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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035319
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】樹脂製保持器および転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/44 20060101AFI20240307BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20240307BHJP
   F16C 33/41 20060101ALI20240307BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
F16C33/44
F16C19/06
F16C33/41
F16C33/66 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139707
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】酒井 紘平
(72)【発明者】
【氏名】秦 暦
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701BA25
3J701BA37
3J701BA44
3J701BA49
3J701CA14
3J701EA31
3J701EA36
3J701EA37
3J701EA63
3J701EA76
3J701FA32
3J701XB03
3J701XB19
3J701XB26
3J701XB35
(57)【要約】
【課題】グリースの初期漏れを抑制可能な樹脂製保持器、および、この保持器を備えた転がり軸受を提供する。
【解決手段】保持器5は、環状の保持器本体51上に、軸方向一方側に開口して転動体である玉を保持する複数のポケット52を有する冠形の転がり軸受用の樹脂製保持器であり、周方向に隣接するポケット52の間を連結する連結部54を有し、連結部54は、ポケット開口側の端面に、軸方向断面視での径方向に対して傾斜した傾斜面56を有し、連結部54において、外径側端部Eoにおける肉厚ho[mm]が、内径側端部Eiにおける肉厚hi[mm]よりも小さい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の保持器本体上に、軸方向一方側に開口して転動体である玉を保持する複数のポケットを有する冠形の転がり軸受用の樹脂製保持器であり、
前記樹脂製保持器は、周方向に隣接する前記ポケット間を連結する連結部を有し、
前記連結部は、ポケット開口側の端面に、軸方向断面視での径方向に対して傾斜した傾斜面を有することを特徴とする樹脂製保持器。
【請求項2】
前記連結部において、外径側端部における肉厚ho[mm]が、内径側端部における肉厚hi[mm]よりも小さいことを特徴とする請求項1記載の樹脂製保持器。
【請求項3】
前記樹脂製保持器が、深溝玉軸受用保持器であり、
前記深溝玉軸受における前記玉の径Da[mm]と、前記肉厚ho[mm]と、前記肉厚hi[mm]とが、下記式(1)~(3)の関係をすべて満たすことを特徴とする請求項2記載の樹脂製保持器。
7≦Da≦17・・・(1)
0.7Da≦hi≦0.9Da・・・(2)
ho/hi≦0.9・・・(3)
【請求項4】
前記連結部は、ポケット開口側の前記端面とその反対側の端面が平行に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の樹脂製保持器。
【請求項5】
内輪および外輪からなる軌道輪と、前記内輪と前記外輪との間に介在する複数の転動体である玉と、この玉を保持する保持器と、軸受空間に封入されるグリースと、前記軌道輪の一方に固定されて軸受空間を密封するシール部材とを備えてなる転がり軸受であって、
前記保持器が、請求項1または請求項2記載の樹脂製保持器であることを特徴とする転がり軸受。
【請求項6】
前記シール部材は、前記外輪に固定され、
前記転がり軸受の使用前の状態において、前記グリースが、前記外輪の転走面と前記玉との間に封入されていることを特徴とする請求項5記載の転がり軸受。
【請求項7】
内輪および外輪からなる軌道輪と、前記内輪と前記外輪との間に介在する複数の転動体である玉と、この玉を保持する保持器と、軸受空間に封入されるグリースと、前記軌道輪の一方に固定されて軸受空間を密封するシール部材とを備えてなる転がり軸受であって、
前記保持器が、環状の保持器本体上に、軸方向一方側に開口して前記玉を保持する複数のポケットを有する冠形の樹脂製保持器であり、
前記転がり軸受の使用前の状態において、前記グリースが、前記軌道輪の転走面と前記玉との間に封入されていることを特徴とする転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受用の樹脂製保持器、および該保持器を有し、グリース潤滑される転がり軸受に関する。特に、モータ用グリース潤滑軸受に使用される樹脂製保持器に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受は、一般的に内輪、外輪、転動体、および保持器で構成されている。外部からの異物の侵入を防ぐためや、内部に封入した潤滑剤の流出を防ぐために、開口端部にシール部材が設けられる場合がある。軸受内部の潤滑剤には、グリースが用いられることが多い。グリースは、取り扱いが容易であり、密封装置の設計も簡素化できる。また、グリースは再供給する必要がなく、メンテナンス性が優れている。
