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特開2024-34989バリヤー層の厚みが孔壁の厚みの10~80%を有するアルミニウム又その合金からなる材料とその製造方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034989
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】バリヤー層の厚みが孔壁の厚みの10~80%を有するアルミニウム又その合金からなる材料とその製造方法。
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/04 20060101AFI20240306BHJP
   C25D 11/18 20060101ALI20240306BHJP
   C25D 11/22 20060101ALI20240306BHJP
   C25D 11/06 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C25D11/04 301
C25D11/18 301C
C25D11/22 A
C25D11/04 101Z
C25D11/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022147436
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】595179549
【氏名又は名称】株式会社アート1
(72)【発明者】
【氏名】田中 成憲
(72)【発明者】
【氏名】秋本 政弘
(57)【要約】
【課題】孔壁の厚みが25~500nmで作成しバリヤー層の厚みを孔壁の厚みの10~80%で枝分かれ構造をした、硬さがHV300~500で電解析出が可能な陽極酸化皮膜を持つ材料開発をする。
【解決手段】陽極酸化皮膜でバリヤー層と孔壁の厚い皮膜について電解析出ができないためにバリヤー層を目的の厚みまでコントロールすることにより、微細孔中に金属化合物を析出させることが容易になった。これにより硬質皮膜と電解析出の複合皮膜が出来ることにより耐光性、耐食性の良い加飾皮膜に、硬さ、耐摩耗性と中赤外線領域での高い熱放射率を持つ皮膜に改善することにより、アルミニウム材として従来にない実用に即した優れた材料を製造できる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質型陽極酸化皮膜構造のバリヤー層の厚さが陽極酸化の際の電解電圧(V)に比例した1.0~1.19nm/Vであり、孔壁の厚さが陽極酸化の際の電解電圧(V)に比例して0.8~1.0nm/Vで形成される中で、孔壁の厚みが25~500nmで作成されたときのバリヤー層の厚みを孔壁の厚みの10~80%で、枝分かれ孔構造をした皮膜硬さがHV350~500で電解着色が可能な多孔質型陽極酸化皮膜を有することを特徴とするアルミニウム又はその合金からなる材料
【請求項2】
多孔質型陽極酸化皮膜構造は表面より素地に向けて細長い蜂の巣状の孔構造でその孔の下方が1段以上の枝分かれした構造を有し、その先端にバリヤー層を有することを特徴とする請求項1のアルミニウム又はその合金からなる材料。
【請求項3】
耐食性は中性塩水噴霧試験機で720時間、レイテイングナンバー9.5以上である硬さと耐食性に優れた多孔質型陽極酸化皮膜を有することを特徴とする請求項1または2のアルミニウム又はその合金材料。
【請求項4】
被測定物質の測定温度を100℃として測定したときの全放射率が、波長が3~6μmの範囲の中赤外線領域において0.95以上ある多孔質型陽極酸化皮膜を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つのアルミニウム又はその合金からなる熱放射性に優れた材料。
【請求項5】
多孔質型陽極酸化皮膜の耐熱性が300℃で2週間の耐熱試験において加熱前と加熱後の色差(ΔE)が3.0以下の陽極酸化皮膜を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つのアルミニウム又はその合金からなる耐熱性に優れた材料。
