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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035106
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】3次元面変位計測システム
(51)【国際特許分類】
   G01C 15/00 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
G01C15/00 103B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130095
(22)【出願日】2023-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2022139127
(32)【優先日】2022-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503295448
【氏名又は名称】計測ネットサービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001759
【氏名又は名称】弁理士法人よつ葉国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【識別番号】100168468
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 曜
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】今津 敏紀
(57)【要約】      (修正有)
【課題】3次元レーザースキャン機能によって取得された被測定対象面に係る複数組の点群データから被測定対象面の3次元面変位を精度良く自動的に計測しリアルタイムに表示する。
【解決手段】3次元面変位計測方向を規定する基準傾斜SSは、3つの測点M1,M2,M3に基づいて、測点M1と測点M2を結ぶ回転軸RAと、測点M3を通り回転軸RAに直交した回転軸直交線OAとによって張られる傾斜平面とする。そして、計測の基準となる比較元点群データについては、測点M3と交点PIの標高差がゼロになるように回転軸RAの回りに回転させる。その後、回転後の比較元点群データからTINを作成する。一方、比較対象点群データについても同じ回転角度だけ回転軸RAの回りに回転させる。データ処理装置3は、回転後の比較対象点群データ内の比較測点と、対応する比較元三角形との間の離れを計測する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元レーザースキャン機能を有する測量機(1)と、前記測量機(1)の計測座標系の基準点又は測点を創出する1又は複数のターゲット部(2)と、前記測量機(1)が計測したデータを処理する計算機(3)とを備えた、被測定対象面(50a)についての3次元面変位を計測する3次元面変位計測システム(100)であって、
前記3次元レーザースキャン機能によって前記被測定対象面(50a)についての座標に係る点群データを時間差をおいて取得する点群データ取得プロセス(S3)と、
3次元面変位計測方向を規定する基準傾斜(SS)を設定する基準傾斜設定プロセス(ST0)と、
複数の前記点群データの内で基準となる基準点群データを選定する基準点群データ選定プロセス(ST1)と、
前記基準点群データ内から点群データを回転させる回転軸(RA)を設定する回転軸設定プロセス(ST2)と、
前記点群データの全体を前記回転軸(RA)の回りに所定の回転角度だけ回転させる点群データ回転プロセス(ST3、ST6)と、
前記点群データ回転プロセスを受けた前記基準点群データについて隣り合う2つの測点を直線で結んで複数の三角形(T_j)から成る不規則三角形網(TIN)を形成する不規則三角形網作成プロセス(ST4)と、
前記点群データ回転プロセスを受けた、前記基準点群データを除く他の点群データの各測点(p_k)について、対応する前記三角形(T_j)との間の離れ(d_k)を計測する離れ計測プロセス(ST8)とを備える
ことを特徴とする3次元面変位計測システム。
【請求項2】
請求項1に記載の3次元面変位計測システムにおいて、
前記離れ(d_k)は、比較対象点群データの前記測点(p_k)と、該測点(p_k)から前記基準傾斜(SS)に下ろした垂線(V_k)が前記三角形(T_j)に交差する交点(q_k)との間の距離に相当する
ことを特徴とする3次元面変位計測システム。
【請求項3】
請求項1に記載の3次元面変位計測システムにおいて、
前記基準傾斜(SS)は前記回転軸(RA)と、該回転軸(RA)に直交した回転軸直交線(OA)とによって張られる傾斜平面である
ことを特徴とする3次元面変位計測システム。
【請求項4】
請求項1に記載の3次元面変位計測システムにおいて、
前記測点(p_k’)と前記三角形(T_j’)の位置関係に応じて前記測点(p_k’)に色彩が付されると共に、前記色彩が付された前記測点(p_k’)から作成される不規則三角形網(TIN)の一の三角形(T2_k’)の内部については、該三角形(T2_k’)の一の頂点の色彩から他の頂点の異なる色彩へ所定の階調で変化するグラデーションによって表示される
ことを特徴とする3次元面変位計測システム。
【請求項5】
請求項1に記載の3次元面変位計測システムにおいて、
前記計算機(3)は、前記測量機(1)が前記ターゲット部(2)を視準して得られた前記被測定対象面(50a)の面変位の大きさが所定の閾値を超えた場合、警報を発する警報機能(4)を備える
ことを特徴とする3次元面変位計測システム。
【請求項6】
請求項1に記載の3次元面変位計測システムにおいて、
前記計算機(3)は前記測量機(1)との間で双方向無線通信可能であり、該測量機(1)は前記3次元レーザースキャン機能によって取得された前記点群データを自動的に送信するように構成されている
ことを特徴とする3次元面変位計測システム。
【請求項7】
請求項1に記載の3次元面変位計測システムにおいて、
前記計算機(3)は、前記点群データから前記不規則三角形網(TIN)を作成したときの一の三角形(T_j)の一辺の長さが所定の距離以上の場合は、前記三角形(T_j)自体を異常データとして前記不規則三角形網(TIN)から除去するように構成されている
ことを特徴とする3次元面変位計測システム。
【請求項8】
請求項1に記載の3次元面変位計測システムにおいて、
前記計算機(3)は、前記測点(p_k)と前記三角形(T_j)との間の離れ(d_k)の大きさが所定の閾値以上である場合、前記測点(p_k)は異常データとして前記点群データから除去するように構成されている
ことを特徴とする3次元面変位計測システム。
【請求項9】
請求項1に記載の3次元面変位計測システムにおいて、
前記計算機(3)は、計測値が異常であると判定するとき、アラーム信号を所定の無線又は有線の双方向電気通信回線網(60)を経由して所定のコンピュータ(70)へ送信し、前記アラーム信号を受信した前記コンピュータ(70)は、所定の管理者にその旨の電子メールを送信するように構成されている
ことを特徴とする3次元面変位計測システム。
【請求項10】
請求項4に記載の3次元面変位計測システムにおいて、
色情報付き前記不規則三角形網(TIN)上の2点(P1、P2)をユーザが指定する場合、該2点(P1、P2)を通る垂直平面に沿った「基準点群データから作成された不規則三角形網(TIN)の切断形状」と「比較対象点群データから作成された不規則三角形網(TIN)の切断形状」を重ねて表示すると共に、
前記比較対象点群データが前記基準点群データの上位に位置している隆起部と、同下位に位置している沈下部を色分けして表示する
ことを特徴とする3次元面変位計測システム。
【請求項11】
請求項10に記載の3次元面変位計測システムにおいて、
色情報付き前記不規則三角形網(TIN)上の3以上のN個の点をユーザが指定する場合、隣接する2点を通るN個の垂直平面に囲まれた前記不規則三角形網(TIN)の領域の体積を算出・表示すると共に、前記領域の土量を算出・表示する
ことを特徴とする3次元面変位計測システム。
【請求項12】
請求項11に記載の3次元面変位計測システムにおいて、
前記領域に含まれる前記隆起部の体積と土量、並びに前記沈下部の体積と土量を算出・表示する
ことを特徴とする3次元面変位計測システム。
【請求項13】
請求項10に記載の3次元面変位計測システムにおいて、
色情報付き前記不規則三角形網(TIN)上でユーザが複数の点(P1,・・・,P12)を指定する場合、該点(P1,・・・,P12)を中心とする複数の検査範囲内(C1,・・・,C12)を設定し、各検査範囲内(Ci)における「前記基準点群データから作成された前記不規則三角形網(TIN)」に対する「前記比較対象点群データ」の上方への離れ(d_k)に相当する隆起量、並びに下方への離れ(d_k)に相当する沈下量をそれぞれ算出し、
