(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035302
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】水硬性組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20240307BHJP
C04B 24/06 20060101ALI20240307BHJP
C04B 24/12 20060101ALI20240307BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20240307BHJP
C04B 24/38 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/06 A
C04B24/12 A
C04B24/26 B
C04B24/26 E
C04B24/26 F
C04B24/26 H
C04B24/38 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139675
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】寺井 久登
(72)【発明者】
【氏名】齊田 和哉
(72)【発明者】
【氏名】岡田 康平
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MD03
4G112MD04
4G112MD05
4G112PA02
4G112PB17
4G112PB20
4G112PB29
4G112PB31
4G112PB32
4G112PB40
4G112PC03
4G112PC05
4G112PC08
(57)【要約】
【課題】ポリカルボン酸系分散剤含む水硬性組成物において、長時間(混練直後から4時間の間)の流動性が温度に影響されにくく良好であり、且つ早強性(混練から24時間)に優れる、水硬性組成物を提供する。
【解決手段】下記(a)成分、(b)成分、(c)成分、水硬性粉体、水、及び骨材を含有する水硬性組成物。
(a)成分:一般式(1a)で示される単量体(1a)と、一般式(2a)で示される単量体(2a)とを構成単量体として含み、全構成単量体中の単量体(2a)の平均割合が60モル%以上88モル%以下である、共重合体である、共重合体
(b)成分:増粘剤
(c)成分:オキシカルボン酸又はその塩
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)成分、(b)成分、(c)成分、水硬性粉体、水、及び骨材を含有する水硬性組成物。
(a)成分:下記一般式(1a)で示される単量体(1a)と、下記一般式(2a)で示される単量体(2a)とを構成単量体として含み、全構成単量体中の単量体(2a)の平均割合が60モル%以上88モル%以下である、共重合体。
(b)成分:増粘剤
(c)成分:オキシカルボン酸又はその塩
【化1】
〔式中、
R
1a、R
2a: 同一でも異なっていても良く、水素原子又はメチル基
R
3a:水素原子又は-COO(AO)
n1X
1
R
4a:水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基
AO:エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基から選ばれる基
n1:AOの平均付加モル数であり、20以上130以下の数
q1:0以上2以下の数
p1:0又は1
を示す。〕
【化2】
〔式中、
R
5a、R
6a、R
7a:同一でも異なっていても良く、水素原子、メチル基又は(CH
2)
rCOOM
2であり、(CH
2)
rCOOM
2は、COOM
1又は他の(CH
2)
rCOOM
2と無水物を形成していてもよく、その場合、それらの基のM
1、M
2は存在しない。
M
1、M
2:同一でも異なっていても良く、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、置換アルキルアンモニウム基、アルキル基、ヒドロアルキル基又はアルケニル基
r:0以上2以下の数
を示す。〕
【請求項2】
(a)成分の全構成単量体中、単量体(1a)の平均割合が12モル%以上40モル%以下である、請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
(c)成分が、グルコン酸、酒石酸、クエン酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
(c)成分を、水硬性粉体に対して、0.02質量%以上0.18質量%以下含有する、請求項1~3の何れか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
(b)成分が、(b1)アミンオキシド型界面活性剤及びアニオン性芳香族化合物、又は(b2)セルロース系増粘剤である、請求項1~4の何れか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項6】
JIS A1150に記載の方法で測定されるスランプフローが50cmに到達するまでの時間が15秒以上45秒以下である、請求項1~5の何れか1項に記載の水硬性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの打設する際に水中不分離性が要求される分野がある。
例えば、特許文献1には、トンネルの掘削では、湧水によるコンクリートへの水の接触が生じることがあるため、SENS工法などのトンネルの構築方法に用いるコンクリートには、水中不分離性に優れることが望まれ、更に、トンネル施工では環境により温度条件が変動するため、水中不分離性は温度依存性が小さいことが望まれることが開示されている。そして、それらの要求を解決するために、特許文献1では、特定のアミンオキサイド化合物を2種以上、水硬性粉体、水、骨材、及びポリカルボン酸系分散剤を含有し、水/水硬性粉体比が30%以上60%以下である、水硬性組成物が開示されている。
また、特許文献2には、流水にも洗い流されにくく水中不分離性が確実で水中施工が可能であり、流動性消失時間(ゲルタイム)の調整が可能な水硬性組成物を提供することを課題として、カチオン性界面活性剤と、アニオン性芳香族化合物と、水硬性粉体と、急結剤と、グルコン酸及び/又はその塩と、水とを含有する水硬性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-172530号公報
【特許文献2】特開2008-137852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水硬性組成物の施工現場では打設の進捗状況に応じて、長時間の流動保持性と、工期の観点から翌日の型枠脱型が要求されることがある。更に、施工現場では日々、外気温が変化する。その結果、現場では外気温に関わらず、水硬性組成物の長時間の流動保持性、及び早強性を達成するために、使用量が変わらない取り扱い易い薬剤が要求される。しかしながら、薬剤としてポリカルボン酸系分散剤を使用した場合、外気温が変化することで、水硬性組成物中に含まれる水硬性粉体へのポリカルボン酸系分散剤の吸着量が変化するため、水硬性組成物の流動性が変化する。その結果、流動性を制御するポリカルボン酸系分散剤の使用量を都度、変更する必要があり、これが施工現場では扱い難さに繋がっている。そのため、外気温の影響を受けにくいポリカルボン酸系分散剤が望まれる。
