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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035131
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ゴツコラ抽出物含有成分の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20240306BHJP
   C08B 37/00 20060101ALI20240306BHJP
   C07D 311/30 20060101ALI20240306BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20240306BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 36/23 20060101ALN20240306BHJP
【FI】
G01N30/88 C
C08B37/00 Q
C07D311/30
G01N30/86 J
G01N30/26 A
G01N30/88 W
A61K36/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023135488
(22)【出願日】2023-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2022138955
(32)【優先日】2022-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000119472
【氏名又は名称】一丸ファルコス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(72)【発明者】
【氏名】若山 史佳
(72)【発明者】
【氏名】高橋 達治
【テーマコード(参考)】
4C088
4C090
【Fターム(参考)】
4C088AB40
4C088BA08
4C088BA11
4C088BA13
4C090AA10
4C090BA05
4C090BB11
4C090BC10
4C090CA09
4C090DA23
(57)【要約】
【課題】ゴツコラ抽出物に含まれる複数の化合物をより簡便な方法にて分析定量する方法を提供する。
【解決手段】ゴツコラ抽出物を溶媒に溶解して分析試料を調製する工程と、分析試料を逆相カラムクロマトグラフィーで分離する工程と、逆相カラムクロマトグラフィーにより溶出される各化合物の保持時間と吸光度との関係を示すクロマトグラムを取得する工程と、を含む分析方法。
【選択図】図3



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴツコラ抽出物に含まれるアシアチン酸、マデカシン酸、アシアチコシド、マデカソシド、ケルセチン、ケンフェロール及びアラリアジオールの少なくとも2種以上の含有量を同時に分析する方法であって、
ゴツコラ抽出物を溶媒に溶解して分析試料を調製する工程と、
前記分析試料を逆相カラムクロマトグラフィーで分離する工程と、
前記逆相カラムクロマトグラフィーにより溶出される各化合物の保持時間と吸光度との関係を示すクロマトグラムを取得する工程と、
を含む、分析方法。
【請求項2】
ゴツコラ抽出物に含まれる2種以上の化合物の含有量を同時に分析する方法であって、
ゴツコラ抽出物を溶媒に溶解して分析試料を調製する工程と、
前記分析試料を逆相カラムクロマトグラフィーで分離する工程と、
前記逆相カラムクロマトグラフィーにより溶出される各化合物の保持時間と吸光度との関係を示すクロマトグラムを取得する工程と、
前記クロマトグラムから計算した前記各化合物のピーク面積及びあらかじめ用意した前記各化合物の比吸光度比率に基づいて、前記各化合物の含有量を計算する工程と、
を含む、分析方法。
【請求項3】
前記2種以上の化合物が、アシアチン酸、マデカシン酸、アシアチコシド、マデカソシド、ケルセチン、ケンフェロール及びアラリアジオールからなる群より選択される請求項2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記比吸光度比率が、前記吸光度の測定波長における1つの化合物の比吸光度と、それに対する他の化合物の比吸光度の相対値である、請求項2又は3に記載の分析方法。
【請求項5】
前記1つの化合物が、アシアチン酸又はマデカシン酸である、請求項4に記載の分析方法。
【請求項6】
前記逆相カラムクロマトグラフィーで用いる溶出溶媒が、pH3以下の水溶液と有機溶媒とを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項7】
前記測定波長が207nm~225nmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴツコラ抽出物含有成分の分析方法に関し、より詳細には、ゴツコラ抽出物に含まれる複数の化合物を同時且つ簡便に分析する方法、などに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴツコラ(Centella asiatica;別名ツボクサともいう。)はインド、インドネシア、中国、東南アジアを原産としたハーブであり、インドの伝統医療であるアーユルベーダで用いられる植物である。解熱、鎮痛、抗炎症及び認知機能改善などの多岐にわたる作用を有することが知られている。例えば、ゴツゴラ抽出物をラットに投与した場合に、酸化ストレスの低減や認知機能の向上がみられ、アルツハイマー病の治療薬として期待されることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
本発明者らはゴツコラのエタノール抽出液からHPLCで精製した単一の化合物であるアラリアジオールが、神経変性疾患の予防及び/又は治療のための主な有効成分であることを見出し、すでに国際出願を行っている(特許文献1参照)。
【0004】
近年、いくつかの研究により、ゴツコラ抽出物の抗酸化作用、腫瘍細胞の抗増殖作用、静脈内皮保護作用の活性分子は、アシアチコシドやマデカソシドなどのトリテルペノイド類であることが報告されている。これらは、医薬品の成分であり、化粧品などにも多く利用されているが、ゴツコラ抽出物中におけるトリテルペノイド類の含有量は、栽培地域や栽培種によってかなりの差があることから、分析法の妥当性評価が必要である。非特許文献2には、ゴツコラの葉に含まれるトリテルペン配糖体及びアグリコン類の同時定量に向けたHPLC-UV法が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Md Sahab Uddin et al.,Nootropic and Anti-Alzheimer’s Actions of Medicinal Plants:Molecular Insight into Therapeutic Potential to Alleviate Alzheimer’s Neuropathology. Mol Neurobiol.2019 Jul;56(7):4925-4944.
