(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034999
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】流水型貯留堰群の流域ネットワークによる洪水調節工法と流水型貯留函体堰
(51)【国際特許分類】
E02B 7/20 20060101AFI20240306BHJP
G06Q 50/26 20240101ALI20240306BHJP
【FI】
E02B7/20 Z
E02B7/20 105
G06Q50/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022149584
(22)【出願日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】506101805
【氏名又は名称】近藤 正佳
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正佳
【テーマコード(参考)】
2D019
5L049
【Fターム(参考)】
2D019AA43
5L049CC35
(57)【要約】
【課題】近年、降雨の激甚化で、河川整備を進めても広域で大規模な浸水被害が生じている。洪水時において洪水調節専用ダムである流水型ダム等に匹敵、或いは超える大規模洪水調節対策の構築、及び河川の氾濫発生時刻の予測である。
【解決手段】堤防に挟まれている堤外地の洪水量は膨大である。洪水時、堤外地は河積としか利用されていない。これらの流域河川の全堤外地を洪水時の超広大な貯留対象域としてとらえ、堤外地を横断する貯留機能を持つ流水型貯留堰群を計画的に築造する。流域ネットワークによる氾濫域の洪水調節工法である。さらに、流域全体の洪水状況と其々の流水型貯留堰の洪水貯留限界の推移の情報から氾濫域の河川の氾濫発生時刻を予測する。この予測は氾濫域住民の生命の安全に大きく寄与する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川の堤外地を横断する貯留機能を持つ流水型貯留堰群の流域ネットワークによる洪水調節工法において、平常時は流水型貯留堰の河床部に設けたゲート付き洪水吐より河川水を流下させ、洪水時は洪水初期から、気象情報,流域全体の豪雨状況から氾濫域の危険予測をし、其々の流水型貯留堰の定点観測を基に洪水カットの可否を流域全体から判断し、其々の洪水吐のゲートの開口率を調節して流域全体の洪水の貯留調節をするもので、流域の堤外地の計画的洪水貯留で流域支川・本川の洪水調整を図ると共に流域の洪水貯留全容量と流域全体の洪水状況及び其々の流水型貯留堰の洪水貯留限界状況の推移から氾濫域の河川の氾濫発生時刻を予測することを特徴とする流水型貯留堰群の流域ネットワークによる洪水調節工法。
【請求項2】
請求項1の流水型貯留堰の構造において、当該堰は上面開放の函体構造で、函体堰の河床部にゲート付き洪水吐を設けると共に上流側函体壁の天端には水通しを設け、函体堰の内部は前記函体壁に平行な複数の隔壁で仕切られ、この隔壁の底部の開口の有無で洪水の函体内通過が下降上昇して流下エネルギーを減勢させるものであり、また、当該函体堰の必要幅は洪水時の衝撃水圧に対して、転倒・滑動を起こさないための函体堰内部の洪水重量を加えた自重を確保すると共に基礎地盤の破壊を起こさないための底版の偏心荷重の軽減を図る幅であり、洪水の減勢構造と函体堰の安定に洪水重量を取り込んだ構造を特徴とする流水型貯留函体堰。
【請求項3】
請求項2の流水型貯留函体堰の構造において、上流側函体壁及び底部に開口のない隔壁の中間高さの位置に複数の通水孔を設け、さらに隔壁底部にはこれより少ない数の通水孔を設けることで、当該函体堰は洪水の貯留限界を超えない時点から函体壁の中間高さの洪水重量を取り込んだ構造を特徴とする流水型貯留函体堰。
【請求項4】
請求項1の流水型貯留堰群と堤内の遊水地の連携による流域ネットワークによる洪水調節工法において、平常時は流水型貯留堰の洪水吐より河川水を流下させ、洪水時は堤外地が貯留限界に達すると、堰の上流側端に設けた遊水地の連絡用水通しが開いて減勢工を経て遊水地に放流するものであり、洪水後に堤外地の貯留水は洪水吐のゲートを開いて放流し、遊水地の貯留水は下流河道に通じるゲート付き排水路から放流するもので、河川堤外地及び遊水地の計画的洪水貯留で流域支川・本川の洪水調整を図ることを特徴とする流水型貯留堰群の流域ネットワークによる洪水調節工法。
