(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035202
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ジオポリマー組成物及びその製造方法並びにコンクリート構造物
(51)【国際特許分類】
C04B 28/26 20060101AFI20240306BHJP
C04B 14/10 20060101ALI20240306BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20240306BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20240306BHJP
C04B 40/02 20060101ALI20240306BHJP
B28B 11/24 20060101ALI20240306BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C04B28/26
C04B14/10 B
C04B18/14 Z
C04B22/08 A
C04B40/02
B28B11/24
C04B22/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023140114
(22)【出願日】2023-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2022137976
(32)【優先日】2022-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(71)【出願人】
【識別番号】000198307
【氏名又は名称】株式会社IHI建材工業
(71)【出願人】
【識別番号】504085750
【氏名又は名称】アドバンエンジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001863
【氏名又は名称】弁理士法人アテンダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木作 友亮
(72)【発明者】
【氏名】知念 茂光
(72)【発明者】
【氏名】小森 照夫
(72)【発明者】
【氏名】山村 有希
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 広友
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 由貴子
(72)【発明者】
【氏名】聶 菁
(72)【発明者】
【氏名】倉田 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】丸山 隼人
(72)【発明者】
【氏名】磯部 美希
(72)【発明者】
【氏名】笠原 健二
【テーマコード(参考)】
4G055
4G112
【Fターム(参考)】
4G055AA01
4G055BA02
4G112MA00
4G112MB02
4G112PA06
4G112PA28
4G112PB03
4G112PB06
4G112RA05
(57)【要約】
【課題】セメントコンクリートと比較して常に優れた耐酸性を有するジオポリマー組成物及びその製造方法並びにコンクリート構造物を提供する。
【解決手段】ジオポリマー組成物全体における、ナトリウム及びカリウムの合計とアルミニウムとのモル比((Na+K)/Al)を0.5よりも大きく1.4以下とし、ケイ素とアルミニウムとのモル比(Si/Al)を1.5よりも大きく2.8以下とし、ジオポリマー組成物全体における水とアルミナとのモル比(H
2O/Al
2O
3)を15以下とすることにより、安定して高い耐酸性を有するジオポリマー組成物が得られる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料に活性フィラーとアルカリ活性剤とを含むジオポリマー組成物において、
ジオポリマー組成物全体におけるナトリウム及びカリウムの合計とアルミニウムとのモル比((Na+K)/Al)が0.5よりも大きく1.4以下であり、
ジオポリマー組成物全体におけるケイ素とアルミニウムとのモル比(Si/Al)が1.5よりも大きく2.8以下であり、
ジオポリマー組成物全体における水とアルミナとのモル比(H2O/Al2O3)が15以下である
ことを特徴とするジオポリマー組成物。
【請求項2】
前記原料は骨材を含む
ことを特徴とする請求項1記載のジオポリマー組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載のジオポリマー組成物を原料の練混ぜ後に、50℃以上の温度環境では積算温度で180℃・Hr以上の加温養生をし、50℃未満の温度環境では積算温度で14400℃・Hr以上または30日以上の加温養生をする
