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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035189
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】しわ抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/175 20160101AFI20240306BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20240306BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 31/197 20060101ALI20240306BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240306BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 35/34 20150101ALI20240306BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20240306BHJP
   C12N 5/077 20100101ALN20240306BHJP
【FI】
A23L33/175
A61K8/44 ZNA
A61Q19/00
A61K31/197
A61P17/00
A61P43/00 105
A61K35/34
A61K47/46
A61K8/98
C12N5/077
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023139791
(22)【出願日】2023-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2022137311
(32)【優先日】2022-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000246398
【氏名又は名称】有機合成薬品工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】野田 哲治
(72)【発明者】
【氏名】片倉 喜範
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C076
4C083
4C087
4C206
【Fターム(参考)】
4B018MD19
4B018ME10
4B065AA93X
4B065AC14
4B065BA22
4B065BB40
4B065BD33
4B065CA41
4B065CA44
4C076AA01
4C076AA06
4C076AA11
4C076AA17
4C076AA22
4C076AA30
4C076AA31
4C076AA36
4C076AA53
4C076BB01
4C076BB11
4C076BB24
4C076BB31
4C076CC18
4C076EE57
4C076FF70
4C083AA071
4C083AC621
4C083BB51
4C083CC03
4C083DD14
4C083DD15
4C083DD16
4C083DD17
4C083DD23
4C083DD31
4C083DD41
4C083EE12
4C083FF01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB47
4C087CA04
4C087MA22
4C087MA23
4C087MA28
4C087MA31
4C087MA34
4C087MA35
4C087MA37
4C087MA41
4C087MA43
4C087MA52
4C087MA58
4C087MA63
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZB21
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA44
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA89
4C206ZB21
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、安全性に優れたしわ抑制用成分を提供することである。
【解決手段】前記課題は、本発明のβ-アラニン又はその塩を有効成分として含む、しわ抑制用組成物によって解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-アラニン又はその塩を有効成分として含む、しわ抑制用組成物。
【請求項2】
皮膚真皮細胞におけるI型コラーゲン構成要素(COL1A1)の促進、I型コラーゲン分解酵素の抑制、エラスチンの合成の促進、ミクロフィブリル関連タンパク質(MFAP4)の促進、エラスチン分解酵素の抑制、ヒアルロン酸合成酵素の促進、又はヒアルロン酸分解酵素の抑制による、請求項1に記載のしわ抑制用組成物。
【請求項3】
β-アラニン又はその塩により筋肉細胞から産生される培養物を含む、しわ抑制用組成物。
【請求項4】
皮膚真皮細胞におけるI型コラーゲン構成要素(COL1A1)の促進、I型コラーゲン分解酵素の抑制、エラスチンの合成の促進、ミクロフィブリル関連タンパク質(MFAP4)の促進、エラスチン分解酵素の抑制、ヒアルロン酸合成酵素の促進、又はヒアルロン酸分解酵素の抑制による、請求項3に記載のしわ抑制用組成物。
【請求項5】
前記培養物がエクソソームである、請求項3に記載のしわ抑制用組成物。
【請求項6】
食品組成物又は化粧料組成物である、請求項1~5のいずれか一項に記載のしわ抑制用組成物。
【請求項7】
β-アラニン又はその塩の有効量を対象に投与する工程を含む、しわ抑制方法。
【請求項8】
β-アラニン又はその塩により筋肉細胞から産生される培養物の有効量を対象に投与する工程を含む、しわ抑制方法。
【請求項9】
前記培養物がエクソソームである、請求項8に記載のしわ抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、しわ抑制用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は人体の最外層を形成し、生体保護に重要な役割を果たしている。一方、外観が視覚的に捉えられるため、美容においても重要である。すなわち、健康及び美容において、皮膚老化防止への関心が高まっている。