【請求項6】
陽極酸化皮膜の耐熱性が500℃で1時間の耐熱試験において加熱前と加熱後の色差(ΔE)が3.0以下の陽極酸化皮膜を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つのアルミニウム又はその合金からなる耐熱性に優れた材料。
【請求項7】
アルミニウムまたはその合金の多孔質型陽極酸化皮膜作成に際しての電解方法は、第一工程で皮膜作成、第二工程でバリヤー層の厚さコントロール工程より成り立つことを特徴とし、第一工程で孔壁の厚みが25~500nmとなる範囲で形成し、第二工程で第一工程において作成されたバリヤー層の厚みを孔壁の厚みの10~80%となるようにコントロールする薄膜化電解処理し、十分に水洗を行った後、第三工程として金属及び/又は金属イオンを含む酸性溶液中で電解処理をして皮膜の微細孔内に金属又は金属化合物を析出させた後、封孔処理を行うことからなる、枝分かれ構造をした、皮膜硬さがHV350~500で電解着色が可能な多孔質型陽極酸化皮膜を有することを特徴としたアルミニウム又はその合金からなる材料の製造方法。
【請求項8】
多孔質型陽極酸化皮膜作成の第一工程では電解により表面より素地に向けて細長い蜂の巣状の枝分かれ孔構造を有し、孔壁の厚みが25~500nmである陽極酸化皮膜を作成し、第二工程でのバリヤー層の厚さコントロールは第一工程の液中で電解終了時の状態で10~300秒放置し、電解終了直前に流れていた電流密度の1/4~3/4の電流密度に下げ、電圧が急激に下がる状態が時間の経過で10~60秒間横ばいの安定状態に達したら、更に電流密度を1/4~3/4に下げ、電圧の安定している時間を10~60秒にするという動作を2回以上繰り返し、目的の電解電圧までに到達したら定電圧電解に切り替えて電解を2~30分行って第一工程で形成されたバリヤー層の厚さを孔壁の厚さの10~80%の厚さに薄膜化し、電解終了後十分に水洗し、第三工程の金属及び/又は金属イオンを含む酸性溶液中で電解処理をして皮膜の微細孔内に金属又は金属化合物を析出させる電解着色処理を5~30分行い更に封孔処理を行うことを特徴とする請求項7のアルミニウムまたはその合金からなる材料の製造方法。
【請求項9】
多孔質型陽極酸化処理の電解液は、無機酸系及び/または有機酸系の脂肪族もしくは芳香族のスルホン酸系又はカルボン酸系の有機酸系化合物の単独あるいは混合物又はこれに無機酸系の硫酸、燐酸、スルファミン酸またはこれらの化合物の単独あるいは混合物を加えた液であることを特徴とする請求項7又は8のアルミニウムまたはその合金からなる材料の製造方法。
【請求項10】
第一工程のアルミニウムまたはその合金の多孔質型陽極酸化処理は、電源が直流波形、交直重畳波形、パルス波形、PR波形の単独又は2つ以上の組合せた波形を用い、電解法は定電圧電解法では20~150V及び/又は定電流電解では電流密度0.3~10A/dmを用い、液温0~50℃で、無機酸、有機酸の単独又は2つ以上の組み合わせた電解液を用いて、多孔質型陽極酸化皮膜を形成し、第二工程では第一工程の電解液で定電流電解を行い、目的の電圧に達したら、定電圧電解法に切り替え処理を行った後、十分に水洗し、第三工程の金属及び/又は金属イオンを含む酸性溶液中で交流電解処理をして皮膜の微細孔内に金属又は金属化合物を析出させる電解着色を5~30分処理を行い更に封孔処理を行うことでそのトータル皮膜厚さが10~100μmとすることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか一つのアルミニウムまたはその合金からなる材料の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質型陽極酸化皮膜(以下、陽極酸化皮膜という。)における孔壁とバリヤー層の厚さに関する皮膜作成とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硬質陽極酸化皮膜(以下、硬質皮膜という。)を代表とするバリヤー層の厚い皮膜は電解着色ができにくい傾向にあり、この皮膜の電解着色に関する試みはほぼない。硬質皮膜の硬さと電解着色耐候性、耐食性等の良い点を持ち合わせることが望まれている。
