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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035223
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】椅子
(51)【国際特許分類】
   A47C 3/02 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
A47C3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023141628
(22)【出願日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2022138779
(32)【優先日】2022-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000139780
【氏名又は名称】株式会社イトーキ
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】南 星治
(72)【発明者】
【氏名】岡野 陽輔
(72)【発明者】
【氏名】横山 剛士
(72)【発明者】
【氏名】木村 翔
【テーマコード(参考)】
3B091
【Fターム(参考)】
3B091AA04
3B091AB03
3B091AC04
3B091AD02
(57)【要約】
【課題】回動式の荷重受けアームに対する操作ユニットの当接位置を変えて背もたれの後傾動に対する抵抗を段階的に変化させる弾力調節装置において、コンパクト化や調節段数の増大を図る。
【解決手段】ばねユニット54は、その前端部を支点にして上下回動する。ばねユニット54の回動角度を調節するカム56は水平回転式であり、カム56の回転は、前後動式の連動部材59及びスライダー57を介してしてばねユニット54の回動に変換される。カム56は水平回転式であるため、カム56の配置空間を低くして支持機構部をコンパクト化できる。ばねユニット54が上向き回動する傾向を呈してもカム56に外力は作用しないため、カム面71~79の段数を増大してきめ細かな弾力調節を行える。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脚装置の上端に設けたベースと、前記ベースに配置されて背もたれの後傾動を弾性的に支持するばねユニットと、前記背もたれの後傾動による荷重を前記ばねユニットに作用させる押動部材とを有し、
前記ばねユニットと押動部材とは左右長手の軸心回りに回動するものであり、弾力調節装置によって前記ばねユニットを回動させて前記押動部材に対する当接位置を上下方向に変えることにより、前記背もたれの後傾動に対する抵抗を変化させる構成であって、
前記弾力調節装置は、ハンドルの操作によって回転するカムと、前記カムの回転によって動いて前記ばねユニットを回動させる連動部材とを有しており、連動部材に対する力の作用方向と前記ばねユニットに対する連動部材の力の作用方向とが相違している、
椅子。
【請求項2】
前記連動部材は前記ベースに前後動自在に装着されていて、前記連動部材の前後動によって前記ばねユニットの側面視姿勢が変化するようになっている一方、
前記カムは周面カムであり、前記連動部材の後ろに配置されて前記ベースに水平回転自在に取り付けられている、
請求項1に記載した椅子。
【請求項3】
前記連動部材の前端に、左右長手の軸を介して首振り式のヘッドが連結されており、前記ヘッドは、前記ばねユニットの上面に前後スライド自在に装着されている、
請求項2に記載した椅子。
【請求項4】
前記カムには、ワイヤーが係止又は巻き掛けられたホイールを設けており、前記ハンドルの回転が前記ワイヤーを介して前記カムの回転に伝達される、
請求項1~3のうちのいずれかに記載した椅子。
【請求項5】
前記ワイヤーは、前記ハンドルと同心のロータに接続されており、前記ハンドルとロータとの間に、前記カムがいずれか一方に回転しきると前記ハンドルを空回りさせるクラッチが介在している、
請求項4に記載した椅子。
【請求項6】
前記連動部材とカムとは、互いの動きを許容しつつ前後離反不能に保持する係合部を備えている、
請求項2又は3に記載した椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、背もたれがばね手段に抗して後傾動するリクライニング椅子に関し、より詳しくは、背もたれの後傾動に対するばね手段の抵抗の大きさを調節できるリクライニング椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リクライニング椅子は背もたれの後傾動に抵抗を付与するばね手段を有しているが、一般に、背もたれの後傾動に対するばね手段の抵抗の大きさ(すなわち、リクライニングに際して身体に作用する背もたれの反力の大きさ)を変える弾力調節手段を設けている。ばね手段としては圧縮コイルばねを使用することが多い。他方、弾力調節装置は回転式ねじを使用した無段階方式と、カムやレバーを使用した段階方式とがある。
