(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035173
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】高感度PCR法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/686 20180101AFI20240306BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20240306BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240306BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/6876 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023139190
(22)【出願日】2023-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2022137094
(32)【優先日】2022-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】藤井 政幸
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA17
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ10
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QR66
4B063QS10
4B063QS25
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】従来遺伝子の一塩基変異を識別するには、TaqManプローブを用いて行われていたが、遺伝子-プローブ間の結合親和性(融解温度)の差を利用して識別するので、不要なものも増幅される。したがって、一塩基変異を識別する精度、検出感度がともに低いという課題があった。
【解決手段】プルーフリーディング活性を有するDNAポリメラーゼと、
3’-末端から2番目にポリメラーゼ活性を阻害する人工型核酸が配置され、前記3’-末端に天然型のDNAが配置された化学修飾プライマーを用いる高感度PCR法では、3’-末端が標的となる塩基と一致しない場合、3’-末端を除去し、人工型核酸を露出させ、ポリメラーゼ活性を停止させるので、きわめて精度の高い検出が可能になる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プルーフリーディング活性を有するDNAポリメラーゼと、
3’-末端から2番目にポリメラーゼ活性を阻害する人工型核酸が配置され、前記3’-末端に天然型のDNAが配置された化学修飾プライマーを用いる高感度PCR法。
【請求項2】
さらに、サイバーグリーンを含むことを特徴とする請求項1に記載された高感度PCR法。
【請求項3】
前記人工型核酸は、糖の2’位を2’-OMe若しくは2’-OCH2CH2OMeで置換したRNA誘導体である請求項1または2の何れかに記載された高感度PCR法。
【請求項4】
前記人工型核酸を含むプライマーの各塩基間の骨格はリン酸ジエステル結合若しくはホスホロチオエート結合の何れかである請求項1または2の何れかに記載された高感度PCR法。
【請求項5】
前記化学修飾プライマーの前記3’-末端から3番目から5’-末端までは、ポリメラーゼ活性を阻害しないヌクレオチドである請求項1または2の何れかに記載された高感度PCR法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一塩基の変異型を高精度で検出することができる高感度PCR法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遺伝子の一塩基変異を識別する場合はTaqManプローブを用いる方法が良く使われている。
【0003】
特許文献1には、TaqManプローブに加えてポリメラーゼの5’-エクソヌクレアーゼ活性により分解されないWT(ワイルドタイプ)ブロッカー核酸断片を、変異点を含む領域に結合させたのち、プライマーを結合させPCRを行う。DNAに変異点があれば、WTブロッカー核酸断片は変異型DNAへの結合が弱く、PCRは行われるが、変異点のない野生型DNAには強く結合して野生型のPCRを妨害する。一方、TaqManプローブは反対に野生型DNAへの結合は弱く、変異型DNAにより強く結合してポリメラーゼの5’-エクソヌクレアーゼ活性により分解されてPCRの進行に伴って蛍光が増強すると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
TaqManプローブを用いた方法は、遺伝子-プローブ間の結合親和性(融解温度)の差を利用して遺伝子の一塩基変異を識別するので、TaqManプローブもWTブロッカーも変異型DNAか野生型DNAの一方に100%結合し、他方に全く結合しない温度設定は原理的に不可能である。TaqManプローブが目的外の野生型DNAにも、WTブロッカーが目的外の変異型DNAにもある程度結合する分だけ検出感度を低下させることになる。そのため、同一細胞内に発現する野生型遺伝子とその一塩基変異遺伝子に由来するmRNAをリアルタイムPCRによって定量解析することはできず、一塩基変異遺伝子を標的とした薬物の効果を遺伝子レベルで定量解析する手段がなかった。
【0006】