【0003】
カラーサッシ、カラー壁に代表されるカラーアルマイトはアルマイト(陽極酸化皮膜の別名)に電解着色法を用いてカラー化した商品であり、耐候性、耐食性に優れた陽極酸化皮膜の1つであり外観を重視した部位に使用されるように発展をしてきた。
【0004】
アルミニウム又はその合金の陽極酸化皮膜の構造は図1に示すように蜂の巣状の微細孔構造の多孔質層とその底辺にあるバリヤー層より成り立っている。下記の非特許文献1にはアルミニウムの陽極酸化皮膜の形成の際に、バリヤー層とセル壁(孔壁)の厚さは皮膜形成する際の電解電圧(V)に比例して形成され、その数値は表よりバリヤー層の厚さは1.0~1.19nm/Vであり、孔壁の厚さは0.8~1.0nm/Vで形成されていることが記載されている。電解条件、液組成、高速電解等により数値が多少異なることがあるが概ね陽極酸化皮膜構造として受け入れられる数値として使用されてきた。このように、陽極酸化皮膜の形成時においてバリヤー層の厚みも、孔壁の厚みも電解電圧に比例して形成され、両方の数値は極端に変わらずにほぼ近いと考えられている。
【0005】
先に記述したように普通に製造された硬質アルマイトではバリヤー層の厚い皮膜は電解着色ができにくい傾向にあり、この皮膜の電解着色に関する試みは殆どない。 一方で、硫酸電解液で陽極酸化皮膜を製造後に電解電圧を0V近辺に降下させることによりバリヤー層を溶解除去して電解着色を可能にする技術の開示もある(非特許文献2)がこの方法で電解着色したアルマイトはアルマイト本来が持つべき耐食性が全くなくなり、耐候性も不十分なものとなる。このために多孔質層を構成する微細孔の壁すなわち孔壁の厚さとバリヤー層の厚さの関係が「非特許文献1」に記載される通常の皮膜とは異なる陽極酸化皮膜を作ることにより、硬質皮膜の硬さを保ちつつ耐候性、耐食性等の良い点も持ち合わせた複合的な性能を持ったハイブリッド陽極酸化皮膜を持つ電解着色製品が望まれている。
【0006】
陽極酸化皮膜の加飾方法には大きく分けて2種類あり、染色法と電解着色法である。染色法は染料の中に陽極酸化皮膜を浸漬することにより多孔質層中の微細孔に有機染料が浸漬して色がつく方法で皮膜の表面側より染料侵入するので表面側の紫外線等の変化によって脱色、変色しやすくなる。他方電解着色法は微細孔の底より金属又は金属化合物が析出させる為に表面の変化に対して耐候性等の変化に強いがバリヤー層の厚さにより金属又は金属化合物の析出を十分に行うことが難しく、皮膜は通常無色に近い硫酸陽極酸化皮膜で厚さは8~15μmが精々で、厚い陽極酸化皮膜の形成が難しく、硬さもHV250~300で摩擦摩耗等の使用では耐えられない。
【0007】
建築資材として使用されているカラーサッシ、カーテンウオール等の電解着色技術があり、皮膜厚さが8~15μm、硬さがHV250~300のために摩擦摩耗、]硬さを要求する部位には使用が困難であるが、本発明は機械設備、油圧設備等に使用されている硬さHV350以上で、耐摩耗性のある硬質皮膜はバリヤー層が厚いために電解着色が出来なかったがバリヤー層の厚さをコントロールすることにより可能となり、電解着色の強みである加飾と耐候性を加えた複合的皮膜の開発に意義を見出した。本発明は従来の陽極酸化皮膜の考えを打破し、バリヤー層と孔壁の厚みの関係を変えることにより本発明に到達することができた。
【先行技術文献】
【0008】
【非特許文献1】アルミニウム表面処理技術便覧 軽金属出版 P1025,4.2.3バリヤー層の厚さ 表4.2セルの基本的ディメンション