【非特許文献2】M H Rafamantanana et al.,An improved HPLC-UV method for the simultaneous quantification of triterpenic glycosides and aglycones in leaves of Centella asiatica(L.)Urb(APIACEAE).J Chromatogr B.2009;877(23):2396-2402.
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2021/085232
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献2に開示された方法は、ゴツコラ抽出物中のマデカソシド、アシアチコシド及びそれらのアグリコンであるマデカシン酸及びアシアチン酸を同時に定量することができるが、例えば、アシアチコシドとアシアチン酸を標準物質として検量線を作成しており依然として手間と時間を要する。また、非特許文献2では、ゴツコラ抽出物に含まれるトリテルペノイド以外の有効成分の定量可能性については何ら開示されていない。
【0008】
したがって、本開示が解決しようとする課題は、ゴツコラ抽出物に含まれる複数の化合物をより簡便な方法で分析定量する方法を提供すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示はかかる課題を解決するためになされたものであって、複数の化合物を含むゴツコラ抽出物を所定の条件下に逆相カラムクロマトグラフィーを行って得られたクロマトグラムから、分析対象物の含有量を定量することとした。すなわち、本開示は以下の実施形態を含む。
【0010】
(1)ゴツコラ抽出物に含まれるアシアチン酸、マデカシン酸、アシアチコシド、マデカソシド、ケルセチン、ケンフェロール及びアラリアジオールの少なくとも2種以上の化合物の含有量を同時に分析する方法であって、ゴツコラ抽出物を溶媒に溶解して分析試料を調製する工程と、分析試料を逆相カラムクロマトグラフィーで分離する工程と、逆相カラムクロマトグラフィーにより溶出される各化合物の保持時間と吸光度との関係を示すクロマトグラムを取得する工程と、を含む分析方法。
(2)ゴツコラ抽出物に含まれる2種以上の化合物の含有量を同時に分析する方法であって、ゴツコラ抽出物を溶媒に溶解して分析試料を調製する工程と、分析試料を逆相カラムクロマトグラフィーで分離する工程と、逆相カラムクロマトグラフィーにより溶出される各化合物の保持時間と吸光度との関係を示すクロマトグラムを取得する工程と、クロマトグラムから計算した各化合物のピーク面積及びあらかじめ用意した各化合物の比吸光度比率に基づいて、各化合物の含有量を計算する工程と、を含む分析方法。
(3)2種以上の化合物が、アシアチン酸、マデカシン酸、アシアチコシド、マデカソシド、ケルセチン、ケンフェロール及びアラリアジオールからなる群より選択される(2)に記載の分析方法。
(4)比吸光度比率が、吸光度の測定波長における1つの化合物の比吸光度と、それに対する他の化合物の比吸光度の相対値である、(2)又は(3)に記載の分析方法。
(5)1つの化合物が、アシアチン酸又はマデカシン酸である、(4)に記載の分析方法。
(6)逆相カラムクロマトグラフィーで用いる溶出溶媒が、pH3以下の水溶液と有機溶媒とを含む、(1)~(5)のいずれかに記載の分析方法。
(7)測定波長が207nm~225nmである、(1)~(6)のいずれかに記載の分析方法。
(8)前記各化合物の含有量は、予め同一条件で分析した1つの化合物の前記クロマトグラムから得られたピーク面積と前記1つの化合物の含有量との相関関係を用いて計算する(2)に記載の分析方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示の方法によれば、例えば、極めて簡便にゴツコラ抽出物中の複数の化合物を定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1-1】図1-1は、アシアチン酸、マデカシン酸、アシアチコシド、マデカソシド及びアラリアジオールの標準溶液を用いてHPLC分析を行ったときの各ピークの溶出位置を示すクロマトグラムである。
