(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035184
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】生体適合性のエナメル質-象牙質単一成分接着剤
(51)【国際特許分類】
A61K 6/887 20200101AFI20240306BHJP
A61K 6/30 20200101ALI20240306BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023139583
(22)【出願日】2023-08-30
(31)【優先権主張番号】22193140
(32)【優先日】2022-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】501151539
【氏名又は名称】イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL-9494 Schaan Liechtenstein
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ケーラー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル バルビッシュ
(72)【発明者】
【氏名】トルステン ボック
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ハートヴィッヒ
(72)【発明者】
【氏名】クラウス リシュカ
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089AA10
4C089BD02
(57)【要約】
【課題】
生体適合性のエナメル質-象牙質単一成分接着剤を提供すること。
【解決手段】
本発明は、(I)1種またはそれより多くの、重合性(メタ)アクリレート基を有するモノマーMG、1種またはそれより多くのOH基含有(メタ)アクリレートMF、1種またはそれより多くの強酸性接着モノマーMH、および必要に応じて、1種またはそれより多くの重合性カルボン酸モノマーMCSを共重合させること、(II)得られたコポリマーA0を、A0のポリマー鎖中のモノマーMFのOH基と反応する官能基化されたラジカル重合性モノマーMPと、ポリマー類似反応で反応させて、ペンダント重合性基を有するコポリマーAPを形成すること、ならびに(III)コポリマーApを塩基で中和することによって得られる、少なくとも1種のコポリマーを含有する、歯科材料に関する。この材料は、歯科用接着剤として特に適している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のコポリマーを含有する歯科材料であって、該コポリマーが、
(I)
(a)1種またはそれより多くの、重合性(メタ)アクリレート基を有するモノマーMG、
(b)1種またはそれより多くのOH基含有(メタ)アクリレートMF、
(c)1種またはそれより多くの強酸性接着モノマーMH、および
(d)必要に応じて、1種またはそれより多くの重合性カルボン酸モノマーMCS
の共重合、
(II)工程(I)で得られた該コポリマーA0を、A0のポリマー鎖中のモノマーMFの該OH基と反応する少なくとも1種の官能基化されたラジカル重合性モノマーMPと、ポリマー類似反応で反応させて、重合性側鎖基を担持するコポリマーAPを形成すること、ならびに
(III)該コポリマーApを塩基で中和すること
によって得られることを特徴とする、歯科材料。
【請求項2】
前記コポリマーA0が、以下の組成:
(a)20~80重量%、好ましくは40~70重量%の、モノマーMG、
(b)1~70重量%、好ましくは5~40重量%の、モノマーMF、
(c)1~40重量%、好ましくは5~30重量%の、モノマーMH、および
(d)0~30重量%、好ましくは5~20重量%の、モノマーMCS
を有し、ここで全ての百分率は、コポリマーA0の質量に関するものである、請求項1に記載の歯科材料。
【請求項3】
前記コポリマーApが、工程(I)による、前記モノマーMG、MF、MH、および必要に応じてMCSの、コポリマーA0への、有機溶媒中での前記共重合、ならびに前記コポリマーA0とモノマーMpとの反応(工程(II))およびその後の中和(工程(III))の後に、
(IV)必要に応じて、工程(III)で得られた前記コポリマー溶液に水を添加すること、および該溶液を撹拌すること、ならびに
(V)次いで、必要に応じて、蒸留により前記有機溶媒を除去すること
を行うことによって入手可能である、請求項1または2に記載の歯科材料。
【請求項4】
コポリマーAPに加えて第二のコポリマーBPを含有し、該第二のコポリマーBPの組成はコポリマーAPの組成とは異なる、請求項1~3のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項5】
前記コポリマーBPが、
(I)
(a)1種またはそれより多くの、重合性(メタ)アクリレート基を有するモノマーMG、
(b)1種またはそれより多くのOH基含有(メタ)アクリレートMF、
(c)必要に応じて、1種またはそれより多くの重合性カルボン酸モノマーMCS
の共重合、
(II)得られたコポリマーB0を、B0のポリマー鎖中のモノマーMFの該OH基と反応する少なくとも1種の官能基化されたラジカル重合性モノマーMPと、ポリマー類似反応で反応させて、重合性側鎖基を担持するコポリマーBPを形成すること、および
(III)該コポリマーBpを塩基で中和すること
によって入手可能である、請求項4に記載の歯科材料。
【請求項6】
前記コポリマーB0が、以下の組成:
(a)30~85重量%、好ましくは40~80重量%の、モノマーMG、
(b)5~55重量%、好ましくは10~50重量%の、モノマーMF、および
(c)1~40重量%、好ましくは5~30重量%の、モノマーMCS
を有し、ここで全ての百分率は、コポリマーB0の質量に基づくものである、請求項4または5に記載の歯科材料。
【請求項7】
コポリマーAPとコポリマーBPとの混合物が、
- コポリマーA0を、前記モノマーMG、MF、MH、および所望であればMCSの、有機溶媒中での共重合により調製し、そして該コポリマーA0を、少なくとも1種のモノマーMpとのポリマー類似反応により、コポリマーAPに転換すること、
- コポリマーB0を、前記モノマーMG、MF、および所望であればMCSの、有機溶媒での共重合により調製し、そして該コポリマーB0を、少なくとも1種のモノマーMpとのポリマー類似反応により、コポリマーBPに転換すること、
- 該コポリマーAPの溶液と該コポリマーBPの溶液とを混合すること、
- 塩基の添加により、該混合物を中和すること、
- 必要に応じて、該中和した混合物に水を添加すること、ならびに
- 次いで必要に応じて、該有機溶媒を除去すること
により入手可能である、請求項4~6のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項8】
前記モノマーMPの量が、
前記コポリマーAP中のモノマー構築ブロックMFのOH基のうちの10~100mol%、好ましくは30~100mol%、そしてより好ましくは40~100mol%が、MPと反応する、および
必要に応じて、前記コポリマーBPのモノマー構築ブロックMFのOH基のうちの10~100mol%、好ましくは30~80mol%、そしてより好ましくは40~60mol%が、MPと反応する
ような量である、請求項1~7のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項9】
前記モノマーMG(複数可)が、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸ネオペンチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸フェニルエチル、メタクリル酸n-ペンチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸n-ドデシル、メタクリル酸テトラデシルおよびメタクリル酸ヘキサデシル、ならびに対応するアクリル酸エステルおよびこれらの混合物から選択される;ならびに/または
前記モノマーMF(複数可)が、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルおよびこれらの混合物から選択される;ならびに/または
前記モノマーMP(複数可)が、(メタ)アクリル酸2-イソシアナトエチル、1モルの(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルもしくは(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピルと、それぞれ1モルのジイソシアネート、ヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート(HMDI)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート(TMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、メタクリル酸2-イソシアナトエチル(IEMA)との付加生成物、およびこれらの混合物から選択される;ならびに/または
前記モノマーMH(複数可)が、リン酸二水素2-(メタ)アクリロイルオキシプロピル、リン酸二水素2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸二水素4-(メタ)アクリロイルオキシブチル、リン酸二水素6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルおよびリン酸二水素10-(メタ)アクリロイルオキシデシル、ビニルホスホン酸、4-ビニルフェニルホスホン酸、4-ビニルベンジルホスホン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホン酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸エチルエステル、およびこれらの混合物から選択される;ならびに/または
前記モノマーMCS(複数可)が、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸およびフマル酸、ならびにこれらの半エステル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリト酸、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルマロン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシメチルコハク酸、4-ビニル安息香酸、ならびにこれらの混合物から選択される、
請求項1~8のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項10】
