(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035077
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】鋳型及び鋼の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/059 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
B22D11/059 110A
B22D11/059 110G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101422
(22)【出願日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2022136414
(32)【優先日】2022-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】後藤 ひかる
(72)【発明者】
【氏名】古米 孝平
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 則親
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004AB01
4E004AB07
(57)【要約】
【課題】溶融モールドフラックスとの濡れ性を向上できる鋳型を提供する。
【解決手段】鋼の連続鋳造に用いられる鋳型12であって、鋳型12の溶鋼接触面が、金属炭化物、金属窒化物及び金属炭窒化物のうちの1種又は2種以上を含むコーティング22で被覆されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼の連続鋳造に用いられる鋳型であって、
前記鋳型の溶鋼接触面が、金属炭化物、金属窒化物及び金属炭窒化物のうちの1種又は2種以上を含むコーティングで被覆されている、鋳型。
【請求項2】
前記コーティングは、Ni、Cr、Co及びFeのうちの1種からなる金属又は2種以上からなる合金を20質量%以上含む、請求項1に記載の鋳型。
【請求項3】
前記コーティングの厚さは、50μm以上10mm以下である、請求項1又は請求項2に記載の鋳型。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の鋳型を用いて鋼を連続鋳造する、鋼の連続鋳造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の鋳型を用いて鋼を連続鋳造する、鋼の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造に用いられる鋳型及び当該鋳型を用いる鋼の連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造において、鋳造速度の増速は生産性の向上のために必要不可欠であるが、鋳造速度を増速させると、モールドフラックス消費量不足による凝固シェルの焼き付きや、モールドフラックスの不均一流入といった問題が発生する。モールドフラックスの不均一流入が起こると、モールドフラックスと鋳型との間に熱伝導率の低いエアギャップ層が形成されて溶鋼の抜熱量が部分的に少なくなる。これにより、溶鋼の抜熱量が多い領域と少ない領域ができ、凝固シェルの厚さが不均一になる凝固不均一の問題が発生する。凝固不均一の問題が発生すると連続鋳造によって製造されるスラブに縦割れ等の表面欠陥が発生する。さらに、亜包晶鋼等の中炭鋼種では、高速鋳造時の上記の問題に加えて、凝固時のδ/γ変態による体積変化が大きくなるので、凝固不均一の問題は更に顕著になる傾向がある。
【0003】
特許文献1には、鋳型の溶鋼接触面に鉄合金やニッケル合金からなるアモルファス合金のコーティングが施された連続鋳造用の鋳型が開示されている。特許文献1によれば、当該コーティングを施すことで高い耐摩耗性を鋳型に持たせることができ、これにより、円滑な鋼の連続鋳造と鋳型の長寿命化が図れるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された連続鋳造用の鋳型では、鋳造空間側の面をアモルファス合金の溶融層にてコーティングしているが、当該コーティングは溶融モールドフラックスとの濡れ性が低い。このため、高速鋳造条件においては、溶融モールドフラックスが溶鋼と鋳型との間に流入できず、鋳型と凝固シェルとの焼き付きが発生する。また、通常の鋳造条件においても、当該コーティングと溶融モールドフラックスとの濡れ性が低いために、溶融モールドフラックスが不均一に流入し、これによりエアギャップ層が形成され、溶鋼の凝固不均一の問題が発生するという課題があった。