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特開2024-35268水素ガスセンサーおよびそのセンサーの使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035268
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】水素ガスセンサーおよびそのセンサーの使用方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/00 20060101AFI20240307BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240307BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240307BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
G01N27/00 J
H01L29/78 301J
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 652L
H01L29/78 652K
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139622
(22)【出願日】2022-09-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ECS Journal of Solid State Science and Technology 2022,Volume 11,Number8 https://iopscience.iop.org/article/10.1149/2162-8777/ac8a70
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ECS Journal of Solid State Science and Technology 2022,Volume 11,Number 8 https://iopscience.iop.org/article/10.1149/2162-8777/ac8a70
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、「革新的パワーエレクトロニクス創出基盤技術研究開発事業(パワーデバイス領域)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】色川 芳宏
(72)【発明者】
【氏名】生田目 俊秀
【テーマコード(参考)】
2G060
5F140
【Fターム(参考)】
2G060AA02
2G060AB03
2G060AE19
2G060BA07
2G060BB09
2G060BB18
2G060DA14
2G060DA27
2G060HC06
2G060JA01
2G060KA01
5F140AA00
5F140AC00
5F140BA01
5F140BA02
5F140BA06
5F140BA07
5F140BA09
5F140BD13
5F140BF01
5F140BF05
5F140BF06
5F140BF07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】課題は、安価でコンパクトな水素ガスセンサーを提供することである。
【解決手段】半導体層、酸素欠損を有する金属酸化膜、水素触媒金属または水素触媒合金からなる導電体膜が順次積層された構造とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体層、酸素欠損を有する金属酸化膜、水素触媒金属または水素触媒合金からなる導電体膜が順次積層された構造を有する、水素ガスセンサー。
【請求項2】
前記金属酸化膜は、ハフニウムを含む酸素欠損を有する酸化膜である、請求項1記載の水素ガスセンサー。
【請求項3】
前記金属酸化膜は、HfSi1-x2-δ(xは0を超えて0.9以下、δは0を超えて0.04以下)である、請求項1記載の水素ガスセンサー。
【請求項4】
前記金属酸化膜は、HfSi1-x2-δ(xは0.7以上1以下、δは0を超えて0.04以下)である、請求項1記載の水素ガスセンサー。
【請求項5】
前記金属酸化膜の厚さは、10nm以上1μm以下である、請求項1から4の何れか一項に記載の水素ガスセンサー。
【請求項6】
前記導電体膜は、白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウムおよびニッケルからなる群より選ばれる1以上の金属を含む、請求項1から5の何れか一項に記載の水素ガスセンサー。
