久磁石組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。これらの記載は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0014】
本発明において、2以上の実施形態を任意に組み合わせることができる。
【0015】
本発明において、「永久磁石」とは、異方性磁石と同義であり、永久磁石組成物全体としてある一定方向に磁化している磁石、永久磁石組成物全体として磁極の向きが一定である磁石または永久磁石組成物全体として磁化の方向がランダムではない磁石を表す。
【0016】
本明細書において、(メタ)アクリレートは、アクリレートおよびメタクリレートからなる群より選択される1種以上を表す。
【0017】
本明細書に記載の材料および化合物は、別段の記載がない限り、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
本明細書において、第1、第2、工程(A)、工程(B)、工程(C)などの符号は、ある要素、材料、工程などを他の要素、材料、工程などと区別するために使用しており、その要素または材料の多少および工程の順序を限定することを意図するものではない。
【0019】
本明細書において、数値範囲は、別段の記載がない限り、その範囲の上限値および下限値を含むことを意図している。例えば、1~100μmは、1μm以上100μm以下の範囲を意味する。
【0020】
(自己修復性永久磁石組成物)
本発明に係る自己修復性永久磁石組成物は、
着磁された磁性体粉末と、
自己修復材料と、
を含む、自己修復性永久磁石組成物である。
【0021】
以下、本発明の自己修復性永久磁石組成物(以下、単に「組成物」ということがある。)が含む各成分について説明する。
【0022】
・着磁された磁性体粉末
着磁された磁性体粉末は、着磁によって自発磁化を保持している磁性体粉末である。着磁された磁性体粉末は、損傷していない自己修復性永久磁石組成物においては、磁場の印加と非印加によってクラスタの形成と解除を担う。また、損傷した自己修復性永久磁石組成物、例えば、衝撃などによって破断した自己修復性永久磁石組成物においては、破断したそれぞれの自己修復性永久磁石組成物片の破断面同士を磁力によって引きつける働きを有する。
【0023】
磁性体粉末としては、着磁によって自発磁化を保持可能な公知の永久磁石エラストマー、磁気粘弾性エラストマー、MR流体などに用いられる磁性体粉末を用いることができる。磁性体粉末としては、例えば、ネオジム磁石(Nd-Fe合金)、サマリウム・コバルト磁石(Sm-Co合金)、サマリウム・鉄磁石(Sm-Fe合金)、ハードフェライト合金、アルニコ磁石などが挙げられる。また、特開2021-015956号に記載の希土類磁石粒子を用いてもよい。
【0024】
本発明に係る自己修復性永久磁石組成物の一実施形態では、前記磁性体粉末が、Nd-Fe合金、ハードフェライト合金およびSm-Fe合金からなる群より選択される1種以上である。
【0025】
磁性体粉末の平均粒子径は、例えば、1~100μmである。一実施形態では、磁性体粉末の平均粒子径は、1μm以上、2μm以上、3μm以上、4μm以上、5μm以上、6μm以上、7μm以上、8μm以上、9μm以上、10μm以上、15μm以上、20μm以上、25μm以上、30μm以上、35μm以上、40μm以上、45μm以上、50μm以上、60μm以上、70μm以上、80μm以上または90μm以上である。別の実施形態では、磁性体粉末の平均粒子径は、100μm以下、90μm以下、80μm以下、70μm以下、60μm以下、50μm以下、45μm以下、40μm以下、35μm以下、30μm以下、25μm以下、20μm以下、15μm以下、1μm以下、9μm以下、8μm以下、7μm以下、6μm以下、5μm以下、4μm以下、3μm以下または2μm以下である。
【0026】
磁性体粉末は、上記磁性体粉末(平均粒子径が1μm以上の大磁性体粉末)に加えて、より小さい平均粒子径の小磁性体粉末を用いてもよいし、用いなくてもよい。
【0027】
小磁性体粉末の材料としては、例えば、鉄、フェライト(Mn(II)、Co(II)、Ni(II)、Cu(II)、Zn(II)などの鉄(III)酸塩)、マグネタイト(Fe(II)の鉄(III)酸塩)などが挙げられる。フェライトとしては、例えば、Mnフェライト、Mn-Znフェライト、Mn-Mgフェライト、Mn-Mg-Srフェライト、Mgフェライト;アルカリ金属、アルカリ土類金属、軽金属類を含有する上記フェライトなどが挙げられる。この他、前述の材料も挙げられる。