そこで、本発明者らは、外気温が変化しても吸着量の変動が小さいポリカルボン酸系分散剤を検討することで、外気温が変化しても使用量を都度、変更する必要がなくなり、施工現場での扱い易さに繋がると考えた。
特許文献1では、水中不分離性に優れ、その水中不分離性が温度の影響を受けにくい水硬性組成物が開示されているが、水硬性組成物の長時間の流動保持性や早強性については何ら述べられていない。また、特許文献2は水硬性組成物の温度の影響について何ら述べられていない。
【0005】
本発明は、ポリカルボン酸系分散剤含む水硬性組成物において、長時間(混練直後から4時間の間)の流動性が温度に影響されにくく良好であり、且つ早強性(混練から24時間)に優れる、水硬性組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記(a)成分、(b)成分、(c)成分、水硬性粉体、水、及び骨材を含有する水硬性組成物に関する。
(a)成分:下記一般式(1a)で示される単量体(1a)と、下記一般式(2a)で示される単量体(2a)とを構成単量体として含み、全構成単量体中の単量体(2a)の平均割合が60モル%以上88モル%以下である、共重合体。
(b)成分:増粘剤
(c)成分:オキシカルボン酸又はその塩
【0007】
【0008】
〔式中、
R1a、R2a: 同一でも異なっていても良く、水素原子又はメチル基
R3a:水素原子又は-COO(AO)n1X1
R4a:水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基
AO:エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基から選ばれる基
n1:AOの平均付加モル数であり、20以上130以下の数
q1:0以上2以下の数
p1:0又は1
を示す。〕
【0009】
【0010】
〔式中、
R5a、R6a、R7a:同一でも異なっていても良く、水素原子、メチル基又は(CH2)rCOOM2であり、(CH2)rCOOM2は、COOM1又は他の(CH2)rCOOM2と無水物を形成していてもよく、その場合、それらの基のM1、M2は存在しない。
M1、M2:同一でも異なっていても良く、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、置換アルキルアンモニウム基、アルキル基、ヒドロアルキル基又はアルケニル基
r:0以上2以下の数
を示す。〕
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリカルボン酸系分散剤含む水硬性組成物において、長時間(混練直後から4時間の間)の流動性が温度に影響されにくく(流動性の温度汎用性)良好であり、且つ早強性(混練から24時間)に優れる、水硬性組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、特定のポリカルボン酸系分散剤である(a)成分、上記(b)成分、及び上記(c)成分を水硬性組成物に含有させた場合、長時間(混練直後から4時間の間)の流動性が温度に影響されにくく良好であり、且つ早強性(混練から24時間)に優れることを見出した。このような効果が発現する理由は必ずしも定かではないが、以下のように推測される。
本発明の(a)成分、(b)成分、(c)成分を水硬性組成物に含有させた場合、(a)成分、(c)成分は水硬性粉体に対して競争吸着し、(c)成分は分子量が小さいため、優先的に吸着し、(a)成分はバルク相に残存していると考えられる。(b)成分は水硬性組成物を増粘させるため、バルク相に残存している(a)成分の水硬性粉体への吸着速度を低下させることで、長時間(混練直後から4時間の間)にわたり(a)成分が経時的に吸着し、長時間の流動性を保持すると考えられる。更に、(a)成分は温度によって吸着量の変動が小さいため、長時間の流動性が温度に影響されないと推察され、長時間の保持後、バルク相に残存していた(a)成分が次第に消費されることで、流動性が低下し、水和反応が促進され、例えば24時間後の水硬性組成物硬化体の早強性に優れるのだと考察している。
つまり、本発明の(a)成分、(b)成分、(c)成分、これらを組合せこることで、本発明の課題を解決できると推察している。
【0013】
[水硬性組成物]
<(a)成分>
本発明の(a)成分は、下記一般式(1a)で示される単量体(1a)と、下記一般式(2a)で示される単量体(2a)とを構成単量体として含み、全構成単量体中の単量体(2a)の平均割合が60モル%以上88モル%以下である、共重合体である。
本発明において、(a)成分の全構成単量体中の単量体(2a)の平均割合は、(a)成分として、単量体(1a)と単量体(2a)とを構成単量体として含む共重合体を1種用いる場合、この共重合体における全構成単量体中の単量体(2a)の割合(モル%)を、単量体(2a)の平均割合とし、(a)成分として、単量体(1a)と単量体(2a)とを構成単量体として含む共重合体を2種以上用いる場合、各共重合体における全構成単量体中の単量体(2a)の割合(モル%)と、(a)成分中の各共重合体の割合(質量%)から、全共重合体における全構成単量体中の単量体(2a)の割合の平均値を算出し、単量体(2a)の平均割合とする。
【0014】
【0015】
〔式中、
R1a、R2a: 同一でも異なっていても良く、水素原子又はメチル基
R3a:水素原子又は-COO(AO)n1X1
R4a:水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基
AO:エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基から選ばれる基
n1:AOの平均付加モル数であり、20以上130以下の数
q1:0以上2以下の数
p1:0又は1
を示す。〕
【0016】
【0017】
〔式中、
R5a、R6a、R7a:同一でも異なっていても良く、水素原子、メチル基又は(CH2)rCOOM2であり、(CH2)rCOOM2は、COOM1又は他の(CH2)rCOOM2と無水物を形成していてもよく、その場合、それらの基のM1、M2は存在しない。
M1、M2:同一でも異なっていても良く、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、置換アルキルアンモニウム基、アルキル基、ヒドロアルキル基又はアルケニル基
r:0以上2以下の数
を示す。〕
【0018】
一般式(1a)中、R1aは、水硬性組成物における流動性の温度汎用性の観点から、水素原子が好ましい。
一般式(1a)中、R2aは、水硬性組成物における流動性の温度汎用性の観点から、メチル基が好ましい。
一般式(1a)中、R3aは、水硬性組成物における流動性の温度汎用性の観点から、水素原子が好ましい。
一般式(1a)中、R4aは、水硬性組成物における流動性の温度汎用性の観点から、水素原子又はメチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
