(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035118
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ガラス繊維の製造装置、及びガラス繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/10 20060101AFI20240306BHJP
B05B 7/04 20060101ALI20240306BHJP
B05C 1/08 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C03B37/10 Z
B05B7/04
B05C1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023132881
(22)【出願日】2023-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2022137708
(32)【優先日】2022-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】三村 智通
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 智基
(72)【発明者】
【氏名】松永 達樹
(72)【発明者】
【氏名】湯之下 航季
【テーマコード(参考)】
4F033
4F040
【Fターム(参考)】
4F033QA04
4F033QB02Y
4F033QB03X
4F033QB12Y
4F033QB15X
4F033QD02
4F033QD14
4F040AA26
4F040AB04
4F040BA23
4F040CB19
4F040CB21
(57)【要約】
【課題】ガラスフィラメントを良好に冷却可能とするとともに、ガラスフィラメントに水分を付着させやすいガラス繊維の製造装置を提供する。
【解決手段】ガラス繊維の製造装置11は、複数のガラスフィラメントFが引き出されるブッシング12と、ガラスフィラメントFに集束剤を塗布するアプリケータ13と、ブッシング12とアプリケータ13との間でガラスフィラメントFに冷却水Wを噴射する噴射装置16とを備える。噴射装置16は、冷却水Wと気体とを混合して噴射する混合流体ノズル20を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガラスフィラメントが引き出されるブッシングと、
前記ガラスフィラメントに集束剤を塗布するアプリケータと、
前記ブッシングと前記アプリケータとの間で前記ガラスフィラメントに冷却水を噴射する噴射装置と、を備えたガラス繊維の製造装置であって、
前記噴射装置は、前記冷却水と気体とを混合して噴射する混合流体ノズルを有する、ガラス繊維の製造装置。
【請求項2】
前記混合流体ノズルは、平均20μm未満の粒径の前記冷却水を噴射する、請求項1に記載のガラス繊維の製造装置。
【請求項3】
前記ブッシングは、上方から見て、長方形に形成され、
前記混合流体ノズルは、上方から見て、前記ブッシングの長辺と対向する位置に配置され、上下方向よりも水平方向に広い範囲に前記冷却水を噴射する、請求項1に記載のガラス繊維の製造装置。
【請求項4】
前記噴射装置は、前記混合流体ノズルを複数有し、
前記複数の混合流体ノズルは、上方から見て、それぞれ噴射する前記冷却水が重なるオーバーラップ範囲を有するように、かつ、前記オーバーラップ範囲においてそれぞれ噴射する前記冷却水が上下方向にずれるように設けられている、請求項3に記載のガラス繊維の製造装置。
【請求項5】
前記混合流体ノズルは、噴射軸線と直交する第1軸線に沿って相対的に広い角度で前記冷却水を噴射するとともに前記噴射軸線及び前記第1軸線と直交する第2軸線に沿って相対的に狭い角度で前記冷却水を噴射するものであり、
前記複数の混合流体ノズルは、前記第1軸線が水平方向に対して傾斜するように設けられつつ、それぞれ噴射する前記冷却水の上下範囲が一致するように設けられている、請求項4に記載のガラス繊維の製造装置。