前記コポリマーAPもしくはBP、または前記APとBPとの混合物を中和するための前記塩基が、LiOH、KOH、NaOH、NH4OH、有機アミン、好ましくは、エチルアミン、n-ブチルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン(TBA)、トリエチルアミン(TEA)、N-メチルモルホリン、またはジメチルシクロヘキシルアミン、アミノ酸誘導体、好ましくは、リジンメチルエステル二塩酸塩、アルギニン塩酸塩、またはグリシンエチルエステル、OH官能基化アミン、好ましくは、メチルジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン(TEOA)、ブタノールアミン、ジブタノールアミン、3-ジメチルアミノ-2-プロパノール(DMAP)または1,3-ジアミノ-2-プロパノール(DAP)、高分子量エーテル基含有アミン、好ましくは、アミノ基末端オリゴマー性エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドオリゴマー、およびこれらの混合物から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項11】
前記塩基または塩基の混合物が、前記強酸性接着モノマーMHの含有量に基づいて、20から90mol%まで、好ましくは25から80mol%まで、そしてより好ましくは30から75mol%までの量で添加される、請求項1~10のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項12】
前記コポリマーAPおよび/またはBPが、ゲル透過クロマトグラフィーにより測定される場合に、5,000から60,000g/molまで、好ましくは10,000から50,000g/molまで、そしてより好ましくは15,000から40,000g/molまでの数平均分子量を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項13】
- 10~50重量%、好ましくは15~45重量%、そしてより好ましくは20~35重量%の、少なくとも1種のコポリマーAPおよび必要に応じてBP、
- 50~90重量%、好ましくは55~85重量%、そしてより好ましくは65~80重量%の分散媒、および
- 必要に応じて、10~70重量%、好ましくは15~60重量%、そしてより好ましくは20~55重量%の水
を含有し、各場合において、前記歯科材料の総質量に基づき、該水の含有量は、存在する場合には該分散媒の量に含まれる、請求項1~12のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項14】
損傷した歯の修復における、好ましくは、歯科用接着剤またはエナメル質-象牙質接着剤としての口腔内での使用のための、請求項1~13のいずれか一項に記載の歯科材料。
【請求項15】
歯科用修復物の製造または修理における接着剤としての、請求項1~13のいずれか一項に記載の歯科材料の非治療使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着特性を有するコポリマーをベースとする歯科材料に関し、これらの歯科材料は、直接的または間接的な歯科用修復物のための接着剤として、特に適切である。
【背景技術】
【0002】
歯科において、エナメル質-象牙質接着剤は、主に、直接的または間接的な修復材料と歯の組織(エナメル質および象牙質)との間に強力かつ耐久性のある結合を作り出すために、使用される。これらのエナメル質-象牙質接着剤は、通常、様々なラジカル重合性メタクリレートモノマー、ポリマー、開始剤系、溶媒(例えば、水性エタノールまたはアセトン)、ならびに他の添加剤(例えば、安定剤およびレオロジー添加剤)の混合物を含有する。次にこのモノマー混合物は、通常、強酸性接着モノマー、例えば歯の組織への強力な結合を確実にするセルフエッチング特性を有するメタクリル基含有リン酸二水素エステル、安定な接着剤層の迅速な形成を促進するジメタクリレート、例えばビスGMAおよびトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、ならびに浸入能力を促進するための親水性モノマー、例えばメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)を含有する。メタクリレート化ポリアクリル酸またはイタコン酸コポリマーなどのポリマーは、接着剤のフィルム形成を改善し、そして技術レベルの影響を受けにくくするといわれる。ショウノウキノン(CQ)と、第三級アミン、例えば4-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル(EMBO)との混合物は、可視光での硬化のための重合開始剤として主に使用されており、この混合物は、二重硬化系においてレドックス開始剤系と組み合わせられる。
【0003】
米国特許第5,700,875号は、60~98wt%の重合性モノマー混合物、2~40wt%のポリマー、および0.01~35wt%の重合開始剤を含有する歯科用接着剤を開示する。このモノマー混合物は、硫酸基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基またはリン酸基を有する酸性モノマーを、2~25wt%含有する。このポリマーは、アルキル(メタ)アクリレート、スチレンモノマー、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、ブタジエン、ポリメタクリル酸アルキルおよび/またはポリ酢酸ビニルをベースとするコポリマーであり、そしてモノマー混合物中に溶解または分散されている。これらの接着剤は、取り扱いが容易であり、そして優れた接着性を有すると記載されている。
【0004】
R.R.Moraes,J.W.Garcia,N.D.Wilson,S.H.Lewis,M.D.Barros,B.Yang,C.S.Pfeifer,J.W.Stansbury,J.Dent.Res.91(2012):179-184は、ナノゲル粒子を歯科用接着剤に添加することの影響を調査する。この目的で、10~100nmの粒子サイズを有する、メタクリル酸イソボルニルおよびUDMAまたはエトキシ化ビスGMAのメタクリレート官能基化ナノゲルが、ビスGMA-HEMA-エタノール混合物中に、それぞれ17wt%および23wt%の濃度で分散され、そして機械特性および象牙質接着が順に決定された。改善された機械特性および象牙質接着の値が測定された。
【0005】
米国特許出願公開第2013/0224692号は、15重量%までの光硬化性イオノマー、放射線不透過性金属酸化物ナノ粒子、リン含有酸性モノマー、他のモノマー、水、極性溶媒および開始剤を含有する歯科用接着剤を開示する。イオノマーは、イオン性のラジカル重合性基を有するポリマーとして定義され、例えば、不飽和モノカルボン酸、ジカルボン酸、またはトリカルボン酸のホモ重合または共重合によって得られ、そしてイソシアネート基を含むモノマーで修飾されている、ポリアルケンカルボン酸である。
【0006】
欧州特許出願公開第3 120 827号は、歯科用接着剤、コーティング材料、充填用コンポジットおよびセメントとして使用するために適切なラジカル重合性歯科材料を開示する。これらの材料は、強酸性のリン酸基および1,000~200,000g/molの数平均分子量を有する少なくとも1種のラジカル重合性(メタ)アクリレートコポリマー、酸基を有するおよび有さないラジカル重合性モノマー、ならびにラジカル重合のための開始剤を含有する。酸性ポリマーと酸性モノマーとの組み合わせは、エナメル質および象牙質への接着を最適にする。
【0007】
公知の歯科用接着剤の1つの欠点は、これらが通常、硬化後に、多少大きい残留モノマー含有量を有することである。使用されるモノマーに全身毒性はないものの、これらのモノマーは、望ましくない影響を示し、そして接触アレルギー反応をもたらす。
【0008】
生体適合性を改善するために、様々な概念が技術水準において提唱されており、とりわけ、シェル接着剤およびいわゆるormocer含有接着剤によりもたらされる生体接着剤が提唱されている。ORMOCER(ORganically MOdified CERamics:有機修飾セラミック)とは、有機基を含むジまたはトリアルコキシシランと、おそらくTiまたはZrアルコキシドとの共縮合物(ヘテロポリシロキサン)である。
【0009】
独国特許出願公開第196 43 007号は、ムラサキイガイの足糸フィラメント由来のペプチドまたはタンパク質と、ラジカル重合性モノマーとの反応生成物をベースとする、接着促進剤および接着剤を開示し、これらは、歯科目的に適切であると記載されている。
【0010】
国際公開第2006/045034号は、0.1~50重量%のDOPA(3,4-ジヒドロキシフェニル-L-アラニン)を希鉱酸と合わせて含有する、歯科用プライマーに関する。DOPAは、修復材料の塗布前の、歯の同時の下塗りおよびエッチングを可能にすることを意図されている。
【0011】
米国特許出願公開第2011/0288252号は、ジアルコキシ基およびジヒドロキシフェニル基を含むシランをベースとし、DOPA基で修飾された、接着剤の調製のための、ヘテロポリシロキサン(ormocer)を開示する。これらのヘテロポリシロキサンは、水を用いた加水分解縮合、または存在し得る重合性基のラジカル重合により、硬化し得る。
【0012】
このような生体接着剤の欠点は、これらの比較的低い接着効果、および完全な接着効果を達成するために必要とされる、しばしば数時間または数日の長い時間である。従って、これらの生体接着剤は、エナメル質-象牙質接着剤としての実用的な用途を見出されていない。
【0013】
生体適合性とは一般に、身体内で使用される材料、または身体の表面と接触する材料の、組織適合性の程度をいう。生体適合性材料は、身体に対して中立的に挙動するべきであり、そしていかなる負の影響ももたらすべきではない。特に、生体適合性材料は、いかなる毒物学的影響も、アレルギーの影響も、変異を誘発する影響も、奇形生成の影響も、発がんの影響も、有してはならない。歯科材料は、口腔組織および他の身体組織を刺激してはならない。
【0014】
独国特許出願公開第10 2018 204 655号は、酸反応性粉末、多プロトン酸、水、および分散したポリマー粒子を含有する、ガラスイオノマーセメントを開示する。好ましいポリマー粒子は、ポリウレタン粒子である。好ましくは、これらの粒子は、1μm未満の平均粒子サイズを有する。好ましくは、これらの粒子は、主分散物または副分散物として調製される。これらのポリマー粒子は、毒物学的に安全であり、そしてセメントの亀裂および破損強さを改善するべきである。これらの材料は、好ましくは、(メタ)アクリレートなどの重合性化合物を含有しない。
【0015】
主分散物とは、当業者は、最初にモノマーを水中に乳化させ、次いでこれらを分散相中で重合させることにより得られる、ポリマー分散物と理解する。乳化剤または保護コロイドが、主分散物の生成のために必要とされる。副分散物を調製するためには、ポリマーが、揮発性有機溶媒中での溶液重合により調製される。次いで、得られたポリマー溶液は、水相に分散され、次いでその溶媒が除去される。このポリマーの酸性基または塩基性基は、分散前に中和される。中和中に形成される塩の基が、ポリマー粒子を分散物中で安定化させる。これらのポリマー粒子の電荷に依存して、陰イオン性安定化副分散物と陽イオン性安定化副分散物とが区別される。陰イオン性副分散物の生成のためには、例えば、酸性基、例えばカルボキシル基を有するコポリマーが使用され、これらが塩基の添加により中和される。この場合、副ポリマー分散物の安定化は、ポリマー粒子の表面のカルボキシレート基によりなされる。塩基性基、例えば第三級アミノ基を有するコポリマーが使用される場合、陽イオン性副分散物が得られ、この場合、中和は酸の添加によりなされる。
【0016】
