(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035188
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】筋肉増加用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/175 20160101AFI20240306BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240306BHJP
A61K 31/197 20060101ALI20240306BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240306BHJP
A23K 20/142 20160101ALI20240306BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240306BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20240306BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALN20240306BHJP
【FI】
A23L33/175
A23L2/00 F
A23L2/52
A61K31/197
A61P21/00
A23K20/142
C12N15/09 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12Q1/6851 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023139790
(22)【出願日】2023-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2022137310
(32)【優先日】2022-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000246398
【氏名又は名称】有機合成薬品工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】野田 哲治
(72)【発明者】
【氏名】片倉 喜範
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4B063
4B117
4C206
【Fターム(参考)】
2B150AA02
2B150AA03
2B150AB05
2B150DA47
4B018LB08
4B018LB10
4B018ME14
4B063QA01
4B063QA13
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QR66
4B063QS10
4B063QS14
4B063QS25
4B063QX02
4B117LC04
4B117LK14
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA44
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA94
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、安全性に優れた筋肉増加成分を提供することである。
【解決手段】前記課題は、本発明のβ-アラニン又はその塩を有効成分として含む、筋肉増加用組成物によって解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-アラニン又はその塩を有効成分として含む、筋肉増加用組成物。
【請求項2】
前記筋肉が遅筋又は速筋である、請求項1に記載の筋肉増加用組成物。
【請求項3】
筋肉増加が、筋芽細胞から筋管細胞への分化時における遅筋又は速筋の増加である、請求項2に記載の筋肉増加用組成物。
【請求項4】
食品組成物である、請求項2又は3に記載の筋肉増加用組成物。
【請求項5】
β-アラニン又はその塩の有効量を対象に投与する工程を含む、筋肉増加方法。
【請求項6】
前記筋肉が遅筋又は速筋である、請求項5に記載の筋肉増加方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋肉増加用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
骨格筋組織は代謝や収縮特性の違いにより、遅筋タイプおよび速筋タイプに分類される。遅筋タイプはゆっくりと持続的に収縮し、遅筋タイプ骨格筋の増加は、運動不足の改善に有効である。速筋タイプは、速い速度で収縮し、大きな力を瞬間的に発揮するが、年齢と共に減少すると言われている。速筋を増加させることにより、瞬発的な動きが可能になり、けがを予防することができる。