【0003】
ばね手段の抵抗の大きさを変える機構としては、ばね手段に対する初期加圧の大きさを変える方式と、ばね手段に作用するモーメントを変える方式とに大別される。後者の方式として、本願出願人は、特許文献1において、回動式のばねユニットの傾斜角度をカムによって変更する方式を開示した。
【0004】
特許文献1では、ばねユニットの回動中心は前端部に位置して左右長手の姿勢になっており、従って、背もたれの傾動による荷重は、荷重支持アームを介してばねユニットに後ろから作用する。他方、カムは周面カムであって、左右長手の軸心回りに回転するようにばねユニットの後部上方に配置されており、レバー操作によってカムを回転させるとばねユニットの側面視姿勢が変化して、背もたれの後傾動に対する抵抗が変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5869791号公報
【発明の概要】
【0006】
さて、椅子において弾力調節手段の一般的なものは、圧縮コイルばねの一端を回転式ハンドで受けて、ハンドルの回転操作によってコイルばねの初期圧縮力を調節するものであるが、この方式では、コイルばねの反発力はハンドルにダイレクトに作用するため、ハンドルの回転操作に大きな抵抗が作用するという問題と、抵抗が大きいことからハンドルを何回も回転させねばならないため調節に手間がかかるという問題がある。
【0007】
これに対して特許文献1では、背もたれの後傾動による背もたれ荷重はばねユニットを縮める力として作用するが、背もたれ荷重の作用方向とばねユニットに対するカムの当接方向とが相違するため、背もたれ荷重がカムに対して直接作用することはない。このため、カムを軽い力で回転させて弾力調節を軽快に行える。
【0008】
特許文献1はこのような利点があるが、本願発明者たちが検討したところ、改良の余地が見い出された。例えば、カムの段数を増やしてきめ細かな弾力調節を実現する余地があると云える。また、弾力調節装置の嵩を低くしてコンパクト化ことについても検討の余地があると云える。
【0009】
本願発明はこのような現状に鑑み成されたものであり、先願の弾力調節機構を基本について、改良された技術を開示せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、
「脚装置の上端に設けたベースと、前記ベースに配置されて背もたれの後傾動を弾性的に支持するばねユニットと、前記背もたれの後傾動による荷重を前記ばねユニットに作用させる押動部材とを有し、
前記ばねユニットと押動部材とは左右長手の軸心回りに回動するものであり、弾力調節装置によって前記ばねユニットを回動させて前記押動部材に対する当接位置を上下方向に変えることにより、前記背もたれの後傾動に対する抵抗を変化させる」
という基本構成になっている。
【0011】
そして、請求項1の発明は、上記基本構成において、
「前記弾力調節装置は、ハンドルの操作によって回転するカムと、前記カムの回転によって動いて前記ばねユニットを回動させる連動部材とを有しており、連動部材に対する力の作用方向と前記ばねユニットに対する連動部材の力の作用方向とが相違している」
という特徴を有している。
【0012】
本願発明は、様々に展開できる。その例として請求項2では、
「前記連動部材は前記ベースに前後動自在に装着されていて、前記連動部材の前後動によって前記ばねユニットの側面視姿勢が変化するようになっている一方、
前記カムは周面カムであり、前記連動部材の後ろに配置されて前記ベースに水平回転自在に取り付けられている」
という構成になっている。
【0013】
請求項3の発明は請求項2の展開例であり、
「前記連動部材の前端に、左右長手の軸を介して首振り式のヘッドが連結されており、前記ヘッドは、前記ばねユニットの上面に前後スライド自在に装着されている」
という構成になっている。
【0014】
請求項4の発明は請求項1~3のうちのいずれかの展開例であり、
「前記カムには、ワイヤーが係止又は巻き掛けられたホイールを設けており、前記ハンドルの回転が前記ワイヤーを介して前記カムの回転に伝達される」
という構成になっている。
【0015】
請求項4において、ワイヤーは正転用ワイヤーと逆転用ワイヤーとの2本を使用してもよいし、1本のワイヤーを使用することも可能である。2本のワイヤーを使用する場合は、両ワイヤーの一端をカムのホイールに係止して、一方のワイヤーがハンドルで引かれると他方のワイヤーがカムで引かれるように設定したらよい。1本のワイヤーを使用する場合は、ワイヤーの両端をハンドルに係止して、ワイヤーの中途部をカムのホイールに巻き掛けたらよい。
