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特開2024-35305ポリエステル仮撚加工糸及びストレッチ織物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035305
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】ポリエステル仮撚加工糸及びストレッチ織物
(51)【国際特許分類】
   D02G 1/02 20060101AFI20240307BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20240307BHJP
   D03D 15/56 20210101ALI20240307BHJP
   D03D 15/49 20210101ALI20240307BHJP
【FI】
D02G1/02 Z
D03D15/283
D03D15/56
D03D15/49
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139682
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】518381846
【氏名又は名称】東洋紡せんい株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西田右広
【テーマコード(参考)】
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4L036MA05
4L036MA26
4L036MA33
4L036PA07
4L036PA14
4L036RA03
4L036RA04
4L036RA13
4L036UA01
4L036UA09
4L048AA20
4L048AA34
4L048AA51
4L048AB07
4L048AB11
4L048AB12
4L048AB21
4L048AC12
4L048BA01
4L048CA00
4L048CA04
4L048DA01
4L048EA00
(57)【要約】
【課題】上記した課題を達成するため、本発明は以下の構成からなる。
本発明はポリエステルマルチフィラメント糸からなる仮撚捲縮加工糸において、伸縮伸長率が30%以上50%以下、捲縮堅牢度が20%以上35%以下、伸縮復元率が30%以上40%以下、熱水寸法変化率が-9.5%以上-3.5%以下であるストレッチキックバック性に優れたポリエステル仮撚加工糸を用いてなる織物
【解決手段】上記した課題を達成するため、本発明は以下の構成からなる。
本発明はポリエステルマルチフィラメント糸からなる仮撚捲縮加工糸において、伸縮伸長率が30%以上50%以下、捲縮堅牢度が20%以上35%以下、伸縮復元率が30%以上40%以下、熱水寸法変化率が-9.5%以上-3.5%以下であるストレッチキックバック性に優れたポリエステル仮撚加工糸を用いてなる織物
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルマルチフィラメント糸からなる仮撚捲縮加工糸において、伸縮伸長率が30%以上50%以下、捲縮堅牢度が20%以上35%以下、伸縮復元率が30%以上40%以下、熱水寸法変化率が-9.5%以上-3.5%以下であるストレッチキックバック性に優れたポリエステル仮撚加工糸。
【請求項2】
ポリエステル仮撚加工糸を織物の経糸及び/または緯糸の少なくとも一部に用いてなる織物であって、経糸及び/または緯糸の最大浮き本数が2本以上4本以下、織物一完全組織の浮き本数比(経/緯)が1以上3以下である請求項1記載のポリエステル仮撚加工糸を用いてなる織物。
【請求項3】
2020年版JIS L1096 B法(織物の定荷重法)で規定される伸長方向の伸び率が5%以上25%以下、同JIS L1096 B-1法(定荷重法)で規定される伸長方向の30秒後の伸長回復率が85%以上である請求項2記載のポリエステル仮撚加工糸を用いてなる織物。
【請求項4】