さらに、エアギャップ層が形成されることで鋳型抜熱量も低下するので、鋳造速度を向上させて鋳型の生産能力を向上させることが困難になるという課題もあった。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたもので、その目的とするところは、溶融モールドフラックスとの濡れ性を向上できる鋳型及び当該鋳型を用いた鋼の連続鋳造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1]鋼の連続鋳造に用いられる鋳型であって、前記鋳型の溶鋼接触面が、金属炭化物、金属窒化物及び金属炭窒化物のうちの1種又は2種以上を含むコーティングで被覆されている、鋳型。
[2]前記コーティングは、Ni、Cr、Co及びFeのうちの1種からなる金属又は2種以上からなる合金を20質量%以上含む、[1]に記載の鋳型
[3]前記コーティングの厚さは、50μm以上10mm以下である、[1]又は[2]に記載の鋳型。
[4][1]又は[2]に記載の鋳型を用いて鋼を連続鋳造する、鋼の連続鋳造方法。
[5][3]に記載の鋳型を用いて鋼を連続鋳造する、鋼の連続鋳造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る鋳型は、従来の鋳型よりも高温下での溶融モールドフラックスとの濡れ性が高く、溶融モールドフラックスとの接触角が小さくなるので、溶融モールドフラックスの不均一流入を抑制できる。これにより、モールドフラックスと鋳型との間にエアギャップ層が形成されることが抑制され、溶鋼の凝固不均一を抑制できる。また、鋳型内で潤滑剤の役割を担う溶融モールドフラックスが溶鋼と鋳型の間に流入しやすくなるので、凝固シェルと鋳型との焼き付きが抑制され、鋼の高速連続鋳造の安定操業が実現できるようになる。さらに、エアギャップ層が形成されることを抑制することで鋳型抜熱量が増加するので、鋳造速度を向上させて鋳型の生産能力を向上できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る鋳型を有する連続鋳造設備の一例を示す断面模式図である。
【
図3】
図3は、各金属に対するTiCの含有量と溶融モールドフラックスとの接触角との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を本発明の実施形態を通じて説明する。以下の実施形態は、本発明の好適な一例を示すものであり、これらの実施形態によって何ら限定されるものではない。
【0011】
図1は、本実施形態に係る鋳型12を有する連続鋳造設備10の一例を示す断面模式図である。連続鋳造設備10は、鋳型12と、鋳型12の上方に設置されるタンディッシュ14と、鋳型12の下方に複数並べて配置される鋳片支持ロール16とを有する。図示を省略してあるが、タンディッシュ14の上方には、溶鋼18を収容する取鍋が設置され、取鍋の底部からタンディッシュ14に溶鋼18が注入される。タンディッシュ14の底部には、浸漬ノズル20が設置され、当該浸漬ノズル20を介して溶鋼18が鋳型12に注入される。溶鋼18は、鋳型12の内面から抜熱されて凝固し、凝固シェル24が形成される。これにより、凝固シェル24を外殻とし、溶鋼18からなる未凝固層26を内部に有する鋳片28が形成される。
【0012】
鋳造方向に隣り合う鋳片支持ロール16の間隙には、スプレーノズル(図示せず)が配置された二次冷却帯30が、鋳型12の直下から鋳造方向に沿って複数設置されている。二次冷却帯30のスプレーノズルから噴出される冷却水によって、鋳片28は、引き抜かれながら冷却される。鋳片28が、鋳片支持ロール16で搬送されて、複数の二次冷却帯30を通過している間に、凝固シェル24が適切に冷却されて未凝固層26の凝固が進み、鋳片28の凝固が完了する。
【0013】
鋳造方向下流には、鋳片28を引き続き搬送するための搬送ロール17が複数設置されている。搬送ロール17の上方には、鋳片28を切断するための鋳片切断機32が配置されている。凝固完了後の鋳片28は、鋳片切断機32によって、所定の長さの鋳片28aに切断される。
【0014】
図2は、鋳型12の一部を示す断面模式図である。鋳型12は、鋳造される鋳片の形状に応じて略角筒状となるように組み合わされた4枚の鋳型銅板13から構成される。4枚の鋳型銅板13の内面(溶鋼18に接する側)はコーティング22により被覆されている。
【0015】
