IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シャンハイ ライド バイオテック カンパニー,リミティドの特許一覧

特開2024-35219免疫調節薬の有効性をスクリーニングするためのモデル及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035219
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】免疫調節薬の有効性をスクリーニングするためのモデル及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/078 20100101AFI20240306BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240306BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240306BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240306BHJP
   C12N 5/09 20100101ALI20240306BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20240306BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C12N5/078
G01N33/50 Z
A61K45/00
A61P37/02
C12Q1/02
C12N5/09
C12N5/0783
G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023141427
(22)【出願日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】2022110665716
(32)【優先日】2022-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】523332862
【氏名又は名称】シャンハイ ライド バイオテック カンパニー,リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】シエ ピン
(72)【発明者】
【氏名】タンイー ウェン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4C084
【Fターム(参考)】
2G045AA29
2G045AA40
2G045CB01
2G045DA13
2G045DA14
2G045FA37
2G045FB13
4B063QA20
4B063QR40
4B063QS36
4B065AA90X
4B065CA60
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZB071
(57)【要約】
【課題】免疫調節薬の有効性をスクリーニングするためのモデル及び方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、免疫調節薬の有効性をスクリーニングするためのモデル及び方法を開示する。前記方法は、PVDFカプセルチューブを含む動物モデルを構築することを含み、さらに、in vivoでの動物モデルの薬力学的データ、ペアフロー多細胞サブグループの表現型同定データ及びマルチオミクスデータを分析することを含む。前記PVDFカプセルチューブは、単一細胞懸濁液化の腫瘍細胞及び免疫細胞を含む細胞を収容し、前記腫瘍細胞及び免疫細胞は、臨床患者の新鮮な腫瘍組織又は体液に由来する。本発明により構築される動物モデルは、免疫系標的と調節薬の有効性のスクリーニングを行うことができ、また同時に複数の患者に対する免疫薬物のスクリーニングを行うことを実現し、臨床精密医療及び新薬開発のために迅速、効果的かつ機能的及び機序的研究方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を封入するポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブであって、前記細胞は単一細胞懸濁液中の腫瘍細胞及び免疫細胞を含み、さらに、前記腫瘍細胞及び免疫細胞は、臨床患者の新鮮な腫瘍組織又は体液に由来することを特徴とする、細胞を封入するポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブ。
【請求項2】
前記腫瘍組織は、臨床的に外科的に切除された腫瘍組織又は生検された腫瘍組織を含むことを特徴とする、請求項1に記載の細胞を封入するポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブ。
【請求項3】
前記体液は、血液、骨髄、胸水と腹水、及び脳脊髄液のうちの一つ又は複数を含むことを特徴とする、請求項1に記載の細胞を封入するポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブ。
【請求項4】
前記ポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブの平均タンパク質透過性は約300~1000kDaであり、又は500~700kDaであることを特徴とする、請求項1に記載の細胞を封入するポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブ。
【請求項5】
前記ポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブは、使用前に活性化、超純水洗浄及び高圧滅菌によって前処理されることを特徴とする、請求項1に記載の細胞を封入するポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブ。
【請求項6】
前記活性化は、前記ポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブを無水アルコールですすぐことによって達成されることを特徴とする、請求項5に記載の細胞を封入するポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブ。
【請求項7】
前記封入された細胞は、富化された患者の自己免疫細胞であり、前記腫瘍細胞は、単一細胞懸濁液中の陰性選択細胞(ストローマ細胞及び免疫細胞)であり、前記患者の自己免疫細胞は、患者の固形腫瘍組織中の腫瘍浸潤リンパ球から分取されるか、又は患者の末梢血若しくは骨髄中の末梢血単核球から分取されたリンパ球であることを特徴とする、請求項1に記載の細胞を封入するポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブ。
【請求項8】
前記分取に使用される分取方法は、抗ヒトCD45に結合された磁気ビーズに免疫細胞を付着させて分取することを含むことを特徴とする、請求項7に記載の細胞を封入するポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブ。
【請求項9】
前記分取に使用される分取方法は、抗ヒトCD45及び抗ヒト線維芽細胞マーカーに結合された磁気ビーズを用いて免疫細胞及び線維芽細胞を除去することにより腫瘍細胞を分取することを含むことを特徴とする、請求項7に記載の細胞を封入するポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブ。
【請求項10】
前記免疫細胞(CD3+T細胞)に対する腫瘍細胞の比率範囲は、1.5:1~15:1、又は1.5:1~9:1であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の細胞を封入するポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブ。
【請求項11】
全生細胞におけるCD8+T細胞のパーセンテージは0.5%~15%であり、かつ、前記免疫細胞の生存率は20%以上であることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の細胞を封入するポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブ。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の少なくとも一つのポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブを含む動物モデルであって、前記ポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブは皮下又は同所に移植され、好ましくは、前記動物はマウスであり、より好ましくは、前記マウスは、BALB/cヌードマウス、NCGマウス、NSGマウス、及びNOD-scidマウスからなる群から選択される免疫不全マウスであることを特徴とする、動物モデル。
