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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035055
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】正極材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240306BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240306BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240306BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023076932
(22)【出願日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】111133201
(32)【優先日】2022-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】517232729
【氏名又は名称】台湾立凱電能科技股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Advanced Lithium Electrochemistry Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】No. 2-1, Singhua Rd., Taoyuan Dist., Taoyuan City,330,Taiwan,
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】謝瀚緯
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050EA01
5H050EA08
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】      (修正有)
【解決手段】正極材料およびその製造方法を提供し、正極材料は、コア層10とコア層を被覆する被覆層20とを備える。コア層は、組成がLi[NiCoMn]Oである三元材料で構成され、x+y+z=1、0.8<x<1、0<y<0.2、0<z<0.2である。被覆層は、リン酸鉄化合物材料で構成され、且つ複数の第1粒子21が凝集して形成される。
【効果】コア層中の高ニッケル含有量により、高出力密度且つ低コストの正極材料が実現できる。リン酸鉄化合物材料自身は良好なレート特性を有するため、構成された被覆層により正極材料のレート特性をさらに向上させることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア層と被覆層とを備える正極材料であって、
前記コア層は、三元材料で構成され、前記三元材料の組成がLi[NiCoMn]Oであり、x+y+z=1、0.8<x<1、0<y<0.2、0<z<0.2であり、
前記被覆層は、前記コア層を被覆し、前記被覆層がリン酸鉄化合物材料で構成され、且つ前記被覆層は複数の第1粒子凝集して形成される、ことを特徴とする正極材料。
【請求項2】
前記コア層の粒子径が4 μm~15 μmである、ことを特徴とする請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
前記リン酸鉄化合物材料は、リン酸鉄リチウム(LiFePO)およびヘテロサイトリン酸鉄(Heterosite FePO)のうちのいずれか1つで構成される、ことを特徴とする請求項1に記載の正極材料。
【請求項4】
前記第1粒子の粒子径が0.1 μm~3 μmである、ことを特徴とする請求項1に記載の正極材料。
【請求項5】
前記正極材料は、前記第1粒子を被覆する炭素被覆層を備え、前記炭素被覆層の厚さは3 nm~10 nmである、ことを特徴とする請求項1に記載の正極材料。
【請求項6】
前記正極材料における前記コア層の重量割合が95 wt%~99.8 wt%である、ことを特徴とする請求項1に記載の正極材料。
【請求項7】
前記正極材料における前記被覆層の重量割合が0.2 wt%~5 wt%である、ことを特徴とする請求項1に記載の正極材料。
【請求項8】
前記正極材料における前記被覆層の重量割合が0.2 wt%~3 wt%である、ことを特徴とする請求項7に記載の正極材料。
