(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035115
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】機械式時計学的運動のスプリング式バランスアセンブリのバランススプリング
(51)【国際特許分類】
G04B 17/06 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
G04B17/06 Z
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023132275
(22)【出願日】2023-08-15
(31)【優先権主張番号】22192771.8
(32)【優先日】2022-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】591048416
【氏名又は名称】ウーテーアー・エス・アー・マニファクチュール・オロロジェール・スイス
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】クリスタン、 ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】クールボアジエ、 ラファエル
(57)【要約】 (修正有)
【課題】外側最終コイルをスタッドに確実に取り付けることができるバランススプリングを提供する。
【解決手段】バランススプリング1は、内側第一コイル2と呼ばれる第一自由端と、外側最終コイル6と呼ばれる第二自由端との間に延びる一連のコイルS1~Snによって形成され、コイルS1~Snは、バランススプリング1が自由状態にあるときに偏心して配置され、バランススプリング1の外側最終コイル6は、スタッドへの取り付けのための停止手段で終端し、バランススプリング1は、スプリング式バランスアセンブリ内に組み込まれた状態にあるときに、中心に置かれ、同心円状の螺旋であり、コイルS1~Snは、バランススプリング1が組み込まれた状態にあるときに同心円状に再配置され、バランススプリング1がスタッドに取り付けられることにより、バランススプリング1のコイルに弾性応力が生じ、停止手段はスタッド14に拘束されるように取付けられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械式時計学的運動のスプリング式バランスアセンブリのバランススプリング(1)であって、前記バランススプリング(1)は、内側第一コイル(2)と呼ばれる第一自由端と、外側最終コイル(6)と呼ばれる第二自由端との間に延びる一連のコイル(S1,...,Sn)によって形成され、前記コイル(S1,...,Sn)は、前記バランススプリング(1)が自由状態にあるときに偏心して配置され、前記バランススプリング(1)の前記外側最終コイル(6)は、スタッド(14)への取り付けのための停止手段で終端し、前記バランススプリング(1)は、前記内側第一コイル(2)によって天芯に取り付けられ、前記バランススプリング(1)が機械式時計学的運動に組み込まれたスプリング式バランスアセンブリ内に組み込まれた状態にあるときに前記外側最終コイル(6)によって前記スタッドに取り付けられ、前記コイル(S1,...,Sn)は、このバランススプリング(1)が組み込まれた状態にあるときに同心円状に再配置され、前記バランススプリング(1)が前記スタッド(14)に取り付けられることにより、前記バランススプリング(1)の前記コイルに弾性応力が生じ、その結果、前記停止手段は前記スタッド(14)に拘束されるように取り付けられる、バランススプリング(1)。
【請求項2】
前記停止手段は、フック(8)の形状を有する、請求項1に記載のバランススプリング。
【請求項3】
前記フック(8)は、T形状、L形状、U形状又はアンカー形状である、請求項2に記載のバランススプリング。
【請求項4】
前記バランススプリング(1)は、シリコンから作られる、請求項1に記載のバランススプリング。
【請求項5】