【0016】
請求項5の発明は請求項4の展開例であり、
「前記ワイヤーは、前記ハンドルと同心のロータに接続されており、前記ハンドルとロータとの間に、前記カムがいずれか一方に回転しきると前記ハンドルを空回りさせるクラッチが介在している」
という構成になっている。
【0017】
また、請求項6の発明は、請求項2又は3において、
「前記連動部材とカムとは、互いの動きを許容しつつ前後離反不能に保持する係合部を備えている」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0018】
本願発明は、特許文献1と同様に、ばねユニットに作用するモーメントを変えることでリクライニングの弾力調節をするものであり、ばねユニットにかかる初期荷重を変えるものではないため、カムの回転に対してばね手段の弾性復原力が抵抗として作用することを防止又は著しく抑制できる。このため、コンパクトな操作部材であってもカムを軽快に回転操作することができる。すなわち、リクライニング用ばね手段の弾力調節を、コンパクトな操作部材でワンタッチ的に軽快に行い得る。
【0019】
そして、ばねユニットは基準姿勢に戻り回動するように付勢されているため、カムの外周面(カム面)がばねユニットに直接当接していると、カムを安定的に保持するためには、カム面の垂線の一部がカムの回転軸心と直交しておらねばならず、このため、カム面の数を増大しにくいという問題がある。
【0020】
これに対して本願発明のようにばねユニットとカムとの間に連動部材を配置すると、ばねユニットを原点復帰させる反力がカムを回転させる力として作用しないため、各カム面の垂線の一部が必ずしもカムの回転中心と交差させる必要はない。従って、カムの段数を増大して、きめ細かな弾力調節が可能になる。
【0021】
また、カムと回転軸心はばねユニットの回動軸心と平行でなくてもよいので、カムの配置の自由性が高くなって、調節機構部が嵩高になることを防止可能である。カムの配置の自由性が高くなることにより、カムの外径を大きくできるが、これにより、カムの段数を無理なく増大できる利点もある。
【0022】
連動部材は回転式(或いは回動式)とすることもできるが、請求項2のように連動部材を往復動式に構成すると、力の伝達機構を簡単化できる。また、カムは水平回転式であるため、上下間隔が狭い空間にも無理なく配置できる。従って、弾力調節機構を嵩が低くなるようにコンパクト化できる。
【0023】
請求項2のように連動部材を往復動式とした場合、請求項3のように首振り式のヘッドと組み合わせると、連動部材は水平動させつつばねユニットを回動させることができるため、カムと連動部材との連動関係を単純化して、動きを正確化できる。
【0024】
ハンドル(操作具)の動きをカムの回転に伝える手段としてはロッドのような剛体部材も採用できるが、この場合は、複数の剛体部材が必要であり、剛体部材同士をピンで連結しつつ他の部材と干渉しないように配置せねばならないため、設計が非常に厄介になると共に組み付けも面倒であるが、剛体部材が他の部材と干渉しないように配置することに多大の手間がかかるが、請求項4のようにワイヤーによる動力伝達方式を採用すると、ハンドルの配置位置や姿勢が制限を受けないため、設計の自由性を格段に向上できると共に組み立ての手間も軽減できる。
【0025】
カムは高さが異なる複数のカム面を有しており、高さが最も低いカム面と高さが最も高いカム面とは隣り合っているが、ばねユニットの荷重作用部は荷重支持アームの長手方向に移動するため、ばねユニットは、回動角度が最も小さい姿勢から最も大きい姿勢にダイレクトに移行したり、回動角度が最も大きい姿勢から最も小さい姿勢にダイレクトに移行したりすることはできない。
【0026】
従って、カム面の高さが大きくなる方向の回転を正転と定義して、カム面の高さが小さくなる方向の回転を逆転と定義すると、カム面の高さが最も高い状態から正転させることはできず、カム面の高さが最も低い状態から逆転させることはできない。
【0027】
この場合、カムがいずれか一方に回転しきった状態でワイヤーに過剰な引っ張り力が作用すると、ワイヤーが切れたり、ワイヤーが接続されている部材が破損したり変形したりするそれがある。これに対して請求項5の構成を採用すると、カムが回転しきった状態である程度の引っ張り力が作用するとハンドルがロータに対して空回りして、ワイヤーに過剰な引っ張り力が作用することを防止できる。従って、ワイヤーの破断や部材の破損・変形を防止できる。
【0028】