【請求項9】
正極材料の製造方法であって、
三元材料を提供し、前記三元材料の組成がLi[NiCoMn]Oであり、x+y+z=1、0.8<x<1、0<y<0.2、0<z<0.2であるステップ(a)と、
リン酸鉄化合物材料を提供し、前記三元材料と前記リン酸鉄化合物材料とを機械混合方式により混合し、前記正極材料を得るステップであって、前記正極材料は、コア層と被覆層とを備え、前記コア層が前記三元材料で構成され、前記被覆層が前記コア層を被覆し、前記被覆層が前記リン酸鉄化合物材料で構成され、前記被覆層は複数の第1粒子が凝集して形成される、ステップ(b)とを含むことを特徴とする正極材料の製造方法。
【請求項10】
前記コア層の粒子径が4 μm~15 μmである、ことを特徴とする請求項9に記載の正極材料の製造方法。
【請求項11】
前記リン酸鉄化合物材料は、リン酸鉄リチウム(LiFePO)およびヘテロサイトリン酸鉄(Heterosite FePO)のうちのいずれか1つで構成される、ことを特徴とする請求項9に記載の正極材料の製造方法。
【請求項12】
前記第1粒子の粒子径が0.1 μm~3 μmである、ことを特徴とする請求項9に記載の正極材料の製造方法。
【請求項13】
前記正極材料は、前記第1粒子を被覆する炭素被覆層を備え、前記炭素被覆層の厚さは3 nm~10 nmである、ことを特徴とする請求項9に記載の正極材料の製造方法。
【請求項14】
前記正極材料における前記コア層の重量割合が95 wt%~99.8 wt%である、ことを特徴とする請求項9に記載の正極材料の製造方法。
【請求項15】
前記正極材料における前記被覆層の重量割合が0.2 wt%~5 wt%である、ことを特徴とする請求項9に記載の正極材料の製造方法。
【請求項16】
前記正極材料における前記被覆層の重量割合が0.2 wt%~3 wt%である、ことを特徴とする請求項15に記載の正極材料の製造方法。
【請求項17】
前記機械混合方式は、機械融合方法を含む、ことを特徴とする請求項9に記載の正極材料の製造方法。
【請求項18】
前記機械混合方式により前記三元材料および前記リン酸鉄化合物材料を混合する時間が5分~25分である、ことを特徴とする請求項9に記載の正極材料の製造方法。
【請求項19】
前記機械混合方式の回転速度の範囲が1000 rpm~3000 rpmであることを特徴とする請求項9に記載の正極材料の製造方法。
【請求項20】
前記機械混合方式の動作温度の範囲が25 ℃~45 ℃であることを特徴とする請求項9に記載の正極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用正極材料に関し、特に、高出力密度およびレート特性を向上させながらコストを削減することができる、被覆層を備えた高ニッケル正極材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車や蓄電装置に対する性能要求はますます高まっており、それに使用される二次電池にも高性能が求められている。さまざまな種類の電池の中では、ニッケル・コバルト・マンガン(NCM)などの三元系正極材料を用いたリチウムイオン電池は、高容量という特徴を持ち、現在主流となっている。
【0003】
上記電池の出力密度は正極材料におけるニッケル含有量に正比例し且つコバルト金属の価格は激しく変動するため、出力密度を向上させながらコストを削減できるように、正極材料におけるニッケル含有量を増加させるのが現在の主流の開発方針である。しかし、高ニッケル正極材料自体はレート性能が低いという問題があり、この材料で構成されたリチウムイオン電池が、高い放電レートが要求されるデバイスに適用されることは困難である。
【0004】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の欠点を解決するために、高出力密度およびレート特性を向上させながらコストを削減できる、被覆層を備えた高ニッケル正極材料およびその製造方法を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、正極材料およびその製造方法を提供することである。正極材料は、コア層とコア層を被覆する被覆層とを備える。コア層は、組成がLi[NiCoMn]Oである三元材料で構成され、x+y+z=1、0.8<x<1、0<y<0.2、0<z<0.2である。コア層中の高ニッケル含有量により、高出力密度および低コストの正極材料が実現できる。