【0028】
小磁性体粉末の平均粒子径は、例えば、20~300nmである。小磁性体粉末の平均粒子径は、降伏応力と沈降抑制の観点から、40~200nmが好ましい。
【0029】
磁性体粉末が小磁性体粉末を含む場合、小磁性体粉末の割合は、例えば、磁性体粉末の総質量に対して、例えば、5質量%未満である。
【0030】
着磁された磁性体粉末の量は、適宜調節すればよく、例えば、組成物の総質量に対して、20~92質量%とすることができる。あるいは、着磁された磁性体粉末の量は、組成物の総体積に対して、3~70体積%とすることができる。一実施形態では、着磁された磁性体粉末の量は、組成物の総質量に対して、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上または90質量%以上である。別の実施形態では、着磁された磁性体粉末の量は、組成物の総質量に対して、92質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下または30質量%以下である。さらに別の実施形態では、着磁された磁性体粉末の量は、組成物の総体積に対して、3体積%以上、5体積%以上、10体積%以上、20体積%以上、30体積%以上、40体積%以上、50体積%以上または60体積%以上である。さらに別の実施形態では、着磁された磁性体粉末の量は、組成物の総体積に対して、70体積%以下、60体積%以下、50体積%以下、40体積%以下、30体積%以下、20体積%以下、10体積%以下または5体積%以下である。
【0031】
本発明の自己修復性永久磁石組成物においては、磁性体粉末は、着磁されており、組成物全体として、永久磁石の性質を有する。
【0032】
・自己修復材料
自己修復材料は、損傷した自己修復性永久磁石組成物、例えば、衝撃などによって破断した自己修復性永久磁石組成物において、引きつけられ接触したそれぞれの自己修復性永久磁石組成物片同士の界面において組成物片間の結合を修復する機能を有する。
【0033】
自己修復材料の自己修復メカニズムは、特に限定されず、接触したそれぞれの自己修復性永久磁石組成物片同士の界面において組成物片間の結合を修復する機能を有すればよい。自己修復メカニズムとしては、例えば、可逆的な分子レベルでの動的共有結合の形成が挙げられる。
【0034】
また、自己修復メカニズムは、力、熱、磁力、化学成分などの外部からの刺激などを必要としないものであってもよいし、外部から刺激に応じてまたは外部からの刺激を利用して自己修復作用を生じるものであってもよい。
【0035】
自己修復材料としては、公知の自己修復材料を適宜選択して用いることができる。自己修復材料としては、例えば、ポリボロシロキサン、シクロデキストリン-アダマンタン誘導体、多官能ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテルチオ尿素などが挙げられる。
【0036】
ポリボロシロキサンとしては、例えば、特開2022-051618号、P. Puneet et.al., Electrochemical evaluation of the rapid self-healing behavior of poly(borosiloxane) and its use for corrosion protection of metals, Vol. 93, 2018, pages 1-4に記載のポリボロシロキサンなどが挙げられる。本発明において、ポリボロシロキサンは、シロキサン結合-SiO-とホウ素とを含む繰り返し単位を有するポリマーを指す。
【0037】
一実施形態では、ポリボロシロキサンは、以下の式(1)の繰り返し単位を有する。
-[SiX-O-BY-O-]- 式(1)
式(1)中、nは、1以上の整数であり、Siは、ケイ素であり、Bは、ホウ素であり、X、XおよびYは、それぞれ独立して、水素、アルキル基、アルコキシ基またはフェニル基である。また、式(1)のアルキル基およびアルコキシ基は、例えば、炭素数1~3である。式(1)のアルキル基およびアルコキシ基は、1以上の水素がフッ素、塩素、臭素またはヨウ素で置換されていてもよい。式(1)のフェニル基は、1以上の水素がアルキル基、アルコキシ基またはフッ素、塩素、臭素もしくはヨウ素で置換されていてもよい。式(1)中、nは、例えば、1~1000、4~500または20~125である。