2021年版JIS L1058 D-1法(ダメージ棒法)に準じ、ダメージ棒に研磨布を巻いた状態で2時間試験箱を回転させた後のスナッグ判定等級が3級以上である請求項2、3何れかに記載のポリエステル仮撚加工糸を用いてなる織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はストレッチ性に富み、ソフト感や嵩高性に優れ、繰返し洗濯によってもヘタリの少ないポリエステル仮撚加工糸及び当該仮撚加工糸を経糸及び/または緯糸の少なくとも一部に使用してなるストレッチ織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般作業服や工場作業服、医療用白衣などのユニフォーム用途やカジュアル、タウンユース用途にはポリエステルに代表される汎用熱可塑性合成繊維を使用した織編物が広く用いられている。汎用熱可塑性合成繊維、取り分けポリエステル繊維は強度に優れ、取扱性が容易であり、比較的安価である為、最も多く用いられている。また嵩高性や風合いを改善する為に収縮率の異なる複数種の繊維糸条を混繊した異収縮混繊糸や高圧攪乱気流処理によるループヤーン、仮撚処理による仮撚加工糸を製織編に供する方法が広く採用されている。
【0003】
取り分け、公知の仮撚加工法によれば、微細捲縮を糸条に付与することによる嵩高効果や適度なストレッチ性、ソフトな触感を布帛に与えることが可能である。仮撚加工の基本技術は1960年代に既に確立されており、マグネットスピンドルを用いたピン仮撚方式、多軸外接型摩擦仮撚によるフリクションディスク方式、エンドレスベルトを交差させ施撚を行うベルト仮撚方式などが数多く提案され、高速生産化や最近は省スペース化など作業効率を考慮した機種が多く上市・提案されている。仮撚加工糸は仮撚施撚域のみで加熱を施す所謂一段ヒーター仮撚の他、施撚具以降の工程で再度熱処理を施す二段ヒーター仮撚に大別され、専ら前者は織物用途に、後者は編物用途に好適に用いられている。
【0004】
織編物に適度なストレッチ性を付与する為には、ポリウレタンやポリエステルエラストマーなどの弾性繊維を被覆、若しくは交撚した糸条で製織編を行う他、収縮率が異なる二種以上のポリマーを芯鞘、又は貼合構造に複合紡糸して得られたバイコンポーネントファイバー、コンジュゲートファイバーとし、熱収縮率の差による潜在捲縮能によって捲縮を形成させ、ストレッチを得る方法、及び仮撚加工による方法などが多数提案されている。しかし弾性繊維やバイコンポーネントヤーンによる方法はコストが高い上、染色堅牢度の点で懸念点も多い。仮撚加工糸のストレッチキックバックは弾性繊維を用いたものに劣るが価格的にもリーズナブルであり、更には摩擦や移行昇華など各種染色堅牢度も良好であるため、広く好適に用いられている。
【0005】
例えば特許文献1には施撚域処理温度が130℃以上170℃以下の低温条件で仮撚したあと、上記の温度以上190℃以下の温度で5~20%の弛緩熱処理を行う嵩高加工糸の製造方法が提案されている。ただこの方法によると施撚域での処理温度が低く、尚且つ施撚域における加熱温度以上の温度で弛緩熱処理がなされるため、捲縮が低くストレッチ性に乏しい織編物となる。
【0006】
また特許文献2にはポリエステルフィラメントの延伸仮撚において仮撚施撚具と第二ヒーターへのデリベリローラー間、つまりは仮撚解撚域に糸条を屈折させるガイドを設け、嵩高い仮撚加工糸を得る方法が提案されている。しかし仮撚解撚域は張力が高く、尚且つ張力変動が大きく、屈折ガイドを挿入すると単糸切断毛羽の発生を誘発させる為、品位的並びに仮撚操業的には好ましい実施態様とは言えない。また第二ヒーターの加熱域に過供給下で糸条を導入するため、残留トルクが除かれ、取扱易い糸条になるが、織編物の嵩高性やバルキー感、ストレッチ性は一段ヒーター仮撚よりも乏しくなり、本発明が意図するストレッチキックバックに優れた仮撚加工糸織物にはならない。
【0007】
更に特許文献3には高速一段ヒーター仮撚による仮撚加工糸の製造方法が提案されている。この方法によればコストパフォーマンスに優れた仮撚加工糸を得ることが出来るが、ヒーター加熱時間が短い為、捲縮がへたり易く、織編物の嵩高性、バルキー感、ストレッチキックバックに乏しいものとなり、本発明が意図するストレッチキックバックに優れた仮撚加工糸織物にはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6-322625号公報