【請求項7】
前記導電体膜の厚さは5nm以上1μm以下である、請求項1から6の何れか一項に記載の水素ガスセンサー。
【請求項8】
前記導電体膜は前記金属酸化膜と接している、請求項1から7の何れか一項に記載の水素ガスセンサー。
【請求項9】
前記半導体層は、GaN、Si、GaAlN、GaAs、ZnO、SiCおよびGaからなる群より選ばれる1以上からなる、請求項1から8の何れか一項に記載の水素ガスセンサー。
【請求項10】
前記半導体層の厚さは、100nm以上1mm以下である、請求項1から9の何れか一項に記載の水素ガスセンサー。
【請求項11】
前記半導体層の前記金属酸化膜が形成されている面とは反対面に導電体層が形成され、
前記導電体層、前記半導体層、前記金属酸化膜、前記導電体膜で構成される容量素子からなる、請求項1から10の何れか一項に記載の水素ガスセンサー。
【請求項12】
前記金属酸化膜が形成されている面に前記水素触媒金属または水素触媒合金からなるゲート電極をもつMOS型トランジスタを有する、請求項1から11の何れか一項に記載の水素ガスセンサー。
【請求項13】
請求項11または12に記載の水素ガスセンサーを準備することと、
水素ガス濃度があらかじめ設定した濃度以下の環境で前記導電体層と前記導電体膜間の第1のC-V測定を行うことと、
被測定水素ガス環境の下、前記導電体層と前記導電体膜間の第2のC-V測定を行うことと、
前記第1のC-V測定によるC-V特性曲線と前記第2のC-V測定によるC-V特性曲線間の電圧シフト量を求めること、を有する水素ガスセンサーの使用方法。
【請求項14】
前記電圧シフト量から検量線を使って水素ガス濃度を求める、請求項13記載の水素ガスセンサーの使用方法。
【請求項15】
前記金属酸化膜に対して電場を印加する、請求項13または14に記載の水素ガスセンサーの使用方法。
【請求項16】
前記導電体層と、前記導電体膜の間にバイアス電圧を印加する、請求項13または14に記載の水素ガスセンサー。
【請求項17】
前記バイアスは、-20V以上10V以下である、請求項16記載の水素ガスセンサーの使用方法。
【請求項18】
前記第2のC-V測定は、23℃以上200℃以下の温度環境で行われる、請求項13から17の何れか一項に記載の水素ガスセンサーの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素ガスセンサーおよびそのセンサーの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素ガスは、産業用途や燃料電池で大量に使用されており、今後もクリーンエネルギー源としてさらに需要が拡大するものと考えられている。
【0003】
水素ガスは爆発性のガスであり、十分な管理が必要で、そのため、安価でコンパクトな水素ガスセンサーが欠かせない。
現在、水素を高感度で検出するセンサーとしては、例えば特許文献1に開示があるような半導体式等の各種方式のセンサーが開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-42213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとしている課題は、安価でコンパクトな水素ガスセンサーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の構成を下記に示す。
(構成1)
半導体層、酸素欠損を有する金属酸化膜、水素触媒金属または水素触媒合金からなる導電体膜が順次積層された構造を有する、水素ガスセンサー。
(構成2)
前記金属酸化膜は、ハフニウムを含む酸素欠損を有する酸化膜である、構成1記載の水素ガスセンサー。
(構成3)
前記金属酸化膜は、HfSi1-x2-δ(xは0を超えて0.9以下、δは0を超えて0.04以下)である、構成1記載の水素ガスセンサー。
(構成4)
前記金属酸化膜は、HfSi1-x2-δ(xは0.7以上1以下、δは0を超えて0.04以下)である、構成1記載の水素ガスセンサー。
(構成5)
前記金属酸化膜の厚さは、10nm以上1μm以下である、構成1から4の何れか一項に記載の水素ガスセンサー。
(構成6)
前記導電体膜は、白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウムおよびニッケルからなる群より選ばれる1以上の金属を含む、構成1から5の何れか一項に記載の水素ガスセンサー。
(構成7)
前記導電体膜の厚さは5nm以上1μm以下である、構成1から6の何れか一項に記載の水素ガスセンサー。
(構成8)
前記導電体膜は前記金属酸化膜と接している、構成1から7の何れか一項に記載の水素ガスセンサー。
(構成9)
前記半導体層は、GaN、Si、GaAlN、GaAs、ZnO、SiCおよびGaからなる群より選ばれる1以上からなる、構成1から8の何れか一項に記載の水素ガスセンサー。