【0038】
ポリボロシロキサンを合成するための原料の一つであるシロキサンとしては、例えば、シラノール末端のポリジメチルシロキサンなどが挙げられる。シラノール末端のポリジメチルシロキサンの重量平均分子量(Mw)は、例えば、400~3500であり、500~1700が好ましい。
【0039】
シクロデキストリン-アダマンタン誘導体としては、例えば、特許第6624660号、国際公開第2019/044848号、特開2017-071710号などに記載のシクロデキストリン-アダマンタンポリマー、高分子ゲル、ヒドロゲルなどが挙げられる。
【0040】
多官能ウレタン(メタ)アクリレートとしては、例えば、特開2013-049839号に記載のウレタン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。このウレタン(メタ)アクリレートは、ポリオールと、ポリイソシアネートと、水酸基含有(メタ)アクリレートとを反応させて得られ、ポリオールは、脂肪族ポリオールおよび環状構造を有するポリオールから選択される少なくとも1種である。一実施形態では、多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、多官能ウレタンアクリレートおよび多官能ウレタンメタクリレートを含む。
【0041】
ポリオールとしては、例えば、ヒドロキシ末端ポリエステル、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリエステルカーボネートポリオール、ポリエーテルカーボネートポリオール、ポリエステルアミドポリオールなどが挙げられる。
【0042】
ポリエーテルポリオールとしては、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリオキシエチレン-プロピレングリコール(EO-PO)、ポリオキシエチレン-ビスフェノールAエーテル、ポリオキシプロピレン-ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレングリコール変性ジオールなどが挙げられる。
【0043】
ポリイソシアネートとしては、1分子中にイソシアネート基を2以上有するポリイソシアネートが挙げられ、例えば、ジイソシアネートである。
【0044】
ジイソシアネートとしては、例えば、脂肪族ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネートおよび脂環式ジイソシアネートなどが挙げられる。
【0045】
脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、エチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0046】
芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-キシレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0047】
脂環式ジイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0048】
水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレートなどが挙げられる。
【0049】
本発明に係る自己修復性永久磁石組成物の一実施形態では、前記自己修復材料が、ポリボロシロキサンを含む。別の実施形態では、自己修復材料は、ポリボロシロキサンである。
【0050】
自己修復材料の量は、適宜調節すればよく、例えば、組成物の総質量に対して、8~80質量%とすることができる。あるいは、自己修復材料の量は、組成物の総体積に対して、30~97体積%とすることができる。
【0051】