【特許文献2】特開2009-155771号公報
【特許文献3】特開平5-156535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記のような従来技術に鑑み、ポリウレタンなど弾性繊維を用いることなく、ストレッチ性、ソフト感及び嵩高性に優れ、尚且つ繰返し洗濯によってもヘタリの少ないポリエステル仮撚加工糸、及びポリエステル仮撚加工糸を用いたストレッチ織物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を達成するため、本発明は以下の構成からなる。
本発明はポリエステルマルチフィラメント糸からなる仮撚捲縮加工糸において、伸縮伸長率が30%以上50%以下、捲縮堅牢度が20%以上35%以下、伸縮復元率が30%以上40%以下、熱水寸法変化率が-9.5%以上-3.5%以下であるストレッチキックバック性に優れたポリエステル仮撚加工糸であり、第二に該ポリエステル仮撚加工糸を織物の経糸及び/または緯糸の少なくとも一部に用いてなる織物であって、経糸及び/または緯糸の最大浮き本数が2本以上4本以下、織物一完全組織の浮き本数比(経/緯)が1以上3以下である織物、第三に2020年版JIS L1096 B法(織物の定荷重法)で規定される伸長方向の伸び率が5%以上25%以下、同JIS L1096 B-1法(定荷重法)で規定される伸長方向の30秒後の伸長回復率が85%以上の織物、第四に2021年版JIS L1058 D-1法(ダメージ棒法)に準じ、ダメージ棒に研磨布を巻いた状態で2時間、試験箱を回転させた後のスナッグ判定等級が3級以上である織物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、適度のストレッチキックバック性、優れた洗濯耐久性、適度なソフト感とバルキー性を有する織物を提供することが可能となる。また、本発明のポリエステル仮撚加工糸及びストレッチ織物は、有害化学物質を用いて生産されるポリウレタン弾性糸を用いることなく適度なストレッチ性を保持出来るため、SDGs的な観点からも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】織物一完全組織の浮き本数比(経/緯)が1となる一例。
図2】織物一完全組織の浮き本数比(経/緯)が1となる一例。
図3】織物一完全組織の浮き本数比(経/緯)が1.67となる一例。
図4】織物一完全組織の浮き本数比(経/緯)が1.4となる一例。
図5】織物一完全組織の浮き本数比(経/緯)が2となる一例。
図6】織物一完全組織の浮き本数比(経/緯)が1となる一例。
図7】織物一完全組織の浮き本数比(経/緯)が1となる一例。
図8】織物一完全組織の浮き本数比(経/緯)が1となる一例。
図9】実施例、及び比較例に示した仮撚捲縮加工糸の物性及び織物の特性の一覧表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ポリエチレンテレフタレートはエチレングリコールとテレフタル酸、若しくはエチレングリコールとテレフタル酸ジメチルをモル比1:1で重縮合してなる芳香族系ポリマーであるが、エチレングリコール以外に1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオールなどのジオール成分、及びテレフタル酸、テレフタル酸ジメチル以外に5-スルホイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、セバシン酸やアジピン酸、アゼライン酸などの脂肪族ジカルボン酸などのジカルボン酸成分を共重合していてもよく、これら成分からなるポリエステルとの混練ブレンドポリマーであってもよい。また必要に応じて二酸化チタン、硫酸バリウム、二酸化ケイ素、カーボンブラック、カオリナイト、その他天然に算出する鉱物系微粒子、無機顔料、有機顔料、染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを混練して用いることが出来る。
【0014】
