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特開2024-35021圧粉磁心、合金粒子、電子素子、電子機器、電動機および発電機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035021
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】圧粉磁心、合金粒子、電子素子、電子機器、電動機および発電機
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/24 20060101AFI20240306BHJP
   H01F 1/33 20060101ALI20240306BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20240306BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20240306BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240306BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240306BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20240306BHJP
   B22F 1/17 20220101ALI20240306BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20240306BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20240306BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20240306BHJP
   B22F 3/24 20060101ALN20240306BHJP
【FI】
H01F1/24
H01F1/33
H01F27/255
H01F17/04 F
C22C38/00 303T
B22F1/00 Y
B22F1/16 100
B22F1/17 100
C22C33/02 M
H01F1/147 166
C21D6/00 C
B22F3/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002295
(22)【出願日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2022137770
(32)【優先日】2022-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 陽一
(72)【発明者】
【氏名】塩津 兼一
(72)【発明者】
【氏名】小塚 久司
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
5E070
【Fターム(参考)】
4K018AA26
4K018BC28
4K018CA02
4K018DA11
4K018DA29
4K018KA44
5E041AA11
5E041BB01
5E041NN01
5E070AA01
5E070BB01
(57)【要約】
【課題】渦電流損失が小さく、強度が高く、比透磁率が高い圧粉磁心を提供する。
【解決手段】圧粉磁心1は、鉄及びシリコンを含む合金からなるコア部5と、コア部5を被覆する被覆部7と、を備えた合金粒子3を、複数含有する。被覆部7は、FeSiO、又はFeSiOとMgSiOとの固溶体を含有する。被覆部7の外縁には、コア部5の合金よりもシリコンを少ない割合で含有する金属粒子9が点在する形態で複数配されている。金属粒子9のうちの少なくとも一部は、隣り合う合金粒子3の間において、被覆部7に挟み込まれる形態で存在している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄及びシリコンを含む合金からなるコア部と、
前記コア部を被覆する被覆部と、を備えた合金粒子を、複数含有する圧粉磁心であって、
前記被覆部は、FeSiO、又はFeSiOとMgSiOとの固溶体を含有し、
前記被覆部の外縁には、前記合金よりもシリコンを少ない割合で含有する金属粒子が点在する形態で複数配されており、
前記金属粒子のうちの少なくとも一部は、隣り合う前記合金粒子の間において、前記被覆部に挟み込まれる形態で存在している、圧粉磁心。
【請求項2】
鉄及びシリコンを含む合金からなるコア部と、
前記コア部を被覆する被覆部と、を備えた合金粒子であって、
前記被覆部は、FeSiO、又はFeSiOとMgSiOとの固溶体を含有し、
前記被覆部の外縁には、前記合金よりもシリコンを少ない割合で含有する金属粒子が点在する形態で複数配されている、合金粒子。
【請求項3】
前記被覆部は、FeSiOとMgSiOとの固溶体を含有し、
前記固溶体は、オリビン型構造を有する、請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項4】
前記コア部は、
質量%で、
シリコン(Si):2%以上10%以下、
アルミニウム(Al):0%以上10%以下、