また、鋳型12内の溶鋼18の上面は、溶融したモールドフラックス19(以下、溶融モールドフラックス19と記載する。)に覆われている。溶融モールドフラックス19は、鋳型12と溶鋼18との間に流入し、潤滑剤としての役割を担う。潤滑剤としての役割を担う溶融モールドフラックスが鋳型12溶鋼18との間に流入することで鋳型12と凝固シェル24との焼き付きが抑制される。溶融モールドフラックス19に覆われた状態で、溶鋼18は、浸漬ノズル20を通じて鋳型12内に注入される。鋳型12に注入された溶鋼18は、鋳型12によって冷却される。これにより、鋳型12と溶鋼18との界面の溶鋼18が凝固し、凝固シェル24が形成される。
【0016】
このような鋳型12による溶鋼18の冷却において、溶融モールドフラックス19が鋳型12と溶鋼18との間に不均一に流入すると、溶融モールドフラックス19が流入しなかった領域に熱伝導率の低いエアギャップ層が形成されて溶鋼18の抜熱量が少なくなる。このように部分的に抜熱量が少なくなる領域が存在すると当該領域に接する溶鋼18の凝固が遅くなり、凝固不均一の問題が発生する。さらに、上述したように、溶融モールドフラックス19は潤滑剤としての役割を担うので、エアギャップ層が形成されない領域においては、鋳型12と凝固シェル24との焼き付きが発生するおそれが生じる。
【0017】
これに対し、本実施形態に係る鋳型12では、鋳型銅板13の溶鋼18と接触する内面を金属炭化物、金属窒化物及び金属炭窒化物のうちの1種又は2種以上を含むコーティング22で被覆している。これにより、高温下での鋳型銅板13の内面と溶融モールドフラックス19との濡れ性が向上し、溶融モールドフラックス19の不均一流入が抑制される。この結果、溶鋼18の凝固初期の溶融モールドフラックス19の不均一流入によるエアギャップの発生と、それに起因した鋳型-溶鋼間の熱抵抗不均一によるスラブの不均一成長と縦割れを抑制できる。さらに、鋳型12と凝固シェル24との焼き付きが発生するおそれも低減できる。
【0018】
コーティング22は、溶鋼18の凝固初期における溶融モールドフラックスの不均一流入を抑制することを目的として設けられる。このため、鋳型銅板13の内面の全てがコーティング22で被覆されていなくてもよく、少なくともメニスカスよりも下方の溶鋼18と接触する溶鋼接触面がコーティング22で被覆されていればよい。
【0019】
コーティング22に含まれる金属炭化物、金属窒化物及び金属炭窒化物としては、例えば、TiC、SiC、ZrC、TiN、CrN、TiAlN及びTiCNのうちの1種又は2種以上を用いることができる。この中では、金属炭化物であるTiCを用いることが好ましい。また、コーティング22に含まれる金属炭化物、金属窒化物及び金属炭窒化物の含有量は0.1質量%以上80.0質量%以下であることが好ましい。コーティング22に含まれる金属炭化物、金属窒化物及び金属炭窒化物が80.0質量%より多くなると、コーティング22の被覆層に亀裂が生じる可能性があるので好ましくない。また、コーティング22に含まれる金属炭化物、金属窒化物及び金属炭窒化物が0.1質量%より少なくなると溶融モールドフラックスとの濡れ性を向上させる効果が小さくなるので好ましくない。
【0020】
また、コーティング22には、Ni、Cr、Co及びFeのうちの1種からなる金属又は2種以上からなる合金が20質量%以上含まれることが好ましい。コーティング22に含まれるNi、Cr、Co及びFeのうちの1種からなる金属又は2種以上からなる合金が20質量%より少なくなると、コーティング22の形成が難しくなるので好ましくない。コーティング22には、金属炭化物、金属窒化物及び金属炭窒化物が少なくとも0.1質量%含まれることから、コーティング22に含まれるNi、Cr、Co及びFeのうちの1種からなる金属又は2種以上からなる合金の上限は99.9質量%である。
【0021】
また、コーティング22には、不可避的に混入する不純物が5質量%以下で含まれていてもよい。5質量%以下であれば、当該不純物を含んでも溶融モールドフラックス19との濡れ性に影響を及ぼすことはない。
【0022】
コーティング22の厚みは50μm以上10mm以下であることが好ましい。コーティング22の厚みを50μm未満にすると摩耗によりコーティング22の一部が消失してしまうおそれがあるので好ましくない。また、コーティング22の厚みを10mmより厚くすると、鋳型12からの抜熱量が減少し、鋳造時の鋳片28の割れ個数が増加する場合があるので好ましくない。なお、コーティング22の厚みは0.1mm以上0.3mm以下であることがより好ましい。コーティング22の厚みを0.1mm以上0.3mm以下にすることで、摩耗によるコーティング22の消失と鋳型12からの抜熱量の減少とを抑制できる。
【0023】
鋳型銅板13をコーティング22で被覆させる方法は、特に限定しないが、例えば、レーザー肉盛溶接を用いて鋳型銅板13の溶鋼18と接触する接触面をコーティング22で被覆させてもよい。