副分散物は、乳化剤も保護コロイドも必要としないという事実により特徴付けられる。乳化剤は、ポリマーコーティングの水蒸気透過性および水収着を増大させる。Y.Liu,W.-J.Soer,J.Scheerder,G.Satgurunathan,J.-L.Keddie,ACS Applied Materials & Interfaces 7(2015)12147-12157は、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸、およびメタクリル酸n-ブチルの、乳化剤を含まない副分散物が、匹敵する乳化ポリマーを含む類似のコーティングと比較して、より低い水収着およびより低い水拡散係数を示し、従って、より良好なバリア特性を示すことを示している。
【0017】
欧州特許出願公開第0 305 850号は、25~98重量%の(メタ)アクリル酸エステル、1~10重量%の(メタ)アクリル酸、1~8重量%の、ラジカル重合性基を有するリン酸エステルホスフェート、および必要に応じて、さらなるオレフィン性不飽和化合物の混合物を重合させることにより得られる、ホスフェート基を含有するコポリマーをベースとする、水性副分散物を開示する。これらの分散物は、腐食保護のための、活性顔料で充填されたコーティングの作製のために適切であると記載されている。
【0018】
欧州特許出願公開第0 841 352号は、ポリ(メタ)アクリレート副分散物の調製のためのプロセスに関し、これらは、高い貯蔵安定性を有すると記載されている。これらの分散物は、アクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステルなどのモノエチレン性不飽和モノマー、アルコール性ヒドロキシル基を担持するエチレン性不飽和モノマー、アクリル酸またはメタクリル酸などのカルボキシル基含有不飽和モノマー、および必要に応じて調整剤の、有機溶媒中での共重合により得られる。この共重合の完了後、この重合混合物中の水溶性残留モノマーの量は、0.1wt%未満であると記載されている。これらの分散物は、木材、金属またはプラスチックのコーティングのための、水で希釈可能なコーティング組成物中、例えば、プライマー、トップコートまたは透明ワニス用の、バインダーとして適切であると記載されている。
【0019】
欧州特許出願公開第1 270 619号は、疎水性セグメントおよび親水性セグメントからなる少なくとも1種の両親媒性ポリマーを含有する、水性ビニルポリマー副分散物を開示する。この両親媒性ポリマーは、これらの分散物に、十分な熱安定性を付与することを意図されている。これらの分散物は、エチレン性不飽和モノマーの混合物を、開始剤の存在下で、水-溶媒混合物中で、少なくとも1種の両親媒性ポリマーを添加して、重合させることにより調製される。このモノマー混合物は、アクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステルなどのモノエチレン性不飽和モノマー、アルコール性ヒドロキシル基を担持するエチレン性不飽和モノマー、およびアクリル酸またはメタクリル酸などのカルボキシル基含有不飽和モノマーを含有する。このモノマー混合物はまた、スルホン酸基を有するモノマーも含有し得る。これらの分散物は、例えば産業用コーティング、自動車OEMおよび再仕上げコーティングのための、水で希釈可能なコーティング組成物中、例えば、プライマー、充填材、トップコート、透明ワニス、高光沢塗料およびワンコート塗料用の、バインダーまたはバインダー成分として適切であると記載されている。
【0020】
B.Schlarb,M.G.Rau,S.Haremza,Prog.Org.Coat.26(1995)207-215は、異なる塩の基の含有量を有する2種類のコポリマーを混合することによって、疎水性コーティングの作製を可能にする副分散物が調製され得ることを示している。この著者らは、塩の基を有する親水性コポリマーを、塩の基を有さない疎水性コポリマーと合わせた。この親水性コポリマーは、10wt%のアクリル酸、53wt%のアクリル酸ブチルおよび37wt%のスチレンからなり、一方で、この疎水性コポリマーは、49wt%のアクリル酸n-ブチル、37wt%のスチレンおよび16wt%のメタクリル酸メチルからなる。これらのコーティングは、低い水吸収により特徴付けられ、そして耐食塗料および路面標識用塗料の作製のために特に適切であると記載されている。
さらに後の刊行物である、B.Schlarb,S.Haremza,W.Heckmann,B.Morrison,R.Muller-Mall,M.G.Rau MG,Prog.Org..Coat.29(1996)201-208において、その著者らは、コポリマーの割合および組成を変化させることによって、コア-シェル構造を有するポリマーラテックス粒子が調製され得ることを示している。
O.Kutlug,S.Reck,A.Hartwig,Int.J.Adhes.Adhes.,91(2019)36-42は、2種の異なるコポリマーを含む副分散物をベースとする、架橋性の感圧性接着剤を記載する。この分散物は、10wt%のアクリル酸および90wt%のアクリル酸2-エチルヘキシルのカルボキシコポリマー、ならびに15wt%のメタクリル酸グリシジル、20wt%のメタクリル酸ヒドロキシエチルおよび65wt%のメタクリル酸2-エチルヘキシルのエポキシコポリマーを含有する。これらの接着剤は、改善された架橋、およびその結果、より良好な剪断強度を示すと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許第5,700,875号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2013/0224692号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第3 120 827号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第196 43 007号明細書
【特許文献5】国際公開第2006/045034号
【特許文献6】米国特許出願公開第2011/0288252号明細書
【特許文献7】独国特許出願公開第10 2018 204 655号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第0 305 850号明細書
【特許文献9】欧州特許出願公開第0 841 352号明細書
【特許文献10】欧州特許出願公開第1 270 619号明細書
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】R.R.Moraes,J.W.Garcia,N.D.Wilson,S.H.Lewis,M.D.Barros,B.Yang,C.S.Pfeifer,J.W.Stansbury,J.Dent.Res.91(2012):179-184
【非特許文献2】B.Schlarb,M.G.Rau,S.Haremza,Prog.Org.Coat.26(1995)207-215
【非特許文献3】B.Schlarb,S.Haremza,W.Heckmann,B.Morrison,R.Muller-Mall,M.G.Rau MG,Prog.Org..Coat.29(1996)201-208
【非特許文献4】O.Kutlug,S.Reck,A.Hartwig,Int.J.Adhes.Adhes.,91(2019)36-42
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の目的は、特に歯科用途のための接着剤として、具体的には、直接的および間接的な歯科用修復物を歯の組織、すなわちエナメル質および象牙質に合着するための接着剤として適切な、生体適合性歯科材料を提供することである。これらの歯科材料は、特に口腔条件下で、歯の組織への良好な接着を確実にするべきである。
本願は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
少なくとも1種のコポリマーを含有する歯科材料であって、該コポリマーが、
(I)
(a)1種またはそれより多くの、重合性(メタ)アクリレート基を有するモノマーMG、
(b)1種またはそれより多くのOH基含有(メタ)アクリレートMF、
(c)1種またはそれより多くの強酸性接着モノマーMH、および
(d)必要に応じて、1種またはそれより多くの重合性カルボン酸モノマーMCS
の共重合、
(II)工程(I)で得られた該コポリマーA0を、A0のポリマー鎖中のモノマーMFの該OH基と反応する少なくとも1種の官能基化されたラジカル重合性モノマーMPと、ポリマー類似反応で反応させて、重合性側鎖基を担持するコポリマーAPを形成すること、ならびに
(III)該コポリマーApを塩基で中和すること
によって得られることを特徴とする、歯科材料。
(項目2)
上記コポリマーA0が、以下の組成:
(a)20~80重量%、好ましくは40~70重量%の、モノマーMG、
(b)1~70重量%、好ましくは5~40重量%の、モノマーMF、
(c)1~40重量%、好ましくは5~30重量%の、モノマーMH、および
(d)0~30重量%、好ましくは5~20重量%の、モノマーMCS
を有し、ここで全ての百分率は、コポリマーA0の質量に関するものである、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目3)
上記コポリマーApが、工程(I)による、上記モノマーMG、MF、MH、および必要に応じてMCSの、コポリマーA0への、有機溶媒中での上記共重合、ならびに上記コポリマーA0とモノマーMpとの反応(工程(II))およびその後の中和(工程(III))の後に、
(IV)必要に応じて、工程(III)で得られた上記コポリマー溶液に水を添加すること、および該溶液を撹拌すること、ならびに
(V)次いで、必要に応じて、蒸留により上記有機溶媒を除去すること
を行うことによって入手可能である、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目4)
コポリマーAPに加えて第二のコポリマーBPを含有し、該第二のコポリマーBPの組成はコポリマーAPの組成とは異なる、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目5)
上記コポリマーBPが、
(I)
(a)1種またはそれより多くの、重合性(メタ)アクリレート基を有するモノマーMG、
(b)1種またはそれより多くのOH基含有(メタ)アクリレートMF、
(c)必要に応じて、1種またはそれより多くの重合性カルボン酸モノマーMCS
の共重合、
(II)得られたコポリマーB0を、B0のポリマー鎖中のモノマーMFの該OH基と反応する少なくとも1種の官能基化されたラジカル重合性モノマーMPと、ポリマー類似反応で反応させて、重合性側鎖基を担持するコポリマーBPを形成すること、および
(III)該コポリマーBpを塩基で中和すること
によって入手可能である、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目6)
上記コポリマーB0が、以下の組成:
(a)30~85重量%、好ましくは40~80重量%の、モノマーMG、
(b)5~55重量%、好ましくは10~50重量%の、モノマーMF、および
(c)1~40重量%、好ましくは5~30重量%の、モノマーMCS
を有し、ここで全ての百分率は、コポリマーB0の質量に基づくものである、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目7)
コポリマーAPとコポリマーBPとの混合物が、
- コポリマーA0を、上記モノマーMG、MF、MH、および所望であればMCSの、有機溶媒中での共重合により調製し、そして該コポリマーA0を、少なくとも1種のモノマーMpとのポリマー類似反応により、コポリマーAPに転換すること、