図1-2】図1-2は、ケルセチン及びケンフェロールの標準溶液を用いてHPLC分析を行ったときの各ピークの溶出位置を示すクロマトグラムである。
図2図2は、ゴツコラの50%エタノール粗抽出液を用いてHPLC分析を行ったときの各化合物の溶出位置を示すクロマトグラムである。
図3図3は、HP20処理液を用いてHPLC分析を行ったときの各化合物の溶出位置を示すクロマトグラムである。
図4図4は、粗抽出液をUnison UK-C18カラム(内径250mm×4mm、粒子径3μm)で分析したクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本開示の各実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本開示の解決手段に必須であるとは限らない。
【0014】
(ゴツコラ抽出物)
本開示の分析方法で使用するゴツコラは、花、花穂、果実、茎、葉、葉柄、枝、枝葉、根茎、根、種子又は全草を用いるが、その他、同属種を用いることもできる。抽出方法としては、水又は有機溶媒(エタノール溶液など)にて抽出することができ、有機溶媒と水の混合溶媒が好ましい。有機溶媒にはメタノール、エタノール等の低級アルコール、アセトニトリル、アセトンなどが使用できるが、安全性の面からエタノール、メタノールが良い。アルコールと水の混合比はアルコール:水=10:90~60:40が好ましい。アルコール濃度が高いと次工程の担体への保持が困難となり、10%以下では分析対象化合物が十分溶解しない。好ましくは、50%エタノール水溶液を抽出溶媒として用いる。1つの実施形態としては、ゴツコラの全草からのエタノール抽出物を用いることが好ましい。
【0015】
ゴツコラ抽出物に含まれる1つの分析対象化合物は、下記式(I):
【化1】
で表されるアラリアジオール(araliadiol、CAS No.1354638-93-9)である。上記式(I)で表される化合物は、3位と8位に不斉炭素原子を含む。したがって、分析対象化合物はこれらの位置に関する鏡像異性体であってもよい。また、アラリアジオールは塩の形態であってもよく、式(I)で表される化合物のヒドロキシ基が適度な酸性を有する場合の塩としては、例えば、アルミニウムのような金属塩、リチウム、ナトリウム又はカリウムのようなアルカリ金属塩、カルシウム又はマグネシウムのようなアルカリ土類金属塩、およびアンモニウム又は置換アンモニウム塩が挙げられる。
【0016】
ゴツコラ抽出物に含まれる他の有効成分としては、例えば、以下に示すトリテルペノイド類であり、好ましくは、マデカシン酸、アシアチン酸などのトリテルペン酸及びそれらの配糖体を分析対象物として挙げることができる。
【0017】
【化2】
【0018】
ゴツコラ抽出物に含まれるさらに他の有効成分として、例えば、以下に示すケルセチン及びケンフェロールなどのフラボノイド類を分析対象物として挙げることができる。
【化3】
【0019】
したがって、1つの実施形態では、本開示の方法における分析対象化合物は、ゴツコラ抽出物に含まれるアシアチン酸、マデカシン酸、アシアチコシド、マデカソシド及びアラリアジオールの少なくとも2種以上であり、3種以上が好ましく、4種又は5種を同時に分析することがより好ましい。
【0020】
さらに好ましい実施形態では、ゴツコラ抽出物に含まれる分析対象化合物としては、ケルセチン及びケンフェロールなどを含んでもよい。
【0021】
(分析試料の調製)
本開示の分析方法は、上記で調製したゴツコラ抽出物を溶媒に溶解して分析試料を調製する。ゴツコラ抽出物は、上述したような粗抽出液であっても、これをさらに粗精製した後の処理液であってもよい。本開示の分析対象化合物はトリテルペノイドなどの極性が小さな疎水性物質を含むことから、粗精製の方法として、分析試料から糖類、アミノ酸、タンパク、ミネラル等の親水性物質を除去する方法があり、疎水性担体に分析対象化合物を吸着させ、親水性物質を洗い流す作業を行う。疎水性担体としては、芳香族系、置換芳香族系、又はアクリル系の化学構造を有する多孔性合成吸着剤から選択し使用することができる。芳香族系吸着剤として、具体的には架橋スチレン系多孔質重合体を、また、置換芳香族系吸着剤としては該芳香族重合体の芳香核に臭素原子を結合させたものを挙げることができる。市販品としては、例えば三菱ケミカル株式会社製DIAION HPシリーズ、SEPABEDAS SP シリーズ等を選択して使用することができる。疎水性担体の形状は、特に限定されるものではないが、通常、粒状体のものが好ましく、粒度分布として粒径250μm以上の粒子が90%以上含有するものを採用することができる。