一般式(1a)中、AOは、水硬性組成物における流動性の温度汎用性の観点から、エチレンオキシ基が好ましい。AOはエチレンオキシ基を含むことが好ましい。
一般式(1a)中、n1は、AOの平均付加モル数であり、水硬性組成物の早強性の観点から、20以上、好ましくは40以上、より好ましくは50以上、更に好ましくは60以上、より更に好ましくは80以上、より更に好ましくは100以上、そして、130以下、好ましくは125以下、より好ましくは120以下である。
一般式(1a)中、水硬性組成物における流動性の温度汎用性の観点から、q1は、0が好ましい。
一般式(1a)中、水硬性組成物における流動性の温度汎用性の観点から、p1は、1が好ましい。
【0019】
単量体(1a)を製造する際に酸触媒としてスルホン酸を使用することがある。例えば、特開2008-214638号公報にそのような方法の記載がある。本発明の(a)成分を製造する際は、本発明の効果を損なわない限り、そのような方法で製造された単量体(1a)とスルホン酸とを含む混合物を、そのまま用いることができる。
【0020】
一般式(2a)中、水硬性組成物における流動性の温度汎用性の観点から、R5aは、水素原子が好ましい。
一般式(2a)中、水硬性組成物における流動性の温度汎用性の観点から、R6aは、メチル基が好ましい。
一般式(2a)中、水硬性組成物における流動性の温度汎用性の観点から、R7aは、水素原子が好ましい。
(CH2)rCOOM2については、COOM1又は他の(CH2)rCOOM2と無水物を形成していてもよく、その場合、それらの基のM1、M2は存在しない。
M1とM2は同一でも異なっていても良く、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、置換アルキルアンモニウム基、アルキル基、ヒドロアルキル基又はアルケニル基である。
M1、M2のアルキル基、ヒドロアルキル基、及びアルケニル基は、それぞれ、炭素数1以上4以下が好ましい。
M1とM2は、同一でも異なっていても良く、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム基、又はアルキルアンモニウム基が好ましく、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、又はアンモニウム基がより好ましく、水素原子、アルカリ金属、又はアルカリ土類金属(1/2原子)が更に好ましく、水素原子、又はアルカリ金属がより更に好ましい。
水硬性組成物における流動性の温度汎用性の観点から、一般式(2a)中の(CH2)rCOOM2のrは、0が好ましい。
【0021】
(a)成分の全構成単量体中、単量体(2a)の平均割合は、水硬性組成物における流動性の温度汎用性の観点から、60モル%以上、好ましくは65モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは75モル%以上、そして、88モル%以下、好ましくは85モル%以下、より好ましくは83モル%以下である。
【0022】
(a)成分の全構成単量体中、単量体(1a)の平均割合は、水硬性組成物における流動性の温度汎用性の観点から、好ましくは12モル%以上、より好ましくは15モル%以上、更に好ましくは17モル%以上、そして、好ましくは40モル%以下、より好ましくは35モル%以下、更に好ましくは30モル%以下、より更に好ましくは25モル%以下である。
本発明において、(a)成分の全構成単量体中の単量体(1a)の平均割合は、(a)成分として、単量体(1a)と単量体(2a)とを構成単量体として含む共重合体を1種用いる場合、この共重合体における全構成単量体中の単量体(1a)の割合(モル%)を、単量体(1a)の平均割合とし、(a)成分として、単量体(1a)と単量体(2a)とを構成単量体として含む共重合体を2種以上用いる場合、各共重合体における全構成単量体中の単量体(1a)の割合(モル%)と、(a)成分中の各共重合体の割合(質量%)から、全共重合体における全構成単量体中の単量体(1a)の割合の平均値を算出し、単量体(1a)の平均割合とする。
【0023】
(a)成分の全構成単量体中、単量体(1a)と単量体(2a)の平均合計割合は、水硬性組成物における流動性の温度汎用性の観点から、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、そして、好ましくは100モル%以下である。この平均合計量は、100モル%であってよい。
本発明において、(a)成分の全構成単量体中の単量体(1a)と単量体(2a)の平均合計割合は、(a)成分として、単量体(1a)と単量体(2a)とを構成単量体として含む共重合体を1種用いる場合、この共重合体における全構成単量体中の単量体(1a)と単量体(2a)の合計割合(モル%)を、単量体(1a)と単量体(2a)の平均合計割合とし、(a)成分として、単量体(1a)と単量体(2a)とを構成単量体として含む共重合体を2種以上用いる場合、各共重合体における全構成単量体中の単量体(1a)と単量体(2a)の合計割合(モル%)と、(a)成分中の各共重合体の割合(質量%)から、全共重合体における全構成単量体中の単量体(1a)と単量体(2a)の合計割合の平均値を算出し、単量体(1a)と単量体(2a)の平均合計割合とする。
【0024】
(a)成分の重量平均分子量は、水硬性組成物における流動性の温度汎用性の観点から、好ましくは15,000以上、より好ましくは25,000以上、更に好ましくは350,000以上、そして、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、更に好ましくは60,000以下である。(a)成分が、単量体(1a)と単量体(2a)とを構成単量体として含む共重合体を2種以上含む場合、少なくとも1の共重合体の重量平均分子量が上記範囲内であることが好ましい。
【0025】
(a)成分の重量平均分子量は、以下の条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定されたものである。
*GPC条件
装置:GPC(HLC-8320GPC)東ソー株式会社製
カラム:G4000PWXL+G2500PWXL(東ソー株式会社製)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CH3CN=9/1
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出:RI
サンプルサイズ:0.2mg/mL
標準物質:ポリエチレングリコール換算(分子量既知の単分散ポリエチレングリコール、分子量87,500、250,000、145,000、46,000、24,000
【0026】
(a)成分は、水硬性組成物における流動性の温度汎用性の観点から、単量体(1a)と単量体(2a)とを構成単量体として含む共重合体を2種以上含むことが好ましく、(a1)単量体(1a)と単量体(2a)とを構成単量体として含み、全構成単量体中の単量体(2a)の割合が70モル%以上85モル%以下である、共重合体(以下、(a1)成分という)、及び(a2)単量体(1a)と単量体(2a)とを構成単量体として含み、全構成単量体中の単量体(2a)の割合が70モル%未満又は85モル%を超える、共重合体(以下、(a2)成分という)を含むことがより好ましい。