したがって、まず、検出感度が50-100コピー以上の検体が検出限界となる。つまり、それ以下の検体数で増幅するほどの高感度性は有していない。また、変異識別精度(野生型中に混在する変異型比率)は1-5%程度が限界であった。また、個々の評価系毎に精密なプライマー、プローブ設計、反応温度設定が必要となり、検査毎に変異識別精度、検出精度にバラツキが生じやすくなる。また、TaqManプローブは高価である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る高感度PCR法は上記の課題に鑑みて想到されたものであり、ポリメラーゼ活性を阻害するヌクレオチドも3’-末端になければ増幅が可能であるが、3’-末端に露出すると、ポリメラーゼ活性が阻害されるという性質を利用することで、一塩基変異を検出する。
【0008】
より具体的に本発明に係る高感度PCR法は、
プルーフリーディング活性を有するDNAポリメラーゼと、
3’-末端から2番目にポリメラーゼ活性を阻害する人工型核酸が配置され、前記3’-末端に天然型のDNAが配置された化学修飾プライマーを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は新規化学修飾プライマーと、プルーフリーディング活性を有するDNAポリメラーゼを組み合わせたサイバーグリーン法を利用するPCR技術である。融解温度の違いに基づく検出は行わないので、従来とは異なる原理による一塩基変異の識別方法と言える。
【0010】
したがって、非常に少ないコピー数(10コピー数からでも可能)の検出対象遺伝子であっても増幅ができ、また、0.01%の混入量でも明確に検出が可能である。
【0011】
また、フォワードとリバースの両プライマーで変異点を指定することができるので、2箇所が同時に一致する検体のみ増幅させることができ、非常に高感度な検出が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に用いるプライマーの構成を示す図である。
【
図2】本発明に係るPCR法の動作原理を説明する図である。
【
図3】(a)プライマーPOM2-1をKRASwt(35G)に対して使用した結果であり、(b)KRASG12D(35A)に対して使用した結果の増幅曲線を示すグラフである。
【
図4】テンプレートTa-t5(0.2μM)(配列番号5)と、プライマーPOM2c(0.2μM)(配列番号8)を1:1で混合して、Takara Ex Taq DNAポリメラー(1U)を加えて、72℃で1分間反応させ、その溶液を液体クロマトグラフィーで調べた結果を表すグラフである。
【
図5】(a)プライマーPOM2aをKRASG12D(35A)に対して用いた増幅曲線であり、(b)KRASwt(35G)に対して用いた増幅曲線である。
【
図6】(c)プライマーPOM2aをKRASG12A(35C)に対して用いた増幅曲線であり、(d)KRASG12V(35T)に対して用いた増幅曲線である。
【
図7】プライマーPOM2aを、濃度を変えたTa(35A)に対してPCRを行った際の増幅曲線である。
【
図8】8.3×10
-9μMのTg(35G)に含まれた8.3×10
-13μMのTa(35A)を検出することを示す増幅曲線である。
【
図9】SARS-CoV-2変異型のうち、δ株(o-BA.5)、BA1株、BA2株を識別する原理を説明する図である。
【
図10】プライマー対の利用方法を説明する図である。
【
図11】プライマーPOB2gを用いて、濃度を8.3×10
-9μM~8.3×10
-13μMまで変化させたTg(35G)に対してPCRを行った際の増幅曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明に係る高感度PCR法について図面および実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。また、異なる実施形態及び実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態及び実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0014】
本発明はプライマー中に意図的にポリメラーゼ活性を阻害するヌクレオチドを挿入し、プライマーの3’-末端が遺伝子と異なっている場合に3’-末端の塩基を除去する3’-エクソヌクレアーゼ活性を利用し、ポリメラーゼ活性を阻害するヌクレオチドを3’-末端に露出させ、それ以上プライマーからの伸長が生じないようにすることで、一塩基変異を検出する。
【0015】
本発明に係る高感度PCR法では、プルーフリーディング活性を有するDNAポリメラーゼと、3’-末端から2番目にポリメラーゼ活性を阻害する人工型核酸が配置され、前記3’-末端に天然型のDNAが配置された化学修飾プライマーを利用する。
【0016】
プルーフリーディング活性を有するDNAポリメラーゼとは、鋳型鎖との間で間違った塩基があると、その塩基を取り除く機能を有するDNAポリメラーゼのことをいう。3’-エクソヌクレアーゼ活性を有していればよい。このようなDNAポリメラーゼは、HiFiポリメラーゼとも呼ばれており、市販経路で入手することが可能である。例えば、TaKaRa EX Taqポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社)、PfuUltra II Fusion DNAポリメラーゼ(アジレントテクノロジーズ社)、Phusion Plus DANポリメラーゼ(Thermo Fisher Scientific社)等が好適に利用できる。
【0017】
図1には本発明で利用するプライマーを図示する。プライマーは、5’-末端からヌクレオチド20がリン酸ジエステル結合によって、連結された構造をしている。ヌクレオチド20は、核酸塩基18が連結した糖14にリン酸ジエステル部16が結合したものである。核酸塩基18と糖14が連結したものはヌクレオシドと呼ばれる。したがって、ヌクレオシド同士がリン酸ジエステル部16で結合していると言ってよい。