本発明の組成物が、後述する第2のポリマーをさらに含む場合、自己修復材料の量は、上述したように、組成物の総質量に対して、8~80質量%または組成物の総体積に対して、30~97体積%を満たす範囲とすればよく、当該範囲を満たす条件下で、例えば、自己修復材料と第2のポリマーとの合計質量に対して、自己修復材料の質量を10~90質量%とすればよい。一実施形態では、本発明の組成物が、後述する第2のポリマーをさらに含む場合、自己修復材料の量は、自己修復材料と第2のポリマーとの合計質量に対して、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上または80質量%以上である。別の実施形態では、本発明の組成物が、後述する第2のポリマーをさらに含む場合、自己修復材料の量は、自己修復材料と第2のポリマーとの合計質量に対して、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下または20質量%以下である。
【0052】
本発明の組成物は、着磁された磁性体粉末と自己修復材料に加えて、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、第2のポリマー、硬化剤、ゲル化安定剤などが挙げられる。
【0053】
・第2のポリマー
本発明の組成物は、着磁された磁性体粉末と自己修復材料に加えて、当該組成物に追加の機能または特性などを付与するために、第2のポリマーをさらに含んでいてもよい。
【0054】
第2のポリマーは、本発明の組成物の所望の用途、物性などに応じて適宜公知のポリマーから選択すればよい。第2のポリマーとしては、例えば、ポリシロキサン、フッ素系エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0055】
ポリシロキサンとしては、例えば、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、メチルハイドロジェンシリコーン、変性シリコーンなどが挙げられる。
【0056】
変性シリコーンは、ポリシロキサンの末端の一方に有機基を有するポリシロキサン;両方の末端に有機基を有するポリシロキサン;側鎖の一部に有機基を有するポリシロキサン;および側鎖の一部と両方の末端に有機基を有するポリシロキサンなどが挙げられる。
【0057】
変性シリコーンの有機基としては、例えば、モノアミン、ジアミン、アミノ基、エポキシ基、脂環式エポキシ基、カルビノール基、メルカプト基、カルボキシル基、ハイドロジェン基(水素基)、アミノポリエーテル基、エポキシポリエーテル基、エポキシアラルキル基、ポリエーテル基、アラルキル基、フロロアルキル基、長鎖アルキル基、高級脂肪酸エステル基、高級脂肪酸アミド基、ポリエーテル長鎖アルキル・アラルキル基、長鎖アルキル・アラルキル基、アクリル基、メタクリル基、シラノール基、カルボン酸無水物基、ジオール基などが挙げられる。
【0058】
フッ素系エラストマーとしては、例えば、信越シリコーン社製のSIFEL2618、2610、2617、2662、2614、2661、2670、2680、3405A/B、3505A/B、3705A/B、3590-N、2795、8015A/B、8070A/B、8370A/B、8470、8570A/B、X-71-369、X-71-377、X-71-6046、X-71-6207A/B、X-71-6144A/B、X-71-6215、X-71-6238などが挙げられる。
【0059】
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、セプトン1020などのスチレン-エチレンプロピレン(SEP)タイプ、セプトン2002、2004、2005、2006、2063、2104などのスチレン-エチレンプロピレン-スチレン(SEPS)タイプ、セプトン4033、4044、4055、4077、4099などのスチレン-エチレンエチレン-プロピレン-スチレン(SEEPS)タイプ、セプトン8004、8006、8007などのスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)タイプ、ハイブラー5125、5127などのポリスチレンブロックとビニル-ポリジエンからなるV-SISタイプ、ハイブラー7125などのV-SEPSタイプ、ハイブラー7311などのV-SEEPSタイプなどが挙げられる。
【0060】
本発明に係る自己修復性永久磁石組成物の一実施形態では、前記ポリボロシロキサンが第1のポリマーであり、自己修復性永久磁石組成物は、第2のポリマーをさらに含む。
【0061】
・自己修復性永久磁石組成物の調製方法