一方、動物の食肉の観点において、遅筋タイプの筋線維が増加すると、タウリン、カルニチン、鉄分が増加し、更に軟らかさやジューシーさが向上することが豚を用いた研究で報告されている(非特許文献1)。例えば、遅筋タイプの骨格筋の増加剤として、オレイン酸を含む遅筋増加剤(特許文献1)が報告されている。また、速筋タイプの骨格筋の増加剤として、ジュニパーベリー抽出物などを含む速筋増加剤(特許文献2)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-170955号公報
【特許文献2】特開2013-100272号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Kang Y.K. et al., Effects of myosin heavy chain isoforms on meat quality, fatty acid composition, and sensory evaluation in Berkshire pigs, Meat Science, 89, 384-389(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、安全性に優れた筋肉増加成分の開発が期待されている。従って、本発明の目的は、安全性に優れた筋肉増加成分を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、安全性に優れた筋肉増加成分について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、β-アラニンが優れた筋肉増加作用を示すことを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]β-アラニン又はその塩を有効成分として含む、筋肉増加用組成物、
[2]前記筋肉が遅筋又は速筋である、[1]に記載の筋肉増加用組成物、
[3]筋肉増加が、筋芽細胞から筋管細胞への分化時における遅筋又は速筋の増加である、[2]に記載の筋肉増加用組成物、及び
[4]食品組成物である、[2]又は[3]に記載の筋肉増加用組成物、
に関する。
また、本明細書は、
[5]β-アラニン又はその塩の有効量を対象に投与する工程を含む、筋肉増加方法(医療行為として実施してもよく、医療行為を除いてもよい)、
[6]前記筋肉が遅筋又は速筋である、[5]に記載の筋肉増加方法(医療行為として実施してもよく、医療行為を除いてもよい)、
を開示する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の筋肉増加用組成物によれば、効果的に遅筋及び速筋を増加させることができる。また、ウシやブタなどの食肉において、遅筋及び速筋を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】C2C12細胞にβ-アラニンを添加し、MyHCI、MyHCIIa、MyHCIIb、及びMyHCIIx遺伝子の発現を示したグラフである。
【
図2】C2C12細胞にβ-アラニンを添加し、MyoD遺伝子の発現を示したグラフである。
【
図3】β-アラニンの添加により、筋芽細胞から筋管細胞に分化した筋肉細胞を示す蛍光顕微鏡写真及び遅筋細胞と速筋細胞との割合を示すグラフである。
【
図4】C2C12細胞を分化させ、その後β-アラニン0.5、1、10(mM)を2日間添加したC2C12細胞における、MyHCI(遅筋)(A)、MyHCIIa(速筋)(B)、MyHCIIx(速筋)(C)、MyHCIIb(速筋)(C)のmRNA発現量をRT-qPCRによって測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の筋肉増加用組成物は、β-アラニン又はその塩を有効成分として含む。
【0010】
β-アラニンは下記式[1]:
【化1】
で表される化合物であり、3-アミノプロパン酸(3-aminopropanoic acid)とも称される。本発明の筋肉増加用組成物に含まれるβ-アラニンとしては、β-アラニンを比較的多く含む食品又は天然物からの抽出物、濃縮物、又は精製物等を用いることができる。また、合成されたβ-アラニンを用いてもよい。β-アラニンは、例えばβ-プロピオラクトンからのβ-アラニン合成法(Ford, Org. Sys. Coll. Vol. 3, 34(1955))によって合成することができる。別の合成方法として、アクリロニトリル及びアンモニアから合成することができる。本発明の筋肉増加用組成物は、β-アラニンをその塩、水和物、又は溶媒和物として含むこともできる。
【0011】