【0027】
<(b)成分>
本発明の(b)成分は増粘剤である。
(b)成分は、水硬性組成物における水中不分離性と(a)成分の水硬性粉体への吸着速度制御の観点から、(b1)アミンオキシド型界面活性剤(以下、(b11)成分という)、及びアニオン性芳香族化合物(以下、(b12成分という)の組み合わせ(以下、(b1)成分という)、又は(b2)セルロース系増粘剤(以下、(b2)成分という)が好ましい。
【0028】
(b11)成分のアミンオキシド型界面活性剤としては、下記一般式(b11)で表される化合物が好ましい。
【0029】
【0030】
〔式中、Xは、R11b又はR12b-[CONH-CH2CH2CH2]n-で表される基である。R11bは、炭素数14以上22以下のアルキル基又は炭素数14以上22以下のアルケニル基である。R12bは、炭素数13以上21以下のアルキル基又は炭素数13以上21以下のアルケニル基である。nは1以上3以下の整数である。R2及びR3は、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下のアルキル基又は-(C2H4O)pHで表される基である。pは、平均付加モル数であり、R2及びR3の合計で0以上5以下の数である。〕
【0031】
一般式(b11)中、Xは、R11b又はR12b-[CONH-CH2CH2CH2]n-で表される基である。
R11bは、炭素数14以上22以下のアルキル基又は炭素数14以上22以下のアルケニル基である。
R11bがアルケニル基の場合、炭素数は、好ましくは18以上、そして、好ましくは22以下である。
R11bがアルキル基の場合、炭素数は、好ましくは16以上、そして、好ましくは22以下である。
R12bは、炭素数13以上21以下のアルキル基又は炭素数13以上21以下のアルケニル基である。
R12bがアルケニル基の場合、炭素数は、好ましくは17以上、そして、好ましくは21以下である。
R12bがアルキル基の場合、炭素数は、好ましくは15以上、そして、好ましくは21以下である。
nは、好ましくは0又は1である。
R2及びR3は、それぞれ独立に、好ましくは炭素数1以上2以下のアルキル基または-(C2H4O)pHで表される基である。
pは、好ましくは0以上3以下の数である。
【0032】
本発明の水硬性組成物は、水硬性組成物における水中不分離性と(a)成分の水硬性粉体への吸着速度制御の観点から、(b11)成分として、前記一般式(b11)で表される化合物〔以下、化合物(b11)ともいう〕を2種以上含有することが好ましい。そして、前記2種以上の化合物は、互いに一般式(b11)中のXが異なっており、前記2種以上の化合物のうち、少なくとも1つは一般式(b11)中のXのR11b又はR12bがアルケニル基の化合物である。
【0033】
化合物(b11)について、一般式(b11)中のXが異なるとは、化合物(b11)が2種である場合を例に考えると、例えば、以下のような態様が挙げられる。なお、以下の態様において、2種の化合物(b11)のうち、少なくとも一方の化合物(b11)のR11b又はR12bはアルケニル基である。
(i)一方のR11b又はR12bがアルキル基であり、他方のR11b又はR12bがアルケニル基である。
(ii)一方のR11b又はR12bの炭素数と、他方のR11b又はR12bの炭素数が異なっている。
(iii)一方のXがR11bであり、他方のXがR12b-[CONH-CH2CH2CH2]n-である。
(iv)Xが共にR12b-[CONH-CH2CH2CH2]n-であり、一方のnと他方のnが異なっている。
(v)前記(i)~(iv)の組み合わせ。
【0034】
本発明の水硬性組成物は、(b1)成分として、一般式(b11)中のXが異なる化合物(b11)を2種以上、好ましくは5種以下、より好ましくは2種含有する。そして、水硬性組成物が含有する2種以上の化合物(b11)は、少なくとも1つが一般式(b11)中のXのR11b又はR12bが炭素数14以上22以下のアルケニル基の化合物、つまり、一般式(b11)中のXにおけるR11bとして炭素数14以上22以下のアルケニル基又はR12bとして炭素数13以上21以下のアルケニル基を含む化合物である。
【0035】
本発明では、化合物(b11)が2種であり、上記(i)~(v)を含め、2種の化合物(b11)のうち、一方が、一般式(b11)中のXがR11bで且つ炭素数14以上22以下のアルケニル基の化合物であることが好ましい。すなわち、本発明の水硬性組成物は、(b1)成分として、前記一般式(b11)で表される化合物を2種含有し、前記2種の化合物は、一般式(b11)中のXが異なっており、前記2種の化合物のうち、一方は、一般式(b11)中のXがR11bであり且つR11bがアルケニル基の化合物である態様が挙げられる。
【0036】
本発明の水硬性組成物は、(b1)成分として、一般式(b11)中のXがR11b又はR12b-[CONH-CH2CH2CH2]n-で表される基(ただし、R11bは炭素数14以上22以下のアルケニル基であり、R12bは炭素数13以上21以下のアルケニル基である)である化合物(b11-1)と、化合物(b11-1)とは一般式(b11)中のXが異なる化合物(b11-2)とを含有する態様が挙げられる。
具体的には、(b1)成分として、下記一般式(b11-1)で表される化合物(b11-1)と、下記一般式(b11-2)で表される化合物(b11-2)とを含有する水硬性組成物が挙げられる。
【0037】
【0038】
〔式中、
n1、n2は、それぞれ、独立に0以上3以下の整数である。
R13bは、n1が0のときは炭素数14以上22以下のアルケニル基であり、n1が1~3のときは炭素数13以上21以下のアルケニル基である。
R14bは、n2が0のときは炭素数14以上22以下のアルキル基又は炭素数14以上22以下のアルケニル基であり、n2が1~3のときは炭素数13以上21以下のアルキル基又は炭素数13以上21以下のアルケニル基である。
ただし、n1とn2が同じ数である場合、R11bのアルケニル基はR11aとは異なるアルケニル基である。
R2及びR3は、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下のアルキル基又は-(C2H4O)pHで表される基である。pは、平均付加モル数であり、R2及びR3の合計で0以上5以下の数である。〕
【0039】
一般式(b11-1)中、R13bの炭素数は、好ましくは17以上、そして、好ましくは22以下である。
一般式(b11-1)中、n1は、好ましくは0又は1、より好ましくは0である。
【0040】
一般式(b11-2)中、n2が0でR14bがアルキル基の場合、R14bの炭素数は、好ましくは16以上、そして、好ましくは22以下である。
一般式(b11-2)中、n2が0でR14bがアルケニル基の場合、R14bの炭素数は、好ましくは18以上、そして、好ましくは22以下である。
一般式(b11-2)中、n2が1~3でR14bがアルキル基の場合、R14bの炭素数は、好ましくは15以上、そして、好ましくは21以下である。
一般式(b11-2)中、n2が1~3でR14bがアルケニル基の場合、R14bの炭素数は、好ましくは17以上、そして、好ましくは21以下である。