機械式時計学的運動のスプリング式バランスアセンブリのためのバランススプリング(1)及びスタッド(14)によって形成される時計学的アセンブリであって、前記バランススプリング(1)は、内側第一コイル(2)と呼ばれる第一自由端と、外側最終コイル(6)と呼ばれる第二自由端との間に延びる一連のコイル(S1,...,Sn)によって形成され、前記コイル(S1,...,Sn)は、前記バランススプリング(1)が自由状態にあるときに偏心して配置され、前記バランススプリング(1)の前記外側最終コイル(6)は停止手段で終端し、前記スタッド(14)は、前記停止手段を受ける凹部が作られるベース(16)を備え、このバランススプリング(1)が時計学的運動に組み込まれた前記スプリング式バランスアセンブリ内に組み込まれた状態にあるときに、前記コイルは同心円状に再配置され、前記バランススプリングが前記スタッドに取り付けられることにより、前記バランススプリング(1)のコイルに弾性応力が生じ、その結果、前記停止手段は前記スタッド(14)における前記凹部内に拘束されるように係合する、バランススプリング(1)及びスタッド(14)によって形成される時計学的アセンブリ。
【請求項6】
前記凹部は、前記ベース(16)の両側に延びる溝(18)によって形成され、この溝(18)は、前記溝(18)に対して横方向に前記スタッド(14)に作られるスロット(20)に通じている、請求項5に記載のバランススプリング(1)及びスタッド(14)によって形成される時計学的アセンブリ。
【請求項7】
少なくとも1つのノッチ(24)が前記溝(18)に対して平行に作られる、請求項5に記載のバランススプリング(1)及びスタッド(14)によって形成される時計学的アセンブリ。
【請求項8】
2つのノッチ(24)が前記溝(18)の両側に前記溝(18)に対して平行に作られる、請求項7に記載のバランススプリング(1)及びスタッド(14)によって形成される時計学的アセンブリ。
【請求項9】
前記凹部は、前記スタッド(14)の周壁に作られる1つ又は2つのノッチ(24)によって形成される、請求項5に記載のバランススプリング(1)及びスタッド(14)によって形成される時計学的アセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計学的運動のスプリング式バランスアセンブリのためのバランススプリングに関する。本発明は、バランススプリング及びスタッドを備える時計学的アセンブリにさらに関する。
【背景技術】
【0002】
時計学の分野では、バランスに関連するバランススプリングが、機械式時計のスプリング式バランスと一般的に呼ばれる調整部材を形成する。バランススプリングは、最初に、応力が加えられていないときに同心円状のコイルに巻かれた非常に薄いスプリングとして見られる。組み込み状態では、内側第一コイルと呼ばれるバランススプリングの第一端部が天芯に取り付けられたコレットに取り付けられ、外側最終コイルと呼ばれるバランススプリングの第二端部が、バランスブリッジのスタッドホルダによって通常取り付けられる部分であるスタッドに取り付けられる。
【0003】
より具体的には、振動システムとも呼ばれる機械式時計のタイムベースは、スプリング式バランスアセンブリ及び脱進機を備える。バランスは、第一軸受と第二軸受との間で枢動され、ラジアルアームによってバランスリムに接続された天芯からなる。バランススプリングは、その内側第一コイルによって、例えば、コレットによって天芯に取り付けられ、その外側最終コイルによって、スタッドホルダによって運ばれるスタッド等の固定された取り付け点に取り付けられる。
【0004】
脱進機は、その非常に広範な実施形態において、インパルスピンを運ぶテーブルローラ及びノッチが作られるセーフティローラからなる二重ローラシステムを備える。脱進機は、第一軸受と第二軸受との間で枢動するアンクル心棒を有するアンクルレバーをさらに備える。アンクルレバーは、フォークを入口アーム及び出口アームに接続するレバーからなる。フォークは入口ホーン及び出口ホーンからなり、その間にダーツが延びる。フォークの移動は入口ドテピン及び出口ドテピンによって制限され、これはアンクルブリッジと一体にすることができる。入口アーム及び出口アームは、それぞれ入口アンクル及び出口アンクルを運ぶ。最後に、アンクルレバーは、第一軸受と第二軸受との間で枢動するがんぎ車アーバを備えるがんぎ車と協働する。