(構成10)
前記半導体層の厚さは、100nm以上1mm以下である、構成1から9の何れか一項に記載の水素ガスセンサー。
(構成11)
前記半導体層の前記金属酸化膜が形成されている面とは反対面に導電体層が形成され、
前記導電体層、前記半導体層、前記金属酸化膜、前記導電体膜で構成される容量素子からなる、構成1から10の何れか一項に記載の水素ガスセンサー。
(構成12)
前記金属酸化膜が形成されている面に前記水素触媒金属または水素触媒合金からなるゲート電極をもつMOS型トランジスタを有する、構成1から11の何れか一項に記載の水素ガスセンサー。
(構成13)
請求項11または12に記載の水素ガスセンサーを準備することと、
水素ガス濃度があらかじめ設定した濃度以下の環境で前記導電体層と前記導電体膜間の第1のC-V測定を行うことと、
被測定水素ガス環境の下、前記導電体層と前記導電体膜間の第2のC-V測定を行うことと、
前記第1のC-V測定によるC-V特性曲線と前記第2のC-V測定によるC-V特性曲線間の電圧シフト量を求めること、を有する水素ガスセンサーの使用方法。
(構成14)
前記電圧シフト量から検量線を使って水素ガス濃度を求める、構成13記載の水素ガスセンサーの使用方法。
(構成15)
前記金属酸化膜に対して電場を印加する、構成13または14に記載の水素ガスセンサーの使用方法。
(構成16)
前記導電体層と、前記導電体膜の間にバイアス電圧を印加する、構成13または14に記載の水素ガスセンサー。
(構成17)
前記バイアスは、-20V以上10V以下である、構成16記載の水素ガスセンサーの使用方法。
(構成18)
前記第2のC-V測定は、23℃以上200℃以下の温度環境で行われる、構成13から17の何れか一項に記載の水素ガスセンサーの使用方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、安価でコンパクトな水素ガスセンサーが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の水素ガスセンサー101の構成を示す断面構造図である。
図2】本発明の水素ガスセンサー102の構成を示す断面構造図である。
図3】本発明の水素ガスセンサー201の構成を示す断面構造図である。
図4】本発明の水素ガスセンサー202の構成を示す断面構造図である。
図5】本発明の水素ガスセンサー203の構成を示す断面構造図である。
図6】本発明の水素ガスセンサーのC-V特性を示す特性図である。
図7】本発明の水素ガスセンサーの水素ガス応答特性を示す特性図である。
図8】バイアス0Vにおける電気容量の金属酸化膜依存性を示す特性図である。
図9】膜中相対電荷密度の金属酸化膜依存性を示す特性図である。
図10】水素ガスセンサーの回復特性(イニシャライズ特性)を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
【0010】
<実施の形態1>
実施の形態1では、本発明の構成と水素ガスセンサーとして機能する原理について説明する。ここで、実施の形態1では、水素ガスセンサー101(図1)および水素ガスセンサー102(図2)に示される容量型について述べる。
【0011】
<構造>
実施の形態1の水素ガスセンサー101は、図1に示すように、導電体層16、半導体基板11および半導体層12からなる半導体層13、酸素欠損を有する金属酸化膜14、および導電体膜15が順次積層された構造をもつ。
ここで、導電体層16は必須ではなく、半導体基板11が高濃度のドーパントなどにより電気抵抗が低い場合は、半導体基板11を導電体層16の代わりに用いることができる。また、半導体層13も必ずしも半導体基板11および半導体層12からなる必要はなく半導体層12のみで構成することもできる。
【0012】
金属酸化膜14は、酸素欠損を有する金属酸化膜で、金属としては、Hf(ハフニウム)、Si(シリコン)、Zr(ジルコニウム)、Zn(亜鉛)、Ti(チタン)、Ta(タンタル)、Sr(ストロンチウム)、Mg(マグネシウム)、Sc(スカンジウム)、La(ランタン)、Y(イットリウム)、Al(アルミニウム)、Ca(カルシウム)、Ba(バリウム)およびW(タングステン)を挙げることができる。
この中で、Hf、およびHfとSiを含む金属酸化膜、すなわち化学式で表すと(HfSi1-x2-δ)が、水素ガス検知感度やイニシャライズするときの回復時間が優れており、特に好んで用いることができる。
