(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035103
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】マスク及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127297
(22)【出願日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2022137139
(32)【優先日】2022-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000127307
【氏名又は名称】株式会社イノアック技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100132137
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴博
【テーマコード(参考)】
3B211
【Fターム(参考)】
3B211CE03
(57)【要約】
【課題】 着用中にずれが生じにくく、洗濯時の耐久性にも優れるマスクとその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明のある態様は、着用者の口を含む顔面の一部を覆うマスク本体部120と、マスク本体部120の両側部それぞれに設けられた一対の耳掛け部140とを有するマスク100の製造方法である。当該マスク100の製造方法は、2枚のポリウレタンフォームシートの間に、ポリウレタンフォームシートより小さい繊維シートを挟んで積層体200とする積層工程と、積層体200を、耳掛け部140の少なくとも一部が2層のポリウレタンフォームシートから形成されるように打ち抜いて、一方の耳掛け部140及びマスク本体部120の左右半分のどちらか一方を有するマスク半体110とする打ち抜き工程と、打ち抜き工程によって得られた一組のマスク半体110において、少なくとも一部の端部同士を接合する接合工程と、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の口を含む顔面の一部を覆うマスク本体部と、
前記マスク本体部の両側部それぞれに設けられた一対の耳掛け部と、
を有するマスクの製造方法であって、
2枚のポリウレタンフォームシートの間に、前記ポリウレタンフォームシートより小さい繊維シートを挟んで積層体とする積層工程と、
前記積層体を、前記耳掛け部の少なくとも一部が2層のポリウレタンフォームシートから形成されるように打ち抜いて、一方の前記耳掛け部及び前記マスク本体部の左右半分のどちらか一方を有するマスク半体とする打ち抜き工程と、
前記打ち抜き工程によって得られた一組の前記マスク半体において、少なくとも一部の端部同士を接合する接合工程と、
を含むマスクの製造方法。
【請求項2】
前記打ち抜き工程が、一枚の前記積層体から、複数の前記マスク半体を打ち抜く工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記打ち抜き工程が、前記複数の前記マスク半体を同時に打ち抜く工程を含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記積層工程が、接着剤によって各シートの少なくとも一部を接着する工程を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記接着剤が、ホットメルト接着剤である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
2枚のポリウレタンフォームシートの間に、前記ポリウレタンフォームシートより小さい寸法の繊維シートを挟んで積層体とする積層工程を備え、
前記積層工程が、接着剤によって各シートの少なくとも一部を接着する接着工程を含むマスクの製造方法。
【請求項7】
前記接着剤が、ホットメルト接着剤である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
2枚のポリウレタンフォームシートの間に、繊維シートが挟まれたマスクであって、
前記ポリウレタンフォームシートと前記繊維シートが接着剤で接着されている、マスク。
【請求項9】
前記接着剤が、ホットメルト接着剤である、請求項8に記載のマスク。
【請求項10】
前記ホットメルト接着剤の繊維径が1μm以上200μm以下である、請求項9に記載のマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感染症や花粉症の予防等のため、口を含む顔面の一部を覆うマスクが使用されている。従来のマスクとして、不織布を積層したマスク本体部に、ゴム紐等からなる別部材の耳掛け部を取り付けたものや、ポリウレタンフォームのみから構成されたものが挙げられる。