【請求項6】
複数のガラスフィラメントが引き出されるブッシングと、
前記ガラスフィラメントに集束剤を塗布するアプリケータと、
前記ブッシングと前記アプリケータとの間で前記ガラスフィラメントに冷却水を噴射するノズルを有する噴射装置と、を備えたガラス繊維の製造装置であって、
前記ブッシングは、上方から見て、長方形に形成され、
前記ノズルは、上方から見て、前記ブッシングの長辺と対向する位置に配置され、上下方向よりも水平方向に広い範囲に前記冷却水を噴射する、ガラス繊維の製造装置。
【請求項7】
複数のガラスフィラメントが引き出されるブッシングと、前記ガラスフィラメントに集束剤を塗布するアプリケータとの間で前記ガラスフィラメントに冷却水を噴射する噴射工程を備えたガラス繊維の製造方法であって、
前記噴射工程では、前記冷却水を気体と混合して混合流体ノズルから噴射する、ガラス繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維の製造装置、及びガラス繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス繊維の製造装置としては、ガラスフィラメントが引き出されるブッシングと、ガラスフィラメントに集束剤を塗布するアプリケータと、それらの間でガラスフィラメントに冷却水を噴射する噴射装置とを備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。このようなガラス繊維の製造装置では、アプリケータの上流でガラスフィラメントが適温に冷却されるため、ガラスフィラメントに集束剤が良好に付着するとともに、後の集束剤のガムアップが抑制される。これにより、例えば、ガラス繊維の表面に集束剤由来の被膜が良好に形成され、ガラス繊維の品質が安定しやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開(WO)2019/124033号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような製造装置において、ガラスフィラメントに噴射する冷却水(冷却水粒子)の粒径が大きいと、冷却水が複数のガラスフィラメントに行き渡り難いとともに、付着した冷却水が蒸発し難いことから、ガラスフィラメントを良好に冷却できない。一方、冷却水の粒径が小さいと、ガラスフィラメントの下方への流れに随伴する気流の影響を受けることによって冷却水がガラスフィラメントまで届き難くなることから、ガラスフィラメントを良好に冷却できない。また、ガラスフィラメントに冷却水が付着しにくくなるため、ガラスフィラメントを集束してなるガラスストランド(あるいは、ガラスストランドが巻き取られてなるケーキ)に含まれる水分率が低下しやすくなる。その結果、後の加工工程で毛羽が発生しやすくなる。
【0005】
本発明の目的は、ガラスフィラメントを良好に冷却可能とするとともに、ガラスフィラメントに水分を付着させやすいガラス繊維の製造装置、及びガラス繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]上記課題を解決するガラス繊維の製造装置は、複数のガラスフィラメントが引き出されるブッシングと、前記ガラスフィラメントに集束剤を塗布するアプリケータと、
前記ブッシングと前記アプリケータとの間で前記ガラスフィラメントに冷却水を噴射する噴射装置と、を備えたガラス繊維の製造装置であって、前記噴射装置は、前記冷却水と気体とを混合して噴射する混合流体ノズルを有する。
【0007】
同構成によれば、噴射装置は、冷却水と気体とを混合して噴射する混合流体ノズルを有するため、混合流体ノズルから小さい粒径の冷却水を気体と共に勢い良く噴射することができる。よって、小さい粒径の冷却水を複数のガラスフィラメントに良好に付着させることができる。よって、ガラスフィラメントを良好に冷却することができる。また、ガラスフィラメントを集束してなるガラスストランド(あるいは、ガラスストランドが巻き取られてなるケーキ)に含まれる水分率を高めることができる。よって、後の加工工程で毛羽の発生を抑制することができる。