被覆層は、例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO, LFP)材料またはヘテロサイトリン酸鉄(Heterosite FePO, H-FP)材料で構成されており、かつ複数の粒子が凝集して形成されている。リン酸鉄リチウム材料およびヘテロサイトリン酸鉄材料自身は良好なレート特性を有するため、これらにより構成された被覆層は、正極材料のレート特性をさらに向上させることができる。また、正極材料における被覆層の重量割合は、例えば、0.2 wt%~5 wt%であり、少量のリン酸鉄化合物材料を添加するだけで正極材料のレート特性を向上させた被覆層を形成することができるため、製造コストがさらに削減できる。正極材料の各被覆層粒子は、炭素被覆層で被覆されており、被覆層粒子間の電子伝導性を高め、正極材料の性能を向上させることができる。
【0006】
本発明のもう一つ目的は、正極材料およびその製造方法を提供することである。例えば、機械的融合法(Mechanofusion method)の1つである機械混合方式により、高ニッケル含有量の三元材料とリン酸鉄化合物材料とを混合させることで、被覆層を備える高ニッケル正極材料を得ることができる。混合過程の動作温度は、例えば、25 ℃~45 ℃であり、時間は、5分~25分であり、回転速度の範囲は、例えば、1000 rpm~3000 rpmである。三元材料とリン酸鉄化合物材料との混合方式、動作温度、回転速度および時間を制御することによって、高温および粒子間の過度の摩擦に起因する被覆層の構造欠陥を防止し、緻密な被覆層を形成することで電解液が正極材料の内部に浸透しにくいことを回避することができ、正極材料の低インピーダンスおよび良好な充放電性能が確保できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明は、コア層とコア層を被覆する被覆層とを備える正極材料を提供することである。コア層は、三元材料で構成され、三元材料の組成がLi[NiCoMn]Oであり、x+y+z=1、0.8<x<1、0<y<0.2、0<z<0.2である。被覆層は、リン酸鉄化合物材料で構成され、被覆層は複数の第1粒子が凝集して形成される。
好ましくは、コア層の粒子径が4 μm~15 μmである。
好ましくは、リン酸鉄化合物材料は、リン酸鉄リチウム(LiFePO)およびヘテロサイトリン酸鉄(Heterosite FePO)のうちのいずれか1つで構成される。
好ましくは、第1粒子の粒子径が0.1 μm~3 μmである。
好ましくは、正極材料は、第1粒子を被覆する炭素被覆層を備え、かつ炭素被覆層の厚さは3 nm~10 nmである。
好ましくは、正極材料におけるコア層の重量割合が95 wt%~99.8 wt%である。
好ましくは、正極材料における被覆層の重量割合が0.2 wt%~5 wt%である。
好ましくは、正極材料における被覆層の重量割合が0.2 wt%~3 wt%である。
【0008】
上述した目的を達成するために、本発明は、組成がLi[NiCoMn]Oである三元材料を提供し、x+y+z=1、0.8<x<1、0<y<0.2、0<z<0.2であるステップ(a)と、リン酸鉄化合物材料を提供し、三元材料とリン酸鉄化合物材料とを機械混合方式により混合し、正極材料を得るステップ(b)であって、正極材料がコア層と被覆層とを備え、コア層が三元材料で構成され、被覆層がコア層を被覆し、被覆層がリン酸鉄化合物材料で構成され、被覆層は複数の第1粒子が凝集して形成されるステップ(b)とを含む正極材料の製造方法を提供する。
好ましくは、コア層の粒子径が4 μm~15 μmである。
好ましくは、リン酸鉄化合物材料は、リン酸鉄リチウム(LiFePO)およびヘテロサイトリン酸鉄(Heterosite FePO)のうちのいずれか1つで構成される。
好ましくは、第1粒子の粒子径が0.1 μm~3 μmである。
好ましくは、正極材料は、第1粒子を被覆する炭素被覆層を備え、且つ炭素被覆層の厚さは3 nm~10 nmである。
好ましくは、正極材料におけるコア層の重量割合が95 wt%~99.8 wt%である。
好ましくは、正極材料における被覆層の重量割合が0.2 wt%~5 wt%である。
好ましくは、正極材料における被覆層の重量割合が0.2 wt%~3 wt%である。
好ましくは、機械混合方式は機械融合法を含む。
好ましくは、機械混合方式により、三元材料とリン酸鉄化合物材料とを混合する時間は5分~25分である。