【0005】
バランススプリングは、静止時に螺旋形状をとるスプリングである。時計学的運動の平面に平行な水平面に巻かれたバランススプリングは、1つの目的のみを果たす。すなわち、死点とも呼ばれる平衡の位置を中心に、できるだけ一定の周波数でバランスを振動させることである。バランスが所与の方向に枢動することにより平衡の位置を離れると、それはバランススプリングに張力をかける。これにより、バランススプリングに復元トルクが発生し、バランスを平衡の位置に戻す。このビートの間に、バランススプリングは拡張する。しかしながら、バランスが所定の速度、つまり運動エネルギーを獲得すると、それは以前とは逆の方向に平衡の位置を超え、これにより、バランスにかかる復元トルクがそれを再び停止して、それを別の方向に回転させるまで、バランススプリングに再び張力をかける。
【0006】
このようにバランススプリングは交互に拡張及び収縮する。これは呼吸と言われる。しかしながら、多くの要因が、拡張期と収縮期との間にバランススプリングが等時的に展開するのを防ぐ役割を果たし得る。特に、バランススプリングは酸化及び磁気に耐えなければならず、これらはコイルを互いにくっつかせ、時計を停止させてしまう。一方で、大気圧の影響は少ない。熱は金属を膨張させ、寒さは金属を収縮させるため、長い間、温度が主な問題となっている。したがって、バランススプリングは、変形しても常に元の形状に戻ることができるように、弾力性が必要である。
【0007】
バランススプリングの製造に使用される材料は、通常、鋼である。そのような鋼は延性があり、腐食に耐えなければならない。最近の開発は、シリコンからバランススプリングを生成することも提案している。シリコンバランススプリングは、特に磁気の感度が低いであるため、以前の鋼のものよりも正確である。しかしながら、費用が高く、壊れやすいため、組み立てがより困難である。
【0008】
バランススプリングは等時性でなければならない。バランススプリングがどの程度まで回転するかに関係なく、振動するのにかかる時間は常に同じでなければならない。バランススプリングが数度収縮するだけであれば、ほとんどエネルギーを蓄積せず、ゆっくりと平衡位置に戻る。バランススプリングが平衡位置から遠くに移動すると、非常に速く反対方向に移動する。重要なのは、この2つの旅程が完了するのに同じ時間がかかるということである。基本的な考え方は、バランススプリングが利用できるエネルギーは一定ではなく、時計が完全に巻かれていようと、蓄積パワーの最後の時間であろうと、依然として機能しなければならないということである。
【0009】
バランススプリングは寸法が小さいため、組み立てが困難である。しかしながら、バランススプリングの両端を取り付けるやり方も、時計学的運動の速度の精度に大きな影響を与える。ほとんどの機械式時計学的運動では、バランススプリングの両端はドリル加工された部品に挿入され、プライヤを使用して手動で強制的に組み立てられるピンによって固定される。これにより、バランススプリングがわずかに回転する可能性があり、運動速度の精度に悪影響を及ぼす。
【0010】
もう1つの手法は、接着剤を使用してバランススプリングの端部を取り付けることによる。しかしながら、この手法にも限界がある。その粘度のために、接着剤は毛細管作用によってバランススプリングに引張力を与え、スタッドの壁にバランススプリングの端部を押し付け、そこでこれらの端部が係合し得ることが観察されている。結果として生じるバランススプリングの変形は、そこに機械式応力を誘起し、この機械式応力は一定の速度を維持するのに悪影響を及ぼす。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、接着剤又はピンを使用することなく、またクランプ又は圧着等の作業を行うことなく、外側最終コイルをスタッドに確実に取り付けることができるバランススプリングを提供することにより、上記の問題点等を解決することを目的とする。
【0012】