老化による皮膚のしわ、たるみ等の症状を改善する効果を示す成分として、グルコシルセラミド(特許文献1)、フラーレン類(特許文献2)、及びイタチガヤの抽出物(特許文献3)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-241370号公報
【特許文献2】国際公開第2009/113426号
【特許文献3】特開2011-190212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、安全性に優れたしわ抑制用成分の開発が期待されている。従って、本発明の目的は、安全性に優れたしわ抑制用成分を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、安全性に優れたしわ抑制用成分について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、β-アラニンが優れたしわ抑制作用を示すことを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]β-アラニン又はその塩を有効成分として含む、しわ抑制用組成物、
[2]皮膚真皮細胞におけるI型コラーゲン構成要素(COL1A1)の促進、I型コラーゲン分解酵素の抑制、エラスチンの合成の促進、ミクロフィブリル関連タンパク質(MFAP4)の促進、エラスチン分解酵素の抑制、ヒアルロン酸合成酵素の促進、又はヒアルロン酸分解酵素の抑制による、[1]に記載のしわ抑制用組成物、
[3]β-アラニン又はその塩により筋肉細胞から産生される培養物を含む、しわ抑制用組成物、
[4]皮膚真皮細胞におけるI型コラーゲン構成要素(COL1A1)の促進、I型コラーゲン分解酵素の抑制、エラスチンの合成の促進、ミクロフィブリル関連タンパク質(MFAP4)の促進、エラスチン分解酵素の抑制、ヒアルロン酸合成酵素の促進、又はヒアルロン酸分解酵素の抑制による、[3]に記載のしわ抑制用組成物、
[5]前記培養物がエクソソームである、[3]に記載のしわ抑制用組成物、
及び
[6]食品組成物又は化粧料組成物である、[1]~[5]のいずれかに記載のしわ抑制用組成物、
に関する。
また、本明細書は、
[7]β-アラニン又はその塩の有効量を対象に投与する工程を含む、しわ抑制方法(医療行為として実施してもよく、医療行為を除いてもよい)、
[8]β-アラニン又はその塩により筋肉細胞から産生される培養物の有効量を対象に投与する工程を含む、しわ抑制方法(医療行為として実施してもよく、医療行為を除いてもよい)、
[9]前記培養物がエクソソームである、[8]に記載のしわ抑制方法(医療行為として実施してもよく、医療行為を除いてもよい)、
[10]β-アラニン又はその塩を筋肉細胞に接触させることにより産生される培養物、及び
[11]β-アラニン又はその塩を筋肉細胞に接触させることにより産生されるエクソソーム、
を開示する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のしわ抑制用組成物によれば、皮膚のしわを効果的に抑制することができる。しわ抑制用組成物は、食品組成物又は化粧料組成物として用いることができる。本発明によれば、安全性に優れたしわ抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】β-アラニンによる皮膚真皮線維芽細胞におけるヒアルロン酸の合成酵素(HAS2)に対する作用を検討したグラフである。
図2】β-アラニンによるC2C12細胞の上清を介した、皮膚真皮線維芽細胞におけるCOL1A1、及びMMP-1に対する作用を検討したグラフである。
図3】β-アラニンによるC2C12細胞の上清を介した、皮膚真皮線維芽細胞におけるELN、及びELANEに対する作用を検討したグラフである。
図4】β-アラニンによるC2C12細胞の上清を介した、皮膚真皮線維芽細胞におけるHAS2、及びHYAL1に対する作用を検討したグラフである。
図5】β-アラニンによりC2C12細胞から分泌されたエクソソームを皮膚真皮線維芽細胞に添加した場合の、COL1A1、HAS2、ELN、及びMFAP4に対する作用を示したグラフである。
図6】β-アラニンによりC2C12細胞から分泌されたエクソソームを皮膚真皮線維芽細胞に添加した場合の、MMP-1、HYAL1、及びELANEに対する作用を示したグラフである。
図7】エクソソーム処理による皮膚真皮線維芽細胞のCOL1A1タンパク質の免疫染色の写真からCOL1A1タンパク質陽性の面積を測定したグラフである。
図8】エクソソーム処理による皮膚真皮線維芽細胞のCOL1A1タンパク質の免疫染色の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のしわ抑制用組成物は、β-アラニン又はその塩を有効成分として含む。
【0009】
β-アラニンは下記式[1]:
【化1】
で表される化合物であり、3-アミノプロパン酸(3-aminopropanoic acid)とも称される。本発明のしわ抑制用組成物に含まれるβ-アラニンとしては、β-アラニンを比較的多く含む食品又は天然物からの抽出物、濃縮物、又は精製物等を用いることができる。また、合成されたβ-アラニンを用いてもよい。β-アラニンは、例えばβ-プロピオラクトンからのβ-アラニン合成法(Ford, Org. Sys. Coll. Vol. 3, 34(1955))によって合成することができる。別の合成方法として、アクリロニトリル及びアンモニアから合成することができる。
【0010】
β-アラニンの塩としては、無機塩基又は有機塩基等との塩、あるいは酸との塩であって、医薬、食品又は化粧料として許容される塩であれば限定されない。具体的な無機塩基又は有機塩基等との塩としては、無機塩基、有機塩基、又は金属アルコキシドとの塩が挙げられる。β-アラニンと無機塩基、有機塩基、又は金属アルコキシドとの混合により生成しうる。
塩を形成しうる無機塩基としては、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、又はカリウム等)の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩、又は水素化物;アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム、又はバリウム)の水酸化物、又は水素化物等が挙げられる。塩を形成しうる有機塩基としては、ジメチルアミン、トリエチルアミン、ピペラジン、ピロリジン、ピペリジン、2-フェニルエチルアミン、ベンジルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピリジン、又はコリジン等が挙げられる。また、金属アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、カリウムtert-ブトキシド、又はマグネシウムメトキシド等が挙げられる。β-アラニンの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、又はそれらの組み合わせが好ましい。