【0003】
しかしながら、不織布を積層したマスクは長時間の使用や洗濯時の摩擦によって毛羽立ち、肌触りが悪くなるため、通常、使い捨てマスクとして使用される。また、ポリウレタンフォームから構成されたマスクは、洗濯して再利用することが可能であるが、微粒子の捕集率が低いという問題がある。
【0004】
上述のような問題を解決する技術として、特許文献1にはポリウレタンフォームにナノファイバーを電界紡糸法により塗布して捕集率を向上させたマスクが開示されている。また、特許文献2には、2枚のポリウレタンフォームシートの間に繊維シートを積層したマスクが開示されている。しかし、かかるマスクは着用中にずれが生じやすく、洗濯時の耐久性等にも課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6877102号公報
【特許文献2】特開2021-143430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであって、着用中にずれが生じにくく、洗濯時の耐久性にも優れるマスクとその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討を行い、特定の積層方法を使用することにより、上記課題を解決可能なことを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の第一の態様によれば、
着用者の口を含む顔面の一部を覆うマスク本体部と、
前記マスク本体部の両側部それぞれに設けられた一対の耳掛け部と、
を有するマスクの製造方法であって、
2枚のポリウレタンフォームシートの間に、前記ポリウレタンフォームシートより小さい繊維シートを挟んで積層体とする積層工程と、
前記積層体を、前記耳掛け部の少なくとも一部が2層のポリウレタンフォームシートから形成されるように打ち抜いて、一方の前記耳掛け部及び前記マスク本体部の左右半分のどちらか一方を有するマスク半体とする打ち抜き工程と、
前記打ち抜き工程によって得られた一組の前記マスク半体において、少なくとも一部の端部同士を接合する接合工程と、
を含むマスクの製造方法が提供される。
【0009】
前記第一の態様において、打ち抜き工程が、一枚の前記積層体から、複数のマスク半体を打ち抜く工程を含んでもよい。
【0010】
前記第一の態様において、打ち抜き工程が、前記複数のマスク半体を同時に打ち抜く工程を含んでもよい。
【0011】
積層工程が、接着剤によって各シートの少なくとも一部を接着する工程を含んでもよい。
【0012】
本発明の第二の態様によれば、
2枚のポリウレタンフォームシートの間に、前記ポリウレタンフォームシートより小さい寸法の繊維シートを挟んで積層体とする積層工程を備え、
前記積層工程が、接着剤によって各シートの少なくとも一部を接着する接着工程を含むマスクの製造方法が提供される。
【0013】
本発明の第三の態様によれば、
2枚のポリウレタンフォームシートの間に、繊維シートが挟まれたマスクであって、
前記ポリウレタンフォームシートと前記繊維シートが接着剤で接着されている、マスクが提供される。
【0014】
前記第一の態様、前記第二の態様及び前記第三の態様において、接着剤が、ホットメルト接着剤であってもよい。
【0015】
前記第三の態様において、ホットメルト接着剤の繊維径が1μm以上200μm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、着用中にずれが生じにくく、洗濯時の耐久性にも優れるマスクを提供できる。また、本発明によれば、少ない工程数で高性能なマスクを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、マスクの外側面を示す斜視図である。
【
図2】
図2(a)、(b)及び(c)は、それぞれ、マスク半体を示す平面図、
図2(a)に示したマスク半体のA-A’線に沿った断面図及び
図2(b)に示したマスク本体部の拡大部分断面図である。
【
図3】
図3は、マスクの製造方法の概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳述する。
以下、複数の上限値と複数の下限値とが別々に記載されている場合、これらの上限値と下限値とを自由に組み合わせて設定可能な全ての数値範囲が記載されているものとする。
以下において、特に断らない限り、各種測定は、環境温度を室温(例えば25℃)として実施されたものとする。
【0019】
以下、本実施形態に係るマスクについて説明し、次いで、本実施形態に係るマスクの製造方法について説明する。
【0020】
(マスク)