【請求項13】
前記ポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブの数は、1~8であることを特徴とする、請求項12に記載の動物モデル。
【請求項14】
以下のステップを含む免疫調節薬の有効性を迅速にスクリーニングするための方法であって、
(1)被験薬物を請求項12に記載の動物モデルに投与するステップであって、前記薬物は免疫調節薬であり、前記薬物は固体、半固体又は液体の形態であり、好ましくは、前記薬物は、静脈内注射、強制経口投与、腹腔内注射、又は皮下注射によって投与される;
(2)ポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブ内の腫瘍細胞及び免疫細胞の全細胞生存率又は免疫細胞生存率、並びに腫瘍細胞及び免疫細胞の相対比率と細胞表現型を検出するステップであって、好ましくは、前記全細胞生存率又は免疫細胞生存率を検出する方法は、化学発光法であり、前記相対比率と細胞表現型を検出する方法は、フローサイトメトリーである;
(3)ポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブ内の腫瘍細胞及び免疫細胞の分子生物学的情報を検出するステップであって、好ましくは、前記生物学的情報を検出する方法は、DNA又はRNA配列である;
ここで、ステップ(2)及び(3)は任意の順序で完了することができ、より好ましくは、前記フローサイトメトリーは、7AAD、CD45、CD3、CD8、CD270、CD33、CD38、CD20、PDL1、PD1、CD68及びCD25の細胞発現を測定することを特徴とする、方法。
【請求項15】
免疫調節薬の有効性を迅速にスクリーニングするための動物モデルの製造における、請求項1に記載のポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブの使用であって、
好ましくは、前記動物は免疫不全マウスであり、
より好ましくは、複数の患者のポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブは同時に移植され、各ポリフッ化ビニリデン(PVDF)カプセルチューブは、異なる患者に由来する細胞を含むことを特徴とする、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医学の分野に関し、特に免疫調節薬の有効性を迅速にスクリーニングするためのモデル及び方法、ならびに前記モデルの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、免疫標的及び調節機能を有する多数の薬物が開発され、多くの臨床疾患の治療に使用されている。ここで、CTLA4抗体(イピルムマブ)及びPD1抗体(キイトルーダ、オプジーボ)は、黒色腫、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、及び頭頸部扁平上皮がんなどの腫瘍の治療に進歩的に使用されている。TNFα抗体アダリムマブは、関節リウマチや活動性大腸炎などの治療に使用されている。最新のIL12/IL23p40抗体ウステキヌマブは、乾癬、炎症性大腸炎、及び全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患の治療に使用されている。しかし、すべての患者がこれらの免疫調節薬に対して良好な反応を示すわけではなく、同時に、臨床診断及び治療の特性は、治療計画の時間制限及び指導性に非常に厳しいものであり、例えば、古典的なヒト化マウスPDX実験又は免疫性疾患のモデリングと投与は、2~5ヶ月かかるだけでなく、臨床患者の多様なニーズ(複数の免疫薬の選択)を満たすことができず、新薬開発のプロセスも遅らせる。そのため、患者に対する正確な治療、また異なる集団における薬物のバイオマーカーの同定を可能にする迅速かつ効果的な機能的なスクリーニング方法が急務となっている。
【0003】
しかし、現在の技術的解決策はすべて、化学療法薬に対するin vivoでの腫瘍細胞の薬物感受性スクリーニングを行い、すべての実験研究対象は腫瘍細胞であり、テストされる薬物は主に化学療法薬又は腫瘍標的薬(US005676924A、1997;US005698413A、1997;CN108351348A、2017)であり、免疫系標的又は調節薬の有効性の迅速なスクリーニングを満たすことができない。
【発明の概要】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、免疫系標的又は調節薬の有効性のスクリーニングに時間がかかり、患者に対する正確な治療を満たすことができないという問題を克服するために、免疫調節薬の有効性をスクリーニングするためのモデル及び方法を提供することである。本発明は、従来の免疫薬の有効性のスクリーニングと比較して、免疫薬の有効性のスクリーニングの時間を大幅に短縮することができ、免疫薬の反応性のために適切なバイオマーカーをスクリーニングし、これにより臨床患者に対する正確な治療を実現することができる。
【0005】
既存の化学療法薬や腫瘍標的薬の薬物感受性スクリーニングに使用される実験研究対象は、免疫細胞を含まない、又はほとんどの免疫細胞が除去される腫瘍細胞であり、免疫細胞を標的とする薬物又は免疫系を調節する薬物に対するスクリーニング方法がない。本発明は多数の実験を通じて、動物モデルにおける模擬免疫系を調節することにより、腫瘍、炎症、及び感染などに対する免疫薬の効果及びメカニズムを検出し、且つ免疫薬の反応性のために適切なバイオマーカー(biomarkers)をスクリーニングし、それによって免疫系標的又は調節薬の有効性の迅速なスクリーニングを達成する新しい動物モデルを開発した。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】「IO-FIVE(Immuno-Oncology Fast In Vivo Efficacy test)技術による免疫薬の迅速なスクリーニング方法」の模式図である。腫瘍免疫を例にすると、患者の腫瘍組織を採取し、加工処理して腫瘍細胞及び自己免疫細胞を所定の比率で混合し(推奨1.5:1~15:1)、mini-capsuleチューブを密封し、免疫不全マウスに皮下又は同所に接種して薬物を投与し、5~14日後、mini-capsuleを取り出し、全細胞活性の検出、フローサイトメトリー(FACS)による細胞サブグループの比率及び表現型の同定を行い、薬物投与の前後のさまざまなオミクス(例えば、トランスクリプトーム)分析を行う。自己免疫疾患の場合、患者の炎症組織(例えば、リンパ節)と末梢血から免疫細胞を採取し、FACSによる細胞表現型の同定を行い、チューブを密封し、in vivoで接種と投与し、5~14日後、mini-capsuleを取り出し、免疫細胞活性の検出、フローサイトメトリー(FACS)による細胞サブグループの比率及び表現型の同定を行い、薬物投与の前後のさまざまなオミクス(トランスクリプトームなど)分析を行う。
図2】(実施例1)一例の卵巣がん患者に対する0日目のフローサイトメトリーによる腫瘍組織の単一細胞懸濁液(mini-capsuleカプセルチューブ)の表現型検出を示す。
図3】(実施例1)卵巣がん患者に対する10日目のCTG(CellTiter-Glo)化学発光法によるカプセルチューブ内の全細胞(腫瘍細胞及び免疫細胞を含む)の生存率の検出を示す。
図4】(実施例1)卵巣がん患者に対する10日目のフローサイトメトリー(FACS)によるカプセルチューブ内の腫瘍組織の単一細胞懸濁液の表現型検出と分析を示す。
図5】(実施例2)一例の卵巣がん患者に対する0日目のフローサイトメトリーによる腫瘍組織の単一細胞懸濁液(mini-capsuleカプセルチューブ)の表現型検出を示す。
図6】(実施例2)卵巣がん患者に対する10日目のCTG法によるカプセルチューブ内の全細胞(腫瘍細胞及び免疫細胞を含む)の生存率の検出を示す。
図7】(実施例2)卵巣がん患者に対する10日目のFACSによるミニカプセルチューブ内の腫瘍組織(腫瘍細胞及び免疫細胞)の表現型検出を示す。
図8】(実施例3)一例の卵巣がん患者に対する0日目のフローサイトメトリーによる腫瘍組織の単一細胞懸濁液の異なるタイプ(精製前、腫瘍細胞精製後、免疫細胞精製後、腫瘍サンプルへの免疫細胞添加後)の表現型検出を示す。
図9】(実施例3)卵巣がん患者に対する10日目のCTG法による(腫瘍組織精製前、腫瘍サンプルへの免疫細胞添加後)カプセルチューブ内の全細胞(腫瘍細胞及び免疫細胞を含む)の生存率の検出を示す。