また、具体的な酸との塩としては、無機酸、又は有機酸との塩が挙げられる。塩を形成しうる無機酸としては、塩酸が挙げられる。
【0011】
《皮膚》
皮膚は表皮、真皮、及び皮下組織の3層から構成されている。表皮は主にケラチノサイトと称される細胞で形成されており、0.06~0.2mmの厚さを有している。
真皮は弾力性があり、血管、神経、及びリンパ管が存在し、2.0~2.2mmの厚さを有している。更に、肥満細胞及び組織球などの細胞も含まれる。真皮は、コラーゲンという線維状のタンパク質がその大部分を占めている。そして、その間をヒアルロン酸などのゼリー状の基質が水分を抱えながら満たしている。更に、エラスチンという線維状のタンパク質も加わって、肌に弾力を与える。これらの線維や基質を生成する細胞を、線維芽細胞と称する。
また、皮下組織は、皮膚と筋膜など下部の組織を繋ぐ部分であり、繊維密度が低い結合組織である。
【0012】
本発明のしわ抑制用組成物は、限定されるものではないが、好ましくは真皮に存在する真皮線維芽細胞に作用する。具体的には、真皮線維芽細胞に作用し、I型コラーゲンの構成要素であるCOL1A1の生成を促進すること、及び/又はI型コラーゲン分解酵素を抑制することによって、真皮におけるI型コラーゲンを増加させ、皮膚におけるしわ形成を抑制することができる。また、真皮線維芽細胞に作用し、エラスチンの合成を促進すること、及び/又はエラスチン分解酵素を抑制することによって、真皮におけるエラスチンを増加させ、皮膚におけるしわ形成を抑制することができる。更に、真皮線維芽細胞に作用し、ヒアルロン酸合成酵素を促進すること、及び/又はヒアルロン酸分解酵素を抑制することによって、真皮におけるヒアルロン酸を増加させ、皮膚におけるしわ形成を抑制することができる。
前記皮膚真皮細胞におけるI型コラーゲン構成要素(COL1A1)の促進、I型コラーゲン分解酵素の抑制、エラスチンの合成の促進、ミクロフィブリル関連タンパク質(MFAP4)の促進、エラスチン分解酵素の抑制、ヒアルロン酸合成酵素の促進、又はヒアルロン酸分解酵素の抑制は、mRNA(遺伝子)の増加、又は減少を測定することによって確認することができる。
【0013】
《筋肉細胞を介した抑制》
本発明のしわ抑制用組成物は直接真皮繊維芽細胞に作用することができる。一方、本発明のしわ抑制用組成物は限定されるものではないが、しわ抑制用組成物が筋肉細胞に作用し筋肉細胞から産生された培養物(成分)を介して、真皮線維芽細胞に作用することができる。筋肉細胞を介して、しわ抑制効果を発揮する場合、限定されるものではないが、筋肉細胞から分泌されるマイオカイン(IL-15など)が、真皮繊維芽細胞に作用することが考えられる。
本明細書において「培養物」とは、筋肉細胞にβ-アラニン又はその塩を接触させて、得られた培養上清、及び培養細胞を含む。筋肉細胞は、培養細胞又は生体の筋肉細胞を含むが、好ましくは培養細胞である。培養細胞としては、限定されるものではないが、C2C12細胞、初代骨格筋培養細胞、HSkMC細胞(骨格筋細胞)、HSkMM細胞(骨格筋筋芽細胞)、又はioSkeletal Myocytes(ヒトiPS細胞由来骨格筋細)が挙げられる。前記マウス筋芽細胞株C2C12は、筋肉細胞のモデル細胞として骨格筋分化過程の研究において、in vitroで最も頻繁に使用されている培養細胞である。
【0014】
本発明のしわ抑制用組成物は、β-アラニン又はその塩(以下、β-アラニン等と称することがある)により筋肉細胞から産生される培養物(物質)を含むものでもよい。β-アラニン等により筋肉細胞から産生される培養物(物質)は、しわ抑制作用を有する限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば、エクソソームが挙げられる。従って、本発明のしわ抑制用組成物は、β-アラニン等により筋肉細胞から産生されるエクソソームを含むものでもよい。
【0015】
エクソソームは、真核細胞において、エンドソーム区画で形成される膜結合性の細胞外小胞(extracellular vesicle;EV)である。エクソソームのサイズは限定されるものではないが、直径が約30-150nmであり、大部分は100nm以下である。エクソソームには、タンパク質、又はRNAなどが含まれており、細胞外に分泌され、他の細胞に取り込まれることもある。
【0016】
本発明のしわ抑制用組成物の投与剤型としては、特に限定がなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁剤、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤等の経口剤、又は注射剤、外用液剤、軟膏剤、坐剤、局所投与のクリーム、若しくは点眼剤などの非経口剤を挙げることができる。
経口剤は、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ブドウ糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリデン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができる。
非経口剤としては、例えば注射剤を挙げることができる。注射剤の調製においては、有効成分の他に、例えば生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、又は乳化剤などを任意に用いることができる。
【0017】
しわ抑制用組成物を用いる場合の投与量は、例えば対象者の年齢、性別、体重、又は投与方法に応じて適宜決定することができ、経口的に又は非経口的に投与することが可能である。例えば、本発明のしわ抑制用組成物を経口摂取する場合の摂取量は、例えば成人の場合、β-アラニンとして1日当たり0.01~100mg/kgが好ましい。また、β-アラニン等により筋肉細胞から産生される物質(例えば、エクソソーム)として、1日当たり0.01~100mg/kgが好ましい。なお、上記の投与法は一例であり、他の投与法であってもよい。ヒトへのしわ抑制用組成物の投与方法、投与量、投与期間、及び投与間隔等は、管理された臨床治験によって決定されることが望ましい。
【0018】