ポリエステルマルチフィラメント糸の総繊度、単糸繊度については特に限定を加えるものではないが、衣料用繊維の場合は総繊度として30デシテックス以上600デシテックス以下、より好ましくは50デシテックス以上450デシテックス以下が好適に用いられ、単糸繊度は0.5デシテックス以上10.0デシテックス以下、より好ましくは1.0デシテックス以上8.0デシテックス以下、更に好ましくは1.5デシテックス以上6.0デシテックス以下が好適に用いられる。断面形状についても丸断面の他、三角断面、その他多葉断面など公知のものが使用出来る。また単糸繊度は単一繊度に限定されるものではなく、例えば1.0デシテックス、1.5デシテックス、2.0デシテックスの三種の繊度の組合せからなる異繊度混マルチフィラメント糸も好ましく使用することが出来る。
【0015】
本発明のポリエステル仮撚加工糸の生産に用いる仮撚施撚具としては多軸外接型、内接型、ピン式、ベルト式など特に限定されるものではなく、公知の何れのものを用いてもよい。取り分け多軸外接型、いわゆるフリクションディスク式やベルト式などが高速生産対応可能であり使用するに好ましい。また延伸仮撚機は一般に施撚域に設置する第一ヒーター、及び仮撚施撚具より下流に設置する第二ヒーターの2つの加熱域を有する。何れのヒーターも熱媒式、若しくは電熱式の加熱によるものであるが、本発明のポリエステル仮撚加工糸は第二ヒーター温度を室温からガラス転移温度までの低温としておくことが望ましい。第二ヒーターは一般に糸条を過供給で熱処理するため、非接触式の中空パイプヒーターが好ましく採用される。
【0016】
また第一ヒーターでは糸条は延伸されながら施撚熱固定されるため、糸条温度としてはガラス転移温度以上融点以下の範囲、具体的には80℃以上220℃以下の範囲、より好ましくは160℃以上210℃以下の範囲、更に好ましくは180℃以上210℃以下の範囲で処理される。第一ヒーターについては非接触式、接触式の何れでも構わないが、非接触式が機台メンテナンスの観点から好ましく採用される。尚、言うまでもなく上記適正な温度領域として挙げた数値は糸条の温度であり、ヒーターの設定温度とは異なる。
【0017】
仮撚施撚具は上記のように特に限定されるものではなく、仮撚操業速度についても仮撚施撚具により異なる。例えばピン式の場合は80~150m/分程度、ベルト式では350~800m/分程度、フリクションディスク式では400~1000m/分程度が一般的であり、延伸仮撚機の種類に応じて適宜選定することが出来る。仮撚を施された仮撚加工糸はワインダーによって紙管に巻き取られるが、パッケージの形状についてもストレートワインド、バイコニカルワインドの何れも採用することが出来る。紙管巻取の際にはテール(尻糸)を付けておくことが次工程以降、連続操業を行う上で好ましい。
【0018】
本発明のポリエステル仮撚加工糸の伸縮伸長率は30%以上50%以下、好ましくは35%以上45%以下である。伸縮伸長率が30%未満の範囲では織編物に適度なストレッチ性を付与することが出来ず、50%を著しく超過する範囲では伸長性は十分なものになるが、逆に伸長回復性に乏しく、優れたストレッチキックバック性を得難い。伸縮伸長率を30%以上50%以下にコントロールすることによって適度な伸縮性、キックバック性に優れたストレッチ織物を得ることが出来る。
【0019】
またポリエステル仮撚加工糸の伸縮復元率は30%以上40%以下、好ましくは35%以上40%以下である。伸縮復元率が30%未満では織物のストレッチキックバックが乏しく、40%を著しく超過するとストレッチ性は良好だが、生地目付が重くなってしまい、逆に着心地が悪くなってしまい好ましくない。伸縮復元率を30%以上40%以下にコントロールすることによって、適度なストレッチ性と良好な着心地を兼備した織物に仕上げることが可能となる。
【0020】
更にポリエステル仮撚加工糸の熱水寸法変化率は-9.5%以上-3.5%以下、好適には-7.5%以上-3.5%以下である。-3.5%以上となると織物の膨らみ感、バルキー性が不足しペーパーライクな風合いとなり衣料用としては好ましくなく、-9.5%よりも著しく小さいと熱収縮が強過ぎ、生地目付が大きく、緻密なものとなってしまい着用快適性を損なう。-9.5%以上-3.5%以下の範囲にコントロールすることによって、適度な膨らみ感、バルキー性を兼ね備えた、一般衣料に適した織物に仕上げることが可能となる。尚、言うまでもなく熱水寸法変化率の-(マイナス)はサンプルの縮みを示すものであり、-(マイナス)の数字が大きいほど、収縮率が高いことを意味する。