図10】(実施例3)卵巣がん患者に対する10日目のFACSによる各ミニカプセルチューブ内の腫瘍組織(腫瘍細胞及び免疫細胞)の表現型検出を示す。
図11】(実施例4)一例の肺がん患者に対する0日目のフローサイトメトリーによる腫瘍組織の単一細胞懸濁液(mini-capsuleカプセルチューブ)の表現型検出を示す。
図12】(実施例4)肺がん患者に対する14日目のCTG法によるカプセルチューブ内の全細胞(腫瘍細胞及び免疫細胞を含む)の生存率の検出を示す。
図13】(実施例4)肺がん患者に対する14日目のFACSによるミニカプセルチューブ内の腫瘍組織(腫瘍細胞及び免疫細胞)の表現型検出を示す。
図14】(実施例5)二つ例のAML患者に対する0日目のフローサイトメトリーによる腫瘍組織(末梢血)の単一細胞懸濁液(mini-capsuleカプセルチューブ)の表現型検出を示す。
図15】(実施例5)二つ例のAML患者に対する14日目のCTG法によるカプセルチューブ内の全細胞(腫瘍細胞及び免疫細胞を含む)の生存率の検出を示す。
図16】(実施例5)a.一例のAML患者免疫反応型124#に対する14日目のFACSによるミニカプセルチューブ内の腫瘍組織(腫瘍細胞及び免疫細胞)の表現型検出を示す。b.二つ例のAML患者、124#(免疫反応型)及び123#(免疫非反応型)患者に対する14日目のFACSによる生細胞におけるCD8+Tの比率の分析を示す。
図17】(実施例5)a.ヒートマップは、二つ例のAML患者の0日目のトランスクリプトーム差次的遺伝子シグナル伝達経路を示す。b.二つ例のAML患者の差次的遺伝子発現clusterにおける腫瘍増殖レベル、血管新生レベル、好中球活性レベル、及びエフェクター(T)細胞レベルのバイオマーカーの比較分析を示す。
図18】(実施例5)二つ例のAML患者に対する差次的遺伝子における重要な膜タンパク質分子の発現差異の分析を示す。
図19】(実施例5)二つ例のAML患者に対するゲノムCNVと突然変異などの分析を示す。
図20】(実施例6)三つ例のAML患者に対する0日目のフローサイトメトリーによる腫瘍組織(末梢血、骨髄と組み合わせた末梢血)の単一細胞懸濁液(mini-capsuleカプセルチューブ)の表現型検出を示す。
図21】(実施例6)三つ例のAML患者に対する14日目のCTG法によるカプセルチューブ内の全細胞(腫瘍細胞及び免疫細胞を含む)の生存率の検出を示す。
図22】(実施例6)三つ例の患者に対する14日目のFACSによるミニカプセルチューブ内の腫瘍組織(腫瘍細胞及び免疫細胞)の表現型検出を示す。
図23】(実施例7)一例のAML患者に対する0日目のフローサイトメトリーによる腫瘍組織(骨髄と組み合わせた末梢血)の単一細胞懸濁液(mini-capsuleカプセルチューブ)の表現型検出を示す。
図24】(実施例7)一例のAML患者に対する14日目のCTG法によるカプセルチューブ内の全細胞(腫瘍細胞及び免疫細胞を含む)の生存率の検出を示す。
図25】(実施例7)一例の患者に対する14日目のFACSによるミニカプセルチューブ内の腫瘍組織(腫瘍細胞及び免疫細胞)の比率を示す。
図26】(実施例8)二つ例のAML患者に対する0日目のフローサイトメトリーによる腫瘍組織(骨髄)の単一細胞懸濁液(mini-capsuleカプセルチューブ)の表現 型検出を示す。
図27】二つ例の患者を同じマウスに接種した実験(2人の患者と1匹のマウス)、及び古典的な一例の患者を1匹のマウスに接種した実験(1人の患者と1匹のマウス)を含む、(実施例8)二つ例のAML患者に対する10日目のCTG法によるカプセルチューブ内の全細胞(腫瘍細胞及び免疫細胞を含む)の生存率の検出を示す。
図28】(実施例8)二つ例の患者に対する10日目のFACSによるミニカプセルチューブ内の腫瘍組織(腫瘍細胞及び免疫細胞)の比率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、以下の技術的解決手段を通じて上記技術的問題を解決する。
【0008】
本発明の第1の態様は、前記細胞は、単一細胞懸濁液化の腫瘍細胞及び免疫細胞を含み、ここで、
前記腫瘍細胞及び免疫細胞は、臨床患者の新鮮な腫瘍組織又は体液に由来する、細胞を収容するPVDFカプセルチューブを提供する。
【0009】
本発明のいくつかの実施形態において、前記腫瘍組織は、臨床的に外科的に切除された腫瘍組織又は生検された腫瘍組織を含む。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態において、前記体液は、血液、骨髄、胸水と腹水、及び脳脊髄液のうちの一つ又は複数を含む。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態において、前記カプセルチューブの平均タンパク質透過性は300~1000Kdaであり、好ましくは500~700Kdaである。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態において、前記カプセルチューブは、使用前に活性化、超純水洗浄及び高圧滅菌によって処理される必要があり、活性化方法は、好ましくは無水エタノールである。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態において、前記免疫細胞は、単一細胞懸濁液を分取することによって濃縮された自己免疫細胞であり、前記腫瘍細胞は、単一細胞懸濁液を分取するときに通過する腫瘍細胞であり、ここで、
前記単一細胞懸濁液は、患者の固形腫瘍組織中の腫瘍浸潤リンパ球、及び/又は、前記患者の末梢血中の末梢血単核細胞に由来する。
【0014】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記分取に使用される分取機器は、
(1)好ましくは、Anti-CD45 MicroBeads human、及び/又は、Anti-Fibroblast MicroBeads humanである、分取磁気ビーズ;
(2)好ましくは、LSカラムである、分取装置;を含む。
【0015】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記細胞懸濁液は、
(1)腫瘍サンプル中の非腫瘍組織及び壊死組織を除去し、腫瘍サンプルを1~2mmのサイズの組織ブロックに切断し、1%PSBを含むHBSS緩衝液で洗浄及び遠心分離し、腫瘍組織ブロックを回収するステップ;
(2)コラゲナーゼで消化し、血清を含む培地で消化を終了し、細胞懸濁液を回収する;遠心分離により上清を除去し、細胞沈殿物を回収するステップ;
(3)3~5倍容量の赤血球溶解液で溶解させ、遠心分離により上清を除去し、細胞沈殿物を回収し、赤血球溶解を2回繰り返す;前記赤血球溶解液が139.6mmol/L NHCl、16.96mmol/L Tris pH 7.2を含むステップ;
(4)細胞沈殿物を1%FBSを含むPBSで再懸濁し、遠心分離により上清を除去し、細胞沈殿物を回収し、細胞濃度を調整するステップ;によって製造される。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態において、前記腫瘍細胞及び免疫細胞の比率範囲は、1.5:1~15:1であり、好ましくは1.5:1~9:1である。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態において、前記免疫細胞におけるCD8+T細胞のパーセンテージは、0.5%以上であり、好ましくは0.5%~15%であり、及び/又は、前記免疫細胞の生存率は>20%である。
【0018】
本発明の第2の態様は、好ましくは皮下又は同所に前記カプセルチューブを含む動物モデルを提供する。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態において、前記動物はマウスである。
【0020】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記マウスは免疫不全マウスであり、例えば、Balb/cヌードマウス、NCGマウス、NSGマウス又はNod-scidマウスである。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態において、前記カプセルチューブの数は、1~8個である。
【0022】
本発明の第3の態様は、以下を含む免疫調節薬の有効性を迅速にスクリーニングするための方法を提供する:
(1)前記マウスモデルに被験薬物を投与するステップ、ここで、
前記被験薬物は、免疫調節薬であり、固体、半固体及び液体のうちの一つ又は複数を含み、
前記被験薬物の投与方法は、静脈内注射、経口投与、腹腔内注射及び皮下注射のうちの一つ又は複数を含む。
(2)カプセルチューブ内の腫瘍細胞及び免疫細胞の全細胞活性又は免疫細胞活性、腫瘍細胞及び免疫細胞の相対比率と細胞表現型を検出するステップ、ここで、