【0018】
本発明で利用するプライマー10では、3’-末端から2番目のヌクレオチド20bの糖14の2’位の化学修飾が、プルーフリーディング活性を有するポリメラーゼのポリメラーゼ活性を阻害する修飾であればよい。なお、3’-末端のヌクレオチド20aは天然型のヌクレオチドである。なお、天然型とはデオキシリボース若しくはリボースをいい、天然に存在し、ポリメラーゼ活性を阻害しないものをいう。
【0019】
3’-末端から2番目のヌクレオチド20bの具体例としては、一般式2’-OR1RNA(糖14の2’位がR1とエーテル結合したRNAの意味)で表される2’-O修飾RNA誘導体が挙げられる。一般式を(1)式に示す。なお、ここでは塩基部分はアデニンを記載しているが、例示であり、他の塩基であってもよい(以下の構造式の例示においても同じ)。
【0020】
【0021】
ここでR1はメチル基、エチル基、アリル基、プロパルギル基、メトキシエチル基と言った官能基が好適に利用できる。(2)式はR1がメチル基(2’-O-メチルアデノシン)、(3)式はR1がメトキシエチル基(2’-O-(メトキシエチル)アデノシン)の場合を示す。(3)式ではリボースの2’-Oにメトキシエチル基が(エーテル)結合している。
【0022】
【0023】
また、3’-末端から2番目のヌクレオチド20bのヌクレオシド自体が、2’,4’-Locked RNAやBNANC(Me)であってもよい。(4)式にはBNANC(Me)(2’-O,4’-C-(N-メチルアミノメチレン)アデノシン)を示す。(4)式では、リボースの2’-Oと4’-CがN-メチルアミノメチレン基で架橋されている。これらのヌクレオチドが3’-末端にあれば、ポリメラーゼ活性が阻害されるからである。
【0024】
【0025】
プライマー10の3’-末端から3番目のヌクレオチドから5’-末端までのヌクレオチド20は、DNA、RNA、2’-OMeRNA、LNA、PNA、モルフォリノ核酸等のDNAポリメラーゼの反応を阻害しない範囲であらゆる修飾核酸含んでも構わない。また、蛍光色素や機能性分子などとの核酸コンジュゲートを含んでよい。
【0026】
また、3’-末端のヌクレオチド20aのリン酸ジエステル部16aは、ホスホロチオエート結合であってもよい。例えば、リン酸と二重結合している酸素が硫黄に置き換わっていてもよい。このようにリン酸ジエステル部16aを修飾しても3’-末端にあると、エキソヌクレアーゼ活性によって3’-末端の塩基が削除されると、ポリメラーゼ活性を阻害することができるからである。
【0027】
糖14に化学修飾を受けているヌクレオチド若しくはリン酸ジエステル部16aの少なくとも何れかを有するものを人工型ヌクレオチドと呼ぶ。本発明において、人工型ヌクレオチドはポリメラーゼ活性を阻害する。また、人工型核酸と呼んでもよい。また、人工型ヌクレオチドには、それ以外の形状であって、3’-末端に存在するとポリメラーゼ活性を阻害するものを含めてよい。また、人工型ヌクレオチドを含むプライマーを化学修飾プライマーとも呼ぶ。
【0028】
また、本発明に係る高感度PCR法では、二重螺旋を組んでいるDNAと特異的に結合する色素を用いるのが良い。特にPCRを行う際は、必要である。核酸の染色に用いられる非対称のシアニン系色素であるサイバーグリーンは好適に利用できる。なお、二重螺旋を組むDNAに特異的に結合する色素であれば、サイバーグリーンに限定されるものではなく、サイバーグリーンの誘導体であってもよい。
【0029】
<動作原理>
本発明に係るPCR法の動作原理を
図2に示す。
図2(a)には、対象となるDNAとプライマー10を示す。対象DNAの一方を主鎖30とし、その対象鎖を補鎖32とする。いま主鎖30の所定の部分の塩基配列が「gat」であったとする。なお、塩基配列のa、t、g、cは、それぞれアデニン、チミン、グアニン、シトシンを表す。補鎖32の対応箇所は5’-末端から「atc」の配列となる。
【0030】
この主鎖30中の逆三角印をつけたアデニン(a)を検出対象塩基とする。この場合、プライマー10の3’-末端はアデニン(a)が結合した天然型ヌクレオチドとなり、3’-末端から2番目は、グアニン(g)が結合した人工型ヌクレオチドとなる。
【0031】
このプライマー10でPCRを行うと、
図2(b)に示す様に、アニーリングによって、主鎖30と補鎖32が分離したのち、プライマー10が補鎖32に結合し、プライマー10の3’-末端から続けてプライマー10を伸長させる。つまり、通常のPCRが行われ、増幅が行われる。
【0032】
一方、
図2(c)には、主鎖30のアデニン(a)がグアニン(g)に変位してしまったDNAが示されている。これに
図2(a)で用いたのと同じプライマー10を使って、PCRを行う。この際にはプルーフリーディング活性を有するポリメラーゼが用いられる。
【0033】
アニーリング工程で主鎖30と分離した補鎖32の対象箇所がアデニン(a)と結合するチミン(t)ではなく、シトシン(c)になっている(
図2(d))ので、プルーフリーディング活性を有するポリメラーゼは、エキソヌクレアーゼ活性によりプライマー10のアデニン(a)を除く(
図2(e))。そして、ポリメラーゼは、続いて伸長を行おうとする。
【0034】
しかし、プライマー10の3’-末端は人工型ヌクレオチドとなっており、ポリメラーゼはポリメラーゼ活性を発揮できず、核酸の伸長は行われてない(
図2(f))。結果、主鎖30中の一塩基の違いによって、PCRによる増幅は実施されない。なお、適度な位置に設定されたリバースプライマーは、補鎖32との間でポリメラーゼ反応を行うが、1対の2本鎖DNAから1対の2本鎖DNAしか生成できないので、何度サイクルを繰り返しても、全体としてのコピー数は増えない。以上のように、本発明に係る高感度PCR法は一塩基の違いを確実に検出することができる。
【0035】