本実施形態に係るマスクを、図面を参照しながら詳述する。以下で参照する図面において、実質的に同じ機能を有する構成要素を同一の符号で示し、その説明を省略することがある。なお、以下の実施形態で引用する図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。また、以下の実施形態で引用する図面は、説明の都合上、構成の簡略化又は模式化して示したり、一部の構成要素を省略したりしている。
【0021】
図1は、本実施形態に係るマスクの外側面を示す斜視図である。本実施形態に係るマスク100は、着用者の口を含む顔面の一部を覆うマスク本体部120と、マスク本体部の両側部それぞれに設けられた一対の耳掛け部140A、140B(以下、「耳掛け部140」と総称する場合がある)とを有している。また、本実施形態に係るマスクは、マスク本体部の左右方向中間位置で2分割された形状のマスク半体110A、110B(以下、「マスク半体110」と総称する場合がある)の2つから構成されている(換言すると、マスク半体110A及び110Bは、それぞれ、一方の耳掛け部(140A又は140B)及びマスク本体部の左右半分のどちらか一方(マスク本体部半体122A又は122B(以下、「マスク本体部半体122」と総称する場合がある))を有する)。マスク半体110A、110B同士は、耳掛け部140A、140Bを一端としたときの他端(本実施形態に係る接合部160(マスク半体110Aにおける160A、及びマスク半体110Bにおける160B))で接合されている。
図2は、本実施形態に係るマスク半体を示す図である。
図2(a)はマスク半体を示す平面図である。
図2(b)は
図2(a)に示したマスク半体のA-A’線に沿った断面図である。
図2(c)は
図2(b)に示したマスク本体部の拡大部分断面図である。本実施形態に係るマスク半体110は、耳掛け部140とマスク本体部半体122との境界から、接合部160へ向かって幅(着用時の上下幅)が拡大した形状となっている。また、
図2に示すように、本実施形態に係るマスク半体110は、繊維シート240を挟んで線対称な積層体である。
なお、
図2では、1層の繊維シート240が例示されているが、繊維シート240は、同種または異種の2層以上の繊維シートが積層された積層体でもよい。
【0022】
本実施形態に係る耳掛け部140は、開口部142を有している。開口部142は貫通孔からなり、マスクを装着する際に耳が挿入されて耳に引っ掛けられる大きさに形成されている。開口部142の大きさは、耳の挿入が可能な大きさであればよく、特に限定されない。また、本実施形態において、後述するように、耳掛け部140の少なくとも一部が2層のポリウレタンフォームシート(
図1におけるポリウレタンフォームシート220Aとポリウレタンフォームシート260A、及びポリウレタンフォームシート220B及びポリウレタンフォームシート260B)から形成されている(以下、「ポリウレタンフォームシート220A、220B」を「ポリウレタンフォームシート220」と、「ポリウレタンフォームシート260A、260B」を「ポリウレタンフォームシート260」と、それぞれ総称する場合がある)。好適には、ポリウレタンフォームシート220、260は弾性を有するため、開口部142は、一般的な耳のサイズよりも小さくてもよい。本実施形態において、開口部142の形状は楕円であるが、特に限定されない。開口部142の形状は、例えば、円形、楕円形、矩形等である。
【0023】
本実施形態に係るマスク半体110の接合部160の形状は、特に限定されないが、湾曲形状であることが好ましい。本実施形態に係る接合部は、外側に向けて凸となる略円弧状である。したがって、使用時に、マスク本体部120は外方へ膨出した形状となる。接合部160は、マスクの左右中間位置にあり、マスクを装着した際に鼻先及び口と対応する位置にある。使用時に、上述のような外方へ膨出した形状であると、マスク本体部120の周縁が顔面に密着しやすく、かつ鼻腔及び口の近傍に空間が生じるため呼吸がしやすい。また、接合部160の一部は、直線状であってもよい。特に、鼻柱から鼻先に当接し得る部分(鼻当接部162)が直線状であると、より良好な装着感が得られる。
【0024】
また、本実施形態に係るマスクは、2枚のポリウレタンフォームシート220、260の間に、繊維シート240が挟まれたマスクである。換言すると、着用時の外側から、ポリウレタンフォームシート220、繊維シート240、ポリウレタンフォームシート260の順に積層された3層の積層体である。このような積層体であることにより、着用時の内側がポリウレタンフォームシートとなるため肌触りが良くなる。ただし、マスク本体部120は上述の3層構造であることが好ましいが、耳掛け部140の少なくとも一部が2層のポリウレタンフォームシート220(着用時の外側)、260(着用時の内側)から形成されることが好ましく、耳掛け部140の全部が2層のポリウレタンフォームシート220、260から形成されることがさらに好ましい。したがって、本実施形態に係る繊維シート240は、ポリウレタンフォームシート220、260より小さい寸法であることが好ましい。マスク本体部120が上述の3層構造であると、花粉やウイルス等の集じん率が向上し、かつ着用時の肌触りがよい。耳掛け部140の少なくとも一部又は全部が2層のポリウレタンフォームシート220、260から形成されていると、伸縮性に優れるため、長時間着用しても疲れにくい。また、繊維シートの使用量が減るため、製造に係るコスト低減効果が得られる。