クロム(Cr):0%以上20%以下、を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有する、請求項1又は請求項3に記載の圧粉磁心。
【請求項5】
前記成分組成は、800℃以上1200℃以下においてα相からγ相へのA変態を生じない組成である、請求項4に記載の圧粉磁心。
【請求項6】
前記被覆部は、FeSiOとMgSiOとの固溶体を含有し、
前記固溶体は、オリビン型構造を有する、請求項2に記載の合金粒子。
【請求項7】
前記コア部は、
質量%で、
シリコン(Si):2%以上10%以下、
アルミニウム(Al):0%以上10%以下、
クロム(Cr):0%以上20%以下、を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有する、請求項2又は請求項6に記載の合金粒子。
【請求項8】
前記成分組成は、800℃以上1200℃以下においてα相からγ相へのA変態を生じない組成である、請求項7に記載の合金粒子。
【請求項9】
請求項1又は請求項3に記載の圧粉磁心を備える、電子素子。
【請求項10】
前記圧粉磁心と、コイルと、を備える、請求項9に記載の電子素子。
【請求項11】
請求項9に記載の電子素子を備える、電子機器。
【請求項12】
請求項1又は請求項3に記載の圧粉磁心を備える、電動機。
【請求項13】
請求項1又は請求項3に記載の圧粉磁心を備える、発電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧粉磁心、合金粒子、電子素子、電子機器、電動機および発電機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示される圧粉磁心は、Feを含む軟磁性粒子と、軟磁性粒子を被覆する被覆層と、を備えている。被覆層に含まれる化合物層は、シリコーン樹脂とフェライトとを反応させて形成される。
特許文献2に開示される軟磁性体は、焼結時に軟磁性金属粒子内に拡散するFeとОと添加元素Mが反応し、Fe-O化合物、Fe-M-O化合物が生成される。冷却過程において、FeO相からFe3O4相及びFe相への共析変態が生じる。
特許文献3に開示される軟磁性体は、焼結過程において、シリコン分散層中のシリコンと軟磁性フェライトが反応して鉄系軟磁性母材粒子の表面にFeSiO等を形成する構成である。
特許文献4に開示される磁性材料は、FeとOを含む酸化物層、及び非晶質のSiOを含む多層構造である。非晶質のSiOの中にFeSiO等が析出する構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-75566号公報
【特許文献2】特開2014-60183号公報
【特許文献3】特開2016-86124号公報
【特許文献4】特開2019-09307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される圧粉磁心は、被覆層に含まれる化合物層の形成にシリコーン樹脂を用いるため、渦電流損失の低下が不十分となり、強度や比透磁率も低くなる。
特許文献2に開示される軟磁性体は、FeO相を共析変態させる方法を用いることで、渦電流損失の低下が不十分となり、強度や比透磁率も低くなる。
特許文献3に開示される軟磁性体は、FeSiO等の形成過程でシリコン粒子を用いることで、構造が不均一になり易く、渦電流損失の低下が不十分となり、強度や比透磁率も低くなる。
特許文献4に開示される磁性材料は、非晶質のSiOを含むため、比透磁率が低くなってしまう。
そこで、渦電流損失が小さく、強度が高く、比透磁率が高い圧粉磁心が求められている。
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、渦電流損失が小さく、強度が高く、比透磁率が高い圧粉磁心を提供することを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕鉄及びシリコンを含む合金からなるコア部と、
前記コア部を被覆する被覆部と、を備えた合金粒子を、複数含有する圧粉磁心であって、
前記被覆部は、FeSiO、又はFeSiOとMgSiOとの固溶体を含有し、
前記被覆部の外縁には、前記合金よりもシリコンを少ない割合で含有する金属粒子が点在する形態で複数配されており、
前記金属粒子のうちの少なくとも一部は、隣り合う前記合金粒子の間において、前記被覆部に挟み込まれる形態で存在している、圧粉磁心。
【0006】
〔2〕鉄及びシリコンを含む合金からなるコア部と、
前記コア部を被覆する被覆部と、を備えた合金粒子であって、
前記被覆部は、FeSiO、又はFeSiOとMgSiOとの固溶体を含有し、
前記被覆部の外縁には、前記合金よりもシリコンを少ない割合で含有する金属粒子が点在する形態で複数配されている、合金粒子。
【0007】
〔3〕前記被覆部は、FeSiOとMgSiOとの固溶体を含有し、
前記固溶体は、オリビン型構造を有する、〔1〕に記載の圧粉磁心。
【0008】
〔4〕前記コア部は、
質量%で、
シリコン(Si):2%以上10%以下、
アルミニウム(Al):0%以上10%以下、
クロム(Cr):0%以上20%以下、を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有する、〔1〕又は〔3〕に記載の圧粉磁心。
【0009】
〔5〕前記成分組成は、800℃以上1200℃以下においてα相からγ相へのA変態を生じない組成である、〔4〕に記載の圧粉磁心。