算出した各検査範囲内(Ci)における前記隆起量および前記沈下量を元とする「面変位の点群データ集合(Di)」を作成すると共に、該点群データ集合(Di)についての中央値(Mi)、平均値(Ai)及び標準偏差(σi)を各検査範囲内(Ci)毎に算出し、
算出した前記中央値(Mi)、前記平均値(Ai)及び前記標準偏差(σi)に基づいて各検査範囲内(Ci)の面変位が異常か否かを判定する
ことを特徴とする3次元面変位計測システム。
【請求項14】
請求項10に記載の3次元面変位計測システムにおいて、
色情報付き前記不規則三角形網(TIN)を画像ファイルに変換し、複数の前記画像ファイルを時系列の順に連続して動画として出力する
ことを特徴とする3次元面変位計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は3次元面変位計測システムに関し、より詳細には3次元レーザースキャン機能によって取得された被測定対象面に係る複数組の点群データから被測定対象面の3次元面変位(大きさと向き)を精度良く自動的に計測しリアルタイムに表示することが可能な3次元面変位計測システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、反射プリズムに向けて光波を出射しそのプリズムからの反射光を受光して測点の位置を計測するトータルステーション機能に加えて、被測定対象面の広範囲を反射プリズムなし(ノンプリズム)で高速(例えば30000点/秒)にレーザー照射して面変位を計測する、いわゆる3Dレーザースキャン機能を備えたマルチステーションが市販されている(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0003】
また、この3Dレーザースキャン機能を用いて構造物や法面の変形等を定期的に検査する変位計測が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。3Dレーザースキャン機能による面変位計測は、反射プリズムを用いた点計測に比べ精度は落ちるが、被測定対象面の広範囲についてノンプリズムで高速に計測することができるという利点を有している。トータルステーション機能と3Dレーザースキャン機能を用いた変位計測の一例として、先ず3Dレーザースキャン機能によって取得された点群データから被測定対象面についての大凡の変位を計測し、被測定対象面についての変位が閾値を超える場合に、反射プリズムを用いたトータルステーション機能によってより高精度の点計測を行うことが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
一般に、3Dレーザースキャン機能によって得られた被測定対象面についての点群データは、バイナリーデータとしてマルチステーションの内部メモリー又は外部メモリーに保存される。従って、スキャン後にオペレータは、点群データをマルチステーションからデータ処理ソフトが保存されているコンピュータに移動させる必要がある。その後、オペレータはコンピュータ上でデータ処理ソフトを起動させ点群データを座標値(数値データ)に変換する必要がある。また、計測座標系(ローカル座標系)と現場の座標系(グローバル座標系)が異なる場合、計測座標系から現場の座標系への座標変換処理についても実行する必要がある。
【0005】
座標変換処理が成された点群データは、動物や電柱等からの反射光を受光することにより計測された測点をノイズ(異常データ)として除去する必要がある。また、ノイズ除去方法の一例として、3Dレーザースキャン機能によって取得された点群データをRANSAC(Random Sampling Consensus)法を用いてノイズ及び外れ値を排除する処理方法が知られている(例えば、特許文献2を参照。)。このように3Dレーザースキャン機能による面変位計測の場合、スキャン後にオペレータによる手動処理が必要となる。そのため、測定結果の提出までに数時間、場合によっては数日かかることもある。
【0006】
また、3Dレーザースキャン機能に係る面変位計測の方向について、コンクリート打設のような水平面の場合、面変位計測の方向として面に直交した方向を計測することが可能であった。しかし、法面等の斜面の場合、面変位計測の方向として面に直交した方向を精度良く計測することは難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-15081号公報
【特許文献2】特開2016-205837号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】https://leica-geosystems.com/ja-jp/products/total-stations/multistation/leica-nova-ms60
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に記載の測量装置においては、時間差をおいて3Dレーザースキャン機能によって取得された検査対象面についての第1の点群データと第2の点群データとの差分を算出し、検査対象面における位置情報に変化があった部分を詳細検査対象部分として検出することとしている。
【0010】
しかし、3Dレーザースキャン機能の第1の点群データ内の各測点の座標と、第2の点群データ内の各測点の座標は必ずしも一致しているとは限らないため、第1の点群データと第2の点群データとの差分(ベクトル)を検査対象面の3次元面変位として計測することは、精度的観点からあまり好ましくないという問題があった。
【0011】
また、従来は法面等の面変位計測については、Z軸方向(高さ方向)の変位を面変位として計測していた。そのため、高さ方向以外、例えば斜面に直交する方向の3次元面変位について精度良く自動的に計測することは難しかった。
【0012】
そこで、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであり、その目的は3次元レーザースキャン機能によって取得された被測定対象面に係る複数組の点群データから被測定対象面の3次元面変位(大きさと向き)を精度良く自動的に計測しリアルタイムに表示することが可能な3次元面変位計測システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明に係る3次元面変位計測システムは、3次元レーザースキャン機能を有する測量機(1)と、前記測量機(1)の計測座標系の基準点又は測点を創出する1又は複数のターゲット部(2)と、前記測量機(1)が計測したデータを処理する計算機(3)とを備えた、被測定対象面(50a)についての3次元面変位を計測する3次元面変位計測システム(100)であって、前記3次元レーザースキャン機能によって前記被測定対象面(50a)についての座標に係る点群データを時間差をおいて取得する点群データ取得プロセス(S3)と、3次元面変位計測方向を規定する基準傾斜(SS)を設定する基準傾斜設定プロセス(ST0)と、複数の前記点群データの内で基準となる基準点群データを選定する基準点群データ選定プロセス(ST1)と、点群データを所定の回転角度だけ回転させる回転軸(RA)を設定する回転軸設定プロセス(ST2)と、
前記点群データの全体を前記回転軸(RA)の回りに所定の回転角度だけ回転させる点群データ回転プロセス(ST3、ST6)と、
前記点群データ回転プロセスを受けた前記基準点群データについて隣り合う2つの測点を直線で結んで複数の三角形(T_j)から成る不規則三角形網(TIN)を形成する不規則三角形網作成プロセス(ST4)と、前記点群データ回転プロセスを受けた、前記基準点群データを除く他の点群データの各測点(p_k)について、対応する前記三角形(T_j)との間の離れ(d_k)を計測する離れ計測プロセス(ST8)とを備えることを特徴とする。
【0014】
上記構成では、上記回転軸(RA)を設定し、点群データの全体を回転軸(RA)の回りに所定角度だけ回転させることにより、回転軸(RA)に直交する回転軸直交線(OA)上に点在する測点間の標高差(高さの差)をゼロ又は小さくすることが可能となる。そして、この回転させた基準点群データから不規則三角形網(TIN)を形成することにより、被測定対象面(50a)の3次元面変位の計測に係る計測基準面を構築することが可能となる。その結果、他の点群データ(比較対象点群データ)についても同様に回転軸(RA)の回りに回転させることにより、回転させた他の点群データ(比較対象点群データ)の各測点(p_k)について、対応する三角形(T_j)との間の離れ(d_k)によって、被測定対象面(50a)に係る3次元面変位を計測することが可能となる。
【0015】
本発明に係る3次元面変位計測システムの第2の特徴は、前記基準傾斜(SS)は前記回転軸(RA)と、該回転軸(RA)に直交した回転軸直交線(OA)とによって張られる傾斜平面であることである。
【0016】