【0008】
[2]上記[1]に記載のガラス繊維の製造装置において、前記混合流体ノズルは、平均20μm未満の粒径の前記冷却水を噴射することが好ましい。
同構成によれば、混合流体ノズルは、平均20μm未満の粒径の冷却水を噴射するため、例えば、平均20μm以上の粒径の冷却水を噴射する場合に比べて、より小さい粒径の冷却水によってガラスフィラメントをより良好に冷却することができる。
【0009】
[3]上記[1]または[2]に記載のガラス繊維の製造装置において、前記ブッシングは、上方から見て、長方形に形成され、前記混合流体ノズルは、上方から見て、前記ブッシングの長辺と対向する位置に配置され、上下方向よりも水平方向に広い範囲に前記冷却水を噴射することが好ましい。
【0010】
同構成によれば、混合流体ノズルは、上方から見て、ブッシングの長辺と対向する位置に配置され、上下方向よりも水平方向に広い範囲に冷却水を噴射するため、冷却水を複数のガラスフィラメントに効率良く行き渡らせることができる。例えば、混合流体ノズルが上方から見てブッシングの短辺と対向する位置に配置された場合では、冷却水がブッシングの長辺に沿った遠い位置のガラスフィラメントまで届き難くなるが、これを回避できる。
【0011】
[4]上記[3]に記載のガラス繊維の製造装置において、前記噴射装置は、前記混合流体ノズルを複数有し、前記複数の混合流体ノズルは、上方から見て、それぞれ噴射する前記冷却水が重なるオーバーラップ範囲を有するように、かつ、前記オーバーラップ範囲においてそれぞれ噴射する前記冷却水が上下方向にずれるように設けられていることが好ましい。
【0012】
同構成によれば、複数の混合流体ノズルは、上方から見て、それぞれ噴射する冷却水が重なるオーバーラップ範囲を有するよう設けられるため、冷却水がガラスフィラメントに掛からない範囲を無くすことができる。また、複数の混合流体ノズルは、オーバーラップ範囲においてそれぞれ噴射する冷却水が上下方向にずれるように設けられるため、冷却水同士が衝突してしまうことが抑えられる。よって、冷却水同士の衝突に基づく冷却水の落下を抑えることができ、冷却水を複数のガラスフィラメントに良好に届かせることができる。
【0013】
[5]上記[4]に記載のガラス繊維の製造装置において、前記混合流体ノズルは、噴射軸線と直交する第1軸線に沿って相対的に広い角度で前記冷却水を噴射するとともに前記噴射軸線及び前記第1軸線と直交する第2軸線に沿って相対的に狭い角度で前記冷却水を噴射するものであり、前記複数の混合流体ノズルは、前記第1軸線が水平方向に対して傾斜するように設けられつつ、それぞれ噴射する前記冷却水の上下範囲が一致するように設けられていることが好ましい。
【0014】
同構成によれば、複数の混合流体ノズルは、第1軸線が水平方向に対して傾斜するように設けられ、それぞれ噴射する冷却水の上下範囲が一致するように設けられるため、ガラスフィラメントに付着する冷却水の上下方向の位置を均一に近づけることができる。例えば、複数の混合流体ノズルの第1軸線が水平方向と一致するように設け、かつ、複数の混合流体ノズルから噴射される冷却水同士が衝突しにくくするためには、各混合流体ノズルの位置を上下にずらす必要がある。この場合では、ガラスフィラメントに付着する冷却水の上下方向の位置が広範囲にわたって大きくずれることになるが、上記構成によれば、これを抑えることができる。よって、複数のガラスフィラメントをバランス良く冷却することができる。
【0015】
[6]上記課題を解決するガラス繊維の製造装置は、複数のガラスフィラメントが引き出されるブッシングと、前記ガラスフィラメントに集束剤を塗布するアプリケータと、
前記ブッシングと前記アプリケータとの間で前記ガラスフィラメントに冷却水を噴射するノズルを有する噴射装置と、を備えたガラス繊維の製造装置であって、前記ブッシングは、上方から見て、長方形に形成され、前記ノズルは、上方から見て、前記ブッシングの長辺と対向する位置に配置され、上下方向よりも水平方向に広い範囲に前記冷却水を噴射する。
【0016】