【0010】
〔6〕前記被覆部は、FeSiOとMgSiOとの固溶体を含有し、
前記固溶体は、オリビン型構造を有する、〔2〕に記載の合金粒子。
【0011】
〔7〕前記コア部は、
質量%で、
シリコン(Si):2%以上10%以下、
アルミニウム(Al):0%以上10%以下、
クロム(Cr):0%以上20%以下、を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有する、〔2〕又は〔6〕に記載の合金粒子。
【0012】
〔8〕前記成分組成は、800℃以上1200℃以下においてα相からγ相へのA変態を生じない組成である、〔7〕に記載の合金粒子。
【0013】
〔9〕〔1〕、〔3〕から〔5〕のいずれかに記載の圧粉磁心を備える、電子素子。
【0014】
〔10〕前記圧粉磁心と、コイルと、を備える、〔9〕に記載の電子素子。
【0015】
〔11〕〔9〕又は〔10〕に記載の電子素子を備える、電子機器。
【0016】
〔12〕〔1〕、〔3〕から〔5〕のいずれかに記載の圧粉磁心を備える、電動機。
【0017】
〔13〕〔1〕、〔3〕から〔5〕のいずれかに記載の圧粉磁心を備える、発電機。
【発明の効果】
【0018】
本開示の圧粉磁心は、渦電流損失が小さく、強度が高く、比透磁率が高い圧粉磁心を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】圧粉磁心の断面構造を観察した際の断面SEM像を示す。
図2図1の視野よりも狭い視野で観察した際の断面SEM像を示す。
図3】圧粉磁心の断面構造において、特定の合金粒子とその周辺の合金粒子の一部とが見える視野で観察した際の断面SEM像を模式的に示す説明図である。
図4】圧粉磁心を用いたインダクタの模式図である。
図5】圧粉磁心を用いたインダクタの模式図である。
図6】圧粉磁心を用いたインダクタの模式図である。
図7】圧粉磁心を用いたノイズフィルターの模式図である。
図8】圧粉磁心を用いたリアクトルの模式図である。
図9】圧粉磁心を用いたトランスの模式図である。
図10】圧粉磁心を用いたノイズフィルターの回路図である。
図11】圧粉磁心を用いたモータの模式図である。
図12】圧粉磁心を用いた発電機の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0021】
1.圧粉磁心の構成
圧粉磁心1は、図1の断面SEM像に示すように、複数の合金粒子3を有する。合金粒子3は、図2の断面SEM像に示すように、コア部5と、コア部5を被覆する被覆部7と、を備えている。図2は、図1の視野よりも狭い視野で観察した際の断面SEM像である。コア部5は、鉄(Fe)およびシリコン(Si)を含む合金からなる。被覆部7は、FeSiO、又はFeSiOとMgSiOとの固溶体を含有する。被覆部7の外縁には、金属粒子9が点在する形態で複数配されている。なお、圧粉磁心1の形状は、特に限定されない。なお、図1図2は、被覆部がFeSiOを含有する場合の断面SEM像を示している。
【0022】
コア部5は、鉄およびシリコンを含む軟磁性金属粒子である。コア部5は、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)等を含んでもよい。コア部5は、例えば、シリコンを1質量%~10質量%、アルミニウムを10質量%以下、クロム(Cr)を20質量%以下含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる。
【0023】
コア部5は、圧粉磁心1の飽和磁束密度を高める観点から、質量%で、シリコン(Si):2%以上10%以下、アルミニウム(Al):0%以上10%以下、クロム(Cr):0%以上20%以下、を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有することが好ましい。コア部5に含有されるアルミニウム(Al)は、0質量%であってもよい。コア部5に含有されるクロム(Cr)は、0質量%であってもよい。
【0024】
コア部5の成分組成は、800℃以上1200℃以下においてα相からγ相へのA変態を生じない組成であることが好ましい。α相からγ相へのA変態は、例えば体心立方格子(BCC)相から面心立方格子(FCC)相への変態である。これにより、被覆部7に微細なクラックが生じにくくなり、クラックを通じて隣り合う合金粒子3の間で焼結が生じて絶縁性が低下することを抑制でき、ひいては渦電流損失の低下を抑制できる。
【0025】
コア部5の平均粒子径は、10μm以上70μm以下であり、10μm以上50μm以下が好ましく、10μm以上40μm以下がより好ましい。コア部5の平均粒子径は、圧粉磁心1が使用される周波数帯域によって適宜変更することができる。例えば、50kHzを超える高周波帯域での使用を想定した場合、10μm以上50μm以下であることが好ましい。圧粉磁心1を高周波帯で使用した際、コア部5内には渦電流が発生し、損失(渦電流損失)が生じ得る。渦電流損失の発生量は、周波数の2乗に比例し、粒子径の2乗に比例するため、高周波帯で使用する場合、粒子径は小さい方が好ましい。
【0026】