上記構成では、基準傾斜(SS)は水平面に対し「回転軸直交線(OA)に係る傾斜角度」(第1傾斜角度)と、「回転軸(RA)に係る傾斜角度」(第2傾斜角度)を有することになる。従って、第1傾斜角度をゼロにすることにより、回転軸直交線(OA)上または「回転軸直交線(OA)に平行な直線(PL)」上に点在する点群データの測点間の標高差をなくすことが可能となる。次いで第2傾斜角度をゼロにすることにより、回転軸直交線(OA)と「回転軸直交線(OA)に平行な直線(PL)」との間の標高差をなくすことが可能となる。基準点群データと比較対象点群データを第1傾斜角度および第2傾斜角度がゼロになるように回転させることにより、3次元面変位計測方向をZ軸方向の変位に等価変換することが可能となる。すなわち、被測定対象面(50a)についての3次元面変位計測方向を2点のZ座標(高さ)の差の算出に単純化することが可能となる。
【0017】
本発明に係る3次元面変位計測システムの第3の特徴は、前記離れ(d_k)は、比較対象点群データの前記測点(p_k)と、該測点(p_k)から前記基準傾斜(SS)に下ろした垂線(V_k)が前記三角形(T_j)に交差する交点(q_k)との間の距離に相当することである。
【0018】
上記構成では、上記垂線(V_k)によって被測定対象面(50a)についての面変位計測方向(向き)が規定されると共に、上記離れ(d_k)によって面変位の量(大きさ)が規定されることになる。これにより、3次元レーザースキャン機能によって取得された被測定対象面(50a)についての点群データから、被測定対象面(50a)についての3次元面変位を計測することが可能となる。なお、回転させた基準点群データと他の点群データの全体を、基準傾斜(SS)の第2傾斜角度がゼロになるように例えば回転後の回転軸直交線(OA’)の回りにさらに回転させることにより、上記離れ(d_k)の算出は、2点のZ座標(高さ)の差の算出に単純化されることになる。
【0019】
本発明に係る3次元面変位計測システムの第4の特徴は、前記測点(p_k’)と前記三角形(T_j’)の位置関係に応じて前記測点(p_k’)に色情報が付されると共に、前記色情報が付された前記測点(p_k’)から作成される不規則三角形網(TIN)の一の三角形(T2_k’)の内部については、該三角形(T2_k’)の一の頂点の色彩から他の頂点の異なる色彩へ所定の階調で変化するグラデーションによって表示されることである。
【0020】
上記構成では、被測定対象面(50a)の面変位の方向(色彩)及び大きさ(色彩の濃さ)についてオペレータが瞬時に把握することが可能となる。
【0021】
本発明に係る3次元面変位計測システムの第5の特徴は、前記計算機(3)は、前記測量機(1)が前記ターゲット部(2)を視準して得られた前記被測定対象面(50a)の面変位の大きさが所定の閾値を超えた場合、警報を発する警報機能(4)を備えることである。
【0022】
上記構成では、ターゲット部(2)を使用したトータルステーション機能によって、3次元レーザースキャン機能によっては検知することが難しい不測の変位を検知することが可能となる。また、警報機能(4)によって、事前に周囲の人間に危険が迫っていることを覚知させることが可能となる。
【0023】
本発明に係る3次元面変位計測システムの第6の特徴は、前記計算機(3)は前記測量機(1)との間で双方向無線通信可能であり、該測量機(1)は前記3次元レーザースキャン機能によって取得された前記点群データを自動的に送信するように構成されていることである。
【0024】
上記構成では、3次元レーザースキャン後にオペレータが点群データを計算機(3)に送信するマニュアル作業を省くことができる。
【0025】
本発明に係る3次元面変位計測システムの第7の特徴は、前記計算機(3)は、前記点群データから前記不規則三角形網(TIN)を作成したときの一の三角形(T_j)の一辺の長さが所定の距離以上の場合は、前記三角形(T_j)自体を異常データとして前記不規則三角形網(TIN)から除去するように構成されていることである。
【0026】
上記構成では、3次元レーザースキャン後にオペレータが点群データから異常データを除去するノイズ除去手動作業を省くことができる。また、3次元レーザースキャン機能による面変位計測の精度が向上するようになる。
【0027】
本発明に係る3次元面変位計測システムの第8の特徴は、前記計算機(3)は、前記測点(p_k)と前記三角形(T_j)との間の離れ(d_k)の大きさが所定の閾値以上である場合、前記測点(p_k)は異常データとして前記点群データから除去するように構成されていることである。
【0028】
上記構成では、3次元レーザースキャン機能後にオペレータが基準点群データ(比較元点群データ)を除く他の点群データ(比較対象点群データ)から異常データを除去するノイズ除去手動作業を省くことができる。また、3次元レーザースキャン機能による面変位計測の精度が向上するようになる。
【0029】
本発明に係る3次元面変位計測システムの第9の特徴は、前記計算機(3)は、計測値が異常であると判定するとき、アラーム信号を所定の無線又は有線の双方向電気通信回線網(60)を経由して所定のコンピュータ(70)へ送信し、前記アラーム信号を受信した前記コンピュータ(70)は、所定の管理者にその旨の電子メールを送信するように構成されていることである
【0030】
上記構成では、被測定対象面(50a)についての無人監視が可能になると共に、予兆の段階で人的・物的災害の発生を未然に防止することが可能となる。
【0031】
本発明に係る3次元面変位計測システムの第10の特徴は、色情報付き前記不規則三角形網(TIN)上の2点(P1、P2)をユーザが指定する場合、該2点(P1、P2)を通る垂直平面に沿った「基準点群データから作成された不規則三角形網(TIN)の切断形状」と「比較対象点群データから作成された不規則三角形網(TIN)の切断形状」を重ねて表示すると共に、前記比較対象点群データが前記基準点群データの上位に位置している隆起部と、同下位に位置している沈下部を色分けして表示することである。
【0032】
上記構成では、指定断面における隆起の範囲・大きさと沈下の範囲・大きさを把握することが容易となる。
【0033】
本発明に係る3次元面変位計測システムの第11の特徴は、色情報付き前記不規則三角形網(TIN)上の3以上のN個の点をユーザが指定する場合、隣接する2点を通るN個の垂直平面に囲まれた前記不規則三角形網(TIN)の領域の体積を算出・表示すると共に、前記領域の土量を算出・表示することである。
【0034】
上記構成では、指定領域の体積と土量を把握することが容易となる。
【0035】
本発明に係る3次元面変位計測システムの第12の特徴は、前記領域に含まれる前記隆起部の体積と土量、並びに前記沈下部の体積と土量を算出・表示することである。
【0036】
上記構成では、指定領域に含まれる隆起部の体積と土量、沈下部の体積と土量を把握することが容易となる。
【0037】
本発明に係る3次元面変位計測システムの第13の特徴は、色情報付き前記不規則三角形網(TIN)上でユーザが複数の点(P1,・・・,P12)を指定する場合、該点(P1,・・・,P12)を中心とする複数の検査範囲内(C1,・・・,C12)を設定し、各検査範囲内(Ci)における「前記基準点群データから作成された前記不規則三角形網(TIN)」に対する「前記比較対象点群データ」の上方への離れ(d_k)に相当する隆起量、並びに下方への離れ(d_k)に相当する沈下量をそれぞれ算出し、算出した各検査範囲内(Ci)における前記隆起量および前記沈下量を元とする「面変位の点群データ集合(Di)」を作成すると共に、該点群データ集合(Di)についての中央値(Mi)、平均値(Ai)及び標準偏差(σi)を各検査範囲内(Ci)毎に算出し、算出した前記中央値(Mi)、前記平均値(Ai)及び前記標準偏差(σi)に基づいて各検査範囲内(Ci)の面変位が異常か否かを判定することである。
【0038】
上記構成では、検査範囲内(C1,・・・,C12)の隆起量と沈下量については、「面変位の点群データ集合(Di)」として一まとめにデータ処理(検査)されることになる。検査項目としては、データを大きさの順に並べたときの中央に位置するデータの値に相当する中央値(Mi)と、各データの値の合算値を個数で割った値に相当する平均値(Ai)と、平均値(Ai)からのバラツキ程度を示す標準偏差(σi)を挙げることができる。各検査項目を予め定められた各閾値によって判定することによって、検査範囲内(C1,・・・,C12)における面変位の異常を早期に検知して早期に警報を発報することが可能となる。
【0039】
本発明に係る3次元面変位計測システムの第14の特徴、色情報付き前記不規則三角形網(TIN)を画像ファイルに変換し、複数の前記画像ファイルを時系列の順に連続して動画として出力することである。
【0040】
上記構成では、一定時間毎のスキャン結果に加えて時間経過による変位観測も可能となる。
【発明の効果】
【0041】
本発明に係る3次元面変位計測システムによれば、3次元レーザースキャン機能によって取得された被測定対象面に係る複数組の点群データから被測定対象面の3次元面変位(大きさと向き)を精度良く自動的に計測しリアルタイムに表示することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明の一実施形態に係る3次元面変位計測システムを示す説明図である。