前記全細胞活性又は免疫細胞活性の検出は、好ましくはCTG(CellTiter Glo)化学発光法であり、
前記相対比率と細胞表現型の検出は、好ましくはフローサイトメトリー(FACS)である。
(3)カプセルチューブ内の腫瘍細胞及び免疫細胞の分子生物学的情報を検出するステップ、ここで、
前記生物学的情報の検出は、好ましくは、DNA-seq、及び/又は、RNA-seqである。
【0023】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、ステップ(2)及び(3)は任意の順序である。
【0024】
好ましくは、ステップ(2)において、前記FACSは、
7AAD、CD45、CD3、CD8、CD270、CD33、CD38、CD20、PDL1、PD1、CD68及びCD25のうちの一つ又は複数を含む、抗体標識工程;
前記FACSは、前記抗体標識が完了した後、2%FBSを含むPBSを添加した後に検出される、フローサイトメトリー検出工程;
好ましくはFlowjoである、ソフトウェアによるデータ分析工程;のうちの一つ又は複数を含む。
【0025】
本発明の第4の態様は、免疫調節薬の有効性を迅速にスクリーニングするための動物モデルの製造における、第1の態様に記載のカプセルチューブの使用を提供する。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態において、前記動物モデルは、好ましくは、免疫不全マウスである。
【0027】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記動物モデルは、1~8人の患者、好ましくは1~4人の患者に対して同時に薬物スクリーニングを行うことができる。
【0028】
本技術分野の常識に違反しない限り、前記各好ましい条件は、任意に組み合わせて、本発明の各好ましい実施例を得ることができる。
【0029】
本発明で使用される試薬及び原料はいずれも市販品として入手できる。
【0030】
本発明の正の進歩性効果は、以下のとおりである。
【0031】
本発明は、カプセルチューブを含む動物モデルを構築することにより、免疫系標的と調節薬のスクリーニングを行う。本発明によって提供されるモデル及び方法は、臨床患者に対する免疫薬の感受性及び有効性についての迅速なスクリーニング方法を提供し、in vivoでの動物モデルから薬力学的データ、ペアフロー多細胞サブグループの表現型同定データ及びマルチオミクス分析データを取得し、臨床精密医療及び新薬開発のために迅速、効果的かつ機能的及び機序的研究方法を提供する。
【実施例0032】
以下、実施例の形態によってさらに本発明を説明するが、これによって本発明を前記実施例の範囲内に限定するわけではない。以下の実施例において、具体的な条件が記載されていない実験方法は、通常の方法及び条件、或いは商品の説明書に従って選ばれる。
【0033】

実施例1 一例の卵巣がん患者に対する免疫療法の迅速かつ機能的なスクリーニングと潜在的なバイオマーカーの同定
1.実験動物の準備とサンプルの採取
本実験では、6~8週齢のBalb/cヌードマウスをサプライヤー(GemPharmatech Co., Ltd.から購入)に注文し、SPFレベルの動物ハウスで飼育し、実験開始前に少なくとも3日間動物を適応性飼育した。
患者からの新鮮な腫瘍サンプルを採取し、抗凝固チューブに入れ、コールドチェーン(2~8℃)で短時間で中央検査室に輸送した。
【0034】
2.細胞の処理
患者の腫瘍サンプル中の非腫瘍組織及び壊死組織を除去し、腫瘍サンプルを1~2mmサイズの組織ブロックに切断し、1%PSB(ペニシリン-ストレプトマイシン+アムホテリシンB)を含むHBSS緩衝液で洗浄及び遠心分離し、腫瘍組織ブロックを回収した。1×コラゲナーゼで37℃で1~2時間消化した。前記分取方法は以下の通りである:
血清を含む培地(RPMI1640、Gibcoから購入)で消化を終了し、細胞懸濁液を70μMのフィルターで回収した。1000rpmで5分間遠心分離して上清を除去し、細胞沈殿物を回収した。3~5倍の赤血球溶解液(139.6mmol/L NHCl、16.96mmol/L Tris、1mol/L HClでpH 7.2に調整した)を使用して4℃で5分間溶解させ、1000rpmで5分間遠心分離して上清を除去し、細胞沈殿物を回収し、赤血球溶解を2回繰り返した。細胞沈殿物を1%FBSを含むPBSで再懸濁し、1000rpmで5分間遠心分離して上清を除去し、細胞沈殿物を回収し、細胞濃度を1×10個/mlに調整した。
【0035】
20μl/10細胞の濃度でAnti-CD45 MicroBeads humanを添加するか、又はAnti-CD45 MicroBeads humanとAnti-Fibroblast MicroBeads humanを添加し、室温で30分間インキュベートした。1%FBSを含むPBSを添加して磁気ビーズをすすぎ、1000rpmで5分間遠心分離して上清を除去し、1%FBSを含むPBSで細胞沈殿物を再懸濁した。磁気ビーズを分取装置(LSカラム、Milternyi Biotec)に装填し、1%FBSを含むPBSでLSカラムを2回洗浄し、LSカラムから流下する液体(腫瘍細胞)、及びLSカラム中の細胞(濃縮された免疫細胞)をそれぞれ回収した。回収した細胞懸濁液を1000rpmで5分間遠心分離して上清を除去し、細胞培養培地(Gibcoから購入)で再懸濁し、計数した。
【0036】
一般に、腫瘍組織は、Anti-CD45 MicroBeads humanとAnti-Fibroblast MicroBeads humanの二つのマイクロビーズを添加して精製する必要があり、腫瘍組織の微小環境から免疫細胞及び間質線維芽細胞を保護することができる。しかし、一部の腫瘍組織内の免疫細胞の浸潤が多すぎ、半分の割合を超える場合、例えば、実体腫瘍の胸水と腹水の転移サンプルには、CD45抗体マイクロビーズのみを添加して免疫細胞を濃縮することができる。
【0037】
3.フローサイトメトリー検出とデータ分析
精製前の患者の腫瘍組織サンプルの単一細胞懸濁液、精製後の腫瘍細胞、及び濃縮された免疫細胞(CD3+Tを含む)をそれぞれ採取し、次に、異なる所定の比率(1.5:1~15:1)の腫瘍細胞及び免疫細胞の混合懸濁液を調製し、それぞれが約0.1M~0.3M(million、百万細胞)であった。実験の目的に応じて各サンプルの懸濁液を複数の部分に分け、対応するフローサイトメトリー抗体混合液を添加し、直接標識などの対照とする補償実験群を設置し、遮光して2~8℃で25~30分間インキュベートした。卵巣がんに対する予備FACSパネルは以下の通りである:7AAD、CD45、CD3、CD8、CD270、PD1、CD68又はCD25などの抗体。
抗体標識が完了した後、2%FBSを含むPBSを添加し、4℃で600gで5分間遠心分離し、上清を除去した。250μlの2%FBS(Gibcoから購入)を含むPBSを加えて細胞沈殿物を再懸濁し、フローサイトメトリー検出を行った。フローサイトメトリー検出のデータ分析は、Flowjoソフトウェアによって行われた。
【0038】
4.セルローディングチューブ
生物学的安全キャビネット、即ち直径1~2mmのPVDFチューブからカプセル装置を取り出し、平均孔径の透過サイズは約500KDa分子量であり、細胞懸濁液を充填する前に、PVDFチューブに、無水エタノールによる活性化(又はメタノール等による活性化)、超純水洗浄及び高圧滅菌等の処理を施した。その中の長さ1.5cmのカプセルチューブを取り、細胞培養培地(Gibcoから購入)で繰り返し洗浄した。
フローサイトメトリー分析により、同時にCD8+T細胞が全生細胞の0.5%以上を占めることを満たすように、CD45-腫瘍細胞とCD3+リンパ球を所定(1.5:1~15:1)の比率で均一に混合した後にPVDFチューブに入れ、密封した。
【0039】
5.接種と投与
穿刺針を使用して、上記PVDFチューブをマウスの皮下にランダムに接種し、創傷を医療用組織接着剤(3Mから購入)で接着し、対照群と投与群(例えば、1.パクリタキセル、シスプラチン及びアバスチン/ベバシズマブ;2.PD1抗体;3.PARP阻害剤ニラパリブと組み合わせたPD1抗体;4.ニラパリブ)をランダムに設定し、投与群のマウスに投与した。
【0040】
6.細胞生存率と表現型検出
投与3~21日後(10日目)にマウスを安楽死させ、PVDFチューブを取り出し、CellTiter-Glo化学発光法を用いて細胞生存率を定量化測定し、PVDFチューブ内の腫瘍細胞及び免疫細胞の相対比率と表現型をフローサイトメトリーで検出し、またPVDFチューブ内の腫瘍細胞及び免疫細胞の分子生物学的情報の変化を分子生物学的方法(RNA-seq、DNA-seq技術)によって検出した。
【0041】
7.データ分析
