IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オーセ ホールディング ビー. ヴィ.の特許一覧

特開2024-35215印刷機のメンテナンス状態を予測するための方法
<>
  • 特開-印刷機のメンテナンス状態を予測するための方法 図1
  • 特開-印刷機のメンテナンス状態を予測するための方法 図2
  • 特開-印刷機のメンテナンス状態を予測するための方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035215
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】印刷機のメンテナンス状態を予測するための方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 29/38 20060101AFI20240306BHJP
   G06F 3/12 20060101ALI20240306BHJP
   H04N 1/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
B41J29/38 350
G06F3/12 310
G06F3/12 334
H04N1/00 002B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023141112
(22)【出願日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】10 2022 122 203.9
(32)【優先日】2022-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
2.ZIGBEE
(71)【出願人】
【識別番号】516255493
【氏名又は名称】キャノン プロダクション プリンティング ホールディング ビー. ヴィ.
【氏名又は名称原語表記】Canon Production Printing Holding B.V.
【住所又は居所原語表記】Van der Grintenstraat 10, 5914 HH Venlo, The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ヴュストナー
【テーマコード(参考)】
2C061
5C062
【Fターム(参考)】
2C061AQ05
2C061AQ06
2C061AS02
2C061AS06
2C061HJ07
2C061HK19
2C061HK23
2C061HN08
2C061HN15
5C062AA05
5C062AB40
5C062AC65
(57)【要約】      (修正有)
【課題】特定の時点における印刷機のメンテナンス状態を予測する
【解決手段】本方法は、a)印刷機の機能効率についての指標であるプロセスパラメーターの順次連続する複数のプロセス値を測定するステップと、b)予め定められた時間範囲内で測定されたプロセス値の散乱を記述する順次連続する複数の散乱値を決定するステップと、c)散乱値の局所的散乱極小値を決定するステップと、d)局所的極小値の時点でのプロセスパラメーターの値と相関し、ベースラインが改めて決定されるまで変化しないベースライン値を確定することによってベースラインを決定するステップと、e)特定の時点におけるベースライン値に対するプロセス値の予め定められた関係を用いて、特定の時点における健全値を決定するステップと、を実施し、健全値が予め定められた閾値を超えた場合、前記健全値は、メンテナンス状態として判定される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の時点における印刷機のメンテナンス状態を予測するための方法であって、前記方法は、
a)印刷機の機能効率についての指標であるプロセスパラメーターの順次連続する複数のプロセス値を測定するステップと、
b)予め定められた時間範囲内で測定されたプロセス値の散乱を記述する順次連続する複数の散乱値を決定するステップと、
c)前記散乱値の局所的散乱極小値を決定するステップと、
d)局所的極小値の時点でのプロセスパラメーターの値と相関し、ベースラインが改めて決定されるまで変化しないベースライン値を確定することによってベースラインを決定するステップと、
e)特定の時点におけるベースライン値に対するプロセス値の予め定められた関係を用いて、特定の時点における健全値を決定するステップと、
を実施し、
前記健全値が予め定められた閾値を超えた場合、前記健全値は、メンテナンス状態として判定される、
方法。
【請求項2】