【0025】
本実施形態において、ポリウレタンフォームシート220、又は260と繊維シート240は、接着剤によって接着されていることが好ましく、繊維シート240は、繊維シート240が挟まれている2枚のポリウレタンフォームシート220、及び260の両方と接着剤によって接着されていることがさらに好ましい。また、ポリウレタンフォームシート220、260同士が接着剤によって接着されていなくてもよいが、ポリウレタンフォームシート220、260同士も接着剤によって接着されていることが好ましい。本実施形態に係るマスク100は、マスク本体部120において、各シート(ポリウレタンフォームシート220及び/又は260と繊維シート240や、ポリウレタンフォームシート220、260同士)が接着剤によって接着されているため、着用中にずれが生じにくく、洗濯時の耐久性にも優れる。
【0026】
(マスクの製造方法)
以下、本実施形態に係るマスク100の製造方法について詳述する。まず、本実施形態に係るマスク100の製造に使用する原料について説明し、次いで、本実施形態に係るマスク100の製造方法について説明する。
【0027】
(ポリウレタンフォームシート)
本実施形態に係るポリウレタンフォームシート220、260は、弾性を有する高通気性のポリウレタンフォームで形成されたシート状の部材である。ポリウレタンフォームとしては、ポリエーテル系、ポリエステル系のいずれでもよいが、伸縮性に優れるポリエステル系のポリウレタンフォームが好ましい。なお、高通気性のポリウレタンフォームとは、具体的には、通気性が100cm3/(cm2・s)以上であり、好適には100cm3/(cm2・s)以上500cm3/(cm2・s)以下、さらに好適には200cm3/(cm2・s)以上400cm3/(cm2・s)以下である。通気性は、例えば、JIS L 1096Aに準拠した方法により測定できる。
【0028】
また、本実施形態に係るポリウレタンフォームは、セル膜を除去した除膜ポリウレタンフォームであってもよい。セル膜の除去は、公知の除膜処理により行うことができ、例えば、溶剤によってセル膜を溶解する方法、爆発によりセル膜を破壊する方法等が挙げられる。本実施形態に係るポリウレタンフォームのセル数は、特に限定されないが、例えば、40個/25mm以上110個/25mm以下等である。セル数がこのような範囲であると、花粉などの集じん率が良好である。セル数は、例えば、JIS K 6400-1:2004 附属書1に準拠した方法により測定できる。
【0029】
本実施形態に係るポリウレタンフォームシート220、260は、伸び率が200%以上500%以下であることが好ましく、300%以上400%以下であることがさらに好ましい。伸び率がこのような範囲であると、マスク本体部の周縁が顔面により良好に密着し、顔面との間に隙間が生じにくい。さらに、耳掛け部が切れにくく、かつ耳が痛くなりにくい。伸び率は、例えば、JIS K 6400-5:2012に準拠した方法により測定できる。
【0030】
弾性及び通気性を有するポリウレタンフォームシート220、260の厚みは、好適には0.5mm以上5mm以下、さらに好適には1mm以上4mm以下である。ポリウレタンフォームシートの厚みがこのような範囲であると、製造時や着用時に扱いやすく、かつコストが低くなる傾向がある。
【0031】
(繊維シート)
本実施形態に係るマスクは、上述のとおり、ポリウレタンフォームシート220、260の間に繊維シート240が挟まれていることが好ましい。繊維シート240により、さらに花粉やウイルス等の集じん率が向上する。
【0032】
本実施形態に係る繊維シート240は、典型的には不織布である。不織布としては、オレフィン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ウレタン繊維、アセテート繊維、レーヨン繊維等から構成される不織布である。繊維の製造方法は、特に限定されず、例えば、溶融紡糸、乾式紡糸等により製造され得る。また、繊維の断面は、単層断面、多層断面、芯鞘、中空断面、分割構造等であってもよい。紡糸後に、繊維を分割することにより得られる極細繊維も有用である。不織布は、いずれの紡糸方法により製造されてもよく、例えば、乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法(メルトブローン法ともいう)、エアレイド法等により製造され得る。繊維同士の結合方法も特に限定されず、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法等のいずれの紡糸方法であってもよい。