0日目のフローサイトメトリー(FACS)スクリーニング:初期腫瘍細胞及び免疫細胞の相対比率と表現型の同定、カプセルチューブ内の混合細胞のフローサイトメトリーデータは、CD45-腫瘍細胞:CD45+CD3+T免疫細胞=1.6:1であり、CD8+%=3.1%であり、同時に腫瘍内部のTリンパ球、特にCD8-活性化細胞がPD1分子を高発現し、CD8+TもCD270とPD1の両方の免疫チェックポイント分子を弱く発現していることを示唆し、図2に示された通りである。
10日目のin vivo実験終点:対照群の細胞の生存率の値(図3に示す)に基づき、投与群の全ての細胞の増殖生存率を算出し、被験薬物の有効性の結果を算出した。
10日目のin vivo実験ノード:PVDFチューブ内の腫瘍細胞及び免疫細胞の相対比率と表現型の違いをフローサイトメトリーにより検出した(図4に示す)。検出の結果は、Flowjoソフトウェアによって分析された。10日目のCTG及びFACS検出は、PD1単剤群又はPARP阻害剤との併用投与群にかかわらず、PD1抗体が、患者の自己免疫細胞を効果的に動員して卵巣がん腫瘍細胞の増殖及び代謝を阻害することができることを示し、ここで、PD1抗体によるPD1分子の遮断及びダウンレギュレートに伴い、CD270分子(HVEM)は、PD1単剤群でもPARP阻害剤との併用投与群でも、ある程度アップレギュレートされた。
0日目又は10日目の臨床サンプル中のPVDFカプセルチューブ内の腫瘍細胞及び免疫細胞の分子生物学的情報の変化を分子生物学的方法(DNA-seq、RNA-seqなどのオミクス技術)によって検出した。
したがって、本発明は、以下の各実施例においても使用される「IO-FIVE」(Immuno-Oncology Fast In Vivo Efficacy test)技術による免疫薬の迅速なスクリーニングのための方法を提供した。
【0042】
実施例2 一例の卵巣がん患者に対する免疫療法の迅速かつ機能的なスクリーニングと潜在的なバイオマーカーの同定
1.実験動物の準備、サンプルの採取、細胞の処理、フローサイトメトリー検出とデータ分析の方法、及びセルローディングチューブの要件は、実施例1と同じである。
【0043】
2.接種と投与
穿刺針を使用して、上記PVDFチューブをマウスの皮下にランダムに接種し、創傷を医療用組織接着剤(3Mから購入)で接着し、対照群と投与群(例えば、1.パクリタキセル、シスプラチン及びベバシズマブ併用療法;2.PD1抗体;3.ベバシズマブと組み合わせたPD1抗体;4.シスプラチンと組み合わせたPD1抗体)をランダムに設定し、投与群のマウスに投与した。
【0044】
3.細胞生存率と表現型検出
投与3~21日後(10日目)にマウスを安楽死させ、PVDFチューブを取り出し、CellTiter-Glo化学発光法を用いて細胞生存率を定量化測定し、PVDFチューブ内の腫瘍細胞及び免疫細胞の相対比率と基本的な表現型をフローサイトメトリーで検出した。
【0045】
4.データ分析
0日目のフローサイトメトリーFACSスクリーニング:初期腫瘍細胞及び免疫細胞の相対比率と表現型同定、カプセルチューブ内の混合細胞のフローサイトメトリーデータは、CD45-腫瘍細胞:CD45+CD3+T免疫細胞が約2.91:1であり、生細胞中のCD8+%が0.81%であることを示唆した。腫瘍内部の浸潤Tリンパ球はPD1分子を弱く発現しているが、有意にCD270を高発現している(図5に示す)。
10日目のin vivo実験ノード:対照群の細胞の生存率の値(図6に示す)に基づき、投与群の全ての細胞の増殖生存率を算出し、これにより被験薬物の有効性結果を算出した。
10日目のin vivo実験ノード:PVDFチューブ内の腫瘍細胞及び免疫細胞の相対比率と表現型の違いをフローサイトメトリーにより検出した(図7に示す)。検出の結果は、Flowjoソフトウェアによって分析と統計された。
図6及び図7の実験結果に基づき、パクリタキセル、シスプラチン及びベバシズマブ併用薬物群を除いて、10日目のカプセルチューブ内の生細胞のCD45-腫瘍細胞は少なくとも半分を占めた。対照群と比較して、PD1単剤群、或いは標的薬ベバシズマブとの併用群又は化学薬品シスプラチンとの併用群は、腫瘍組織の全体的な生存率(腫瘍細胞及び免疫細胞を含む)を有意に阻害することができ、また腫瘍の進行とともに、CD270+PD1+ダブルポジティブTILは、mini-capsuleに富み、PD1単剤群においてダウンレギュレーションの傾向を示した。実施例1のフローサイトメトリーデータタイピングと組み合わせると、CD270分子が固形腫瘍において効果的に発現し、免疫チェックポイント阻害剤PD1抗体治療のための積極的なバイオマーカーである可能性が高く、初期PD1発現が弱くCD270発現が有意な患者であっても、依然として免疫療法に良好な反応を有することを明らかにした。
0日目又は10日目の臨床サンプル中のPVDFカプセルチューブ内の腫瘍細胞及び免疫細胞の分子生物学的情報の変化を分子生物学的方法(DNA-seq、RNA-seqなどのオミクス技術)によって検出した。
【0046】
実施例3 一例の卵巣がん患者に対する免疫療法の迅速かつ機能的なスクリーニング
1.実験動物、サンプルの採取、細胞の処理は、実施例1と同じである。
【0047】
2.フローサイトメトリー検出とデータ分析
QC同定:精製前の患者の腫瘍組織サンプルの単一細胞懸濁液、精製後の腫瘍細胞、カラムから溶出した濃縮された免疫細胞(CD3+Tを含む)をそれぞれ採取し、精製後の腫瘍細胞及び免疫細胞を所定の比率(1.5:1~15:1)で混合した細胞懸濁液を調製し(カラムから溶出した免疫細胞の生存率が20%未満の場合、下流の実験や操作を行うことができず、特に活性化免疫細胞が活性化誘導性アポトーシスを起こしやすいことに注意されたい)、それぞれが約0.1M~0.3Mであった。実験の目的に応じて各サンプルの懸濁液を複数の部分に分け、対応するフローサイトメトリー抗体混合液を添加し、直接標識などの対照とする補償実験群を設置し、遮光して2~8℃で25~30分間インキュベートした。卵巣がんに対する予備FACSパネルは以下の通りである:7AAD、CD45、CD3、CD8、CD270、PD1、CD68又はCD25などの抗体。
抗体標識が完了した後、2%FBSを含むPBSを添加し、4℃で600gで5分間遠心分離し、上清を除去した。250μlの2%FBS(Gibcoから購入)を含むPBSを加えて細胞沈殿物を再懸濁し、フローサイトメトリー検出を行った。フローサイトメトリー検出のデータ分析は、Flowjoソフトウェアによって行われた。
【0048】
3.セルローディングチューブ
基本的な操作ステップは、実施例1と同じである。
フローサイトメトリーステップで分析されたデータにより、同時にCD8+T細胞が全生細胞の0.5%以上を占めることを満たすように、CD45-腫瘍細胞とCD3+T細胞を所定(1.5:1~15:1)の比率で均一に混合した後にPVDFチューブに入れ、密封した。この実施例では、精製前の腫瘍サンプルについても封管と実験を行った。
【0049】
4.接種と投与
穿刺針を使用して、上記PVDFチューブをマウスの皮下にランダムに接種し、創傷を医療用組織接着剤(3Mから購入)で接着し、対照群と投与群(例えば、1.パクリタキセル、シスプラチン及びベバシズマブ併用療法;2.PD1抗体;3.PARP阻害剤ニラパリブと組み合わせたPD1抗体;4.PARP阻害剤ニラパリブ)をランダムに設定し、投与群のマウスに投与した。
【0050】
5.細胞生存率と表現型検出
投与3~21日後(10日目)にマウスを安楽死させ、PVDFチューブを取り出し、CellTiter-Glo化学発光法を用いて細胞生存率を定量化測定し、PVDFチューブ内の腫瘍細胞及び免疫細胞の相対比率と基本的な表現型をフローサイトメトリーで検出した。
【0051】
6.データ分析
0日目のフローサイトメトリーFACSスクリーニング:初期腫瘍細胞及び免疫細胞の相対比率と表現型同定により、(1)精製前の腫瘍組織において、腫瘍細胞CD45-及びCD3+T細胞の比(C/T)=0.3であり、CD8+T%=11.5である、即ち、当該患者の腫瘍サンプルにはTILに富んでいた。(2)精製後の腫瘍組織細胞は免疫細胞を2.84%しか含まず、そのC/T値=49.1であり、CD8+%=0.448%であった。(3)精製後の免疫細胞集団の総生存率は約43%であり、精製前の基本的な細胞表現型を保持していた。(4)免疫細胞添加後の腫瘍組織サンプルのC/T値は8であり、CD8+%=2.45%であった。腫瘍内部の浸潤Tリンパ球は、CD270分子を弱く発現し、PD1分子を高発現し、PD1抗体に対してより良い反応がある可能性を示した(図8に示す)。
10日目のin vivo実験ノード:対照群の細胞の生存率の値(図9に示す)に基づき、投与群の全ての細胞の増殖生存率を算出し、これにより被験薬物の有効性結果を算出した。
10日目のin vivo実験ノード:PVDFチューブ内の腫瘍細胞及び免疫細胞の相対比率と表現型の違いをフローサイトメトリーにより検出した(図10に示す)。検出の結果は、Flowjoソフトウェアによって分析と統計された。