図2】3次元面変位計測システムによる面変位の計測方向の一例を示すフロー図である。
図3】本発明に係るデータ処理装置のモニタ画面の一例を示す説明図である。
図4】本発明の一実施形態に係る3次元面変位計測システムによる計測プロセスの一例を示すフロー図である。
図5】本発明の一実施形態に係る3次元面変位計測システムによる比較元TINを使用した被測定対象面についての面変位の計測プロセスの一例を示す説明図である。
図6】被測定対象面を法線方向から見た平面図である。
図7】回転後の比較元点群データ、比較元TIN内の比較元三角形、および回転後の比較対象点群データ内の比較測点を示す説明図である。
図8】比較測点と比較元三角形との間の離れを算出するための算出プロセスを示す説明図である。
図9】比較測点と比較元三角形との間の離れに応じた色情報(色彩、色彩の濃さ)が付加された色情報付き比較測点を示す説明図である。
図10】三角形内部が一の頂点の色彩から他の頂点の異なる色彩へ所定の階調で変化するグラデーションによって表示された比較対象三角形を示す説明図である。
図11】本発明の第2実施形態に係る3次元面変位計測システムの指定断面表示機能のうち色情報付きTIN上の2点指定を示す説明図である。
図12】2点指定に係る指定断面を示す説明図である。
図13】本発明の第2実施形態に係る3次元面変位計測システムの指定体積表示機能のうち色情報付きTIN上での複数点指定を示す説明図である。
図14】本発明の第2実施形態に係る3次元面変位計測システムの警報処理機能を示す概念図である。
図15】各円形範囲内における面変位(隆起量と沈下量)の検査項目とその閾値を示す説明図である。
図16】ある時刻の各円形範囲内における面変位(隆起量と沈下量)の各検査項目についての検査結果を示す説明図である。
図17】本発明の第2実施形態に係る3次元面変位計測システムの警報処理機能のうち色情報付きTIN上で第7円形範囲内における面変位が異常であることと警報が発報された旨の表示を示す説明図である。
図18】本発明の第2実施形態に係る3次元面変位計測システムのスキャン結果連続表示動画作成処理機能を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0044】
図1は、本発明の一実施形態に係る3次元面変位計測システム100を示す説明図である。図2は3次元面変位計測システム100による面変位の計測方向を示す説明図である。
【0045】
この3次元面変位計測システム100は、被測定対象物である法面50の面変位について反射プリズム2を用いた高精度・集約的な点変位計測(トータルステーション機能)と、即効・連続的・広範囲な面変位計測(3次元レーザースキャン機能)の双方によって被測定対象面50aの面変位を自動的に計測しリアルタイムに表示することができるように構成されている。また、被測定対象面50aの面変位結果については、例えば色彩とその濃さによって特徴付けられた3次元図形情報(TIN)によってリアルタイムにデータ処理装置3のモニタ画面3aに表示されるように構成されている。モニタ画面3aの詳細については図3を参照しながら後述する。
【0046】
図2に示されるように、被測定対象面50aの面変位計測方向について、この3次元面変位計測システム100は予め事前に登録した基準傾斜SSに直交する方向について計測するように構成されている。このように、基準傾斜SSは面変位計測方向を規定する傾斜である。従って、基準傾斜SSの傾斜角度を変更することによって、被測定対象面50aについて任意の面変位方向を計測することが可能となる。なお、基準傾斜SSの詳細については図6を参照しながら後述する。
【0047】
また、この3次元面変位計測システム100は被測定対象面50aについての面変位計測結果が予め設定した閾値を超える場合、警報装置4によって周囲の人間に覚知させることができるように構成されている。なお、本実施形態の被測定対象物は法面50であるが、法面50に限らず、構造物の面変位についてもこの3次元面変位計測システム100は計測することができる。
【0048】
3次元面変位計測システム100の構成としては、光波による測距機能とエンコーダによる測角機能を有する測量機1と、基準測点又は器械点(IP)を再現するための複数の反射プリズム2と、3次元レーザースキャン機能によって取得された点群データを処理して、被測定対象面50aの面変位を計測すると共に、面変位(離れの向き、大きさ)の計測結果をリアルタイムに表示するデータ処理装置3と、面変位結果が異常である場合に大音量の警報音、又は異常を知らせる音声メッセージを発する警報装置4と、データを搬送する無線通信網60と、アラーム信号(警報)を受信して所定の管理者に電子メールを送信するサーバー70とを具備して構成されている。以下、各構成について更に説明する。
【0049】
測量機1は、反射プリズム2を使用したトータルステーション機能に加えて、被測定対象面50aを所定のスキャン速度でミラーなし(ノンプリズム)で高速に計測することができる、いわゆる3Dレーザースキャン機能を有している。なお、3Dレーザースキャン機能のスキャン速度としては、例えば毎秒30000点を計測することができる。また、測量機1は双方向無線通信機能(例えばWi-Fi(登録商標)又はBluetooth(登録商標))を有し、データ処理装置3に対し無線で点群データを送信することができるように構成されている。
【0050】
反射プリズム2は、例えば測量機1と反射プリズム2から得られた計測値について補正が不要な、いわゆるゼロ定数プリズムを使用することができる。なお、その他の反射プリズムについても使用することができる。
【0051】
データ処理装置3は双方向無線通信機能(例えばWi-Fi(登録商標)又はBluetooth(登録商標))を有し、測量機1に対する計測開始指示を行うと共に、3Dレーザースキャン機能によって取得された点群データ(被測定対象面50a内の無数の測点)を無線を介して受信することができるように構成されている。データ処理装置3が受信した点群データについては、データ処理装置3の記憶領域に一旦保存され、データ処理プログラムによってバイナリーデータから座標値への変換処理、異常データ除去処理、TIN(=Triangulated Irregular Network、不規則三角形網)処理、面変位の算出処理等が行われる。データ処理プログラムが実行されることにより、被測定対象面50aについての面変位の計測結果を瞬時に算出し、且つ視覚的・連続的にモニタ画面3aにリアルタイムに表示することが可能となる。なお、ここで言う「TIN」とは、点群データ中の測点と測点を直線で結び、各測点が何れかの三角形の頂点となり且つ一の三角形は他の3つの三角形と一辺を共有しながら隣接している三角形多面体構造を意味している。
【0052】
また、データ処理装置3はSIMカードを有し、携帯電話会社が提供する無線通信網60を使用してデータを送受信することができるように構成されている。
【0053】
無線通信網60は、例えばLTE、4G又は5G等の携帯電話会社が提供する無線通信網であって、インターネットに接続された双方向電気通信回線網である。なお、無線通信網60に代えて或いは無線通信網60に組み合わせて、光ファイバーによる有線の双方向電気通信回線網を使用することも可能である。
【0054】
サーバー70は、自社サーバー又は他社サーバー(例えばクラウドサーバー)を使用することが出来る。
【0055】
図3は、本発明に係るデータ処理装置3のモニタ画面3aの一例を示す説明図である。
このモニタ画面3aは、2021年9月14日10時43分50秒に取得された点群データScan1と、同年同日10時49分48秒に取得された点群データScan2との間の面変位(離れの向き、大きさ)の計測結果を色情報(色彩とその濃さ)付きのTINで表示している。
【0056】
点群データScan1は、計測基準面となる三角形から成るTINを作成するための基準点群データである。この基準点群データは「比較元点群データ」とも称される場合がある。一方、点群データScan2は、面変位方向の終点となる比較測点から成る比較対象点群データである。なお、比較対象点群データは、点群データScan2の他、点群データScan3,・・・,Scan9も比較対象点群データである。
【0057】
「比較元点群データ」と「比較対象点群データ」との間の面変位(離れの向き、大きさ)の計測結果の表示について、離れの向きに応じた色彩がTINを構成する三角形面に付されるようになっている。なお、その色彩の濃さは、離れの大きさ(絶対値)に応じて比例するように構成されている。
【0058】
面変位(離れの向き、大きさ)の計測結果の表示については、上記「TIN」の他、TINを構成する三角形の辺に対し色情報(色彩とその濃さ)を付した「ワイヤーフレーム」として表示することも可能である。或いは、比較元点群データ中の測点に対し色情報(色彩とその濃さ)を付した「点群」、左記「点群」に被測定対象物の写真を合成した「点群写真合成」として表示することも可能である。