β-アラニンの塩としては、無機塩基又は有機塩基等との塩、あるいは酸との塩であって、医薬、食品又は化粧料として許容される塩であれば限定されない。具体的な無機塩基又は有機塩基等との塩としては、無機塩基、有機塩基、又は金属アルコキシドとの塩が挙げられる。β-アラニンと無機塩基、有機塩基、又は金属アルコキシドとの混合により生成しうる。
塩を形成しうる無機塩基としては、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、又はカリウム等)の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩、又は水素化物;アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム、又はバリウム)の水酸化物、又は水素化物等が挙げられる。塩を形成しうる有機塩基としては、ジメチルアミン、トリエチルアミン、ピペラジン、ピロリジン、ピペリジン、2-フェニルエチルアミン、ベンジルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピリジン、又はコリジン等が挙げられる。また、金属アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、カリウムtert-ブトキシド、又はマグネシウムメトキシド等が挙げられる。β-アラニンの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、又はそれらの組み合わせが好ましい。
また、具体的な酸との塩としては、無機酸、又は有機酸との塩が挙げられる。塩を形成しうる無機酸としては、塩酸が挙げられる。
【0012】
《遅筋及び速筋に関連する遺伝子》
MyHCIは遅筋のマーカーであり、MyHCIIa、及びMyHCIIb、MyHCIIxは速筋のマーカーである。また、MyoDは筋分化転写制御因子であり、筋芽細胞から筋管細胞への分化を促す。
MyHCIの発現が増加することにより、筋芽細胞から遅筋細胞への分化を促進し、遅筋細胞を増加させることができる。MyHCIIa、及びMyHCIIb、MyHCIIxの発現が増加することにより、筋芽細胞から速筋細胞への分化を促進し、速筋細胞を増加させることができる。
【0013】
《遅筋線維及び速筋線維》
骨格筋を形成する筋線維(筋細胞)は多核細胞であり、筋線維の集まりが筋束を構成し、筋束の集まりが骨格筋を構成する。骨格筋は、遅筋線維(遅筋と称することがある)及び速筋線維(速筋と称することがある)に分けられる。遅筋線維は一般的に赤色を呈する。赤色は、酸素が結合するミオグロビンの色であり、Type1と称される。一方、速筋線維は白色を呈し、Type2と称される。本発明の筋肉増加用組成物は、前記遅筋線維及び/又は速筋線維を増加させることができる。
【0014】
《遅筋細胞への分化》
本発明に用いるβ-アラニンは、限定されるものではないが、分化時における遅筋の増加を促進することができる。筋芽細胞が筋管細胞に分化する場合、遅筋細胞又は速筋細胞に分化する。本発明の筋肉増加用組成物は、筋芽細胞から分化する遅筋細胞を増加させることができる。
【0015】
《速筋線維への分化》
本発明に用いるβ-アラニンは、限定されるものではないが、筋芽細胞から筋管細胞への分化時における速筋の増加を促進することができる。筋芽細胞が筋管細胞に分化する場合、遅筋細胞又は速筋細胞に分化する。本発明の筋肉増加用組成物は、筋芽細胞から分化する速筋細胞を増加させることができる。
【0016】
本発明の筋肉増加用組成物の投与剤型としては、特に限定がなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁剤、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤等の経口剤、又は注射剤、外用液剤、軟膏剤、坐剤、局所投与のクリーム、若しくは点眼剤などの非経口剤を挙げることができる。
経口剤は、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ブドウ糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリデン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができる。
非経口剤としては、例えば注射剤を挙げることができる。注射剤の調製においては、有効成分の他に、例えば生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、又は乳化剤などを任意に用いることができる。
【0017】
筋肉増加用組成物を用いる場合の投与量は、例えば対象者の年齢、性別、体重、又は投与方法に応じて適宜決定することができ、経口的に又は非経口的に投与することが可能である。例えば、本発明の筋肉増加用組成物を経口摂取する場合の摂取量は、例えば成人の場合、β-アラニンとして1日当たり0.01~100mg/kgが好ましい。なお、上記の投与法は一例であり、他の投与法であってもよい。ヒトへの筋肉増加用組成物の投与方法、投与量、投与期間、及び投与間隔等は、管理された臨床治験によって決定されることが望ましい。