好ましくは、機械混合方式の回転速度の範囲が1000 rpm~3000 rpmである。
好ましくは、機械混合方式の動作温度が25 ℃~45 ℃である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態における正極材料の構造概念図である。
図2】本発明の実施形態における正極材料製造方法のフローチャート図である。
図3A】比較例の正極材料のSEM画像である。
図3B】比較例の正極材料のSEM画像である。
図4A】本発明の第1実施例の正極材料のSEM画像である。
図4B】本発明の第1実施例の正極材料のSEM画像である。
図5A】比較例の正極材料のSEM画像である。
図5B】本発明の第2実施例の正極材料のSEM画像である。
図6A】比較例の正極材料のSEM画像である。
図6B】本発明の第3実施例の正極材料のSEM画像である。
図7A】比較例の正極材料のSEM画像である。
図7B】本発明の第4実施例の正極材料SEM画像である。
図8A】比較例、本発明の第1実施例、第2実施例、第3実施例、第4実施例の電位-電容量充電曲線図である。
図8B】比較例、本発明の第1実施例、第2実施例、第3実施例、第4実施例の電位-電容量放電曲線図である。
図9A】比較例、本発明の第1実施例、第2実施例の電気化学インピーダンススベクトルである。
図9B】本発明の第3実施例および第4実施例の電気化学インピーダンススベクトルである。
図10A】比較例、本発明の第1実施例および第2実施例の電容量維持率-サイクル回数充電曲線図。
図10B】比較例、本発明の第1実施例および第2実施例の電容量維持率-サイクル回数放電曲線図。
図11】異なる充放電レートにおける、比較例、本発明の第1実施例および第2実施例の電容量-サイクル回数放電曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の特徴及び利点を具体化するいくつかの典型的な実施形態は、以下の内容において詳細に説明する。本発明は、範囲を逸脱することなく、様々な変更を加えることができ、以下の説明及び図面は、本発明を説明するために使用されており、本発明を限定するためのものではない。また、本発明の詳細な説明において、第1特徴が第2特徴の上又は上方に配置されることとは、配置された前記第1特徴と前記第2特徴が直接に接続されている実施形態と、前記第1特徴と前記第2特徴との間に他の構造を介し前記第1特徴と前記第2特徴が直接に接続されていない実施形態とを含む。また、「第1」、「第2」、「第3」などの用語は、特許請求の範囲に記載された異なる構成を説明するために使用されており、これらの構成は当該用語に限定されず、実施形態に関する内容では、該当構成は異なる符号で表示さているが、第1構成は第2構成と表示され、また、第2構成は第1構成と表示されることも可能であり、本発明の実施形態から逸脱しない。また、「及び/又は」という用語は、一つおよび複数の関連要素またはその全部の組合せを意味する。「約」という用語は、当該技術分野の当業者によって認識される許容可能な標準誤差範囲内の平均値を指す。操作/動作に関する実施形態において明確に定義しない限り、本明細書に記載されているすべての数値範囲、量、数値およびパーセントなど(例えば、角度、維持時間、温度、操作条件、割合及びそれに相当するパーセントなど)はいずれも、すべての実施形態において用語の「約」または「実質的に」に理解すべきである。また、内容に記載されない限り、本発明及び特許請求の範囲の数値はいずれも、必要に応じて変化しえる近似値に取ることができる。例えば、各パラメーターは、少なくとも記載されている有効桁数に照らして、通常の丸めの原則を適用して解釈しても良い。また、本明細書での数値範囲は、一方の端点から他方の端点まで、または2つの端点の間の範囲として表することができる。本明細書に記載されているすべての範囲は、特に定義されていない限り、端点を含むことを留意されたい。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態における正極材料の構造概念図である。本実施形態において、正極材料1は、コア層10およびコア層10を覆う被覆層20を含む。コア層10は、三元材料(ternary material)で構成され、当該三元材料の組成は、Li[NiCoMn]Oであり、x+y+z=1,0.8<x<1、0<y<0.2,0<z<0.2である。被覆層20は、リン酸鉄化合物材料で構成され、かつ複数の第1粒子21が凝集して形成される。