コア部5の平均粒子径は、圧粉磁心1の断面をFE-SEM(電界放出形走査電子顕微鏡)によって観察した粒子面積から面積円相当径を算出し、平均粒子径とする。具体的には、次のようにして平均円相当径を求める。所定の観察視野(例えば、200μm×200μm)において、欠けることなく観察できる複数のコア部5に着目する。コア部5の各々の粒子画像の面積(投影面積)と等しい面積を有する理想円(真円)の直径(面積円相当径)を各粒子の円相当径として算出する。そして、各粒子の円相当径を算術平均することにより、平均円相当径を求める。各粒子の円相当径及び平均円相当径は、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。
【0027】
被覆部7は、FeSiO、又はFeSiOとMgSiOとの固溶体を含有する。被覆部7中の結晶相(FeSiO、MgFeSiO等)は、圧粉磁心1の断面に対するXRD(X線回折)分析によって同定される。被覆部がFeSiOを含有する場合、被覆部7中のFeSiOは、参照強度比(RIR)法を用いた各成分の構成割合の簡易定量によると、圧粉磁心1においてコア部5の結晶相を除いて最も量が多い。被覆部7の平均厚さは、0.01μm以上1μm以下である。また、被覆部7の厚さは、コア部5の平均粒子径の0.015%以上10%以下が好ましい。
【0028】
被覆部7がFeSiOとMgSiOとの固溶体を含有する場合、固溶体の組成式は、MgFe2―XSiOで表すことができる。ここで、Xは、0<X<2の関係式を満たすことが好ましく、0<X<1.2の関係式を満たすことがより好ましく、0.2<X<1.2の関係式を満たすことが更に好ましい。被覆部7がFeSiOとMgSiOとの固溶体を含有する場合、FeSiOとMgSiOとのあらゆる組成比で固溶体を形成することが好ましい。被覆部7がFeSiOとMgSiOとの固溶体を含有する場合、XRD(X線回折)分析によって検出される固溶体の結晶構造が、直方晶系空間群Pbnmのオリビン型構造を有することが好ましい。これにより、被覆部7の熱膨張率をコア部5の合金の熱膨張率に近づけることができ、焼鈍過程で被覆部7にクラックが生じにくく、渦電流損失の低下を抑制できる。
【0029】
金属粒子9は、低シリコン濃度の粒子である。金属粒子9は、コア部5よりもシリコンを少ない割合で含有する。金属粒子9中のシリコン濃度は、圧粉磁心1の断面に対するSEM-EDS(エネルギー分散型X線分析)によって測定できる。金属粒子9は、純鉄が好ましい。金属粒子9の平均粒子径は、例えば、0.1μm以上3μm以下である。合金粒子3の平均粒子径に対する金属粒子9の平均粒子径の比率は0.14%以上25%以下である。金属粒子9は、被覆部7の外縁において、点在する形態で複数配されている。金属粒子9が点在する形態で複数配されているとは、2つ以上の金属粒子9が離間して配されていることである。なお、断面画像において、1個の合金粒子3の外縁に2つ以上の金属粒子9が配されているのが好ましく、1個の合金粒子3の外縁に3つ以上の金属粒子9が配されているのがより好ましい。また、1個の合金粒子3の外縁に50個以下の金属粒子9が配されているのが好ましい。なお、隣り合う合金粒子3の間に2つ以上の金属粒子9の一部が挟み込まれていることが好ましい。
【0030】
複数の金属粒子9のうちの少なくとも一部は、隣り合う合金粒子3の間において、被覆部7に挟み込まれる形態で存在している。なお、複数の金属粒子9のうちの全部が、隣り合う合金粒子3の間において、被覆部7に挟み込まれる形態で存在していてもよい。なお、金属粒子9は、一部がコア部5とつながっていてもよい。また、金属粒子9と隣り合う合金粒子3との間に空隙が存在していてもよい。
【0031】
図3を参照して、金属粒子9の配置について説明する。図3は、圧粉磁心の断面構造において、特定の合金粒子3とその周辺の合金粒子3の一部とが見える視野で観察した際の断面SEM像を模式的に示す説明図である。図3の中心に位置する合金粒子3(合金粒子3Aという)に着目すると、合金粒子3Aに含まれるコア部5の輪郭Lには、第1部分L1(図3の太線部分)と、第2部分L2(図3の細線部分)と、が存在している。第1部分L1は、金属粒子9の外縁から1μm以上離れている部分である。図3に、金属粒子9の外縁から1μm離れた位置を示す仮想円Cが描かれている。輪郭Lにおいて、仮想円Cの外側にある部分が第1部分L1である。第2部分L2は、金属粒子9の外縁から1μm以内にある部分である。輪郭Lにおいて、仮想円Cの内側にある部分が第2部分L2である。
【0032】
輪郭Lの周方向の長さに対して、第1部分L1の長さが占める割合は、50%以上である。ここでの第1部分L1の長さとは、輪郭Lに複数の第1部分L1が存在する場合には、全ての第1部分L1の長さの合計である。また、第2部分L2に着目すると、輪郭Lの全体の周方向の長さに対して、第2部分L2の長さが占める割合は、50%未満である。ここでの第2部分L2の長さとは、輪郭Lに複数の第2部分L2が存在する場合には、全ての第2部分L2の長さの合計である。
【0033】
合金粒子3Aの被覆部7の外縁には、金属粒子9が点在する形態で複数(図3では9つ)配されている。図3では、合金粒子3Aと隣り合う合金粒子3として、合金粒子3B,3C,3Dが存在している。金属粒子9のうちの少なくとも一部(図3では5つの金属粒子9A~9E)は、隣り合う合金粒子3の間において、被覆部7に挟み込まれる形態で存在している。例えば、合金粒子3Aと合金粒子3Bの間には、被覆部7に挟み込まれる形態で金属粒子9A,9Bが存在している。合金粒子3Aと合金粒子3Cの間には、被覆部7に挟み込まれる形態で金属粒子9Cが存在している。合金粒子3Aと合金粒子3Dの間には、被覆部7に挟み込まれる形態で金属粒子9D,9Eが存在している。