前記局所的散乱極小値の決定前に、前記散乱値の局所的散乱極大値が決定され、極大値が検出されなかった場合、前記散乱値における最も早い時点が極大値として確定され、決定すべき散乱極小値は、時間的に極大値の後に到来する、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記健全値を決定するための前記ベースライン値に対する前記プロセス値の比率は、
-2つの値の差分によって、
-非線形関数によって、または
-事前に格納されたテーブルからの割り当てによって
与えられる、
請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
散乱パラメータは、標準偏差である、
請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記プロセス値は、EWMA(exponentially weighted moving average)方式で平滑化されている、
請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
特定の範囲は、特定の時点での比較における直近の値を示し、好適には直近の10,000個の値、好適には直近の1,000個の値、好適には直近の100個の値、特に好適には直近の10個の値を含む、
請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
複数の極小値が識別された場合、時間的に最も古い極小値を選択することにより、またはそれに対応するプロセス値がより健全な機械を示唆する極小値を選択することにより1つの極小値が確定される、
請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記極小値が検出されなかった場合、前記散乱パラメータの最小値の時点が選択される、
請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記極小値は、特定の閾値を下回る必要があり、この閾値は、前記散乱パラメータが標準偏差に対応する限り、好適には10の標準偏差、好適には5の標準偏差、特に2の標準偏差に対応する、
請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記健全値は、予め定義されたスケーリング係数で乗算することによって正規化され、これにより、前記健全値は、100で正常に機能している印刷機を示し、より低い値は、印刷機の差し迫っているメンテナンス故障を示唆する、
請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記方法は、予め定められた異なる閾値を有する異なるメンテナンス状態を有している、
請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
メンテナンス状態を予測するための制御装置を備えた印刷機であって、
前記制御装置は、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法を実行するように構成されている、
印刷機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷機のメンテナンス状態を予測するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷機、特に高性能印刷機では、故障が莫大な経済的損失に結び付く可能性がある。この場合、必ずしも機械全体の故障である必要はなく、個々の要素、例えばインキ用ポンプがだめになるので十分である。それにより、ある特定の時点から印刷ジョブが印刷できなくなるか、あるいは不良な印刷しかできなくなる。そのような印刷されないジョブ、あるいは不良に印刷されるジョブは、一部では事後になって初めて確定される可能性がある。その後の印刷過程の中断は、著しい遅延を伴ってしかできなくなる。そのため、印刷損紙とも称される著しい量の損紙が生じる。また故障した部品、例えばポンプの修理によって生じる停止時間は、過度な生産コストを引き起こす。
【0003】
したがって、円滑な経過のためには、そのような停止時間を最小限に抑えるために、印刷機の状態、特にそれらの個々の要素を認識することが重要である。
【0004】
従来、印刷機もしくは個々の部品は、定期的な間隔でメンテナンスされる。したがって、印刷機の状態は、メンテナンス中に初めて認識される。疑わしい場合には、古い構成部品の状態をまったく知らないまま、メンテナンスしやすい構成部品が取り付けられる。この取り組みは、頻繁な停止時間および不要な交換による無駄なコストにつながる。
【0005】
いわゆる予知保全システム(PdMシステム)では、この問題が認識され、個々のシステム部品の故障確率を様々なセンサーシステムを介して予測計算する試みがなされている。これにより、故障が発生する前に交換や予防措置を計画することができる。それにより、ユーザーは、生産期間中の可用性が高められるという利点を得ることができる。