本実施形態において、三元材料は、例えば、組成がLi[NiCoMn]Oのニッケル-コバルト-リチウム-マンガン-酸化物(NCM)材料であり、x=0.83、y=0.12、z=0.05、すなわち、ニッケル-コバルト-リチウム-マンガン-酸化物材料のニッケル、コバルト、マンガンの比率が83:12:5である。好ましくは、ニッケル-コバルト-リチウム-マンガン-酸化物材料は、例えば、固相合成法(solid-state synthesis)で合成され、メディアン径(D50)の範囲は、9 μm~13 μmであり、比表面積が1 m/g以下であり、タップ密度は、2.5 g/ml~3 g/mlである。別の実施形態では、三元材料は、例えば、組成比が上述した組成比と異なるニッケル-コバルト-リチウム-マンガン-酸化物(NCM)材料で、かつゾル-ゲル法(Sol-gel process)により作製されてもよい。なお、本発明の三元材料の種類、組成比、材料特性および製造過程は限定されず、ここでは詳細を省略する。コア層10中のニッケル含有量が高いため、高出力密度および低コストの正極材料1を得ることができる。
【0012】
本実施形態において、リン酸鉄化合物材料は、リン酸鉄リチウム(LiFePO)およびヘテロサイトリン酸鉄(Heterosite FePO)のいずれかで構成される。本実施形態において、リン酸鉄リチウム材料は、例えば、固相合成法(solid-state synthesis)により合成され、ヘテロサイトリン酸鉄は、例えば、液相反応法(liquid-phase reaction)により合成されるが、本発明はこれに限定されない。リン酸鉄リチウム材料およびヘテロサイトリン酸鉄材料は、それ自体が良好なレート特性を有するため、これらで構成された被覆層20により、正極材料1のレート特性をさらに向上させることができる。本実施形態において、正極材料1は、例えば、炭素被覆層30をさらに含み、前記炭素被覆層30は、第1粒子21を被覆し、かつ炭素被覆層30の厚さが3 nm~10 nmである。これによって、被覆層の電子伝導性を高め、かつ正極材料の性能を向上させることができる。本実施形態において、正極材料1の炭素被覆層30は、例えば、炭素被覆処理により処理されたリン酸鉄化合物材料中の炭素被覆層で構成されている。リン酸鉄化合物材料の炭素被覆処理は、例えば、機械混合、噴霧乾燥、熱処理などの方式で実現できる。これは本発明の必須な技術的特徴ではないため、ここでは詳細を省略する。
【0013】
本実施形態において、コア層10の粒子径が4 μm~15 μmである。第1粒子21の粒子径が0.1 μm~3 μmである。本実施形態において、コア層10の粒子径および第1粒子21の粒子径は、例えば、走査型電子顕微鏡(Scanning electron microscope, SEM)により検出される。なお、透過型電子顕微鏡(Transmission electron microscope, TEM)または表面分析が可能な他の機器を用いてコア層10の粒子径および第1粒子21の粒子径を検出してもよく、本発明はこれに限定されない。
【0014】
本実施形態において、正極材料1におけるコア層10の重量割合は、95 wt%~99.8 wt%である。正極材料1における被覆層20の重量割合は、0.2 wt%~5 wt%である。別の実施形態では、正極材料1における被覆層20の重量割合は、例えば、0.2wt%~3 wt%であり、好ましくは、0.2 wt%~1 wt%である。本実施形態において、正極材料1における被覆層20の重量割合は、例えば、0.3 wt%である。これにより、本発明の正極材料1に少量のリン酸鉄化合物材料を添加するだけで、正極材料のレート特性を向上させることができる被覆層20が構成でき、製造コストがさらにすることができる。
【0015】
上述した正極材料1によれば、本発明は、正極材料1の製造方法をさらに提供する。図2は、本発明の一実施形態における正極材料製造方法のフローチャート図である。まず、ステップS1に示すように、組成がLi[NiCoMn]Oである三元材料を提供し、ここで、x+y+z=1、0.8<x<1、0<y<0.2、0<z<0.2である。本実施形態において、三元材料は、例えば、組成がLi[NiCoMn]Oのニッケル-コバルト-リチウム-マンガン-酸化物(NCM)材料であり、かつx=0.83、y=0.12、z=0.05、すなわち、ニッケル-コバルト-リチウム-マンガン-酸化物材料におけるニッケル、コバルト、マンガンの比率は、83:12:5である。