- コポリマーB0を、上記モノマーMG、MF、および所望であればMCSの、有機溶媒での共重合により調製し、そして該コポリマーB0を、少なくとも1種のモノマーMpとのポリマー類似反応により、コポリマーBPに転換すること、
- 該コポリマーAPの溶液と該コポリマーBPの溶液とを混合すること、
- 塩基の添加により、該混合物を中和すること、
- 必要に応じて、該中和した混合物に水を添加すること、ならびに
- 次いで必要に応じて、該有機溶媒を除去すること
により入手可能である、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目8)
上記モノマーMPの量が、
上記コポリマーAP中のモノマー構築ブロックMFのOH基のうちの10~100mol%、好ましくは30~100mol%、そしてより好ましくは40~100mol%が、MPと反応する、および
必要に応じて、上記コポリマーBPのモノマー構築ブロックMFのOH基のうちの10~100mol%、好ましくは30~80mol%、そしてより好ましくは40~60mol%が、MPと反応する
ような量である、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目9)
上記モノマーMG(複数可)が、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸ネオペンチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸フェニルエチル、メタクリル酸n-ペンチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸n-ドデシル、メタクリル酸テトラデシルおよびメタクリル酸ヘキサデシル、ならびに対応するアクリル酸エステルおよびこれらの混合物から選択される;ならびに/または
上記モノマーMF(複数可)が、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルおよびこれらの混合物から選択される;ならびに/または
上記モノマーMP(複数可)が、(メタ)アクリル酸2-イソシアナトエチル、1モルの(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルもしくは(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピルと、それぞれ1モルのジイソシアネート、ヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート(HMDI)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート(2,2,4-trimethyhexamethylene-1,6-diisocyanate)(TMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、メタクリル酸2-イソシアナトエチル(IEMA)との付加生成物、およびこれらの混合物から選択される;ならびに/または
上記モノマーMH(複数可)が、リン酸二水素2-(メタ)アクリロイルオキシプロピル、リン酸二水素2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸二水素4-(メタ)アクリロイルオキシブチル、リン酸二水素6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルおよびリン酸二水素10-(メタ)アクリロイルオキシデシル、ビニルホスホン酸、4-ビニルフェニルホスホン酸、4-ビニルベンジルホスホン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホン酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸エチルエステル、およびこれらの混合物から選択される;ならびに/または
上記モノマーMCS(複数可)が、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸およびフマル酸、ならびにこれらの半エステル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリト酸、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルマロン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシメチルコハク酸、4-ビニル安息香酸、ならびにこれらの混合物から選択される、
先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目10)
上記コポリマーAPもしくはBP、または上記APとBPとの混合物を中和するための塩基が、LiOH、KOH、NaOH、NH4OH、有機アミン、好ましくは、エチルアミン、n-ブチルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン(TBA)、トリエチルアミン(TEA)、N-メチルモルホリン、またはジメチルシクロヘキシルアミン、アミノ酸誘導体、好ましくは、リジンメチルエステル二塩酸塩、アルギニン塩酸塩、またはグリシンエチルエステル、OH官能基化アミン、好ましくは、メチルジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン(TEOA)、ブタノールアミン、ジブタノールアミン、3-ジメチルアミノ-2-プロパノール(DMAP)または1,3-ジアミノ-2-プロパノール(DAP)、高分子量エーテル基含有アミン、好ましくは、アミノ基末端オリゴマー性エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドオリゴマー、およびこれらの混合物から選択される、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目11)
上記塩基または塩基の混合物が、上記強酸性接着モノマーMHの含有量に基づいて、20から90mol%まで、好ましくは25から80mol%まで、そしてより好ましくは30から75mol%までの量で添加される、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目12)
上記コポリマーAPおよび/またはBPが、ゲル透過クロマトグラフィーにより測定される場合に、5,000から60,000g/molまで、好ましくは10,000から50,000g/molまで、そしてより好ましくは15,000から40,000g/molまでの数平均分子量を有する、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目13)
- 10~50重量%、好ましくは15~45重量%、そしてより好ましくは20~35重量%の、少なくとも1種のコポリマーAPおよび必要に応じてBP、
- 50~90重量%、好ましくは55~85重量%、そしてより好ましくは65~80重量%の分散媒、および
- 必要に応じて、10~70重量%、好ましくは15~60重量%、そしてより好ましくは20~55重量%の水
を含有し、各場合において、上記歯科材料の総質量に基づき、該水の含有量は、存在する場合には該分散媒の量に含まれる、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目14)
損傷した歯の修復における、好ましくは、歯科用接着剤またはエナメル質-象牙質接着剤としての口腔内での使用のための、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目15)
歯科用修復物の製造または修理における接着剤としての、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料の非治療使用。
【発明を実施するための形態】
【0024】
概要
本発明は、(I)1種またはそれより多くの、重合性(メタ)アクリレート基を有するモノマーMG、1種またはそれより多くのOH基含有(メタ)アクリレートMF、1種またはそれより多くの強酸性接着モノマーMH、および必要に応じて、1種またはそれより多くの重合性カルボン酸モノマーMCSを共重合させること、(II)得られたコポリマーA0を、A0のポリマー鎖中のモノマーMFのOH基と反応する官能基化されたラジカル重合性モノマーMPと、ポリマー類似反応で反応させて、ペンダント重合性基を有するコポリマーAPを形成すること、ならびに(III)コポリマーApを塩基で中和することによって得られる、少なくとも1種のコポリマーを含有する、歯科材料に関する。この材料は、歯科用接着剤として特に適している。
本発明によれば、この目的は、
(I)
(a)1種またはそれより多くの、1個のラジカル重合性(メタ)アクリレート基を含むモノマーMG、
(b)1種またはそれより多くのOH基含有(メタ)アクリレートMF、
(c)1種またはそれより多くの強酸性接着モノマーMH、および
(d)必要に応じて、1種またはそれより多くの、1個のラジカル重合性基を含有する重合性カルボン酸モノマーMCS
の共重合、
(II)工程(I)で得られたコポリマーA0を、A0のポリマー鎖のモノマーMFのOH基と反応する少なくとも1種の官能基化されたラジカル重合性モノマーMPと、ポリマー類似反応で反応させて、ペンダント重合性基を担持するコポリマーAPを形成すること、ならびに
(III)コポリマーApを塩基で中和すること
により入手可能な少なくとも1種のコポリマーAPを含有する歯科材料によって、達成される。
【0025】
全ての場合において、単官能性モノマーのみ、すなわち、1個のラジカル重合性基を有するモノマーのみが、コポリマーA0を調製するために使用される。多官能性モノマー、すなわち、2個またはそれより多くのラジカル重合性基を有するモノマーは、重合中に架橋を起こし、従って、不溶性コポリマーの形成を引き起こす。
【0026】
コポリマーA0は、好ましくは、以下の組成:
(a)20~80重量%、より好ましくは40~70重量%の、モノマーMG、
(b)1~70重量%、より好ましくは5~40重量%の、モノマーMF、
(c)1~40重量%、より好ましくは5~30重量%の、モノマーMH、および
(d)0~30重量%、より好ましくは5~20重量%の、モノマーMCS、
を有し、全ての百分率は、コポリマーA0の質量に基づく。(a)、(b)、(c)および(d)の合計が100%であるコポリマーが、特に好ましい。
【0027】
本発明による歯科材料は、特に歯科用修復材料として、とりわけ歯科用接着剤として、そしてより具体的にはエナメル質-象牙質接着剤として適切であり、従って、簡単にする目的で、以下において接着剤とも称される。
【0028】
本発明の好ましい実施形態によれば、コポリマーApは、副分散物の形態で調製される。このために、工程(I)による、モノマーMG、MF、MH、および必要に応じてMCSの、コポリマーA0への共重合は、有機溶媒中で行われ、コポリマーA0とモノマーMpとの反応(工程(II))、およびその後の中和(工程(III))の後に、
(IV)工程(III)で得られたコポリマー溶液が、必要に応じて、水と混合され、そして撹拌され、そして
(V)次いで、有機溶媒が必要に応じて留去される。
【0029】