【0024】
次に、コーティング22で鋳型銅板13を被覆することで、高温下において溶融モールドフラックス19との濡れ性が向上することを確認した実験結果を説明する。発明例1では、面積が10mm×10mmの金属片にTiC粉末を20質量%、インコネル粉末を80質量%の比率で混合した粉末材料をレーザー肉盛溶接し、厚み0.2mmのコーティングで被覆された試験片を作製した。
【0025】
発明例2では、同じ大きさの金属片にTiC粉末を50質量%、Ni粉末を50質量%の比率で混合した粉末材料をレーザー肉盛溶接して、厚み0.2mmのコーティングで被覆された試験片を作製した。発明例3では、同じ大きさの金属片にTiC粉末を50質量%、Co粉末を50質量%の比率で混合した粉末材料をレーザー肉盛溶接して、厚み0.2mmのコーティングで被覆された試験片を作製した。発明例4では、同じ大きさの金属片にTiC粉末を50質量%、Fe粉末を50質量%の比率で混合した粉末材料をレーザー肉盛溶接して、厚み0.2mmのコーティングで被覆された試験片を作製した。
【0026】
発明例5では、同じ大きさの金属片にTiC粉末を0.1質量%、Ni粉末を99.9質量%の比率で混合した粉末材料を溶射し、厚み0.2mmのコーティングで被覆された試験片を作製した。発明例6では、同じ大きさの金属片にTiC粉末を溶射し、厚み0.2mmのコーティングで被覆された試験片を作製した。発明例7では、同じ大きさの金属片にTiN粉末を溶射して、厚み0.2mmのコーティングで被覆された試験片を作製した。一方、従来例1では、同じ大きさの金属片に厚さ0.2mmのNi-Co(Ni:Co=50:50)鍍金コーティングした試験片を作製した。
【0027】
発明例1~6及び従来例1の試験片に2mm角のモールドフラックスを乗せ、点集光型赤外線イメージ炉で室温から温度上昇を行った。実験で用いたモールドフラックスは、SiO2:30質量%、Al2O3:5質量%、CaO:30質量%を主成分とし、他、MgO、Na2O、LiO2を含有するものである。また、モールドフラックスの塩基度(CaO/SiO2)は1である。炉内の様子をビデオ撮影しながら、モールドフラックスの温度を1000℃まで上昇させ、溶融させて液滴状にしてから、液滴状の溶融モールドフラックスと試験片との接触角を測定した。接触角の測定結果を下記表1に示す。
【0028】
【0029】
表1に示すように、従来例であるNi-Co鍍金コーティングと溶融モールドフラックスとの接触角は59°であったのに対し、金属炭化物又は金属窒化物を含む実験例1~7のコーティングと溶融モールドフラックスとの接触角はいずれも従来例よりも小さくなった。この結果から、金属炭化物又は金属窒化物を含むコーティングで鋳型銅板13の溶鋼18との接触面を被覆することで、高温下において溶融モールドフラックスとの濡れ性を従来よりも向上できることが確認された。このような、溶融モールドフラックスとの濡れ性の向上は、鋳型表面に分布する金属炭化物又は金属窒化物により、溶融モールドフラックスとコーティング材との反応性が向上し、これにより、溶融モールドフラックスと鋳型との間の表面張力が低下したものと推定される。なお、金属炭窒化物においても同様の効果が期待できるので、金属炭窒化物を含むコーティングで鋳型銅板13の溶鋼18との接触面を被覆することで、溶融フラックスとの濡れ性を従来よりも向上できると考えられる。さらに、溶融モールドフラックスとコーティング材との反応性は、モールドフラックスの組成に関わらず向上するので、上記効果はモールドフラックスの組成に関わらず同様に得られる。
【0030】
次に、コーティング22に含まれる金属炭化物及び金属の含有量の影響について説明する。TiC粉末と、Ni粉末、Fe粉末、Co粉末またはインコネル粉末とを所定の比率で混合した粉末材料を用いて厚さ0.2mmのコーティングで被覆された試験片を作製した。これら試験片にモールドフラックスを乗せ、集光型赤外線イメージ炉で室温から温度上昇させてモールドフラックスを溶融させ、液滴状にしてから、液滴状の溶融モールドフラックスの試験片との接触角を測定した。接触角の測定結果を下記表2に示す。なお、使用したモールドフラックスは、SiO2:30質量%、Al2O3:5質量%、CaO:30質量%を主成分とし、他、MgO、Na2O、LiO2を含有するものである。また、モールドフラックスの塩基度(CaO/SiO2)は1である。
【0031】
【0032】
図3は、各金属に対するTiCの含有量と溶融モールドフラックスとの接触角との関係を示すグラフであり、表2をグラフ化したものである。
図3において、横軸はTiCの含有量(質量%)であり、縦軸はモールドフラックスの接触角(°)である。