【0006】
しかしながら、既存の予知保全システムでは、センサによって出力される値に故障確率を割り当てる必要がある。製品ラインに対して一律の割り当てを提供することが不可能な場合も多い。なぜなら、部分的にしか故障確率に割り当てることができないパラメータの一部は、依存する要因も多いからである。例として、ここでは動作温度を挙げることができる。その場合、ある機械Aの動作温度が北極海では18℃の場合に正常動作、25℃の場合に故障を示唆するかもしれないが、それに対して同じ構造の機械が赤道直下では同じものでも25℃の正常温度を有し、30℃の場合に初めて故障を示唆するかもしれない。
【0007】
故障を予測可能にするために適正なパラメータ値を識別し設定することには、多くの場合、当業者による監視が必要な複数の動作周期も必要になる。これには非常に時間がかかり、熟練者の潜在的な不足によって中断に至る可能性もあり、またコストもかかる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が基礎とする課題は、簡単な手法でメンテナンス状態を高い信頼性のもとで予測することができる、印刷機のメンテナンス状態を予測するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、独立請求項の対象によって解決される。好適な発展形態および好適な実施形態は、従属請求項の対象を形成する。
【0010】
特定の時点における印刷機のメンテナンス状態を予測するための方法では、本方法は、
a)印刷機の機能効率についての指標であるプロセスパラメーターの順次連続する複数のプロセス値を測定するステップと、
b)予め定められた時間範囲内で測定されたプロセス値の散乱を記述する順次連続する複数の散乱値を決定するステップと、
c)散乱値の局所的散乱極小値を決定するステップと、
d)局所的極小値の時点でのプロセスパラメーターの値と相関し、ベースラインが改めて決定されるまで変化しないベースライン値を確定することによってベースラインを決定するステップと、
e)特定の時点におけるベースライン値に対するプロセス値の予め定められた関係を用いて、特定の時点における健全値を決定するステップと、
を実施し、
健全値が予め定められた閾値を超えた場合、当該健全値は、メンテナンス状態として判定される。
【0011】
散乱値は、プロセス値がどの程度一定であるかについての尺度である。
【0012】
プロセス値が比較的長い期間にわたって一定であれば、印刷機のこの状態は望ましいものであり、メンテナンスが間近に差し迫っていないものとして出発することができる。
【0013】
極小値もしくは極大値などの極値とは、以下では、別段の明記がない限り、散乱極値または散乱極小値もしくは散乱極大値を指す。
【0014】
散乱値の極小値は、プロセス値が一定時間にわたって一定であることを暗に含む。プロセス値が一定でないのであれば、プロセス値は相互に異なり、散乱値はプロセス値が一定である場合よりも大きくなるであろう。
【0015】
したがって、プロセス値が一定である値範囲は、メンテナンス状態が存在しないことについての非常に良好な指標である。
【0016】
次いで、この一定範囲は、システムによりベースラインとして自動的に確定することができる。
【0017】
このことは、本方法によって自動的に行われるため、当業者自身がベースラインを決定することは不要となる。
【0018】
さらに、これにより各印刷機に対して同じ方法が使用される。例えば、異なる熟練者の異なる手法によって生じる相違、あるいは熟練者が「勘」に従ってある程度まで任意にベースラインを設定するために生じる相違は、本明細書では、ベースラインの誤った設定によって生じる故障を少なくさせることができる。したがって、ベースライを設定するための専門的な教育を受けたことがない人が、教育を受けていないにもかかわらずベースラインを決定する試みに駆られることはない。
【0019】
印刷機の状態が悪化すると、プロセス値も変化する。そして、プロセス値は、事前に確定されたベースライン値からますます離れていく。プロセス値とベースライン値との間隔を健全値と呼び、ここで、健全値は、プロセス値とベースライン値との関係を示す。この関係は、プロセス値がベースライン値に対してどのような比率にあるのかを示し、この場合、この比率は、本明細書では必ずしも商として理解される必要はなく、むしろこれらの2つの値の一般的な関係を示すものである。
【0020】
健全値が予め定められた閾値を超えた場合、システムはこのことを自動的にメンテナンス状態と判定する。「超える」とは、本明細書では、予め定められた閾値を下回る可能性もあることを意味するものと理解されたい。また「超える」とは、ここでは、横切ること、横断もしくは縦断することを意味するものと理解されたい。