<利用の形態>
本発明に係る高感度PCR法では、後述する実施例に示す様に、特定タンパク質の変異点を高感度で検出することができるため、一塩基変異検出のためのマスターミックスを構成することができる。具体的には、本発明に係るプライマーとプルーフリーディング活性を有するポリメラーゼ、DNAと特異的に結合する色素、dNTP、MgCl2、バッファー等を最適料に含むものである。
【0036】
ここでプライマーは、3’-末端には標的となる塩基(若しくはその相補塩基)で、3’-末端から2番目にはポリメラーゼ活性を阻害する人工型ヌクレオチドが結合したものである。
【実施例0037】
(実施例1)
以下に本発明に係る高感度PCR法について実施例を示しながら説明を行う。
【0038】
<増幅対象の説明>
対象となるDNAは、ガン遺伝子とされているKRAS遺伝子とした。KRAS遺伝子は、そのmRNA全長5430bpのうちKRASタンパク質コード領域(191..760)(タンパク質情報配列)のatg(開始コドン)から始まる配列の中で35番目に変異点を持つことが知られている。
【0039】
KRASのタンパク質コード領域の中の205番から96塩基分をテンプレートとした。野生型KRASの205番から96塩基分の配列を配列番号1として、表1に示す。配列番号1を「KRAS野生種:KRASwt(35G)、もしくはTg(35G)」と呼ぶ。
【0040】
また、変異種としてグアニンをアデニンに変異させたもの「KRASG12D(35G>A)、若しくはTa(35A)」を配列番号2、グアニンをシトシンに変異させたもの「KRASG12A(35G>C)、若しくはTc(35C)」を配列番号3、グアニンをチミンに変異させたもの「KRASG12V(35G>T)、若しくはTt(35T)」を配列番号4として用意した。なお、アミノ酸G、D、A、Vはそれぞれグリシン、アスパラギン酸、アラニン、バリンを表す。開始コドンから35番目の変異点は配列番号1、2、3、4においては5’-末端から21番目にあたる。
【0041】
また、確認実験用のテンプレートとしてTa(35A)の5’-末端から21塩基分の補鎖の5’-末端にチミンを5つ結合させたものをTa-t5として配列番号5とした。
【0042】
【0043】
これに対して、表2を参照して、3’-末端をグアニン、アデニン、シトシン、チミンとしたフォワードプライマーをそれぞれPOM2g、POM2a、POM2c、POM2tとし、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9とした。これらのプライマーは表1の下線で示す配列番号1~4の5’-末端の1番目から21番目までを結合対象とするように設計した。
【0044】
また、これらのプライマーは(2)式で示すように、3’-末端から2番目のヌクレオチドは糖14bの2’の位置に「-OCH3」(「-OMe」とも記載できる。)修飾がされている人工型ヌクレオチドである。すなわち、3’-末端から2番目のヌクレオシドは、2’-O-メチルグアノシンである。これを「Gm」として表した。3’-末端から2番目のヌクレオチド20bは「修飾されたヌクレオチド:人工型ヌクレオチド」である。
【0045】
また、これらのフォワードプライマーの3’-末端を除去したプライマーをPOM2-1として配列番号10で示した。
【0046】
また、POM2g、POM2a、POM2c、POM2tの3’-末端と3’-末端から2番目のヌクレオシドを結合するリン酸ジエステル結合部16aをホスホロチオエートにしたプライマーをPSM2^g、PSM2^a、PSM2^c、PSM2^tとし、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14で示した。
【0047】
ホスホロチオエートはリン酸ジエステル結合部16aのリン酸と二重結合をしている酸素を硫黄に置き換えたものである。表2では、ホスホロチオエート結合を有するという意味で3’-末端の塩基記号の左肩に「^」記号をつけて表した。
【0048】
また、KRASの野生型および変異型に対するリバースプライマーをPRevとして配列番号15で示した。これは表1の増幅部分の3’-末端から22塩基分である。リバースプライマーPRevは、表1の配列の3’-末端から下線を引いた部分に結合する。
【0049】
【0050】
PCRには、Premix Taq標準プロトコールに従った。また、プルーフリーディング活性を有するDNAポリメラーゼとして、「TaKaRa EX Taq ポリメラーゼTM」を用いた。実行サイクルは、98℃で30秒間保持(熱変性)した後、55℃30秒間保持(アニーリング)、72℃60秒間保持(ポリメラーゼ反応)のサイクルを30~50サイクル行った。最後に98℃30秒保持を行った。反応開始前の各成分の最終濃度を表3に示す。なお、「mastermix」には、プライマーは含まれていない。プライマーは上記のプライマーを用いている。また「dsGreen」は、二重螺旋を組んでいるDNAと特異的に結合する色素である。このプロトコールを単に「標準プロトコール」と呼ぶ。以下の実施例は断りのない限り標準プロトコールに従ってPCRを行った。なお、PCR装置は、Agilent Technologies(アジレントテクノロジーズ)社製AriaMx Real-Time PCR Systemを用いた。
【0051】
【0052】
<最初の予備実験>
図3にプライマーPOM2-1を用いた場合の結果を示す。
図3(a)はKRASwt(35G)に対して使用した結果の増幅曲線を示し、
図3(b)はKRASG12D(35A)に対して使用した結果の増幅曲線を示す。折れ線の数は試行数毎の結果である。両グラフとも横軸はサイクル数であり、縦軸は蛍光強度(ΔRn)を表す。閾値ラインは三角印をつけた。両グラフとも閾値ラインは一番上のラインである。両グラフともPCRサイクルを繰り返しても閾値ラインを超えず、増幅されなかった。