詳細な検討の結果、水素ガスセンサーの感度の観点からは、xが0を超えて0.9以下、好ましくは0.2以上0.9以下、より好ましくは0.3以上0.8以下、δが0を超えて0.04以下、好ましくは0.005以上0.03以下、より好ましくは0.01以上0.025以下がよいことがわかった。水素ガスセンサーのリセット時の回復速度の観点からは、xが0.7以上1以下、好ましくは0.8以上1以下、より好ましくは0.9以上1以下、δが0を超えて0.04以下、好ましくは0.005以上0.03以下、より好ましくは0.01以上0.025以下がよいことがわかった。最も回復速度が優れる条件は、xが1、δが0を超えて0.04以下、すなわちHfO2-δであることがわかった。
【0013】
金属酸化膜14の厚さは、10nm以上1μm以下が好ましい。金属酸化膜14の厚さがこの範囲にあると、後で述べる導電体膜15によって水素ガスから触媒作用で生成される水素原子が金属酸化膜14の酸素欠損部分に十分にトラップされ、水素ガスを十分なスピードと感度で検出することが可能になるとともに、イニシャライズするときの回復時間も許容できるものになる。
金属酸化膜14の形成方法としては、ALD(Atomic Layer Deposition)法、スパッタリング法、塗布形成法およびCVD(Chemical Vapor Deposition)法、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法および電子ビーム蒸着法などを挙げることができるが、多量の酸素欠損を生成可能なスパッタリング法を好んで用いることができる。
金属酸化膜14は半導体層13に接して形成されていることが好ましい。これは、後述の金属酸化膜14の酸素欠損部にトラップされた原子状水素による電荷の虚像を十分に半導体層13に形成できるためである。
【0014】
導電体膜15は、水素触媒金属または水素触媒合金からなる導電性を有する膜で、環境の水素ガスを触媒作用により原子状水素に変える機能と、発生した原子状水素を導電体膜15に一旦吸蔵させ、拡散により金属酸化膜14に原子状水素を供給する機能を有する。また、導電体膜15は、水素ガスセンサーの電極としての機能も併せもたせることができる。
ここで、この電極としての機能は必須なものではなく、水素ガスセンサー102(図2)に示すように、原子状水素の発生と供給機能の導電体膜15と電極機能の電極層17に分けてもよい。但し、電極機能も導電体膜15に持ち合わせたほうが、水素ガスセンサーの製造工程的にメリットがあるとともに、原子状水素の金属酸化膜14への供給効率、供給量も優れる。一方、専用の電極17を設けた場合は、電極17の材料をCu(銅)、W(タングステン)、Au(金)、ポリシリコンなど半導体の配線に使用される材料とすることができ、取り扱いが容易になるというメリットがある。
【0015】
導電体膜15の具体的な金属としては、Pt(白金)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)およびNi(ニッケル)を挙げることができ、これらの金属を単独で使用しても、複合して使用してもよい。ここで、複合とは、場所を分けて複合使用する、積層使用する、および合金として使用することからなる群から選ばれる1つ以上を意味する。また、導電体膜15の具体的な合金としては、LaNi、ReNi、MgNi、MgNi、CeNiを挙げることができる。
導電体膜15は、発生させた原子状水素を効率的に金属酸化膜14に供給するため、金属酸化膜14と直接接していることが好ましい。
導電体膜15の厚さは、原子状水素の効率的発生、吸蔵および金属酸化膜14への拡散供給の機能確保の観点から、5nm以上1μm以下が好ましい。
導電体膜15の形成方法としては、熱および電子線蒸着法、スパッタリング法、および抵抗加熱蒸着法を挙げることができる。
【0016】
半導体層13は、図1に示すように、半導体基板11と半導体層12からなるように複数層からなってもよいし、単層からなってもよい。
半導体層13の役割は、金属酸化膜14内に生じた水素起因の電荷に対応する電荷を半導体層内に生じさせて水素を感度良く検出することである。このため、半導体層を金属のような導電体層に置き換えた場合より、水素ガス検出感度は大幅に向上する。
半導体層13の厚さは、100nm以上1mm以下が、水素ガス検出感度が高く、好んで用いることができる。
半導体層13の具体例としては、GaN、Si、GaAlN、GaAs、ZnO、SiCおよびGaからなる群より選ばれる1以上を挙げることができる。
【0017】
導電体層16は、半導体層13とオーミックコンタクトが取れる電極として機能するものであれば特に制限はなく、例えばPt(白金)、Au(金)、Ag(銀)、W(タングステン)、Pd(パラジウム)、Cu(銅)およびポリシリコンなどを用いることができる。ここで、Ptなどを用いた場合は、接着性向上などを目的に薄膜のTiを半導体層13との間に形成しておくことが好ましい。半導体層13とオーミックコンタクトをとるためには、基板がn型の場合、半導体層13に接する金属をTiやAlのような仕事関数が小さい金属とすることが好ましい。但し、基板がn型であってもその濃度が高い場合はほとんどの金属が許容される。