図9及び図10の実験結果に基づき、10日目のmini-capsuleにおいて、精製前の腫瘍組織サンプル又は自己TILを添加した腫瘍サンプルにかかわらず、CD45-の腫瘍細胞が優勢であり、CD45-細胞は約CD45+細胞の2~3倍であった(図10)。精製前の腫瘍組織サンプルのCTGデータは、臨床第一選択薬を含む治療が当該組織サンプルの全細胞の生存率を有意に低下させないことを示した。しかし、自己TIL細胞を添加した後の腫瘍サンプルでは、臨床第一選択薬の組み合わせが当該サンプルの全体の細胞生存率を弱く低下させることができ、単剤のPD1抗体もPARP阻害剤も腫瘍組織全体の生存率を阻害することはできないが、PD1抗体とPARP阻害剤との併用投与は、腫瘍組織全体の増殖と活性を有意に阻害することができる(図9)。興味深いことに、PD1抗体とPARP阻害剤との併用投与は、CD270+PD1-T細胞サブグループの比率を有意に増加させ、PD1+CD270-、PD1-CD270-のT細胞の比率を相対的に減少させることができ(図10)、CD270分子がPD1抗体治療の潜在的な指標バイオマーカーである可能性があることを再び示した。
【0052】
実施例4 一例の肺がん患者に対する免疫療法の迅速かつ機能的なスクリーニング
1.実験動物、サンプルの採取及び細胞の処理は、実施例1と同じである。
【0053】
2.フローサイトメトリー検出とデータ分析
精製前の患者の腫瘍組織サンプルの単一細胞懸濁液、精製後の腫瘍細胞、及び濃縮された免疫細胞をそれぞれ採取し、次に、異なる所定の比率(1.5:1~15:1)の腫瘍細胞とCD3+T細胞の混合懸濁液を調製し、それぞれが約0.1M~0.3Mであった。実験の目的に応じて各サンプルの懸濁液を複数の部分に分け、対応するフローサイトメトリー抗体混合液を添加し、直接標識などの対照とする補償実験群を設置し、遮光して2~8℃で25~30分間インキュベートした。この肺がん患者に対する予備FACSパネルは以下の通りである:7AAD、CD45、CD3、CD8など。抗体標識が完了した後、2%FBSを含むPBSを添加し、4℃で600gで5分間遠心分離し、上清を除去した。250μlの2%FBS(Gibcoから購入)を含むPBSを加えて細胞沈殿物を再懸濁し、フローサイトメトリー検出を行った。フローサイトメトリー検出のデータ分析:Flowjoソフトウェアによって行われた。
【0054】
3.セルローディングチューブ
生物学的安全キャビネット、即ち直径1~2mmのPVDFチューブからカプセル装置を取り出し、平均孔径の透過サイズは約500KDa分子量であり、細胞懸濁液を充填する前に、PVDFチューブに、無水エタノールによる活性化、超純水洗浄及び高圧滅菌等の処理を施した。その中の長さ1.5cmのカプセルチューブを取り、細胞培養培地(Gibcoから購入)で繰り返し洗浄した。
フローサイトメトリーの結果により、腫瘍細胞とCD3+リンパ球を所定(1.5:1~15:1)の比率(同時にCD8+T細胞が全生細胞の0.5%以上を占める)で均一に混合した後にPVDFチューブに入れ、密封した。
【0055】
4.接種と投与
穿刺針を使用して、上記PVDFチューブをマウスの皮下にランダムに接種し、創傷を医療用組織接着剤(3Mから購入)で接着し、対照群と投与群(例えば、1.PD1抗体;2.HDAC阻害剤チダミドと組み合わせた抗体)をランダムに設定し、投与群のマウスに投与した。
【0056】
5.細胞生存率と表現型検出
投与3~21日後(14日目)にマウスを安楽死させ、PVDFチューブを取り出し、CellTiter-Glo化学発光法を用いて細胞生存率を定量化測定し、PVDFチューブ内の腫瘍細胞及び免疫細胞の相対比率と基本的な表現型をフローサイトメトリーで検出した。
【0057】
6.データ分析
0日目のフローサイトメトリーFACSスクリーニング:初期腫瘍細胞及び免疫細胞の相対比率と表現型同定、カプセル内の混合細胞のフローサイトメトリーデータは、CD45-腫瘍細胞:CD45+CD3+T免疫細胞は約15:1であり、CD8+%=2.2%であることを示した(図11に示す)。
14日目のin vivo実験ノード:対照群の細胞の生存率の値(図12に示す)に基づき、投与群の全ての細胞の増殖生存率を算出し、これにより被験薬物の有効性結果を算出した。
in vivo実験ノード:PVDFチューブ内の腫瘍細胞及び免疫細胞の相対比率と表現型の違いをフローサイトメトリーにより検出した(図13に示す)。検出の結果は、Flowjoソフトウェアによって分析された。
図12及び図13の実験結果に基づき、14日目のカプセルチューブ内の生細胞は依然としてCD45-腫瘍細胞が優勢であり、約60~75%を占めた。PD1抗体が処理された後、それはCD8+T細胞の生存を促進することができたが、腫瘍細胞及び免疫細胞の全細胞の生存率をダウンレギュレートすることができなかった。PD1抗体とHDAC阻害剤チダミドと組み合わせた場合、全細胞の生存率(ATP活性)を有意に低下させることができた。したがって、この肺がん患者はPD1抗体単剤療法には適さず、免疫療法と化学的標的薬との併用療法が推奨されている。
【0058】
実施例5 二つ例の急性骨髄性白血病AML患者に対する免疫療法の迅速かつ機能的なスクリーニングと潜在的なバイオマーカーの同定
1.実験動物とサンプルの採取
本実験では、6~8週齢のBalb/cヌードマウス(をサプライヤーGemPharmatech Co., Ltd.から購入)に注文し、SPFレベルの動物ハウスで飼育し、実験開始前に少なくとも3日間動物を適応性飼育した。
二つ例のAML患者からの新鮮な末梢血(AML患者急性期)サンプルを採取し、抗凝固チューブに入れ、コールドチェーン(2~8℃)で短時間で中央検査室に輸送した。
【0059】
2.細胞の処理
異なる患者の末梢血サンプルを生物学的安全キャビネットに移し、密度1.077g/mLの勾配遠心分離ゲル(SIGMAから購入)を室温に戻した後、2つの新しい遠心分離チューブに加え、2つの患者の末梢血サンプルをそれぞれ遠心分離チューブの一つに加え、上記液体をゆっくりと遠心分離機に入れ、温度を20~25℃(室温)に設定し、増減速度はいずれも1又は0であり、400gで20分間であった。遠心分離後、遠心分離チューブをゆっくりと移動させ、中間層の濁った細胞層(単核細胞を多数含む)を取り、15mlのPBS(Gibcoから購入)で洗浄し、1500rpmで5分間遠心分離して上清を除去し、正常細胞懸濁液を遠心分離した。必要に応じて、3~5倍の赤血球溶解液(Invitrogenから購入)を加えて5分間溶解させ、1500rpmで5分間遠心分離して上清を除去した。細胞培養培地(Gibcoから購入)で再懸濁し、計数した。
【0060】
3.フローサイトメトリー検出とデータ分析
0.3Mの末梢血細胞をそれぞれ採取し、実験目的に応じて異なるフローサイトメトリー抗体を選択して染色及び補償設置を行い、遮光して2~8℃で25~30分間インキュベートして抗体標識を行い、AML患者に一般的に使用されるフローサイトメトリーパネルは、7AAD、CD45、CD3、CD8、CD33、CD38、CD20、CD25又はPD1である。抗体標識が完了した後、2%FBS(Gibcoから購入)を含むPBS(Gibcoから購入)を添加し、4℃で600gで5分間遠心分離し、上清を除去した。250μlの2%FBSを含むPBS(Gibcoから購入)を加えて細胞沈殿物を再懸濁し、フローサイトメトリーで検出を行った。フローサイトメトリー検出のデータ分析:フローサイトメトリー検出のデータ分析は、Flowjoソフトウェアによって行われた。
【0061】
4.セルローディングチューブ
生物学的安全キャビネット、即ち直径1~2mmのPVDFチューブ(材料の平均孔径は約300kDa~700kDaであり、高分子タンパク質などの出入りは許されるが、細胞の自由な出入りは許されない)からカプセル装置を取り出し、細胞懸濁液を充填する前に、PVDFチューブに、無水エタノールによる活性化、超純水洗浄及び高圧滅菌等の処理を施した。その中の長さ1.5cmのカプセルチューブを取り、細胞培養培地(Gibcoから購入)で繰り返し洗浄した。
ステップ(4)のフローサイトメトリー分析に基づき、品質管理分析を行い、CD8+T細胞の比率が少なくとも0.5%(免疫薬の作用の基本的な値)を超える要件を満たすように行い、また、腫瘍細胞(又は非CD45high SSC-Alow細胞)及びCD45high SSC-AlowCD3+Tリンパ球を所定の比率(1.5:1~15:1)で均一に混合した後にPVDFチューブに入れ、密封した。
【0062】
5.接種と投与
穿刺針を使用して、上記PVDFチューブをマウスの皮下にランダムに接種し、創傷を医療用組織接着剤(3Mから購入)で接着し、対照群と異なる薬物投与群(例えば、PD1抗体、CD38抗体Dara、標的薬物Bcl2阻害剤ベネトクラクス、HDAC阻害剤チダミドなどの単剤又は組み合わせ)をランダムに設定し、投与群のマウスに投与した。