一般式(b11-2)中、R14bは、アルキル基が好ましい。
一般式(b11-2)中、n2は、好ましくは0又は1である。
【0041】
一般式(b11-1)又は(b11-2)中、R2及びR3は、それぞれ独立に、好ましくは炭素数1もしくは2のアルキル基又は-(C2H4O)pHで表される基であり、より好ましくは炭素数1又は2のアルキル基である。
一般式(b11-1)又は(b11-2)中、pは、好ましくは0以上3以下の数である。
n1とn2が同じ数である場合、R14bのアルケニル基はR13bとは異なるアルケニル基である。
【0042】
本発明の水硬性組成物は、(b1)成分として、下記一般式(b11-3)で表される化合物(b11-3)と、下記一般式(b11-2)で表される化合物(b11-2)とを含有する態様が挙げられる。
【0043】
【0044】
〔式中、
n2は、0以上3以下の整数である。
R13bは、炭素数14以上22以下のアルケニル基である。
R14bは、n2が0のときは炭素数14以上22以下のアルキル基又は炭素数14以上22以下のアルケニル基であり、n2が1~3のときは炭素数13以上21以下のアルキル基又は炭素数13以上21以下のアルケニル基である。
ただし、n1とn2が同じ数である場合、R14bのアルケニル基はR13bとは異なるアルケニル基である。
R2及びR3は、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下のアルキル基又は-(C2H4O)pHで表される基である。pは、平均付加モル数であり、R2及びR3の合計で0以上5以下の数である。〕
【0045】
一般式(b11-3)で表される化合物(b11-3)は、前記一般式(b11-1)中、n1が0の化合物に相当する。一般式(b11-3)中のR13b、R2及びR3の好ましい態様は、一般式(b11-1)と同じである。この組み合わせにおいても、化合物(b11-2)の好ましい態様は前記と同じである。
【0046】
(b12)成分は、アニオン性芳香族化合物である。
アニオン性芳香族化合物としては、芳香環を有するスルホン酸、芳香環を有するカルボン酸、芳香環を有するホスホン酸、またはこれらの塩から選ばれる1種以上の化合物が挙げられ、芳香環を有するスルホン酸、芳香環を有するカルボン酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上の化合物が好ましい。アニオン性芳香族化合物は、酸型化合物として、総炭素数が6以上12以下であるものが好ましい。
アニオン性芳香族化合物としては、具体的には、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸、スルホサリチル酸、安息香酸、m-スルホ安息香酸、p-スルホ安息香酸、4-スルホフタル酸、5-スルホイソフタル酸、p-フェノールスルホン酸、m-キシレン-4-スルホン酸、クメンスルホン酸、メチルサリチル酸、スチレンスルホン酸、クロロ安息香酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上が挙げられ、水硬性組成物における水中不分離性と(a)成分の水硬性粉体への吸着速度制御の観点から、m-キシレン-4-スルホン酸、クメンスルホン酸、メチルサリチル酸、スチレンスルホン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上が好ましく、m-キシレン-4-スルホン酸、クメンスルホン酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上がより好ましく、m-キシレン-4-スルホン酸又はその塩が更に好ましい。
【0047】
(b2)成分は、セルロース系増粘剤である。
セルロース系増粘剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース等が挙げられる。セルロース系増粘剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びメチルセルロースから選ばれるセルロース系増粘剤が好ましい。セルロース系増粘剤は、セルロースファ
イバー、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタルのような形態のものを使用することもできる。
【0048】
セルロース系増粘剤は、セルロースのグルコース環の水酸基がメトキシ基で置換された構造を有するものが好ましい。その場合、該セルロース系増粘剤は、水硬性組成物における水中不分離性と(a)成分の水硬性粉体への吸着速度制御の観点から、セルロースのグルコース環単位当たり、メトキシ基で置換された水酸基の平均個数で定義される置換度が、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下、より更に好ましくは2以下であり、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.5以上、より更に好ましくは1.0以上である。
【0049】
また、セルロース系増粘剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースやヒドロキシエチルセルロースのような、セルロースのグルコース環の水酸基がヒドロキシプロポキシ基又はヒドロキシエトキシ基で置換された構造を有するものが好ましい。その場合、該セルロース系増粘剤は、水硬性組成物における水中不分離性と(a)成分の水硬性粉体への吸着速度制御の観点から、セルロースのグルコース環単位当たりに付加したヒドロキシプロポキシ基及び/又はヒドロキシエトキシ基の平均モル数で定義される置換モル数が、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下、より更に好ましくは2以下であり、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上、より更に好ましくは0.15以上であることが好ましい。
【0050】
セルロース系増粘剤は、セルロースのグルコース環の水酸基が、前記範囲の置換モル数のメトキシ基と、前記範囲の置換モル数のヒドロキシプロポキシ基及び/又はヒドロキシエトキシ基とで置換された構造を有するものがより好ましい。
【0051】
<(c)成分>
本発明の(c)成分は、オキシカルボン酸又はその塩である。
オキシカルボン酸は、分子中にヒドロキシ基とカルボキシ基とを有する、いわゆるヒドロキシカルボン酸である。オキシカルボン酸の炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、そして、好ましくは18以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは10以下、より更に好ましくは8以下であってよい。オキシカルボン酸が有する水酸基の数は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは4以上、そして、好ましくは18以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは10以下、より更に好ましくは8以下であってよい。オキシカルボン酸が有するカルボキシル基の数は、好ましくは1以上、そして、好ましくは12以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは3以下であってよい。