【0021】
織物の製織はウォータージェットルームやエアージェットルーム、レピアルーム、ニードルルーム、プロジェクタイルルーム、フライシャトルルームなど公知のものを用いて実施することが出来る。織物組織は平織、斜文織(綾織)及び朱子織の三原組織を基本とするが、適宜組合せて変化織組織を形成する。一完全組織とは三原組織を含む織組織の繰返し最低単位である。本発明の織物は経糸及び/または緯糸の最大浮き本数が2本以上4本以下であることが望ましい。最大浮き本数が4本を超過する範囲となると耐スナッグ性が悪くなる。また最大浮き本数が1本となるとストレッチキックバック(伸長回復性)が悪く、残留歪み(いわゆる「ワライ」)が生じてしまい、品位的に好ましいものにはならない。
【0022】
また、織物一完全組織の浮き本数比(経/緯)は1以上3以下であることが望ましい。該浮き本数比が1未満では実質的に緯糸が多く表面に露出する形態となり、耐スナッグ、耐ピリング性能に乏しくなるなど、消費性能的に好ましいものにはならない。また該浮き本数比が3を超過する範囲では経糸が多く表面に露出する形態となり、これも耐スナッグや耐ピリング性能に乏しくなる他、耐摩耗性能も悪くなり、好ましいものにはならない。適用するに望ましい織物一完全組織として、例えば図1図10の組織を挙げる事が出来るが、言うまでもなく本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
本発明のストレッチ織物のストレッチ性能は2020年版JIS L1096 B法(織物の定荷重法)で規定される伸長方向の伸び率が5%以上25%以下、同JIS L1096 B-1法(定荷重法)で規定される30秒後の伸長回復率が85%以上を満足するものである。伸長方向の伸び率は5%以上25%以下、好ましくは8%以上25%以下、更に好ましくは10%以上25%以下である。当該伸び率が5%未満ではストレッチ性能に乏しく、逆に25%を超過する範囲では生地目付が重くなり過ぎ、好ましくない。
また伸長回復率については高ければ高い方がよく、すなわち100%に近いほど理想的であるのは言うまでもない。伸長回復率が85%を著しく下回る場合は伸長後の残留歪み(いわゆる「ワライ」)が生じてしまい、品位的に好ましいものにはならない。
【0024】
高いストレッチキックバック性を保持させるには、単純に織物の経/緯の組織点を減らしてやれば糸/糸拘束が緩み、ストレッチキックバックが良くなるが、トレードオフの関係にある耐スナッグ性、耐ピリング性が悪くなる。本発明では耐スナッグ性能も改善させる為、織物組織と糸構成を高次に組合せ、耐スナッグ性能を満足する要件として2021年版JIS L1058 D-1法(ダメージ棒法)に準じ、ダメージ棒に研磨布を巻いた状態で2時間試験箱を回転させたときのスナッグ判定等級が3級以上、より好ましくは3.5級以上、更に好ましくは4級以上をその要件とする。該スナッグ性能が3級未満では消費性能的に好ましくない。耐スナッグ性能を更に向上させる為に、必要に応じスナッグ向上剤を染色加工の任意の工程で付与することも可能である。
【0025】
本発明のストレッチ織物は上記構成で織物生機を得、常法の染色加工方法で生地加工を行うが、必要に応じて生地の染色加工の任意の工程で柔軟加工剤や硬め加工剤などによる風合い仕上げ加工や撥水撥油加工、吸水防汚加工、帯電防止加工、吸汗速乾加工、抗菌加工、抗ウイルス加工、消臭加工などの機能高次加工を付与することが出来る。ポリエステルの染色は液流染色機を用いた高圧分散染色の他、サーモゾル法やパッドスチーム法のようなパッド法、インクジェットプリントやロータリースクリーンプリント、フラットスクリーンプリントのような捺染法など、公知の染色方法で実施するが、最終の仕上セットで伸長方向に過度に引っ張って仕上げてしまうと繰返し洗濯による生地収縮が大きくなってしまう為、染色工程にて湿熱収縮する分を予め想定・勘案した上でプレセット条件を定め、仕上げセットではほぼ有幅、有長でセット出来るように条件設定することが肝要である。
【実施例0026】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明する、尚、本発明は実施例中及び本文中に記載の内容に限定されるものではない。また本発明中の特性値は下記の測定方法に基づき、評価されるものである。