【0059】
また、面変位(離れの向き、大きさ)計測の基準となる基準点群データ(比較元点群データ)を登録する「比較元登録」機能、比較元点群データと比較される比較対象点群データを選択する「比較対象選択」機能、比較対象点群データが変更された場合に比較元点群データと比較対象点群データとの間の面変位(離れの向き、大きさ)を算出する「再分析」機能等を備えている。
【0060】
また、比較元(三角形)と比較対象(比較測点)との間の面変位(離れの向き、大きさ)に応じて、TINを構成する三角形面に付けられる色彩については、三角形と比較測点との離れがゼロの場合、三角形面の色彩は例えば緑色(Green)となる。一方、比較測点が三角形の上方に位置している場合は、例えば赤色(Red)となる。他方、比較測点が三角形の下方に位置している場合は、例えば青色(Blue)となる。
【0061】
赤色(Red)の濃さについては、緑色(Green)から赤色(Red)にかけて複数の階調(例えば10階調)で表示されている。他方、青色(Blue)の濃さについては、緑色(Green)から青色(Blue)にかけて複数の階調(例えば10階調)で表示されている。
【0062】
このように、オペレータがこのモニタ画面3aを見ることにより、被測定対象面50aについての面変位の方向と大きさを瞬時にオペレータが把握することができる。
【0063】
図4は、3次元面変位計測システム100による面変位の計測プロセスの一例を示すフロー図である。
先ずステップS1として、測量機1は後方交会法により器械点(IP)の位置を特定する。後方交会法とは、座標の分かっている点(既知点)を2つ使用して器械点(IP)を逆算する手法である。測量機1は電源がオンになると2つの既知点を自動的に視準し、後方交会法により器械点(IP)の位置を特定する。これにより、前回と同じ座標系で法面50の被測定対象面50aを3Dレーザースキャンすることが可能となる。
【0064】
ステップS2として、測量機1はスキャン範囲及びスキャン精度を読み込む。スキャン範囲(被測定対象面50a)及びスキャン精度についてはオペレータが事前に設定することになる。
【0065】
ステップS3として、測量機1は3Dレーザースキャン機能を開始する。測量機1はオペレータによって予め設定された時刻になると直ちに、被測定対象面50aについて3Dレーザースキャン機能を自動的に開始する。
【0066】
ステップS4として、測量機1は3Dレーザースキャン機能を停止する。測量機1はオペレータによって予め設定された時間が経過した後に3Dレーザースキャン機能を自動的に停止する。
【0067】
ステップS5として、測量機1は3Dレーザースキャン機能によって取得した被測定対象面50aについての点群データをデータ処理装置3に送信する。測量機1は例えば自身のWi-Fi機能を使用して、3Dレーザースキャン機能によって取得した点群データをデータ処理装置3に送信する。データ処理装置3は受信した点群データを自身の記憶部、或いはクラウドサーバーに保存する。
【0068】
ステップS6として、データ処理装置3は点群データを直交座標(x、y、z)に変換する。点群データの各測点は(直線距離S、水平角度θ、鉛直角度φ)という距離・角度情報(S、θ、φ)を有している。そのため、距離・角度情報(S、θ、φ)から直交座標(x、y、z)への変換は、下記の数1から数3に基づいて行われる。なお、比較元と比較対象との間の面変位(離れの方向、大きさ)の計測は、この直交座標(x、y、z)を基に行われる。
(数1)
x=HD×cosθ=S×sinφ×cosθ
(数2)
y=HD×sinθ=S×sinφ×sinθ
(数3)
z=S×cosφ
【0069】
ステップS7として、データ処理装置3は点群データ内からノイズを含む異常データを除去する。比較元点群データ内の各測点に対する異常データの判定は、例えば、点群データからTINを作成したときの三角形の一辺の長さが所定の距離(閾値)以上となる測点については異常データとしてTINの三角形ごと除去することが可能である。
【0070】
他方、比較対象点群データ内の各測点に対する異常データの判定は、例えば、比較元三角形からの離れの絶対値(図7(d)のd_k)が所定の距離(閾値)以上となる測点については異常データとして除去し、TINを再構築することが可能である。
【0071】
ステップS8として、データ処理装置3は、異常データを除去した点群データから被測定対象面50aについての面変位(離れの方向、大きさ)を計測する。被測定対象面50aについての面変位(離れの方向、大きさ)の計測は、比較対象点群データ(例えば図3に記載のScan2)の各測点と、比較元点群データ(例えば図3に記載のScan1)から作成される比較元TINの三角形面との間の位置関係と距離に基づいて行われる。比較元TINを使用した被測定対象面50aについての面変位(離れの方向、大きさ)の計測については図5図8を参照しながら後述する。
【0072】
図5は、3次元面変位計測システム100による比較元TINを使用した被測定対象面50aについての面変位(離れの方向、大きさ)の計測プロセスの一例を示す説明図である。
【0073】
先ずステップST0として、データ処理装置3は、3次元面変位計測方向を規定する基準傾斜SSを設定する。図6に示されるように、基準傾斜SSは例えば被測定対象面50a近傍の3つの反射プリズム2の測点(座標点)M1,M2,M3又はノンプリズムによる3つの測点(座標点)M1,M2,M3を取得することによって設定される。すなわち、基準傾斜SSは、測点M1と測点M2を結んだ直線(回転軸RA)と、測点M3を通り回転軸RAに直交する直交線(回転軸直交線OA)によって張られる(回転軸RAと回転軸直交線OAを基底ベクトルに持つ)傾斜平面である。従って、基準傾斜SSは、水平面に対し「回転軸RAに係る傾斜角度」と「回転軸直交線OAに係る傾斜角度」の2つの傾斜角度を有している。なお、以降において水平面に対する「回転軸直交線OAに係る傾斜角度」を「基準傾斜SSの第1傾斜角度」と、水平面に対する「回転軸RAに係る傾斜角度」を「基準傾斜SSの第2傾斜角度」とそれぞれ記載することにする。
【0074】
次にステップST1として、データ処理装置3は、比較元となる比較元点群データ(基準点群データ)を選定する。比較元点群データについては、例えば第1回目の3Dレーザースキャン機能によって取得された点群データ(図3に記載のScan1)を選定することができる。
【0075】
次にステップST2として、データ処理装置3は、点群データ全体を回転させる回転軸を決定する。図6に示されるように、基準傾斜SSの設定の為に取得した測点M1,M2,M3の内から、三角形M1-M2-M3の底辺を形成する2つの測点M1,M2を選定し、2つの測点M1,M2を結んだ直線を回転軸とすることができる。なお、この回転軸RAは比較対象点群データ全体を回転させるときの回転軸にも成る。
【0076】
次にステップST3として、データ処理装置3は、比較元点群データ全体を回転軸RAの回りに回転させる。なお、回転角度については、被回転対象として選定された1つの測点M3(図6)のZ座標(標高)が、その測点M3から回転軸RAに下ろした交点PIのZ座標(標高)に等しくなるときの回転角度である。この回転角度は、測点M3と交点PIを結ぶ回転軸直交線OAと水平面との成す角度に等しくなる。つまり、この回転角度は基準傾斜SSの第1傾斜角度に等しくなる。また、回転軸RAの回りに上記回転角度だけ回転させた後の比較元点群データを、特に「回転後の比較元点群データ」ということにする。
【0077】
なお、回転後の比較元点群データにおいて、回転軸直交線OA上に存在する全ての測点のZ座標は等しいと近似することができる。同様に、回転軸直交線OAに平行な直線PL上に存在する全ての測点のZ座標は等しいと近似することができる。従って、いま回転軸RAの傾斜(基準傾斜SSの第2傾斜角度)がゼロになるように、回転後の比較元点群データの全体をある回転軸の回りに回転させる場合、全ての測点のZ座標は等しいと近似することができる。
【0078】
次にステップST4として、データ処理装置3は、回転後の比較元点群データからTINを作成する。TINは、公知の三角形分割、例えばドロネー三角形を使用して作成することができる。図7(a)に示されるように、データ処理装置3は、回転後の比較元点群データ(白丸)から作成したTIN(以下「比較元TIN」という。)を、被測定対象面50aの面変位(離れの方向、大きさ)の計測に係る計測基準面として保存する。図7(a)の場合、14個の三角形(以下「比較元三角形」という。)が面変位(離れの方向、大きさ)の計測に係る計測基準面として保存されることになる。
【0079】
次にステップST5として、データ処理装置3は、比較対象となる比較対象点群データを読み込む。データ処理装置3は第2回目以降の3Dレーザースキャン機能によって取得された点群データ(図3に記載のScan2、Scan3、・・・Scan9)を時系列の順に逐次読み込む。
【0080】