この目的のために、本発明は、機械式時計学的運動のスプリング式バランスアセンブリのバランススプリングに関し、前記バランススプリングは、内側第一コイルと呼ばれる第一自由端と、外側最終コイルと呼ばれる第二自由端との間に延びる一連のコイルによって形成され、前記バランススプリングのコイルは、前記バランススプリングが自由状態にあるときに偏心して配置され、前記バランススプリングの前記外側最終コイルはスタッドへの取り付けのための停止手段で終端し、前記バランススプリングは、前記内側第一コイルによって天芯に取り付けられ、前記バランススプリングが機械式時計学的運動に組み込まれたスプリング式バランスアセンブリ内に組み込まれた状態にあるときに前記外側最終コイルによって前記スタッドに取り付けられ、前記コイルは、このバランススプリングが組み込まれた状態にあるときに同心円状に配置され、前記バランススプリングが前記スタッドに取り付けられることにより、前記バランススプリングのコイルに弾性応力が生じ、その結果、前記停止手段は前記スタッドに拘束されるように取り付けられる。
【0013】
本発明は、機械式時計学的運動のスプリング式バランスアセンブリのためのバランススプリング及びスタッドによって形成される時計学的アセンブリにさらに関し、前記バランススプリングは、内側第一コイルと呼ばれる第一自由端と、外側最終コイルと呼ばれる第二自由端との間に延びる一連のコイルによって形成され、前記バランススプリングのコイルは、前記バランススプリングが自由状態にあるときに偏心して配置され、前記バランススプリングの前記外側最終コイルは停止手段で終端し、前記スタッドは、前記停止手段を受ける凹部が作られるベースを含み、このバランススプリングが機械式時計学的運動に組み込まれた前記スプリング式バランスアセンブリ内に組み込まれた状態にあるときに、前記コイルは同心円状に再配置され、前記バランススプリングが前記スタッドに取り付けられることにより、前記バランススプリングのコイルに弾性応力が生じ、その結果、前記停止手段は前記スタッドにおける前記凹部内に拘束されるように係合する。
【0014】
本発明の特定の実施形態によれば、前記停止手段はフック状である。
【0015】
本発明の特定の実施形態によれば、前記フックは、T形状、L形状、U形状又はアンカー形状である。
【0016】
本発明の別の特定の実施形態によれば、前記バランススプリングは、例えば、シリコンウエハをプラズマアーク切断することにより、シリコンから作られる。
【0017】
これらの特徴のおかげで、本発明は、スタッド及びバランススプリングによって形成される時計学的アセンブリを提供し、その外側最終コイルをスタッドに確実に取り付けることができる。より具体的には、そのコイルが自由状態にあるときに互いに偏心して配置される位置から、その外側最終コイルの自由端がスタッドに取り付けられたときにそのコイルが中心に置かれる位置へのバランススプリングの移行によって、バランススプリングのコイルに弾性張力が印加され、その結果、停止手段がスタッド内に拘束された状態で係合する。本発明により、接着剤若しくはピンを必要とせず、又はクランプ若しくは圧着等の作業を必要とせずに、バランススプリングをスタッドに取り付けることができる。そのため、これは、バランススプリングがスタッドから外れて時計が停止する原因となり得る接着剤の経年劣化に関連する問題から保護する。同様に、本発明によるバランススプリングを取り付けるには、その外側最終コイルの自由端をスタッドに作られた凹部内に係合させるという簡単な作業のみを必要とする。これにより、組み立て作業を可能な限り回避して、組み立て及び製造時間を短縮し、それにより原価を低減することができる。同様に、組み立て作業を厳密に制限することにより、本発明によるバランススプリングを備えるスプリング式バランスアセンブリの機能に関して優れた再現性も保証される。したがって、本発明によるバランススプリングにより、バランススプリング1のコイルS1,...,Sn-1は、バランススプリング1が同心状態にあるときには偏心して配置され、バランススプリングがスプリング式バランスアセンブリ内に組み込まれた状態にあるときにはそれら自身を同心円状に再配置し、ここでこのスプリング式バランスアセンブリが静止状態にある。
【0018】