【0018】
<製造方法>
水素ガスセンサー101は、下記の工程により製造することができる。
まず、半導体層13を準備し、半導体層の界面を洗浄などにより清浄な面にした後、金属酸化膜14をスパッタリング法、ALD法、CVD法あるいは塗布法などにより形成する。その後、熱あるいは電子線蒸着法、スパッタリング法などで金属酸化膜14の上に導電体膜15、および半導体層13の下面側に導電体層16を形成することにより、水素ガスセンサー101は製造される。
【0019】
<動作原理>
実施の形態1の水素ガスセンサー101の動作原理を下記に示す。
環境の水素ガスは、導電体膜15の触媒作用により原子状水素に変換されて、発生した原子状水素は導電体膜15に吸蔵され、吸蔵された原子状水素は、金属酸化膜14に拡散し、金属酸化膜14の酸素欠損部分にトラップされる。ここで、金属酸化膜14には多量の酸素欠損部分があるため、多量の原子状水素がトラップされる。特に、ハフニウムを含んだ金属酸化膜は多量の酸素欠損部分があるため、この膜を好んで用いることができる。
酸素欠損部分にトラップされた原子状水素は、酸素欠損部分と相互作用した結果、正に帯電する。正に帯電した原子状水素は、半導体層中に負の鏡像電荷を生じさせ、その結果、C-V特性をマイナス電圧側にシフトさせる。この特性を利用して、Nなどの不活性ガス環境下でC-V測定をして得たC-V特性曲線と、被測定対象の水素ガス環境下で測定したC-V特性曲線の間の電圧シフト量から、水素ガスを検知、定量化する。水素ガス濃度の測定にあたっては検量線を使用すればよい。
【0020】
C-V特性に関して、詳細に検討を行った結果、金属酸化膜14に電場を印加すると、水素ガスセンサー101の回復が早まることがわかった。金属酸化膜14中に存在する水素は正に帯電しているため、適当な電場を印加することで、金属酸化膜14中からの脱離過程を速めることができる。電場は水素ガスセンサー101の外部から印加してもよいし、導電体膜15と導電体層16の間にバイアスを印加して与えてもよい。
【0021】
バイアスとしては、-20V以上10V以下が好ましいことが、多大な実験から明らかになった。金属酸化膜14中に存在する正に帯電した水素はある程度安定した状態であり、外部から印加した電場で移動させるための閾値が存在しているためである。酸化膜が破壊しない範囲で大きい電場を印加することが好ましい。
【0022】
C-V測定は23℃以上200℃以下の環境で行われることが好ましい。温度が高いほど触媒効率が高まって原子状酸素の発生効率が向上し、水素ガス検出感度が向上するが、一方で、水、ハイドロカーボンなどの水素ガス以外からの成分にも反応して、雑音が増えるため200℃を上限とするのが好ましい。
【0023】
以上述べてきたように、実施の形態1の水素ガスセンサー101は、水素ガスの原子状水素化と、その原子状水素の金属酸化膜の酸素欠損部へのトラップ、およびトラップされて発生した電荷の影響をC-V測定で定量化するという新規な原理に基づく水素ガス検出検出器である。装置は、シンプル、コンパクトで検出感度も高いという特徴がある。
【0024】
<実施の形態2>
実施の形態2では、水素ガスセンサー201(図3)、202(図4)および203(図5)に示されるMOS(Metal Oxide Semiconductor)型の水素ガスセンサーについて述べる。
【0025】
図3に示した水素ガスセンサー201は、半導体層21、チャネル層22、ゲート絶縁膜(金属酸化膜)23、ゲート24、ソース25、ドレイン26および拡散層27からなるMOSトランジスタであり、ゲート絶縁膜23に実施の形態1で説明した酸素欠損を有する金属酸化膜14、ゲート24に実施の形態1で説明した導電体膜15を使用したことを特徴とし、他の部分は通常の横型MOSトランジスタとしたものである。
図4に示した水素ガスセンサー202は、Nドリフト層31、N層32、P層33、N層34、半導体層35、ゲート絶縁膜(金属酸化膜)36、ゲート(導電体膜)37、ソース38およびドレイン(導電体層)39からなるMOSトランジスタであり、ゲート絶縁膜36に実施の形態1で説明した酸素欠損を有する金属酸化膜14、ゲート37に実施の形態1で説明した導電体膜15を使用したことを特徴とし、他の部分は通常の縦型MOSトランジスタとしたものである。
図5に示した水素ガスセンサー203は、Nドリフト層41、N層42、P層43、N層44、半導体層45、ゲート(導電体膜)46、ゲート絶縁膜(金属酸化膜)47、ソース48およびドレイン(導電体層)49からなるMOSトランジスタであり、ゲート絶縁膜47に実施の形態1で説明した酸素欠損を有する金属酸化膜14、ゲート46に実施の形態1で説明した導電体膜15を使用したことを特徴とし、他の部分は通常のトレンチ縦型MOSトランジスタとしたものである。