【0033】
本実施形態に係る不織布は、後述する目付量にもよるが、繊維径が0.5μm以上40μm以下の範囲にある繊維で構成することが好ましく、繊維径が1μm以上20μm以下の範囲にある繊維で構成することがさらに好ましい。不織布を構成する繊維の繊維径がこのような範囲にあると、異物の捕集効率の好適化と、空気の圧力損失の低減とを両立でき、呼吸がしやすくなる。
【0034】
本実施形態に係る不織布は、目付量が1g/m2以上50g/m2以下であることが好ましく、5g/m2以上40g/m2以下であることがより好ましく、10g/m2以上30g/m2以下であることがさらに好ましい。不織布の目付量がこのような範囲にあると、異物の捕集効率の好適化と、空気の圧力損失の低減とを両立でき、呼吸がしやすくなる。
【0035】
本実施形態に係る不織布の厚さは、0.5μm以下であることが好ましく、0.4μm以下であることがより好ましく、0.1mm以上0.3mm以下であることがさらに好ましい。不織布の厚さがこのような範囲であると、異物の捕集効率の好適化と、圧力損失の低減とを両立でき呼吸がしやすくなる。
【0036】
本実施形態に係る繊維シート240は、ナノファイバーが積層されていることが好ましい。ナノファイバーが積層されていると、さらに花粉やウイルス等の集じん率が向上する。ナノファイバーの形成は、電界紡糸法により行うことができる。その際、ポリマー溶液をノズルから又はジェット噴射により不織布等の基材の片面に直接噴霧し、蛛の巣状をしたナノファイバー繊維層を、不織布等の基材の片面に接着した状態で形成する。電界紡糸法では、典型的には、直流高電圧電源とインフュージョンポンプ、ステンレスニードルシリンジ、及び金属コレクタからなる装置を使用する。まず、ニードルシリンジの先端ノズルから、ポリマー溶液を噴射する。ノズルと金属コレクタは対極に帯電しており、ポリマー溶液をシリンジから噴射すると、コレクタ上に置かれた基材上に、ナノファイバー繊維が堆積し、層を形成することにより、シート状にできる。ナノファイバーの材質は、電界紡糸法でナノファイバーを形成できるものであれ特に限定されず、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン-6,6,ナイロン-4,6のような熱可塑性樹脂、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコール、ポリエチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリエチレンオキサイド、コラーゲンのような生分解性ポリマー、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアニリン、パラアミド、ポリ酢酸ビニル、アセチルセルロース(アセテート)等を挙げることができる。
【0037】
本実施形態に係るナノファイバーの繊維径は、1nm以上1000nm以下が好ましく、10nm以上750nm以下がより好ましく、50nm以上500nm以下がさらに好ましい。また、本実施形態に係るナノファイバーの目付量は、0.05g/m2以上1.50g/m2以下が好ましく、0.10g/m2以上1.0g/m2以下がより好ましく、0.15g/m2以上0.80g/m2以下がさらに好ましい。ナノファイバーの目付量がこのような範囲であると、ナノファイバー間をウイルスが通過しにくく、かつ通気性を維持することができる。
【0038】
(接着剤)
上述のとおり、本実施形態に係る各シートは、接着剤によって接着されていること好ましい。接着剤としては、ホットメルト接着剤が好ましい。ホットメルト接着剤として、例えば、熱可塑性ホットメルト接着剤、湿気硬化型のホットメルト接着剤等を用いることができる。
【0039】
(マスクの製造方法1)
本実施形態に係るマスク100の製造方法の一例について、
図3の概略工程図を用いて説明する。
図3は、各工程における概略工程図である。
【0040】
(積層工程及び接着工程)
まず、
図3(a)に示すように、ポリウレタンフォームシート220(260)を用意する。このとき、ポリウレタンフォームシート220(260)は、複数のマスク半体を打ち抜き得るサイズであることが好ましい。なお、上述のとおり、本実施形態に係るマスク半体110は、典型的には繊維シート240を挟んで線対称の積層体であるため、最初に用意するポリウレタンフォームシートは、着用時に外側となるポリウレタンフォームシート220であっても、着用時に内側となるポリウレタンフォームシート260であってもよい。
【0041】