【0018】
更に、投与形態も医薬品に限定されるものではなく、後述のように食品組成物(例えば、機能性食品や健康食品、飲料)、又は動物用飼料組成物として投与することが可能である。本発明の筋肉増加用組成物は健康な対象に用いてもよく、なんらかの疾患を有する対象に用いてもよい。
β-アラニンを含有する筋肉増加用組成物の製造方法は、β-アラニンを有効成分として含むこと以外は、公知の医薬組成物、食品組成物、又は動物用飼料組成物の製造方法を用いて製造することができる。
【0019】
本発明の筋肉増加用組成物は、その他の成分を含有することができる。前記その他の成分としては、例えば、食用油脂、水、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤、ローカストビーンガム、カラギーナン、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、又は化工澱粉等の増粘安定剤、食塩、又は塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、又はグルコン酸等の酸味料、糖類又は糖アルコール類、ステビア、又はアスパルテーム等の甘味料、ベータカロチン、カラメル、又は紅麹色素等の着色料、トコフェロール、又は茶抽出物等の酸化防止剤、着香料、pH調整剤、食品保存料、又は日持ち向上剤等の食品素材や食品添加物を挙げることができる。また、各種ビタミンやコエンザイムQ、植物ステロール、又は乳脂肪球皮膜等の機能素材を含有させることも可能である。これらのその他の成分の含有量は、本発明の筋肉増加用組成物中、合計で好ましくは80質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは20質量%以下とする。
【0020】
《食品組成物》
本発明の筋肉増加用組成物は、食品組成物であってもよい。本発明の筋肉増加用食品組成物は、β-アラニン又はその塩を含む。本発明の筋肉増加用食品組成物は、経口的に投与することができる限りにおいて、特に限定されるものではない。
【0021】
本発明の筋肉増加用食品組成物における食品は飲食品であり、飲料を含む。本発明における食品としては、特に限定されるものではなく、例えば味噌、醤油、めんつゆ、たれ、だし、パスタソース、ドレッシング、マヨネーズ、トマトケチャップ、ウスターソース、とんかつソース、又はふりかけ等の調味料、お吸い物の素、カレールウ、ホワイトソース、お茶漬けの素、又はスープの素等の即席調理食品、味噌汁、お吸い物、コンソメスープ、又はポタージュスープ等のスープ類、焼肉、ハム、又はソーセージ等の畜産加工品、大豆及びエンドウマメなどから製造される代替肉(フェイクミート)、かまぼこ、干物、塩辛、佃煮、又は珍味等の水産加工品、漬物等の野菜加工品、ポテトチップス、又は煎餅等のスナック類、食パン、菓子パン、又はクッキー等のベーカリー食品類、煮物、揚げ物、焼き物、カレー、シチュー、グラタン、ごはん、おかゆ、又はおにぎり等の調理食品、パスタ、うどん、又はラーメン等の麺類食品、マーガリン、ショートニング、ファットスプレッド、又は風味ファットスプレッド等の油脂加工食品、フラワーペースト、又は餡等の製菓製パン用素材、パン用ミックス粉、ケーキ用ミックス粉、又はフライ食品用ミックス粉等のミックス粉、チョコレート、キャンディ、ゼリー、アイスクリーム、又はガム等の菓子類、饅頭、又はカステラ等の和菓子類、コーヒー、コーヒー牛乳、紅茶、ミルクティー、豆乳、栄養ドリンク、野菜飲料、食酢飲料、ジュース、コーラ、ミネラルウォーター、又はスポーツドリンク等の飲料、ビール、ワイン、カクテル、又はサワー等のアルコール飲料類、牛乳、ヨーグルト、又はチーズ等の乳や乳製品等が挙げられる。
【0022】
本発明の筋肉増加用食品組成物は、β-アラニンを含むことを除いては、公知の飲食品の製造方法を用いて製造することができる。
【0023】
《動物用飼料組成物》
本発明の筋肉増加用組成物は、動物用飼料組成物として用いることができる。飼料としては、限定されるものではないが産業動物用飼料、又はペット用飼料(ペットフード)が挙げられる。
【0024】
動物としては、全ての非反芻動物及び反芻動物を含む。非反芻動物として、ウマ、ブタ、家禽(例えば、シチメンチョウ、アヒル、ニワトリ、ブロイラー、レイヤー)、魚類(例えば、サケ、マス、ティラピア、ナマズ、及びコイ)、甲殻類(例えばエビ)が挙げられる。非反芻動物として、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、及びリス等のペット;マウス、ラット等の実験動物が挙げられる。反芻動物としては、ウシ、ヤギ、ヒツジ、キリン、バイソン、ヤク、水牛、シカ、ラクダ、アルパカ、ラマ、及びカモシカが挙げられる。