【請求項5】
請求項4の堤内の遊水地の貯留水量の拡大工法において、遊水地の候補地に沈下層のある地盤を選定し、この沈下層を真空圧密工法で沈下させることで、土砂を搬出することもなく、遊水地面積を広げることもなく、遊水地の周囲堤防の築造負担を軽減して貯留水容量を拡大することを特徴とする遊水地の貯留水容量の拡大工法。
【請求項6】
請求項4の流水型貯留堰群と堤内の遊水地の連携による洪水調節工法において、堤外地の計画的洪水貯留水は洪水時における河床の堆積土をフラッシュ放流により、この堆積土を下流に押し流して河床のアーマーコート化の解消を図り、遊水地の計画的洪水貯留水は下流の水量の不足時に放流することで、河川の環境保全を図ることを特徴とする流水型貯留堰群の流域ネットワークによる洪水調節工法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に上・中流域河川の全堤外地を洪水時の超広大な洪水貯留対象域としてとらえる。それ故に、貯留機能を持つ流水型貯留堰を計画的に多数築造する。洪水時には下流域の氾濫状況に応じて、流水型貯留堰群は連携して洪水の貯留調節をする。これらの上・中流域だけではなく、可能ならば下流域を加えて堤外地の計画的洪水貯留をする流水型貯留堰群のネットワークで流域支川・本川の洪水調整を図る。さらには、流域の洪水貯留全容量と流域全体の洪水状況及び其々の流水型貯留堰の洪水貯留限界状況の推移から氾濫域の河川の氾濫発生時刻を予測することに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、気候変動が一因とみられる降雨の激甚化で、河川整備を進めても広域で大規模な浸水被害が生じている。現状は相対的に氾濫の安全度が低下している恐れがある。また、ダムや遊水地、河道掘削等により、河川水位を低下させる対策を計画的に実施しているものの、氾濫危険水位を超過した河川数は、増加傾向となっている。このため、治水計画を、過去の降雨実績に基づく計画」から「気候変動による降雨量の増加などを考慮した計画」に見直しを行い、氾濫域も含めて一つの流域としてとらえ、流域全体で水害を軽減させる治水対策「流域治水」への転換が進められている。流域治水の進め方は、河川管理者が主体となって行う治水対策に加え、その河川流域全体のあらゆる関係者が協働し、流域治水を促進するものである。(非特許文献1参照)
【0003】
氾濫をできるだけ防ぐ・減らすための対策は次のように分類される。河川区域の流水の貯留対策としては、治水ダムの建設・再生、利水ダム等において貯留水を事前に放流し洪水調節に活用、土地利用と一体となった遊水機能の向上である。持続可能な河道の流下能力の維持・向上対策としては、河床掘削、引堤、砂防堰堤、雨水排水施設等の整備である。氾濫水を減らす対策としては、「粘り強い堤防」を目指しした堤防強化等である。(非特許文献1参照)
【0004】
治水ダムとして、流水型ダムがある。このダムは通常の貯留型ダムと異なり河床部に放流設備を有し、平常時には水を流下させ、洪水時にのみ一時的に貯留する洪水調節専用のダムである。流水型ダムは「遊水地」の一形態と考えられる。流水型ダムは、設置される場所に伴う自然環境に対する配慮が必要となるものの、中・下流部の優良農地を高い価格で、補償を行って設置するなどの社会環境に対する影響は限定的であるが、好適なダムサイトと規模を選定すれば、経済性,洪水対策としての速効性に優れると考えられる。また、貯留型ダムに見られるようなダム湖における水質悪化などが起こる恐れがなく、魚類等の上・降下や土砂の流下など河川の連続性が保たれ、河川環境への悪影響が軽減されるなど環境にやさしいダムと云われている。(非特許文献2照)
【0005】
オーストリアの流水型ダムでは,洪水時に河床部放流設備のゲートによる流量調節を行うか行わないかにかかわらず、全てのダムでゲートが設置されている。流量調節を行う場合には、ダムからの放流量を一定に保つようにフロートと回転機構を組み合わせた自然開閉式ゲートを底部洪水吐きに設置している。これにより,底部洪水吐きの断面積を大きくし,平常時の土砂流下や魚類の移動など河川の連続性への影響を小さくするとともに,洪水初期の不必要な洪水カットを防止し、洪水調節容量を有効に活用することができる。(非特許文献2照)