【0021】
本方法は、その簡素性により多くの印刷機において使用することができる。それは特定のタイプの印刷機に限定されるものではない。
【0022】
本方法が基礎とする物理的原理は、印刷機もしくは印刷機の一部が故障する前のある程度の時間の間、プロセスパラメーターの監視されるプロセス値が変化することにある。このことは、例えば、動作温度において生じるか、あるいは電力消費の変化によって生じる可能性がある。
【0023】
印刷機もしくは印刷機の一部の故障は、例えば経年劣化に起因する摩耗によって生じる可能性があるが、例えばフィルタの目詰まりや一般的な汚れによって生じる可能性もある。本方法を用いることにより、原因に依存することなく印刷機の故障を予測することができる。
【0024】
本方法の利点は、本方法を実行するシステムが、単にプロセスパラメーターを測定し、この測定されたプロセス値に基づいて、メンテナンス状態が存在するか否か、すなわち印刷機が健全であるか否かを自動的に識別することができることにある。プロセス値が健全な範囲内に存在するかどうか、およびプロセス値が健全な範囲内に存在するのはいつかを決定する当業者による修正もしくは較正はここでは不要である。
【0025】
したがって、メンテナンス後、元のベースラインとは異なるベースラインを求めることができる。
【0026】
過渡的過程、ならびにシステムの特性に影響を与えるコンポーネントの変更(例えば新規のモーターまたは摩耗部品の交換など)は、本明細書で説明する方法によって考慮することができる。
【0027】
好適には、局所的散乱極小値の決定前に(ステップc)、制御値の局所的散乱極大値が決定され、ここで、極大値が識別されなかった場合、ビーム値における最も早い時点が極大値として確定され、決定すべき散乱極小値は、時間的に極大値の後に到来する。
【0028】
決定すべき散乱極小値が時間的に極大値の後に到来するということは、本明細書では、ステップA~Eを含む本方法のためにのみ使用されることを意味するものと理解されたい。本方法が相前後して複数回実行されるならば、もちろん散乱極小値は、散乱極大値の前に存在し得る。
【0029】
散乱極大値は、プロセス値が短い期間中に非常に大きく変化する場合に生じる。これは、例えば、印刷機の構成部品が交換されるメンテナンスによって起こり得ることであり、そのため、印刷機は、メンテナンスの直後に引き続きメンテナンスの直前とは異なるプロセス値を出力する。そのようなメンテナンスによって生じる跳躍的変化は散乱極大値を生成する。
【0030】
したがって、散乱極大値は、メンテナンスの指標であってよい。散乱極大値が識別されたならば、散乱極小値を検出するために対応する方法を開始し、改められたメンテナンス状態を予測できるようにするためにベースラインを識別して健全値を計算すべきである。
【0031】
本方法が最初に適用されると、それまで極大値が存在しない場合もあり得る。したがって、それにより開始時点は極大値として確定される。
【0032】
好適には、健全値を決定するためのベースライン値に対するプロセス値の比率は、以下のもの:
-2つの値の差分
-非線形関数
-事前に格納されたテーブルからの割り当て
によって与えられる。
【0033】
差分は最も簡単な場合を示す。したがって、健全値はプロセス値と相関があり、そのため、例えば10%~20%の変化は、80%~90%の間と同じ差分を有する。
【0034】
非線形関数は、例えば対数関数または指数関数によって与えられていてよい。この場合、20%~10%への健全値の変化は、90%~80%への入れ替わりの際とは異なる変化の違いを反映する。
【0035】
したがって、このことは、例えば、プロセス値の狭い範囲内では印刷機はメンテナンス状態にはないが、この狭い範囲からの変化が短期的に1つのメンテナンス状態を引き起こす可能性がある場合に有意となる場合がある。次いで、メンテナンス状態のこの範囲は、印刷機全体の故障に至るまでに非常に大きくなる場合がある。
【0036】
これらの異なる範囲を表示できるようにするために、割り当てもしくは比率は非線形でなければならない。
【0037】
割り当ては、事前に格納されたテーブルによって行うこともできる。この場合、ベースラインおよび様々なプロセス値の対応する値がテーブルに格納され、このテーブルから健全値を読み出すことができる。
【0038】
さらに、そのような様々な機能を表示することも考えられる。基本的には、例えば、プロセスパラメーターがメンテナンス状態を示さない様々な領域が存在し、それに対して、介在的に存在する他の領域はメンテナンス状態を暗に含むことも可能である。
【0039】
一実施形態によれば、散乱パラメータは標準偏差である。
【0040】
標準偏差は、散乱を決定するための通常のパラメータであり、多くのプログラムやシステムにすでに統合されているため、ここでの本方法の実施に、付加的なプログラミングは不要である。