さて、周面カムでは、回転軸心から外周面の距離が段階的又は無段階的に変化しており、カムの軸心から連動部材までの距離が増大していく場合は、連動部材はカムで強制的に押されるため、カムと連動部材との連動関係は確保されるが、カムの軸心から連動部材までの距離が減少していく場合は、連動部材に摩擦などがあると、カムはと回転しても連動部材が動かない現象が生じるおそれがある。この点については、連動部材をカムに向けてばねで付勢することが考えられるが、ばねを使用するとカムの回転抵抗が増大して操作に大きな力を要する問題や、連動部材の摩擦抵抗が大きいとばねで付勢しても連動部材が動かないといった問題が懸念される。
【0029】
この点、本願請求項6の構成を採用すると、カムと連動部材との連動関係は常に保持されているため、カムの操作力を増大させることなくリクライニングに対する弾力調節を行える。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施形態に係る椅子の外観を示す図で、(A)は前方斜視図、(B)は正面図、(C)は後方斜視図である。
図2】(A)は椅子を後ろ下方から見た斜視図、(B)は右側面図である。
図3】座部を分離した斜視図である。
図4】座部の分離斜視図である。
図5】(A)はリクライニング機構を示す分離斜視図、(B)はリクライニング機構を示す分離側面図、(C)はカムユニットの底面図である。
図6】(A)は第2傾動フレームの取り付け構造を示す斜視図、(B)は第1傾動フレームと第2傾動フレームとの配置関係を示す下方斜視図である。
図7】傾動制御用ガスシリンダの取り付け構造を示す図で、(A)は後ろ上方から見た分離斜視図、(B)は後ろ下方から見た分離斜視図である。
図8】(A)は弾力調節装置を示す分離斜視図、(B)はばねユニット及びカムユニットの背面図、(C)はばねユニット及びカムユニットの下方斜視図である。
図9】(A)(B)ともカムの操作機構部を示す斜視図である。
図10】(A)(B)はカムの操作機構部を示す下方斜視図で、(C)は操作ユニットの側面図、(D)は操作ユニットの斜視図である。
図11】(A)は操作ユニットの配置状態を示す斜視図、(B)は操作ユニットの分離斜視図、(C)は要部の平面図である。
図12】変形例を示す図であり、(A)は要部の側面図、(B)は要部の分離斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下では方向を特定するために前後・左右の文言を使用するが、この方向は、椅子に普通に腰掛けた人から見た方向として定義している。正面図は着座者と対向した方向から見た図である。
【0032】
(1).全体の概要
まず、椅子の概要を説明する。本実施形態は、オフィス用の回転椅子に適用している。椅子は、基本要素として脚装置1と座2と背もたれ3とを備えている。脚装置1は、5本の脚羽根を有する基部の中央にガスシリンダより成る脚支柱4を立設した構造であり、各脚羽根の先端にはキャスタを設けている。
【0033】
図2に示すように、脚支柱4の上端にベース5が固定されており、ベース5に、左右の第1傾動フレーム6の下部先端が連結されている。図2(A)に示すように、第1傾動フレーム6は、ベース5から後ろに延びて立ち上がっているが、左右外側に広がりながら立ち上がっており、第1傾動フレーム6の上部は下部背枠7のサイドメンバー8と連続している。下部背枠7の下端は、左右長手のロアメンバー9で構成されている。
【0034】
図2から理解できると云えるが、下部背枠7の上端には上部背枠10の下端が連結されている。上部背枠10は、左右のサイドメンバー11とその上端に繋がったアッパメンバー12と、左右のサイドメンバー11の下端に繋がったロアメンバー13とを有してループ構造になっている。
【0035】
上部背枠10の左右サイドメンバー11の下端は、下部背枠7のサイドメンバー8の上端に後傾動可能に連結されている。他方、上部背枠10のロアメンバー13は後ろ向きに張り出しており、後ろ向きに張り出したロアメンバー13に第2傾動フレーム14の上端が後傾動可能に連結されている。第2傾動フレーム14の下端は、ベース5の後部に連結されている。
【0036】
背もたれ3は、エラストマのような柔軟な樹脂素材より成る背板15と、背板15の前面に張られた張地(図示せず)も備えている。背板15は柔軟な樹脂素材で作られているため、着座した人の身体のフィット性に優れている。また、リクライニングに際して、上部背枠10と下部背枠7とが相対的に回動するが、背板15が弾性変形することによって両枠体10,7の相対回動が許容されている。
【0037】
背もたれ3の上端には、着座者の頭や首を支持するアッパレスト16が高さ調節可能に取り付けられている。傾動フレーム6,14及び上部背枠10は、アルミ等の軽金属のダイキャスト品を採用したり、エンジニアリングプラスチックの成型品を使用したりすることができる。
【0038】
(2).座部の概略・第1傾動フレーム