【0006】
河川を横断する構造物として、ダムのほかに、堰や水門がある。堰と水門は、河川の流水を制御するための構造物で、構造的にはほとんど差がないが、その機能に大きな違いがある。堰は、農業用水や工業用水などの水を取るために、河川の水位を制御するもので、堤防機能をもたない利水施設である。堰は、普段はゲートを閉めて、流水を塞き上げているが、洪水時にはゲートを開放して、洪水をできるだけスムーズに流下させる。これに対して水門は、河川堤防を分断する形で設置して、河川の水位を制御するもので、堤防機能を有する治水施設である。水門には役割に応じて、河川などの計画的な分流のために設けられる分流水門、支川に本川の洪水が逆流してくるのを防ぐために設けられる制水門、湖沼の水位操作や塩害の防止のために設けられる調節水門、高潮による河川の水位上昇や津波を防ぎ氾濫を防ぐために設けられる防潮水門などの種類がある。ただし、実際に設置される水門は複数の目的をもつことが多い。
【0007】
河川の堤防は主に洪水時の氾濫を防ぐ目的で設けられる。ただし、越流堤は洪水調節の目的で、堤防の一部を低くした堤防である。越流堤の高さを超える洪水では、越流堤から洪水の一部分を調節池などに流し込む構造になっている。
【0008】
河川を横断する構造物として堰堤がある。堰堤とは、河川の水を一時的にせき止めるための構造物で、小規模のために貯水することはできず、堤防としての機能もない。堰堤の主な役割は、土砂災害を防ぐことで、山間部などでは、谷川の土砂流出を防ぐために砂防堰堤(砂防ダム)が造られる。ダムのように水を貯めて利用しないために堰堤に分類される。
【0009】
ダムは、自然環境を大規模かつ人為的に改変するため、環境にあたえる影響が大きい。ダム貯水池の堆砂は古くて新しい社会的課題である。ダムは河水を堰き止めるが、同時に流砂も堰き止め、流砂のサイクルを寸断する。そしてダム貯水池は流入土砂により埋没が進行する。ダムの使用目的は大きく分けて、治水と利水の2つがある。ダムの治水とは主に下流河川の洪水・氾濫対策である。ダム貯水池が流入土砂により埋没することは、治水・利水の機能を損なうばかりでなく、ダム貯水池の低層地盤では堆積土のヘドロ化が起こり、上流河川では河床が上昇して河川氾濫の原因となる。また、下流の河川では土砂の量が減少し、粗い礫で河床が覆われる粗粒化(アーマーコート化)が進み、河川の石に付着した藻類の剥離更新が進まないなど、河川の新陳代謝が低下することが懸念されている。また、河口付近では海岸線の後退といった問題も起きている。多目的ダムは一見合理的なダムに思われる。しかし、近年、広域で大規模浸水被害が多発する状況を鑑みると、洪水調節専用ダムである流水型ダムはもっと高く評価されるべきダムと思われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「流域治水」の基本的な考え方/国土交通省 水管理・国土保全局
【0011】
【非特許文献2】角哲也、他/流水型ダムの歴史と現状の課題/水利科学332号p.12-32/水利科学研究所
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
激甚化する豪雨災害に対して流域治水が進められている。氾濫をできるだけ防ぐ・減らすための対策は多く揃えてあることが望ましい。利水ダム等において、貯留水の全てを洪水調節に活用することはできない。一方で治水ダムは比較的少ない。本発明が解決しようとする課題は、洪水時において洪水調節専用ダムである流水型ダム等に匹敵する、あるいは超える大規模洪水調節となる対策の構築、及び河川の氾濫発生時刻の予測である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
大洪水時、河川が氾濫し水害を被るのは主に下流域である。上流,中流域の堤防に挟まれている堤外地の洪水量は膨大である。洪水時、堤外地は河積としか利用されていない。本発明は、主に上・中流域河川の全堤外地を洪水時の超広大な貯留対象域としてとらえる。それ故に、貯留機能を持つ流水型貯留堰を計画的に多数築造する。洪水時には下流域の氾濫状況に応じて、流水型貯留堰群は連携して洪水の貯留調節をする。本発明の課題解決手段は、上・中流域河川の堤外地を横断する貯留機能を持つ流水型貯留堰群の流域ネットワークによる洪水調節工法である。ここで、下流域河川においても流水型貯留堰の効果がある区域ならば洪水貯留対象域とする。