【0034】
2.圧粉磁心の効果
本開示の圧粉磁心1において、被覆部7にFeSiO、又はFeSiOとMgSiOとの固溶体が含有されるため、合金粒子3間の絶縁性が高くなり、渦電流損失を低減できる。
【0035】
本開示の圧粉磁心1において、被覆部7に含まれるFeSiOの融点(1205℃)が、酸化鉄の融点(1371℃)より低いため、被覆部7同士で焼結し易く、強度を高くできる。
【0036】
本開示の圧粉磁心1において、被覆部7の外縁には、コア部5の合金よりもシリコンを少ない割合で含有する金属粒子9が点在する形態で複数配されている。金属粒子9のうちの少なくとも一部は、隣り合う合金粒子3の間において、被覆部7に挟み込まれる形態で存在している。そのため、圧粉磁心1の比透磁率を高くできる。特に、コア部5のシリコン濃度が低いほど、圧粉磁心1の比透磁率を高くできる。
【0037】
本開示の圧粉磁心1は、合金粒子3を含む原料粉末をプレスして形成することで、強度を高くできる。被覆部7は、低シリコン濃度であるため、プレス時に変形し、合金粒子3同士を結び付きやすくする。
【0038】
本開示の圧粉磁心1において、被覆部7の外縁に、コア部5の合金よりもシリコンを少ない割合で含有する金属粒子9が点在する形態で複数配されているため、金属粒子9がつながって存在する構成に比べて、渦電流の経路となりにくく、渦電流損失を低減できる。
【0039】
本開示の圧粉磁心1において、被覆部7がFeSiOとMgSiOとの固溶体を含有し、FeSiOとMgSiOとの固溶体がオリビン型構造を有することが好ましい。MgSiOの熱膨張率は、FeSiOの熱膨張率に比べて大きく、コア部5の合金の熱膨張率により近い。MgSiOとFeSiOとは、結晶構造が同じオリビン型構造であり、全ての比率で固溶体を形成し、MgSiOの比率が大きいほど、固溶体の熱膨張率が大きくなる。そのため、被覆部7がFeSiOとMgSiOとの固溶体を含有することで、被覆部7とコア部5の熱膨張率が近くなり、例えば焼鈍過程においても、両者の熱膨張率差に起因する被覆部7のクラックが生じにくくなり、その結果、渦電流損失を抑制できる。
【0040】
本開示の圧粉磁心1において、コア部5の成分組成は、800℃以上1200℃以下においてα相からγ相へのA変態を生じない組成であることが好ましい。純鉄の場合、例えば、加熱していくと、911℃のA3変態点にてα相からγ相へのA3変態が起こり、5%以上もの急激な体積収縮が生じる。反対に、純鉄を冷却していくと、急激な体積膨張が生じる。この変態が焼鈍過程で起こると、被覆部7に微細なクラックが生じ、クラックを通じて隣り合う合金粒子3の間で焼結が起こり、絶縁性が低下し、渦電流損失を抑制しにくくなる。コア部5がFe-Si合金であっても、Si添加量が少ない組成では、この変態が起こり得る。コア部5におけるSi、Al、Cr等の添加量を大きくしていくと、この変態が起こらない合金にできる。例えば、コア部5がFe-Si合金の場合、Siを2質量%以上10質量%以下含むことが好ましい。コア部5がFe-Al合金の場合、Alを1質量%以上10質量%以下含むことが好ましい。コア部5がFe-Cr合金の場合、Crを13質量%以上20質量%以下含むことが好ましい。コア部5において、Siのみの添加でもよいが、AlやCrを併せて添加することでSiの添加量を低減できる。
【0041】
3.圧粉磁心の製造方法
圧粉磁心1の製造方法は、特に限定されない。製造方法について以下に説明する。
(1)被覆粉末の作製
コア部5に対して、めっき法により、フェライトの被覆を形成する。被覆を形成する方法は、めっき法の他、ミリング法、噴霧法、ゾルゲル法、共沈法等であってもよい。フェライトは、マグネタイトFeの他、Niフェライト、Znフェライト、Mnフェライト、Mgフェライト、MnZnフェライト、NiZnフェライト等であってもよい。
【0042】
めっき法では、コア部5と、鉄イオン等の2価イオンとを含む水溶液に、pHを制御しながら酸化剤(亜硝酸塩)を添加することにより、フェライトの被覆を形成する。作製した水溶液をろ過し、乾燥させることによって、被覆粉末を得る。
(2)熱処理
得られた被覆粉末を熱処理することにより、合金粒子3を含む合金粉末が得られる。コア部5は、FeSiO、又はFeSiOとMgSiOとの固溶体を含有する被覆部7に覆われている。コア部5よりもシリコンを少ない割合で含有する金属粒子9が、被覆部7の外縁に点在する形態で複数配されている。
(3)成形(プレス成形)
得られた合金粉末をプレス成形し、焼鈍することにより、圧粉磁心1を得る。プレス成形は、例えば0.5GPa~2.0GPaの面圧を加えて成形する。成形性向上のために、少量の有機バインダーや内部潤滑剤(ステアリン酸塩等)を混合してもよい。また、金型にステアリン酸塩等の離型剤を塗布してもよい。一軸加圧成形の他、CIP(冷間等方圧プレス)成形等を行ってもよい。
なお、上記(1)で得られた被覆粉末を熱処理せずにプレス成形し、焼鈍することによっても、圧粉磁心1が得られる。
(4)熱処理および焼鈍について
焼鈍過程で、フェライトの被覆と、コア部5中のシリコンとが反応し、FeSiO、又はFeSiOとMgSiOとの固溶体が生成する。同時に、焼鈍過程で、被覆表面に低シリコン濃度の金属粒子9が析出し、表面に点在する状態となる。