図3に示すように、座2は、樹脂製の座インナーシェル(座板)20とその上面に重なったクッション材21とを備えており、クッション材21は張地で覆われている。座2は、その下に配置された樹脂製の座受け板(座アウターシェル)23に固定されており、座受け板23は、その下方に配置された中間部材24に前後動可能で離脱不能に支持されている。
【0039】
中間部材24は、その背雄側部を構成する前後長手の側枠部(土手部)24aを備えており、側枠部24aの前部に、座2の前後移動操作を行うハンドル(ノブ)25を装着している。なお、座2の前後移動調節は、人が着座者した状態のままで行える。
【0040】
図3,4に示すように、ベース5の前端には、座2の左右幅に近い左右長手のフロント部材26が左右長手の軸心回りに回動するように連結されており、フロント部材26の左右両端に角状のフロント突起27が上向きに突設されている一方、図2(A)に明示するように、第1傾動フレーム6のうち座2の後部下方に位置した部位には外向き張り出し部6aを設け、外向き張り出し部6aの先端に上向きのリア突起28が形成されている。
【0041】
そして、これら前後の突起27,28に中間部材24の側枠部24aが左右長手のピン29(図4参照)で連結されている。従って、第1傾動フレーム6が後傾すると、座2は後退しながら後傾動するが、後傾の程度は第1傾動フレーム6よりも小さい。図5(A)に示すように、ベース5の下面には下カバー30が装着されている。
【0042】
図3に示すように、中間部材24には、上下に開口した大きな逃がし穴31が形成されている。また、座受け板23にも、上下に開口した逃がし穴31が形成されている。なお、座2の前後移動操作を行うハンドル25の後ろには、座2の高さ調節のための昇降操作レバー32が配置されている。
【0043】
(3).第2傾動フレーム・傾動制御装置
図6に明示するように、第2傾動フレーム14の下部は二股状に形成されており、その先端に左右長手の第2支軸35が固定されている。第2支軸35は、2つ割り方式の上下の軸受け36,37によって抱持されており、上下の軸受け36,37は、ベース5の後部に形成された上向き開口溝38に上から嵌め込まれており、ベース5にビスで固定された蓋板39によって離反不能に保持されている。従って、第2傾動フレーム14は、第2支軸35を支点にして回動(傾動)する。
【0044】
背もたれ3の傾動制御は、図6,7に示す傾動制御用ガスシリンダ40によって行われる。すなわち、背もたれ3が自由にリクライニングする状態と、任意の姿勢で保持された状態との切り換えが、傾動制御用ガスシリンダ40によって行われる。
【0045】
図7(B)に明示するように、傾動制御用ガスシリンダ40を構成するピストンロッドの先端には、左右の側板を有するブラケット41が固定されている一方、ベース5の後端の左右中間部には、傾動制御用ガスシリンダ40のブラケット41で挟まれる軸受けリブ42が一体に形成されており、軸受けリブ42とブラケット41とは左右長手の支軸43によって連結されている。他方、傾動制御用ガスシリンダ40の上部後端は、第2傾動フレーム14の二股基部に設けた軸受けボス44に左右長手のピン45によって連結されている。
【0046】
傾動制御用ガスシリンダ40の下端部には、ケース46が装着されており、このケース46に傾動制御用ガスシリンダ40のブッシュバルブを押し操作するテコ部材(図示せず)が装着されており、テコ部材は、チューブ内に挿通された傾動操作用ワイヤーの引き操作によって回動する。傾動操作用ワイヤーの引き操作は、図2に示す傾動制御レバー47によって行われる。傾動制御レバー47は、中間部材24における右側の側枠部24aのうち、弾力調節ハンドル48の後ろに装着されている。
【0047】
(4).弾力調節機構
図5に示すように、第1傾動フレーム6の前端間には角形(六角)の第1支軸50が装架されている。第1支軸50は第1傾動フレーム6に対して相対回転不能に保持されており、ベース5の側板5aに設けた軸受け穴51に、ブッシュ52を介して回転自在に保持されている。また、第1支軸50の左右中間部には、下向きに延びる荷重受けアーム53が相対回転不能に取り付けられている。荷重受けアーム53は、下に行くに従って前にずれるように、側面視で後傾姿勢になっている(緩く湾曲している。)。
【0048】
荷重受けアーム53はベース5の内部に配置されているが、ベース5の内部にはばねユニット54が配置されている。ばねユニット54は、後ろ向きに開口したばねケース54aと、ばねケース54aの内部に前後動自在に配置されて後端を後ろ向きに露出させた可動ばね受け54bと、ばねケース54aの内部に配置されて可動ばね受け54bを後ろ向きに付勢するばね(図示せず)とを有しており、可動ばね受け54bの後端が荷重受けアーム53の前面に当接している。可動ばね受け54bはばねケース54aに対して抜け不能に保持されている。