【0025】
動物用飼料組成物の形状としては、マッシュ、ペレット、クランブル、微粉、フレーク、ペレット&フレーク、マッシュ&フレーク、顆粒などが挙げられる。
本発明の動物用飼料組成物は、β-アラニンに加えて、例えばトウモロコシグルテンフィード、ヒマワリ外皮、蒸留かす、グアー外皮、コムギミドリング粉、米籾殻、米糠、油糧種子粉末、乾燥血粉、動物副産物粉末、魚副産物、魚粉、可溶性干し魚、羽毛粉、家禽副産物、肉粉、骨粉、乾燥ホエー、大豆濃縮タンパク質、大豆粉、酵母、コムギ、オートムギ、穀実用モロコシ、トウモロコシフィード粉末、ライムギ、トウモロコシ、オオムギ、吸引穀物画分、乾燥醸造かす、トウモロコシ粉、トウモロコシグルテン粉末、飼料オートムギ粉末、モロコシ穀粒粉、コムギミルラン、コムギレッドドッグ、ホミニーフィード、コムギ粉、コムギふすま、コムギ胚芽粉末、オートムギグローツ、ライムギミドリング粉、子葉繊維、粉砕穀物、又はそれらの混合物などの任意の材料を更に含むことができる。また、反芻動物の場合、粗飼料として、牧草、野草、藁、樹葉などの茎や葉、稲わら、麦わら、もみ殻、大豆外皮、おがくず、バガスなどを含むことができ、濃厚飼料として、トウモロコシ、大麦、ライ麦、粟、綿実、大豆などの殻実類、米糠、ふすまなどの糠類、大豆粕、菜種粕などの油粕類、ビール粕、酒粕、醤油粕等の醸造粕、魚粉、骨粉等を含むことができる。
【0026】
飼料添加物としては、飼料の品質の低下の防止、飼料の栄養成分その他の有効成分の補給、飼料が含有している栄養成分の有効な利用の促進の目的で含むことができる。飼料の品質の低下の防止用途として抗酸化剤、防かび剤、粘結剤、乳化剤、調整剤が挙げられる。飼料の栄養成分その他の有効成分の補給用途としては、アミノ酸等、ビタミン、ミネラル、色調強化剤(カロテノイド)が挙げられる。飼料が含有している栄養成分の有効な利用の促進用途としては、抗菌剤、抗生物質、着香料、呈味料、酵素、生菌剤、有機酸が挙げられる。
【0027】
《筋肉増加方法》
本発明の筋肉増加方法は、β-アラニン又はその塩の有効量を対象に投与する工程を含む。すなわち、前記β-アラニン又はその塩は、筋肉増加方法に用いることができる。β-アラニン又はその塩の有効量を、ヒト又は動物に投与することにより、筋肉を増加させることができる。また、本発明の筋肉増加方法は、前記対象が、健康な場合に実施してもよく、なんらかの疾患に罹患しているときに実施してもよい。すなわち、医療行為として実施してもよく、医療行為以外で実施することもできる。対象が動物の場合、給餌方法として実施することができる。前記筋肉増加用組成物の有効量を、ヒト又は動物に投与することにより、筋肉を増加させることができる。
【0028】
《筋肉増加方法に使用するβ-アラニン》
前記β-アラニンは、筋肉増加方法に使用することができる。すなわち、本明細書は筋肉増加方法に使用するβ-アラニンを開示する。
【0029】
《β-アラニンの筋肉増加用組成物の製造への使用》
前記β-アラニンは、筋肉増加用組成物の製造に使用することができる。すなわち、本明細書は、β-アラニンの筋肉増加用組成物の製造への使用を開示する。
【0030】
《作用》
本発明の筋肉増加用組成物が、筋肉を増加できるメカニズムは、詳細に解析されているわけではないが、以下のように推定することができる。
骨格筋組織には、衛星細胞(サテライト細胞)と呼ばれる幹細胞が存在する。衛星細胞は活性化されると筋芽細胞と呼ばれる前駆細胞になる。筋芽細胞は数回の細胞分裂によって増殖した後、筋細胞に分化する。そして複数の筋細胞が互いに融合して、多核の筋管細胞になる。本発明の筋肉増加用組成物は、筋芽細胞が筋管細胞に分化する場合に、遅筋細胞及び速筋細胞への分化を促進し、それらの筋管細胞の数を増加させると考えられる。従って、遅筋及び速筋の増加を促進できると推定される。
【実施例0031】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0032】
《実施例1》
本実施例では、C2C12細胞にβ-アラニンを添加し、MyHCI(遅筋マーカー)、MyHCIIa(速筋マーカー)、MyHCIIb(速筋マーカー)、及びMyHCIIx(速筋マーカー)遺伝子の発現を検討した。
(1)全RNAの調整
