(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034981
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】透析装置の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
A61M 1/16 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
A61M1/16 185
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022146584
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】522104772
【氏名又は名称】深田 健吾
(72)【発明者】
【氏名】深田 健吾
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB01
4C077CC08
4C077DD26
4C077EE04
4C077GG14
4C077KK30
(57)【要約】
【課題】人工透析システムの洗浄滅菌工程において、中和槽無しで洗浄滅菌液を下水排除基準内にpHを収めるのは困難であった。
【解決手段】多人数用透析液供給装置の次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄滅菌工程で、同装置のB液サンプルポートから酸を注入し、洗浄滅菌液をpH調整する。
酸注入には、酸注入装置を用いる。
酸注入装置は、多人数用透析液供給装置との信号連動により、多人数用透析液供給装置の次亜塩素酸ナトリウム濃度と一定比率となるように酢酸を注入する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工透析システムの多人数用透析液供給装置から透析用監視装置を洗浄滅菌する手法において、次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄滅菌工程で、多人数用透析液供給装置のB液サンプルポート又は透析液サンプルポートから酸を注入する事により、洗浄滅菌液をpH調整し、下水道局の下水排除基準に適合させる手法。
ここで言う洗浄滅菌液は、滅菌、炭酸カルシウム除去、タンパク除去の効果を持つ、複種類の液を示す。
【請求項2】
人工透析システムにおいて、複数の装置間で信号連動を行う時に、他装置の電磁弁動作を検知する事で信号連動を行う事がある。そのための電磁弁動作の検知手法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療における人工透析システムの洗浄滅菌に関する。
【背景技術】
【0002】
人口透析システムの洗浄滅菌は、多人数用透析液供給装置(セントラル)で次亜塩素酸ナトリウム、又は酢酸を希釈し、それぞれ混ざることなく別工程で透析用監視装置に送液する事により行われるやり方が主流だ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-130016
【特許文献2】特開2004-130017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
透析施設に排水中和施設が無い場合、透析システムの洗浄滅菌に使われた次亜塩素酸ナトリウム希釈液、又は酸希釈液の廃液のpH値が、下水排除基準(pH5~9内である事)に違反してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
多人数用透析液供給装置の次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄滅菌工程中に、酸注入装置により多人数用透析液供給装置のB液サンプルポートに酸を注入する事で、多人数用透析液供給装置内で次亜塩素酸ナトリウムと酸を混合希釈し、洗浄滅菌液をpH調整する。
【0006】
洗浄滅菌液のpH制御は、酸注入装置が酸の注入タイミングと注入量の制御をする事により行われる。
その注入タイミング制御とは、多人数用透析液供給装置が次亜塩素酸ナトリウム洗浄工程である事と、受水工程である事の両条件を満たしたときに、酸を注入する事である。
【0007】
酸は、酢酸、過酢酸、クエン酸、塩酸などが考えられるが、ここでは酢酸を使った例を説明する。
【0008】
酸を注入するポートは、上記外に透析液サンプルポートを使う事も出来る。
【0009】
別の手段として、多人数用透析液供給装置の次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄滅菌工程中に、同装置に供給される透析用水に、あらかじめ酸を混合した液を用いる事で、同装置内で次亜塩素酸ナトリウムと酸を混合希釈し、洗浄滅菌液をpH調整する事も出来る。
【0010】
個人用透析監視装置を個別に洗浄滅菌する場合は、次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄滅菌工程中に、同装置のB液又は透析液サンプルポートから酸を注入する事で、装置内で混合希釈し、洗浄滅菌液をpH調整する。
【0011】
pH調整された洗浄滅菌液は、次亜塩素酸ナトリウム濃度30~1200ppmが考えられるが、ここでは濃度対効果が高い次亜塩素酸ナトリウム300ppmを代表値として示す。
酢酸濃度についてはpHを使い分ける事で異なる効果を得る目的と、制御の安定のため、以下の2種類の洗浄滅菌液を使い分ける。
1,次亜塩素酸ナトリウム300ppmに対し、酢酸360ppmの比で混合する事で、pH5.2に調整した液。(実用範囲はpH5~7程度である)
2,次亜塩素酸ナトリウム300ppmに対し、酢酸82ppmの比で混合する事で、pH8に調整した液。(実用範囲はpH7~9程度である)
上記酢酸濃度とpHの関係は、RO水や薬剤の状態により変動するので、厳密には現場調整が必要である。
【発明の効果】
【0012】
洗浄滅菌液のpHを下水排除基準内に調整する事で、廃液の中和処理が不要となる。
【0013】
洗浄滅菌液のpHを下水排除基準内の酸側(pH5~7)に調整する事で、炭酸カルシウム除去能力を強化出来る。炭酸カルシウム溶解量は酢酸濃度に比例する傾向がある。洗浄滅菌液のpHは炭酸カルシウム溶解速度に関与し、pHが大きくなると共に溶解速度は遅くなる。