【0053】
<3’-エクソヌクレアーゼ活性>
次に、テンプレートTa-t5(0.2μM)(配列番号5)と、プライマーPOM2c(0.2μM)(配列番号8)を1:1で混合して、Takara Ex Taq DNAポリメラー(1U)を加えて、72℃で1分間反応させ、その溶液を液体クロマトグラフィーで調べた結果を
図4に示す。
図4を参照して、横軸は滞留時間(分)であり、縦軸は強度(μV)である。その結果、プライマーとして入れたPOM2cのピークは観測されず、3’-末端が欠如したPOM2-1とテンプレートのTa-t5だけが観測された。
【0054】
以上のように、3’-末端がテンプレートの該当箇所(ここでは21番目)の塩基が、プライマーの3’-末端と一致していない場合は、プルーフリーディング活性を有するポリメラーゼの3’-エクソヌクレアーゼ活性によって、プライマーの3’-末端の塩基は除去されることが確認できた。
【0055】
<一塩基検出の立証>
次に、テンプレートとして、Tg(35G)(配列番号1)、Ta(35A)(配列番号2)、Tc(35C)(配列番号3)、Tt(35T)(配列番号4)に対して、プライマーPOM2a(配列番号7)、POM2c(配列番号8)、POM2t(配列番号9)、PSM2^g(配列番号11)、PSM2^a(配列番号12)、PSM2^c(配列番号13)、PSM2^t(配列番号14)を用いて標準プロトコールのリアルタイムPCRを行った。
【0056】
図5および
図6にプライマーPOM2aを用いた場合の結果を例示する。
図5(a)はKRASG12D(35A)と共にリアルタイムPCRを行った結果であり、
図5(b)は、KRASwt(35G)、
図6(c)はKRASG12A(35C)、
図6(d)はKRASG12V(35T)の場合の結果である。
【0057】
これら全ての図に対して、横軸はサイクル数であり、縦軸は蛍光強度(ΔRn)を表す。また、閾値線は三角印で表したラインである。また、各リアルタイムPCRは同一条件のものを3回繰り返し、それらをプロットした。
図5および
図6からサイクル数を重ねて閾値線を超え、増幅したと認められるのはPOM2aをKRASG12D(35A)に対して用いた場合のみであった。他の組み合わせは、サイクル数を重ねても増幅を認められなかった。増幅が認められなかった状態を「検出されず」と呼ぶ。
【0058】
その他の組み合わせも合わせて結果を表4に示す。表4を参照して、左端列はプライマーの名称を示し、上端行には、各テンプレート毎のCt値を表す。表4を参照して、プライマーの3’-末端の塩基とテンプレートの21番目の塩基が同じ場合のみCt値を測定することができ、他の場合は、「検出されず」という結果になった。
【0059】
【0060】
これは、プルーフリーディング活性を有するDNAポリメラーゼが、プライマーの3’-末端と、テンプレートの21番目の塩基の組み合わせが一致しないため、プライマーの3’-末端を削除し、3’-末端から2番目の修飾されたヌクレオチド20bによって、ポリメラーゼ活性を失ったためであると結論できる。つまり、本発明の高感度PCR法であれば、特定の位置における一塩基の違いを検出することができた。
【0061】
<POM2の検出感度>
次に本発明の検出感度について調べた。テンプレートとしては、Ta(35A)(配列番号2)を用い、プライマーはPOM2a(配列番号7)を用いた。プライマーPOM2の初期濃度は2.0×10
-1μM、テンプレートTa(35A)の濃度は1倍(8.3×10
-9μM)、1/10倍、1/100倍、1/1000倍、1/10000倍の5種類を用意した。結果を
図7および表5に示す。
図7を参照して、横軸はサイクル数であり、縦軸は蛍光強度(ΔRn)である。表5には、サイクル閾値Ct値およびCt値間の差であるΔCtの値を記す。
【0062】
表5も参照すると、理論的には濃度が10分の1になるとΔCt値は3.32ずつ大きくなるはずであるが、表5の測定値も実験誤差を含んでほぼその差になっており、定量性が確認できた。また、1サンプル中わずか10コピー(10分子)からでも増幅させることができたことがわかる。
【0063】
【0064】
<希少変異の検出>
本発明に係る高感度PCR法では、上記の様にサンプルが非常に少ない場合でも、確実に増幅することができる。さらに、この高感度PCR法は、検出点の塩基が異なれば、増幅されないので、サンプル中にわずかに変異型が混在している場合でも検出することができる。そこで、野生型(KRASwt(35G)中に変異型であるKRASG12D(G35>A)が0.01%混入しているサンプルの検出および定量(Tg(35G)/Ta(35A)=1/0.0001)が可能であることを調べた。
【0065】
テンプレートとしてTg(35G)(配列番号1)を8.3×10-9μMとし、Ta(35A)(配列番号2)を8.3×10-13μMを用意した。
【0066】
また、プライマーとしてPOM2g(配列番号6)とPOM2a(配列番号7)をそれぞれ2.0×10
-1μMを用意した。これらを用いて表3のプロトコールでRT-PCRを行った。結果を
図8および表6に示す。
【0067】
図8を参照して、横軸はサイクル数であり、縦軸は蛍光強度(ΔRn)である。また、
図8は、プライマーPOM2aを用いた場合の結果と、プライマーPOM2gを用いた場合の結果を重ね合わせたものであり、リアルタイムPCRは、それぞれのプライマー毎に行った。
【0068】
この結果よりCt値を求め、結果を表6に示す。表6を参照して、プライマーPOM2gを用いた場合にはテンプレートTg(35G)に対してCt値は31.48±0.33であり、テンプレートTa(35A)に対しては、Ct値は42.12±0.44であり、ΔCtは10.64±0.36となった。この結果はプライマーPOM2gがテンプレートTg(35G)をテンプレートTa(35A)よりも2の10.64乗倍、すなわち約1596倍敏感に検出できたことを意味している。