さらに、結果として生じる調整アセンブリの等時性品質を維持するために、バランススプリングの外側最終コイルの自由端が可能な限り少ない応力を発生させながらスタッドに取り付けられ得ることが常に保証されている従来技術に反して、本発明の場合には、停止手段が応力下でスタッドに取り付けられており、バランススプリングに機械式張力を引き起こすこの応力は、バランススプリングのコイルの同心円状再配置によって調整アセンブリのタイミング性能を同時に保証しつつ、バランススプリングの外側最終コイルがスタッドに固定されることを保証する。
本発明の他の特徴及び利点は、本発明に係るバランススプリングの一実施形態に関する以下の詳細な説明を読むことにより、よりよく理解されるであろう。この例は、説明のためにのみ提供され、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、添付図面を参照して与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係るバランススプリングの自由状態における上面図であり、コイルは偏心している。
【
図3A】その外側最終コイルによってスタッドに取り付けられたバランススプリングを示す斜視図である。
【
図5】
図5A及び
図5Bは、本発明によるバランススプリングの外側最終コイルの自由端に設けられた停止手段の異なる実施形態を示す。
【
図6】本発明によるバランススプリングの外側最終コイルの自由端に設けられた停止手段の異なる実施形態を示す。
【
図7】
図7A及び
図7Bは、本発明によるバランススプリングの外側最終コイルの自由端に設けられた停止手段の異なる実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、非組み込み状態において、重力以外の応力が加えられていないときに、2つの連続したコイルを次の2つのコイルから隔てる空間が、その内側第一コイルによって実現されるバランススプリングの中心からのコイルの距離が増加するのと同じにならないように、コイルが偏心しているバランススプリングを提供することからなる発明概念から引き出された。一方で、本発明によるバランススプリングは、外側最終コイルの自由端によってスタッドに取り付けられたときに、そのコイルが同心円状に延びるように、そのコイルが中心に置かれるように配置される。本発明の1つの利点によれば、そのコイルが偏心しているその自由状態から、それがスタッドに取り付けられている状態であって、そのコイルが中心に置かれている状態へのバランススプリングの移行によって、そのコイルに弾性張力がかかり、その結果、その外側最終コイルの自由端に設けられた停止手段が、スタッドに設けられた凹部内に捕まるように係合する。これにより、本発明によるバランススプリングは、接着剤又は特殊工具を使用することなく取り付けられる。そのため、この取り付けにより、従来のバランススプリングと比較して、より簡単かつ迅速な製造が可能になり、より信頼性が高くなる。さらに、本発明によるバランススプリングをスタッドに取り付ける作業は、停止手段をスタッドの凹部にスライドさせる以外には、実質的に組み立てを必要としないため、結果として生じたスプリング式バランスアセンブリの機能は、作業者の技能又はバランススプリングを取り付ける機械の正確な設定に依存することが少なく、より再現性が高い。
【0021】
本発明によるバランススプリングの1つの例示的な実施形態を
図1に示す。このバランススプリングは、全体として一般符号1で示されており、バランススプリング1の中心4に位置する内側第一コイル2と、バランススプリング1の外側に位置する外側最終コイル6との間に延びる複数のコイルS1,S2,...,Snを備える。
図1に示すように、バランススプリング1は、地球の重力以外の制約がない自由状態にある。この自由な状態では、バランススプリング1は、そのコイルS1,...,Snは偏心している静止状態にあり、すなわち、第二コイルS2と第三コイルS3との距離R2、3は、第一コイルS1と第二コイルS2との距離R1、2と同じではない。同様のことが、バランススプリング1の中心4からのコイルの距離が大きくなるにつれて、連続するコイルの各ペアの間で繰り返される。また、