(繊度)
2021年版JIS L1013.8.3.1 B法(簡便法)記載の方法。
(伸縮伸長率)
2021年版JIS L1013.8.11 C法(簡便法)記載の方法。
(伸縮復元率)
2021年版JIS L1013.8.12記載の方法。
(熱水寸法変化率)
2021年版JIS L1013.8.18.1 A法(かせ寸法変化率)記載の方法。
【0027】
(捲縮堅牢度)
枠周1.125mの検尺機を用いて表示繊度(dtex)×1/10×9/10gの初荷重を掛けて8回捲きの綛(糸長9m)を作成する。作成した綛を8の字状にして2つ折りに重ねることを2回繰り返しフックに掛け、ラピゾール液を2g/dm3濃度で調整した98±2℃の熱水中に表示繊度(dtex)×5/1000×9/10gの荷重下で15分間浸漬する。浸漬処理後に綛を取り出し荷重を除去した後、元の8回捲きの綛の状態に戻し、表示繊度(dtex)×2/10×9/10gの荷重を掛けて1分後の糸長cを測定する。荷重を除き無荷重の状態で雰囲気温度60±2℃の乾燥機内で30分間乾燥した後、室温で60分間放置し、表示繊度(dtex)×2/1000×9/10gの荷重を掛けて1分後の糸長dを測定する。得られた数値を数式1に代入して捲縮堅牢度(CD)を算出する。測定回数5回の平均値を特性値として求める。
数式1 捲縮堅牢度(CD(%))=[(c-d)/c]×100
【0028】
(織物の伸長方向の伸び率)
2020年版JIS L1096 B法(織物の定荷重法)記載の方法。
(織物の伸長方向の伸長回復率)
2020年版JIS L1096 B-1法(定荷重法)記載の方法。
(織物のスナッグ試験)
2021年版JIS L1058 7.3.2記載のD-1法に準じ、ダメージ棒に研磨布を巻いた状態で2時間操作後の試料を等級判定する。
【0029】
(実施例1)
常法の溶融紡糸法によって得られたポリエステルセミダルマルチフィラメント280デシテックス48フィラメント部分配向糸(POY)を用い、村田機械社製ベルト式延伸仮撚機(機種名 Mach Crimper NO.33J型)を使用し、第一ヒーター温度195℃、延伸比1.67倍で延伸仮撚を施し、167デシテックス48フィラメントの仮撚加工糸を得た。ベルト交差角シータは110°、ベルト速度とデリベリローラーの速度比であるB/Yは1.50、巻取速度は400m/分である。得られたポリエステルマルチフィラメント延伸仮撚糸の各加工糸物性は表1記載の通りとなった。
【0030】
経糸としてポリエステルフルダル84デシテックス48フィラメント仮撚加工糸、緯糸に上記の条件で得られたポリエステルセミダル167デシテックスマルチフィラメントを用い、レピアルームを用いて図2の織組織で織物生機を得た。該織物生機についてプレウェット槽を有するオープンソーパーで精練処理した後、浴温110℃にて液流リラックス処理を施し、スカッチャーによる拡布、ショートループドライヤーによる乾燥を行った。次いで、チャンバー温度150℃に調整したヒートセッターで中間セットを施した後、浴温130℃にて高圧分散染色を実施した。その際、吸水SR加工剤を同時吸尽処理した。染色加工後に還元洗浄、湯洗・水洗を繰返し再度、スカッチャーによる拡布、ショートループドライヤーによる乾燥処理を実施後、一次帯電防止剤、抗菌加工剤、可縫性向上剤、風合い調整剤の混合溶液を190℃の条件にてパッドドライキュア法で処理し、生地を仕上げた。得られた生地の特性値を表1に纏めた。目的とする適度なストレッチキックバック性、ソフト感、嵩高性に富み、医療用白衣や一般作業服としても好適な織物を得た。
【0031】
(実施例2)
実施例1で使用したポリエステルセミダルマルチフィラメント280デシテックス48フィラメント部分配向糸(POY)を用い、石川製作所社製ピン式延伸仮撚機(機種名 IVF338型)を使用し、第一ヒーター温度190度、延伸比1.67倍で延伸仮撚を施し、167デシテックス48フィラメントの仮撚加工糸を得た。因みに使用スピナーは阿波スピンドル社製の2.5mm偏芯サファイアピン、スピナー回転数350,000回/分、設定撚数2,700回/m、巻取速度は129.5m/分である。得られたポリエステルマルチフィラメント延伸仮撚糸の各加工糸物性は表1記載の通りとなった。