【0049】
ばねケース54aの前端部は左右長手の支軸55(図5(B)参照)によってベース5に連結されており、ばねユニット54が回動して荷重受けアーム53に対する可動ばね受け54bの当接位置が上下方向に変化することにより、背もたれ3の後傾動に対する抵抗の強さが変化する。すなわち、ばねユニット54が回動すると、荷重受けアーム53の荷重支持スパンが変化して、背もたれ3の後傾動に対する抵抗の強さが変化する。
【0050】
ばねユニット54の角度調節は、図5(B)(C)や図8(A)(B)に示すカム(周面カム)56の回転によって行われる。カム56は、ベース5の上面のうちばねユニット54よりも後ろの位置に水平回転自在に装着されている一方、ばねケース54aの上面には、蟻溝機構により、スライダー57が前後動自在で上向き離脱不能に装着されており、スライダー57に左右長手の連結ピン58によって連動部材59が連結されて、連動部材59の後端にカム56が後ろから当接している。
【0051】
図5(A)や図8(A)に示すように、ベース5の上面には、カム56を回転自在に保持するボス60が形成されており、カム56はビス61(図8(A)参照)によってボス60に抜け不能に保持されている。図5(C)や図8(C)に示すように、カム56の下面にはローラ保持穴62が周方向に離れた3か所に形成されており、ローラ保持穴62にゴムローラ(図示せず)が嵌め入れられている。このため、カム56はガタ付きなく回転する。
【0052】
図8(B)に示すように、スライダー57に左右の蟻溝63が相対向するように形成されており、蟻溝63は、ばねケース54aに設けたフランジ64を抱持している。従って、スライダー57は、ばねケース54aの長手方向(前後方向)に移動自在に保持されている。
【0053】
図5(A)や図8(A)に示すように、ベース5には、スライダー57が前後動自在に入り込む切り開き部65が形成されており、連動部材59は、切り開き部65の左右外側においてベース5に上から重なっており、かつ、図9に示す上カバー66で上向き動不能に保持されている。図5(A)(B)や図8(A)に示すように、スライダー57はばね67によって後退方向に付勢されている。ばね67は、ばねケース54aに設けた前部ばね受け68とスライダー57に設けた後部ばね受け69とで前後から支持されている。
【0054】
連動部材59の後端には、カム56の外周面に突設する支持突起70を後ろ向きに突設している。他方、カム56の外周面には、第1~第9のカム面71~79を形成している。カム面71~79は平面視で軸心方向に凹んだ凹所になっており、軸心からの距離(高さ)は第1カム面71から第9カム面79に向けて高くなるように変化している。
【0055】
実施形態のようにカム面71~79を凹面に形成すると、カム56の姿勢を安定させることができる。低いカム面に移行するに際して、支持突起70がカム56の山を乗り越える状態になるため、ある程度の力を掛けないとカム56は回転しない。他方、低いカム面から高いカム面に移行することには元々抵抗があるため、この場合も、ある程度の力を掛けないとカム56は回転しない。従って、カム56は設定された姿勢に安定的に保持される。
【0056】
(5).弾力調節操作機構
カム56の回転操作は、既述のとおり、弾力調節ハンドル48の回転操作によって行われる。この点を、主として図9~11を参照して説明する。
【0057】
図9に示すように、弾力調節ハンドル48を含む操作ユニット80が、中間部材24における右土手部24aに装着されている。図11(B)に示すように、操作ユニット80は、右土手部24aの外側面にビス81で固定されたホルダー82を備えており、ホルダー82の内部に、奥から順に、ホイール83、カラー84、ばね(圧縮コイルばね)85、可動クラッチ86が配置されている。ホルダー82には、ビス81がねじ込まれるナット87を嵌め入れるポケット部88が上向きに開口するように形成されている。
【0058】
他方、弾力調節ハンドル48は中心軸89を有しており、中心軸89に嵌まった状態で固定クラッチ90が弾力調節ハンドル48に内蔵されている。固定クラッチ90と可動クラッチ86と係脱可能になっており、このため、両クラッチ86,90の歯は台形(三角形でもよい)になっている。固定クラッチ90の後面には係合突起91が形成されて、係合突起91は弾力調節ハンドル48に設けた係合穴92に嵌入している。従って、固定クラッチ90は弾力調節ハンドル48と一体に回転する。
【0059】
ホイール83と可動クラッチ86とは、スライド可能で一体に回転するようにキー係合されている。また、ホイール83は、ビス93によって中心軸89に抜け不能で回転可能に連結されている。ホルダー82は中間壁94を備えており、ホイール83は中間壁94を挟んで内側に位置して、可動フラッチ86は中間壁94を挟んで外側に位置している。