工程(IV)での水の添加は、ポリマー溶液を分散させるために十分な量の水を含有する塩基の水溶液が中和のために使用される場合、省略され得る。工程(IV)での撹拌は、工程(III)からのコポリマー溶液が水相に分散されるように、行われる。
【0030】
好ましくは、(メタ)アクリレートがモノマーMGとして使用され、これは、ホモ重合すると、40℃未満のガラス転移温度TGを有するポリマーを与える。ポリマー分析においてガラス転移温度TGを決定するための一般的に使用される方法としては、示差走査熱量測定法(DSC)および動的機械分析(DMA)が挙げられる。好ましくは、ガラス転移温度TGは、DMAによって、ISO-6721-11:2019に従って決定される。
【0031】
特に好ましいモノマーMGは、アルキル(メタ)アクリレートおよびシクロアルキル(メタ)アクリレートであり、とりわけ、直鎖または分枝鎖のC1~C25-アルキル(メタ)アクリレートおよびC4~C14-シクロアルキル(メタ)アクリレートであり、より好ましくは、直鎖C2~C16アルキルメタクリレートおよびC6~C10-シクロアルキルメタクリレートであり、そしてなおより好ましくは、直鎖C2~C10-アルキルメタクリレートであり、具体的には、メタクリル酸n-プロピル(TG=35℃)、メタクリル酸ネオペンチル、メタクリル酸n-ブチル(TG=20℃)、メタクリル酸フェニルエチル(TG=26℃)、メタクリル酸n-ペンチル、メタクリル酸n-ヘキシル(TG=-5℃)、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸n-オクチル(TG=-20℃)、メタクリル酸n-ドデシル(TG=-65℃)、メタクリル酸テトラデシル(TG=-9℃)およびメタクリル酸ヘキサデシル(TG=16℃)、ならびに対応するアクリル酸エステルおよびこれらの混合物であり、全ての場合において、メタクリル酸エステルの方がアクリル酸エステルより好ましい。最も好ましいものは、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、およびこれらの混合物である。
【0032】
好ましいOH基含有(メタ)アクリレートMFは、単官能性ラジカル重合性モノマーであり、特に好ましいものは、1個のOH基を有する単官能性モノマーである。より好ましいものは、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、およびこれらの混合物である。なおより好ましいものは、2-および3-ヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)、とりわけメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)およびこれらの混合物である。
【0033】
モノマーMFのヒドロキシル基は、コポリマーA0の重合性モノマーMPでのポリマー類似官能基化を可能にする。このモノマーMPは、このヒドロキシル基と反応して化学結合を形成することが可能な1個の官能基、および少なくとも1個のラジカル重合性基を担持している。好ましい官能基は、イソシアネート基であり、好ましいラジカル重合性基は、(メタ)アクリレート基、特にメタクリレート基である。
【0034】
好ましいモノマーMPは、(メタ)アクリル酸2-イソシアナトエチル、1モルの(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルまたは(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピルと、それぞれ1モルのジイソシアネート、好ましくは、ヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート(HMDI)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート(TMDI)またはイソホロンジイソシアネート(IPDI)との付加生成物、およびこれらの混合物である。特に好ましいモノマーMPは、メタクリル酸2-イソシアナトエチル(IEMA)である。
【0035】
コポリマーAP中の重合性基の含有量、従って架橋度は、コポリマーA0中のモノマー構築ブロックMFの含有量、およびモノマーMP(複数可)とのポリマー類似反応の反応度によって、明確に調節され得る。好ましくは、モノマーMPの量は、モノマー構築ブロックMFのOH基の10~100mol%、好ましくは30~100mol%、そしてより好ましくは40~100mol%が、モノマーMPと反応するように、選択される。
【0036】
強酸性接着モノマーMHは、少なくとも1個の強酸性基および1個のラジカル重合性基を担持する、ラジカル重合性モノマーである。好ましい接着モノマーMHは、0.5~4.0、好ましくは1.0~3.5、そしてより好ましくは1.5~2.5のpKa値を(室温で)有するモノマーである。好ましい強酸性基は、リン酸基およびホスホン酸基であり、好ましいラジカル重合性基は、(メタ)アクリレート基、特にメタクリレート基である。特に好ましい接着モノマーMHは、ラジカル重合性リン酸エステル、例えば、リン酸二水素2-(メタ)アクリロイルオキシプロピル、リン酸二水素2-(メタ)アクリロイルオキシエチル(2-(meth)acryloyloxyethyl dihydrogen phosphat)、リン酸二水素4-(メタ)アクリロイルオキシブチル(4-(meth)acryloyloxybutyl dihydrogen phosphat)、リン酸二水素6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル、リン酸二水素10-アクリロイルオキシデシル(ADP)およびリン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル(MDP)、ならびに重合性ホスホン酸、例えば、ビニルホスホン酸、4-ビニルフェニルホスホン酸、4-ビニルベンジルホスホン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホン酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸エチルエステル(DHPBAE)、ならびにこれらの混合物である。MDP、ビニルホスホン酸、DHPBAEおよびこれらの混合物は、非常に特に好ましい。
【0037】
ラジカル重合性カルボン酸モノマーMCSは、少なくとも1個のカルボン酸基、好ましくは1個~2個のカルボン酸基、および1個のラジカル重合性基を含有するモノマーである。好ましいラジカル重合性基は、ビニル基、アクリル基、およびビシナルまたはジェミナルで置換されたエチレン基、ならびに特に、メタクリル基である。エチレン基は、例えば、-CH3と-COOH、-COOHと-CH2-COOH、または2個のCOOH基によって、ビシナルまたはジェミナルで置換され得る。好ましいモノマーMCSは、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸およびフマル酸、ならびにこれらの半エステル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリト酸、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルマロン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシメチルコハク酸、4-ビニル安息香酸、ならびにこれらの混合物である。アクリル酸、およびとりわけメタクリル酸(MAA)が、特に好ましい。
【0038】
本発明により好ましいものは、コポリマーAPに加えて、組成がコポリマーAPの組成と異なる少なくとも1種の第二のコポリマーBPを含有する接着剤であり、好ましくは、
(I)
(a)1種またはそれより多くの、1個の重合性(メタ)アクリレート基を有するモノマーMG、
(b)1種またはそれより多くのOH基含有(メタ)アクリレートMF、および
(c)必要に応じて、1種またはそれより多くの重合性カルボン酸モノマーMCS
の共重合、
(II)得られたコポリマーB0を、B0のポリマー鎖のモノマーMFのOH基と反応する少なくとも1種の官能基化されたラジカル重合性モノマーMPと、ポリマー類似反応で反応させて、ペンダント重合性基を保有するコポリマーBPを形成すること、ならびに
(III)コポリマーBpを塩基で中和すること
により入手可能な少なくとも1種の第二のコポリマーBPを含有する、接着剤である。
【0039】
コポリマーB0は、好ましくは以下の組成:
(a)30~85重量%、より好ましくは40~80重量%の、モノマーMG、
(b)5~55重量%、より好ましくは10~50重量%の、モノマーMF、および
(c)1~40重量%、より好ましくは5~30重量%の、モノマーMCS
を有し、全ての百分率は、コポリマーB0の質量に基づく。(a)、(b)および(c)の合計が100%であるコポリマーが、特に好ましい。
【0040】
コポリマーBpもまた、好ましくは、副分散物の形態で調製される。コポリマーB0の副分散物は、コポリマーA0と同じ方法で、モノマーMG、MF、および所望であればMCSの、有機溶媒中での共重合(工程(I))により調製される。次いで、得られたコポリマーB0は、モノマーMpと、ポリマー類似反応で反応させて、コポリマーBPを与える(工程(II))。モノマーMPの量は、好ましくは、モノマー構築ブロックMFのOH基の10~100mol%、好ましくは30~80mol%、そして特に好ましくは40~60mol%が、モノマーMPと反応するように、選択される。その後、コポリマーBは、塩基を添加することにより中和され得(工程(III))、必要に応じて、水が、得られたコポリマー溶液に添加され得(工程(IV))、次いで必要に応じて、有機溶媒が留去され得る(工程(V))。次いで、コポリマーBPの得られた副分散物は、コポリマーAPの副分散物と混合され得る。2種またはそれより多くの異なるコポリマーを含有する副分散物は、本明細書中で副共分散物と称される。好ましくは、上に記載されたモノマーMG、MF、MP、および必要に応じてMCSが、コポリマーBPを調製するために使用され、そしてAPを調製するために使用されたモノマーと同じモノマーまたは異なるモノマーが、BPを調製するために使用され得る。コポリマーBPは、いかなる強酸性モノマーMHも、これから誘導される反復単位も、含まない。全ての場合において、単官能性モノマーのみ、すなわち、1個のラジカル重合性基を有するモノマーのみが、コポリマーBPを調製するために使用される。
【0041】
本発明の好ましい実施形態によれば、副共分散物は、コポリマーAPの溶液とコポリマーBPの溶液とを別々に調製し、そしてこれらを中和前に互いに混合し、その後初めて、塩基を添加することによりこれらを中和することにより、調製される。次いで、必要に応じて水が、中和されたコポリマー分散物に必要であれば添加され、次いで必要に応じて、有機溶媒が留去される。
【0042】