本発明の組成物の調製は、例えば、着磁していない磁性体粉末および自己修復材料を混合して自己修復材料に着磁していない磁性体粉末を分散させて分散体を形成する工程(A)と、工程(A)から得られた分散体を所望の形状の型または容器に流し入れて、当該分散体を硬化させて着磁していない自己修復性組成物を形成する工程(B)と、工程(B)から得られた着磁していない自己修復性組成物を着磁させて自己修復性永久磁石組成物を形成する工程(C)とを含む。
【0062】
・工程(A)
工程(A)では、着磁していない磁性体粉末および自己修復材料を混合して自己修復材料に着磁していない磁性体粉末を分散させて分散体を形成する。第2のポリマーなどの任意成分を用いる場合、工程(A)で着磁していない磁性体粉末および自己修復材料と共に混合してもいいし、工程(A)の前に、自己修復材料または着磁していない磁性体粉末と、任意成分を混合してもよい。
【0063】
工程(A)では、磁性体粉末は、着磁していない磁性体粉末を用いる。着磁された磁性体粉末を用いると、磁性体粉末が自己修復材料に分散せず、最終的に得られる組成物が永久磁石組成物とならない。
【0064】
工程(A)では、公知の混合手段を適宜選択して用いることができる。例えば、三本ロールミルを用いて着磁していない磁性体粉末および自己修復材料を混合すればよい。
【0065】
・工程(B)
工程(B)では、工程(A)から得られた分散体を所望の形状の型または容器に流し入れて、当該分散体を硬化させて着磁していない自己修復性組成物を形成する。硬化によって、自己修復性組成物に形状維持性が付与される。
【0066】
工程(B)では、分散体を脱気してもよい。脱気によって工程(A)での分散体形成時に生じた分散体内部の気泡を除去することができる。脱気は、分散体を所望の型に流し入れる前に、脱気用の容器を用いて行ってもよいし、型に流し入れた後に行ってもよい。脱気は、例えば、真空下で5~300分間かけて行ってよい。
【0067】
分散体の硬化は、公知の硬化手段を用いることができる。硬化手段としては、例えば、光、熱およびこれらの組合せなどが挙げられる。熱硬化の場合は、例えば、25~150℃で10分~1日加熱してもよい。熱硬化の場合、例えば、60℃で5時間加熱してもよい。
【0068】
・工程(C)
工程(C)では、工程(B)から得られた着磁していない自己修復性組成物を着磁させて自己修復性永久磁石組成物を形成する。
【0069】
着磁していない自己修復性組成物を着磁させる手段は、特に限定されず、公知の着磁手段を適宜選択して用いることができる。着磁手段としては、例えば、大容量コンデンサを有する着磁用パルス電源装置などが挙げられる。
【0070】
工程(C)では、例えば、着磁用パルス電源装置内に配置した着磁していない自己修復性組成物に対して磁界をかけることで着磁していない自己修復性組成物を着磁させて自己修復性永久磁石組成物を形成することができる。磁界をかけるときの条件としては、例えば、全空間で磁束密度2テスラ(T)以上、好ましくは3テスラ(T)以上を確保できる磁界強度などが挙げられる。
【0071】
工程(C)から得られる自己修復性永久磁石組成物の表面磁束密度は、特に限定されず、例えば、10~100mTである。
【0072】
・自己修復性永久磁石組成物の使用
損傷していない自己修復性永久磁石組成物の場合、外部磁場の印加と非印加によって、磁極に対する磁気的吸引力と磁気的斥力を自由に制御可能となる。この引力および斥力は、外部の電磁石によって制御でき、開閉弁、ポンプ、磁気吸盤、磁気歯車または磁気軸受などの様々なアクチュエーターを電磁気駆動させることができる。また、形状変化由来の磁気消失と回復を利用した電磁誘導振動発電機、圧力センサーまたは磁気センサーを具体化できる。ロボットの駆動部に組成物を用いた場合は、組成物の位相または磁気力の制御で、生物の筋肉に似た圧縮および伸長による駆動力を提示することが可能である。
【0073】
損傷した、例えば、衝撃などによって破断した自己修復性永久磁石組成物の場合、組成物を含む装置の部位を軽く振動させて破断した組成物片同士の接触または接近を促進させてもよい。あとは、組成物片同士が磁気的に引きつけられ接触し、接触したそれぞれの組成物片同士の界面において組成物片間の結合が修復される。あるいは、破断した組成物を含む装置の部位を軽く振動させずに、破断した組成物片を静置してもよい。静置した場合であっても、組成物片同士が磁気的に引きつけられ接触し、組成物片間の結合が修復される。接触した組成物片間の結合が修復されるまでに必要な時間は、例えば、6秒~24時間である。
【0074】
(装置)