【0041】
他の散乱パラメータ、例えば分散などを使用することも考えられる。
【0042】
好適には、プロセス値は、EWMA(exponentially weighted moving average)アルゴリズムに従って平滑化される。
【0043】
そのような指数関数的に加重され平滑化された平均値では、より最近のデータポイントが、より遡ったデータポイントよりも加重され、つまり、過去に遡れば遡るほど、その影響力は小さくなる。
【0044】
これは、一方では曲線が平滑化されて出力されるが、メンテナンス状態を開始する可能性のある変化は平均化によって平滑化されないことにつながる。それにもかかわらず、この方法では、メンテナンス状態についてのインジケータが適時に表示される。
【0045】
平滑化の典型的な半減期は8周期になるべきであろう。数値が大きいほど、曲線はより滑らかになるが、個々の外れ値への反応がより遅くなり、プロセス値において個々に発生する極端な値は過度に平滑化される可能性があろう。
【0046】
平均化は、プロセス値の平滑化と十分な鮮鋭化との間の良好なバランスが設定されるように設定されるべきであろう。
【0047】
好適には、特定の範囲は、特定の時点での比較における直近の値を示し、好適には直近の10,000個の値、好適には直近の1,000個の値、好適には直近の100個の値、特に好適には直近の10個の値を示す。
【0048】
本方法に必要な数は、どのくらいの頻度で測定されるかにも依存する。例えば、1日に3回しか測定されず、範囲が100個の値を含むべきならば、範囲の時間的持続時間は33日間となる。これは、状況によっては長すぎる場合もある。ただし、他方の面で1分間に1つの値が記録される場合、範囲の時間的持続時間はわずか1時間20分となり、これは状況によっては短すぎる。
【0049】
ウィンドウサイズは、有意な増加もしくは減少を完全に捕捉するように選択されるべきであろう。それにより、散乱パラメータは、極値(極大値および極小値)を最も効果的に決定することができる。
【0050】
時間的持続時間が過度に長いと、プロセスパラメーターの特性曲線は、変更に対して過度に緩慢に反応してよい。
【0051】
好適には、複数の極小値が識別された場合、時間的に最も古い極小値を選択することにより、またはそれに対応するプロセス値がより健全な機械を示唆する極小値を選択することにより1つの極小値が確定される。
【0052】
本発明の趣旨において健全な機械とは、その健全値が最適値の近傍に存在する印刷機である。印刷機が健全であればあるほど、健全値は最適値のより近傍に存在する。印刷機が不健全であればあるほど、メンテナンス状態が存在する時期が早まり、印刷機が故障しそうな時期が早まる。
【0053】
時間的に最も古い極小値が選択されると、早期にメンテナンス状態を識別することができる。
【0054】
それに対応するプロセス値がより健全な機械を示唆する極小値が選択されると、プロセスパラメーターに対して機械の最適値に相応に近傍するベースラインが選択される。
【0055】
一実施形態によれば、極小値は特定の閾値を下回って存在することができ、この場合、この閾値は、散乱パラメータが標準偏差に対応する限り、好適には10の標準偏差に対応し、好適には5の標準偏差に対応し、特に2の標準偏差に対応する。
【0056】
閾値を確定することにより、誤りのある極小値は選択されないことが保証される。誤りのある極小値は、例えば、誤りのあるベースライン値が選択され、それによって健全値が誤って計算されたり、不十分な計算になったりすることにつながる可能性がある。
【0057】
10の標準偏差、好適には5の標準偏差、特に2の標準偏差は、実験において極小値を決定するための閾値として十分であることが判明している。好適には、健全値は、予め定義されたスケーリング係数で乗算することによって正規化され、これによって、健全値は、100で正常に機能している印刷機を示し、より低い値は、印刷機の差し迫ったメンテナンス不良を示唆する。
【0058】
他のより低い値の場合、メンテナンス不良自体が存在している可能性もある。
【0059】
健全値は、例えば1,000、10,000、1,000,000または10もしくは1などの他の値に正規化することもできる。極小値もしくは極大値についての絶対値を指定することが万一できない場合には、推定されるベースラインの1%が最大閾値のための開始点として実証されている。そのため、極小閾値については推定されるベースラインの0.5~1%が開始点として実証されている。
【0060】
一発展形態によれば、本方法は、予め定められた異なる閾値を有する異なるメンテナンス状態を有することができる。
【0061】
異なるメンテナンス状態は、本明細書では、印刷機もしくは印刷機の一部の故障の異なる危険レベルもしくは確率に割り当てられてもよい。