コポリマーApもしくはBP、またはAPとBPとの混合物の、酸性モノマー構築ブロックを中和するための好ましい塩基は、LiOH、KOH、NaOH、NH4OHおよび有機アミン、好ましくは、エチルアミン、n-ブチルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン(TBA)、トリエチルアミン(TEA)、N-メチルモルホリンまたはジメチルシクロヘキシルアミン、アミノ酸誘導体、好ましくは、リジンメチルエステル二塩酸塩、アルギニン塩酸塩またはグリシンエチルエステル、OH官能基化アミン、好ましくは、メチルジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン(TEOA)、ブタノールアミン、ジブタノールアミン、3-ジメチルアミノ-2-プロパノール(DMAP)または1,3-ジアミノ-2-プロパノール(DAP)、高分子量エーテル基含有アミン、およびこれらの混合物である。好ましい高分子量エーテル基含有アミンは、アミノ基末端を有するオリゴマー性エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドオリゴマーである。このようなポリエーテルアミンは、例えば、JEFFAMINE(登録商標)との名称で市販されている。記載された塩基は、好ましくは、水溶液の形態で使用される。特に好ましいものは、DMAP、TBA、TEA、DAP、およびこれらの混合物の水溶液である。
【0043】
コポリマーAPおよびBPの酸性基は、完全に、または好ましくは部分的に、中和され得る。好ましくは、塩基または塩基混合物が、強酸性接着モノマーMHの含有量に基づいて、20から90mol%まで、より好ましくは25から80mol%まで、そしてなおより好ましくは30から75mol%までの量で添加される。APとBPとの混合物を使用する場合、中和は、好ましくは、これらのコポリマーを混合した後に行われる。
【0044】
形成した副分散物中のコポリマー粒子の粒子サイズは、使用される塩基の種類、および中和度によって、明確に調節され得る。本発明によれば、1~700nm、特に5~500nm、そしてとりわけ20~300nmの平均粒子サイズを有する粒子が、好ましい。
【0045】
他に記載されない限り、本明細書中の全ての粒子サイズは、体積平均粒子サイズ(D50値)であり、すなわち、全ての粒子の総体積の50%が、記載される値より小さい直径を有する粒子に含まれる。従って、D10値とは、総充填材体積の10%が、特定される値より小さい、体積直径である。
【0046】
0.1μm~1000μmの範囲の粒子サイズ決定は、好ましくは、静的光散乱(SLS)により、例えば、LA-960静的レーザー散乱粒子サイズ分析器(Horiba,Japan)またはMicrotrac S100粒子サイズ分析器(Microtrac,USA)を用いて行われる。ここで、655nmの波長を有するレーザーダイオード、および405nmの波長を有するLEDが、光源として使用される。異なる波長を有する2つの光源の使用は、1回のみの測定の実行で、サンプルの全体の粒子サイズ分布の測定を可能にする。この測定は、湿式測定として行われる。この目的で、充填材の水性分散物が調製され、そしてそれにより散乱された光が、フローセル内で測定される。粒子サイズおよび粒子サイズ分布を計算するための散乱光分析は、ミー理論に従って、DIN/ISO 13320に従って行われる。1nmから0.1μmまでの範囲内の粒子サイズの測定は、好ましくは、水性粒子分散物の動的光散乱(DLS)によって、好ましくは、633nmの波長を有するHe-Neレーザーを用いて、90°の散乱角および25℃で、例えば、Malvern Zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments,Malvern UK)を用いて行われる。
【0047】
凝集およびアグロメレーションした粒子の場合、一次粒子サイズは、TEM画像から決定され得る。透過型電子顕微鏡法(TEM)は、好ましくは、Philips CM30 TEMを使用して、300kVの加速電圧で実施される。サンプル調製のために、粒子分散物の液滴を、炭素でコーティングされた50Åの厚さの銅格子(メッシュサイズ300メッシュ)に付け、その後、溶媒を蒸発させる。粒子を計数し、そして算術平均を計算する。
【0048】
本発明による接着剤は、好ましくは、コポリマーAP(複数可)および必要に応じてBPに加えて、少なくとも1種の分散媒、特に好ましくは、エタノール、イソプロパノール、tert-ブチルアルコール、水またはこれらの混合物、最も好ましくは、エタノール、水またはこれらの混合物を含有する。最も好ましいものは水である。
【0049】
さらに、これらの接着剤は、1種またはそれより多くの、ラジカル重合のための開始剤、好ましくは光開始剤、特に、ショウノウキノンを4-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルと組み合わせたものを含有し得る。しかし、接着剤の重合はまた、例えば、この接着剤に塗布されるラジカル硬化性修復材料の重合と一緒に起こり得る。この場合、開始剤成分および/またはラジカルは、修復材料から接着剤層内へと拡散し、そしてこの接着剤の硬化を誘導すると仮定される。従って、開始剤の添加は必要に応じたものであり、そしてラジカル重合のための開始剤を含有しない接着剤が、特に好ましい。
【0050】
さらに、これらの接着剤は、1種またはそれより多くの充填材および/あるいは1種またはそれより多くの添加剤を含有し得る。
【0051】
好ましくは、本発明による接着剤は、以下の組成:
- 10~50重量%、好ましくは15~45重量%、そしてより好ましくは20~35重量%の、少なくとも1種のコポリマーAP、および必要に応じて、少なくとも1種のコポリマーBP、ならびに
- 50~90重量%、好ましくは55~85重量%、そしてより好ましくは65~80重量%の分散媒
を有する。
【0052】
これらの接着剤は、好ましくは、
- 10~70重量%、好ましくは15~60重量%、そしてより好ましくは20~55重量%の水
を含有する。
【0053】
これらの接着剤はまた、
- 0.001~10重量%、好ましくは0.01~8重量%、そしてより好ましくは0.1~5重量%の、フリーラジカル重合のための開始剤
を含有し得る。
【0054】
さらに好ましいものは、
- 0~10重量%、好ましくは0~5重量%、そしてより好ましくは0~3重量%の充填材、および/または
- 0~5重量%、好ましくは0~3重量%、そしてより好ましくは0~2重量%の、1種またはそれより多くの添加剤
を含有する接着剤である。
【0055】
与えられる全ての量は、各場合において、接着剤の総質量に関連し、水の含有量は、存在する場合、分散媒の量に含まれる。本発明による接着剤は、好ましくは、単一成分の形態で存在する。
【0056】
分散媒の量は、接着剤が所望の粘度を有するように、すなわち、結合されるべき基材、例えば歯に容易に塗布され、そして十分に広がり得るように、計量される。
【0057】
接着剤の調製のための好ましい開始剤は、光開始剤、例えばベンゾフェノン、ならびにベンゾインおよびその誘導体、ならびにα-ジケトンおよびその誘導体であり、例えば、9,10-フェナントレンキノン、1-フェニルプロパン-1,2-ジオン、ジアセチルまたは4,4’-ジクロロベンジルである。好ましい光開始剤は、ショウノウキノンおよび2,2-ジメトキシ-2-フェニル-アセトフェノン、ならびにとりわけ、α-ジケトンを、還元剤としてのアミン、例えば4-(ジメチルアミノ)-安息香酸エステル、メタクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、N,N-ジメチル-sym-キシリジンまたはトリエタノールアミンと組み合わせたものである。また好ましいものは、ノリッシュI型光開始剤、特に、ビスアシルホスフィンオキシド、モノアシルトリアルキルおよびジアシルジアルキルゲルマニウム化合物のアシル、例えば、ベンゾイルトリメチルゲルマニウム、ジベンゾイルジエチルゲルマニウムおよびビス-(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウムである。さらに好ましいものは、異なる光開始剤の混合物、例えば、ジベンゾイルジエチルゲルマニウムをショウノウキノンおよび4-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルと組み合わせたものである。最も好ましいものは、ショウノウキノンを4-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルと組み合わせたものである。
【0058】
好ましい充填材は、有機または無機充填材粒子である。好ましい無機粒子充填材は、SiO2もしくはZrO2、またはSiO2およびZrO2の混合酸化物などの酸化物をベースとする、非晶質球状材料である。ナノ粒子充填材、例えば、5~200nm、そして好ましくは10~50nmの平均一次粒子サイズを有する熱分解法シリカまたは沈降シリカが、特に好ましい。充填材は、機械特性を改善するため、および/または粘度を調節するために働き、そして好ましくは、分散物が形成される前に添加される。接着剤は、1種またはそれより多くの充填材を含有し得る。
【0059】
他の適切な添加剤としては、安定剤、殺微生物剤およびフッ化物イオン放出添加剤が挙げられる。
【0060】
驚くべきことに、本発明による接着剤は、自然の歯の組織への高い接着を示し、従って、直接的および間接的な修復物の歯への堅固な付着を可能にすることが見出された。しかし、本発明による接着剤はまた、修復物を一緒に結合させるため、および歯科用修復物を修理するためにも適切である。コポリマーAPおよびBPは、接着剤の架橋および硬化を可能にし、そして良好な機械特性を確実にするラジカル重合性基を担持する。さらに、これらの基は、例えば歯科用充填材料のラジカル重合性基と反応し得、従って、この歯科用充填材料の接着を改善し得る。
【0061】
これらの接着剤は、口腔の条件下でさえも、高く耐久性のある接着を示すことが留意されるべきである。このことは、驚くべきことである。なぜなら、コポリマーAPとコポリマーBPとの両方が、かなりの程度の親水性モノマーから構成されており、その結果、これらから形成される接着剤層は、親水性であり、従って水分に感受性であるはずであるからである。本発明者らは、コポリマーAPおよびBPを調製するために使用されるモノマーの種類および量を入念に選択することにより、ならびに重合性側鎖基をコポリマー鎖に選択的に組み込むことにより、水分の多い条件下でさえも安定な接着を確実にし、従って歯科用途のために、および特に、口腔内での使用のために著しく適切な、接着剤を得ることが可能であることを見出した。
【0062】
本発明による接着剤の特に有利な点は、これらの接着剤が、モノマー、特にラジカル重合性モノマーを含有しないことであり、このことは、毒物学観点から有利である。従って、これらの接着剤は、高い生体適合性により特徴付けられる。さらに、これらの接着剤はまた、好ましくは、乳化剤および界面活性剤を含有しない。
【0063】
生体適合性を、標準化された試験方法により、硬化した接着剤の水抽出物を使用して調査した。これらの抽出物は、マウス線維芽細胞に対して細胞傷害性を示さず、そして遺伝子毒性を示さなかった。
【0064】
本発明のコポリマーを調製するための好ましい方法が、以下に記載される。
【0065】
コポリマーAPおよびコポリマーBPを、モノマーMG、MF、ならびに必要に応じてMHおよびMCSのラジカル重合により、好ましくは、ポリ(メタ)アクリレートをよく溶解する、容易に揮発する水混和性有機溶媒中での溶液重合により、合成した。好ましい溶媒は、アセトン(沸点:56℃)、メチルエチルケトン(80℃)、ジエチルケトン(102℃)、メチルイソブチルケトン(116℃)、テトラヒドロフラン(66℃)およびアセトニトリル(82℃)、ならびにこれらの混合物である。アセトンおよびメチルエチルケトンが、特に好ましい。これらのモノマーは、好ましくは、反応混合物の質量に基づいて、10~60重量%、好ましくは15~50重量%、そしてより好ましくは20~40重量%の総モノマー濃度で使用される。
【0066】