【0032】
経糸としてポリエステルフルダル84デシテックス48フィラメント仮撚加工糸、緯糸に上記の条件で得られたポリエステルセミダル167デシテックスマルチフィラメントを用い、レピアルームを用いて図7の織組織で織物生機を得た。該織物生機についてプレウェット槽を有するオープンソーパーで精練処理した後、浴温110℃にて液流リラックス処理を施し、スカッチャーによる拡布、ショートループドライヤーによる乾燥を行った。次いで、チャンバー温度150℃に調整したヒートセッターで中間セットを施した後、浴温130℃にて高圧分散染色を実施した。その際、吸水SR加工剤を同時吸尽処理した。染色加工後に還元洗浄、湯洗・水洗を繰返し再度、スカッチャーによる拡布、ショートループドライヤーによる乾燥処理を実施後、一次帯電防止剤、抗菌加工剤、可縫性向上剤、風合い調整剤の混合溶液を190℃の条件にてパッドドライキュア法で処理し、生地を仕上げた。得られた生地の特性値を表1に纏めた。目的とする適度なストレッチキックバック性、ソフト感、嵩高性に富み、医療用白衣や一般作業服としても好適な織物を得た。
【0033】
(実施例3)
実施例1で使用したポリエステルセミダルマルチフィラメント280デシテックス48フィラメント部分配向糸(POY)を用い、TMTマシナリー社製フリクションディスク式延伸仮撚機(機種名 ATF-12型)を使用し、第一ヒーター温度200℃、延伸比1.67倍で延伸仮撚を施し、167デシテックス48フィラメントの仮撚加工糸を得た。因みにディスクビルディングは糸道上流より金属製ガイドディスク―ポリウレタン製ディスク―セラミックス製ナイフディスクの組合せによる1-7―1構成、使用するポリウレタン製ディスクは厚みが6mm/枚、Asker C硬度90°のものを用いた。またディスク周速とデリベリローラーの速度比であるD/Yは1.86、巻取速度は400m/分である。得られたポリエステルマルチフィラメント延伸仮撚糸の各加工糸物性は表1記載の通りとなった。
【0034】
経糸としてポリエステルフルダル84デシテックス48フィラメント仮撚加工糸、緯糸に上記の条件で得られたポリエステルセミダル167デシテックスマルチフィラメントを用い、レピアルームを用いて図7の織組織で織物生機を得た。該織物生機についてプレウェット槽を有するオープンソーパーで精練処理した後、浴温110℃にて液流リラックス処理を施し、スカッチャーによる拡布、ショートループドライヤーによる乾燥を行った。次いで、チャンバー温度150℃に調整したヒートセッターで中間セットを施した後、浴温130℃にて高圧分散染色を実施した。その際、吸水SR加工剤を同時吸尽処理した。染色加工後に還元洗浄、湯洗・水洗を繰返し再度、スカッチャーによる拡布、ショートループドライヤーによる乾燥処理を実施後、一次帯電防止剤、抗菌加工剤、可縫性向上剤、風合い調整剤の混合溶液を190℃の条件にてパッドドライキュア法で処理し、生地を仕上げた。得られた生地の特性値を表1に纏めた。目的とする適度なストレッチキックバック性、ソフト感、嵩高性に富み、医療用白衣や一般作業服としても好適な織物を得た。
【0035】
(比較例1)
実施例1でポリエステルセミダルマルチフィラメント280デシテックス48フィラメント部分配向糸(POY)を用い、TMTマシナリー社製フリクションディスク式延伸仮撚機(機種名 ATF-12型)を使用し、第一ヒーター温度200℃、延伸比1.67倍、第二ヒーター温度190℃、第二ヒーター加熱域への糸条過供給比+5.0%で延伸仮撚を施し、175デシテックス48フィラメントの仮撚加工糸を得た他は実施例3同様の方法で織物生機を得た。因みに得られたポリエステルマルチフィラメント延伸仮撚糸の各加工糸物性は表1記載の通りである。
【0036】