【0052】
オキシカルボン酸としては、具体的には、グルコン酸、クエン酸、グルコヘプトン酸、アラボン酸、リンゴ酸、酒石酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上が挙げられる。
オキシカルボン酸の塩は、ナトリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩が挙げられる。
(c)成分としては、水硬性組成物における(a)成分の水硬性粉体への吸着抑制と長時間の流動保持性の観点から、グルコン酸、酒石酸、クエン酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上が好ましく、グルコン酸、及びその塩から選ばれる1種以上がより好ましい。
【0053】
<水硬性粉体>
本発明の水硬性組成物に使用される水硬性粉体とは、水と混合することで硬化する粉体であり、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、エコセメント(例えばJIS R5214等)などのセメントが挙げられる。セメントは、早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、耐硫酸性ポルトランドセメント及び白色ポルトランドセメントから選ばれるセメントが好ましく、早強ポルトランドセメント、及び普通ポルトランドセメントから選ばれるセメントがより好ましく、早強ポルトランドセメントが更に好ましい。本発明の水硬性組成物は、水硬性粉体として、早強ポルトランドセメント、及び普通ポルトランドセメントから選ばれるセメントを含有することが好ましく、早強ポルトランドセメントを含有することがより好ましい。
【0054】
また、水硬性粉体には、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム、無水石膏等が含まれてよく、また、非水硬性の石灰石微粉末等が含まれていてもよい。水硬性粉体として、セメントと高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム等とが混合された高炉セメントやフライアッシュセメント、シリカヒュームセメントを用いてもよい。また、ベントナイトなどの粘土を含んでいてもよい。
【0055】
<骨材>
骨材としては、細骨材、粗骨材が挙げられる。用途によっては、軽量骨材を使用してもよい。なお、骨材の用語は、「コンクリート総覧」(1998年6月10日、技術書院発行)による。
細骨材としては、川砂、陸砂、山砂、海砂、石灰砂、珪砂及びこれらの砕砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、軽量細骨材(人工及び天然)及び再生細骨材等が挙げられる。
粗骨材としては、JIS A0203-2014中の番号2312で規定されるものが挙げられる。粗骨材としては、例えば、川砂利、陸砂利、山砂利、海砂利、石灰砂利、これらの砕石、高炉スラグ粗骨材、フェロニッケルスラグ粗骨材、軽量粗骨材(人工及び天然)及び再生粗骨材等が挙げられる。コンクリート等の水硬性組成物の均質性の観点から、粗骨材の最大寸法は、好ましくは1.2mm以上、より好ましくは5mm以上、そしてポンプ圧送性の観点から、好ましくは20mm以下、より好ましくは15mm以下である。この粗骨材の最大寸法は、JIS A5005記載のふるい試験によって得られる粗骨材粒度の最大寸法である。
これら細骨材、粗骨材は、種類の違うものを混合して使用しても良く、単一の種類のものを使用しても良い。
【0056】
<組成等>
本発明の水硬性組成物は、(a)成分を、初期流動性および長時間の流動保持性の観点から、水硬性粉体に対して、好ましくは0.6質量%以上、より好ましくは0.7質量%以上、更に好ましくは0.8質量%以上、そして、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、更に好ましくは2.0質量%以下含有する。
【0057】
本発明の水硬性組成物において、(a)成分として、(a1)成分及び(a2)成分を含む場合、(a1)成分の含有量と(a2)成分の含有量との質量比(a1)/(a2)は、流動性の温度汎用性の観点から、好ましくは40/60以上、より好ましくは50/50以上、更に好ましくは60/40以上、更に好ましくは70/30以上、そして、好ましくは95/5以下、より好ましくは90/10以下、更に好ましくは85/15以下である。
【0058】
本発明の水硬性組成物は、(b)成分を、水中不分離性と(a)成分の水硬性粉体への吸着速度制御の観点から、水に対して、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、そして、好ましくは4.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、更に好ましくは2.5質量%以下、より更に好ましくは2.0質量%以下含有する。
【0059】
本発明の水硬性組成物は、(b)成分として(b1)成分を含有する場合、(b1)成分を、水中不分離性と(a)成分の水硬性粉体への吸着速度制御の観点から、水に対して、好ましくは0.50質量%以上、より好ましくは0.75質量%以上、更に好ましくは1.00質量%以上、そして、好ましくは4.00質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、更に好ましくは2.5質量%以下、より更に好ましくは2.0質量%以下含有する。
本発明において、(b1)成分として、(b12)成分を含む場合、(b12)成分の質量は、(b12)成分をナトリウム塩に換算した値を用いるものとする。
【0060】
本発明の水硬性組成物において、(b1)成分として、化合物(b11-1)、化合物(b11-2)、及び(b12)成分を含有する場合、水中不分離性と(a)成分の水硬性粉体への吸着速度制御の観点から、(b1)成分中、化合物(b11-1)の含有量が、好ましくは10質量%以上、より好ましくは14質量%以上、そして、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下であり、化合物(b11-2)の含有量が、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、そして、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下であり、(b12)成分の含有量が、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7.5質量%以上、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