次に、
図3(b)に示すように、ポリウレタンフォームシート220(260)上の所定領域に、ポリウレタンフォームシート220(260)よりも小さい繊維シート240を積層して、中間積層体210とする。すなわち、ポリウレタンフォームシート220(260)の一部(本実施形態においては、長手方向の両端部222(262))には、繊維シート240が積層されていない。このように積層することで、後述する打ち抜き工程により、ポリウレタンフォームシート220、260に繊維シート240が挟まれた3層部と、2枚のポリウレタンフォームシート220、260からなる2層部を有するマスク半体110を少ない工程数で製造できる。なお、繊維シート240が積層されない箇所は、打ち抜き工程時の金型(抜型)に合わせて任意に変更でき、例えば、ポリウレタンフォームシート220(260)の長手方向の片端部に設けてもよい。例えば、マスク本体部120となる箇所が、2枚のポリウレタンフォームシート220、260に繊維シート240が挟まれた3層部となるように、繊維シート240を積層することが好ましく、耳掛け部となる箇所の少なくとも一部の箇所には繊維シート240を積層しないことが好ましい。このとき、ポリウレタンフォームシート220(260)の中央部に帯状又はストライプ状に繊維シート240を設けること、換言すると、繊維シート240の一対の長手方向の辺がそれぞれ、2層部と3層部との境界になるように繊維シート240を設置することにより、繊維シート240における一対の長手方向の辺それぞれにおいて、マスク半体を打ち抜くことができる。
なお、繊維シート240を同種または異種の2層以上の繊維シートが積層された積層体とする場合には、ウレタンフォームシート220(260)上の所定領域に第1の繊維シートを積層したのち、ホットメルト接着剤を用いて当該第1の繊維シート上に第2の繊維シートを接着・積層することにより形成することができる。
また、第1の繊維シートと第2の繊維シートとをホットメルト接着剤を用いて貼り合わせて得られる積層体を予め用意し、当該積層体をウレタンフォームシート220(260)に積層してもよい。
【0042】
シート同士の接着には、ホットメルト接着剤を用いてもよい。ホットメルト接着剤を用いた接着方法としては、ロールコーター、グラビアコーターやスプレー塗布等により、ホットメルト接着剤等の接着剤層を挟んであるいは接着剤を塗布して、ポリウレタンフォームシート220(260)と繊維シート240とを、接着することができる。また、不織布状ホットメルトシートをポリウレタンフォームシート220(260)と繊維シート240との間に挟んで設置し、加熱圧着によりホットメルト材を溶融することで接着する方法(ドライラミネーション)であってもよい。このとき、ポリウレタンフォームシート220(260)と繊維シート240とは、少なくとも後の打ち抜き工程時にマスク半体110となる部分のうち、一部が接着されていればよいが、追従性の観点から、マスク半体110の輪郭となる部分が接着されていることが好ましく、全体的に接着されていることがさらに好ましい。また、通気性の観点から、ホットメルト接着剤はドット状又は繊維状に塗布することが好ましい。繊維状に塗布する場合、ホットメルト接着剤の繊維径は1μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0043】
続いて、
図3(c)に示すように、中間積層体210に、さらに繊維シート240を覆うように別のポリウレタンフォームシート260(220)を積層して、積層体200とする。積層時のシート同士の接着は、上述と同様の方法を利用できる。好適には、ポリウレタンフォームシート220(260)及び繊維シート240共に接着剤を塗布することが好ましい。これにより、着用中にずれが生じにくく、洗濯時の耐久性にも優れる。
【0044】
(打ち抜き工程)
続いて、
図3(d)に示すように、マスク半体110用の金型を有するプレス装置等により、積層体200を打ち抜いてマスク半体110の形状に打ち抜く。本実施形態では、一枚の積層体200から8枚のマスク半体110を得ることが例示されている。このように、一枚の積層体200から、複数のマスク半体を打ち抜くことが好ましい。また、複数のマスク半体用の金型を用いて複数のマスク半体を同時に打ち抜くことが好ましい。これにより、マスクの製造における工程数を少なくすることができる。また、各シートが接着されているため、打ち抜き後の部材の数が少ない。また、打ち抜き後のマスク半体110は、左右及び表裏の区別なく使用できるため、複数の部材を管理する必要がないという利点がある。
【0045】
(接合工程)
最後に、
図3(e)に示すように、2枚(一組)のマスク半体110A、110Bの少なくとも一部の端部同士を接合する。接合する端部は、典型的には、マスク半体110における耳掛け部140を一端としたときの他端(