【0062】
そのため、例えば、第1の予め定められた閾値では、第1のメンテナンス状態が存在し、第1の警報が出力されるが、その危機的時間窓は、数ヶ月とは言わないまでも、数週間の範囲で存在することが考えられる。
【0063】
印刷システムがさらに劣化した場合、より緊急の警報が出力される第2のメンテナンス状態が存在している可能性がある。ここでは、印刷機は、即時にメンテナンスされるべきであろう。システムがまたさらに劣化した場合、印刷機もしくは印刷機の一部の故障が間近に差し迫っているか、すでに起きていることを示す第3のメンテナンス状態が存在している可能性がある。
【0064】
以下では例示的に本発明を、図面に示されている例に基づいてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
図1】評価ユニットが接続された印刷システムを概略的に示したブロック図である。
図2図2aは、プロセスパラメータ(a)の時間的経過を概略的に示した図であり、図2bは、散乱値(b)の時間的経過を概略的に示した図であり、図2cは、健全値(c)の時間的経過を概略的に示した図である。
図3】印刷機のメンテナンス状態を予測するための方法を概略的に示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0066】
以下では、特定の時点において印刷システムの形態の印刷機1のメンテナンス状態を予測するための方法を実行する実施例を説明する(図1)。
【0067】
この印刷システムは、記録媒体2の印刷のための印刷機1を含んでいる。
【0068】
記録媒体2は、典型的には通常、連続ウェブである。しかしながら、搬送装置は、個々のシートを搬送区間に沿って搬送するように構成されていてもよい。
【0069】
記録媒体2は、典型的には用紙である。この用紙は、異なる品質を有することができる。しかしながら、記録媒体は、プラスチックフィルムであってもよいし、プラスチックでコーティングされた用紙であってもよい。以下では、用紙ウェブ2とも称する。
【0070】
印刷機1は、この実施例では高性能印刷機である。本発明の趣旨における高性能印刷とは、毎秒DIN規格A4サイズの少なくとも5頁を印刷することができる印刷機器の使用を意味するものと理解される。しかしながら、高性能印刷のための印刷機器は、例えば毎秒DIN規格A4サイズの少なくとも30頁、特に毎秒DIN規格A4サイズの少なくとも50頁、好適には毎秒DIN規格A4サイズの少なくとも90頁などのようなより高速な印刷速度のために構成されていてもよい。典型的には、そのような印刷機器は、インクジェット印刷機器として、あるいは電子写真式印刷機器として構成されている。また、その印刷インクが液体トナーである印刷機器であってもよい。
【0071】
印刷機1は、この実施例ではインクジェット印刷機器である。
【0072】
印刷機1は、データ線路3を介してコンピュータもしくはプリントサーバ4に接続されており、そこから印刷機1はデータ線路3を介して印刷データストリームを受信する。コンピュータ4は、印刷データストリームを一時的に保存または転送し、ある特定の前処理ステップを実行するプリントサーバであるか、印刷ジョブおよび対応する印刷データストリームを生成するホストである。印刷データストリームとしては、高性能プリンタにとって一般的なIPDS(Intelligent Printer Data Stream)印刷データストリームが使用される。もちろん、例えばPCL(Print Command Language)、PS(Post Script)、またはAFP(Advanced Function Presentation)などの他の形式の印刷データストリームを使用することも可能である。
【0073】
印刷機1では、データ線路3がコントローラ5に接続され、このコントローラ5において、印刷データストリームに含まれる印刷データが、下流側に配置された信号発生器のために準備される。信号発生器6は、印刷ヘッド7を駆動制御するための制御信号を生成し、この制御信号によって印刷データが用紙ウェブ2に印刷される。
【0074】
コントローラ5はさらに、印刷機器の様々なユニット、例えば用紙搬送装置、電子写真ユニット、定着ステーションなどを駆動制御する図示しない機器制御部に接続されている。さらに、コントローラ5は、システム情報が表示され、印刷機1における設定に関することを行うことができる操作パネルに接続されている。ここでは、スクリーン(特にタッチスクリーン)、キーボードおよび/またはマウスなど、それ自体既知の手段を含むことができる。
【0075】
用紙ウェブ2は、高性能印刷機用の典型的な連続用紙ウェブである。しかしながら、個別用紙に印刷する、本発明による方法の適用にも好適である非常に高い性能を有する印刷機も公知である。