好ましくは、ニッケル-コバルト-リチウム-マンガン-酸化物材料は、例えば、固相合成法(solid-state synthesis)により合成され、メディアン径(D50)が9 μm~13 μmであり、比表面積が1 m/g以下であり、タップ密度が2.5 g/ml~3 g/mlである。別の実施形態では、三元材料は、例えば、組成比が上述した組成比と異なるニッケル-コバルト-リチウム-マンガン-酸化物(NCM)材料であり、ゾル-ゲル法(Sol-gel process)により合成されてもよい。なお、本発明の三元材料の種類、組成比、材料特性および製造過程は限定されず、ここでは詳細を省略する。コア層10中のニッケル含有量が高いため、高出力密度および低コストの正極材料1を得ることができる。
【0016】
ステップS2に示すように、リン酸鉄化合物材料を用意し、三元材料とリン酸鉄化合物材料とを機械混合して正極材料1を得る。正極材料1は、コア層10およびコア層10を覆う被覆層20を含み、かつコア層10が三元材料で構成される。被覆層20がリン酸鉄化合物材料で構成され、複数の第1粒子21で凝集して形成される。本実施形態において、機械混合方式は、例えば、機械融合法を含む。機械的方法の動作温度は、例えば、25 ℃~45 ℃であり、回転速度範囲は、1000 rpm~3000 rpmであり、三元材料とリン酸鉄化合物材料との混合時間は例えば5分~25分である。本実施形態において、機械混合方式の回転速度は例えば2000 rpmであり、三元材料とリン酸鉄化合物材料との混合時間は例えば15分に設定されているが、本発明はこれに限定されない。三元材料とリン酸鉄化合物材料との混合方式、動作温度、回転速度および時間を制御することにより、高温や粒子間の過剰な摩擦によって引き起こされる被覆層20の構造欠陥を防止することができ、また、過度に緻密な被覆層20を形成して電解液が正極材料1内部に浸透しにくいことが回避でき、正極材料1の低インピーダンスおよび良好な充放電性能を確保することができる。
【0017】
以下、比較例および実施例を比較しながら本発明の製造過程および効果を詳細に説明する。
【0018】
比較例:
比較例は、三元材料で製造された正極材料である。比較例の三元材料の組成は、Li[NiCoMn]Oのニッケル-コバルト-リチウム-マンガン-酸化物(NCM)材料であり、x=0.826、y=0.124、z=0.05、すなわち、ニッケル-コバルト-リチウム-マンガン-酸化物材料におけるニッケル、コバルト、マンガンの比率が82.6:12.4:5である。比較例の三元材料のメディアン径(D50)が9.85 μmであり、比表面積が0.27 m/gであり、タップ密度が2.94 g/mlである。
【0019】
第1実施例:
第1実施例は、以下のように製造された正極材料である。まず、三元材料を提供(用意)する。第1実施例の三元材料は、組成がLi[NiCoMn]Oのニッケル-コバルト-リチウム-マンガン-酸化物(NCM)材料であり、比較例の三元材料と同じ組成比および材料特性を有するため、ここでは詳細を省略する。
【0020】
そして、機械混合方式により三元材料とリン酸鉄化合物材料とを混合し、正極材料を得る。第1実施例のリン酸鉄化合物材料がヘテロサイトリン酸鉄(Heterosite FePO, H-FP)であり、添加された三元材料とリン酸鉄化合物材料とのモル比が1:0.03である。第1実施例の機械混合方式は機械融合法であり、動作温度が25 ℃~45 ℃であり、回転速度範囲が2000 rpmであり、混合時間が15分である。混合過程では、動作温度は水冷によって冷却される。
【0021】
ヘテロサイトリン酸鉄の製造方法は以下のとおりである。まず、リン酸鉄リチウムと水を均一に撹拌し、過酢酸(Peracetic acid, PAA)を一定流量で徐々に加えて混合物を形成する。次に、前記混合物を一定時間静置した後、混合物を濾過し、不活性ガス雰囲気で加熱乾燥させ、第1実施例のヘテロサイトリン酸鉄を得る。
【0022】
第2実施例:
第2実施例の製造方法は第1実施例の製造方法とほぼ同様であるが、第2実施例のリン酸鉄化合物材料はリン酸鉄リチウム(LiFePO, LFP)であり、混合時間は15分である。
【0023】
第3実施例:
第3実施例の製造方法は第1実施例の製造方法とほぼ同様であるが、第3実施例のリン酸鉄化合物材料はヘテロサイトリン酸鉄(Heterosite FePO, H-FP)であり、混合時間は30分である。第3実施例のヘテロサイトリン酸鉄製造方法は、第1実施例のヘテロサイトリン酸鉄製造方法と同様である。
【0024】