被覆粉末の熱処理および成形後の焼鈍は、非酸化雰囲気(N雰囲気、Ar雰囲気またはH雰囲気)で行う。熱処理および焼鈍の最高温度は、700℃~1050℃が好ましい。これは、FeSiO、又はFeSiOとMgSiOとの固溶体の形成反応が進み、渦電流損失を小さくできるためである。熱処理および焼鈍の最高温度は、900℃~1050℃がより好ましい。これは、コア部5内の歪みが小さくなり、ヒステリシス損失を小さくできるためである。熱処理および焼鈍の最高温度を1050℃以下とすることで、合金粒子3同士の焼結を抑制し、渦電流損失を小さくできる。焼鈍温度は、1時間以上維持することが好ましい。これは、FeSiO、又はFeSiOとMgSiOとの固溶体の形成反応が進み、渦電流損失を小さくできるためである。600℃から300℃への冷却過程では、2℃/min以上の冷却速度で冷却することが好ましい。これは、FeSiO中に微量のFeOが固溶している場合にFeOの共析変態によって渦電流損失が増大するのを抑制するためである。
【0043】
4.圧粉磁心の適用例
上記圧粉磁心1は、電子素子に好適に用いられる。電子素子として、例えば、インダクタ、チョークコイル、ノイズフィルター、リアクトル、トランス等が挙げられる。電子素子は、例えば、圧粉磁心1と、コイルと、を備える。
【0044】
図4図6に示すインダクタ10,20,30は、本開示の電子素子の一例である。図4に示すインダクタ10は、圧粉磁心11と、コイル13と、を備える。図5に示すインダクタ20は、圧粉磁心21と、コイル23と、を備える。図6に示すインダクタ30は、圧粉磁心31と、コイル33と、を備える。圧粉磁心11,21,31は、圧粉磁心1と同様の構成である。
【0045】
図7に示すノイズフィルター40は、本開示の電子素子の一例である。ノイズフィルター40は、圧粉磁心41と、一対のコイル43,45と、を備える。圧粉磁心41は、圧粉磁心1と同様の構成である。
【0046】
図8に示すリアクトル50は、本開示の電子素子の一例である。リアクトル50は、圧粉磁心51と、コイル53と、を備える。圧粉磁心51は、圧粉磁心1と同様の構成である。
【0047】
図9に示すトランス60は、本開示の電子素子の一例である。トランス60は、圧粉磁心61と、一対のコイル63,65と、を備える。圧粉磁心61は、上記圧粉磁心1と同様の構成である。
【0048】
上記圧粉磁心1は、電子機器に好適に用いられる。電子機器は、電子素子を備える。電子素子として、例えば、上記電子素子が挙げられる。
【0049】
図10に示すノイズフィルター70は、本開示の電子機器の一例である。ノイズフィルター70は、素子71と、コンデンサ73,75,77と、を備える。素子71は、本開示の「電子素子」の一例に相当する。素子71は、例えば図7に示すノイズフィルター40と同様の構成の素子である。
【0050】
上記圧粉磁心1は、電動機に好適に用いられる。電動機として、例えば、モータ、リニアアクチュエータ等が挙げられる。
【0051】
図11に示すモータ80は、本開示の電動機の一例である。モータ80は、ロータ80Aと、ステータ80Bと、を備える。ステータ80Bは、圧粉磁心81と、コイル83と、を有する。圧粉磁心81は、上記圧粉磁心1と同様の構成である。
【0052】
図12に示す発電機90は、本開示の発電機の一例である。発電機90は、ロータ90Aと、ステータ90Bと、を備える。ステータ90Bは、圧粉磁心91と、コイル93と、を有する。圧粉磁心91は、上記圧粉磁心1と同様の構成である。
【実施例0053】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
1.圧粉磁心の作製
表1に実施例1~3、比較例1,2の圧粉磁心の合金粒子の組成を示す。表1の「コア部の組成」の欄における「Fe-6.5%Si」との記載は、合金粒子のコア部が、シリコンを6.5質量%含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなることを意味している。
【0054】
【表1】

【0055】
表2に実施例4,5、比較例3,4の圧粉磁心の合金粒子の組成を示す。表2の「コア部の組成」の欄における「Fe-6.5%Si」との記載は、合金粒子のコア部が、シリコンを6.5質量%含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなることを意味している。表2の「コア部の組成」の欄における「Fe-1.0%Si」との記載は、合金粒子のコア部が、シリコンを1.0質量%含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなることを意味している。
【0056】
【表2】

【0057】
(1)実施例1~3
実施例1~3では、シリコンを6.5質量%含有し残部が鉄および不可避的不純物からなるコア部を原料粉末に用い、コア部に対してめっき法によりMnZnフェライトを被覆した。
実施例1では、コア部を被覆した後、1GPaでプレス成形し、800℃で1.5時間保持して焼鈍した。冷却過程では、600℃から300℃へ2℃/minの冷却速度で冷却した。
実施例2では、コア部を被覆した後、1GPaでプレス成形し、1000℃で1.5時間保持して焼鈍した。冷却過程では、600℃から300℃へ2℃/minの冷却速度で冷却した。