水素ガスセンサー201、202および203は何れも、実施の形態1で説明した金属酸化膜14が形成されている面に実施の形態1で説明した水素触媒金属または水素触媒合金からなる導電体膜15をゲート電極としてもつMOS型トランジスタである。
【0026】
実施の形態2に示したMOS型トランジスタは、ゲート24、37および46が、触媒機能をもって水素ガスを原子状水素に変換し、原子状水素を吸蔵する機能を有する。ゲート24、37および46に吸蔵された原子状水素は、ゲート絶縁膜23、36および47に拡散し、ゲート絶縁膜23、36および47中の酸素欠損部にトラップされて電荷がその膜中に電荷が発生する。この電荷によって、ゲートに電圧が印加されたのと同じ状態になり、その電圧分シフトしたトランジスタ特性になる。このトランジスタ特性の変化を測定することにより、水素ガスが検知される。また、検量線を用いることにより、被測定対象の水素ガスの濃度を測定することが可能になる。
【実施例0027】
(実施例1)
実施例1では、電気容量型の水素ガスセンサーを作製してその特性を評価した。以下、図を参照しながら説明する。
【0028】
<素子の構造>
実施例1で作製した水素ガスセンサー101は、図1に示すように、Pt(白金)/Ti(チタン)からなる導電体層16、半導体基板11およびn-GaN半導体層12からなる半導体層13、酸素欠損を有する金属酸化膜14、およびPtからなる導電体膜15が順次積層された構造をもつ。
【0029】
ここで、導電体層16は、電子ビーム蒸着法で形成されており、PtおよびTiの厚さはそれぞれ100nm、20nmである。Tiは、導電体層16の半導体基板11への接着強化を目的にして形成された膜で、半導体基板11に接するように形成されており、導電体層16は半導体基板11とオーミックコンタクトがとれている。
【0030】
半導体基板11は、自立型n-GaN(0001)ウェハで、厚さは300μm、転位密度とキャリア濃度は、それぞれ10cm-2のオーダーおよび1×1018cm-3である。
半導体層12は、有機金属気相エピタキシー法によって形成されたSi(シリコン)ドープのGaNホモエピタキシャル層で、その厚さは5μm、Si濃度は2×1016cm-3である。
【0031】
金属酸化膜14は、HfSi1-x2-δの一例として、HfO2-δと、Hf0.57Si0.432-δの2種類を準備して比較評価を行った。ここで、δは酸素欠損を示し、0を超えて0.04以下である。また、参考例として、酸素欠損の少ないAlも準備して、比較評価を行った。Alはトリメチルアルミニウム(TMA)を前駆体としてHOを酸化剤ガスとしてALD法により形成した。
HfO2-δもHf0.57Si0.432-δもALD(Atomic Layer Deposition)法で形成した。形成温度は300℃で、その厚さは両者とも15nmである。ALD法でこれらの膜を形成する際には、前処理として、試料を硫酸と過酸化水素の混合液(HSO:H=1:1)で洗浄して有機残留物を除去し、次に緩衝フッ化水素酸(BHF;HF:NHF=1:6)で処理した。その後すぐにこれらの膜を堆積させた。
HfO2-δの堆積には、前駆体としてテトラキス(ジメチルアミノ)ハフニウムとOプラズマを使用した。Hf0.57Si0.432-δは、HfO2-δ層とSiO層の積層膜であり、それぞれの厚さは0.164nmおよび0.134nmである。SiO層はトリス(ジメチルアミノ)シランとOプラズマを用いたALD法によって形成した。
【0032】
なお、金属酸化膜14に対して、堆積後PDA(Post Deposition Annealing)を行った試料と行わない試料を作製し、PDAの効果を調べる特性評価を行った。ここで、PDAの条件は、圧力1気圧のN雰囲気下で、800℃5分である。PDA後のHfO2-δは単斜晶相、Hf0.57Si0.432-δはアモルファスであることを確認している。
【0033】
導電体膜15は、シャドーマスクを介して電子ビーム蒸着法によって形成された厚さ100nmの円形電極で、その面積は1×10-4cmである。
【0034】
<素子の作製>
水素ガスセンサー101は、下記の工程により作製した。
まず、上記仕様の半導体基板11を準備し、その上に有機金属気相エピタキシー法を用いてn-GaN半導体層12を形成した。上記洗浄を行った後、ALD法で金属酸化膜14を形成した。ここで、金属酸化膜14としては、上述のように、HfO2-δとHf0.57Si0.432-δおよびAlの3種類として、その特性を評価した。
その後、電子ビーム蒸着法で、金属酸化膜14の上に厚さ100nmのPtからなる導電体膜15、および半導体基板11下面側にPt(100nm)/Ti(20nm)からなる導電体層16を形成した。