【非特許文献2】金属表面材料Vol33,No5 232-237(1982)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来から使用されている陽極酸化皮膜のバリヤー層の厚さと孔壁の厚さの関連を見直すことにより、新たな構造を持つ皮膜を作成し、電解着色技術の耐候性と耐食性に優れた皮膜に硬質皮膜の硬さ、耐摩耗性を併せ持った材料の提供とその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、多孔質型陽極酸化皮膜構造のバリヤー層の厚さが陽極酸化の際の電解電圧(V)に比例した1.0~1.19nm/Vであり、孔壁の厚さが陽極酸化の際の電解電圧(V)に比例して0.8~1.0nm/Vで形成される中で、孔壁の厚みが25~500nmで作成されたときのバリヤー層の厚みを孔壁の厚みの10~80%、好ましくは10~40%で枝分かれ孔構造をした皮膜硬さがHV350~500で電解着色が可能な多孔質型陽極酸化皮膜を有することを特徴とするアルミニウム又はその合金からなる材料およびその製造方法である。
【0011】
本発明における多孔質型陽極酸化皮膜構造は表面より素地に向けて細長い蜂の巣状の孔構造でその孔の下方が1段以上の枝分かれした構造を有し、その先端にバリヤー層を有することを特徴としている。枝分かれ模式図を「図3」に示す。図3において左の図は第一工程において作成された皮膜の孔が蜂の巣構造であることを示す模式図で、孔壁の厚さ6とバリヤー層の厚さ7がほぼ同じであることを示す。同図の右の図は孔が枝分かれして表面近くの孔壁厚さ6に対してバリヤー層の厚さ7が薄くなっていることを示す模式図である。
【0012】
本発明のアルミニウム又はその合金材料の耐食性は中性塩水噴霧試験機で720時間、レイテイングナンバー9.5以上である硬さと耐食性に優れた多孔質型陽極酸化皮膜を有することを特徴としている。
【0013】
本発明はまた、被測定物質の測定温度を100℃として測定したときの熱放射率が、波長が3~6μmの範囲の中赤外線領域において0.95以上ある多孔質型陽極酸化皮膜を有することを特徴とするアルミニウム又はその合金からなる熱放射性に優れた材料である。
【0014】
本発明はまた、多孔質型陽極酸化皮膜の耐熱性が300℃で2週間の耐熱試験において加熱前と加熱後の色差(ΔE)が3.0以下の陽極酸化皮膜を有することを特徴とするアルミニウム又はその合金からなる耐熱性に優れた材料である。耐熱性は所定の温度、時間の加熱処理を行い、室温になった時点でコニカミノルタ社製の分光測色計(CM-700d)で計測し、加熱前後の色差をL色空間法における色差(ΔE)で表したものである。
【0015】
本発明はまた、陽極酸化皮膜の耐熱性が500℃で1時間の耐熱試験において加熱前と加熱後の色差(ΔE)が3.0以下の陽極酸化皮膜を有することを特徴とするアルミニウム又はその合金からなる耐熱性に優れた材料である。
【0016】
本発明は、アルミニウムまたはその合金の多孔質型陽極酸化皮膜作成に際しての電解方法は、第一工程で皮膜作成、第二工程でバリヤー層の厚さコントロール工程より成り立つことを特徴とし、第一工程で孔壁の厚みが25~500nmとなる範囲で形成し、第二工程で第一工程において作成されたバリヤー層の厚みを孔壁の厚みの10~80%、好ましくは10~40%となるようにコントロールする薄膜化電解処理し、十分に水洗を行った後、第三工程として金属及び/又は金属イオンを含む酸性溶液中で電解処理をして皮膜の微細孔内に金属又は金属化合物を析出させた後、封孔処理を行うことからなる、枝分かれ構造をした、皮膜硬さがHV350~500で電解着色が可能な多孔質型陽極酸化皮膜を有することを特徴としたアルミニウム又はその合金からなる材料の製造方法である。
【0017】
本発明においてさらに詳しくは、多孔質型陽極酸化皮膜作成の第一工程では電解により表面より素地に向けて細長い蜂の巣状の枝分かれ孔構造を有し、孔壁の厚みが25~500nmである陽極酸化皮膜を作成し、第二工程でのバリヤー層の厚さコントロールは第一工程の液中で電解終了時の状態で10~300秒放置し、電解終了直前に流れていた電流密度の1/4~3/4の電流密度に下げ、電圧が急激に下がる状態が時間の経過で10~60秒間横ばいの安定状態に達したら、更に電流密度を1/4~3/4に下げ、電圧の安定している時間を10~60秒にするという動作を2回以上繰り返し、目的の電解電圧6V~20V の数値をまでに到達したら定電圧電解に切り替えて電解を2~30分行って第一工程で形成されたバリヤー層の厚さを孔壁の厚さの10~80%の厚さに薄膜化し、電解終了後十分に水洗し、第三工程の金属及び/又は金属イオンを含む酸性溶液中で電解処理をして皮膜の微細孔内に金属又は金属化合物を析出させる電解着色処理を5~30分行い更に封孔処理を行うことを特徴とするアルミニウムまたはその合金からなる材料の製造方法である。