仕上がり、医療用白衣や一般ユニフォームとしては好ましいものにはならなかった。該織物生機についてプレウェット槽を有するオープンソーパーで精練処理した後、浴温110℃にて液流リラックス処理を施し、スカッチャーによる拡布、ショートループドライヤーによる乾燥を行った。次いで、チャンバー温度150℃に調整したヒートセッターで中間セットを施した後、浴温130℃にて高圧分散染色を実施した。その際、吸水SR加工剤を同時吸尽処理した。染色加工後に還元洗浄、湯洗・水洗を繰返し再度、スカッチャーによる拡布、ショートループドライヤーによる乾燥処理を実施後、一次帯電防止剤、抗菌加工剤、可縫性向上剤、風合い調整剤の混合溶液を190℃の条件にてパッドドライキュア法で処理し、生地を仕上げた。得られた生地の特性値を表1に纏めた。織物はストレッチキックバックが乏しく、伸長処理後は「ワライ」が確認され、膨らみ感やソフト感もやや不足気味のものになった。
【0037】
(比較例2)
常法の溶融紡糸法によって得られたポリエステルセミダルマルチフィラメント140デシテックス72フィラメント部分配向糸(POY)を用い、村田機械社製ベルト式延伸仮撚機(機種名 Mach Crimper NO.33J型)を使用し、第一ヒーター温度190℃、延伸比1.67倍で延伸仮撚を施し、仮撚施撚具の下流で2本合糸引き揃え、インターレース交連絡処理し、167デシテックス144フィラメントの仮撚加工糸を得た。ベルト交差角シータは110°、ベルト速度とデリベリローラーの速度比であるB/Yは1.50、巻取速度は450m/分である。得られたポリエステルマルチフィラメント延伸仮撚糸の各加工糸物性は表1記載の通りとなった。該ポリエステルマルチフィラメント仮撚加工糸を用いた他は実施例1同様の方法で染色加工布を得た。得られた生地の特性値を表1に纏めた。得られた織物は風合いがソフトでバルキー感に富むものとなったが、ストレッチキックバックに乏しく、医療用白衣や一般ユニフォームとしては好ましいものにはならなかった。
【0038】
(比較例3)
実施例1で使用したポリエステルセミダルマルチフィラメント280デシテックス48フィラメント部分配向糸(POY)を用い、石川製作所社製ピン式延伸仮撚機(機種名 IVF338型)を使用し、第一ヒーター温度170℃、延伸比1.67倍で延伸仮撚を施し、167デシテックス48フィラメントの仮撚加工糸を得た。因みに使用スピナーは阿波スピンドル社製の2.5mmファイ偏芯サファイアピン、スピナー回転数170,000回/分、設定撚数2,000回/m、巻取速度は85.0m/分である。得られたポリエステルマルチフィラメント延伸仮撚糸の各加工糸物性は表1記載の通りとなった。該ポリエステルマルチフィラメント仮撚加工糸を用いた他は実施例2同様の方法で染色加工布を得た。得られた生地の特性値を表1に纏めた。得られた織物はソフトな風合いを呈するものの、若干バルキー性に欠けるものとなった。またストレッチキックバックに乏しく、医療用白衣や一般ユニフォームとしては好ましいものにはならなかった。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のポリエステル仮撚加工糸及びストレッチ織物によれば、ポリウレタン弾性糸使いの織編物のような強い伸縮性を有するものにはならないが、適度のストレッチキックバック性、優れた洗濯耐久性、適度なソフト感とバルキー性を有する織物を得ることが可能となる。取り分けポリウレタン弾性糸を製造する際は、ジメチルアセトアミド(DMAc)やジメチルホルムアミド(DMF)などの極性有機溶媒を使用するが、該有機溶媒は蒸気吸引による呼吸器吸収や薬剤取扱作業による経皮吸収によって体内に取り込まれ、肝臓を主たる標的臓器として作業者の健康に害を及ぼす可能性が高いことが判っている。SDGsの観点でも有害性のある有機溶媒への暴露を軽減させることが望まれており、持続可能な社会の実現にも貢献が出来る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2022-11-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
図1】織物一完全組織の浮き本数比(経/緯)が1となる一例。
図2】織物一完全組織の浮き本数比(経/緯)が1となる一例。
図3】織物一完全組織の浮き本数比(経/緯)が1.67となる一例。
図4】織物一完全組織の浮き本数比(経/緯)が1.4となる一例。
図5】織物一完全組織の浮き本数比(経/緯)が2となる一例。
図6】織物一完全組織の浮き本数比(経/緯)が1となる一例。
図7】織物一完全組織の浮き本数比(経/緯)が1となる一例。
図8】織物一完全組織の浮き本数比(経/緯)が1となる一例。