最終工程として、一部の試料に対して、Nフロー下で300℃5分のPMA(Post Meatllization Annealing)を施した。なお、仕上がりの水素ガスセンサー101の大きさは、直径約150μm、高さ約300μmであり、大変コンパクトなものになっている。
【0035】
<電気特性評価方法>
作製された水素ガスセンサー101は、ステンレス鋼からなる測定チャンバーに収められて、タングステンプローブによりその電気特性が評価された。
試料が設置された測定チャンバーはドライスクロール真空ポンプにより排気された後、室温(25℃)で、10.0kPaの全圧で流れる(100mL・min-1)Nを導入して、不活性ガス環境下でのC-V電気特性を評価した。
その後、Nに代えて1vol%のHと99vol%のNからなる水素含有ガスを10.0kPaの全圧で30分間流した後、水素含有ガス(1vol%のH+99vol%のN)環境下でのC-V測定を行った。ここで、水素含有ガスの流量は100mL・min-1である。
電気容量は100kHzでのC-V測定から求めた。C-V測定のバイアス依存性測定では、バイアス電圧のステップを0.1Vとし、各ステップで1秒間保持して掃引測定を行った。バイアス0Vでの電気容量(キャパシタンス)の測定では、バイアス電圧を印加も掃引もせずに周波数100kHzの交流を印加して電気容量を求めた。
【0036】
<特性評価>
評価した試料の条件を表1にまとめる。
【0037】
【表1】
【0038】
A2、B1およびC2の試料に対してC-V測定を行った結果を図6に示す。
1vol%の水素ガスが添加された環境での測定結果は、窒素ガス環境での測定結果に対してΔVマイナス方向にシフトした関係になっている。これは、水素ガスの存在により、導電体膜15の触媒作用で原子状水素が発生し、発生した原子状水素が金属酸化膜14中にトラップされて金属酸化膜14が電荷をもつという上述のメカニズムに基づくものであり、C-V測定を行うことにより水素ガスを検知できることが確認された。また、電圧を掃引したC-V測定を行わなくとも、例えばバイアスを印加しないで、0Vの状態で、水素導入前後の容量値の変化をモニターすることによっても水素検知を行うことができる。なお、水素ガスの爆発限界は4vol%であるため、1vol%の水素ガスの検知は水素ガスの安全管理に十分役立つ濃度レベルである。さらに、本実験は10kPaで行っているため、実質的には0.1%の水素を検出できていることになる。
【0039】
次に、水素ガス検出の応答性をA2、B1およびC2の試料に対して調べた結果を図7に示す。なお、この測定ではバイアス電圧は0Vに固定している。金属酸化膜14が、Al(A2)およびHfO2-δ(B1)の場合は約3分、Hf0.57Si0.432-δ(C2)の場合は約1分で電気容量が飽和しており、水素ガスセンサー101は優れた水素ガス応答性を有していることがわかる。特に、水素ガス応答性の観点からは、Hf0.57Si0.432-δ(C2)が優れている。なお、試料A2においても水素ガス応答が見られるのは、Al膜に酸素欠損が存在したためと考えられる。
【0040】
図8は、水素ガス検知感度を各試料に対して調べたもので、具体的には、バイアス電圧を0Vに固定したときの窒素ガス環境と1vol%水素ガス環境での電気容量を比較した図である。水素ガス環境の測定値が、窒素ガス環境での測定値に対して大きいほど水素ガスの検知感度が高いことを意味する。その結果、どの試料においても水素ガス環境の方が電気容量が大きく水素ガスを検知できることがわかるとともに、特に金属酸化膜14として800℃のPDA処理を施したHf0.57Si0.432-δ試料(C2)が、極めて高い水素ガス検知能力を有していることが示された。
【0041】
なお、図8によれば、試料A1やA2である金属酸化膜14としてAlを用いたほうが、試料B1やB2であるHfO2-δを用いた場合より、水素ガス環境時の窒素ガス環境からの電気容量の変化が大きく、水素ガス検知感度が優れるように見える。しかし、それは0Vで測定したことによる見かけ上のもので、水素ガス検知感度は、HfO2-δを用いたほうがAlを用いるより優れる。
【0042】
これは、以下の理由による。
図8は、図6の0Vでの(窒素環境から水素添加環境での)容量変化を示した図である。
図6(a)から明らかなように、Alを用いた場合は、0Vはたまたま容量変化が大きい領域にあたってる。一方、図6(b)より明らかなように、HfO2-δについては、0Vは容量変化が小さい領域にあたってる。
これは、HfO2-δの場合、C-VカーブがAl比べてプラスの電圧方向にシフトしているためであって、水素検出の感度が大きいためではない。実際、容量の変化を電圧変化(ΔV)に換算してみると、表2から明らかなように、その値はHfO1-δの方がAlより大きくなっている。