更に、投与形態も医薬品に限定されるものではなく、後述のように食品組成物(例えば、機能性食品や健康食品、飲料)、又は化粧料組成物として投与することが可能である。
β-アラニンを含有するしわ抑制用組成物の製造方法は、β-アラニンを有効成分として含むこと以外は、公知の医薬組成物、食品組成物、又は化粧料組成物の製造方法を用いて製造することができる。また、β-アラニン等により筋肉細胞から産生される培養物(物質;例えば、エクソソーム)を有効成分として含むこと以外は、公知の医薬組成物、食品組成物、又は化粧料組成物の製造方法を用いて製造することができる。
【0019】
本発明のしわ抑制用組成物は、その他の成分を含有することができる。前記その他の成分としては、例えば、食用油脂、水、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤、ローカストビーンガム、カラギーナン、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、又は化工澱粉等の増粘安定剤、食塩、又は塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、又はグルコン酸等の酸味料、糖類又は糖アルコール類、ステビア、又はアスパルテーム等の甘味料、ベータカロチン、カラメル、又は紅麹色素等の着色料、トコフェロール、又は茶抽出物等の酸化防止剤、着香料、pH調整剤、食品保存料、又は日持ち向上剤等の食品素材や食品添加物を挙げることができる。また、各種ビタミンやコエンザイムQ、植物ステロール、又は乳脂肪球皮膜等の機能素材を含有させることも可能である。これらのその他の成分の含有量は、本発明のしわ抑制用組成物中、合計で好ましくは80質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは20質量%以下とする。
【0020】
《食品組成物》
本発明のしわ抑制用組成物は、食品組成物であってもよい。本発明のしわ抑制用食品組成物は、β-アラニン又はその塩を含む。また、本発明のしわ抑制用食品組成物は、β-アラニン等により筋肉細胞から産生される培養物(物質;例えば、エクソソーム)を含んでもよい。本発明のしわ抑制用食品組成物は、経口的に投与することができる限りにおいて、特に限定されるものではない。
【0021】
本発明のしわ抑制用食品組成物における食品は飲食品であり、飲料を含む。本発明における食品としては、特に限定されるものではなく、例えば味噌、醤油、めんつゆ、たれ、だし、パスタソース、ドレッシング、マヨネーズ、トマトケチャップ、ウスターソース、とんかつソース、又はふりかけ等の調味料、お吸い物の素、カレールウ、ホワイトソース、お茶漬けの素、又はスープの素等の即席調理食品、味噌汁、お吸い物、コンソメスープ、又はポタージュスープ等のスープ類、焼肉、ハム、又はソーセージ等の畜産加工品、かまぼこ、干物、塩辛、佃煮、又は珍味等の水産加工品、漬物等の野菜加工品、ポテトチップス、又は煎餅等のスナック類、食パン、菓子パン、又はクッキー等のベーカリー食品類、煮物、揚げ物、焼き物、カレー、シチュー、グラタン、ごはん、おかゆ、又はおにぎり等の調理食品、パスタ、うどん、又はラーメン等の麺類食品、マーガリン、ショートニング、ファットスプレッド、又は風味ファットスプレッド等の油脂加工食品、フラワーペースト、又は餡等の製菓製パン用素材、パン用ミックス粉、ケーキ用ミックス粉、又はフライ食品用ミックス粉等のミックス粉、チョコレート、キャンディ、ゼリー、アイスクリーム、又はガム等の菓子類、饅頭、又はカステラ等の和菓子類、コーヒー、コーヒー牛乳、紅茶、ミルクティー、豆乳、栄養ドリンク、野菜飲料、食酢飲料、ジュース、コーラ、ミネラルウォーター、又はスポーツドリンク等の飲料、ビール、ワイン、カクテル、又はサワー等のアルコール飲料類、牛乳、ヨーグルト、又はチーズ等の乳や乳製品等が挙げられる。
【0022】
本発明のしわ抑制用食品組成物は、β-アラニン等、又はβ-アラニン等により筋肉細胞から産生される培養物(物質;例えば、エクソソーム)を含むことを除いては、公知の飲食品の製造方法を用いて製造することができる。
【0023】
《化粧料組成物》
本発明のしわ抑制用組成物は、化粧料組成物であってもよい。本発明のしわ抑制用化粧料組成物は、β-アラニン又はその塩を含む。β-アラニンを含むことにより、真皮線維芽細胞に作用し、しわを抑制することができる。また、本発明のしわ抑制用化粧料組成物は、β-アラニン等により筋肉細胞から産生される培養物(物質;例えば、エクソソーム)を含んでもよい。具体的な化粧料としては、美容液、化粧液、クレンジング、乳液、クリーム、口紅、ファンデーション、ジェル、パック、白粉、チーク、ヘアトニック、シャンプー、リンス、日焼け止め、洗顔料、又はリップクリームが挙げられる。
【0024】
本発明の化粧料組成物におけるβ-アラニン等の含有量は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば0.1~100重量%であり、好ましくは1~50重量%であり、より好ましくは1~25重量%である。本発明の化粧料組成物におけるβ-アラニン等により筋肉細胞から産生される物質(例えば、エクソソーム)の含有量は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば0.1~100重量%であり、好ましくは1~50重量%であり、より好ましくは1~25重量%である。
【0025】
本発明の化粧料組成物は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、保湿剤(例えば、トリメチルグリシン、塩化N-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]加水分解コムギたん白液、ヒアルロン酸、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、ベタイン、ホホバ油、加水分解ケラチン)、着色剤(例えば、顔料、又は色素)、粘度調整剤(例えば、メチルセルロース)、乳化剤(例えば、モノステアリン酸グリセリン)、パール光沢付与剤(例えば、ジステアリン酸グリコール、又はジステアリン酸エチレングリコール)、塩類(例えば、塩化ナトリウム)、植物エキス類、防腐剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、1,3-ブチレングリコール(1,3-ブタンジオール)、フェノキシエタノール、又はペンチレングリコール(1,2-ペンタンジオール))、ビタミン剤、香料、紫外線吸収剤、抗酸化剤、湿潤剤、キレート剤、pH調整剤(例えば、クエン酸、又は酒石酸)水を含むことができる。