【0060】
ホイール83には2条の環状溝95が形成されており、外周の一部に、一対の環状溝95に対応した一対のボール保持部96が形成されている。また、ホルダー82のうち後部下角部に、上下2つのチューブ保持部97が形成されており、チューブ保持部97に、ワイヤー98が挿通されたチューブの端部に設けたエンド金具99を装着している。チューブ保持部97は半円溝状で内向きフランジを備えており、エンド金具99は円筒状で環状溝が形成されている。ホルダー82に設けたエンド金具99は、中間部材22の側面によって離脱不能保持されている。
【0061】
ワイヤー98の先端にはボール100が固定されており、ワイヤー98は、ボール100をホイール83のボール保持部96に嵌め入れた状態で、環状溝95に巻かれている。
【0062】
既述のとおり、ホイール83と可動クラッチ86とは、キー係合により、軸方向に相対動可能で一体に回転するようになっている。
【0063】
そして、通常の状態では、可動クラッチ86はばね85で付勢されて固定クラッチ90と噛み合っているため、弾力調節ハンドル48とホイール83とは一緒に回転するが、ワイヤー98の引っ張りが不能になってホイール83が回転しなくなると、可動クラッチ86がばね85に抗して後退して、弾力調節ハンドル48は空回りする。
【0064】
図11(C)や図8(A)に示すように、カム56の上面には、外周に環状溝101を形成したホイール102が一体に(又は別体)に形成されている。ホイール102は、環状溝101に連通して上方に開口した2つのボール保持部103を備えている。また、ベース5の右内側部に、前後一対のチューブ保持部104が形成されている。チューブ保持部104に、ワイヤー98が挿通されたチューブ(図示せず)の端部に設けたエンド金具99を装着している。ベース5に設けエンド金具99は、上カバー66によって離脱不能に保持されている。
【0065】
(6).まとめ
ばねユニット54は、荷重受けアーム53に沿って上下回動し、荷重受けアーム53の荷重支持スパンが変化することで背もたれ3の後傾動に対する抵抗が変化する。そして、図5(B)から理解できるように、荷重受けアーム53のどの位置にばねユニット54の後端が当接しても、当接位置の接線とばねユニット54の軸心とが直交するように設定しており、従って、基本的には、ばねユニット54に内蔵したばねの力がばねユニット54を回動させるように作用することはない。
【0066】
従って、連動部材59にその動きを阻害する力が作用することはないし、カム56にもいずれか一方に回転させようとする力が作用しない。その結果、ばねユニット54の姿勢を安定的に保持できる。そして、本実施形態では、カム56の回転は連動部材59の前後動に変換されてばねユニット54を回動させるため、周面カムであるカム56を水平回転式とすることが容易に実現できる。従って、カム56が配置されている部位の上下高さをできるだけ低くして、椅子の支持機構部をコンパクト化できる。
【0067】
さて、上記のとおり、基本的には、ばねユニット54に対して上向き回動させる力は作用しないように設定されているが、荷重受けアーム53の前面のプロフィールとの関係で、ばねユニット54に上向き回動する傾向を呈することが想定される。この場合、ばねユニット54の上向き回動は連動部材59及びスライダー57に対する上向きの負荷として作用して、カム56を回転させるトルクとして作用することは皆無であり、また、連動部材59とスライダー57は上カバー66によって上向き動不能に保持されているため、問題は生じない。
【0068】
結局、カム56にはこれを回転させる外力は作用しないため、実施形態のように連動部材59の支持突起70を当接させた状態であっても、カム56を安定的に保持できる。このため、カム面71~79の数を増大させてきめ細かく弾力調節できる。カム面71~79を凹所に形成したことの利点は既述のとおりである。
【0069】
カム56の回転について、便宜的に、荷重受けアーム53の傾斜角度を大きくする方向への回転を正転として、荷重受けアーム53の傾斜角度を小さくする方向への回転を逆転とすると、正転時には、一方のワイヤー98でカム56が引かれて、他方のワイヤー98で操作ユニット80のホイール83が引かれ、逆転時には、他方のワイヤー98でカム56が引かれて、一方のワイヤー98で操作ユニット80のホイール83が引かれる。
【0070】