以上により、図8でAlの方がHfO2-δより変化が大きいのは単なる見かけ上であり、実際の電圧変化(ΔV)およびその値から算出される膜内電荷量はHfO2-δの方が大きい。したがって、水素ガス検知感度はHfO2-δを用いたほうがAlを用いるより優れる。
【0043】
なお、HfO2-δを用いた場合、下記のようにすればよりさらに高感度に水素ガスを検出、測定することが可能になる。
最初に、電圧を印加した状態でC-V測定を行い、参照となるC-Vカーブを記録する。
次に、電圧を印加した素子とは別の素子を用いて、0Vにおける水素導入に伴う容量変化を測定する。
しかる後、その容量変化に対応する電圧シフトΔVを、最初に測定・記録したC-Vカーブから算出する。そして、予め実験によって求めた水素ガス有無の閾値ΔVthと、測定された電圧シフトΔVの大小を比較して水素ガスの検知を行う。あるいは、予め求めた電圧シフトΔVと水素ガス濃度の検量線を使用して水素ガス濃度を求める。
【0044】
C-V測定結果および金属酸化膜14の誘電率をまとめた結果を表2に示す。表2では、それらの結果から算出した酸化膜中の相対電荷密度も併せて掲載している。図9はその相対電荷密度を図示したものである。ハフニウム含有酸化膜である試料B1、B2、C1およびC2は高い相対電荷密度を有しており、特に800℃のPDA処理を施したHf0.57Si0.432-δ試料(C2)が特に高い相対電荷密度を有していることがわかる。
【0045】
【表2】
【0046】
水素ガスセンサー101のイニシャライズ特性、すなわち回復特性として、水素ガス環境に置いた後、乾燥空気環境に切り替えて、電気容量の経時変化を測定した。その結果を図10に示す。ここで、バイアス電圧は0Vに固定して、室温(25℃)で測定した。測定した試料はB1、B2、C1およびC2である。
【0047】
PDA処理なしのHfO2-δを金属酸化膜14とした試料B1は、10分後には窒素環境で測定した初期状態と同じ電気容量に回復しており、優れた回復特性を有していることがわかる。HfO2-δ膜に対して800℃のPDA処理を施した試料B2も試料B1ほどではない良好な回復特性を有している。
また、PDA処理なしのHf0.57Si0.432-δを金属酸化膜14とした試料C1は、10分後にはほぼ窒素環境で測定した初期状態と同じ電気容量に回復しており、優れた回復特性を有していることがわかる。
一方で、Hf0.57Si0.432-δを膜に対して800℃のPDA処理を施した試料C2は十分な回復特性を有していない。試料C2は水素ガス検出感度が突出して優れているので、その特性を活用してディスポーザブル超高感度水素ガスセンサーとして利用できると考える。
【0048】
試料C2に対して、バイアスを印加したときの回復特性を調べた結果を表3に示す。具体的には、1vol%の水素ガス環境に試料C2を置いた後、乾燥空気環境に切り替えるとともに導電体膜15と導電体層16の間にバイアス電圧を印加して120分後の電気容量を測定して回復特性を評価した。ここで、表3では、水素ガス環境での電気容量を1とした。イニシャル状態である窒素ガス環境で測定したときの相対電荷量は0.1である。負の高いバイアス電圧を印加することにより回復が促進されることがわかる。なお、完全に窒素中の容量まで回復しなくても、ある一定レベルまで回復していれば実用に供することができると考える。
【0049】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0050】
産業用途や燃料電池で大量に使用されている爆圧性を有する水素ガスを安全かつ制御して使用していくためには、コンパクトで安価な水素ガスセンサーが欠かせない。
本発明の水素ガスセンサーは、コンパクトで安価なため、産業に大いに貢献することが期待される。
【符号の説明】
【0051】
11:半導体基板(n-GaN)
12:半導体層(n-GaN)
13:半導体層
14:金属酸化膜(HfSi1-x2-δ
15:導電体膜(Pt)
16:導電体層(Pt/Ti)
17:電極層
21:半導体層
22:チャネル層
23:ゲート絶縁膜(金属酸化膜)
24:ゲート
25:ソース
26:ドレイン
27:拡散層
31:Nドリフト層
32:N
33:P層
34:N
35:半導体層
36:ゲート絶縁膜(金属酸化膜)
37:ゲート(導電体膜)
38:ソース
39:ドレイン(導電体層)
41:Nドリフト層
42:N
43:P層
44:N
45:半導体層
46:ゲート(導電体膜)
47:ゲート絶縁膜(金属酸化膜)
48:ソース
49:ドレイン(導電体層)
101:水素ガスセンサー
102:水素ガスセンサー
201:水素ガスセンサー
202:水素ガスセンサー
203:水素ガスセンサー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10