本発明に係る装置は、ロボット、センサー、ポンプ、搬送装置、バルブ装置、把持装置、ブレーキ、クラッチ、ダンパ、ショックアブソーバー、制震装置、振動発電装置、ハプティクス、力触覚提示装置、医療機器、福祉機器および吸着装置からなる群より選択される装置に、上記いずれかに記載の自己修復性永久磁石組成物を用いた装置である。これによって、装置内の自己修復性永久磁石組成物が損傷した場合であっても、自己修復性永久磁石組成物を交換することなく、機能を回復可能である。
【0075】
装置に用いられる自己修復性永久磁石組成物は、装置の部位などに応じて、1種単独でも用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【実施例0076】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0077】
実施例で用いた材料は以下のとおりである。
(磁性体粉末)
・ネオジム磁石(Nd-Fe-B-Nb合金)粉末(未着磁):マグネクエンチ社製、商品名「MQFP14-12」、中心粒子径=5μm、25μm、表1中「Nd-Fe」と表記
・ハードフェライト合金粉末(Mn-Mg-Sr系フェライト粉末)(未着磁):パウダーテック社製、商品名「E-10S」、中心粒子径=6.9μm、表1中「Mn-Mg-Sr」と表記
・サマリウム・鉄磁石(Sm-Fe-N系合金粉末)(未着磁):住友金属鉱山社製、商品名「タイプS1」、磁性粉、中心粒子径=2~3μm、表1中「Sm-Fe-N」と表記
・鉄粉末(Fe)(未着磁):BASF社製、商品名「カルボニル鉄粉HQ」、表1中「Fe」と表記
(自己修復材料)
・ポリボロシロキサン1:後述する方法で合成、表1中「PBS1」と表記
・ポリボロシロキサン2:後述する方法で合成、表1中「PBS2」と表記
・多官能ウレタンアクリレート:特開2013-049839号の合成例1に従い、多官能ウレタンアクリレートを含む溶液を得た。表1中「UA」と表記
・シクロデキストリン-アダマンタン誘導体:ユシロ化学工業社製、商品名「SMHモノマー液」90g、商品名「SW乾燥防止剤液」55.5gおよび商品名「SKH重合開始剤液」4.5gで構成される混合液、表1中「CA」と表記
(第2のポリマー)
・ポリジメチルシロキサン前駆体:SMOOTH-ON社製、商品名「Dragon Skin 10M」A液およびB液、表1中「PDMS」と表記
・フッ素系エラストマー:信越シリコーン社製、商品名「SIFEL 8015A/B」、表1中「LFE」と表記
・スチレン系熱可塑性エラストマー:クラレ社製、商品名「ハイブラー(登録商標)7125F」、水添ビニルSEPS、表1中「V-SEPS」と表記
【0078】
使用した装置および器具は以下のとおりである。
高粘度撹拌機:愛工舎製作所社製プラネタリミキサー、商品名「ACM-0.4LVT-A」
三本ロールミル:EXAKT社製、商品名「EXAKT 50 I」
円筒形容器:アクリル樹脂製、内径18mm、長さ38mm
真空乾燥器:ヤマト科学社製、商品名「Vacuum Drying Oven DP32」
着磁用パルス電源装置:電子磁気工業社製、商品名「ES-4030-30」
圧縮試験機:島津製作所製、商品名「EZ-SX」、ロードセル(島津製作所製、200N、0.5級)を備え、ロードセルの先にセラミック製のカッターを装着。
【0079】
(ポリボロシロキサン1の合成)
500mLの三角フラスコに200mLのメタノールを入れた後、20.0gのホウ酸を加え、マグネチックスターラーで1時間連続的に混合してホウ酸-メタノール溶液を調製した。次に、200gのシラノール末端ポリジメチルシロキサン(Gelest社製、商品名「DMS-S14」、35~45cSt)をそのホウ酸-メタノール溶液に加えて3時間激しく混合した。その後、その混合溶液をテーブルに1時間静置して2つの液相が上下に分離したことを観察した。次いで、ピペットを使用して、下側の液層から目的の未硬化のポリボロシロキサン1を含む溶液を得た。当該溶液は、ほぼポリボロシロキサン1で構成されている。
【0080】
(ポリボロシロキサン2の合成)
ポリボロシロキサン1の合成において、DMS-S14をシラノール末端ポリジメチルシロキサン(Gelest社製、商品名「DMS-S15」、45~85cSt)に変更したこと以外は、同じ反応と処理を行い、目的の未硬化のポリボロシロキサン2を含む溶液を得た。
【0081】
(実施例1)