【0026】
《しわ抑制方法》
本発明のしわ抑制方法は、β-アラニン又はその塩の有効量を対象に投与する工程を含む。本発明のしわ抑制方法は、医療行為として実施することもできるが、好ましくは医療行為ではない。β-アラニン又はその塩は、しわ抑制方法に用いることができる。前記しわ抑制用組成物の有効量を、ヒト又は動物に投与することにより、しわの形成を抑制することができる。
また、本発明のしわ抑制方法は、β-アラニン又はその塩により筋肉細胞から産生される培養物の有効量を対象に投与する工程を含む。培養物としては、限定されるものではないが、エクソソームが挙げられる。本発明のしわ抑制方法は、医療行為として実施することもできるが、好ましくは医療行為ではない。前記培養物(特には、エクソソーム)は、しわ抑制方法に用いることができる。前記しわ抑制用組成物の有効量を、ヒト又は動物に投与することにより、しわの形成を抑制することができる。
【0027】
《培養物》
本発明の培養物は、β-アラニン又はその塩を筋肉細胞に接触させることにより産生することができる。培養物中の有効成分として、エクソソームが挙げられるが、エクソソーム以外の有効成分もあり、そのような有効成分は、現時点で特定されてない。従って、本明細書は、β-アラニン又はその塩を筋肉細胞に接触させることにより産生する培養物を開示する。
【0028】
本発明のエクソソームは、β-アラニン又はその塩を筋肉細胞に接触させることにより産生することができる。従って、本明細書は、β-アラニン又はその塩を筋肉細胞に接触させることにより産生するエクソソームを開示する。
【0029】
《しわ抑制方法に使用するβ-アラニン》
前記β-アラニンは、しわ抑制方法に使用することができる。すなわち、本明細書はしわ抑制方法に使用するβ-アラニンを開示する。
また、β-アラニンは、I型コラーゲン構成要素(COL1A1)の促進、I型コラーゲン分解酵素の抑制、エラスチンの合成の促進、ミクロフィブリル関連タンパク質(MFAP4)の促進、エラスチン分解酵素の抑制、ヒアルロン酸合成酵素の促進、又はヒアルロン酸分解酵素の抑制に使用できる。
【0030】
《β-アラニンのしわ抑制組成物の製造への使用》
前記β-アラニン等(培養物、特にはエクソソーム)は、しわ抑制組成物の製造に使用することができる。すなわち、本明細書は、β-アラニン等のしわ抑制組成物の製造への使用を開示する。
また、β-アラニン等は、I型コラーゲン構成要素(COL1A1)の促進剤、I型コラーゲン分解酵素の抑制剤、エラスチンの合成の促進剤、ミクロフィブリル関連タンパク質(MFAP4)の促進剤、エラスチン分解酵素の抑制剤、ヒアルロン酸合成酵素の促進剤、又はヒアルロン酸分解酵素の抑制剤への製造への使用に用いることができる。
【0031】
《作用》
本発明のしわ抑制用組成物が、しわ形成を抑制できるメカニズムは、詳細に解析されているわけではないが、以下のように推定することができる。
皮膚の真皮においては、多くのコラーゲンが存在し、その間をヒアルロン酸などのゼリー状の基質が満たしている。更に、エラスチンという線維状のタンパク質が存在することによって肌に弾力を与え、しわの形成が抑制されている。皮膚の老化によって、これらのコラーゲン、ヒアルロン酸、及びエラスチンが減少し、肌の弾力が減少し、しわが形成される。本発明のしわ抑制用組成物は、真皮繊維芽細胞に作用して、コラーゲン、ヒアルロン酸、及びエラスチンの産生を促進し、そして分解を抑制することが可能である。従って、皮膚におけるしわの形成を抑制できるものと推定される。
また、本発明のβ-アラニンを含むしわ抑制用組成物は、筋肉細胞に作用して、筋肉細胞からしわの抑制に効果のある物質(例えば、エクソソーム)を産生できると考えられる。従って、筋肉細胞から産生されるしわの抑制に効果のある物質(例えば、エクソソーム)を介して、皮膚におけるしわの形成を抑制できるものと推定される。
具体的には、筋肉細胞は、β-アラニンを作用させることによって、MyoD遺伝子等のマイオカインの発現を経て分化誘導される。分化誘導された筋肉細胞からは機能性を持ったエクソソームが分泌され、活性化変動したmRNA若しくはmiRNA、またはある種のタンパク質によって活性化因子が皮膚細胞へ伝達され、皮膚細胞が活性化されてシワ抑制因子であるCOL1A1、HAS2等の発現が増強されてシワ抑制効果を発揮すると推定される。
【実施例0032】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0033】
《実施例1》
本実施例では、β-アラニンの皮膚真皮線維芽細胞におけるヒアルロン酸の合成酵素(HAS2)に関する作用を検討した。
皮膚線維芽細胞(Skin Fibroblast(Immortalized Human Skin Fibroblast - SV40 (Applied biological materials, Richmond, BC, Canada)))を3.0×10cells/mLの濃度で5mLディッシュに播種し、24時間培養後、β-アラニン(10mM)を添加した。24時間後、2度目のβ-アラニンの添加を行い、更に24時間培養した。
培地を吸引除去し、1×PBSを1mL/well添加して細胞を洗浄した。洗浄は2回行った。その後、1×PBS(200μL/well)およびLysis/-binding buffer(400μL/well)を添加してディッシュ全体に行き渡らせたあと、全量を1.5mLチューブに回収した。回収したサンプルはボルテックスミキサーで60秒間懸濁した。フィルターチューブと回収用チューブを組み立て、サンプル溶液をフィルターチューブに添加し、4℃、10000rpmにて15秒間遠心分離した。回収用チューブに排出された液を捨て、再びフィルターチューブと回収用チューブを組み立てた。1.5mLチューブにて、1サンプルあたり90μLのDNase Incubation Bufferと1サンプルあたり10μLのDNase Iを混合した。この混合液をフィルターチューブに添加し、室温にて15分間インキュベートした。インキュベート後、Wash buffer I(500μL)をフィルターチューブに添加し、4℃、10000rpmにて15秒間遠心分離した。回収用チューブに排出された液を捨て、再びフィルターチューブと回収用チューブを組み立てた。Wash buffer II(500μL)をフィルターチューブに添加し、4℃、10000rpmにて15秒間遠心分離した。回収用チューブに排出された液を捨て、再びフィルターチューブと回収用チューブを組み立てた。Wash buffer II(200μL)をフィルターチューブに添加し、4℃、13000×gにて2分間遠心分離した。フィルターチューブを新しい1.5mLチューブに挿し込み、Elution buffer(70μL)をフィルターチューブに添加し、室温にて3分間静置後、4℃、10000rpmにて1分間遠心分離した。以上の操作によって得られた溶出液をRNA溶液とした。溶液中のRNA濃度は、NanoDrop 2000/2000c分光光度計(Thermo Scientific, Waltham, MA, USA)を用いて260nmにおける吸光値を元に算出し、以後の実験に使用した。