【0018】
本発明の製造法において、多孔質型陽極酸化形成処理の第一工程電解液は、無機酸系及び/または有機酸系の化合物の単独または混合系の液を用いることが出来るが、好ましくは脂肪族もしくは芳香族のスルホン酸系又はカルボン酸系の有機酸系化合物の単独または混合物あるいはこの有機系化合物に無機酸系の硫酸、燐酸、スルファミン酸またはこれらの化合物の単独あるいは混合物を加えた液である。
【0019】
本発明の製造法の第一工程のアルミニウムまたはその合金の多孔質型陽極酸化処理は、電源が直流波形、交直重畳波形、パルス波形、PR波形の単独又は2つ以上の組合せた波形を用い、電解法は定電圧電解法では20~150V及び/又は定電流電解では電流密度0.3~10A/dmを用い、液温0~50℃で、無機酸、有機酸の単独又は2つ以上の組み合わせた電解液を用いて、多孔質型陽極酸化皮膜を形成し、第二工程では第一工程の電解液で定電流電解を行い電圧を徐々に下げていき、目的の電圧に達したら、定電圧電解法に切り替え処理を行った後、十分に水洗後、第三工程の金属及び/又は金属イオンを含む酸性溶液中で交流電解処理をして皮膜の微細孔内に金属又は金属化合物を析出させる電解着色を5~30分処理を行い更に封孔処理を行うことでそのトータル皮膜厚さが10~100μmとするアルミニウムまたはその合金からなる材料の製造方法である。
【0020】
本発明の陽極酸化皮膜の構造測定は微細孔が20~50nm、バリヤー層の厚さが10~100nmで測定対象物が極端に小さいので電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)(日本電子株式会社製、JSM-6701F)にて10万倍にて断面撮影後その写真より計測を行った。皮膜断面硬さはJIS‐Z2244(ビッカース硬さ試験)方法にて荷重0.098N(10grf)、保持時間15秒で計測定した。但し、皮膜厚さが20μm以下の場合にはヌープ式の圧子を用いて同一荷重、同一時間にて測定したものである。
【0021】
本発明の耐食試験はJIS‐Z2371の中性塩水噴霧試験機STP‐90V‐4((株)スガ試験機株式会社製)を用いて、連続噴霧時間1カ月(720時間)後、評価法はJIS‐H8679‐1(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜に発生した孔食の評価方法‐第1部:レイティングナンバー方法(RN)にて行う。レイティングナンバーとは皮膜を貫通し金属素地に達した孔食だけに適応し、(皮膜を貫通していない変色などの表面欠陥及び試験片に生じた端面の腐食は評価の対象としない。)レイティングナンバーと孔食の腐食面積率との関係は、RN10は0%(孔食なし)、RN9.8は0.00を超え、0.02%以下、RN9.5は0.02%を超え、0.05%以下、RN9.3は0.05%を超え、0.07%以下をいい、判定基準はJIS‐H8603‐5.6(アルミニウム及びアルミニウム合金の硬質陽極酸化皮膜‐耐食性)にて行う。
【0022】
陽極酸化皮膜の厚さはJIS‐H8680‐2(渦電流式測定法)を用い校正用標準板(プラスチックフィルム)にて校正後計測をすると10~100μmで、好ましくは10~30μm、特に好ましくは20~30μmである。電解着色の色調については分光測色計(CM-700d)(コニカミノルタ株式会社製)にて計測すると数値として出るが実用上の1つ例であるが薄いブロンズ、濃いブロンズ、薄いブラウン、濃いブラウン、黒系で表され、金属化合物の析出量が多くなると黒くなる傾向にある。
【0023】