工程(A)として、高粘度撹拌機にネオジム磁石(Nd-Fe-B-Nb合金)粉末150gとポリボロシロキサン1を含む溶液50gとを加えて撹拌し、均一化した。次いで、三本ロールミルを用いて、精密分散し、均一な混合溶液を得た。工程(B)として、その混合溶液を円筒形容器に分取した。次いで、真空乾燥器内で30分間脱気を行なった。次いで、オーブン内にその容器を入れて60℃で6時間加熱硬化させて、円筒状の着磁していない自己修復性組成物を得た。工程(C)として、この着磁していない自己修復性組成物を、その円筒の長軸方向と円筒形の組成物内部の磁束線の向きが平行になるように、着磁用パルス電源装置内に配置した。パルス電流を印加し、磁性体粉末を飽和着磁させて目的の自己修復性永久磁石組成物を得た。
【0082】
(実施例2)
工程(A)において、高粘度撹拌機にDragon Skin 10MのA液およびB液それぞれ25gと、ネオジム磁石(Nd-Fe-B-Nb合金)粉末150gと、ポリボロシロキサン1を含む溶液50gとを加えたことと、工程(B)において、脱気後の硬化条件を25℃24時間としたこと以外は、実施例1と同様に各工程を行い、目的の自己修復性永久磁石組成物を得た。
【0083】
(比較例1)
実施例1において、工程(C)を行わなかったこと以外は実施例1と同様に工程(A)および工程(B)を行い、比較組成物を得た。
【0084】
(比較例2)
着磁された磁性体粉末の準備
内寸50mmの立方体容器にネオジム磁石(Nd-Fe-B-Nb合金)粉末500gを入れた。その容器を着磁用パルス電源装置内に配置した。パルス電流を印加し、磁性体粉末を飽和着磁させて予め着磁された磁性体粉末(表1中、「着磁Nd-Fe」と表記)を得た。
【0085】
次いで、実施例1において、ネオジム磁石(Nd-Fe-B-Nb合金)粉末に変えて、予め着磁された磁性体粉末を用いたこと以外は実施例1と同様に工程(A)を行ったが、満足に完了できず、工程(B)および工程(C)を行わなかった。
【0086】
(比較例3~5)
実施例1において、材料を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様に各工程を行い、比較組成物を得た。
【0087】
(実施例3~9)
実施例1において、材料を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様に各工程を行い、目的の自己修復性永久磁石組成物を得た。
【0088】
【表1】
【0089】
・自己修復性の評価
自己修復性永久磁石組成物または比較組成物から1辺30mmの立方体形状のサンプルを作製した。そのサンプルを切断される面に対して磁束の方向が直交するように圧縮試験機にセットした。圧縮試験機のカッターを下方向に一定速度で押し下げてサンプルを切断した。カッターを押し下げて、サンプルを完全に切断した後、計測された応力の最大値を圧縮切断応力とした。この値を圧縮切断応力の初期値とした。次に、切断したサンプル片の切断面同士を接触させて静置した。接触から5時間後または24時間後にはじめに切断した箇所を再度同様に切断して2回目の切断時の圧縮切断応力を測定した。そして、以下の基準で自己修復性を評価した。2回目の切断時の圧縮切断応力の値が高いほど、切断面が自己修復しており、自己修復性に優れると考えられる。基準AおよびBが合格である。
基準A:5時間後に2回目の切断時の圧縮切断応力が圧縮切断応力の初期値の50%以上であった。
基準B:5時間を超えてかつ24時間後までに2回目の切断時の圧縮切断応力が圧縮切断応力の初期値の30%以上であった。
基準C:24時間後に2回目の切断時の圧縮切断応力が圧縮切断応力の初期値の30%未満であった。
【0090】
・形状維持性の評価
各実施例および比較例において、高さ18mm、直径18mmの円筒形の自己修復性永久磁石組成物サンプルまたは比較組成物サンプルを作製した。そのサンプルを25℃の条件で3時間静置した。3時間経過後のサンプルの高さを測定した。そして、初期のサンプルの高さ18mmに対する3時間経過後のサンプルの高さ(H2)について、以下の基準で形状維持性を評価した。
合格:H2が16mm(初期の高さの約90%)以上
不合格:H2が16mm未満
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明によれば、自己修復性永久磁石組成物が損傷した場合であっても、自己修復性永久磁石組成物を交換することなく、機能を回復可能な自己修復性永久磁石組成物を提供することができる。