第4実施例:
第4実施例の製造方法は第2実施例の製造方法とほぼ同様であるが、第4実施例のリン酸鉄化合物材料はリン酸鉄リチウム(LiFePO, LFP)であり、混合時間は30分である。
【0025】
図3A図3Bは比較例の正極材料のSEM画像である。図4A図4Bは本発明の第1実施例の正極材料のSEM画像である。図5A図5Bは本発明の第2実施例の正極材料のSEM画像である。図6A図6Bは本発明の第3実施例の正極材料のSEM画像である。図7A図7Bは本発明の第4実施例の正極材料のSEM画像である。図4A図7Bに示すように、本発明の実施例のコア層10の粒子径はいずれも4 μm~15 μmであり、第1粒子21の粒子径はいずれも0.1 μm~3 μmである。同時に、混合時間が15分である第1実施例および第2実施例と比較して、混合時間が30分である第3実施例および第4実施例の被覆層20の構造は比較的緻密である。これにより、三元材料とリン酸鉄化合物材料との混合時間を制御することによって、正極材料1内部への電解液の浸透が困難となる緻密すぎる被覆層20の形成を回避することができ、さらに、正極材料1の低インピーダンスおよび良好な充放電性能を確保することができる。
【0026】
図8Aは、比較例、本発明の第1実施例、第2実施例、第3実施例および第4実施例の電位-電容量充電曲線図である。図8Bは、比較例、本発明の第1実施例、第2実施例、第3実施例および第4実施例の電位-電容量放電曲線図である。図8Aおよび図8Bは、比較例、本発明の第1実施例、第2実施例、第3実施例および第4実施例のそれぞれで構成されたボタン電池の0.1C充放電レート(C-rate)で測定した結果である。ボタン電池の正極シートは、正極材料、導電助剤および粘着剤の比率が90:5:5で構成され、負極がリチウム金属であり、セパレータがCelgard 2320である。ボタン電池の電解液は、1.2 Mの六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、エチレンカーボネート(Ethylene carbonate, EC)、ジエチルカーボネート(Diethyl carbonate, DEC)、メチルエチルカーボネート(Ethyl Methyl Carbonate, EMC)および2 wt%のフルオロエチレンカーボネート(Fluoroethylene carbonate, FEC)を含む。表一は測定結果を示している。図8A図8Bおよび表一に示すように、混合時間が15分である第1実施例および第2実施例の充放電性能は、比較例の充放電性能と大きく変わらなかったが、混合時間が30分である第3実施例および第4実施例は、比較例と比較して、比較的に低い放電電圧プラトー(plateau voltage, a slow decrease in voltage over a long period of time)および第1サイクル目の放電容量を示している。これにより、本発明の正極材料1は、三元材料とリン酸鉄化合物材料との混合時間を制御することにより、粒子間の過度の摩擦に起因する被覆層20の構造欠陥を防止し、正極材料1の良好な充放電性能を確保することができる。
【0027】
図9Aは、比較例、本発明の第1実施例、第2実施例の電気化学インピーダンススベクトルである。図9Bは、本発明の第3実施例および第4実施例の電気化学インピーダンススベクトルである。図9A図および図9Bは、比較例、本発明の第1実施例、第2実施例、第3実施例、第4実施例で製造されたボタン電池を計測したものである。図9Aおよび図9Bに示すように、混合時間が15分である第1実施例および第2実施例のインピーダンスは、比較例と比較して有意な差がないのに対し、混合時間が30分である第3実施例および第4実施例は、比較例と比較してインピーダンスが大幅増加したことが分かった。これにより、本発明の正極材料1は、三元材料とリン酸鉄化合物材料との混合時間を制御することによって、粒子間の過度の摩擦に起因する被覆層20の構造欠陥を防止し、正極材料1の低インピーダンスが確保できることが分かる。
【0028】
図10Aは、比較例、本発明の第1実施例、および第2実施例の電容量維持率-サイクル回数充電曲線図である。図10Bは、比較例、本発明の第1実施例、および第2実施例の電容量維持率-サイクル回数放電曲線図である。図10Aおよび図10Bは、比較例、本発明の第1実施例、および第2実施例で製造されたボタン電池を1C充放電レートで計測したものである。図10Aおよび図10Bに示すように、本発明の実施例と比較例との間でサイクル寿命に大きな差は見られない。