同構成によれば、ノズルは、上方から見て、ブッシングの長辺と対向する位置に配置され、上下方向よりも水平方向に広い範囲に冷却水を噴射するため、冷却水を複数のガラスフィラメントに効率良く行き渡らせることができる。例えば、ノズルが上方から見てブッシングの短辺と対向する位置に配置された場合では、冷却水がブッシングの長辺に沿った遠い位置のガラスフィラメントまで届き難くなるが、これを回避できる。よって、小さい粒径の冷却水を複数のガラスフィラメントに良好に付着させることができる。よって、ガラスフィラメントを良好に冷却することができる。
【0017】
[7]上記課題を解決するガラス繊維の製造方法は、複数のガラスフィラメントが引き出されるブッシングと、前記ガラスフィラメントに集束剤を塗布するアプリケータとの間で前記ガラスフィラメントに冷却水を噴射する噴射工程を備えたガラス繊維の製造方法であって、前記噴射工程では、前記冷却水を気体と混合して混合流体ノズルから噴射する。
【0018】
同方法によれば、冷却水は気体と混合されて混合流体ノズルから噴射される。よって、混合流体ノズルから小さい粒径の冷却水を気体と共に勢い良く噴射することができる。よって、小さい粒径の冷却水を複数のガラスフィラメントに良好に付着させることができ、ガラスフィラメントを良好に冷却することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のガラス繊維の製造装置、及びガラス繊維の製造方法によれば、ガラスフィラメントを良好に冷却することができるとともに、ガラスフィラメントに水分を付着させやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、一実施形態のガラス繊維の製造装置を示す概略側面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態のガラス繊維の製造装置の一部を示す概略正面図である。
【
図3】
図3は、一実施形態の混合流体ノズルを上方から見た模式図である。
【
図4】
図4は、一実施形態のガラス繊維の製造装置の一部を拡大して示す概略正面図である。
【
図5】
図5は、別例のガラス繊維の製造装置の一部を拡大して示す概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、ガラス繊維の製造装置、及びガラス繊維の製造方法の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張又は簡略化して示す場合がある。また、各部分の寸法比率についても、実際と異なる場合がある。
【0022】
(ガラス繊維の製造装置11の全体の構成)
図1に示すように、ガラス繊維の製造装置11は、ブッシング12と、アプリケータ13と、ギャザリングシュー14と、コレット15と、噴射装置16と、冷却水供給装置17と、空気供給装置18とを備える。
【0023】
ブッシング12は、下方に複数のノズルを有し、溶融ガラスが供給されるとともに、ノズルから下方に複数のガラスフィラメントFが引き出される箱状容器である。なお、
図1及び
図2では、複数のガラスフィラメントFをまとめて模式的に図示している。言い換えると、
図1及び
図2では、複数のガラスフィラメントFの一番外側だけを図示し、ガラスフィラメントFの通過する範囲を図示している。本実施形態のブッシング12は、上方から見て、長方形(
図3参照)に形成されている。
【0024】
アプリケータ13は、駆動ローラーを有し、ガラスフィラメントFに集束剤を塗布する装置である。ギャザリングシュー14は、集束剤が塗布された複数のガラスフィラメントFを集束させつつ束ねてガラスストランドSを形成する装置である。
【0025】
コレット15は、図示しないコレット駆動装置の動作によって回転することで、例えば、図示しないトラバース等を通過したガラスストランドSを巻き取る。ガラスストランドSは、コレット15に巻き取られることによって、ケーキ19とされる。
【0026】
(噴射装置16の構成)
図1から
図3に示すように、噴射装置16は、ブッシング12とアプリケータ13との間でガラスフィラメントFに冷却水Wを噴射する装置である。
【0027】