図1は、外側最終コイル6が、バランススプリング1と一体に作られた停止手段で終わることを示している。この停止手段は、互いに垂直なフット10及びヘッド12を含むフック8、例えば、T字フックの形態をとる。図示の例では、フック8のフット10及びヘッド12の各々は、バランススプリング1のコイルS1,...,Snと同じ断面を有する棒材から形成される。特に、バランススプリング1がシリコンウエハから切断され、又はLIGAプロセスを用いた金属から作られる場合には、フック8は、バランススプリング1のコイルS1,...,Snと異なる断面を有し得ることは言うまでもない。フック8のスタッド14への最適な取り付けのために、フック8を構成する様々な要素の機械的剛性を適応させるために、フック8の断面を局所的に変化させることもできる。フック8は、T形状である場合、このフック8のヘッド12を形成する棒材がバランススプリング1の最後のコイルSnに実質的に平行に延びるように配置される。なお、フック8等の停止手段は、バランススプリング1の有効長に寄与しないことに留意されたい。
【0022】
図2Aは、本発明によるスタッドの斜視図である。このスタッドは、全体として一般符号14で示され、筒状の形態をとってもよいがこれに限定されない。スタッド14は、溝18等の凹部が形成されたベース16を備え、この凹部はベース16を端から端まで貫通している。この溝18は、溝18に対して横方向にスタッド14に形成されたスロット20に通じている。
【0023】
図3Aは、その外側最終コイル6を介してスタッド14に取り付けられたバランススプリング1を示す斜視図である。これを達成するために、フック8は、スタッド14の溝18にスライドさせられ、次に、そのヘッド12をスロット20の背面22に当てることにより固定される。本発明によれば、バランススプリング1がその内側第一コイル2によって天芯に取り付けられ、その外側最終コイル6によってスタッド14に取り付けられると、バランススプリング1は中心に置かれた位置をとり、ここでそのコイルS1,...,Snは同心円状に、好ましくは、互いに等距離に配置されるが、必ずしもその必要はない。バランススプリング1が、自由である場合に静止状態にある偏心位置からスタッド14に取り付けられた後の中心に置かれた位置に移動するという事実は、外側最終コイル6の自由端に弾性応力を生じさせ、その結果、停止手段がスタッド14のスロット20内で拘束されるように係合する。より具体的には、バランススプリング1がスタッド14に取り付けられた後の中心に置かれた位置にある場合に、コイルS1,...,Snは同心円であり、その結果生じる弾性力F1は、バランススプリングから半径方向外側に向けられ、フック8のヘッド12をスロット20の背面22に対して半径方向外側に押し出すように作用し、これにより組み込みが実質的に拘束される。実際には、停止手段がスタッド14から分離するためには、バランススプリング1の外側最終コイル6の自由端に力が加えられなければならず、その力は、フック8のヘッド12がスタッド14のスロット20から外れることを可能にするために、バランススプリング1の中心4に半径方向に向けられた第一成分F2と、フック8のフット10がこの溝18から外れることを可能にするために、スタッド14のベース16に作られた溝18の外側に向けられた第二成分F3とを備えなければならず(
図3B参照)、これは、機械的衝撃の場合に、例えば、時計の通常の使用中に、実際には不可能である。
【0024】
本発明によるバランススプリング1は、例えば、欧州特許出願EP1422436A1に記載された方法によって得られる幅w及び厚さtを有するシリコン棒材(
図4を参照)から形成され得る。例えば、単結晶シリコンウエハをプラズマアーク切断することによって製造されてもよく、熱補償特性を有する酸化シリコンの外層で被覆されたシリコンコアを含んでもよい。
【0025】
本発明に係るバランススプリング1は、国際出願WO2019/180177A1に記載された製造方法によっても得ることができる。簡単に説明すると、シリコンバランススプリングを製造するためのこの方法は以下のステップからなる。