実施例3では、コア部を被覆した後、粉末状態で、900℃で1.5時間保持して熱処理し、冷却した。この冷却過程では、600℃から300℃へ2℃/minの冷却速度で冷却した。その後、1GPaでプレス成形し、1000℃で1.5時間保持して焼鈍し、冷却した。この冷却過程では、600℃から300℃へ2℃/minの冷却速度で冷却した。
【0058】
(2)比較例1,2
比較例1,2は、実施例1~3と同様に、シリコンを6.5質量%含有し残部が鉄および不可避的不純物からなるコア部を原料粉末に用い、コア部に対してめっき法によりMnZnフェライトを被覆した。
比較例1では、コア部を被覆した後、1GPaでプレス成形し、600℃で0.5時間保持して焼鈍した。冷却過程では、600℃から300℃へ1℃/minの冷却速度で冷却した。
比較例2では、コア部を被覆した後、1GPaでプレス成形し、600℃で1.5時間保持して焼鈍した。冷却過程では、600℃から300℃へ1℃/minの冷却速度で冷却した。
【0059】
(3)実施例4,5
実施例4,5では、シリコンを6.5質量%含有し残部が鉄および不可避的不純物からなるコア部を原料粉末に用い、コア部に対してめっき法によりMgフェライトを被覆した。
実施例4では、コア部を被覆した後、1GPaでプレス成形し、1050℃で2.0時間保持して焼鈍した。冷却過程では、600℃から300℃へ2℃/minの冷却速度で冷却した。
実施例5では、コア部を被覆した後、粉末状態で、900℃で1.5時間保持して熱処理し、冷却した。この冷却過程では、600℃から300℃へ2℃/minの冷却速度で冷却した。その後、1GPaでプレス成形し、1050℃で2.0時間保持して焼鈍し、冷却した。この冷却過程では、600℃から300℃へ2℃/minの冷却速度で冷却した。
【0060】
(4)比較例3,4
比較例3では、シリコンを1.0質量%含有し残部が鉄および不可避的不純物からなるコア部を原料粉末に用い、コア部に対してめっき法によりMgフェライトを被覆した。コア部を被覆した後、1GPaでプレス成形し、1050℃で2.0時間保持して焼鈍した。冷却過程では、600℃から300℃へ2℃/minの冷却速度で冷却した。
比較例4では、シリコンを1.0質量%含有し残部が鉄および不可避的不純物からなるコア部を原料粉末に用い、コア部に対してめっき法によりMnZnフェライトを被覆した。コア部を被覆した後、1GPaでプレス成形し、1050℃で1.5時間保持して焼鈍した。冷却過程では、600℃から300℃へ2℃/minの冷却速度で冷却した。
【0061】
なお、上記の実施例および比較例において、コア部に対してめっき法によりMnZnフェライトを被覆する際、めっき法に用いる水溶液に含まれる2価イオン濃度の比(モル比)は、Fe2+:Mn2+:Zn2+=100:8:12とした。
また、上記の実施例および比較例において、コア部に対してめっき法によりMgフェライトを被覆する際、めっき法に用いる水溶液に含まれる2価イオン濃度の比(モル比)は、Fe2+:Mg2+=100:100とした。
【0062】
2.被覆部の結晶相の評価方法
被覆部の結晶相は、圧粉磁心の断面に対するXRD(X線回折)分析によって同定した。なお、実施例4,5および比較例3では、圧粉磁心の断面をSEMにて観察し、EDS分析により、被覆部からMgが検出されることを確認した。
【0063】
3.金属粒子の形態の評価方法
圧粉磁心の任意の断面を、SEMを用いて観察した。隣り合う合金粒子の間に、金属粒子が被覆部に挟み込まれる形態で複数点在しているか否か調べた。具体的には、隣り合う合金粒子の間に、2つ以上の金属粒子が離間して配されているか否か調べた。
【0064】
4.渦電流損失の評価方法
圧粉磁心の渦電流損失を、測定装置(B-Hアナライザ、岩崎通信機製、型番SY-8218)を用いて評価した。下記の鉄損に関する修正steinmetz方程式を用い、0.1T、10kHzの条件で評価した。
【0065】
【数1】
【0066】
5.強度の評価方法
圧粉磁心の試験片(50mm×4mm×3mm厚)を作製して、三点曲げ試験を行うことで強度の指標を得た。
【0067】
6.比透磁率の評価方法
圧粉磁心の比透磁率は、測定装置(B-Hアナライザ、岩崎通信機製、型番SY-8218)を用いて測定した。比透磁率は、0.1T、10kHzの条件で評価した。
【0068】
7.評価結果
評価結果を表1,2に示す。
実施例1~3は、下記要件(A)~(C)を満たしている。
・要件(A):合金粒子のコア部は、FeSiOを含有する被覆部に覆われている。
・要件(B):被覆部の外縁は、合金よりもシリコンを少ない割合で含有する金属粒子が点在する形態で複数配されている。
・要件(C):金属粒子のうちの少なくとも一部は、隣り合う合金粒子の間において、被覆部に挟み込まれる形態で存在している。
【0069】
これに対して、比較例1,2は、上記要件(A)~(C)を満たしていない。比較例1では、被覆部の結晶相としてspinel型のFeが見られ、金属粒子は見られなかった。比較例2では、金属粒子が点在せずにつながっている形態であった。
【0070】