【0076】
コントローラ5では、管理番号が生成され、印刷データストリームに挿入される。これについては、以下で詳細に説明する。
【0077】
印刷ヘッド7の下流側では、用紙ウェブ2に隣接して、用紙ウェブ2上に印刷された管理番号を走査するための走査センサ8が設けられている。管理番号が線状のコードもしくはバーコードの形態で印刷されている場合、このセンサは、用紙ウェブ上の輝度の違いを検出する単純なフォトセンサである。走査センサ8は、監視装置9に接続されており、この監視装置9も中央印刷制御装部10に結合されている。
【0078】
用紙ウェブ2は、搬送装置13によって搬送方向14に駆動される。
【0079】
データ線路3を介して供給されるデータストリームには、例えば用紙番号や頁番号などの印刷ジョブに関する追加情報が含まれており、これらの追加情報も、さらなるデータ線路11を介して監視装置9に供給される。それに対して代替的に、これらの追加情報は、最初にコントローラ5のみに供給することも可能であり、その後、コントローラ5はこれらの情報をさらなるデータ線路12を介して監視装置9に転送する。したがって、データ線路11は省略可能である。この場合、コンピュータ4がそのような情報を提供しない場合には、コントローラ5自体が印刷ジョブの追加情報を生成して監視装置9に供給することも可能である。
【0080】
さらに印刷機1は、例えば印刷された記録媒体を乾燥させるための加熱ステーションのようなそれ自体公知のさらなるユニットを有する。これらのさらなるユニットは、本発明の説明には不要であるため、図面には示されておらず、明細書においても詳細には説明していない。
【0081】
印刷機1は、さらに当該印刷機1の機能性についての指標となるプロセスパラメーターのプロセス値16を測定するためのセンサ15を含んでいる。センサ15は、データ線路を介してコンピュータ4に接続されている。このデータ線路は、データ線路11と同一であってよい。これらのデータは、ケーブル、例えばLANケーブルを介してセンサ15からコンピュータ4に伝送することができるが、例えばWiFi、Bluetooth、Zigbee、Z-WaveまたはNFCを介してプロセス値16を無線で伝送することも可能である。
【0082】
プロセスパラメーターは、この場合、印刷機1の印刷ヘッド7にインクを圧送するためのポンプを駆動するポンプモータの回転速度である。
【0083】
ポンプの回転が遅いほど、ポンプが目詰まりしてメンテナンスが必要になる確率が高くなる。
【0084】
代替的に、印刷機1のインク用ポンプモータの電力消費を監視することも可能である。
【0085】
ポンプが必要とする電流が多いほど、ポンプが消費するエネルギーも多くなる。インク流量が一定の場合には、このことがポンプの健全状態に関する指標となる。ポンプが必要とする電流が多いほど、ポンプ自体が目詰まりしてメンテナンスが必要になる確率が高くなる。
【0086】
本方法が基礎とする物理的原理は、ポンプが故障する前のある程度の時間の間は、ポンプの性能が変化するということにある。ポンプが故障する前の数日間は、ポンプは同じ電力のもとで以前よりも若干少ない圧送しかしなくなる。
【0087】
ポンプの故障は、例えば経年劣化に起因する摩耗によって生じ得るが、フィルタの目詰まりによっても生じ得る。
【0088】
他の代替として、以下の監視:
-収縮監視、
-潤滑剤および摩耗粒子の分析、
-軸受および温度の分析、
-性能監視、
-超音波ノイズ識別、
-超音波フロー、
-赤外線サーモグラフィ、および
-目視検査、
のうちの1つまたは複数を実施するセンサ15を含むことができる。
【0089】
センサ15によって測定されるプロセス値16は、コンピュータ4に送信され、このコンピュータ4は、メンテナンス状態を予測するための方法で説明したように、プロセス値を分析するように設計されている。コンピュータ4はまた、不健全な状態が存在するかどうかを確定し、警報信号を生成することもでき、この警報信号は、例えば、スピーカを介して音響的に出力されるか、表示装置上で画像および/またはテキストの形態で出力される。
【0090】
これらのプロセス値16は、コンピュータ4において指数関数的に重み付けされ平滑化された平均を介して前処理される。
【0091】
これらのプロセス値は、ここでは、例えば1日3回測定され、すなわち、測定値の間に8時間の時間間隔がおかれている。
【0092】
コンピュータ4は、警報出力部17に結合されている。この警報出力部17は、メンテナンス状態がコンピュータ4によって識別された場合に、ユーザーに通知する。この実施例では、警報出力部17は、想定されるユーザーに電子メールを送信する通知装置である。
【0093】
以下では、特定の時点における印刷機のメンテナンス状態を予測するための方法を説明する。
【0094】