【0069】
【0070】
<SARS-CoV-2変異型の検出>
現在世界中で猛威を振舞っているSARS-CoV-2ウイルスであるが、本発明に係る高感度PCT法を用いることで、検体量がわずかであっても、非常に高い精度で検出が可能である。このウイルスの識別には、スパイクタンパク質部分の変異で区別している。表7には野生型「Wu」、オミクロンBA1型「o-BA.1」、オミクロンBA2型「BA.2」、オミクロンBA5型「BA.5」の1355番目と1486番目の変異を示す。野生株において、これらの変異点を含むアミノ酸は452番目ロイシン「L」と496番目のグリシン「G」である。
【0071】
【0072】
表7からスパイクタンパクmRNAの1355と1486の2点の変異の組み合わせによって、o-BA1株、BA2株、BA5株を識別することができる。
図9にその検出原理を示す。
【0073】
図9を参照して、スパイクタンパク質の1355から5’-末端側に一定長のフォワードプライマーMxを設ける。また、1486から3’-末端側に一定長のリバースプライマーyMを設ける。すでに示したように、本発明に係る高感度PCR法では、このような場合、フォワードおよびリバースのプライマー両方で伸長動作が起こらないと増幅しない。したがって、表7の1355番目と1486番目を3’-末端とし、その1つ前のヌクレオチドを修飾されたヌクレオチドとすることで、これらのタイプを検出できる。具体的には、表8のようにプライマーを設定した。
【0074】
【0075】
表8を参照して、それぞれのフォワードプライマーは「F」の頭文字を持ち、リバースプライマーは「R」の頭文字を持つ。野生型のフォワードプライマーF1355w/oは3’-末端に1355番目のチミン「T」を有し、リバースプライマーR1486w/BA2の3’-末端に1486番目のグアニン「G」に結合するシトシン「C」が配置されている。以下BA1型株、BA2株、BA5株とも同様にフォワードプライマーの3’-末端には、1355番目の塩基を配置しリバースプライマーの3’-末端には1486番目の塩基の相手方塩基を配置した。
【0076】
そして、フォワードプライマー、リバースプライマーとも3’-末端から2番目の塩基には、糖部の2’に-OMeの修飾を行った。いずれのプライマーも3’-末端から2番目の塩基はシトシン「C」であったので、ヌクレオシドとしては2’-O-メチルシチジンとなる。表8では「(Cm)」と表した。
【0077】
テンプレートとしては、それぞれの変異株のスパイクタンパクを用い、PCRのプロトコールは、標準プロトコールに従った。リアルタイムPCRの結果を表9に示す。
【0078】
【0079】
表9を参照して、ウイルス型毎のプライマーによって、適用型が一致したスパイクタンパクだけが検出された。また、Ctの値より、定量検出も可能である。
【0080】
これは各ウイルス毎のプライマーが、それぞれのウイルスを検出するためのプライマーとして使用できることを示している。つまり、o-BA.5株に適用するプライマーの組合せは、o-BA.5株用プライマーであり、o-BA.1株に適用するプライマーの組合せは、o-BA.1株用プライマーであり、o-BA.2株に適用するプライマーの組合せは、o-BA.2株用プライマーと言える。
【0081】
図10には、これらのプライマーの利用例を示す。唾液検体を3分割し、それぞれの専用プライマーを用いてリアルタイムPCRを行う。すると、増幅しなかったプライマーに対応するウイルス変異株に対しては陰性であると判断できる。そして増幅した場合に、そのプライマーに対応するウイルス株に対して陽性であると判断できる。
図10では、o-BA.2株用プライマーの場合だけ増幅が確認でき、唾液検体は、o-BA.2株に対して陽性であると判断できる。また、この時のCtから定量分析も可能となる。
【0082】
<他のポリメラーゼ>
上記の実施例では、Takara Ex Taqポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社)を用いていたが、プルーフリーディング活性を有していれば、他のポリメラーゼでも当然本発明に係る高感度PCR法は実施することができる。
【0083】
表2で示したプライマーPOM2とPfuUltra II Fusion DNA ポリメラーゼ(アジレントテクノロジーズ社)およびPhusion Plus DNAポリメラーゼ(Thermo Fisher Scientific社)のポリメラーゼを使ってKRASの変移識別と同じ実験を行った。プロトコールは標準プロトコールを用いた。結果を表10および表11に示す。
【0084】
【0085】
【0086】
表10および表11からわかるように、プライマーの3’-末端が一致した場合だけ増幅されており、プルーフリーディング活性を有すれば、ポリメラーゼの種類によらないことがわかる。
【0087】
<他の構成を有するプライマー>
修飾プライマーであるPOM2は3’-末端から2番目のヌクレオシドが(2)式の構造をしているものであり、3’-末端にいるとポリメラーゼ活性を阻害する。ポリメラーゼ活性を阻害する他の構造のプライマーとして(3)式のリボース、(4)式のリボースを用いたヌクレオシドについて実施を行った。(3)式のリボースのヌクレオシドを用いたプライマーをPOMEと呼び、(4)式のリボースのヌクレオシドを用いたプライマーをPOBと呼ぶ。
【0088】
これらのヌクレオシドを用いたプライマーを用い、標準プロトコールに従ったRT-PCRを実行し、KRASの検出を行った。プライマーの配列を表12に示す。
【0089】
【0090】