次にステップST6として、比較対象点群データを回転軸RAの回りに回転させる。回転角度は、上記ステップST3において比較元点群データを回転させたときの回転角度(基準傾斜SSの第1傾斜角度)と同じ回転角度である。また、回転軸RAの回りに上記回転角度だけ回転させた後の比較対象点群データを、特に「回転後の比較対象点群データ」ということにする。また、回転後の比較対象点群データを構成する各測点を、「比較測点」ということにする。
【0081】
なお、回転後の比較対象点群データにおいて、回転軸直交線OA上に存在する全ての比較測点のZ座標は等しいと近似することができる。同様に、回転軸直交線OAに平行な直線PL上に存在する全ての比較測点のZ座標は等しいと近似することができる。従って、いま回転軸RAの傾斜(基準傾斜SSの第2傾斜角度)がゼロになるように、回転後の比較対象点群データの全体をある回転軸の回りに回転させる場合、全ての比較測点のZ座標は等しいと近似することができる。
【0082】
次にステップST7として、比較測点についての面変位の計測基準面となる比較元三角形を決定する。図7(b)に示されるように、各比較測点と比較元TINを同一平面に投影した際に、比較測点を囲む三角形が基準となる比較元三角形となる。図7(c)に示されるように、1つの比較測点p_kについては、対応する比較元三角形T_jが一意的に定まることになる。これとは逆に、1つの比較元三角形T_jについては1つの比較測点p_kが対応するとは限らず、場合によっては1つの比較元三角形T_jについて複数の比較測点が対応すること、或いは対応する比較測点が存在しないことも有り得る。
【0083】
次にステップST8として、比較測点p_kと比較元三角形T_jとの間の離れ(面変位)を算出する。図7(d)に示されるように、「離れ」は、比較測点p_kと、その比較測点p_kから回転後の基準傾斜SS’に下ろした垂線V_kが比較元三角形T_jと交わる交点q_kとの間の距離d_kと、比較元三角形T_jとの上下位置関係によって規定される。この離れの算出プロセスについては図8を参照しながら後述する。また、「回転後の基準傾斜SS’」とは、基準傾斜SSを回転軸RAの回りに「基準傾斜SSの第1傾斜角度」だけ回転させた後の基準傾斜を意味している。従って、「回転後の基準傾斜SS’」は「回転軸RA」と「回転後の回転軸直交線OA’」とによって張られる傾斜平面となる。また、回転後の回転軸直交線OA’とは、回転軸直交線OAを回転軸RAの回りに「基準傾斜SSの第1傾斜角度」だけ回転させた後の直線を意味している。
【0084】
図8は、比較測点p_kと比較元三角形T_jとの間の離れd_kを算出するための算出プロセスを示す説明図である。
【0085】
図8(a)に示されるように、比較測点p_kの座標は既知であるため、交点q_kの座標が分ければ、比較測点p_kと比較元三角形T_jとの間の離れd_k(大きさと向き)が求まることになる。なお、比較元三角形T_jの3つの頂点a,b,cは、回転後の比較元点群データに属する測点であり、各座標は既知である。
【0086】
再び図6に戻って、回転後の比較元点群データは、比較元点群データの全体を回転軸RAの回りに、測点M3のZ座標(標高)が回転軸RAに下ろした交点PIのZ座標(標高)に等しくなるように回転させた後の点群データである。つまり、この回転処理(図5のステップST3)は、回転軸直交線OAと平行な任意の直線PL上に存在する全ての測点の標高差をなくす処理とみなすことができる。従って、いま基準傾斜SSの第2傾斜角度(回転軸RAの水平面に対する傾斜角度)をゼロにする場合、比較元三角形T_jの3つの頂点a,b,cの各Z座標は全て同一水平面上に存在すると近似することができる。
【0087】
図8(b)に示されるように、いま基準傾斜SSの第2傾斜角度(回転軸RAの水平面に対する傾斜角度)をゼロにするように、回転後の比較元点群データ全体および比較対象点群データ全体をある軸の回り、例えば回転後の回転軸直交線OA’の回りに回転させる場合、垂線V_kはZ軸方向(鉛直方向)に対し平行になると共に、比較元三角形T_jは水平面上に存在すると近似することができる。なお、回転後の回転軸RA’とは、回転軸RAを「回転後の回転軸直交線OA’」の回りに「基準傾斜SSの第2傾斜角度」だけ回転させた後の直線を意味している。
【0088】
このように、基準傾斜SSの第2傾斜角度(回転軸RAの水平面に対する傾斜角度)をゼロにする場合、比較測点p_k’と交点q_k’との間の距離はd_kのままであり不変である。この場合、比較測点p_k’のxy座標=交点q_k’のxy座標となる。従って、比較測点p_k’のZ座標(標高)と交点q_k’のZ座標(標高)を比較して、比較測点p_k’と比較元三角形T_j’との間の離れd_k(大きさと向き)が求まることになる。
【0089】
図9は、比較測点p_k’と比較元三角形T_jとの間の離れd_kに応じた色情報(色彩、色彩の濃さ)が付加された色情報付き比較測点p_k’_RED,p_k’_BLUEを示す説明図である。
図9(a)に示されるように、比較測点p_k’が比較元三角形T_j’よりも上方に位置している場合、すなわち、比較測点p_k’のZ座標が交点q_k’のZ座標よりも大きい場合、比較測点p_k’は赤色の色情報が付される。赤色の濃さについては、離れd_kの絶対値に応じて決定されることになる。
【0090】
一方、図9(b)に示されるように、比較測点p_k’が比較元三角形T_j’よりも下方に位置している場合、すなわち、比較測点p_k’のZ座標が交点q_k’のZ座標よりも小さい場合、比較測点p_k’は青色の色情報が付される。青色の濃さについては、離れd_kの絶対値に応じて決定されることになる。
【0091】
再び図5に戻って、ステップST9として比較対象三角形T2_k’の内部に色情報を付加する。なお、「比較対象三角形T2_k’」とは、色情報が付加された比較対象点群データ(比較測点p_k’)から作成されたTINの1つの三角形平面である。
【0092】
図10に示されるように、いま比較対象三角形T2_k’の一の頂点は青色であり、残りの2つの頂点は赤色とする。この場合、比較対象三角形T2_k’の内部は青色から赤色へのグラデーションによって表示されることになる。つまり一つのTIN三角形内はグラデーションとなり、複数の色調が存在する事となる。
【0093】
以上の通り、本発明の3次元面変位計測システム100によれば、3次元レーザースキャン機能によって取得された被測定対象面50aに係る複数組の点群データから被測定対象面50aの3次元面変位(大きさと向き)を精度良く自動的に計測しリアルタイムに表示することが可能となる。
【0094】
特に、面変位計測方向を規定する基準傾斜SSについては、点群データ以外の3つの測点M1,M2,M3を基に設定されている。すなわち、基準傾斜SSは、三角形M1-M2-M3の底辺を形成する測点M1と測点M2を直線で結んだ「点群データ全体を回転させるための回転軸RA」と、三角形M1-M2-M3の頂点を形成する測点M3から回転軸RAに下ろした垂線に相当する「回転軸直交線OA」とによって規定される傾斜平面として設定されている。従って、基準傾斜SSは水平面に対し「回転軸直交線OAに係る第1傾斜角度」と、「回転軸RAに係る第2傾斜角度」を有することになる。
【0095】
そして、比較元点群データについては、回転軸RAの回りに「基準傾斜SSの第1傾斜角度」だけ回転させ、その「回転後の比較元点群データ」について比較元TINを作成することにより、3次元レーザースキャン機能による面変位計測に係る計測基準面を設定することが可能となる。
【0096】
一方、比較対象となる比較対象点群データについては、同じ基準傾斜SSの第1傾斜角度で回転軸RAの回りに回転させ、回転後の比較対象点群データ内の各比較測点p_kに対し、面変位の計測基準面となる比較元三角形T_jを決定することとしている。これにより、被測定対象面50aの面変位(面と面との離れ)の計測を、点(比較測点p_k)と面(比較元三角形T_j)との離れd_kの計測に単純化することができるようになる。
【0097】
更に、基準傾斜SSの第2傾斜角度がゼロになるように、回転後の比較元点群データと比較対象点群データの全体を回転させることにより、点と面との間の離れd_kの計測を2点間の標高差(Z座標の差)の計測に、より単純化させることができるようになる。
【0098】
また、比較測点p_k’と交点q_k’との間のZ座標の差の負号(マイナス、プラス)に応じて、比較測点p_k’に色彩を付加すると共に、色彩が付加された比較対象点群データ(比較測点p_k’)から作成される比較対象三角形T2_k’の内部については、一の頂点の色彩から他の頂点の異なる色彩へ所定の階調で変化するグラデーションによって表示させることとしている。これにより、被測定対象面50aについての面変位の計測結果を瞬時に把握することができるようになる。
【0099】
また、測量機1が反射プリズム2を視準して得られた被測定対象面50aの面変位の大きさが閾値を超えた場合、警報機能4が警報を発することとしている。これにより、3次元レーザースキャン機能によっては検知することが難しい不測の面変位を検知することが可能となる。また、警報機能4によって、事前に周囲の人間に危険が迫っていることを覚知させることが可能となる。