よって炭酸カルシウム除去目的の洗浄滅菌液は、次亜塩素酸ナトリウム300ppm、酢酸濃度300~400ppmでpH5.1~5.5に調整し、40~60分送液すれば良い。
【0014】
洗浄滅菌液のpHを下水排除基準内のアルカリ側(pH7~9)に調整する事で、タンパク除去能力を強化出来る。タンパク除去効果は次亜塩素酸ナトリウムイオン(OCL-)濃度に対し、非線形的に増加し、800ppm以上ではタンパク除去効果は飽和傾向を示す。また次亜塩素酸ナトリウムのOCL-の存在比はアルカリ側で大きくなる。
よってタンパク除去目的の洗浄滅菌液は、次亜塩素酸ナトリウム300ppm、酢酸濃度45~150ppmでpH8±0.5に調整し、40~60分送液すれば良い。
【0015】
洗浄滅菌液の次亜塩素酸ナトリウム濃度が30~150ppmの場合で、酸添加によりpH5以上に調整された領域では、酢酸濃度が不十分となり炭酸カルシウムを除去しきれなくなる場合がある。その場合には中性域炭酸カルシウム除去剤を別工程にて併用する事で対応出来る。
中性域炭酸カルシウム除去剤は、アムテック社のサンフリーCi、クリーンケミカル社のニュートルがあげられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】透析システムにおいて、多人数用透析液供給装置のB液ポート(
図1の符号8)に酸を注入する構造と、多人数用透析液供給装置が次亜塩素酸ナトリウム洗浄するタイミングと、酸を注入するタイミングを同期させるための信号線(
図1の符号19,20、21、22)の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
多人数用透析液供給装置の次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄滅菌工程で、同装置内で任意の濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を作る。それと同時に同装置のB液サンプルポートから酸を注入する。
酸の注入には、酸注入装置を用いる。
【0018】
酸注入装置は、多人数用透析液供給装置との信号連動により、多人数用透析液供給装置の次亜塩素酸ナトリウム濃度と一定比率となるように酸を注入する。これにより作られる洗浄滅菌液のpHを任意にコントロールできる。
【0019】
酸注入装置と多人数用透析液供給装置との信号連動は、下記の3パターンが有る。
【0020】
パターン1:酸注入装置と多人数用透析液供給装置との信号連動を、
図1の符号19,22による2つの信号により行う。
多人数用透析液供給装置が次亜塩素酸ナトリウム洗浄工程である事を意味する次亜塩素酸ナトリウム用電磁弁開信号(
図1の符号22)を、酸注入装置の動作可能工程とし、多人数用透析液供給装置の受水流量信号(
図1の符号19)を酸注入装置の酸注入量制御に使い、受水量に比例した酸注入を行う。
流量計の設置場所は、多人数用透析液供給装置内部に設置する事も考えられる。
この手法は、多人数用透析液供給装置の受水圧が不安定な場合にも酸濃度を安定させる効果が有る。
【0021】
パタ-ン2:酸注入装置と多人数用透析液供給装置との信号連動を、
図1の符号20,22による2つの信号により行う。
多人数用透析液供給装置が次亜塩素酸ナトリウム洗浄工程である事を意味する次亜塩素酸ナトリウム用電磁弁開信号(
図1の符号22)を、酸注入装置の動作可能工程とし、多人数用透析液供給装置の受水弁開検知信号(
図1の符号20)を酸注入装置の酸注入工程信号とする。
一般に多人数用透析液供給装置の受水流量はほぼ一定になるように調整されている。よって酸注入装置の酸注入量は一定でも、両装置の動作タイミングが同期すれば、洗浄滅菌液の濃度を一定に制御できる。
この手法は、高価な流量計を不要とし、安価に酸注入装置を構成できる。
【0022】
パタ-ン3:酸注入装置と多人数用透析液供給装置との信号連動を、
図1の符号21により行う。
図1の符号21は、符号20、22の2つと等価の信号で、酸注入装置の動作はパターン2と同じである。
この手法は、各電磁弁開検知用センサと流量計を不要とし、安価に酸注入装置を構成できるが、多人数用透析液供給装置の制御盤から受水弁開信号を出せない装置も多いため、この手法を使えない場合もある。
【0023】
図1の符号5,13の各電磁弁開検知用センサは、電磁コイル周囲の漏れ磁界に反応するように設けられたリードスイッチ、又はホール素子を使う手法と、電磁弁駆動用ケーブルにクランプ式電流計の原理を使ったセンサを使う手法と、電磁弁駆動用ケーブルから直接電流を取出す手法が考えられる。
【0024】
多人数用透析液供給装置と酸注入装置が連動する事により、多人数用透析液供給装置で作られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液に、酸注入装置から酸を注入する事で、pH調整した洗浄滅菌液を作る事が出来る。
【0025】
酸注入装置は制御盤内にタイマーを持ち、酸注入量を任意時間毎に変更できる。これにより洗浄滅菌液のpHを変更し、異なる洗浄効果の液を時間分けで作る事が出来る。
【0026】
多人数用透析液供給装置へ酸を注入するポートはB液ポートとし、透析液ポートは多人数用透析液供給装置内で次亜塩素酸ナトリウムと酸が希釈混合された洗浄滅菌液の濃度確認に使うのが望ましい。
【0027】
多人数用透析液供給装置へ酸を注入するポートはルアーコネクタになっている。それを事後洗工程時に接続し、透析治療工程では外しておくことが望ましい。
【符号の説明】
【0028】
1 RO装置
2 流量計
3 多人数用透析液供給装置
4 受水電磁弁
5 受水電磁弁開検知用センサ
6 透析液サンプルポート
7 透析用監視装置
8 B液サンプルポート
9 背圧チャッキ弁
10 酢酸ポンプ
11 次亜塩素酸ナトリウムポンプ
12 次亜塩素酸ナトリウム用電磁弁
13 次亜塩素酸ナトリウム用電磁弁開検知用センサ
14 次亜塩素酸ナトリウム吸引ポート
15 多人数用透析液供給装置の制御盤
16 次亜塩素酸ナトリウムタンク
17 酸タンク
18 酸注入装置の制御盤
19 受水流量信号
20 受水電磁弁開検知信号
21 符号20,22と等価の信号を、多人数用透析液供給装置の制御盤から出した信号
22 次亜塩素酸ナトリウム用電磁弁開信号
23 酸注入装置による酢酸ポンプ駆動信号