【0034】
cDNAは、以下のように合成した。細胞から抽出した全RNA1.0μgに対してOligo(dT)20プライマー(10pmoles/μL)を0.5μL添加し、総液量が13.5μLになるようにRNase Free水を加えた。タッピングして懸濁し、スピンダウンした後にThermal Cycler PTC-200(MJ Research, Waltham, MA, USA)にて65℃で5分間熱処理反応を行い、直ちに氷中に移して5分間静置した。0.2mLチューブに1サンプルあたり5×RT Buffer(TOYOBO, Osaka, Japan)4μL、10mM dNTPs(GE Healthcare, Amersham Place, UK)2μL、逆転写酵素ReverTra Ace(100 units/μL)(TOYOBO)0.5μLを添加し、ピペッティングにて混合した。この混合液6.5μLを5分間静置したチューブに添加し、氷中にてピペッティングした後にスピンダウンした。その後42℃で20分間、99℃で5分間反応させることによりcDNAを合成し、以後の定量リアルタイムPCRの鋳型として用いた。
【0035】
作製したcDNAを鋳型として用いて定量RT-PCRを行った。氷上にて、PCRチューブ(0.2mL)に、滅菌水49μL、10μMに希釈したプライマー Forward/Reverse双方を3.5μLずつ、鋳型cDNA(プライマーがPgc-1αのものは1/5に、β-actinのものは1/50に希釈した)7.0μLを添加し、スピンダウンした後、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix(TOYOBO)24.5μLを添加し、氷上にてよく懸濁した。ネガティブコントロールでは、0.2mL PCRチューブに滅菌17μL、10μMに希釈したプライマー Forward/Reverse双方を0.5μLずつ添加し、スピンダウンした後、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mixを7μL添加し、氷上にてよく混合した。その後、96well PCR Plate(NIPPON Genetics, Tokyo, Japan)に25μLずつ3wellに添加し、Thermal Cycle Dicer Real Time System(Takara, Shiga, Japan)を用いて定量RT-PCRを行った。PCR反応は、95℃ 30秒間を1サイクル、95℃を5秒間、60℃を60秒間を40サイクル行い、FAMにより検出した。Pgc-1αの発現量は、ΔΔC法を用いて、ハウスキーピング遺伝子の一つであるβ-actinのC値とHAS2のC値を比較し、相対的に定量した。なお、プライマーの合成はTaKaRaに委託し、使用したプライマーの配列は以下のとおりである。
HAS2 forward:5’-GACAGGCATCTCACGAACCG-3’(配列番号1)
HAS2 reverse:5’-CCAACGGGTCTGCTGGTTTA-3’(配列番号2)
【0036】
図1に示すように、β-アラニンの添加によって、皮膚真皮線維芽細胞におけるヒアルロン酸の合成酵素(HAS2)のmRNAが増加した。
【0037】
《実施例2》
本実施例では、筋肉細胞をβ-アラニンで処理し、その細胞上清を皮膚真皮線維芽細胞に添加して、コラーゲンの合成(I型コラーゲン構成要素;COL1A1)及びコラーゲンの分解(I型コラーゲン分解酵素;MMP-1)に関する作用を検討した。
C2C12細胞を2.0×10cells/mLの濃度で5mLディッシュに播種し、48時間後に培地を2%HS含有DMEM培地に交換し、分化誘導を行った。その後2日毎に培地交換およびβ-アラニン(500μM、1mM、10mM)の添加を行い、8日間培養後、培養上清を回収した。なお、コントロールにはβ-アラニン添加量と等量の1×PBSを添加した。
皮膚線維芽細胞(Skin Fibroblast)を3.0×10cells/mLの濃度で5mLディッシュに播種し、24時間培養した。培養上清を除去し、回収したC2C12細胞の培養上清を5.0mL/dishで添加した。この際、FBSを0.444 mL/Dish添加し、C2C12細胞の培養上清中に含まれるHSと合わせて培養液の10%となるようにした。48時間培養した。
総RNAの回収、及びcDNAの合成は、実施例1と同様の方法で実施した。使用したプライマーの配列は以下のとおりである。
COL1A1 forward:5’-ACGAGACCAAGAACTGCCCC-3’(配列番号3)
COL1A1 reverse:5’-AGTGTCTCCCTTGGGTCCCT-3’(配列番号4)
MMP-1 forward:5’-CCCACAAACCCCAAAAGCGT-3’(配列番号5)
MMP-1 reverse:5’-GGGTAGAAGGGATTTGTGCGC-3’(配列番号6)
【0038】
図2に示すように、β-アラニンによるC2C12細胞の上清によって、皮膚真皮線維芽細胞におけるCOL1A1のmRNAが増加し、MMP-1のmRNAが減少した。
【0039】
《実施例3》
本実施例では、筋肉細胞をβ-アラニンで処理し、その細胞上清を皮膚真皮線維芽細胞に添加して、エラスチンの合成(ELN)及びエラスチン分解酵素(ELANE)に関する作用を検討した。
COL1A1及びMMP-1用のプライマーに代えて、ELN及びELANEのプライマーを用いたことを除いては、実施例2の操作を繰り返した。使用したプライマーの配列は以下のとおりである。
ELN forward:5’-CGGTTCCAGGGGTTGTGTCA-3’(配列番号7)
ELN reverse:5’-GACACCAAAGCCGGGAAAGC-3’(配列番号8)
ELANE forward:5’-CACTGCGTGGCGAATGTAAAC-3’(配列番号9)
ELANE reverse:5’-CGTTGAGCAAGTTTACGGGGT-3’(配列番号10)
図3に示すように、β-アラニンによるC2C12細胞の上清によって、皮膚真皮線維芽細胞におけるELNのmRNAが増加し、ELANEのmRNAが減少した。
【0040】
《実施例4》