図3に示すように、Ni、Fe、Co及びインコネルのうち、Niまたはインコネルを用いたコーティングは、FeまたはCoを用いたコーティングよりも高温下における溶融モールドフラックスとの接触角が小さくなった。この結果から、Ni、Fe、Co及びインコネルのうち、TiCに混合する金属としてNiまたはインコネルを用いることが好ましいことがわかる。
【0033】
また、Niまたはインコネルを用いる場合、TiCの含有量を20質量%以上60質量%以下にすることで高温下における溶融モールドフラックスとの接触角が小さくなった。この結果から、TiCに混合する金属としてNiまたはインコネルを用いる場合にはTiCの含有量が20質量%以上60質量%以下にすることが好ましいことがわかる。
【0034】
さらに、Niまたはインコネルを用いる場合、TiCの含有量を20質量%以上40質量%以下にすることで高温下における溶融モールドフラックスとの接触角がさらに小さくなった。この結果から、TiCに混合する金属としてNiまたはインコネルを用いる場合にはTiCの含有量を20質量%以上40質量%以下にすることが好ましいことがわかる。
【0035】
以上、説明したように、本実施形態に係る鋳型12は、溶融モールドフラックスとの濡れ性が高く、溶融モールドフラックス19との接触角が小さくなる。これにより、溶融モールドフラックス19は、溶鋼18と鋳型12との間に均一に流入できるようになるので、不均一流入が抑制される。この結果、モールドフラックスと鋳型との間にエアギャップ層が形成されることが抑制され、溶鋼の凝固不均一を抑制できる。さらに、凝固シェルと鋳型との焼き付きが抑制されるとともに鋳型抜熱量が増加するので、当該鋳型を用いて鋼の連続鋳造を行うことで、高速連続鋳造の安定操業が実現できる。
【0036】
なお、本実施形態では、鋳型12を構成する4枚の鋳型銅板13の全ての内面がコーティング22によって被覆されている例を示したが、これに限らない。鋳型を構成する4枚の鋳型銅板のうち、少なくとも1枚の鋳型銅板の内面がコーティング22によって被覆されていればよい。当該鋳型銅板から構成される鋳型を用いることで、4枚の鋳型銅板の全ての内面がコーティング22によって被覆されていない鋳型を用いる場合よりも溶鋼の凝固不均一を抑制でき、凝固シェルと鋳型との焼き付きを抑制できる。
【実施例0037】
中炭素鋼(化学成分、C:0.08~0.17質量%、Si:0.10~0.30質量%、Mn:0.50~1.20質量%、P:0.010~0.030質量%、S:0.005~0.015質量%、Al:0.020~0.040質量%)の試験鋳造を、上述した実験で用いたモールドフラックスと同じモールドフラックスを用いて、鋳造速度2.3m/minの条件下で実施した。連続鋳造用の鋳型の内面をTiC20質量%-インコネル80質量%(発明例11)、TiC50質量%-Ni50質量%(発明例12)、TiC50質量%-Co50質量%(発明例13)、TiC50質量%-Fe50質量%(発明例14)、又は、Ni-Co鍍金(従来例11)のコーティングで被覆した。各コーティングの厚さは、0.1mm、0.2mm、0.5mm、1.0mm、25.0mm、10.0mm、15.0mm、20.0mmである。
【0038】
各条件の鋳型を用いて鋳造されたスラブの縦割れ個数を測定し、当該縦割れ個数をスラブ面積(1m2)で除することで縦割れ個数密度を算出した。厚さが0.2mmのNi-Co鍍金で被覆した連続鋳造用鋳型を用いて鋳造されたスラブの縦割れ個数密度を基準とし、当該縦割れ個数密度で、各鋳型を用いて鋳造されたスラブの縦割れ個数密度を割った値を表3に示す。スラブの縦割れ個数は、浸透探傷検査により測定した。
【0039】
【0040】
表3において、値が1.00未満であることは、従来品であるNi-Co鍍金(0.2mm厚)よりもスラブの縦割れが減少し、スラブ品質が向上したことを示す。一方、値が1.00より大きいことは、従来品であるNi-Co鍍金(0.2mm厚)よりもスラブの縦割れが増加し、スラブ品質が悪化したことを示す。
【0041】
表3に示すように、発明例11~14の鋳型を用いて鋳造されたスラブは全て1.00未満になった。発明例11~14のコーティングは、表1に示した発明例1~4のコーティングと同じ組成であり、鋳型と溶融モールドフラックスとの濡れ性の向上が確認されたコーティングである。これらの結果から、鋳型と溶融モールドフラックスとの濡れ性を向上させることでスラブの縦割れが減少し、スラブ品質を向上できることが確認された。また、コーティングの厚さを10mm以下とした発明例11~14の鋳型を用いて鋳造されたスラブは全て0.50以下になった。この結果から、コーティングの厚さを10mm以下にすることで、スラブの縦割れを顕著に減少させることができ、スラブ品質を大きく向上できることが確認された。