プライマーPOMEの3’-末端から2番目のヌクレオチドは(GME)と表した。(3)式のリボースの構造である。プライマーPOB3’-末端から2番目のヌクレオチドは(GB)と表した。(4)式の構造のリボースである。プロトコールは、Takara Ex Taqポリメラーゼの場合と同じとした。結果を表13に示す。なお、GMEおよびGBともグアニンの修飾型である。
【0091】
【0092】
表13を参照して、プライマーPOMEもプライマーPOBも3’-末端が一致した場合のみ増幅が行われており、プルーフリーディング活性を有するポリメラーゼのエクソヌクレアーゼ活性によって、人工型ヌクレオチドが露出したケースではポリメラーゼ活性が阻害されていることがわかる。
【0093】
<POB2の検出感度>
POB2は3’-末端から2番目のヌクレオシドが(4)式の構造をしているものである。このプライマーについても検出感度を調べた。実験条件は<POM2の検出感度>と同じである。すなわち、プライマーPOB2gの初期濃度は2.0×10-1μM、テンプレートTg(35G)の濃度は1倍(8.3×10-9μM)、1/10倍、1/100倍、1/1000倍、1/10000倍の5種類を用意した。
【0094】
結果を
図11および表14に示す。
図11を参照して、横軸はサイクル数であり、縦軸は蛍光強度(ΔRn)である。表14を参照すると、理論的には濃度が10分の1になるとΔCt値は3.32ずつ大きくなるはずであるが、表14の測定値も実験誤差を含んでほぼその差になっており、定量性が確認できた。また、1サンプル中わずか10コピー(10分子)からでも増幅させることができたことがわかる。
【0095】
【0096】
また、同様の実験をプライマーPOB2aについても行った。この場合、標的となるテンプレートはTa(35A)(表1参照)である。この場合も
図11と同様の結果を得た。Ct値およびΔCt値を表15に示す。
【0097】
【0098】
<標的物質が異なる場合>
他の標的塩基配列における一塩基変異を識別する例として、EGFR遺伝子WT(2630C)のT790M変異(2630T)について調べた。変異型は5’末端側から2630番目がシトシン(c)からチミン(t)に変異している。表15にはEGFR遺伝子WTと、変異型においてテンプレートとした部分の塩基配列を示す。それぞれ配列番号32および33とした。
【0099】
【0100】
T-EGFR-2630c/WTにおいて、増幅の標的は変異点から5’末端に向かう23塩基とした。このためのプライマーを表17に示す。フォワードプライマーの3’末端から2番目に2’-OMe((2)式)を導入した。これを(Am)と示す。これは修飾されたアラニン(2’-O-メチルアデノシン)である。野生型においては、フォワードプライマーの3’末端はシトシン(c)であり、変異型はフォワードプライマーの3’末端はチミン(t)である。それぞれのフォワードプライマーおよび、リバースプライマーを配列番号34、35および配列番号36、37とした。
【0101】
【0102】
野生型T-EGFR-2630c/wtおよび変異型T-EGFR-2630t/T790Mに対して配列番号34、35のプライマーセットおよび配列番号36、37のプライマーセットを用いて標準プロトコールのリアルタイムPCRを行った。結果のCt値およびΔCt値を表18に示す。
【0103】
【0104】
表18を参照して、野生型プライマーを用いた場合は、野生型(T-EGFR-2630c/wt)に対してはCt値が20.1程度であったが、変異型(T-EGFR-2630t/T790M)に対しては33.1とΔCtは13.0±0.1となった。すなわち、野生型プライマーF-EGFR/2630M2cを用いた場合には野生型テンプレートを変異型テンプレートよりも2の13.0乗倍、約8192倍敏感に検出した。
【0105】
一方、変異型プライマーF-EGFR/2630M2tを用いた場合には野生型テンプレートに対してCt値は33.4±0.21であったが、変異型テンプレートに対しては、Ct値は18.9±0.13であり、ΔCtは14.5±0.1となった。この結果は変異型プライマーが変異型テンプレートを野生型テンプレートよりも2の14.5乗倍、23170倍敏感に検出できたことを示している。癌遺伝子変異診断におけるリキッドバイオプシによるセルフリーDNA解析では野生型遺伝子に対して0.01%(1/10000)の変異型遺伝子の検出が目標値としてあげられているので、23170倍という値はそれを上回る検出感度を示している。
【0106】
変異型用プライマー(配列番号36、37)を使って変異型EGFRの検出に対する濃度依存性を調べた。実験条件は<検出感度>と同じである。すなわち、野生型プライマーの初期濃度はフォワードプライマーおよびリバースプライマー共に2.0×10-1μM、テンプレート変異型EGFRの濃度は1倍(8.3×10-9μM)、1/10倍、1/100倍、1/1000倍、1/10000倍の5種類を用意した。結果のCt値およびΔCt値の結果を表19に示す。
【0107】
【0108】
表19を参照すると、理論的には濃度が10分の1になるとΔCt値は3.32ずつ大きくなるはずであるが、表19の測定値も実験誤差を加味するとほぼその差になっており、定量性が確認できた。また、1サンプル中わずか10コピー(10分子)からでも増幅させることができたことがわかる。
【0109】
次にEGFR遺伝子WT(2630C)のdelE746-A750欠失変異に対する本発明に係る高感度PCR法の効果を調べた。標的としたのは、EGFR遺伝子2461から2560までの100塩基とした。野生型とdelE746-A750欠失変異型の塩基配列を表20に示す。それぞれの塩基配列は、配列番号38および配列番号39とした。
【0110】
【0111】
delE746-A750欠失変異型(配列番号39)は、野生型(配列番号38)に対して、5’末端から37番目から51番目までの15塩基が欠失している。配列番号39では欠失直前のグアニン(g)と欠失直後のアデニン(a)に下線を引いた。これらを識別するためのプライマーを表21に示す。