【0100】
また、3次元レーザースキャン機能によって取得された被測定対象面50aに係る複数組の点群データについては、事前にノイズを含む異常データを除去することとしている。除去方法については、例えばTINを構成する三角形の一辺の長さが所定の長さ以上の場合は、そのTINを構成する三角形自体を除去することとしている。或いは、比較測点p_kの比較元三角形T_jからの離れd_kの大きさが、所定の閾値を超える場合は異常データとして除去し、TINを再構築することとしている。このように、点群データから異常データを除去することにより、被測定対象面50aに係る3次元レーザースキャン機能による面変位計測の精度が向上するようになる。
【0101】
また、データ処理装置3は、計測値が異常であると判定するとき、アラーム信号を携帯電話会社が提供する無線通信網60を経由してサーバー70へ送信し、アラーム信号を受信したサーバー70は、所定の管理者にその旨の電子メールを送信するように構成されている。これにより、被測定対象面50aについての無人監視が可能になると共に、予兆の段階で人的・物的災害の発生を未然に防止することが可能となる。
【0102】
以上の通り、図面を参照しながら本発明の3次元面変位計測システム100について説明してきたが、本発明は上記だけに限定されることはない。すなわち、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において種々の修正・変更・追加等を行うことが可能である。例えば、3次元レーザースキャン機能によって取得された比較元点群データ及び比較対象点群データについては、「基準傾斜SSの第1傾斜角度」の回転処理と「基準傾斜SSの第2傾斜角度」の回転処理を、例えば図5のステップST3において一括して行うことも可能である。
【0103】
また、基準傾斜SSを設定するための3つの測点M1,M2,M3については、ノンプリズム計測による3つの測点M1,M2,M3を使用しても良い。また、回転軸RAについては水平面に平行に設定しても良い。
【0104】
(第2実施形態)
図11は、本発明の第2実施形態に係る3次元面変位計測システムの指定断面表示機能のうち色情報付きTIN上の2点指定を示す説明図である。
図11に示されるように、データ処理装置3のモニタ画面3aに表示された色情報付きTINにおいて、例えば任意の2点P1,P2をユーザがカーソル等によって指定して画面下の「指定断面」の仮想ボタンを押すことによって、図12に示される指定区間に係るTINの断面(以下「指定断面」ともいう。)が表示されることになる。なお、説明の都合上、比較元点群データはScan1とし、比較対象点群データはScan2としている。また、2点P1,P2の指定は、座標を直接入力して行うことも可能である。
【0105】
図12は、本発明に係る指定断面を示す説明図である。この指定断面は、2点P1,P2を通りXY平面に垂直な平面による「色情報付きTIN」の切断面であって、2点P1,P2を端点とする切断面である。一点鎖線は比較元点群データ(Scan1)を表し、実線は比較対象点群データ(Scan2)を表している。
【0106】
また、縦線部分は、比較対象点群データ(Scan2)が比較元点群データ(Scan1)に対し上方に位置している「隆起部」を表している。横線部分は、比較対象点群データ(Scan2)が比較元点群データ(Scan1)に対し下方に位置している「沈下部」を表している。斜線部分は指定区間に係るTINの内部を表している。
【0107】
ここでは、「隆起部」には赤色が付され、「沈下部」には青色が付され、指定区間に係るTINの内部には緑色が付されている。これにより、被測定対象面の表面における変位が一目で把握することができるようになる。また、カーソルを当てることにより、該当箇所における定量的な変位量Δh1,Δh2が表示されるようになっている。更には変位量について隆起に対しては「+」(プラス)、沈下に対しては「-」(マイナス)が付いているため、該当箇所の変位が隆起部か沈下部の何れであるかを間違えることがなくなる。
【0108】
図13は、本発明の第2実施形態に係る3次元面変位計測システム100の指定体積表示機能を示す説明図である。
図13に示されるように、データ処理装置3のモニタ画面3aに表示された色情報付きTINにおいて、例えば任意の6点P1,P2,・・・,P6をユーザがカーソル等によって指定して画面下の「指定体積」の仮想ボタンを押すことによって、データ処理装置3は指定区間に係るTINの内部の体積(以下「指定体積」ともいう。)を計算し、計算結果を表示する。計算結果については、例えば小ウィンドウがポップアップ表示され、小ウィンドウに計算結果が表示されることになる。小ウィンドウに表示される計算結果については、例えば指定体積に加えて指定体積の土量が表示されることになる。
【0109】
なお、本実施形態における「指定体積」とは、正確には、点P1と点P2を通りXY平面に垂直な第1平面(図示せず)と、点P2と点P3を通りXY平面に垂直な第2平面(図示せず)と、点P3と点P4を通りXY平面に垂直な第3平面(図示せず)と、点P4と点P5を通りXY平面に垂直な第4平面(図示せず)と、点P5と点P6を通りXY平面に垂直な第5平面(図示せず)と、点P6と点P1を通りXY平面に垂直な第6平面(図示せず)とによって囲まれた「色情報付きTIN」の内部領域を意味している。
【0110】
また、任意の点を指定することによって得られた指定体積の土量計算については、ある標高(指定部分最低標高、もしくは手入力)において基準面を設定し、その基準面より上方の体積について土量計算を実施することも可能である。なお、土量は公知の平均断面法により計算し、場合によっては密度についての係数を入力することが可能とする。
【0111】
また、画面下の「設定」の仮想ボタンを押すことにより、指定体積の土量計算についての詳細な設定を行うことができる。例えば図12に示される「隆起部」又は「沈下部」の各体積及び土量についても計算し、計算結果を指定体積の体積及び土量と一緒に、或いは別個独立にモニタ画面3aに表示するようにすることも可能である。
【0112】
図14は、本発明に係る3次元面変位計測システム100の警報処理機能を示す概念図である。
上述した通り、色情報付きTINでは、「比較元点群データ」(比較元三角形T_j)と「比較対象点群データ」(比較測点p_k)との間の面変位(離れの向き、大きさd_k)の計算結果に基づいて、比較測点p_kに色彩を付加している。その色彩は、比較測点p_kが比較元三角形T_jの上方に位置する場合は赤色で、その濃さは比較測点p_kと比較元三角形T_jとの間の離れd_kの大きさに基づいて決定している。
【0113】
このように、比較測点p_kが比較元三角形T_jの上方に位置する場合は、その地点は隆起していると見なすことが可能であり、面変位の大きさd_kは隆起量と見なすことが可能である。その逆に、比較測点p_kが比較元三角形T_jの下方に位置する場合は、その地点は沈下していると見なすことが可能であり、面変位の大きさd_kは沈下量と見なすことが可能である。
【0114】
つまり、ある時刻の監視エリア内(円形範囲内Ci)の隆起量と沈下量については、その時刻の「円形範囲内Ciにおける面変位の点群データ集合Di」として一まとめにして円形範囲内Ci毎にデータ処理(検査)することとし、そのデータ処理結果(検査結果)に基づいてある時刻の監視エリア内(円形範囲内Ci)の面変位が異常か否かを判定することができる。例えば、ある時刻に取得された円形範囲内Ciの比較対象点群データ(Scan2~)については、比較元点群データ(Scan1)に対する面変位(±d_k)を計算し、その計算結果をその時刻の「円形範囲内Ciにおける面変位の点群データ集合Di」として一まとめにしてデータ処理する。そして、データ処理結果を予め定められた閾値によって検査することによって、円形範囲内Ciの面変位が異常か否かを判定する。異常と判定された円形範囲内Ciについては警報を発報する。以下、この警報処理機能について詳細に説明する。
【0115】
図14(a)に示されるように、先ずユーザは監視エリア(点線矩形部)内に検査中心ポイントP1,・・・,P12を設定する。この検査中心ポイントは、円形範囲内C1,・・・,C12の中心となる。
【0116】
次に、図14(b)に示されるように、データ処理装置3は監視エリア(点線矩形部)内に各円形範囲内C1,・・・,C12をそれぞれ設定する。なお、データ処理装置3は、各円形範囲内C1,・・・,C12が監視エリア(点線矩形部)を網羅するように各半径を設定する。
【0117】
また、ある時刻の各円形範囲内C1,・・・,C12における面変位(隆起量と沈下量)については、その時刻の「比較元点群データ(Scan1)と比較対象点群データ(Scan2~)との間の面変位(±d_k)の点群データ集合Di」として一まとめにして円形範囲内Ci毎にデータ処理(検査)されるようになっている。そして、そのデータ処理結果(検査結果)は、予め定められた閾値によって異常か否かを判定されるようになっている。