・埋め込み酸化シリコン層によって結合された2層のシリコンからなるSOIディスクを提供するステップ。これら3つの層はそれぞれ、非常に特殊な役割を果たす。すなわち、「デバイス」層と呼ばれるシリコンの最上層は、単結晶シリコンウエハから形成され、製造されるバランススプリングの厚さを決定する厚さを有すること、「ハンドル」層と呼ばれるシリコンの最下層は、本質的に機械式支持体として機能し、通常、シリコンの最上層と同じ結晶学的配向を有する単結晶シリコンウエハから形成されること、最後に、埋め込み酸化物層は、シリコンの最上層及び最下層を密接に結合し、その後の以下の作業中に障壁として機能することである。
・シリコンの最上層の表面に酸化シリコン層を成長させるステップ。
・酸化シリコン層上にフォトレジスト層を堆積させ、フォトリソグラフィによってフォトレジスト層にマスクを形成するステップ。このマスクは、シリコンの最上層に生成されるバランススプリングに対応する。
・マスクの露出領域における酸化シリコン層をエッチングするステップ。
・シリコンの上層に深掘りRIE(DRIE;deep reactive ion etching)を行ってバランススプリングを形成するステップであって、このエッチングはシリコンの上層と下層とを結合する埋め込み酸化シリコン層に達すると停止するステップ。次に、製造されるバランススプリングは、シリコンの上層の厚さ全体にわたってパターン化され、ここでこのDRIE作業によって露出される。構成要素は、埋め込み酸化シリコン層によって結合されたシリコンの下層と一体のままである。
・シリコンの下層から分離する作業中にバランススプリングを保護するために、シリコンの表面に酸化シリコン層を再成長させるステップ。
【0026】
本発明によるバランススプリング1は、例えば、LIGAプロセス(ドイツ語でLithographische Galvano Abformung)を用いて、金属又は金属合金から作られてもよく、遠心分離により感光性ポリマー層を基板上に堆積させた後で、この感光性ポリマー層を用いて、フォトリソグラフィによりバランススプリング1の所望の輪郭に対応する凹部構造を形成する。この目的のために、バランススプリング1の所望のコイル高さに対応する厚さの感光性ポリマー層をフォトリソグラフィマスクを介して露光し、次に化学エッチングによりバランススプリング1の所望の輪郭に対応する凹部構造を得る。次に、例えば、電気めっき又は圧縮焼結(US4661212)により、凹部構造を金属又は金属合金で充填し、最後に、凹部構造を化学的に溶解し、バランススプリング1を解放する。
【0027】
本発明は、本明細書に記載した実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲に定義された本発明の範囲を離れることなく、当業者が様々な簡単な代替案及び変形を考慮することができることは言うまでもない。特に、本発明によるバランススプリング1を備えたスプリング式バランスアセンブリの動作期間中に、バランススプリング1が交互に収縮及び膨張する際に、外側最終コイル6に沿った引張/押し力F4が停止手段に作用し、そのため停止手段がスタッド14から離れる危険性がなく、これはフック8のフット10が溝18に係合することによって防がれることに留意されたい。さらに、フック8の他の形状、例えば、内側向き(
図5Aを参照)又は外側向き(
図5Bを参照)の「L」形状、アンカー形状(
図6参照)、又は、さらには「U」形状(
図7A及び
図7Bを参照)も想定され得る。スタッド14のベースに形成された凹部の他の形状も想定することができ、溝18に横方向に延びるスロット20ではなく、少なくとも1つ、好ましくは2つのノッチ24が溝18の両側に平行に形成され得る。この実施形態は、フック8がL形状又はアンカーのような形状の場合に特に適している。バランススプリング1の外側最終コイル6の自由端は、フック8をスタッド14の溝18に挿入し、フック8の自由端を1つ以上のノッチ24に固定することによって、スタッド14にさらに取り付けられる。フック8の開口部は、溝18をノッチ24から分離する壁26の厚さと等しいか、又はそれに近い必要があることが理解される。
図2B及び
図7Aに示すように、フック8がU形状である場合には、溝18を完全に不要にすることができ、一方で、スタッド14には、スタッド14の周壁に1つ又は2つのノッチ24のみが設けられる。
【符号の説明】
【0028】
1. バランススプリング
2. 内側第一コイル
S1,S2,...,Sn コイル
4. 中心
6. 外側最終コイル