【0022】
(カラムクロマトグラフィーによる分離)
続いて、上記のように調製した分析試料を逆相カラムクロマトグラフィーで分離する。具体的には、液体クロマトグラフィーまたは高圧下での高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を採用することができる。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いる場合の分画条件としては、例えば、温度20~25℃、圧力8~23Mpa、流通速度0.2~2mL/分、の範囲が好ましく、これらの条件は任意に選択することができる。
【0023】
HPLCによる分析の条件としては、一般的な紫外領域における吸光度検出法を用いるのが望ましい。分析カラムとしてはC18のODSカラムを使用するのがもっとも好ましい。移動相(溶離液)には、メタノールまたはアセトニトリルの水の混合溶媒がよい。実施例ではアセトニトリル:水=20:80~95:5を使用したが、その混合比は適宜変更できる。また、移動相に少量の酸またはアルカリを添加できる。酸としては有機酸、特にギ酸、酢酸、リン酸がよく、アルカリとしては有機アミンやアンモニアが使用できる。
【0024】
1つの実施形態では、上記逆相カラムクロマトグラフィーによる各化合物の分離を改善して夫々の化合物を明確に分離するために、溶出溶媒が、pH3以下の水溶液と有機溶媒とを含むことが好ましい。例えば、0.1%のリン酸水溶液とアセトニトリルの混合溶媒である。
【0025】
(各有効成分の含有量の定量)
本開示の分析方法における定量は、上記逆相カラムクロマトグラフィーにより溶出される各化合物の保持時間と吸光度との関係を示すクロマトグラムから計算することができる。例えば、ある化合物の測定波長における比吸光度が既知の場合は、測定された溶液の吸光度を比吸光度で除することで濃度を算出する方法である。具体的には、測定対象化合物のクロマトグラムが単一のピークを示す場合は当該ピーク面積と比吸光度から当該化合物の含有量を算出することできる。当該ピーク面積は、測定対象化合物を含む溶液の容量と吸光度の積に比例するからである。従って、予め濃度既知の対象化合物を含む溶液を用いて、同一条件で測定されたクロマトグラムから、上記ピーク面積と対象化合物の含有量との相関関係(相関係数又は関係式)を求めておくことができる。含有量とは、分析試料中における分析対象化合物の濃度を意味し、一般的には、質量%又はμg/mLで表すことができる。
【0026】
ここで、比吸光度とは、層長を1cm、各化合物の濃度を1w/v%の溶液に換算したときの吸光度(E1% 1cm)のことである。また、層長を1cm、化合物の濃度1mol/Lの溶液に換算したときの吸光度であるモル吸光係数を用いてもよい。吸光度は、分析対象化合物の水溶液を通過する光の、透過光の強度に対する入射光の強度の比として定義される透過度を、逆数にして常用対数としたものとして定義され、一般的に層長及び濃度に比例して増加する。一方、比吸光度及びモル吸光係数は層長及び濃度に依存しない。
【0027】
吸光度及び比吸光度は例えば第16改正日本薬局方「46 一般試験法」「2.24 紫外可視吸光度測定法」に記載の方法によって測定及び決定することができる。例えば、吸光度は、光源としてタングステンランプ又はハロゲンタングステンランプを用いる分光光度計を使用して測定することができる。測定のためのセルとしては、ガラス製又は石英製のものを使用することができる。
【0028】