【0061】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物において、(b1)成分として、化合物(b11-3)、化合物(b11-2)、及び(b12)成分を含有する場合、水中不分離性と(a)成分の水硬性粉体への吸着速度制御の観点から、(b)成分中、化合物(b11-3)の含有量が、好ましくは10質量%以上、より好ましくは14質量%以上、そして、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下であり、化合物(b11-2)の含有量が、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、そして、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下であり、(b12)成分の含有量が、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7.5質量%以上、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
【0062】
本発明の水硬性組成物は、(b)成分として(b2)成分を含有する場合、(b2)成分を、水中不分離性と(a)成分の水硬性粉体への吸着速度制御の観点から、水に対して、好ましくは0.30質量%以上、より好ましくは0.40質量%以上、更に好ましくは0.50質量%以上、そして、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは11.5質量%以下、更に好ましくは1.00質量%以下含有する。
【0063】
本発明の水硬性組成物は、(c)成分を、温度変化による変動を抑制する観点から、水硬性粉体に対して、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.04質量%以上、更に好ましくは0.06質量%以上、そして、24時間後の強度発現の観点から、好ましくは0.18質量%以下、より好ましくは0.15質量%以下、更に好ましくは0.13質量%以下含有する。
本発明において、(c)成分の質量は、(c)成分をナトリウム塩に換算した値を用いるものとする。
【0064】
本発明の水硬性組成物において、(a)成分の含有量と、(c)成分の含有量との質量比(a)/(c)は、水硬性組成物の広がり、および温度変化による変動を抑制する観点から、好ましくは4.5以上、より好ましくは5.5以上、更に好ましくは6.0以上、そして、好ましくは40以下、より好ましくは38以下、更に好ましくは36以下、より更に好ましくは30以下、より更に好ましくは25以下、より更に好ましくは20以下である
【0065】
本発明の水硬性組成物は、水を含有する。本発明の水硬性組成物は、水/水硬性粉体比(W/C)が、強度発現性の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは33質量%以上、更に好ましくは36質量%以上、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは43質量%以下、更に好ましくは41質量%以下である。
ここで、水/水硬性粉体比(W/C)は、水硬性組成物中の水と水硬性粉体の質量百分率(質量%)であり、水/水硬性粉体×100で算出される。
なお、水硬性粉体が、セメントなどの水和反応により硬化する物性を有する粉体の他、ポゾラン作用を有する粉体、潜在水硬性を有する粉体、及び石粉(炭酸カルシウム粉末)から選ばれる粉体を含む場合、本発明では、それらの量も水硬性粉体の量に算入する。また、水和反応により硬化する物性を有する粉体が、高強度混和材を含有する場合、高強度混和材の量も水硬性粉体の量に算入する。これは、水硬性粉体の質量が関係する他の質量部などにおいても同様である。
【0066】
本発明の水硬性組成物は、骨材の含有量が、好ましくは1000kg/m3以上、より好ましくは1350kg/m3以上、更に好ましくは1500kg/m3以上、そして、好ましくは2300kg/m3以下、より好ましくは2150kg/m3以下、更に好ましくは1900kg/m3以下である。
本発明の水硬性組成物は、細骨材の含有量が、好ましくは400kg/m3以上、より好ましくは500kg/m3以上、更に好ましくは600kg/m3以上、そして、好ましくは1100kg/m3以下、より好ましくは1000kg/m3以下、更に好ましくは900kg/m3以下である。
本発明の水硬性組成物は、粗骨材の含有量が、好ましくは500kg/m3以上、より好ましくは750kg/m3以上、更に好ましくは800kg/m3以上、そして、好ましくは1200kg/m3以下、より好ましくは1150kg/m3以下、更に好ましくは1000kg/m3以下である。
【0067】
本発明の水硬性組成物は、細骨材率が、好ましくは30体積%以上、より好ましくは34体積%以上、そして、好ましくは50体積%以下、より好ましくは46体積%以下が好適である。s/aは、細骨材(S)と粗骨材(G)の体積に基づき、s/a=〔S/(S+G)〕×100(体積%)で算出されるものである。
【0068】
水硬性組成物は、本発明の効果に影響ない範囲で、(a)成分、(b)成分、(c)成分以外の成分、例えば、AE剤、起泡剤、発泡剤、防水剤、流動化剤、消泡剤等を含有することができる。
【0069】
本発明の水硬性組成物は、種々の用途に使用できる。例えば、高流動コンクリート用、水中不分離コンクリート用、軽量高流動コンクリート用、透水性コンクリート用、場所打ちライニング工法(ECL工法)用、又はSENS工法用が挙げられる。なかでも、SENS工法用として好ましい。
【0070】
本発明の水硬性組成物は、JIS A1150(2007)に記載の方法で測定されるスランプフローが50cmに到達するまでの時間が、取り扱い性の観点から、好ましくは15秒以上、より好ましくは17秒以上、そして、好ましくは45秒以下、より好ましくは40秒以下である。
【0071】
<水硬性組成物の製造方法>
本発明の水硬性組成物は、(a)成分、(b)成分、(c)成分、水硬性粉体、及び水を混合することで製造できる。すなわち、本発明により、(a)成分、(b)成分、(c)成分、水硬性粉体、及び水を含有する水硬性組成物の製造方法が提供される。本発明の水硬性組成物の製造方法には、本発明の水硬性組成物で述べた事項を適宜適用することができる。例えば、各成分の具体例及び好ましい態様も本発明の水硬性組成物と同じである。また、本発明の水硬性組成物における各成分の含有量、及び各質量比は、各成分の含有量を混合量に置き換えて本発明の水硬性組成物の製造方法に適用することができる。
【0072】
本発明の水硬性組成物の製造方法では、JIS A1150(2007)に記載の方法で測定されるスランプフローが50cmに到達するまでの時間が、取り扱い性の観点から、好ましくは15秒以上、より好ましくは17秒以上、そして、好ましくは45秒以下、より好ましくは40秒以下である、水硬性組成物を製造することが好ましい。
【実施例0073】
実施例、比較例で使用した各成分を以下に示す。
(a)成分として使用した共重合体は以下の通りである。
・共重合体1:MEPEG(120)エステル/MAA=20/80(モル%)の共重合体、ナトリウム塩、重量平均分子量50,000
・共重合体2:MEPEG(120)エステル/MAA=35/65(モル%)の共重合体、ナトリウム塩、重量平均分子量60,000
・共重合体3:MEPEG(23)エステル/MAA=27/73(モル%)の共重合体、ナトリウム塩、重量平均分子量40,000