噴射装置16は、ノズルとしての混合流体ノズル20を有する。混合流体ノズル20は、冷却水Wと気体である空気とを混合して噴射する。詳しくは、混合流体ノズル20は、冷却水流入口20aと、空気流入口20bと、単一の噴射口20cとを有する。そして、冷却水流入口20aには冷却水供給装置17がホース等を介して接続され、空気流入口20bには空気供給装置18がホース等を介して接続されている。混合流体ノズル20は、冷却水供給装置17から冷却水流入口20aに冷却水Wが供給されるとともに、空気供給装置18から空気流入口20bに空気が供給されると、噴射口20cから冷却水Wと空気が混合された流体を噴射する。混合流体ノズル20は、平均20μm未満の粒径の冷却水Wを噴射するように構成されている。混合流体ノズル20は、平均18μm以下や、平均15μm以下や、さらには平均12μm以下の粒径の冷却水Wを噴射するように構成されていてもよい。本実施形態の混合流体ノズル20は、平均10μm以下の粒径の冷却水Wを噴射するように構成されている。
【0028】
冷却水供給装置17から供給される冷却水Wの圧力(水圧)及び空気供給装置18から供給される空気の圧力(空気圧)は、共に0.15MPa以上、かつ0.45MPa以下、さらには共に0.25MPa以上、かつ0.35MPa以下であることが好ましい。冷却水W及び空気の少なくとも一方の圧力が小さすぎると、混合流体ノズル20から噴射される冷却水Wの勢いが弱くなり、冷却水WをガラスフィラメントFに付着させることが困難になる。一方、冷却水W及び空気の少なくとも一方の圧力が大きすぎると、混合流体ノズル20から噴射される冷却水Wの勢いが強くなり、ガラスフィラメントFがなびくことによる絡みや断線等の不具合が発生しやすくなる。なお、冷却水Wと空気が混合されて単一の噴射口20cから噴射するため、いずれか一方の圧力が高すぎると、両者を適度に混合することが困難となり、噴射される水量に経時的に変動が生じたり、場合によっては冷却水Wのみあるいは空気のみが噴射口20cから噴射されるという不具合が発生するおそれがある。そのため、冷却水Wと空気の圧力はなるべく近くすることが好ましい。具体的には、冷却水Wの圧力/空気の圧力は0.8以上、かつ1.2以下であることが好ましく、0.9以上、かつ1.1以下であることがより好ましく、1.0(即ち、冷却水Wの圧力と空気の圧力が同じ)であることがさらに好ましい。
【0029】
図3に示すように、混合流体ノズル20は、上方から見て、ブッシング12の長辺と対向する位置に配置されている。言い換えると、混合流体ノズル20は、上方から見て、冷却水Wの噴射軸線Aがブッシング12の長辺と直交するように配置されている。そして、
図2から
図4に示すように、混合流体ノズル20は、上下方向よりも水平方向に広い範囲に冷却水Wを噴射するように設けられている。
【0030】
図2から
図4に示すように、噴射装置16は、複数であって、本実施形態では2つの混合流体ノズル20を有する。2つの混合流体ノズル20は、水平方向に並んで設けられている。
【0031】
図3に示すように、2つの混合流体ノズル20は、上方から見て、それぞれ噴射する冷却水Wが重なるオーバーラップ範囲H1を有するように設けられている。また、
図4に示すように、2つの混合流体ノズル20は、オーバーラップ範囲H1においてそれぞれ噴射する冷却水Wが上下方向にずれるように設けられている。
【0032】
詳しくは、本実施形態の混合流体ノズル20は、噴射軸線Aと直交する第1軸線Bに沿って相対的に広い角度で冷却水Wを噴射するとともに噴射軸線A及び第1軸線Bと直交する第2軸線Cに沿って相対的に狭い角度で冷却水Wを噴射するように構成されている。これにより、混合流体ノズル20は、上下方向よりも水平方向に広い範囲に冷却水Wを噴射することが可能とされている。
【0033】
そして、2つの混合流体ノズル20は、第1軸線Bが水平方向に対して傾斜するように設けられつつ、それぞれ噴射する冷却水Wの上下範囲H2が一致するように設けられている。なお、
図1から
図4では、冷却水Wの噴射範囲を、重力等を考慮せずに理想的に近い形で模式的に図示している。また、
図2及び
図4では、冷却水WがガラスフィラメントFに到達する際の噴射範囲を模式的に図示している。