【0003】
上述のようにグリース封入軸受は比較的メンテナンス性に優れるものの、使用環境によっては、グリースが軸受外部に漏れ出る現象(グリース漏れ)が起こる場合がある。グリース漏れを抑制する技術として、従来、下記のような技術が提案されている。
【0004】
特許文献1には、シールリップのリップ形式を変更し、特殊なラビリンス構造とすることでグリース漏れを抑制する技術が記載されている。
【0005】
特許文献2には、保持器のポケット部に凹み形状を設け、内輪シール溝へのグリースの付着を生じ難くすることでグリース漏れを抑制する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-337426号公報
【特許文献2】特開2008-286390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
グリース封入軸受においては、運転初期に軸受の玉(鋼球など)がグリースをかき分け、かき分けられたグリースがシールリップに付着して漏れ出る場合(初期漏れ)と、継続的な使用により外部環境(温度や飛散油)の影響も受けて徐々に漏れ出る場合(中長期的な漏れ)とがある。
【0008】
特許文献1や特許文献2に記載の技術は、フィルム延伸機のテンタクリップ用軸受などのように、外部からの飛散油の流入などによる内部グリースの流出が軸受寿命に影響を及ぼすような条件で使用される軸受におけるグリース漏れの中長期的な漏れの抑制に特に適しているものの、初期漏れに対してはさらなる改善の余地がある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、グリースの初期漏れを抑制可能な樹脂製保持器および転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の樹脂製保持器は、環状の保持器本体上に、軸方向一方側に開口して転動体である玉を保持する複数のポケットを有する冠形の転がり軸受用の樹脂製保持器であり、上記樹脂製保持器は、周方向に隣接する上記ポケット間を連結する連結部を有し、上記連結部は、ポケット開口側の端面に、軸方向断面視での径方向に対して傾斜した傾斜面を有することを特徴とする。
【0011】
上記連結部において、外径側端部における肉厚ho[mm]が、内径側端部における肉厚hi[mm]よりも小さいことを特徴とする。
【0012】
上記樹脂製保持器が、深溝玉軸受用保持器であり、上記深溝玉軸受における上記玉の径Da[mm]と、上記肉厚ho[mm]と、上記肉厚hi[mm]とが、下記式(1)~(3)の関係をすべて満たすことを特徴とする。
7≦Da≦17・・・(1)
0.7Da≦hi≦0.9Da・・・(2)
ho/hi≦0.9・・・(3)
【0013】
上記連結部は、ポケット開口側の上記端面とその反対側の端面が平行に形成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の転がり軸受は、内輪および外輪からなる軌道輪と、上記内輪と上記外輪との間に介在する複数の転動体である玉と、この玉を保持する保持器と、軸受空間に封入されるグリースと、上記軌道輪の一方に固定されて軸受空間を密封するシール部材とを備えてなる転がり軸受であって、上記保持器が、本発明の樹脂製保持器であることを特徴とする。
【0015】
上記シール部材は上記外輪に固定され、上記転がり軸受の使用前の状態において、上記グリースが、上記外輪の転走面と上記玉との間に封入されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の転がり軸受は、内輪および外輪からなる軌道輪と、上記内輪と上記外輪との間に介在する複数の転動体である玉と、この玉を保持する保持器と、軸受空間に封入されるグリースと、上記軌道輪の一方に固定されて軸受空間を密封するシール部材とを備えてなる転がり軸受であって、上記保持器が、環状の保持器本体上に、軸方向一方側に開口して上記玉を保持する複数のポケットを有する冠形の樹脂製保持器であり、上記転がり軸受の使用前の状態において、上記グリースが、上記軌道輪の転走面と上記玉との間に封入されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の樹脂製保持器は、周方向に隣接するポケット間を連結する連結部を有し、連結部は、ポケット開口側の端面に、軸方向断面視での径方向に対して傾斜した傾斜面を有するので、転がり軸受へのグリース充填時にグリースが傾斜面に沿って移動し、軸受の使用前の状態においてグリース(初期グリース)が軌道輪の転走面と玉との間に配置される。その結果、グリース漏れの起こりやすい軸受側部(特に、シールリップ)から離れた位置に初期グリースを存在させやすく、グリースの初期漏れを抑制できる。
【0018】
連結部において、外径側端部における肉厚ho[mm]が、内径側端部における肉厚hi[mm]よりも小さいので、初期グリースが外輪側へ封入されやすい。これにより、本発明の樹脂製保持器を、シール部材が外輪側に固定されたグリース封入転がり軸受の保持器として用いた場合、シールリップからより離れた位置である外輪の転走面と玉との間に初期グリースが封入され、グリースの初期漏れを抑制できる。