R1、2、R2、3 距離
8. フック
10. フット
12. ヘッド
14. スタッド
16. ベース
18. 溝
20. スロット
22. 背面
24. ノッチ
26. 壁
【手続補正書】
【提出日】2023-09-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械式時計学的運動のスプリング式バランスアセンブリのバランススプリング(1)であって、前記バランススプリング(1)は、内側第一コイル(2)と呼ばれる第一自由端と、外側最終コイル(6)と呼ばれる第二自由端との間に延びる一連のコイル(S1,...,Sn)によって形成され、前記コイル(S1,...,Sn)は、前記バランススプリング(1)が自由状態にあるときに偏心して配置され、前記バランススプリング(1)の前記外側最終コイル(6)は、スタッド(14)への取り付けのための停止手段で終端し、前記バランススプリング(1)は、前記内側第一コイル(2)によって天芯に取り付けられ、前記バランススプリング(1)が機械式時計学的運動に組み込まれたスプリング式バランスアセンブリ内に組み込まれた状態にあるときに前記外側最終コイル(6)によって前記スタッドに取り付けられ、前記コイル(S1,...,Sn)は、このバランススプリング(1)が組み込まれた状態にあるときに同心円状に再配置され、前記バランススプリング(1)が前記スタッド(14)に取り付けられることにより、前記バランススプリング(1)の前記コイルに弾性応力が生じ、その結果、前記停止手段は前記スタッド(14)に拘束されるように取り付けられる、バランススプリング(1)。
【請求項2】
前記停止手段は、フック(8)の形状を有する、請求項1に記載のバランススプリング。
【請求項3】
前記フック(8)は、T形状、L形状、U形状又はアンカー形状である、請求項2に記載のバランススプリング。
【請求項4】
前記バランススプリング(1)は、シリコンから作られる、請求項1に記載のバランススプリング。
【請求項5】
機械式時計学的運動のスプリング式バランスアセンブリのためのバランススプリング(1)及びスタッド(14)によって形成される時計学的アセンブリであって、前記バランススプリング(1)は、内側第一コイル(2)と呼ばれる第一自由端と、外側最終コイル(6)と呼ばれる第二自由端との間に延びる一連のコイル(S1,...,Sn)によって形成され、前記コイル(S1,...,Sn)は、前記バランススプリング(1)が自由状態にあるときに偏心して配置され、前記バランススプリング(1)の前記外側最終コイル(6)は停止手段で終端し、前記スタッド(14)は、前記停止手段を受ける凹部が作られるベース(16)を備え、このバランススプリング(1)が時計学的運動に組み込まれた前記スプリング式バランスアセンブリ内に組み込まれた状態にあるときに、前記コイルは同心円状に再配置され、前記バランススプリングが前記スタッドに取り付けられることにより、前記バランススプリング(1)のコイルに弾性応力が生じ、その結果、前記停止手段は前記スタッド(14)における前記凹部内に拘束されるように係合する、バランススプリング(1)及びスタッド(14)によって形成される時計学的アセンブリ。
【請求項6】
前記凹部は、前記ベース(16)の両側に延びる溝(18)によって形成され、この溝(18)は、前記溝(18)に対して横方向に前記スタッド(14)に作られるスロット(20)に通じている、請求項5に記載のバランススプリング(1)及びスタッド(14)によって形成される時計学的アセンブリ。
【請求項7】
少なくとも1つのノッチ(24)が前記溝(18)に対して平行に作られる、請求項6に記載のバランススプリング(1)及びスタッド(14)によって形成される時計学的アセンブリ。
【請求項8】
2つのノッチ(24)が前記溝(18)の両側に前記溝(18)に対して平行に作られる、請求項7に記載のバランススプリング(1)及びスタッド(14)によって形成される時計学的アセンブリ。
【請求項9】
前記凹部は、前記スタッド(14)の周壁に作られる1つ又は2つのノッチ(24)によって形成される、請求項5に記載のバランススプリング(1)及びスタッド(14)によって形成される時計学的アセンブリ。
【外国語明細書】