図3(e)においては、点線で囲まれた接合部160)である。なお、マスク半体110は積層体であるが、
図3(e)においては簡略化している。接合は、溶着、ホットメルト等によって行われる。溶着には、熱溶着、振動溶着、超音波溶着、レーザー溶着等がある。特に、熱溶着等の溶着による接合は、溶剤等を使用しなくてもよいため好ましい。なお、接合を溶着で行う場合、マスク半体110を構成するポリウレタンフォームシート220、260は、ポリエステル系ポリウレタンフォームで構成されることが好ましい。ポリエステル系ポリウレタンフォームは、熱溶着に好適である。熱溶着により接合する場合、シートの性能にもよるが、熱溶着の条件は、例えば、温度150℃以上300℃以下、時間1秒以上5秒以下等である。熱溶着は、例えば、加熱圧縮装置により行うことができる。本実施形態に係るマスク半体110A、110Bにおいて、シート同士は接着されているため、熱溶着時に部材間のずれが少なく、歩留まりよく製造することができる。
【0046】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【実施例0047】
<製造方法>
(実施例1)
高通気性の軟質ポリウレタンフォーム(PUF、株式会社イノアックコーポレーション製、品名:SP-70K、ポリエステル系、伸び率:400%、セル数:60個/25mm、除膜)を厚み1mmのシートに裁断した2枚の弾性及び通気性を有するポリウレタンフォームシート(通気性:180cm3/(cm2・s)、平面寸法:400mm×900mm)を用意した。
【0048】
上記のポリウレタンフォームシート上に、湿気硬化型ポリウレタン系ホットメルト接着剤を繊維状(繊維径:10~100μm、目付量:10g/cm2)に塗布した。このとき、ホットメルト接着剤は、繊維シートが積層される箇所に全体的に塗布した。ナノファイバーが塗布された繊維シート(ナノファイバー複合不織布A、廣瀬製紙社製、不織布材質:ポリプロピレン/ポリエチレン、ナノファイバー材質:ポリビニルアルコール、繊維径:0.1μm、目付量:0.1g/m2、平面寸法:200mm×900mm;不織布にナノファイバー溶液をジェット噴射により塗布(電界紡糸法)したもの、表1参照)を、ポリウレタンフォームシート長手方向の両端部はポリウレタンフォームシート1層になるように、中央部に積層して、中間積層体とした。
【0049】
続いて、上記中間積層体に対して、繊維シート上を含む全面にホットメルト接着剤を繊維状(繊維径10~100μm、目付量:10g/cm2)に塗布した。ポリウレタンフォームシートを、中間積層体上にさらに積層して、積層体とした。
【0050】
積層体を、プレス装置により打ち抜いて、2枚のマスク半体(マスク半体の形状は、
図2参照)を取得した。このとき、マスク本体部がポリウレタンフォームシートに繊維シートが挟まれた3層部と、2枚のポリウレタンフォームシートからなる2層部を有するように打ち抜いた。
【0051】
2枚のマスク半体の耳掛け部を一端としたときの他端である湾曲形状部を、熱板で挟み、加熱圧縮装置により熱溶着(温度:210℃、時間:1.5s)により接合した。
【0052】
【0053】
(実施例2)
繊維シートとして、ナノファイバー複合不織布B(目付量:0.4g/m2、表1参照)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で製造した。
【0054】
(実施例3)
繊維シートとして、ナノファイバー複合不織布C(目付量:1g/m2、表1参照)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で製造した。
【0055】
(実施例4)
繊維シートとして、ナノファイバー複合不織布D(表1参照)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で製造した。
【0056】
(実施例5)
繊維シートとして、ナノファイバー複合不織布D(表1参照)を積層した後、ホットメルト接着剤を繊維状(繊維径10~100μm、目付量:10g/cm2)に塗布し、さらに、ナノファイバー複合不織布D(表1参照)を積層することで得られる中間積層体を用いたことを除き、実施例4と同様な方法で製造した。
【0057】
(実施例6)
軟質ポリウレタンフォーム(PUF、株式会社イノアックコーポレーション製、品名:SP-70K)から第1基材および第2基材を打ち抜きにより得た。また、ナノファイバー複合不織布Bを用いて打ち抜くことにより繊維シートを得た。
第1基材(ポリウレタンフォームシート)上に、湿気硬化型ポリウレタン系ホットメルト接着剤を繊維状(繊維径:10~100μm、目付量:10g/cm2)に塗布した。このとき、ホットメルト接着剤は、繊維シートが積層される箇所に全体的に塗布した。第1基材の長手方向の耳掛け部がポリウレタンフォームシート1層になるように、繊維シートを中央部に積層して、中間積層体とした。