【0112】
【0113】
表21を参照して、F-EGFR2461-2560(配列番号40)は、野生型T-EGFR2461-2560/WTの5’端からの30塩基に対するフォワードプライマーである。R-EGFR2461-2560(配列番号41)は、野生型T-EGFR2461-2560/WTの3’末端からの30塩基に対するリバースプライマーである。
【0114】
F-EGFR-del746-A750 2497M2g(配列番号42)と、F-EGFR-del746-A750 2497M2a(配列番号44)は、delE746-A750欠失変異型(配列番号39)に対するフォワードプライマーである。これらの3’-末端から2番目のヌクレオチドは糖14bの2’の位置に「-OCH3」修飾がされている人工型ヌクレオチドである。すなわち、3’-末端から2番目のヌクレオシドは、2’-O-メチルグアノシンである。表21中では、「Gm」と表した。
【0115】
また、F-EGFR-delE746-A750 2497M2a(配列番号44)とR-EGFR-delE746-A750 2511M2c(配列番号45)は、delE746-A750欠失変異型(配列番号39)に対するリバースプライマーである。これらの3’-末端から2番目のヌクレオチドは糖14bの2’の位置に「-OCH3」修飾がされている人工型ヌクレオチドである。すなわち、3’-末端から2番目のヌクレオシドは、2’-O-メチルウリジンである。表21中では、「Um」と表した。
【0116】
これらのプライマーを組み合わせた識別検討を行った。プライマーの組み合わせおよびそれらを用いた標準プロトコールによるリアルタイムPCRの結果を表22に示す。
【0117】
【0118】
表22を参照して、実験アでは野生型を検出するプライマーの組み合わせF-EGFR-delE746-A750/2497M2gとR-EGFR2461-2560を用いると野生型テンプレートT-EGFRwt2461-2560に対してCt値は21.86±0.09、欠失型テンプレートT-EGFR-delE746-A750に対してCt値は32.78±0.28、ΔCtは10.92であった。すなわち、このプライマーの組み合わせにより野生型テンプレートを変異型テンプレートよりも2の10.92乗倍、約1938倍敏感に検出することができた。
【0119】
実験イでは欠失型を検出するプライマーの組み合わせF-EGFR-delE746-A750 2497M2aとR-EGFR2461-2560を用いると野生型テンプレートT-EGFRwt2461-2560に対してCt値は30.40±0.43、欠失型テンプレートT-EGFR-delE746-A750に対してCt値は16.74±0.05、ΔCt値は13.66であった。すなわち、このプライマーの組み合わせにより野生型テンプレートを変異型テンプレートよりも2の13.66乗倍、約12944倍敏感に検出することができた。前述のとおり、癌遺伝子変異診断におけるリキッドバイオプシによるセルフリーDNA解析では野生型遺伝子に対して0.01%(1/10000)の変異型遺伝子の検出が目標値としてあげられているので、12944倍という値はそれを上回る検出感度を示している。
【0120】
実験ウでは野生型を検出するプライマーの組み合わせF-EGFR2461-2560とR-EGFR-delE746-A750 2511M2tを用いると野生型テンプレートT-EGFRwt2461-2560に対してCt値は30.94±0.09、欠失型テンプレートT-EGFR-delE746-A750に対してCt値は>45.0 (検出されず) 、ΔCtは>14.06であった。すなわち、このプライマーの組み合わせにより野生型テンプレートを変異型テンプレートよりも2の14.06乗倍以上、17080倍以上敏感に検出することができた。
【0121】
実験エでは欠失型を検出するプライマーの組み合わせF-EGFR2461-2560とR-EGFR-delE746-A750 2511M2cを用いると野生型テンプレートT-EGFRwt2461-2560に対してCt値は31.49±0.02、欠失型テンプレートT-EGFR-delE746-A750に対してCt値は18.40±0.08、ΔCt値は13.09であった。すなわち、このプライマーの組み合わせにより野生型テンプレートを変異型テンプレートよりも2の13.09乗倍、約8719倍敏感に検出することができた。
【0122】
前述のとおり、癌遺伝子変異診断におけるリキッドバイオプシによるセルフリーDNA解析では野生型遺伝子に対して0.01%(1/10000)の変異型遺伝子の検出が目標値としてあげられているので、8719倍という値はほぼそれに近い検出感度を示している。
【0123】
【0124】
表23を参照すると、理論的にはEGFR欠失変異テンプレートT-EGFR-delE746-A750の濃度が初期濃度8.3×10-9μMから10分の1になるごとにΔCt値は3.32ずつ大きくなるはずであるが、表23の測定値も3.56~3.81となっており、実験誤差範囲内でほぼその差になっており、定量性が確認できた。また、1サンプル中わずか10コピー(10分子)からでも増幅させることができたことがわかる。
【0125】
以上のことから、本高感度PCR法は2’位修飾核酸を3’-末端から2番目に含む化学修飾プライマー全般とプルーフリーディング活性を有するDNAポリメラーゼ全般を用いるPCR法に広く適用できると考えられる。
本発明に係る高感度PCR法は、DNA、RNA中の一塩基変異を高精度に識別して定量解析できるPCR法として、分子生物学研究における細胞内のmRNA定量解析キット、感染症防疫におけるウイルス変異株の検出キット、癌遺伝子変異コンパニオン診断におけるリキッドバイオプシによるセルフリーDNA解析キット等にも好適に利用することができる。