【0014】
主に上・中流域河川の堤外地を横断する貯留機能を持つ流水型貯留堰群の流域ネットワークによる洪水調節工法において、平常時は流水型貯留堰の河床部に設けたゲート付き洪水吐より河川水を流下させる。洪水時は洪水初期から、気象情報,流域全体の豪雨状況から氾濫域の危険予測をし、其々の流水型貯留堰の定点観測を基に洪水カットの可否を流域全体から判断し、其々の洪水吐のゲートの開口率のゼロを含めた調節して流域全体の洪水の貯留調節をする。そして、流域の堤外地の計画的洪水貯留で流域支川・本川の洪水調整を図ると共に流域の洪水貯留全容量と流域全体の洪水状況、及び其々の流水型貯留堰の洪水貯留限界状況の推移から氾濫域の河川の氾濫発生時刻を予測する。これが流水型貯留堰群の流域ネットワークによる洪水調節工法の特徴である。
【0015】
一般に河川が氾濫し水害を被るのは主に下流域である。そして、下流域は人口密度が高いことが多い。通常、流水型ダムは洪水初期の不必要な洪水カットを防止して、洪水調節容量を有効に活用するのが大きな特徴である。しかし、本発明の流域ネットワークによる洪水調節工法は、其々の流水型貯留堰の定点観測を基に洪水カットの可否を流域全体から判断するとしている。これは局地的豪雨の発生や降雨の激甚化などで単純な対応には限界があるからである。例えば、中流域のある範囲の流水型貯留堰の堤外地に局地的豪雨が継続したとする。このとき、上流の流水型貯留堰は洪水カットの是非を単純には決定できない。貯留の限界を超えた流水型貯留堰は、天端の水通しから洪水を越流させて下流側の流水型貯留堰の堤外地の貯留に担わせる。その堰が限界に達すると次の下流堰へと移って行って氾濫域へと到達する。上流の堰の洪水貯留は氾濫域の氾濫を遅らせ、洪水量を平準化することができる。しかし、氾濫域が安全な範囲において、上流の堰は不必要な洪水カットを行わずに洪水調節容量を有効に活用するのが望ましい。洪水調整は豪雨の局地化と降雨量で変化するので流域全体の状況を加味して臨機応変に決定される。
【0016】
このように、流域の堤外地の計画的洪水貯留で流域支川・本川の洪水調整を図ると共に、流域の洪水貯留全容量と流域全体の洪水状況、特に其々の流水型貯留堰の洪水貯留限界(洪水の越流限界)の推移の情報から氾濫域の河川の氾濫発生時刻を予測する。洪水貯留限界の推移の情報は、其々の流水型貯留堰の持つ貯留限界に至るまでの時間と水位上昇の関係が重要となってくる。上流の流水型貯留堰の時間と水位上昇の関係から下流の流水型貯留堰の限界に至る時間が予測され、さらに下流の流水型貯留堰の限界が予測される。そして、実際の観測値がフィードバックされて予測が修正されることにより氾濫域の氾濫時刻の精度が向上する。予測は氾濫域住民の生命の安全に大きく寄与するものである。この予測は流水型貯留堰群だからこそ可能となっている。そして、洪水後は洪水吐のゲートを開いて貯留水を安全に放流する。
【0017】
次は本発明の流水型貯留堰の構造に関する。当該堰は上面開放の函体構造で、函体堰の河床部にはゲート付き洪水吐を設けると共に上流側函体壁の天端には水通しを設ける。そして、函体堰の内部は前記函体壁に平行な複数の隔壁で仕切られ、この隔壁の底部の開口の有無で洪水の函体内通過が下降上昇して流下エネルギーを減勢させるものである。また、当該函体堰の必要幅は洪水時の衝撃水圧に対して、転倒・滑動を起こさないための函体堰内部の洪水重量を加えた自重を確保すると共に基礎地盤の破壊を起こさないための底版の偏心荷重の軽減を図る幅である。このように流水型貯留函体堰は、洪水時における洪水の減勢構造と函体堰の安定に洪水重量を取り込んだ構造を特徴とする。洪水時の水位は上流域の河川では低く、河川を下るに連れて支川が本川に合流して高くなる。しかし、衝撃水圧の衝撃係数の大きさは流水型貯留函体堰群により、河川を下るに連れて低下傾向になる。これは流水型貯留函体堰群の構造の安定に対して有利に働く。
【0018】