全RNAの調製にはHighPureRNAIsolationKit(Roche,Basel,Switzerland)を使用した。C2C12細胞を5.0×104cells/mLの濃度で5mLDishに播種し、24時間培養後、β-アラニンを添加した。なお、コントロールにはβ-アラニン添加量と等量の1×PBSを添加した。添加から24時間後、2度目のサンプル添加を行い、24時間培養後、培養上清を吸引除去した。1×PBSで細胞を2回洗浄した後、1×PBS200μL/dishおよびHighPureRNAIsolationKitに含まれているLysis/-binding buffer400μL/dishを添加してディッシュ全体に行き渡らせ、全量を1.5mLチューブに回収した。回収したサンプルはボルテックスミキサーで60秒間懸濁した。キット中のフィルターチューブと回収用チューブを組み立て、サンプル溶液をフィルターチューブに添加し、4℃、9200×gにて15秒間遠心分離した。回収用チューブに排出された液を捨て、再びフィルターチューブと回収用チューブを組み立てた。1.5mLチューブにて、1サンプルあたり90μLのDNaseIncubation Bufferと1サンプルあたり10μLのDNaseIを混合した。この混合溶液をフィルターチューブに添加し、室温にて15分間インキュベートした。インキュベート後、WashbufferI500μLをフィルターチューブに添加し、4℃、9200×gにて15秒間遠心分離した。回収用チューブに排出された液を捨て、再びフィルターチューブと回収用チューブを組み立てた。Wash bufferII500μLをフィルターチューブに添加し、4℃、9200×gにて15秒間遠心分離した。回収用チューブに排出された液を捨て、再びフィルターチューブと回収用チューブを組み立てた。WashbufferII200μLをフィルターチューブに添加し、4℃、13000×gにて2分間遠心分離した。フィルターチューブを新しい1.5mLチューブに挿し込み、Elutionbuffer70μLをフィルターチューブに添加し、室温にて3分間静置後、4℃、9200×gにて1分間遠心分離した。以上の操作によって得られた溶出液をRNA溶液とした。溶液中のRNA濃度は、NanoDrop2000/2000C分光光度計(Thermo Scientific,Waltham,MA,USA)を用いて260nmにおける吸光値を元に算出し、以後の実験に使用した。
【0033】
(2)Reverse transcriptase quantitative PCR(RT-qPCR)
RT‐qPCRには GoTaq1-StepRT-qPCR System(Promega,Madison,WI,USA)を使用した。1.5mLチューブにて、1wellあたり10μLのGoTaq qPCR Master Mix、1wellあたり0.4μLのGoScriptRTMixfor1-StepRT-qPCR、1wellあたり1.6μLのNuclease-FreeWaterを氷上にて穏やかに懸濁し、Reaction Mixを作製した。氷上にて、96-wellPCRプレート(Nippon genetics,Tokyo,Japan)の1wellにつきReaction Mix12μL、Nuclease-FreeWaterにて2μMに希釈したプライマーForward/Reverse各2μL、Nuclease-FreeWaterにて希釈したRNA溶液4μLを添加し、プレートを1分間遠心した後、ThermalCycleDicerRealTimeSystem(TaKaRaBio,shiga,Japan)にセットし、RT‐qPCRを行った。反応条件は、37℃15分を1サイクル、95℃10分を1サイクル、95℃10秒→60℃30秒→72℃30秒を45サイクル、95℃15秒→60℃30秒→95℃15秒を1サイクルとし、FAMにより検出した。
目的遺伝子の発現量は、ΔΔCt法を用い、相対的に定量した。
プライマーは以下のとおりである。
MyHCI
センスプライマー:AGCATTCTCCTGCTGTTTCCT(配列番号1)
アンチセンスプライマー:GGCTGAGCCTTGGATTCTCA(配列番号2)
MyHCIIa
センスプライマー:ATTCTCAGGCTTCAGGATTTGGTG(配列番号3)
アンチセンスプライマー:CTTGCGGAACTTGGATAGATTTGTG(配列番号4)
MyHCIIb
センスプライマー:CTGCAGGACTTGGTGGACAAACTA(配列番号5)
アンチセンスプライマー:TTGGCCAGGTTGACATTGGA(配列番号6)
MyHCIIx
センスプライマー:CATCCCTAAGGCAGGCTCT(配列番号7)
アンチセンスプライマー:AGCCTCGATTCGCTCCTTTT(配列番号8)
図1に示すように、β-アラニンの添加により、遅筋マーカーであるMyHCI、速筋マーカーであるMyHCIIa、MyHCIIb、MyHCIIxのいずれも発現が増加した。
【0034】
《実施例2》
本実施例では、C2C12細胞にβ-アラニンを添加し、MyoD遺伝子の発現を検討した。
以下のMyoDのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いたことを除いては、実施例1の操作を繰り返した。
MyoD
センスプライマー:ATGAGGCCTTCGAGACGCTC(配列番号9)