ことを特徴とするジオポリマー組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載のジオポリマー組成物を用いたコンクリート構造物において、
酸性溶液に触れる部分をジオポリマー組成物によって形成し、酸性溶液に触れない部分をセメントコンクリートによって形成した
ことを特徴とするコンクリート構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば土木、建築等における構造体の形成に用いられるジオポリマー組成物及びその製造方法並びにコンクリート構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、土木、建築等における構造体はコンクリートやモルタルによって形成されるのが一般的であるが、近年、コンクリートやモルタルに代わる材料としてジオポリマー組成物が注目されており、ジオポリマーコンクリートとして鉄道用まくら木、建築物の壁材等、各種構造物への適用が検討されている。
【0003】
ジオポリマー組成物は、フライアッシュ(石炭灰)、メタカオリン、高炉スラグ等、アルカリに活性な非晶質粉体(活性フィラー)とそれを活性化させるアルカリ溶液(ケイ酸ナトリウム水溶液、ケイ酸カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液)を混合させ、反応させることにより得られる固化体である。ジオポリマーコンクリートは、セメントコンクリートと同様に細骨材、粗骨材等を加えることにより(表1参照)、セメントコンクリートと同等の強度を発現するものである。
【0004】
【0005】
尚、表1において、FAはJIS1種フライアッシュ、BSは高炉スラグ微粉末(プレーン値4000cm2/g)、製作水ガラスはKOH、SiO2及び水を混合溶解して作製したものである。
【0006】
ジオポリマーコンクリートの従来の製造方法としては、
図2に示すように、まず混練ミキサに石炭灰、高炉スラグ、メタカオリン等の粉体(活性フィラー)、骨材(細骨材,粗骨材)等の材料を投入するとともに(S1)、所定時間(例えば2分間)だけ攪拌した後(S2)、水ガラス等のアルカリ溶液を加え(S3)、所定時間(例えば5分間)だけミキサで練混ぜを行った後(S4)、練混ぜを完了するようにしたものが一般的である。この後、混練物を型枠に投入し、数時間の養生を経て混練物の硬化後に脱型することにより構造体を形成するようにしている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
ジオポリマー組成物の特徴はカルシウムを含まないことでセメントよりも耐酸性が高いことであり、例えば温泉街での歩車境界ブロックの材料等に採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように、ジオポリマー組成物がセメントよりも高い耐酸性を有することは知られているが、組成、原料条件、骨材配合条件等の組み合わせによっては、セメントコンクリートと比較して優れた耐酸性を有しない可能性がある。このため、ジオポリマー組成物であっても耐酸性を要求される構造物に適さない場合があるという課題があった。
【0010】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、セメントコンクリートと比較して常に優れた耐酸性を有するジオポリマー組成物及びその製造方法並びにコンクリート構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は前記目的を達成するために、原料に活性フィラーとアルカリ活性剤とを含むジオポリマー組成物において、ジオポリマー組成物全体における、ナトリウム及びカリウムの合計とアルミニウムとのモル比((Na+K)/Al)を0.5よりも大きく1.4以下とし、ケイ素とアルミニウムとのモル比(Si/Al)を1.5よりも大きく2.8以下とし、総骨材の重量比率をジオポリマースラリーに対して0.6以上であって且つ細骨材の最密充填比率が粗骨材の最密充填比率よりも大きくし、ジオポリマー組成物全体における水とアルミナとのモル比(H2O/Al2O3)を15以下としている。
【0012】
これにより、前記ジオポリマー組成物が安定して高い耐酸性を有することが出願人の試験により確認された。
【0013】
また、本発明は前記目的を達成するために、前記ジオポリマー組成物の製造方法において、50℃以上の環境では積算温度(温度×時間)で180℃・Hr以上の加温養生をし、50℃未満の環境では積算温度で14400℃・Hr以上または30日以上の加温養生をすることにより、短期材齢でも高い耐酸性を保持することが出願人の試験により確認された。
【0014】