本方法は、ステップS1(図3)で開始される。
【0095】
次のステップ(S2)では、プロセス値16がセンサ15によって捕捉される(図2)。この実施例では、プロセス値16は、ポンプの回転速度であるため、このプロセス値16は、記録すべき電流を介して間接的に決定される。
【0096】
2つの測定記録の間の時間間隔は、この実施例では8時間になる。
【0097】
求められたプロセス値16は、タイムスタンプと一緒にコンピュータ4によって記録される。
【0098】
ポンプの回転は、通常は一定に維持され、それ以外ではポンプの目詰まりが発生し、その時点からポンプの健全性は徐々に低下する。そのような緩慢な摩耗は、図2の時点18に示されている回転速度の低下によって検出可能である。ポンプの交換、つまりメンテナンスは、時点19で行われる。
【0099】
ステップS3では、予め定められた時間範囲内で測定されたプロセス値16の散乱を記述する散乱値20が決定される。この実施例では、散乱値20は、EBMA平滑化プロセス値16の標準偏差である。この場合、直近の100個の値(すなわち直近の33日間)の標準偏差が選択される。
【0100】
続いて散乱極値が決定されるステップS4に進む。
【0101】
ここでは、最初に散乱極大値が識別される。散乱極大値21は、プロセス値16が短い期間内で大幅に変化した場合、あるいは1つの方法が完全に新規に開始された場合に生じる。図2では、1つ目が左側の本方法の開始時に識別され、2つ目はポンプの交換後に識別され得るような2つの散乱極大値21を識別することができる。
【0102】
方法の経過期間中は、極大値および極小値のみが検索される。ここでは複数の極大値または極小値は検索されない。
【0103】
複数の散乱極大値21が存在する場合、時間的に最も新しい散乱極大値21が選択される。特性曲線内で散乱極大値21が識別されなかった場合、時間的ゼロ点、つまり本方法の開始時点が極大値として確定される。
【0104】
散乱極小値22は、時間的に散乱極大値21の後方に存在している。これは、散乱極大値21が本方法の一種のゼロ点として機能することにつながる。したがって、極大値より前の値は考慮されない。
【0105】
散乱極小値22の時点は、プロセス値16がある期間にわたって安定している時点に対応する。プロセス値16が安定しているほど、プロセス値16における異常値の存在は減少して散乱値20は小さくなり、したがって散乱値の極小値22がより顕著になる。
【0106】
安定したプロセス値16は、健全な機械を表し、すなわち、プロセス値16は最適状態にあり、メンテナンス状態を推定することはできない。
【0107】
次のステップ(S5)では、局所的極小値22の時点でのプロセスパラメーター16の値と相関し、ベースライン23a,23bが改めて決定されるまで変化しないベースライン値が確定されることによってベースライン23a,23bが決定される。
【0108】
本実施例では、ベースライン値として極小値22の時点でのプロセス値の値を選択することによって相関が行われる。しかしながら、通常は、極小値22の時点でのプロセス値の関数である他の相関も可能である。
【0109】
次いで、ステップS6では健全値24が決定される。この実施例では、健全値は、プロセス値16とベースライン値23aとの差分にスカラー正規化係数を乗算したものであり、このスカラー正規化係数は、プロセス値16とベースライン値23aとが一致する場合に健全値を100%に確定する。したがって、0%は、プロセス値16およびベースライン値23aからの予め設定された偏差に対応する。基本的には、健全値を用いてベースラインからの偏差(これは正規化されてもよいし重み付けされてもよい)が決定され、この偏差が大きいほど、「健全性」は悪化し、メンテナンス状態である確率は高くなる。
【0110】
次のステップS7では、閾値25を超えたかどうかが問い合わせされる。この閾値は前もって確定されたものであり、この実施例ではnΣであり、ここで、nは、好適には、1;1.5;2;2.5もしくは3である。2Σは、13.6%に相当する。閾値は、図2では、健全性低下とポンプ交換との間の期間の直近の3分の1で閾値を超える。
【0111】
閾値25を超えていないことが確定されたならば、改めてプロセス値が捕捉される(ステップS2)。
【0112】
しかしながら、閾値25を超えたことが捕捉されたならば、これはメンテナンス状態26として判定され、次のステップS8においてメンテナンス状態26が存在することについての警報が出力される。
【0113】
本方法は、ステップS9で終了する。
【0114】
他の実施例では、警報出力部17は、音響的信号発生器として構成されてもよいし、あるいはメンテナンス状態が存在すると直ちに点灯するライトとして構成されてもよい。本明細書では組み合わせも可能である。
図1
図2
図3
【外国語明細書】