【0063】
6.細胞生存率と表現型検出
投与3~21日後(例えば、14日目)にマウスを安楽死させ、PVDFチューブを取り出し、CellTiter-Glo化学発光法により全細胞の生存率を定量化測定した。PVDFチューブ内の腫瘍細胞及び免疫細胞の相対比率と表現型の変化をフローサイトメトリーで検出した。0日目又は10日目の臨床サンプルのPVDFチューブ内の腫瘍細胞及び免疫細胞の分子生物学的情報の変化を分子生物学的方法(RNA-seq、DNA-seq技術など)によって検出した。
【0064】
7.データ分析
0日目のフローサイトメトリー分取:二つ例のAML患者(123#、124#)に対する初期腫瘍細胞及び免疫細胞の相対比率と表現型同定(図14に示す)。123#患者のCD8+T細胞は全生細胞の0.21%(この患者はPD1抗体に感受性のない可能性があると推測された)を占め、C/T(CD45lowCD33+CD38+腫瘍細胞とCD3+Tとの比)は約15:1(より多くのCD38-腫瘍細胞も存在した)であったが、124#患者のCD8+T%は約3.48%であり、C/T値は約6:1であった。
14日目のCTG実験では、対照群の細胞の生存率の値(図15に示す)に基づき、投与群の全ての細胞の増殖生存率を算出し、これにより被験薬物の有効性結果を算出した。
14日目のフローサイトメトリー検出によりPVDFチューブ内の腫瘍細胞及び免疫細胞の相対比率を検出した。薬物群と対照群の腫瘍細胞及び免疫細胞の違いを比較した(図16に示す)。検出の結果は、Flowjoソフトウェアによって分析された。
上記の14日目のCTG及びFACSのデータ分析に基づき、123#患者及び124#患者は14日目に、カプセルチューブ内の生細胞には依然としてCD45-/lowの腫瘍細胞(例えば、AMLがん芽球)が大多数あり、約5%~10%のCD45high SSC-Alowのリンパ球があった(図16のaは124#を例とした)。124#患者(免疫レスポンダー)は、チェックポイント阻害剤PD1抗体に対して良好な反応を示し(図12のCTG阻害効果の半分以上)、その0日目の高レベルを持つCD8+T細胞と一致し、生細胞に占めるAML芽球の比率を大幅に減少させ、CD3+CD8+の比率を相対的に増加させ(図16のb)、この現象は、123#(免疫ノンレスポンダー)患者では現れなかった。さらに、抗体依存性細胞傷害機能(ADCC)及び抗体依存性マクロファージ貪食機能(ADCP)を有するCD38抗体もこの系である程度の反応性を取得し、PD1抗体よりも効果が比較的弱いものの、124#患者のがん細胞におけるCD38抗原の高発現と密接に関連したが、CD38-Ab単剤に反応しなかった123#患者では単にCD38を弱い発現し、約10.7%であった(図14)。したがって、NK細胞及び単核マクロファージの活性及び機能は、この系における0日目の免疫細胞の採取中にも保持され、どちらもCD45+であった。
【0065】
8.生物学的情報分析
0日目のPVDFカプセルチューブ内の患者の腫瘍細胞及び免疫細胞の全体のバイオインフォマティクスフィンガープリントを分子生物学的方法(RNA-seq及びDNA-seq)によって検出し、免疫薬に対するこの患者の反応性に関連する可能性のあるバイオマーカーを見つけるために使用され、疾患の発生と発症の分子病態生理学的基盤を明らかにした。
【0066】
RNA-seqによる二つ例の患者間のトランスクリプトーム差異の分析:
(1)差次的遺伝子シグナル伝達経路の分析:図17のa及びbに示すように、#123免疫非反応型患者は、腫瘍増殖活性が高く(例えば、CCDN1、PLK1、MCM2)、腫瘍微小環境のリモデリング能力も強く、新生血管関連マーカーの発現が高く(例えば、VEGFC、ANGPT2、FLT1、VWF)、同時にT細胞、特にエフェクターT細胞が低機能であった。#124免疫反応型患者は、腫瘍自体の増殖と血管新生能力が低かったが、T細胞(例えば、IFNγ)及び好中球(ELANE、MPO、PRTN3)のエフェクター機能が比較的強力であった。
(2)AML患者に対する免疫療法の潜在的な重要なバイオマーカーの発見(膜タンパク質のサブセット):図18に示すように、膜タンパク質の発現差異の分析により、#124免疫反応型患者と比較して、#123免疫非反応型患者は有意に高レベルのがん促進遺伝子又はがん感受性遺伝子(ITGA4、ITGA2B、ITGB3、PDLIM1、ADA、CAVIN1、CAVIN2、C3orf14、TEC、EPCAM、CD109など)、免疫抑制関連遺伝子(CSF1、CD274/PDL1)など腫瘍の発生と発症を促進する膜タンパク質、及びSLC9A3R2(SLC9A3レギュレーター2)、PIGW(ホスファチジルイノシトールグリカンアンカー生合成クラスW)、CDH26(カドヘリン26)とPPP1R16B(プロテインホスファターゼ1調節サブユニット16B)を含むまだ報告されていない新規腫瘍標的分子を発現することがわかった。これらの4つの膜分子は、血液腫瘍のバイオマーカーであるだけでなく、広範囲の腫瘍の発生と発症の主要な潜在的なバイオマーカーでもある可能性があった。
DNA-seqによる二つ例のAML患者間のゲノム差異の分析:
図19に示すように、WES-CNVシグナルは大きく変化し、明らかな欠失(deletion)と増幅(amplification)は示唆されなかった。融合遺伝子(ABL1-BCR、CRLF2、JAK2-BRAF、NOTCH1)、変異遺伝子(FBXW7、JAK1、KRAS、NOTCH1、NPM1、FLT3、KIT、CEBPA)などを含む、AML関連の既知のバイオマーカーは、陽性が見つからなかった。即ち、報告された遺伝子の重要な変異は、ゲノムレベルで二つ例の患者に見つからなかった。
【0067】
実施例6 三つ例の急性骨髄性白血病AML患者に対する免疫療法の迅速かつ機能的なスクリーニングと潜在的なバイオマーカーの同定
1.実験動物の準備は実施例5と同じである。
【0068】
2.サンプルの採取
三つ例のAML患者からの新鮮な末梢血及び(又は)骨髄(AML患者急性期)サンプルを採取し、抗凝固チューブに入れ、コールドチェーン(2~8℃)で短時間で中央検査室に輸送した。
【0069】
3.細胞の処理、フローサイトメトリー検出は、実施例5と同じである。
【0070】
4.セルローディングチューブ
実施例4と同様である。一部の患者の骨髄サンプルと血液サンプルを4:1~5:1で混合し、腫瘍組織サンプルに循環末梢血細胞が含まれることを保証し、これにより人間の微小環境の機能を最大限に模倣した。フローサイトメトリーデータに基づき、品質管理分析を行い、CD8+T細胞の細胞比率が少なくとも0.5%(免疫薬の作用の基本的な値)を超える要件を満たすように行い、また、腫瘍細胞(又は非CD45high SSC-Alow細胞)及びCD45high SSC-AlowCD3+Tリンパ球を所定の比率(C/T=1.5:1~15:1)で均一に混合した後にPVDFチューブに入れ、密封した。
【0071】
5.接種と投与
実施例4と同様に、対照群と異なる薬物投与群(例えば、CD38抗体、PD1抗体と組み合わせたCD38抗体、デシタビンと組み合わせたPD1抗体、PD1抗体)をランダムに設定し、投与群のマウスに投与した。
【0072】
6.データ分析
0日目のフローサイトメトリー分取:図20に示すように、128#患者の血液C/T(CD38+がん/CD3+T)=4であり、その骨髄と血液の混合サンプルC/T=7.5であった。129#患者の血液C/T=1.1であり(より多くのがん芽球はCD38を発現しなかった、即ち、この患者のC/T値は実際には1.5より大きかった)、その骨髄と血液の混合サンプルC/T=5.3であった。131#の骨髄サンプルC/T=4.5であった。これら三つ例の患者の骨髄系腫瘍細胞はすべてCD38分子を高発現し(約70%~80%)、またCD8+T%も1%~10%であった。
14日目のCTG実験では、対照群の細胞の生存率の値(図21に示す)に基づき、投与群の全ての細胞の増殖生存率を算出し、これにより被験薬物の有効性結果を算出した。
14日目のフローサイトメトリー検出によりPVDFチューブ内の腫瘍細胞及び免疫細胞の相対比率を検出した。薬物群と対照群の腫瘍細胞及び免疫細胞の違いを比較した(図22に示す)。検出の結果は、Flowjoソフトウェアによって分析された。
図20図21及び図22の結果により、三つ例の患者はすべてCD38標的タンパク質を高発現したが、128#及び129#患者はCD38抗体に対する反応効果をほとんど有さず(図21は、薬物治療後も生細胞の総数が減少しないことを示唆し、図22は、がん芽球が依然としてmini-capsuleの大部分を占めていることを示唆した)、一方、131#患者は良好な反応を有することが示唆された(図19)。さらに、三つ例の患者は骨髄及び/又は血液中のTIL細胞も豊富であったが(約5%~17%)、131#患者のみがPD1抗体、特にデシタビン(5aza)と組み合わせたPD1抗体に対してより良好な反応を示した。