本開示において、比吸光度比率とは、以下の割合をいう。すなわち、上記と同様の方法で各化合物の比吸光度を算出し、1つの化合物の比吸光度に対する、その他の化合物の比吸光度の割合をいう。これによって、当該1つの化合物について同一の分析条件でクロマトグラムのピーク面積と濃度との相関関係が分かれば、他の化合物についても当該相関関係と比吸光度比率とを用いて含有量(濃度)を計算することができる。当該1つの化合物は、アシアチン酸、マデカシン酸、アシアチコシド、マデカソシド及びアラリアジオールの中から任意に選択することができるが、入手及び取り扱いの容易性の観点からアシアチン酸又はマデカシン酸が好ましく、アシアチン酸がさらに好ましい。従って、本開示の特に好ましい実施形態では、複数の化合物を分析定量する際に、単一の化合物についてのみ検量線を作成して、クロマトグラムのピーク面積と濃度との相関関係を求めるだけでよいという有利な効果を有する。
【0029】
1つの実施形態では、上記逆相カラムクロマトグラフィーにより分離された化合物の検出の感度(sensitivity)をより高めるために、上記吸光度の測定波長が207~225nmであることが好ましく、208~215nmであることがより好ましく、約210nmであることがさらに好ましい。
【0030】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。なお、以下の実施例において、各種成分の添加量を示す数値の単位%は、質量%を意味する。
【実施例0031】
[ゴツコラ抽出物の調製]
ゴツコラの全草100gに50%エタノールを1500g加え、室温で7日間抽出し、ろ過して抽出液を得た。ゴツコラの50%エタノール抽出液には、アラリアジオールの他、フェニルプロパノイド、フラボノイドおよびトリテルペノイドなどその他の成分も同時に抽出されることが分かっている(特許文献1参照)。この抽出液を「50%エタノール抽出粗液」と称する。この50%エタノール抽出粗液を、最終濃度25%エタノール溶液となるように水で希釈し、その全量を、芳香族系合成吸着剤であるダイヤイオンHP20(三菱ケミカル株式会社製)約500mLを充填したカラムに入れて、70%のエタノール約1300gを用いてカラム吸着物を溶出した。この70%エタノールにて溶出した溶出液を「HP20処理液」と称する。
【0032】
[ゴツコラ抽出物の成分分析]
ゴツコラ抽出物の成分分析に使用した装置は、HPLCシステム(Prominence、島津製作所)を用いた。クロマトグラフィーによる分離は、Mightysil RP-18GPカラム(内径250mm×4mm、粒子径5μm)を用いて行った。移動相はアセトニトリル/水のグラジエントとし(表1)、水相には0.1%となるようにリン酸を添加しpH約2.2のリン酸水溶液を用いた。流速1mL/分、検出波長210nmで行った。サンプルの注入量は10μLである。
【0033】
【表1】
【0034】
[標準溶液の調製と比吸光度比率の計算]
アシアチン酸(富士フイルム和光純薬株式会社)及びマデカシン酸(フナコシ株式会社)は、それぞれ市販の試薬を購入し、試験成績書に記載の含量を用いた。アシアチコシド及びマデカソシド(Naturex)は、それぞれ単離精製品を購入し、試験成績書に記載の含量を用いた。アラリアジオールは、自社で精製し、検量線で定量した値を含量とした。
【0035】
約10mgの上記試料を秤量し、アシアチン酸、マデカシン酸、アシアチコシド及びマデカソシドについては20mLのエタノールに溶解し、アラリアジオールについては100mLのエタノールに溶解した。この標準溶液を用いて上記HPLC分析を行った結果を図1-1に示す。また、ケルセチンとケンフェロールについては、それぞれ約10mgを秤量し、2500mLのエタノールに溶解した。この標準溶液を用いて上記HPLC分析を行った結果を図1-2に示す。各化合物について3回ずつ分析し、そのピーク面積の平均値を計算した。各測定試料のピーク面積平均値をその濃度で除して、「面積/濃度」値を算出した。アシアチン酸の「面積/濃度」値を1としたときの各化合物の相対値の逆数を比吸光度比率とした。その結果を以下の表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