【0029】
図11は、異なる充放電レートにおける、比較例、本発明の第1実施例および第2実施例の電容量-サイクル回数放電曲線図である。図11は、比較例、本発明の第1実施例、および第2実施例で製造されたボタン電池を計測したものである。ボタン電池は、0.1 C、0.2 C、0.5 C、1 Cの充放電レートで3サイクル充放電し、その後1 C充電/3 C放電、1 C充電/5 C放電の充放電レートで3サイクル充放電し、最後に、0.1 Cの充放電レートで3サイクル充放電する。表二は、3 C放電レートでの結果を示している。表三は、5 C放電レートでの結果を示している。図11に示すように、0.1 C、0.2 C、0.5 Cおよび1 C充放電レートの条件下で、第1実施例、第2実施例と、比較例との間での電容量性能に大きな差は見られない。しかし、1 C充電/3 C放電、1 C充電/5 C放電の充放電レートの条件下で、第1実施例および第2実施例の電容量性能が比較例の電容量性能よりも明らかに優れている。表二に示すように、3 C放電レートでは、第1実施例および第2実施例の電容量は、比較例に比べて、それぞれ、86.2 %、134.8 %増加し、すなわち、約1倍増加したことが分かる。表三に示すように、5 C放電レートでは、比較例に比べて、第1実施例および第2実施例の電容量はそれぞれ134.8 %、213.1 %増加し、すなわち、1~2倍増加したことが分かる。これにより、本発明は、レート特性が良好なリン酸鉄材料で被覆層20を形成することで、正極材料1のレート特性が大幅に向上できることが分かる。また、正極材料における被覆層の重量割合は、例えば、0.2 wt%~5 wt%であり、これは、少量のリン酸鉄化合物材料を添加することだけで、正極材料1のレート特性が向上できる被覆層20を構成し、製造コストがさらに削減されることができる。
【0030】
上述したように、本発明は、コストを削減しながら高出力密度およびレート特性を向上させた、被覆層を備えた高ニッケル正極材料およびその製造方法を提供する。正極材料は、コア層とコア層を被覆する被覆層とを備える。コア層は、組成がLi[NiCoMn]Oである三元材料で構成され、x+y+z=1、0.8<x<1、0<y<0.2、0<z<0.2である。コア層中の高ニッケル含有量により、高出力密度および低コストの正極材料が実現できる。被覆層は、例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO, LFP)材料またはヘテロサイトリン酸鉄(Heterosite FePO, H-FP)材料で構成されており、かつ複数の粒子が凝集して形成されている。リン酸鉄リチウム材料およびヘテロサイトリン酸鉄材料自身は良好なレート特性を有するため、これらにより構成された被覆層は、正極材料のレート特性をさらに向上させることができる。また、正極材料における被覆層の重量割合は、例えば、0.2 wt%~5 wt%であり、少量のリン酸鉄化合物材料を添加するだけで正極材料のレート特性を向上させる被覆層が形成することができるため、製造コストをさらに削減することができる。正極材料の各被覆層粒子は、炭素被覆層で被覆されており、被覆層粒子間の電子伝導性を高め、正極材料の性能を向上させることができる。高ニッケル含有量の三元材料とリン酸鉄化合物材料は、例えば、機械融合方法の1つである機械混合方式で混合され、被覆層を備えた高ニッケル正極材料を得ることができる。混合過程の動作温度は、例えば、25 ℃~45 ℃であり、時間は、5分~25分であり、回転速度の範囲は、例えば、1000 rpm~3000 rpmである。三元材料とリン酸鉄化合物材料との混合方式、動作温度、回転速度および時間を制御することで、高温および粒子間の過度の摩擦に起因する被覆層の構造欠陥を防止し、緻密な被覆層を形成することで電解液が正極材料の内部に浸透しにくいことが回避でき、正極材料の低インピーダンスおよび良好な充放電性能が確保することができる。
【0031】
本発明は、当該技術分野における技術者によって様々な方法で修正または変更することができるが、その修正および変更はいずれも本発明の技術的思想から逸脱しなく本発明の特許請求の範囲に含まれている。
【符号の説明】
【0032】
1:正極材料
10:コア層
20:被覆層
21:第1粒子
30:炭素被覆層
S1、S2:ステップ
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
【外国語明細書】