アンチセンスプライマー:CAGAGCCTGCAGACCTTCGA(配列番号10)
図2に示すように、β-アラニンの添加により、筋芽細胞から筋管細胞への分化を促進する筋分化転写制御因子であるMyoDの発現が増加した。
【0035】
《実施例3》
本実施例では、β-アラニンの添加によって、筋芽細胞から遅筋細胞への分化が増加することを検討した。
C2C12細胞を1.0×105cells/mLの濃度でμClear Fluorescence Black Plate(Greiner bio-one, Tokyo, Japan)へ播種し、48時間後に培地を2%Horse Serum(HS)(Thermo Fisher Scientific)含有DMEM培地に交換し、分化誘導を行った。その後、2日毎に培地交換およびβ-アラニン(0.5mM又は1.0mM)の添加を行い、分化誘導から9日間培養後に以下に示す免疫染色操作を行った。なお、コントロールにはβ-アラニン添加量と等量の1×PBSを添加した。細胞培養液に8%パラホルムアルデヒド溶液を100μL/well添加し、室温で15分間静置し固定を行った。培養上清と細胞固定液を合わせて除去後、1×PBSを100μL/well添加して5分間静置し、除去するという操作を3回繰り返し、細胞を洗浄した。洗浄後、ブロッキングバッファー(1×PBS(10mL)、正常ヤギ血清(0.50mL)、TritonX-100(30μL))を100μL/well添加し、室温で1時間静置した。ブロッキングバッファーを除去後、一次抗体反応溶液を100μL/well添加し、遮光下4℃で一晩反応させた。一次抗体として、筋管特異的抗体(Anti-Fast Myosin Skeletal Heavy chain, Abcam;1 μg/mL)、又は遅筋特異的抗体(Anti-Slow Skeletal Myosin Heavy chain, Abcam;1.25 μg/mL)を用いた。一晩反応後、1×PBSで5分間×3回洗浄し、二次抗体反応溶液を100μL/well添加し、遮光下室温で1時間反応させた。二次抗体として、Goat anti-Rabbit Alexa Fluor 647(abcam;2 μg/mL)、又はGoat anti-Mouse Alexa Fluor 488(Jackson Immuno Research;0.85 μg/mL)を用いた。反応後、1×PBSで5分間×3回洗浄し、核染色溶液を100μL/well添加し、遮光下室温で20分間反応させた。反応後、1×PBSで2回洗浄した後、150μL/wellの1×PBSを添加し、IN Cell Analyzer 2200(GE Healthcare Japan, Tokyo, Japan)にて画像を取得した。画像はIN Cell Investigator High-content image analysis software(GE Healthcare Japan)で解析し、Alexa Fluor 488陽性領域(遅筋)の面積をAlexa Fluor 647陽性領域(筋管)の面積で除し、全筋管における遅筋の割合を求めた。プロトコルは「Hoechst_488_647」を使用した。
【0036】
《実施例4》
本実施例では、C2C12細胞にβ-アラニンを添加し、MyHCI(遅筋マーカー)、MyHCIIa(速筋マーカー)、MyHCIIb(速筋マーカー)、及びMyHCIIx(速筋マーカー)遺伝子の発現を検討した。
C2C12細胞を2.0×105cells/mLの濃度で6-wellプレートに播種し、48時間後に培地を2% Horse Serum(HS)(Thermo Fisher Scientific)含有DMEM培地に交換し、分化誘導を行った。更に24時間後に2%HS含有DMEM培地に交換を行った。その後2日毎に培地交換を行い、細胞の播種から8日目と9日目に培地交換およびβ-アラニンの添加(0.5mM、1mM、又は10mM)を行い、細胞は播種から10日目ものを実験に用いた。なお、コントロールにはβ-アラニン添加量と等量の1×PBSを添加した。
全RNAの調整、及びRT-qPCRは、実施例1に従って実施した。
【0037】
図4に示すように、分化後β-アラニンを添加したC2C12細胞において、遅筋のMyHCIは0.5mM、1mM、10mMで有意な増加傾向にあることが確認され、速筋のMyHCIIaにおいても0.5mM、1mM、10mM濃度依存的な遺伝子発現量の増強がみられた。また、MyHCIIx、MyHCIIbにおいては、1mM、10mMで有意に増加した。
【0038】
β-アラニンの添加によって、筋芽細胞から筋管細胞への分化が促進し、筋管細胞数が増加した。また、β-アラニンの添加量が増加するに従って、遅筋細胞の比率が増加した。これは、β-アラニンが速筋細胞及び遅筋細胞の増加を促進するが、特にβ-アラニンの濃度が高くなると遅筋細胞の増加の割合が高くなるものと考えられる。