洪水の貯留限界を超えた流水型貯留函体堰は、天端の水通しから洪水を越流させる。このとき、函体堰は安定のために洪水重量を利用する。しかし、限界前に不安定になることもあり得る。そこで、事前に洪水を取り込んでおくものである。その方法は流水型貯留函体堰の構造において、上流側函体壁及び底部に開口のない隔壁の中間高さの位置に複数の通水孔を設け、さらに隔壁底部にはこれより少ない数の通水孔を設ける。これにより、当該函体堰は貯留限界に至らない時点から函体壁の中間高さの洪水重量を取り込んだ構造とする。ここで、隔壁底部にも通水孔を設けるのは、洪水終了後における函体の滞留水の自動水抜き用で、残存滞留水の腐敗防止である。従って、隔壁底部の水抜き孔は必要最小限とする。
【0019】
流水型ダムは治水調節専用ダムとはいえ、洪水時には満水状態で洪水調節をする。ダムを建設する際の立地条件は、まず必要な貯水容量が確保できる地形で、ダムサイトの両岸が狭く、ダムの体積が少なくなるような位置を検討する。次に基礎岩盤が堅固で、遮水性に富み、工事材料が容易に入手できること等が建設地の条件となる。ダム建設の適地にはそれなりに厳しい条件があるので、どこでも良いということにはならない。これに対して本発明の流水型貯留函体堰は、これの構造特性から立地条件の制約はほとんどなく、地盤条件の制約も小さい。このため、流水型貯留函体堰群の築造は比較的容易であり、計画的洪水貯留で流域ネットワークによる支川・本川の洪水調整を可能としている。
【0020】
次は、貯留の限界を超えた流水型貯留堰と堤内地の遊水地の連携に関する。流水型貯留堰群と堤内の遊水地の連携による流域ネットワークによる洪水調節工法において、平常時には流水型貯留堰の洪水吐より河川水を流下させる。洪水時で堤外地が貯留限界に達すると、堰の上流側端に設けた遊水地の連絡用水通しが開いて減勢工を経て遊水地に放流するものである。洪水後に堤外地の貯留水は洪水吐のゲートを開いて放流し、遊水地の貯留水は下流河道に通じるゲート付き排水路から放流するもので、上・中流域堤外地及び遊水地の計画的洪水貯留で流域支川・本川の洪水調整を図るものである。なお、遊水地の貯留が限界に達したならば遊水地の水通しを閉じることで、洪水は流水型貯留堰の水通しを越流することになる。また、遊水地の計画的貯留水の放流において、下流河道に自然流下で放流できない場合は、ポップの圧送装置を設けるものである。
【0021】
ここで、遊水地の水通しを閉じることで、人口密度の高い下流氾濫域が氾濫することが予測された場合、選択肢は二つある。遊水地を氾濫させるか、下流氾濫域を氾濫させるかである。関係者による事前のルール作りが必要である。
【0022】
次は、堤内の貯留水量の大きな遊水地の積極的な確保に関する。堤内の遊水地の貯留水量の拡大工法において、遊水地の候補地に沈下層のある地盤を選定する。そして、この沈下層を真空圧密工法で沈下させることで、土砂を搬出することもなく、遊水地面積を広げることもなく、遊水地の周囲堤防の築造負担を軽減して貯留水量を拡大するものである。
【0023】
次は河川の環境保全に関する。流水型貯留堰と堤内の遊水地の連携による洪水調節工法において、堤外地の計画的洪水貯留水は洪水時における河床の堆積土をフラッシュ放流により、この堆積土を下流に押し流して河床のアーマーコート化の解消を図る。遊水地の計画的洪水貯留水は下流の水量の不足時に放流する。このように河川の環境保全を図ることを特徴とする流水型貯留堰群の流域ネットワークによる洪水調節工法である。
【0024】
以上の説明のように本発明の流水型貯留堰とは、流水型ダムと同様に、河床部に放流設備(洪水吐)を有し、平常時には水を流下させる。流水型堰と流水型ダムの違いは、一般的な堰とダムの違いと同様に高さとなる。しかし、高さは重要ではなく、重要なのは働きによる効果である。従来の流水型ダムの建設は上流域に偏り、流域全体では数が少ない。これに対して、本発明の流水型貯留堰はダムに比べて堰そのものの規模は小さくても、上・中流域河川に加えて、時には下流域河川の一部をカバーする流水型貯留堰群で、その洪水の貯留対象域は超広大であり、その洪水貯水量は膨大である。計画的洪水貯留で流域ネットワークによる支川・本川の洪水調整を可能としている。さらに、流域全体の洪水状況、特に其々の流水型貯留堰の洪水貯留限界の推移の情報から氾濫域の河川の氾濫発生時刻を予測する。また、流水型貯留堰群は流域河川の環境保全にも寄与するものである。
【0025】