また、本発明は前記目的を達成するために、前記ジオポリマー組成物を用いたコンクリート構造物において、酸性溶液に触れる部分をジオポリマー組成物によって形成し、酸性溶液に触れない部分をセメントコンクリートによって形成している。
【0015】
これにより、酸性溶液に触れる部分のみがジオポリマー組成物によって形成されることから、耐酸性ジオポリマー組成物の使用量を最小限にすることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のジオポリマー組成物によれば、常に安定して高い耐酸性を有するので、従来のセメントコンクリート組成物、または不安定な耐酸性を有するジオポリマーコンクリートに比べ、酸性環境下での使用寿命が長く、構造物の交換や修繕の回数を減らすことができる。これにより、材料使用量削減による環境負荷の低減、作業時間の削減、及び低コスト化を図ることができる。また、腐食代を削減することにより、製品設置場所での掘削作業に要する時間及びコストを低減することができるとともに、材料コストの低減も図ることができる。
【0017】
また、本発明のジオポリマー組成物によれば、短期材齢でも高い耐酸性を保持することができるので、工期の短縮化を図ることができる。
また、本実施形態のジオポリマー組成物を用いたコンクリート構造物によれば、耐酸性ジオポリマー組成物の使用量を最小限にすることができ、コンクリート構造物全体のコストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係るジオポリマー組成物の製造工程を示す図
【
図2】従来のジオポリマー組成物の製造工程を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は本発明の一実施形態を示すもので、例えば土木、建築等における構造体に用いられるジオポリマー組成物の製造方法を示すものである。
【0020】
本実施形態のジオポリマー組成物は、原料に活性フィラーとアルカリ活性剤と骨材とを含み、アルカリ活性剤と水とを混合してなるアルカリ溶液に活性フィラーを加えて混合した後、骨材を加えて練り混ぜることにより生成される。
【0021】
活性フィラーは、アルカリ活性剤と混合することにより活性化されて固化する粉体であり、例えばフライアッシュ(石炭灰)、メタカオリン、高炉スラグ等、アルカリに活性な非晶質粉体からなる。
【0022】
アルカリ活性剤には、ケイ酸カリウム、メタケイ酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の粉体が用いられる。
【0023】
骨材は、砂、砂利または人工骨材等からなり、粒子の大きさに応じて細骨材と粗骨材に分類される。
【0024】
以下、
図1を参照し、本実施形態におけるジオポリマー組成物の製造方法について説明する。
【0025】
まず、アルカリ活性剤を水に溶融させることによりアルカリ溶液を生成する(S10)。次に、工程S10で生成したアルカリ溶液に活性フィラーを投入し(S11)、ミキサで練り混ぜることによりジオポリマースラリーを生成する(S12)。続いて、工程S12で生成したジオポリマースラリーに骨材を投入し(S13)、ミキサで練り混ぜることにより(S14)、練混ぜを完了させ(S15)、これを型枠等に注入し、45℃(好ましくは60℃)よりも高い温度で24時間(好ましくは68時間)以上、加温養生して硬化させることにより、ジオポリマーコンクリートが形成される。
【0026】
この場合、ジオポリマー組成物全体において、(1)ナトリウム及びカリウムの合計とアルミニウムとのモル比((Na+K)/Al)を0.5よりも大きく1.4以下とし、(2)ケイ素とアルミニウムとのモル比(Si/Al)を1.5よりも大きく2.8以下とし、(3)ジオポリマー組成物全体における水とアルミナとのモル比(H2O/Al2O3)を15以下とすることにより、ジオポリマー組成物が安定して高い耐酸性を有することが出願人の試験により確認された。
【0027】
また、ジオポリマー組成物を、原料の練混ぜ後に、50℃以上の温度環境では積算温度で180℃・Hr以上加温養生し、50℃未満の温度環境では積算温度で14400℃・Hr以上または30日の加温養生をすることにより、10日以下のような短期材齢でも高い耐酸性を保持することが出願人の試験により確認された。
【0028】
このように、本実施形態のジオポリマー組成物は、前記(1)~(3)の条件を満たすことにより、常に安定して高い耐酸性を有するので、従来のセメントコンクリート組成物、または不安定な耐酸性を有するジオポリマーコンクリートに比べ、酸性環境下での使用寿命が長く、構造物の交換や修繕の回数を減らすことができる。これにより、材料使用量削減による環境負荷の低減、作業時間の削減、及び低コスト化を図ることができる。また、腐食代を削減することにより、製品設置場所での掘削作業に要する時間及びコストを低減することができるとともに、材料コストの低減も図ることができる。