重合は、好ましくは、ラジカル重合のための開始剤の存在下で行われる。コポリマーの調製のための好ましい重合開始剤は、熱開始剤、例えば、アゾ化合物、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、ジメチル-2,2’-アゾビスブチレート、1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)または2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、過酸化物、例えば、ジラウリルペルオキシド、ヘキサン酸tert-ブチルペルオキシ-2-エチル、ペルオキシ安息香酸tert-ブチルまたはジ-tert-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ペルオキシジカーボネート、例えば、ペルオキシ二炭酸ジシクロヘキシルまたはペルオキシ二炭酸ビス-(4-tert-ブチルシクロヘキシル)である。特に好ましいものは、AIBN、tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、ペルオキシ安息香酸tert-ブチルまたはジ-tert-ブチルペルオキシドである。完全なモノマー転換を達成する目的で、重合の経過中に開始剤を事後添加することが好ましい。必要に応じて、事後重合は、高温で行われ得る。使用される総開始剤濃度は、反応バッチの質量に基づいて、好ましくは0.1から5.0重量%まで、特に好ましくは0.5から4.0重量%まで、そして最も好ましくは0.7から2.5重量%までの範囲内である。存在する任意の残留モノマーは、好ましくは、コポリマーの透析または再沈殿により除去される。
【0067】
形成されるポリマーの数平均分子量Mnは、モノマー濃度の上昇および開始剤濃度の低下と共に、増大する。鎖長調整剤が、高いモノマー濃度においてさえも、モル質量を選択的に調節するために添加され得る。好ましい鎖長調整剤は、チオール、例えば、メルカプトエタノール、tert-ドデシルメルカプタンまたはラウリルメルカプタン、ジスルフィド、例えばジイソプロピルキサントゲンジスルフィドである。特に好ましい鎖長調整剤は、チオール基を含有するアミノ酸誘導体、例えば、N-アセチル-(L)-システイン(AC)、N-アセチル-L-システインメチルエステル、N-アセチル-L-システインエチルエステルであり、最も好ましいものはACである。チオール基を含有するアミノ酸誘導体は、特に良好な生体適合性を有するポリマーを与える。鎖長調整剤は、反応混合物の質量に基づいて、好ましくは0.1~5.0重量%、より好ましくは0.5~4.0重量%、そしてなおより好ましくは0.7~3.0重量%の濃度で使用される。
【0068】
開始剤および鎖長調整剤は、重合中に、末端基としてポリマーに組み込まれる。ポリマー化学において通常であるように、これらは、ポリマーの組成を特定する場合に考慮されない。
【0069】
コポリマーA0およびB0の数平均モル質量Mnは、好ましくは5,000から60,000g/molまで、より好ましくは10,000から50,000g/molまで、そして最も好ましくは15,000から40,000g/molまでの範囲であり、数平均モル質量Mnは、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)により決定される。
【0070】
ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)は、分子が、分子のサイズ、またはより厳密には、分子の流体力学的体積に基づいて分離される、相対定量法である。絶対的な分子質量は、既知の標準物質での較正により決定される。好ましくは、分布が狭いポリスチレン標準物質が、較正標準物質として使用される。これらは市販されている。スチレン-ジビニルベンゼンカラムが分離物質として使用され、そしてテトラヒドロフラン(THF)が溶出液として使用される。スチレン-ジビニルベンゼンカラムは、有機溶媒に可溶である合成ポリマーのために適切である。測定は、調査されるべきポリマーの希薄溶液(0.05~0.2重量%)を用いて行われる。
【0071】
あるいは、数平均モル質量は、凝固点降下(凝固点降下法)、沸点上昇(沸点上昇法)または蒸気圧降下(蒸気圧浸透圧法)からの周知の方法により決定され得る。これらは、較正標準物質を必要としない、絶対定量法である。0.005~0.10mol/kgの濃度の希薄ポリマー溶液の4種~6種の濃度系列が試験され、次いで測定された値が、0mol/kgの濃度に外挿される。
【0072】
その後、コポリマーは、モノマーMP、好ましくはメタクリル酸2-イソシアナトエチル(IEMA)と、ポリマー類似反応で反応させられる。この反応は、好ましくは、最初の工程からのコポリマー溶液中で行われる。このために、モノマーMp、例えばIEMAは、有機溶媒、好ましくはアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフランまたはアセトニトリル、特に好ましくはアセトンに溶解され、そしてポリマー溶液に、20~60℃、好ましくは40~55℃の温度で滴下される。これらの反応を加速するために、スズ(II)のシュウ酸塩もしくはオクタン酸塩、ジラウリン酸ジブチルスズ、トリ-o-トリルビスマス、トリフェニルビスマス、トリス-(2-メチルフェニル)ビスマス、トリス-(2-メトキシフェニル)ビスマスまたはネオデカン酸ビスマス(III)などの触媒が添加され得る。特に好ましいものは、トリ-o-トリルビスマスまたはネオデカン酸ビスマス(III)などのビスマス触媒であり、これらは、高い生体適合性により特徴付けられる。特に好ましい実施形態によれば、モノマーMPとの反応は、触媒なしで行われる。
【0073】
その後、コポリマーApおよびBPの酸性基は、塩基を添加することにより中和される。副共分散物の調製のために、コポリマーAPおよびBPは、好ましくは、中和前に一緒に混合される。水と少なくとも部分的に混和性であり、そして水より低い沸点を有する有機溶媒、または沸点が水の沸点より低い共沸混合物に溶解させた、コポリマーAp、またはAPとBPとの混合物に、1種またはそれより多くの塩基が添加される。好ましくは、この塩基は、水溶液の形態で段階的に添加される。
【0074】
塩基溶液中の水の量が、コポリマー溶液を分散させるために十分ではない場合、または塩基が水溶液の形態で使用されない場合、水が、中和されたコポリマー溶液に添加される。この混合物は、好ましくは激しく撹拌され、次いで有機溶媒は、好ましくは少なくとも部分的に蒸発させられる。この溶媒が蒸発すると、粘性の副分散物または副共分散物が形成される。得られた副分散物または副共分散物は、コポリマー(複数可)の粒子を含有する。この副分散物または副共分散物は、接着剤として直接使用され得るか、または接着剤を調製するために使用され得る。
【0075】
本発明による歯科材料の有利な特性は、大部分が、ラジカル重合性コポリマーAPおよび必要に応じてBPに起因する。これらは、安定な分散物の調製を可能にする、粒子の形態で存在する。これらのコポリマーは酸性基を担持し、これらの酸性基は、中和後に、分散物の陰イオンでの安定化をもたらす。同時に、強酸性モノマーとカルボン酸モノマーとの組み合わせは、象牙質およびエナメル質への高い接着をもたらす。これらの接着剤を歯の表面に塗布し、引き続いて乾燥させた後に、これらのコポリマーは、十分に接着したポリマーフィルムを形成し、これは、修復用コンポジットなどの歯科用修復材料との、モノマーMPの重合性基を介した強い結合を可能にする。コポリマーAP、および存在する場合にはBPは、高い生体適合性を有する、一成分の、モノマーを含まない接着剤の調製を可能にする。
【0076】
本発明による適切なコポリマーは、好ましくは、上に記載された方法で調製され得る。しかし、コポリマーAPおよびBPはまた、他の公知のラジカル重合方法により、例えば、先行技術分野において公知である、物質重合(substance polymerization)、沈殿重合、懸濁重合または乳化重合、およびリビングフリーラジカル重合の方法により、合成され得る。これらのプロセスで得られたコポリマーは、少なくとも部分的に水と混和性であり、そして水より低い沸騰温度を有する有機溶媒に溶解され得、そしてポリマー類似反応により重合性モノマーMPと反応させられ得る。次いで、このポリマー溶液は、激しく撹拌しながら水に分散され、水への分散前、分散後または分散中に、酸基が塩基で完全にまたは部分的に中和され、そして最後に、有機溶媒が実質的に蒸発させられる。次いで、これらのコポリマーは、適切な分散媒に分散され得る。
【0077】
本発明による材料は、歯科医による損傷した歯の修復(治療用途)のための口腔内での使用のための歯科材料として、とりわけ歯科用接着剤として、そして特にエナメル質-象牙質接着剤として、特に適切である。
【0078】
本発明による材料はまた、口腔外の材料(非治療)として、例えば、歯科用修復物の製作または修理における接着剤として、使用され得る。これらの材料はまた、インレー、アンレー、クラウンまたはブリッジの製作および修理のための接着剤として、適切である。
【0079】
塗布のために、本発明による接着剤は、好ましくは、準備されたエナメル質および/または象牙質の表面に、ブラシで塗布され、そしておそらく、この表面にこすり付けられる。フィルム形成は、液体の蒸発により、例えば、空気を吹き付けることにより、または人工の熱源もしくは放射線で加熱することにより、加速され得る。このプロセスで、接着したポリマーフィルムが形成される。エナメル質および/または象牙質の表面は予め、通常の手段、例えば37%のリン酸でのエッチングおよび/または空気流での乾燥により、事前調整され得る。しかし、このことは必要なわけではなく、酸での前処理なしでさえも優れた接着が達成される。その後、例えば光硬化性修復用コンポジットが塗布され得、そして光での照射により硬化され得る。この接着剤が光開始剤を含有する場合、修復用コンポジットが塗布される前に、この接着剤層は照射により硬化され得る。
【0080】
本発明による接着剤を用いて、15MPaまたはそれより高い、象牙質およびエナメル質への剪断結合強度が達成され得、これは、修復材料と歯の組織との間の非常に良好な耐久性のある結合を確実にする。
【0081】
本発明は、以下の実施例においてより詳細に説明される。これらの実施例は、本発明によるエナメル質-象牙質単一成分接着剤が、生体適合性であり、そして良好なエナメル質-象牙質結合をもたらすことを実証する。
【実施例0082】
実施例1:
溶液中での制御されたフリーラジカル共重合およびメタクリル酸2-イソシアナトエチル(IEMA)での官能基化による、コポリマーAPの合成
a)溶液中での共重合:
【0083】
ビーカー内で、55gのメタクリル酸n-ブチル(BuMA)、15gのメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)、20gのMDPおよび10gのメタクリル酸(MAA)を、100gのアセトンに、超音波浴を使用して溶解させた。第二のビーカー内で、1gのAIBNおよび1gのN-アセチルシステインを、50gのアセトンに、撹拌しながら溶解させた。これらの2つの溶液を合わせ、そして還流冷却器、2個の滴下漏斗(50mlおよび250ml)、窒素給送口(大きい方の滴下漏斗上)、気泡計数器(還流冷却器上)および大きい磁気撹拌棒を備え付けた500mlの三口フラスコからなる装置の、大きい方の滴下漏斗に移した。この三口フラスコ内で、100gのアセトンを導入した。次いで、約25体積%のアクリレート溶液をこの三口フラスコに入れた。この装置全体を窒素で15分間、徹底的にパージした。その後、窒素流を制御して弱め、1秒間あたり1個の気泡が気泡計数器内に見えるようにした。窒素流下で、この溶液をこの三口フラスコ内で30分間(80℃の油浴温度)還流させ、その後、滴下漏斗に残っている溶液を、90分以内に、沸騰している重合溶液に添加した。添加後、50gのアセトンに溶解させた1gのAIBNを再度、この沸騰している溶液に、小さい方の滴下漏斗を介して手早く添加した。合計7時間の重合時間の後に、この装置をオフに切り替えて冷却することにより、この溶液重合を停止させた。コポリマーA0の透明な、わずかに粘性の溶液が得られた。