上記要件(A)~(C)を満たす実施例1~3では、渦電流損失がそれぞれ1.8kW/m、1.9kW/m、1.8kW/mであった。上記要件(A)~(C)を満たさない比較例1,2では、渦電流損失がそれぞれ9.3kW/m、7.8kW/mであった。実施例1~3は、合金粒子の被覆部が酸化鉄ではなくFeSiOを含むため、合金粒子間の絶縁性が高く、渦電流損失を抑制できたと考えられる。また、実施例1~3は、隣り合う合金粒子の間に金属粒子が被覆部に挟み込まれる形態で複数点在しているため、渦電流の経路になりにくく、渦電流損失を抑制できたと考えられる。一方で、比較例1では、焼鈍温度が600℃と低く、焼鈍時間が0.5時間と短いため、FeSiOの形成反応が進みにくく、渦電流損失が大きくなったと考えられる。比較例2では、冷却過程で600℃から300℃への冷却速度が1℃/minと遅かったため、FeSiO中に微量のFeOが固溶している場合にFeOの共析変態によって渦電流損失が大きくなったと考えられる。
【0071】
上記要件(A)~(C)を満たす実施例1~3では、三点曲げ試験の強度の指標が58MPa~80MPaであった。上記要件(A)~(C)を満たさない比較例1,2では、三点曲げ試験の強度の指標がそれぞれ35MPa,61MPaであった。実施例1~3では、金属粒子が低シリコン濃度であり、プレス成形時に変形して、合金粒子同士が結び付きやすくなったため強度が高まったと考えられる。また、実施例1~3、比較例2は、合金粒子の被覆部が、酸化鉄よりも融点の低いFeSiOを含むため、被覆部同士で焼結し易いため、強度が高まったと考えられる。
【0072】
上記要件(A)~(C)を満たす実施例1~3では、比透磁率が62~80であった。上記要件(A)~(C)を満たさない比較例1,2では、比透磁率がそれぞれ40、65であった。実施例1~3では、金属粒子が、隣り合う合金粒子の間に被覆部に挟み込まれる形態で複数点在しており、合金粒子同士を磁気的に結び付けることで、比透磁率が高まったと考えられる。
【0073】
実施例4,5は、下記要件(D)~(F)を満たしている。
・要件(D):合金粒子のコア部は、FeSiOとMgSiOとの固溶体を含有する被覆部に覆われている。
・要件(E):被覆部の外縁は、合金よりもシリコンを少ない割合で含有する金属粒子が点在する形態で複数配されている。
・要件(F):金属粒子のうちの少なくとも一部は、隣り合う合金粒子の間において、被覆部に挟み込まれる形態で存在している。
【0074】
これに対して、比較例3,4は、上記要件(D)~(F)を満たしていない。比較例3では、被覆部の結晶相としてMgFeSiOが見られたが、金属粒子が点在せずにつながっている形態であった。比較例4では、被覆部の結晶相としてFeSiOが見られたが、金属粒子が点在せずにつながっている形態であった。
【0075】
上記要件(D)~(F)を満たす実施例4,5では、渦電流損失がそれぞれ1.8kW/m、1.9kW/mであった。上記要件(D)~(F)を満たさない比較例3,4では、渦電流損失がそれぞれ350kW/m、450kW/mであった。実施例4,5は、合金粒子の被覆部が酸化鉄ではなくFeSiOとMgSiOとの固溶体を含むため、合金粒子間の絶縁性が高く、渦電流損失を抑制できたと考えられる。また、実施例4,5は、隣り合う合金粒子の間に金属粒子が被覆部に挟み込まれる形態で複数点在しているため、金属粒子が渦電流の経路になりにくく、渦電流損失を抑制できたと考えられる。一方で、比較例3,4では、コア部におけるSiの含有量が実施例4,5に比べて低く、焼鈍過程でコア部に含まれる合金のα相からγ相へのA変態が生じたことが推測される。そのため、被覆部に微細なクラックが生じ、クラックを通じて隣り合う合金粒子の間で焼結が起こり、絶縁性が低下し、渦電流損失が大きくなったと考えられる。
【0076】
上記要件(D)~(F)を満たす実施例4,5では、三点曲げ試験の強度の指標がそれぞれ74MPa、85MPaであった。実施例4,5では、実施例1~3と同程度の高い強度が得られた。実施例4,5では、金属粒子が低シリコン濃度であり、プレス成形時に変形して、合金粒子同士が結び付きやすくなったため強度が高まったと考えられる。また、実施例4,5は、合金粒子の被覆部が、酸化鉄よりも融点の低いFeSiOとMgSiOとの固溶体を含むため、被覆部同士で焼結しやすく、強度が高まったと考えられる。
【0077】
上記要件(D)~(F)を満たす実施例4,5では、比透磁率がそれぞれ57,61であった。実施例4,5では、実施例1~3と同程度の比透磁率が得られた。実施例4,5では、金属粒子が、隣り合う合金粒子の間に被覆部に挟み込まれる形態で複数点在しており、合金粒子同士を磁気的に結び付けることで、比透磁率が高まったと考えられる。
【0078】
8.実施例の効果
本実施例の圧粉磁心は、渦電流損失が小さく、強度が高く、比透磁率が高くなった。
【0079】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の圧粉磁心は、モータ、トランス、リアクトル、インダクタ、ノイズフィルター等の用途に特に好適に使用される。
【符号の説明】
【0081】
1,11,21,31,41,51,61,81,91…圧粉磁心
3,3A,3B,3C,3D…合金粒子
5…コア部
7…被覆部
9,9A~9E…金属粒子
10,20,30…インダクタ(電子素子)
13,23,33,43,45,53,63,65,83,93…コイル
40…ノイズフィルター(電子素子)
50…リアクトル(電子素子)
60…トランス(電子素子)
70…ノイズフィルター(電子機器)
80…モータ(電動機)
90…発電機
L…輪郭
L1…第1部分
L2…第2部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12