【0034】
なお、混合流体ノズル20を用いない、いわゆるミストスプレー(例えば1.0MPaの高圧力を加えた液体を、ノズルの細い穴から急激に噴出させることにより、液体の微粒子を飛散させる装置)を使用した場合、粒子径の小さい水粒子を噴射することは可能であるが、噴射後の水粒子の推進力が不十分なため、ガラスフィラメントFまで届かせることが困難である。つまり、水粒子の粒子径自体が小さく蒸発しやすいため、ガラスフィラメントFに付着する前に蒸発してしまい、ガラスフィラメントFに水分を付着させることが困難である。よって、雰囲気温度、ひいてはアプリケータ13の駆動ローラー温度は低下させやすいものの、ガラスフィラメントFを集束してなるガラスストランドS(あるいは、ガラスストランドSが巻き取られてなるケーキ19)に含まれる水分率が低下しやすくなる。その結果、後の加工工程で毛羽が発生しやすくなる。
【0035】
(ガラス繊維の製造方法とその作用)
ガラス繊維の製造方法は、ブッシング12とアプリケータ13との間でガラスフィラメントFに冷却水Wを噴射する「噴射工程」を備える。そして、「噴射工程」では、冷却水Wを気体と混合して混合流体ノズル20から噴射する。
【0036】
本実施形態のガラス繊維の製造方法は、上記したガラス繊維の製造装置11を用いて実行される。
ブッシング12からアプリケータ13に向かうガラスフィラメントFには冷却水Wが噴射される。冷却水Wは、混合流体ノズル20によって、小さい粒径であっても気体と混合されることで勢い良く噴射される。これにより、冷却水Wは、小さい粒径であってもガラスフィラメントFに良好に付着する。よって、ガラスフィラメントFは、アプリケータ13の上流で適温に冷却される。
【0037】
次に、上記実施形態の効果を以下に記載する。
(1)噴射装置16は、冷却水Wと気体とを混合して噴射する混合流体ノズル20を有するため、混合流体ノズル20から小さい粒径の冷却水Wを気体と共に勢い良く噴射することができる。よって、小さい粒径の冷却水Wを複数のガラスフィラメントFに良好に付着させることができる。冷却水Wの粒径が小さいと気化しやすいため、ガラスフィラメントFを良好に冷却することができる。これにより、アプリケータ13の上流でガラスフィラメントFが適温に冷却されるため、ガラスフィラメントFに集束剤が良好に付着するとともに、後の集束剤のガムアップが抑制される。これにより、例えば、ケーキ19を良好に安定して製造することができる。また、小さい粒径の冷却水Wを複数のガラスフィラメントFに効果的に付着させることができるため、冷却水Wの使用量を低減することができる。また、ガラスフィラメントFを集束してなるガラスストランドS(あるいは、ガラスストランドSが巻き取られてなるケーキ19)に含まれる水分率を高めることができる。よって、後の加工工程で毛羽の発生を抑制することができる。
【0038】
(2)混合流体ノズル20は、平均20μm未満の粒径の冷却水Wを噴射するため、例えば、平均20μm以上の粒径の冷却水Wを噴射する場合に比べて、より小さい粒径の冷却水WによってガラスフィラメントFをより良好に冷却することができる。また、本実施形態では、混合流体ノズル20は、平均10μm以下の粒径の冷却水Wを噴射するため、より小さい粒径の冷却水WによってガラスフィラメントFをより良好に冷却することができる。
【0039】
(3)混合流体ノズル20は、上方から見て、ブッシング12の長辺と対向する位置に配置され、上下方向よりも水平方向に広い範囲に冷却水Wを噴射するため、冷却水Wを複数のガラスフィラメントFに効率良く行き渡らせることができる。例えば、混合流体ノズル20が上方から見てブッシング12の短辺と対向する位置に配置された場合では、冷却水Wがブッシング12の長辺に沿った遠い位置のガラスフィラメントFまで届き難くなるが、これを回避できる。
【0040】