0日目又は14日目のPVDFカプセルチューブ内の患者の腫瘍細胞及び免疫細胞の全体のバイオインフォマティクスフィンガープリントを分子生物学的方法(RNA-seq及びDNA-seq)によって検出し、この患者の免疫薬に敏感で耐性のあるバイオマーカーを発見及び評価することに使用された。
【0073】
実施例7 一例の急性骨髄性白血病AML患者に対する免疫療法の迅速かつ機能的なスクリーニング
1.実験動物は実施例5と同じである。
【0074】
2.サンプルの採取
一例のAML患者からの新鮮な末梢血及び骨髄(AML患者急性期)サンプルを採取し、抗凝固チューブに入れ、コールドチェーン(2~8℃)で短時間で中央検査室に輸送した。
【0075】
3.細胞の処理、フローサイトメトリー検出とデータ分析は、実施例5と同じである。
【0076】
4.セルローディングチューブ
実施例6と同様に、この患者の骨髄サンプルと血液サンプルを4:1~5:1で混合し、腫瘍組織サンプルに循環末梢血細胞が含まれることを保証し、これにより人間の微小環境の機能を最大限に模倣した。フローサイトメトリーデータに基づき、品質管理分析を行い、CD8+T%=0.466%(閾値0.5%に近い)であり、腫瘍細胞(CD38+CD33+腫瘍細胞)とCD45high SSC-AlowCD3+Tとの比=8(C/T=1.5:1~15:1の範囲に属する)であることがわかった。下流の探索的実験を行い、サンプルをPVDFチューブに入れ、密封した。
【0077】
5.接種と投与
実施例4と同様に、対照群と異なる薬物投与群(例えば、bcl2阻害剤ベネトクラクス、CD38抗体、チダミドと組み合わせたCD38抗体、5AZAと組み合わせたCD38抗体、ベネトクラクスと組み合わせたCD38抗体、PD1抗体、5AZAと組み合わせたPD1抗体など)をランダムに設定し、投与群のマウスに投与した。
【0078】
6.細胞生存率と表現型検出は実施例5と同じである。
【0079】
7.データ分析
0日目のフローサイトメトリー分取:図23に示すように、160#患者の骨髄と血液の混合サンプルC/T=8であり(より多くの腫瘍細胞はCD38を発現しなかった、即ち、この患者のC/T値は実際には8よりはるかに大きかった)、CD8+T%=0.466%であった。
14日目のCTG実験では、対照群の細胞の生存率の値(図24に示す)に基づき、投与群の全ての細胞の増殖生存率を算出し、これにより被験薬物の有効性結果を算出した。
14日目のフローサイトメトリー検出によりPVDFチューブ内の腫瘍細胞及び免疫細胞の相対比率を検出した。薬物群と対照群の腫瘍細胞及び免疫細胞の違いを比較した(図25に示す)。検出の結果は、Flowjoソフトウェアによって分析された。
14日目のフローサイトメトリーとCTGの結果により、mini-capsuleではCD45low/-腫瘍前駆体/前駆細胞は優勢であり、リンパ球集団は約20%を占め、被験薬物のいずれも腫瘍組織集団の細胞活性を有意に阻害することはできないことが示唆された。この実験は、高いC/T比(>>8)及び低いCD8+%(<0.5%)がこの患者の免疫療法に対する無反応をもたらす可能性があることを示唆した。
【0080】
実施例8 複数(二つ例)の急性骨髄性白血病AML患者を同じマウスに接種した免疫療法の迅速かつ機能的なスクリーニング
1.実験動物は実施例4と同じである。
【0081】
2.サンプルの採取
二つ例のAML患者からの新鮮な骨髄サンプルを採取し、抗凝固チューブに入れ、コールドチェーン(2~8℃)で短時間で中央検査室に輸送した。
【0082】
3.細胞の処理、フローサイトメトリー検出とデータ分析、セルローディングチューブは、実施例4と同じである。
【0083】
4.接種と投与
二つ例の患者の骨髄細胞を同じマウスに接種したカプセルを設定し、それぞれマウスの背部の両側に皮下に接種し、各患者に3つずつのミニカプセルチューブ(2人の患者と1匹のマウス)を設定し、マウスをランダムに群分けし、対照群と投与群(例えば、CD38抗体、PD1抗体)を設定し、投与群のマウスに投与した。同時に、従来の方法で独立した対照及び投与実験(1人の患者と1匹のマウス)をそれぞれ実施し、10日目のミニカプセルチューブの一部を保持してFACS検出を行った。
【0084】
5.細胞生存率と表現型検出は実施例4と同じである。
【0085】
6.データ分析
0日目のフローサイトメトリー分取:図26に示すように、228#患者の骨髄C/T(CD38+がん/CD3+T)=12であり、CD8+%=0.57であった(高いC/T値及び低いCD8+%割合は、この患者がT細胞免疫療法に対して反応しない可能性があることを示唆した)。232#患者の骨髄C/T=8.5であり、CD8+%=0.85%であった。二つ例の患者のCD3+Tの割合は低く、またPD1及びCD270マーカーの発現も非常に弱く、PD1抗体療法の有効性は良くない可能性があることが示唆された。
10日目のCTG実験では、対照群の細胞の生存率の値(図27に示す)に基づき、投与群の全ての細胞の増殖生存率を算出し、これにより被験薬物の有効性結果を算出した。
10日目のフローサイトメトリー検出によりPVDFチューブ内の腫瘍細胞及び免疫細胞の相対比率を検出した。薬物群と対照群の腫瘍細胞及び免疫細胞の違いを比較した(図28に示す)。検出の結果は、Flowjoソフトウェアによって分析された。
10日目のCTGとFACSの結果により、二つ例の患者のカプセルは、主にCD45-腫瘍細胞が優勢であった(図28に示す)。#228AML患者は、CD38抗体療法に感受性があり、全細胞生存率が約半分に阻害され(図27)、CD45-腫瘍細胞とCD45+免疫細胞の比も対照群と比較して減少したが(図28)、#232患者は、CD38抗原の発現が高かったにもかかわらず、CD38抗体に対して有意な反応性を有さなかった(図26及び図27に示すように、この反応の差異の理由は、患者のCD38腫瘍抗原の密度の違いと、骨髄系免疫細胞、例えば、NK、単球マクロファージ及び好中球のADCC、ADCPなどの機能の差異によって引き起こされたことを排除するものではなかった)。二つ例の患者がすべてPD1抗体に反応しないことは以前の予測と一致し、患者の腫瘍微小環境におけるPD1+CD3+T細胞が極めて少ないため可能であった(図26及び27)。また、二つ例の患者と同じマウスのモデルの薬物感受性検出は、従来の一例の患者と1匹のマウスの接種モデルのデータとも一致した(図27)。したがって、in vivoでの免疫薬の有効性の迅速なスクリーニングに対して、コストとリソースを節約するために、同じマウスを使用して、複数の患者のカプセルをロードして検出することができ、異なる接種部位(本実験)、又は異なるカプセルのサイズ、又は異なる色分けに従って区別及び追跡することができる。
【0086】
in vivoでの免疫学的薬物機能的なスクリーニング方法の重要な意義は要約された:
(1)実施例1、実施例2、実施例3のデータは、初期PD1/PDL1発現が弱いTILに富む卵巣がん患者の一部がPD1抗体に対して良好な反応を示すことを見出すのに当該方法が良好であることを示唆した。腫瘍浸潤リンパ球のCD270の有意な発現又は差異の変化も、PD1抗体治療のバイオマーカーである可能性が高い(現在のところ、研究は報告されていない)。PD1が腫瘍組織で豊富に発現していても、腫瘍細胞及び免疫細胞の比率と存在量が不均衡であれば、免疫治療への反応にも影響を与える可能性があり、免疫療法と標的療法の組み合わせは、単剤治療の非反応を克服する効果的な方法である可能性がある(この議論は実施例4でも支持される)。
(2)実施例5、実施例6及び実施例7のデータは、当該方法がCD38抗体又はPD1抗体に対するCD38+/high及び(又は)TIL enriched血液腫瘍患者(例えば、AML)のin vivoでの免疫反応の差異反応を良好にスクリーニング及び区別できることを示唆した。既知の重要ながん促進/腫瘍感受性遺伝子の発見に加えて(これらの報告されたがん促進遺伝子は、分析された膜分子の全体的な差次的遺伝子の90%以上を占め、当該モデルの信頼性を間接的に証明している)、SLC9A3R2(SLC9A3レギュレーター2)、PIGW(ホスファチジルイノシトールグリカンアンカー生合成クラスW)、CDH26(カドヘリン26)とPPP1R16B(プロテインホスファターゼ1調節サブユニット16B)という新しい潜在的な診断と治療標的も発見した。したがって、迅速な機能的な実験を介したオミクス分析は、新しい標的の発見と研究に有利である。
(3)実施例8は、同一マウスに同一疾患の複数の患者の腫瘍カプセルをロードすることができ、免疫学的薬物のin vivoでの迅速なスクリーニングを行った結果、一例の患者をロードした従来の免疫不全マウスの薬物有効性の感受性実験と一致し、コスト削減と効率向上に有益であることを示唆した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28