b)コポリマーAPを形成するための、A0のIEMA(=MP)での官能基化
【0084】
上で得られたA0のポリマー溶液を、100mlの滴下漏斗および還流冷却器を備え付けた1lの三口フラスコに移した。50gのアセトンに溶解させた17.84gのIEMAの溶液を調製し、そしてこの滴下漏斗に移した。50℃の温度で、このIEMA溶液を上記ポリマー溶液に1時間以内に添加した。次いで、この溶液を50℃まで、さらに3時間加熱した。この反応を完了させるために、得られた溶液を、次いで室温でさらに14時間撹拌した。イソシアネートの完全な転換を、FTIR分光法(NCOバンド)により監視した。使用したIEMAの量は、A0中のHEMA構築ブロックの完全な転換に対応した。この反応が完了した後、この溶液は非常に粘性であったので、コポリマーAPの溶液を100gのアセトンで希釈した。
実施例2:
【0085】
溶液中での制御されたフリーラジカル共重合およびIEMAでの官能基化による、コポリマーBPの合成
a)溶液中での共重合:
【0086】
1個のビーカー内で、60gのBuMA、30gのHEMAおよび10gのMAAを、100gのアセトンに、超音波浴を使用して溶解させた。第二のビーカー内で、1gのAIBNおよび1gのN-アセチルシステインを、50gのアセトンに、撹拌しながら溶解させた。これらの2つの溶液を合わせ、そして還流冷却器、2個の滴下漏斗(50mlおよび250ml)、窒素給送口(大きい方の滴下漏斗上)、気泡計数器(還流冷却器上)および大きい磁気撹拌棒を備え付けた500mlの三口フラスコからなる装置の、大きい方の滴下漏斗に移した。この三口フラスコ内で、100gのアセトンを導入した。次いで、約25体積%のメタクリレート溶液をこの三口フラスコに入れた。この装置全体を窒素で15分間、徹底的にパージした。その後、窒素流を制御して弱め、1秒間あたり1個の気泡が気泡計数器内に見えるようにした。窒素流下で、この溶液をこの三口フラスコ内で30分間(80℃の油浴温度)還流させ、その後、滴下漏斗に残っている溶液を、90分以内に、沸騰している重合溶液に添加した。添加後、50gのアセトンに溶解させた1gのAIBNを再度、この沸騰している溶液に、小さい方の滴下漏斗を介して手早く添加した。合計7時間の重合時間の後に、この装置をオフに切り替えて冷却することにより、この溶液重合を停止させた。コポリマーB0の透明な溶液が得られた。
b)コポリマーBPを形成するための、B0のIEMA(=MP)での官能基化
【0087】
上で得られたB0のポリマー溶液を、100mlの滴下漏斗および還流冷却器を備え付けた1lの三口フラスコに移した。50gのアセトンに溶解させた17.84gのIEMAの溶液を調製し、そしてこの滴下漏斗に移した。50℃の温度で、このIEMA溶液を上記ポリマー溶液に1時間以内に添加した。その後、この溶液を50℃まで、さらに18時間加熱した。イソシアネートの完全な転換を、FTIR分光法(NCOバンド)により監視した。使用したIEMAの量は、B0中のHEMA構築ブロックの完全な転換に対応した。この反応の完了後、コポリマーBPのわずかに黄色がかった透明な溶液が得られた。
実施例3:
APおよびBPをベースとする副共分散物の調製(70%の中和)
【0088】
実施例1で得られたコポリマーAPの溶液の約1/8、および実施例2で得られたコポリマーBPの溶液の約1/8を、それぞれビーカー内に別々に量り取った。これらの2つの溶液を、250mlの丸底フラスコ内で、激しく撹拌しながら混合した。得られた濁った溶液に、12.5gの脱塩水に溶解させた560mgのジメチルアミノ-1-プロパノール(DMAP)を、ガラスピペットを使用して少量ずつ手早く添加した。このDMAPの量は、コポリマーAp中のリン酸基の70%を中和するために必要とされる量に対応する。この添加が完了した後に、透明な溶液が存在した。アセトンを、この溶液から、ロータリーエバポレーターで、約250mbarの圧力および約40℃の水浴温度で除去した。有機溶媒の除去後、副共分散物が、乳白色の粘性液体として得られた。
実施例4:
実施例3からの副共分散物をベースとする接着剤の調製、および歯の組織への剪断結合強度の測定
【0089】
実施例3で得られた6gの副共分散物に、光開始剤成分であるショウノウキノン(CQ:45mg)および4-(ジメチルアミノ)安息香酸エチル(EMBO:16mg)の両方を合計4gのエタノールに溶解させたものを添加し、そしてこの混合物を激しい振盪により混合して、透明な溶液を形成した。この混合物の固形分は、30重量%であった。この混合物を、剪断接着測定のための接着剤として使用した。
【0090】
エナメル質および象牙質への剪断結合強度測定のために、ISO 29022:2013(歯科-接着-ノッチ付き剪断接着強さ試験)に従って、ウシの歯を、包埋剤/注型樹脂(Visco-Voss GTS、Vosschemie Company、またはBosworth Fast Tray)を含むDublisil 15(付加架橋したビニルポリシロキサン、Dreve Company)製のシリコーン型に、ウシの基材の唇側がシリコーン型の下側/底部になり、そしてウシの基材が2~5mmの包埋/注型樹脂で覆われるように、包埋した。樹脂で覆われた歯を、型と一緒に真空オーブン内で、およそ400mbarでおよそ30秒間脱気した。硬化を、室温および周囲圧力で一晩行った。翌日、試験標本をシリコーン型から外した。研磨紙(グリットサイズ120および400)で磨砕した歯の表面を微温湯ですすぎ、そして37℃まで予め焼き戻しした。象牙質またはエナメル質の表面を拭いて乾かした(Kimtech Wipes)。全ての象牙質およびエナメル質の剪断結合強度の値を、H3PO4でいわゆるセルフエッチングモードで歯を事前にエッチングすることなく、決定した。
【0091】
次いで、この接着剤を歯の表面に直接、アプリケーター(Microbrushアプリケーター、Microbrush International,USA)により、酸での前処理なしに塗布し、穏やかな圧力でおよそ20秒間撹拌し、次いで油を含まない空気流を吹き付けて、空気流に曝露されたときに動かないフィルムが形成されるまで、溶媒を除去した。その後、LED灯(ブルーフェーズStyle、1200mW/cm2、560nm、Ivoclar Vivadent AG)を10秒間使用して、標本を露光した。この方法で調製した試験標本を、EN ISO 29022:2013に従って、調製した面を上に向けて、クランプ留めデバイスにクランプした。接着剤層が、歯の挿入および位置決め中に、ならびにクランプ留めデバイスの上部の部品の配置中に、損傷しないことを確実にするように注意を払った。接着剤層がクランプ留めデバイスの頂部との尚早な接触により損傷した標本を廃棄した。保持ねじをわずかに締めることによって、歯をクランプ留めデバイスに固定した。次いで、歯科充填用コンポジット(Tetric Evo-Ceram BulkFill、Ivoclar Vivadent AG)を、クランプ留めデバイスの開口部を通して、2~4mmの層の厚さに塗布した。加えられる適応圧力を、コンポジットがいかなる気泡もなしに接着剤と接触するような方法で選択した。過剰な圧力は、クランプ留めデバイスの下へのコンポジットの漏出、およびコンポジットシリンダー周囲でのコンポジットビーズの形成をもたらす。このような環状のコンポジットビーズを有する試験標本を廃棄した。その後、コンポジットを、使用説明書(10秒間、560nm、ブルーフェーズStyle重合灯、Ivoclar Vivadent AG)に従って重合させた。
【0092】
剪断結合強度を測定するために、接着剤で結合したコンポジットシリンダーを、歯から、23℃で、Zwick-Roell Z010試験機(500Nのロードセル、試験速度1mm/分)を使用して、Ultradent法(EN ISO 29022、2013年)に従って、剪断した。この剪断結合強度は、16.2MPa(象牙質)および19.5MPa(エナメル質)であると決定された。これらは、エナメル質-象牙質接着剤のための優れた結合強度値であり、充填用コンポジットと歯の組織との間の耐久性のある結合を確実にする。
実施例5:
実施例4からの接着剤の生体適合性の測定
【0093】
実施例4からの接着剤の生体適合性を測定するために、この接着剤を光硬化させて薄片にし、次いでこれらの薄片を水中に分散させた。細胞生存性を、細胞系LS929のマウス線維芽細胞を使用するWST-1アッセイにより決定した。このアッセイは、テトラゾリウム塩WST-1(4-(3-(4-ヨードフェニル)-2-(4-ニトロフェニル)-2H-5-テトラゾリウム)-1,3-ベンゼン=ジスルホネート)を使用する。これは、生存している代謝活性な細胞により酵素的に、赤色のホルマザン色素に転換され、その色の強度が、測光的に決定される。このアッセイを、Y.M.Pupoらによる刊行物(「Cytotoxicity of Etch-and-Rinse,Self-Etch,and Universal Dental Adhesive Systems in Fibroblast Cell Line 3T3」,Scanning Vol.2017,Article ID 9650420)に従って設計した。モノマーのHEMAを陽性対照として使用した。マウス線維芽細胞に対して、細胞傷害性は見出されなかった。
【0094】
さらに、遺伝子毒性を、DIN EN ISO 10993-3(2018)に従って、コメットアッセイにより試験した。コメットアッセイは、損傷したDNA鎖のゲル電気泳動による決定に基づく。硬化した接着剤の抽出物は、コメットアッセイにおいてDNA損傷効果を示さず、従って、マウス線維芽細胞に対する遺伝子毒性を示さなかった。
実施例6:
APおよびBPをベースとする副共分散物の調製(50%および30%の中和)
【0095】
実施例3と同様に、実施例1で得られたコポリマーAPの溶液の1/8、および実施例2で得られたコポリマーBPの溶液の1/8を、それぞれビーカー内に別々に量り取った。これらの2つの溶液を、250mlの丸底フラスコ内で、激しく撹拌しながら混合した。得られた濁った溶液に、12.5gの脱塩水に溶解させた400mgのDMAPを、ガラスピペットを使用して少量ずつ手早く添加した。第二のバッチでは、12.5gの脱塩水に溶解させた240mgのDMAPを、得られた濁った溶液に添加した。これらのDMAPの量は、コポリマーAp中のリン酸基のそれぞれ50%および30%の中和に対応する。アセトンを、形成された透明な溶液から、ロータリーエバポレーターで、約250mbarの圧力および約40℃の水浴温度で除去した。有機溶媒の除去後、副共分散物が、それぞれの場合に乳白色の粘性分散物として得られた。
【0096】
実施例4と同様に、30%の固形分を有する接着剤を、これらの分散物を用いて、CQ、EMBOおよびエタノールを添加することにより調製し、そして歯の組織への剪断結合強度を調査した。15.1MPa(象牙質)および20.5MPa(エナメル質)の接着値が、50%中和した分散物に関して測定され、そして18.1MPa(象牙質)および21.9MPa(エナメル質)の接着値が、30%中和した分散物に関して測定された。