【0029】
更に、原料の練混ぜ後に加温養生することにより、短期材齢でも高い耐酸性を保持することができるので、工期の短縮化を図ることができる。
【0030】
また、本実施形態のジオポリマー組成物を用いたコンクリート構造物として、酸性溶液に触れる部分をジオポリマー組成物によって形成し、酸性溶液に触れない部分を比較的安価なセメントコンクリートによって形成したコンクリート構造物を用いることにより、耐酸性ジオポリマー組成物の使用量を最小限にすることができ、コンクリート構造物全体のコストを削減することができる。
【0031】
尚、前記実施形態は本発明の一実施形態であり、本発明は前記実施形態に記載されたものに限定されない。
【実施例0032】
以下、本発明の実施例1~6及び比較例1、2を示す。尚、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0033】
[使用材料]
実施例1~6及び比較例1のジオポリマー組成物(コンクリート固化体)は、結合材(活性フィラー)にメタカリオン及びシリカフュームを用い、骨材に細骨材及び粗骨材を用いた。
【0034】
実施例7~11及び比較例2のジオポリマー組成物(ペースト固化体)は、結合材(活性フィラー)にメタカリオン及びシリカフュームを用いた。
【0035】
また、実施例1~11及び比較例1、2では、アルカリ溶液として、ケイ酸カリウム、メタケイ酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムを用い、水には純水を用いた。
【0036】
[原子量のモル比]
実施例1~11及び比較例1、2におけるSi/Alは、実施例1~4、6、7、9~11及び比較例1、2では2.2、実施例5では2.8、実施例8では1.8とした。
【0037】
実施例1~11及び比較例1、2における(Na+K)/Alは、実施例1、2、4、5、7、10、11及び比較例1、2では1、実施例3、9では1.2、実施例6では0.6、実施例8では0.8とした。
【0038】
実施例1~11及び比較例1、2におけるH2O/Al2O3は、実施例1~3、6、7、9~11及び比較例1、2では10、実施例4では13、実施例5では12.4、実施例8では11.6とした。
【0039】
[骨材の割合]
実施例1~6及び比較例1におけるジオポリマースラリーに対する総骨材の重量比率は、何れも0.70とした。
【0040】
[加温養生条件]
加温養生の温度は、実施例1~10では60℃、比較例1では45℃、実施例11では20℃、比較例2では30℃とした。また、加温養生の時間は、実施例1~10及び比較例1、2では68時間、実施例10では3時間とした。また、実施例11では常温(20℃)で放置した。
【0041】
[試験材齢]
試験材齢は、実施例1、3~9及び比較例1、2では10日以下、実施例2では20日以上、実施例10では28日、実施例11では36日とした。
【0042】
[作製方法1]
実施例1~6及び比較例1のジオポリマー組成物(コンクリート固化体)を以下の工程(1)~(7)に示す方法により作製し、性能試験を行った。
(1)純水にケイ酸カリウム、メタケイ酸ナトリウム、水酸化ナトリウムを溶解させ、20℃以下まで冷却する。
(2)スタンドミキサを用いて、前記工程(1)の冷却アルカリ溶液と結合材(活性フィラー)とを混合する。
(3)パン型ミキサを用いて、前記工程(2)のジオポリマースラリーと予め空練りした骨材とを混合する。
(4)練り終わったジオポリマーコンクリートをモールドに充填する。
脱気を行う。
(5)恒温器により封緘加温養生を行う。
(7)自然冷却の後、試験日まで室温養生を行う。
【0043】
[作製方法2]
実施例7~11及び比較例2のジオポリマー組成物(ペースト固化体)を以下の工程(1)~(5)に示す方法により作製し、性能試験を行った。
(1)純水にケイ酸カリウム、メタケイ酸ナトリウム、水酸化ナトリウムを溶解させ、20℃以下まで冷却する。
(2)スタンドミキサを用いて、前記工程(1)の冷却アルカリ溶液と結合材(活性フィラー)とを混合する。
(3)練り終わったジオポリマーペーストをモールドに充填する。
脱気を行う。
(4)恒温器により封緘加温養生を行う(実施例11のみ常温で放置)。
(5)試験日まで室温養生を行う。
【0044】
[試験結果]
実施例1~6及び比較例1、実施例7~11及び比較例2について硫酸浸漬試験を行った結果を以下の表2及び表3にそれぞれ示す。硫酸浸漬試験には直径50mm、厚さ10mmのサンプルを用いた。
【0045】
【0046】
【0047】
試験結果によれば、実施例1~11はセメントコンクリートよりも高い耐酸性を有することが確認された。また、ジオポリマー固化体であっても、50℃未満の温度環境の場合、積算温度で14400℃・Hr以上または30日の加温養生に満たない比較例1及び2は耐酸性が低いという結果が得られた。