第三工程は電解着色処理で金属及び/又は金属イオンを含む酸性溶液中で5~30分電解処理を行い皮膜の微細孔内に金属又は金属化合物8を析出させた模式図を図4に示す。図4においては孔が1段回枝分かれした場合の模式図も示している。電解着色後十分に水洗を行い更に封孔処理を行う。この時のトータル皮膜厚さが10~100μmであることを特徴とするアルミニウムまたはその合金からなる材料の製造方法。図4は孔が1段回枝分かれし場合の模式図を示す。
【0024】
第三工程の電解着色の好ましい電解条件は、交流又はPRパルス波形を単独または2つ以上を組合せて行い、電圧は5~40V、時間は3~30分、液温は10~40℃、特に好ましくは10~25V、5~15分、16~30℃で行い、電源に極性がある場合は(被処理部材を)陰極側にセットし、陽極側は炭素板電極を用いて電解を行い、電解着色前後の水洗は脱イオン水又は純水で十分に行ったのちに封孔処理を行う。電解液としては添加金属を溶解可能な液で、代表的なものとして硫酸化合物、シュウ酸化合物を主とし、添加剤としてカルボン酸系の有機酸、ホウ酸等を加える。電解着色で沈着金属となる金属化合物は、金、銀、銅、白金、錫、コバルト、ニッケル、鉄、タングステン、モリブデン、クロム、亜鉛、パラジウム、ジルコニウム、バナジウム、チタン、マンガンなどが用いられる。
【0025】
本発明の材料における陽極酸化皮膜の厚さは10~150μmであるが、特に好ましい範囲は15~50μmである。皮膜厚さが薄すぎると素材の影響を受け硬さに影響をきたす。厚くなりすぎると「焼け」と称する皮膜の一部溶解現象が生じる。
【0026】
本発明で第一工程で好ましく用いられる電解液は、硫酸系、スルファミン酸系、芳香族、脂肪族のスルホン酸系、カルボン酸系又はその化合物の単独または混合物、例えば、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、マレイン酸、クエン酸、スルファミン酸、コハク酸、スルホサリチル酸、スルホフタル酸、フェノールスルホン酸の化合物の単独または混合物の電解液より成り立ち、特に好ましいのは硫酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、スルホサリチル酸がある。
【0027】
陽極酸化処理の際に用いられている各種の皮膜形成安定剤を単独又は混合して用いても良い。特に無機化合物と有機化合物を組み合わせて使用するときは液管理が容易となり好ましい。この安定剤の添加量は電解液中、0.01~5モル/リットルの範囲が好ましい。
【発明の効果】
【0028】
アルミニウムの陽極酸化皮膜の着色法一つである電解着色法は耐食性、耐候性に優れた加飾皮膜であるが、自動車、車両等の屋外に使用される機械部品については硬さ、耐摩耗性等の要求が必要になる。このために電解着色を硬質皮膜に行うことによることで、この問題を解決し更に耐熱性も上げる効果が加味されるという効果があらわれ、本発明の複合陽極酸化皮膜が自動車、車両以外に機械部品、油圧、空圧部品以外にもレジャー等に使用されることを期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明する。
なお、実施例において、熱放射率は赤外線放射率測定器として(株)島津製作所製の分光放射率測定システム(IRTracer-100)を用いて被測定物温度を100℃とし、黒体の放射率を100%としたときの中赤外線波長3~6μmの全放射率を測定し、%で表示する。
【実施例0030】
アルミニウムA1050材(Si 0.25%、Mn0.05%以下)で50×100×t.08mmのテストピースを,前処理として、10%硝酸 室温×2分―エッチング20%水酸化ナトリウム・40℃×2分―脱スマット・10%硫酸・室温×2分を行い,第一工程はマレイン酸1.5mol/L,シュウ酸0.15mol/L、添加剤として脂肪族カルボン酸0.1mol/Lを電解液として,電解電圧75V,液温24~26℃,70分の電解を行った。終了時の電流密度は0.9A/dmであった。第二工程はそのまま15秒電解液中において,電解終了時に流れていた電流密度0.9A/dmの60%の電流密度0.54A/dmに設定し定電流電解を行った。