本実施例では、筋肉細胞をβ-アラニンで処理し、その細胞上清を皮膚真皮線維芽細胞に添加して、ヒアルロン酸の合成酵素(HAS2)及びヒアルロン酸の分解酵素(HYAL1)に関する作用を検討した。
COL1A1及びMMP-1用のプライマーに代えて、HAS2及びHYAL1のプライマーを用いたことを除いては、実施例2の操作を繰り返した。使用したプライマーの配列は以下のとおりである。
HAS2 forward:5’-GACAGGCATCTCACGAACCG-3’(配列番号1)
HAS2 reverse:5’-CCAACGGGTCTGCTGGTTTA-3’(配列番号2)
HYAL1 forward:5’-GAATGCCAGCCTGATTGCCC-3’(配列番号11)
HYAL1 reverse:5’-TGTCCCAGTTGAAGGCCCAG-3’(配列番号12)
図4に示すように、β-アラニンによるC2C12細胞の上清によって、皮膚真皮線維芽細胞におけるHAS2のmRNAが増加し、HYAL1のmRNAが減少した。
【0041】
《実施例5》
本実施例では、筋肉細胞をβ-アラニンで処理し、その細胞上清からエクソソームを回収した。回収したエクソソームを皮膚真皮線維芽細胞に添加して、コラーゲンの合成(I型コラーゲン構成要素;COL1A1)、ヒアルロン酸の合成酵素(HAS2)、エラスチンの合成(ELN)、及びミクロフィブリル関連タンパク質(MFAP4)に関する作用を検討した。
C2C12細胞を10mL dishに2×10cells/mLとなるように播種した。このとき、Exosome-depleted FBS Media Supplement Heat Inactivatedを10%含有するDMEM培地で培養した。48時間後に培地を2%血清Exosome-depleted FBS Media Supplement Heat Inactivated含有DMEM培地に交換し、分化誘導を行った。更に24時間後に2%Exosome-depleted FBS Media Supplement Heat Inactivated含有DMEM培地に交換を行った。その後2日毎に培地交換を行い、細胞の播種から8日目と9日目に培地交換およびβ-アラニンの添加を行った。β-アラニンは、2%Exosome-depleted FBS Media Supplement Heat Inactivated含有DMEM培地にて100mMに調製したβ-アラニンを使用し、β-アラニンの添加量だけ培地を除去した。播種から10日目の上清からエクソソームを精製した。なお、コントロールはβ-アラニン添加をせず、培地交換のみを行った無処理上清を用いた。
1サンプルあたり、10mL Dish2枚分の培養上清を回収した。回収した培養上清10mLを300×gで5分間遠心分離を行うことにより、培養上清中の細胞の除去を行った。上清を別のチューブに移し、次に1,200×gで20分間遠心分離し、細胞断片の除去を行った。上清を別のチューブに移し、10,000×gで30分間遠心分離を行うことで、エクソソームより大きい細胞外小胞の除去を行った。細胞や大きいサイズの細胞外小胞を取り除いた培養上清は、分画分子量100,000のフィルターの遠心式限外濾過ユニット(AmiconUltra-15 100K,Merck Millipore)によりおよそ40倍に濃縮した。濃縮した培養上清からのエクソソーム精製は、MagCapture Exosome Isolation PS Kit Ver.2(FUJIFILM Wako)を用いた。
【0042】
まず、バッファーを作製した。15mLチューブに0.55mLのExosome Immobilizing/Washing Buffer(10×)と4.95mLの精製水を添加し、更にExosome Binding Enhancer(500×)を11μL添加してExosome Immobilizing/Washing buffer(1×)を調製した。1.5mLチューブに、15μLのExosome Elution Buffer(10×)と135μLの精製水を添加し、Exosome Elution Buffer(1×)を調製した。また、Exosome Elution Bufferに、1/100希釈になるようにエクソソーム保護剤として、EV-Save TM Extracellular Vesocle Biocking Reagent(FUJIFILM Wako)を添加した。
次に、Exosome Capture固定化ビーズを作製した。ボルテックスミキサーでよく攪拌させたBiotin Capture Magnetic Beads60μLを1.5mL Reaction Tubeにうつし、Exosome Immobilizing/Washing buffer(1×)500μLを添加し、ボルテックスミキサーにより懸濁した。チューブをスピンダウンし、磁気スタンドにセットして約1分間静置した。チューブをスピンダウンし、磁気スタンドにセットして1分間静置した。次にExosome Immobilizing/Washing buffer(1×)500μLとBiotin-labeled Exosome Capture10μLをチューブに添加し、磁気スタンドから取り外してボルテックスミキサーにより懸濁し、室温で、回転式攪拌機により転倒混和しながら10分間反応させた。チューブをスピンダウンし、再び磁気スタンドにセットして約1分間静置した。磁気ビーズが完全にチューブ壁に付着したら、上清をピペットで除いた。(ア)このチューブにExosome Immobilizing/Washing buffer(1×)500μLを添加し、磁気スタンドから取り外してボルテックスミキサーにより懸濁し、チューブをスピンダウンしたのち、再び磁気スタンドにセットして1分間静置した。磁気ビーズが完全にチューブ壁に付着したら、上清をピペットで除いた。(ア)の操作をあと1回繰り返した。以上の操作により、Exosome Capture固定化ビーズを完成させた。
次に、Exosome Capture固定化ビーズと、上記のとおり濃縮させた培養上清と反応させる処理を行った。40倍に濃縮させた培養上清約500μLを滅菌済み1.5mLチューブに移し、細胞上清に対して1/500容量のExosome Binding Enhancer(500×)を添加し、ボルテックスミキサーで混合した。このチューブをスピンダウンし、サンプルをExosome Capture固定化ビーズの入ったチューブ(Reaction Tube)に移し、ボルテックスミキサーにより混合させた。室温で回転式攪拌機により転倒混和しながら、1時間以上反応させた。1.5mLReaction Tubeをスピンダウンした後、磁気スタンドにセットし、約1分間静置した。磁気ビーズが完全にチューブ壁に付着したら、上清をピペットで除き、エクソソームが結合したビーズとした。