【0118】
なお、詳細については図15及び図16を参照しながら後述するが、円形範囲内Ciにおける面変位の点群データ集合Diの検査項目については、その点群データ集合Diの中央値Mi、平均値Ai、及び標準偏差σiを検査項目としている。さらに、これらの検査結果が異常か否かを判定する各閾値については、初期面変位の点群データ集合Di’の中央値Mi’、平均値Ai’及び標準偏差σi’からのプラス・マイナス(±)の振幅ΔMi,ΔAi,Δσiによって規定されている。なお、初期面変位とは、「Scan1の比較元点群データ」と「Scan2の比較対象点群データ」との間の面変位(隆起量、沈下量)を意味している。
【0119】
次に、図14(c)に示されるように、ある時刻の円形範囲内Ciにおける面変位(その時刻の「円形範囲内Ciにおける面変位の点群データ集合Di」)を予め定められた閾値によって異常か否かを判定した結果、例えばある時刻の円形範囲内C7の面変位(その時刻の「円形範囲内C7における面変位の点群データ集合D7」)について異常が検出された場合、モニタ画面上に円形範囲内C7における面変位については異常であることと警報が発報された旨が表示されることになる。
【0120】
次に、図14(d)に示されるように、警報が発報されると共に、円形範囲内C7における面変位は異常である旨の電子メールが施工主を含む全担当者に送信されることになる。以下、ある時刻の各円形範囲内C1,・・・,C12における面変位(隆起量および沈下量)の検査項目とその閾値について説明する。
【0121】
図15は、各円形範囲内C1,・・・,C12における面変位(隆起量と沈下量)の検査項目とその閾値を示す説明図である。
ある時刻の円形範囲内Ciにおける面変位(隆起量と沈下量)については、その時刻の「円形範囲内Ciにおける面変位の点群データ集合Di」(以下、「面変位の点群データ集合Di」という。)として一つにまとめられてデータ処理(検査)される。面変位の点群データ集合Diの検査項目としては、中央値、平均値、および標準偏差を選択することが可能である。
【0122】
図14(e)に戻って、面変位の点群データ集合Diの中間値Miとは、例えばある時刻の面変位の点群データ集合Di内に1000個のデータが存在する場合、1000個のデータを大きさの順に並べた時の中間に位置するデータの値となる。今の場合、データの個数は偶数であるから、中間に位置するデータの個数は2個存在する。中間値Miはこれら2個のデータ値の平均値となる。
【0123】
面変位の点群データ集合Diの平均値Aiとは、1000個のデータ値の総和(=d_i1+・・・+d_i1000)を1000で除した値である。同じく標準偏差σiとは、「各データ値d_ijと平均値Aiとの差の2乗」を全てのデータについて合算し、その合算値を1000で除した値の平方根に等しくなる。
【0124】
各検査項目についての閾値は、初期面変位からのプラス・マイナスの振幅によって規定されている。振幅がプラス側に最大となるときに閾値は上限値を取り、振幅がマイナス側に最大となるときに閾値は下限値を取る。なお、ここで言う「初期面変位」とは、比較元点群データ(Scan1)と時系列が一番古い「比較対象点群データ」(Scan2)との間の面変位(隆起量、沈下量)の点群データ集合についての中央値、平均値および標準偏差を意味している。
【0125】
各閾値は、初期値と「プラス・マイナス(±)の振幅」によって規定されている。ここで言う「初期値」とは、「Scan1の比較元点群データ」と「Scan2の比較対象点群データ」との間の初期面変位(隆起量、沈下量)の点群データ集合Di’の中央値Mi’、平均値Ai’及び標準偏差σi’を意味している。
【0126】
振幅の大きさは、例えばレベル0からレベル9の10段階に調整可能に構成されている。例えば、レベル0での中央値Miの閾値の上限は”Mi’+ΔM”に、閾値の下限は”Mi’-ΔM”に設定されることになる。振幅の大きさはレベル0からレベル9に進むにつれて大きくなるように設定されている。
【0127】
また、レベル0とは、中央値Miが閾値(Mi’±ΔM)を逸脱した場合、警報は発報されない通常の状態を意味している。レベル1とは、中央値Miが閾値(Mi’±ΔM)を逸脱した場合、緑ランプのみが点滅しメールは発信されない軽微な警報の状態を意味している。レベル2とは、中央値Miが閾値(Mi’±ΔM)を逸脱した場合、緑ランプのみが点滅し、メールは一部の担当のみに発信される軽微な警報の状態を意味している。レベル9とは、中央値Miが閾値(Mi’±ΔM)を逸脱した場合、赤ランプ(パトライト(登録商標))が点滅しメールは施工主を含む全担当者に発信される重大な警報の状態を意味している。
【0128】
因みに、図15では、面変位の点群データ集合Diの検査項目(中央値Mi、平均値Ai、標準偏差σi)についての閾値レベルとして、レベル9が選択されている。従って、中央値Mi、平均値Ai、標準偏差σiのうちの何れか1つでも閾値を逸脱した場合は、異常と判定され、赤ランプ(パトライト(登録商標))が点滅しメールは施工主を含む全担当者に発信されることになる。
【0129】
図16は、ある時刻の各円形範囲内C1,・・・,C12における面変位(隆起量と沈下量)の各検査項目についての検査結果を示す説明図である。なお、ここで言う「時刻」とは、Scan3の比較対象点群データを取得した時刻を意味している。
【0130】
従って、この検査結果は、Scan3の比較対象点群データを取得した時刻における、各円形範囲内C1,・・・,C12における面変位(隆起量、沈下量)の点群データ集合D1,・・・,D12の各中央値M1,・・・,M12i、各平均値A1,・・・,A12および標準偏差σ1,・・・,σ12を各閾値によって異常か否かを判定した結果を示している。
【0131】
各閾値は、各円形範囲内C1,・・・,C12における初期面変位(隆起量、沈下量)の点群データ集合D1’,・・・,D12’の各中央値M1’,・・・,M12’平均値A1’,・・・,A12’標準偏差σ1,・・・,σ12’からのプラス・マイナスの振幅となる。従って、例えばレベル9の中央値の閾値は、M1’±ΔM,・・・,M12’±ΔMとなる。
【0132】
同様に、レベル9の平均値の閾値は、A1’±ΔA,・・・,A12’±ΔAとなる。同様に、レベル9の標準偏差の閾値は、σ1’±Δσ,・・・,σ12’±Δσとなる。
【0133】
図16は、Scan3の比較対象点群データを取得した時刻における円形範囲内C7における面変位の点群データ集合D7の標準偏差σ7が異常であることを示している。従って、円形範囲内C7の面変位は異常と判定され、赤ランプ(パトライト(登録商標))が点滅しメールは施工主を含む全担当者に発信されることになる。
【0134】
図17は、本発明の第2実施形態に係る3次元面変位計測システム100の警報処理機能のうち色情報付きTIN上で円形範囲内C7における面変位が異常であることと警報が発報された旨の表示を示す説明図である。
【0135】
図17に示されるように、色情報付きTIN上で円形範囲内C7における面変位(隆起量、沈下量)が異常であることと警報が発報された旨のメッセージがモニタ画面3a上に表示される。更には同内容の電子メールが施工主を含む全担当者に送信されることになる。またパトライト(登録商標)を点灯させて監視エリア近傍の住人に危険が迫っていることを知らせるようになっている。
【0136】
図18は、本発明の第2実施形態に係る3次元面変位計測システム100のスキャン結果連続表示動画作成処理機能を示す説明図である。なお、説明の都合上、ここでのスキャン結果は指定断面とする。
【0137】
このスキャン結果連続表示動画作成処理機能は、3次元面変位に係る分析結果(色情報付きTIN)を画像ファイルに変換し、この画像画像ファイルを複数枚セットにして動画として出力する機能である。これにより一定時間毎のスキャン結果だけでなく時間経過による変位観測も可能となる。
【0138】
図18では、データ処理装置3が時系列の一番古いScan1から一番新しいScan9迄の9枚の色情報付きTIN画像を、それぞれ画像ファイルに変換し、9枚の画像ファイルを時系列の順に連続出力することにより動画として出力している。
【0139】
従って、モニタ画面3aにはScan1から順に表示され最後にScan9が表示される。特に隆起部と沈下部においては時間経過による変位観測が可能となる。
【符号の説明】
【0140】
1 測量機
2 反射プリズム(ターゲット部)
3 データ処理装置(計算機)
3a モニタ画面
4 警報装置
50 法面
50a 被測定対象面
60 無線通信網(双方向電気通信回線網)
70 サーバー(コンピュータ)
100 3次元面変位計測システム
SS 基準傾斜
RA 回転軸
OA 回転軸直交線
d_k 離れ
p_k 比較測点
q_k 交点
T_j 比較元三角形
V_k 垂線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18