(4)複数の混合流体ノズル20は、上方から見て、それぞれ噴射する冷却水Wが重なるオーバーラップ範囲H1を有するよう設けられるため、冷却水WがガラスフィラメントFに掛からない範囲を無くすことができる。また、複数の混合流体ノズル20は、オーバーラップ範囲H1においてそれぞれ噴射する冷却水Wが上下方向にずれるように設けられるため、冷却水W同士が衝突してしまうことが抑えられる。よって、冷却水W同士の衝突に基づく冷却水Wの落下を抑えることができ、冷却水Wを複数のガラスフィラメントFに良好に届かせることができる。
【0041】
(5)複数の混合流体ノズル20は、第1軸線Bが水平方向に対して傾斜するように設けられ、それぞれ噴射する冷却水Wの上下範囲H2が一致するように設けられる。よって、ガラスフィラメントFに付着する冷却水Wの上下方向の位置を均一に近づけることができる。例えば、複数の混合流体ノズル20の第1軸線Bが水平方向と一致するように設け、かつ、複数の混合流体ノズル20から噴射される冷却水W同士が衝突しにくくするためには、各混合流体ノズル20の位置を上下にずらす必要がある。この場合では、ガラスフィラメントFに付着する冷却水Wの上下方向の位置が広範囲にわたって大きくずれることになるが、上記構成によれば、これを抑えることができる。よって、複数のガラスフィラメントFをバランス良く冷却することができる。
【0042】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、複数の混合流体ノズル20は、それぞれ噴射する冷却水Wの上下範囲H2が一致するように、第1軸線Bが水平方向に対して傾斜して設けられるとしたが、これに限定されない。
【0043】
例えば、
図5に示すように、複数の混合流体ノズル20は、第1軸線Bが水平方向と一致するように設けられつつ、オーバーラップ範囲H1において噴射する冷却水Wが上下方向にずれるように設けられていてもよい。
【0044】
・上記実施形態では、混合流体ノズル20は、平均10μm以下の粒径の冷却水Wを噴射するとしたが、これに限定されず、平均10μmより大きい粒径の冷却水Wを噴射するように構成されたものとしてもよい。例えば、混合流体ノズル20は、例えば、平均10μmより大きく、かつ、平均20μm未満の粒径の冷却水Wを噴射するように構成されていてもよい。また、混合流体ノズル20は、例えば、平均20μm以上の粒径の冷却水Wを噴射するように構成されていてもよい。
【0045】
・上記実施形態では、混合流体ノズル20は、上方から見て、ブッシング12の長辺と対向する位置に配置されるとしたが、これに限定されず、例えば、ブッシング12の短辺と対向する位置に配置されていてもよい。また、例えば、混合流体ノズル20は、上方から見て、冷却水Wの噴射軸線Aがブッシング12の長辺及び短辺と傾斜するように配置されていてもよい。また、ブッシング12は、上方から見て、長方形に形成されているとしたが、これに限定されず、例えば、正方形に形成されていてもよい。
【0046】
・上記実施形態では、混合流体ノズル20は、上下方向よりも水平方向に広い範囲に冷却水Wを噴射するとしたが、これに限定されず、例えば、上下方向と水平方向に同じ範囲で冷却水Wを噴射するようにしてもよい。
【0047】
・上記実施形態では、複数の混合流体ノズル20は、上方から見て、それぞれ噴射する冷却水Wが重なるオーバーラップ範囲H1を有するよう設けられるとしたが、これに限定されず、それぞれ噴射する冷却水Wが重ならないように設けられてもよい。
【0048】
・上記実施形態では、複数の混合流体ノズル20は、オーバーラップ範囲H1においてそれぞれ噴射する冷却水Wが上下方向にずれるように設けられるとしたが、これに限定されず、それぞれ噴射する冷却水Wが上下方向にずれないように設けられてもよい。
【0049】
・上記実施形態では、噴射装置16は、2つの混合流体ノズル20を有するとしたが、これに限定されず、混合流体ノズル20を1つのみ有する構成としてもよいし、3つ以上の混合流体ノズル20を有する構成としてもよい。
【0050】
・上記実施形態では、噴射装置16は、冷却水Wと気体とを混合して噴射する混合流体ノズル20を有するとしたが、これに限定されず、冷却水Wを噴射する他のノズルを有する構成としてもよい。
【0051】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