また、上記と同一条件で、ゴツコラの50%エタノール抽出粗液を分析した結果を図2に示す。図2において、「Madecaassoside(1+2)」は、マデカソシドとマデカソシドの異性体を含む。「Madecassic acid(1+2)」は、マデカシン酸とマデカシン酸の異性体を含む。
【0038】
[アシアチン酸の検量線作成]
アシアチン酸(富士フイルム和光純薬株式会社)をエタノール溶液に溶解及び段階希釈して5~1000μg/mLの7種類の標準溶液を作成し、HPLC分析で得られた面積値を以下の表3に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
上記XとYの関係を、最小二乗法を用いて直線回帰した式及び相関係数は以下のとおりである:Y=4312.92108X+1040.58273
=0.99999
【0041】
[HP20処理液中の各化合物の含有量の測定]
上記で得られたHP20処理液をHPLCで分析し、得られたピーク面積Y及びあらかじめ求めた比吸光度比率Fから各化合物濃度を以下の計算式を用いて算出した。
X(μg/mL)=[(Y-1040.58273)/4312.92108]×F
HPLCのクロマトグラムを図3に、計算結果を以下の表4に示す。
【0042】
【表4】
表4に示すように、あらかじめ比吸光度比率を求めておくことで、アシアチン酸のみの検量線を用いて、5種類の化合物を同時に定量できることが分かった。
【0043】
[分析方法の変形例]
ゴツコラ抽出物の成分分析に用いたカラムの粒子サイズを変更して、「50%エタノール抽出粗液」をサンプルとして、目的化合物の分析を行った。HPLCシステムに使用したカラムをUnison UK-C18カラム(内径250mm×4mm、粒子径3μm)とした以外は、上記実施例と同様の条件で行った。
【0044】
上記実施例で用いたものと同じ標準溶液用試料約10mgを精密に秤量し、アシアチン酸、マデカシン酸については200mLのエタノールに溶解し、アシアチコシド及びマデカソシドについては100mLのエタノールに溶解し、アラリアジオールについては3000mLのエタノールに溶解し、ケルセチンとケンフェロールについては2500mLのエタノールに溶解した。
【0045】
この標準溶液を用いて上記HPLC分析を行った。各化合物について3回ずつ分析し、そのピーク面積の平均値を計算した。各測定試料のピーク面積平均値をその濃度で除して、「面積/濃度」値を算出した。アシアチン酸の「面積/濃度」値を1としたときの各化合物の相対値の逆数を比吸光度比率とした。その結果を以下の表5に示す。
【0046】
【表5】
【0047】
[アシアチン酸の検量線作成]
アシアチン酸(富士フイルム和光純薬株式会社)をエタノール溶液に溶解及び段階希釈して5~300μg/mLの5種類の標準溶液を作成し、HPLC分析で得られた面積値を以下の表6に示す。
【0048】
【表6】
【0049】
上記XとYの関係を、最小二乗法を用いて直線回帰した式及び相関係数は以下のとおりである:Y=4023.17219X+1107.10239
=0.99999
【0050】
[50%エタノール抽出粗液中の各化合物の含有量の測定]
50%エタノール抽出粗液を、Unison UK-C18カラムを用いたHPLCで分析し、得られたピーク面積Y及びあらかじめ求めた比吸光度比率Fから各化合物濃度を以下の計算式を用いて算出した。
X(μg/mL)=[(Y-1107.10239)/4023.17219]×F
HPLCのクロマトグラムを図4に、計算結果を以下の表7に示す。
【0051】
【表7】
表7に示すように、あらかじめ比吸光度比率を求めておくことで、アシアチン酸のみの検量線を用いて、7種類の化合物を同時に定量できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本開示の方法によれば、ゴツコラ抽出物に含まれる複数の有効成分の含有量を同時に且つ簡便に分析することができるため、ゴツコラ抽出物を医薬品、健康食品又は化粧品の原材料として用いる場合の品質管理や、ひいては、最終製品中の有効成分の含有量を測定するために用いることができ、医薬品、食品、化粧品分野で利用可能である。
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4