すなわち、弾力調節ハンドル48の回転操作に際して、2本のワイヤー98には同時にテンションが逆向きに作用している。従って、弾力調節ハンドル48の回転によってカム56を的確に回転操作できる。1本のワイヤーを使用して、ワイヤー98の両端を操作ユニット80のホイール83に係止して、中途部をカム56に設けたホイール83に巻き掛けることも可能であり、この場合も、弾力調節ハンドル48をいずれの方向に回転させてもカム56を回転操作できるが、実施形態のように2本のワイヤーを使用すると、ホイール83とワイヤー98との滑り現象を発生させることなく、カム56を正確に回転操作できる。
【0071】
さて、本実施形態では、カム56が正転と逆転のいずれか一方に回動しきったら、それ以上の回転は不能になるが、カム56が回転しきっていることに使用者が気づかずに、更にカム56を正転向又は逆転方向に回転させようと弾力調節ハンドル48を回転操作することが想定される。このため、何等の対策を施していないと、ワイヤー98に過剰なテンションが作用して、ワイヤー98が部材から外れたり、ホイール83,102等が破損したりすることが懸念される。
【0072】
この点、本実施形態のように操作ユニット80にクラッチ86,90を設けると、ワイヤー98に過剰なテンションが掛かることを防止できるため、部材の損傷を防止できる。
【0073】
(7).変形例
図12では、カム56によるばねユニット54の回動操作機構の別例を示しており、請求項6の具体例である。この実施形態は、基本的には従前の実施形態と同じであり、2本のワイヤーの引き操作によって正逆両方向に水平回転するカム56と、カム56に連動して前後動する連動部材59とを備えている。
【0074】
この例では、ばねケース54aの上面に、前後長手の長穴が開口したブラケット枠105を一体に設けて、連動部材59の前端部を左右長手の連結ピン58で連結している。連動部材59には、ブラケット枠105が入り込む切り欠き溝106を形成している。
【0075】
そして、連動部材59の後端のうち左右中間部の下端に後ろ向き張り出し部107を設けて、この後ろ向き張り出し部107に円形の係合突起108を上向きに突設している一方、カム56はその外周部が係合突起108と重なるように配置されて、カム56の外周部下面に、係合突起108がスライド自在に嵌入する係合溝109が周方向に長く形成されている。正確には、係合溝109は、カム56のうちカム面71~79が形成されている範囲に形成されている。係合突起108と係合溝109は請求項に記載した係合部の一例である。
【0076】
図示は省略するが、連動部材59は、従前の実施形態と同様に、カバーによって上向き移動不能に保持されている。連動部材59の係合突起108とカム56の係合溝109とは常に嵌まりあった状態に保持されている。従って、カム56が正逆いずれの方向に回転しても、連動部材59はカム56の回転に連動して前後動する。従って、逆転時にカム56が回転して連動部材59は後退しないといった現象は発生せずに、ばねユニット54の姿勢を正確に変更できる。また、本例では、従前の実施形態で使用したばね67やスライダー57は不要であるため、構造を簡単化できる利点もある。
【0077】
本例では、係合突起108を上向きに突設して係合溝109を下向きに開口させたが、係合溝109をカム56の上面に形成して、係合突起108を下向きに突設することも可能である。なお、係合溝109に代えて、カム56の外周に沿って下向き又は上向きのリブを設けることも可能である(係合溝109において連動部材59の離反防止として機能しているのは外周面であり、内周面は必ずしも必要でないため、リブのみでも足りる。)。
【0078】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えは、連動部材59にスライダー57を設けずに、連動部材59をばねケースに対して直接的に連結することも可能である。また、本願発明は固定式の椅子にも適用できる。カムの操作手段としては、ウォームギアのような非ワイヤー方式も採用可能である。カムは端面カムを採用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本願発明は、椅子に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0080】
2 座
3 背もたれ
5 ベース
6,14 傾動フレーム
23 座受け板(座アウターシェル)
24 中間部材
24a 土手部(側枠部)
40 傾動制御用ガスシリンダ
48 弾力調節ハンドル
50 第1支軸
53 荷重受けアーム
54 ばねユニット
54a ばねケース
54b 可動ばね受け
56 カム
57 スライダー
59 連動部材
67 操作用のばね
70 支持突起
71~79 カム面
80 操作ユニット
82 ホルダー
83 操作ユニットのホイール
86 可動クラッチ
90 固定クラッチ
98 ワイヤー
102 カムに設けたホイール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12