【0043】
次に、エクソソーム結合ビーズの洗浄を行った。エクソソーム結合ビーズの入った(イ)エクソソーム結合ビーズの入った1.5mLReaction TubeにExosome Binding Enhancerの入ったWashing Buffer1mLを添加し、ボルテックスミキサーにより懸濁し、1.5 mLReaction Tubeをスピンダウンして磁気スタンドにセットし、約1分間静置して磁気ビーズが完全にチューブ壁に付着したら、上清を除いた。(イ)の操作を更に2回繰り返した。この操作により、洗浄済みエクソソーム結合ビーズとした。
エクソソームの溶出は次の操作により行った。洗浄済みエクソソーム結合ビーズが入った1.5mLReaction TubeにExosome Elution Buffer(1×)50μLを添加し、磁気スタンドから取り出してボルテックスミキサーにより懸濁した。チューブをスピンダウンし、磁気スタンドにセットし、1分間静置後、磁気ビーズが完全にチューブ壁に付着したら、上清を新しい滅菌済み1.5mLチューブに回収した。1.5mLReaction Tubeに残っている磁気ビーズにExosome Elution Buffer(1×)を更に50μL添加し、磁気スタンドから取り出してボルテックスミキサーにより懸濁した。スピンダウンし、磁気スタンドにセットし、1分間静置した。磁気ビーズが完全にチューブ壁に付着したら、上清を新しい滅菌済み1.5mLチューブ(上記のもの)に回収し、計100μLのエクソソーム溶液とした。
【0044】
皮膚線維芽細胞(Skin Fibroblast)を3.0×10cells/mLの濃度で5mLディッシュに播種し、24時間培養した。培養上清を除去し、精製したエクソソームを1μg/wellで添加し、48時間培養した。
総RNAの回収、及びcDNAの合成は、実施例1と同様の方法で実施した。ミクロフィブリル関連タンパク質(MFAP4)のプライマーの配列は以下のとおりである。
MFAP4 forward:5’-GAATGCCAGCCTGATTGCCC-3’(配列番号13)
MFAP4 reverse:5’-TGTCCCAGTTGAAGGCCCAG-3’(配列番号14)
【0045】
図5に示すように、1mMβ-アラニン処理した分化C2C12細胞由来エクソソームで、シワ抑制に働く遺伝子であるI型コラーゲンの構成要素(COL1A1)、ヒアルロン酸合成酵素(HAS2)、エラスチン(ELN)、ミクロフィブリル関連タンパク質(MFAP4)の発現増強がみられた。
【0046】
《実施例6》
本実施例では、筋肉細胞をβ-アラニンで処理し、その細胞上清からエクソソームを回収した。回収したエクソソームを皮膚真皮線維芽細胞に添加して、コラーゲン分解酵素(MMP-1)、ヒアルロン酸分解酵素(HYAL1)、又はエラスチン分解酵素(ELANE)に関する作用を検討した。
COL1A1、HAS2、ELN、及びMFAP4用のプライマーに代えて、MMP-1、HYAL1、及びELANEのプライマーを用いたことを除いては、実施例5の操作を繰り返した。
【0047】
図6に示すように、1mMβ-アラニン処理した分化C2C12細胞由来エクソソームで、シワ形成を促進する遺伝子であるコラーゲン分解酵素(MMP-1)、ヒアルロン酸分解酵素(HYAL1)、エラスチン分解酵素(ELANE)の有意な発現減少が確認された。
【0048】
《実施例7》
本実施例では、エクソソーム処理による皮膚真皮線維芽細胞のCOL1A1のタンパク質レベルでの発現増強を免疫染色によって確認した。
Skin Fibroblast細胞を96-well Black plate(Greiner Bio-one, Tokyo, Japan)に6.0×10cells/wellで播種し、10%FBSを含むDMEM培地にて培養した。24時間後、実施例5で精製したエクソソームを1μg/well添加した。なお、コントロールとして、β-アラニンを添加せず分化誘導を行った分化C2C12細胞培養上清より精製したエクソソームを使用した。48時間後、終濃度4%となるよう8%パラホルムアルデヒドを100μL/wellで添加し、室温で15分間静置することで固定した。15分後、固定液を除去し、1×PBSで5分間、3回洗浄した。
そして、ブロッキングバッファーを200μL/wellで添加し、37℃、1時間ブロッキングした。バッファー除去後、抗体希釈バッファーで希釈した一次抗体(COL1A1(E8F4L)XP(登録商標)Rabbit mAb,#72026:200倍希釈)を100μL/wellで添加し、4℃で一晩インキュベートした。その後、100μL/wellの1×PBSで5分間、3回洗浄した。以下の操作は遮光状態で行った。抗体希釈バッファーで1,000倍に希釈した二次抗体(Anti-rabbit IgG(H+L),F(ab’) Fragment(Alexa Fluor(登録商標)488 Conjugate),#4412)を100μL/wellで細胞に添加し、室温で2時間インキュベートした。PBSで5分間、3回の洗浄後、500倍希釈したCellstain(登録商標)-Hoechst 33342 solution(Dojindo, Kumamoto, Japan)を100μL/wellで添加し、30分間室温で静置することで核染色した。30分後、Cellstain(登録商標)-Hoechst 33342 solutionを除去して1×PBSで2回洗浄し、各wellに100μLのPBSを添加した後、IN Cell Analyzer 2200(GE Healthcare Japan, Tokyo, Japan)にて画像を取得した。画像は、IN Cell Investigator High-content image analysis software(GE Healthcare Japan)にて解析し、プロトコルは「Mito tracker_Red_Green_C2C12_210210 20x」を使用して解析した。
【0049】
図7に示すように、エクソソーム添加により、有意なI型コラーゲン構成要素の面積の増加がみられた。また、図8に、解析時にIN Cell Analyzer 2200にて撮影した写真を示す。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のしわ抑制用組成物は、皮膚のしわ形成を抑制し、医薬組成物、食品組成物、又は化粧料組成物として使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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