・共重合体4:MEPEG(120)エステル/MAA=10/90(モル%)の共重合体、ナトリウム塩、重量平均分子量40,000
・共重合体5:MEPEG(120)エステル/MAA=45/55(モル%)の共重合体、ナトリウム塩、重量平均分子量50,000
上記各共重合体の単量体は、以下のものである。
・MEPEG(120)エステル:メトキシポリエチレングリコール(120)モノメタクリレート(かっこ内の数字は、エチレンオキシドの平均付加モル数である。以下同様)、単量体(1a)
・MEPEG(23)エステル:メトキシポリエチレングリコール(23)モノメタクリレート、単量体(1a)
・MAA:メタクリル酸ナトリウム、単量体(2a)
【0074】
<(a)成分>
・a-1:共重合体1、(a)成分の全構成単量体中の単量体(2a)の平均割合80モル%
・a-2:共重合体2、(a)成分の全構成単量体中の単量体(2a)の平均割合65モル%
・a-3:共重合体1/共重合体4=75/25(質量比)の混合物、(a)成分の全構成単量体中の単量体(2a)の平均割合82.5モル%
・a-4:共重合体1/共重合体4=50/50(質量比)の混合物、(a)成分の全構成単量体中の単量体(2a)の平均割合85モル%
・a-5:共重合体1/共重合体2=50/50(質量比)の混合物、(a)成分の全構成単量体中の単量体(2a)の平均割合72.5モル%
・a-6:共重合体3、(a)成分の全構成単量体中の単量体(2a)の平均割合73モル%
【0075】
<(a’)成分((a)成分の比較成分)>
・a’-1:共重合体4、(a)成分の全構成単量体中の単量体(2a)の平均割合90モル%
・a’-2:共重合体5、(a)成分の全構成単量体中の単量体(2a)の平均割合55モル%
【0076】
(a)成分又は(a’)成分の全構成単量体中の単量体(2a)の平均割合は、(a)成分として、単量体(1a)と単量体(2a)とを構成単量体として含む共重合体を1種用いる場合、この共重合体における全構成単量体中の単量体(2a)の割合(モル%)を、単量体(2a)の平均割合とし、(a)成分として、単量体(1a)と単量体(2a)とを構成単量体として含む共重合体を2種以上用いる場合、各共重合体における全構成単量体中の単量体(2a)の割合(モル%)と、(a)成分中の各共重合体の割合(質量%)から、全共重合体における全構成単量体中の単量体(2a)の割合の平均値を算出し、単量体(2a)の平均割合とする。
例えば、a-3は、共重合体1(単量体(2a)の割合80モル%)と共重合体4(単量体(2a)の割合90モル%)の2種を質量比75/25で用いていることから、(a)成分の全構成単量体中の単量体(2a)の平均割合は、80×0.75+90×0.25=82.5となる。
【0077】
<(b)成分>
・b-1:オレイルジメチルアミンオキシド/オレイン酸アミドプロピルジメチルアミンオキシド/m-キシレンスルホン酸ナトリウム=14.7/75.5/9.8(質量%)の混合物、(b1)成分
・b-2:セルロース系増粘剤、(b2)成分、アスカクリーン、信越化学工業(株)製
【0078】
<(c)成分>
・c-1:グルコン酸ナトリウム
・c-2:酒石酸ナトリウム
・c-3:クエン酸ナトリウム
【0079】
[水硬性組成物の調製方法]
強制二軸ミキサ((株)IHI社製)に、表1記載の配合で、粗骨材(G)、細骨材(S1、S2)、水硬性粉体(C)を加え、10秒間空練りを行った。その後、表2に記載の含有量となるように(a)成分及び/又は(a’)成分、並びに(c)成分を含む水(W)を加え、90秒間撹拌(撹拌速度:40rpm)し、更に表2に記載の含有量となるように(b)成分を加えて、60秒撹拌し、水硬性組成物を調製した。なお、比較例2では(c)成分を加えずに水硬性組成物を調製した。
表2中、(a)又は(a’)成分の含有量は、水硬性組成物中の水硬性粉体に対する含有量(質量%)を示し、(b)成分の含有量は、水硬性組成物中の水に対する含有量(質量%)を示し、(c)成分の含有量は、水硬性組成物中の水硬性粉体に対する含有量(質量%)を示した。
【0080】
【0081】
表1記載の各材料は以下の通りである。
・水(W):水道水
・早強ポルトランドセメント(C):太平洋セメント株式会社製/住友大阪セメント株式会社=50/50(質量比)、密度3.14g/cm3
・細骨材(S1):京都府城陽産 山砂 表乾密度2.56g/cm3
・細骨材(S2):岐阜県揖斐川産 粗砂 表乾密度2.60g/cm3
・粗骨材(G):兵庫県家島産 砕石1005 表乾密度2.60g/cm3
【0082】
[流動性評価]
JIS A1150に従って、調製した各水硬性組成物について、表2に記載の温度(20℃、又は30℃)に調整し、混練直後(0分後)、及び混練から4時間後の各水硬性組成物をスランプコーンに充填し、スランプコーンを引き上げ、スランプコーン引上げ開始時から水硬性組成物の広がりがスランプフロー板に描いた直径500mmの円に最初に達した時までの時間をストップウォッチで測定し、この測定した時間を50cmフロータイムとした。結果を表2に示した。また混練直後の水硬性組成物、及び混練から4時間後の水硬性組成物について、20℃時のフロータイムから30℃時のフロータイムへの変動率を表2に示した。変動率が小さい程、水硬性組成物の流動性が温度に影響されにくいことを示している。また比較例3、4については、水硬性組成物の広がりが50cmに達しなかったため、表中では「未達」と記載した。
【0083】
[水中不分離性の評価]
JSCE―D 104―2007に従って、1000mlのガラスビーカーにイオン交換水を800ml入れ、調製した各水硬性組成物500gを量りとり、10分割し、1分割ずつヘラを用いて水面から静かに自由落下させた。全試料の投入は30秒間の間に終了させ、3分間放置したのち、吸引装置を用いて上澄み液を約600ml採取し、そのうち300mlをメスシリンダーで分取した。
105℃で1時間乾燥させたろ紙を用いて、分取した300mlの被検水を注ぎ入れ、吸引ろ過する。残留物がその上に溜まった状態のろ紙を受け皿に移し、105℃で2時間乾燥させ、懸濁物質量を算出し、水中不分離性を評価した。この評価では、懸濁物質量が500mg/L以下であるものを、水中不分離性「〇」、500mg/L未満を水中不分離性「×」とし、表2に示した。
【0084】
[供試体の強度評価]
調製した各水硬性組成物について、供試体をJIS A1132に従って作成し、型枠を取り外すまで温度20±2℃の室内で乾燥しないように養生し、接水から24時間後に型枠を取り外し、強度を試験した。
供試体の強度試験はJIS A1108に従って、測定した。結果を表2に示した。24時間後の圧縮強度の目標は15N/mm2以上が好ましい。
【0085】
【0086】
実施例1~12は、混練直後及び混練から4時間後のいずれにおいてもフロータイムの温度変化による変動率が、共重合体の単量体(2a)の平均割合が88モル%を超える比較例1と比べて小さいことがわかる。一方、共重合体の単量体(2a)の平均割合が60モル%未満の比較例3~4は、共重合体の添加量を増加しても水硬性組成物の広がりが50cmに達することができない上に、24時間強度も劣っていた。
また、(c)成分を含まない比較例2は、4時間後のフロータイムの温度変化による変動率が大きくなった。
さらに、実施例1~12は、水中不分離性を有することがわかる。