Eガラスのガラス組成となるように秤量、調合したガラス原料を溶融し、溶融ガラスを得た後、
図1に示すガラス繊維の製造装置11を用いてガラス繊維を作製した。具体的には、以下のような手順でガラス繊維を作製した。
【0052】
溶融ガラスを複数のノズルを有するブッシング12から引き出し、4000本のガラスフィラメントFを得た。得られたガラスフィラメントFに、アプリケータ13により集束剤を塗布した。なお、ブッシング12とアプリケータ13の間には、水と空気とを混合して噴射する混合流体ノズル20を有する噴射装置16を設けた。水圧と空気圧はいずれも0.3MPaとした。当該噴射装置16から水と空気が混合された流体を噴射することにより、ガラスフィラメントFを冷却した。この際、噴射された水は粒状であり、その粒径は10μm以下であった。また、噴射装置16から噴射される水量は1L/min(リットル/分)とした。
【0053】
ギャザリングシュー14によってガラスフィラメントFを束ねてガラスストランドSとし、当該ガラスストランドSをコレット15で巻き取ってケーキ19とした。次に、ケーキ19からガラスストランドSを引き出して、カット長3mmのカッター刃を用いて切断することによりチョップドストランドを得た。
【0054】
得られたチョップドストランドのミルド毛羽及びタップ充填嵩密度(タップ嵩密度)を評価した。評価結果を表1に示す。
アプリケータ13の駆動ローラー温度は、オプテックス・エフエー社製の非接触温度計により駆動ローラーとガラスストランドSの接点を測定することにより求めた。
【0055】
ケーキ水分率は、得られたケーキ19を乾燥装置により乾燥してケーキ19中の水分を除去し、乾燥前後のケーキ重量の差分により求めた。
ミルド毛羽は、300mlのビーカーに、上記のチョップドストランド100gとミルドファイバー10gを入れ、撹拌機により400RPMで6分間撹拌した後、ビーカー内に残った毛羽を秤量することで測定した。なお、ミルドファイバーは毛羽を発生させやすくするため(加速度試験を目的)に添加した。
【0056】
タップ充填嵩密度は以下のようにして求めた。500mlメスシリンダーに100gのチョップドストランドを入れ、0.2mの高さから自由落下させるタップ動作を60回/分のタップ速度で1分間行った。タップ動作後のチョップドストランドの体積を測定し、チョップドストランドの質量を当該体積で除することによりタップ充填嵩密度を求めた。
【0057】
(実施例2)
混合流体ノズル20に供給される水圧及び空気圧をいずれも0.2MPaとして、水量を0.75L/minに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてチョップドストランドを作製した。評価結果を表1に示す。
【0058】
(比較例1)
噴射装置としてシャワーを用い、水圧0.4MPaで1.8L/minの水量で噴射したこと以外は、実施例1と同様にしてチョップドストランドを作製した。評価結果を表1に示す。
【0059】
(比較例2)
噴射装置として、上述したミストスプレーを用い、水圧0.8MPaで0.5L/minの水量で噴射したこと以外は、実施例1と同様にしてチョップドストランドを作製した。評価結果を表1に示す。
【0060】
【0061】
表1に示すように、実施例1及び実施例2では、アプリケータ13の駆動ローラー温度が35℃以下、ケーキ水分率が6.5質量%以上、チョップドストランドのミルド毛羽が0.52g以下、タップ嵩密度が0.91g/cm3以下であった。一方、比較例1では、アプリケータ13の駆動ローラー温度が48℃と高く、ミルド毛羽が1.08gと劣っていた。また、比較例2では、アプリケータ13の駆動ローラー温度が35℃と比較的低かったが、ケーキ水分率が5質量%と低く、ミルド毛羽が5.22gと非常に劣っており、タップ嵩密度が0.71g/cm3と小さくなった。
【符号の説明】
【0062】
11…ガラス繊維の製造装置、12…ブッシング、13…アプリケータ、16…噴射装置、20…混合流体ノズル、A…噴射軸線、B…第1軸線、C…第2軸線、F…ガラスフィラメント、H1…オーバーラップ範囲、H2…上下範囲、W…冷却水。