続いて、上記中間積層体に対して、繊維シート上を含む全面にホットメルト接着剤を繊維状(繊維径10~100μm、目付量:10g/cm2)に塗布した。第2基材(ポリウレタンフォームシート)を、中間積層体上にさらに積層して、積層体(マスク半体)とした。
このマスク半体を一組用意した。すなわち、本実施例では、各部材を個別に打ち抜き加工しているため、打ち抜き後の部材数は6となる。
2枚のマスク半体の耳掛け部を一端としたときの他端である湾曲形状部を、熱板で挟み、加熱圧縮装置により熱溶着(温度:210℃、時間:1.5s)により接合した。
【0058】
(比較例1)
繊維シートを積層する代わりに、ポリウレタンフォームシート上にナノファイバーを直接スプレー塗布した以外は、実施例1と同様に製造にした。ナノファイバーには、ポリウレタン樹脂をN,N-ジメチルホルムアミド中に溶解させて調製したポリウレタン樹脂溶液を用いた。具体的には、ポリウレタン樹脂溶液をニードルシリンジに入れ、印加電圧20kV、ノズル径0.4mm、室温大気圧下の条件で、ノズルから15cmの距離に設置した金属コレクタ上に取り付けたポリウレタンフォームシート上にスプレー塗布した。塗布したナノファイバーの繊維径は500nm、目付量は0.10g/m2であった。
【0059】
(比較例2)
厚さ2mmに裁断したポリウレタンフォームシート上に、ポリウレタンフォームシートと同寸法の繊維シート(ナノファイバー複合不織布A、表1参照)を実施例1と同様の方法で積層した後、さらに別のポリウレタンフォームシートを積層しないで打ち抜き、接合して製造した。
【0060】
<評価方法>
作製した各積層体及び各マスクについて、以下の評価を行った。その結果を表1に示す。以下に、各評価方法の詳細を説明する。
【0061】
(バクテリア飛まつ捕集効率(BFE))
各積層体のうち、マスク本体部となる箇所の一部(平面寸法:150mm×150mm)を切り出して試験片とし、JIS T 9001に準じて、BFE捕集率を測定した。具体的には、まず、送液ポンプによりネブライザーに導入された細菌(黄色ぶどう球菌)懸濁液を、圧縮空気によりエアロゾル(平均粒子径3.0μm)化した。ガラス製チャンバー内に試験片を設置して、定流量吸引ポンプにより流量28.3L/分に調整してエアロゾルを試験片に噴霧した。試験片によって捕集されなかった(通過した)エアロゾルを6段構成のアンダーセンサンプラーに回収し、サンプラー内の寒天培地入りのシャーレに捕集した。当該シャーレを培養して現れたコロニー数をカウントし、試験片をセットせずに試験した場合のコロニー数をコントロールとして、BFEを算出した。
【0062】
(微粒子捕集効率(PFE))
各積層体のうち、マスク本体部となる箇所の一部(平面寸法:150mm×150mm)を切り出して試験片とし、JIS T 9001に準じて、PFE捕集率を測定した。具体的には、まず、ろ過して乾燥させた空気を噴霧器に通し、ラテックス粒子を含有している懸濁液からエアロゾルを生成させた。このエアロゾルを清浄な空気(クリーンエア)と混合して希釈した後,乾燥させて試験に用いた。このエアロゾルを面風速9.6cm/sの一定流量下のチャンバー中へ導入し,試験片を介した上流側及び下流側のエアロゾル粒子数を測定し,微小粒子捕集効率(PFE)を算出した。
【0063】
(通気度)
各積層体のうち、マスク本体部となる箇所の一部(平面寸法:100mm×100mm)を切り出して試験片とし、JIS L 1096に準じて、通気性を測定した。具体的には、フラジール形試験機に試験片を取り付けた後、傾斜形気圧計が125Paの圧力になるように吸い込みファン及び空気孔を調整し、そのときの垂直形気圧計の圧力を測定した。圧力の値と空気孔の種類から、試験片を通過する空気量(通気度)を算出した。
【0064】
(圧力損失)
各積層体のうち、マスク本体部となる箇所の一部(平面寸法:100mm×100mm)を切り出して試験片とし、JIS T 9001に準じて、圧力損失を測定した。具体的には、フラジール形通気性試験機の試料ホルダー(直径25mm)に試験片を取り付け、吸引ポンプを調節して流量が8L/minとなるようにした。このときの圧力損失(Pa)を差圧計で測定し、測定面積で除した値(Pa/cm2)を圧力損失とした。
【0065】
(装着感)
各マスクを着用して、装着感を評価した。判定基準は以下のとおりである。
A:耳にかけた際に引っ張られる感じがなく、肌触りが良い
B:耳にかけた際に引っ張られる感じがある、又は肌触りが悪い
【0066】
(洗濯性評価)
各マスクを水浴中で3分間揉み洗いした。揉み洗い後、室温で24時間乾燥させた。判定基準は以下のとおりである。
A:水浴中に脱落物がなく、乾燥後に不織布のずれがない
B:水浴中に脱落物がある、又は乾燥後に不織布のずれがある
【0067】