流水型貯留函体堰は、洪水時における洪水の減勢構造と堰の安定に洪水重量を取り込んだ構造が特徴である。この構造特性により堰の集団である流水型貯留函体堰群の築造を現実的なものとする。これらの函体堰群は多くの遊水地の整備の誘因となる。遊水地の適地があれば、これを容易に函体堰群に取り込むことができる。函体堰群は堤内の遊水地と連携して洪水調節容量を増大させる。そして、流域ネットワークによる支川・本川の洪水調節工法を構築する。近年の豪雨は、雨量の局地化と降雨量の極端な増加を招いている。局地的豪雨が流水型ダムの上流に起こるとは限らない。流水型貯留函体堰群のネットワークによる流域全体の洪水調整の威力は極めて大きいものである。
【発明の効果】
【0026】
上述したように本発明の流水型貯留堰群の流域ネットワークによる洪水調節工法は、膨大な計画的洪水貯留で流域ネットワークによる流域支川・本川の洪水調整を可能とした。さらに、流域全体の洪水状況と其々の流水型貯留堰の洪水貯留限界の推移の情報から氾濫域の河川の氾濫発生時刻を予測する。この予測は氾濫域住民の生命の安全に大きく寄与するものである。また、流水型貯留函体堰は、これの構造特性により流水型貯留函体堰群の築造を比較的容易とする。これにより流域ネットワークによる流域支川・本川の洪水調整を確立するという効果をもたらした。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を
図1~
図5に基づいて説明する。
【0029】
図1は本発明の一例を示す流水型函体堰の上流側の立面図で、当該堰は上面開放の函体構造である。
図2は同平面図、
図3は同断面A-Aの鉛直断面図である。図において、1は流水型貯留函体堰、11は上流側函体壁、12は函体隔壁、13は堰の水通し、14は堰の洪水吐、15は堰のゲート、16は函体堰底版、17は函体堰袖である。また、2は堤防、21は堤防天端、3は河川水路、4は河川地盤、71は河川の計画高水位、72は河川の平均水位である。
【0030】
堰の水通し13は上流側函体壁11の天端を計画高水位71まで切下げて設けてある。この切下げ断面積は計画高水位71を超える洪水を越流させる。洪水吐14は流水型貯留堰1の河床部に設けられてゲート15が付いている。流水型函体堰1の内部は上流側函体壁11に平行な複数の隔壁12で仕切られ、この隔壁の底部の開口の有無で洪水の函体内通過が下降上昇して流下エネルギーを減勢させる減勢工となっている。
図3は隔壁数3枚の例で、洪水の流れは落下-上昇-落下-上昇-落下である。なお、図には示していないが。洪水吐14に閉塞対策としてスクリーンが設置してある。
【0031】
図4は流水型函体堰と遊水地の連携による洪水調節工法の広域平面図、
図5は同断面B-Bの鉛直断面図である。図において、5は遊水地、51は遊水地の水通し、52は遊水地の放水路、53は遊水地の排水路、54は排水路のゲートである。また、6は遊水地堤防、61は遊水地堤防の天端、81は遊水地の計画高水位、82は遊水地の平均水位である。
【0032】
遊水地の水通し51及び減勢工は、流水型函体堰1の構造とほぼ同様であるが、大きく異なるところは、洪水吐がないこと、水通し51にゲートがあることである。ただし、図には示していない。遊水地の水通し51は河川の計画高水位71より切り下げた断面積となっている。遊水地のゲートが閉じているとき、河川の計画高水位71を超える洪水は堰の水通し13を越流する。遊水地のゲートが開いているとき、計画高水位71に達する洪水は全て遊水地水通し51を越流する。なお、ゲートの例としてローラーゲートが適当である。また、洪水初期の遊水地に滞留水があればポンプアップして放水路52を経由して河川下流に放流し、遊水地5の貯留水量を有効に活用する。また、遊水地の放水路52は洪水時に河川からの逆流があるのでゲート54設けたものである。
【符号の説明】
【0033】
1 流水型貯留函体堰
11 上流側函体壁
12 函体隔壁
13 堰の水通し
14 堰の洪水吐
15 堰のゲート
16 函体堰底版
17 函体堰袖
2 堤防
21 堤防天端
3 河川水路
4 河川地盤
5 遊水地
51 遊水地の水通し
52 遊水地の放水路
53 遊水地の排水路
54 遊水地の排水路のゲート
6 遊水地堤防
61 遊水地堤防の天端
71 河川の計画高水位
72 河川の平均水位
81 遊水地の計画高水位
82 遊水地の平均水位