電解電圧が急激に下がっていくが,ある時点で電解電圧が30秒安定したのでさらに電流密度を60%の0.32A/dmに設定して電解を行った。その後更に,電流密度を下げていく手順の繰り返しによって目標とする電解電圧を15Vまで下がったところで定電圧電解に切り替え,最終電解電圧15Vの電圧で10分電解を行った後に十分に水洗をし、第三工程は電解析出として電解着色を交流電解で、液組成は硫酸第一錫10g/L、硫酸ニッケル6水和物15g/L、硫酸15g/L、酒石酸8g/Lの液で、PH=1、浴温23℃、電解電圧16Vで20分電解し、更に封孔処理として95℃で20分沸騰水封孔を行った結果、皮膜構造はFE/SEMで断面観察を画像として印刷し、バリヤー層と孔壁を測定すると孔壁厚さは90nm,バリヤー層厚さは15nmで、色調は電解着色で褐色であり、平均皮膜厚さは21μm、硬さはHV430であった。300℃、2週間の耐熱試験前後の色差(ΔE)は1.8、赤外線放射率は3~6μmでの中赤外線領域で全放射率98.3%であった。
【比較例1】
【0031】
材料、前処理、第一工程と第三工程及び皮膜の計測は実施例1と同様に行い、第二工程を除き第三工程を実施例1の要領で行った結果、電流が流れず電解析出による電解着色は行われなかった。
【比較例2】
【0032】
材料、前処理、第一工程と第三工程及び皮膜の計測は実施例1と同様に行い、第二工程を除くと第三工程の電解電圧が30Vでは変化が見られず、更に上げると表面から泡が大量にでて、皮膜が火口のように破壊(スポーリング現象)された。
【実施例0033】
材料、前処理、及び皮膜の計測は実施例1と同様に行い、第一工程は電解液を酒石酸1.0mol/Lに添加剤として硫酸0.05mol/Lを加えた液とし、電解条件として直流法で、液温20±1℃で、電流密度を1.5A/dm、60分電解を行い、最終電圧は86Vで、第二工程はそのまま30秒電解液中において,電解終了時に流れていた電流密度1.5A/dmの40%の電流密度0.6A/dmに設定し定電流電解を行った。電解電圧が急激に下がっていくが,ある時点で電解電圧が20秒安定したのでさらに電流密度を40%の0.24A/dmに設定して電解を行った。その後更に,電流密度を下げていく手順の繰り返しによって目標とする電解電圧を15Vまで下がったところで定電圧電解に切り替え,最終電解電圧15Vの電圧で15分電解を行った後に十分に水洗をし、第三工程、封孔処理を実施例1と同様に行った結果、皮膜構造はFE‐SEMで断面観察をし、画像を印刷しバリヤー層と孔壁を測定すると孔壁厚さは100nm,バリヤー層厚さは16nmで、色調は電解着色で褐色系の黒であり、平均皮膜厚さは18μm、硬さはヌープ式でHV410であった。300℃、2週間の耐熱試験前後の色差(ΔE)は1.7、500℃×1hrで、ΔEは1.5、赤外線放射率は3~6μm中赤外線領域で熱放射率96.1%であった、
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は硬質皮膜の硬さ、耐摩耗性に電解着色の耐候性の良い加飾化を併せ持つことにより、従来不可能であった、加飾の耐候性、耐熱性、硬さ、耐摩耗性が加わり、機械部品等の摩擦摩耗、紫外線によるによる退色、変色の寿命が一段と伸び、自動車、バイク、機械部品等に新たな市場が開拓される。更にこの複合皮膜を改良することにより中赤外線領域である3~6μmにおける高い熱放射率が得られ、この領域が熱として特に感じる領域なので、屋外、室内等での放熱、吸熱をコントロールすることにより、省エネルギーかに道が開ける。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】 第一工程により生成した陽極酸化皮膜の全体像
図2】 第一工程により生成した陽極酸化皮膜の表面、断面の模式図
図3】 第一工程より第二工程の枝分かれ構造の模式図
図4】 微細孔への金属又は金属化合物の析出状態
【符号の説明】
【0036】
1.微細孔 2.壁
3.素材(アルミニウム) 4.多孔質層
5.バリヤー層 6.孔壁の厚さ
7.バリヤー層の厚さ 8.微細孔中への金属又は金属化合物析出
図1
図2
図3
図4