【0019】
樹脂製保持器が、深溝玉軸受用保持器であり、深溝玉軸受における玉の径Da[mm]と、肉厚ho[mm]と、肉厚hi[mm]とが、上記式(1)~(3)の関係をすべて満たすので、転がり軸受が高速回転や高温下での回転により変形しやすい状況にある場合でも、樹脂製保持器全体として機械的強度(剛性)が低下しにくい。
【0020】
連結部は、ポケット開口側の端面とその反対側の端面が平行に形成されているので、樹脂製保持器を樹脂成形装置により製造する際にヒケが発生しにくい。また、軸受空間において、シールリップ付近にグリースが逃げ込める空間ができるため、グリースの初期漏れをさらに抑制できる。
【0021】
本発明の転がり軸受は、保持器が、環状の保持器本体上に、軸方向一方側に開口して転動体である玉を保持する複数のポケットを有する冠形の樹脂製保持器であり、軸受の使用前の状態においてグリースが、軌道輪の転走面と、玉との間に封入されているので、グリース漏れの起こりやすい軸受側部(特に、シールリップ)から離れた位置に初期グリースを存在させやすいため、グリースの初期漏れを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の転がり軸受の一例を示す一部断面図である。
図2】本発明の樹脂製保持器の一例を示すポケット周辺の展開図である。
図3】本発明の転がり軸受へのグリース充填を示す図である。
図4】本発明の転がり軸受の他の例を示す一部断面図である。
図5】種々の樹脂製保持器を備えた転がり軸受の一部断面図である。
図6図2の他の例のポケット周辺の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の転がり軸受について図1に基づき説明する。図1は、本発明の転がり軸受として本発明の樹脂製保持器(以下、単に「保持器」ともいう)を組み込んだ深溝玉軸受の軸方向断面視での一部断面図である。ここで、後述する保持器の連結部は玉よりも紙面手前側に位置しており、連結部の紙面手前側端面を表わすハッチングを省略している。
【0024】
図1に示すように、転がり軸受1は、内輪2および外輪3からなる軌道輪と、内輪2と外輪3との間に介在する複数の転動体である玉4と、この玉4を保持する保持器5とを備える。転がり軸受1は、外周面に軌道面(転走面)2aを有する内輪2と、内周面に転走面3aを有する外輪3とが同心に配置される。転がり軸受1は、さらに、内・外輪の軸方向両端開口部に設けられた環状のシール部材6を備えており、内輪2と外輪3と保持器5とシール部材6とで構成される軸受空間に封入されたグリース(図示省略)によって潤滑される。図1において、シール部材6は、外輪3に固定され、内輪側のシールリップ61は内輪2の摺接面2bと接触して軸受空間を密封している。なお、シール部材6は、内輪2にシールリップ61が接触しない非接触シールであってもよい。また、シール部材6は、内輪2に固定されて軸受空間を密封する形態であってもよい。
【0025】
図2に基づいて保持器の詳細を説明する。図2は、本発明の保持器の一例を示すポケット周辺の展開図であり、外径側から見た図である。図2に示すように、保持器5は、環状の保持器本体(円環部)51上に、軸方向一方側に開口して玉を保持する複数のポケット52を有する冠形の樹脂製保持器である。より詳細には、環状の保持器本体51上に周方向に一定ピッチをおいて対向する一対の保持爪53、53を形成し、その対向する各保持爪53を相互に接近する方向にわん曲させるとともに、その保持爪53間に玉を保持するポケット52を形成したものである。隣接するポケット52、52の縁に形成された相互に隣接する保持爪53、53の背面相互間に、ポケット52、52の間を連結する連結部54が形成され、これら保持爪53と連結部54とで溝部55が構成される。すなわち、保持爪53の背面(ポケット反対側面)が溝部55の内側面を構成し、連結部54の天面(ポケット開口側の端面)が溝部55の底面を構成する。
【0026】
本発明において、連結部54は、ポケット開口側の端面に、軸方向断面視での径方向に対して傾斜した傾斜面56を有する。傾斜面56は、内径側から外径側に向かうにつれて保持器5の軸方向の肉厚が小さくなるように形成されている。このような構成により、グリース充填時において溝部55がグリースの誘導路として機能する。
【0027】
ここで、冠形保持器を備えた転がり軸受に対するグリース充填は、軸方向一方側から複数のノズルを用いて行われる。具体的には、円周方向に離間した複数のノズルを、軌道輪内に装着された保持器の連結部の位置に合わせて、ポケット開口側からグリースを充填することで行なわれる。
【0028】
次に、図3に基づいて、本発明の保持器を備えた転がり軸受へのグリース充填について説明する。なお、図3では、充填時のグリースの動きを黒矢印で表わす。図3に示すように、充填時の転がり軸受1では、保持器5のポケット開口側の端部にはシール部材6が設けられておらず、その反対側にのみシール部材6が設けられている。グリースは、グリース充填装置(図示省略)のノズルNzの先端から、保持器5の連結部のポケット開口側の端面(図3では傾斜面56)に向かって吐出される。吐出されたグリースは、ノズルNzからの吐出圧により傾斜面56に沿って外輪側へ移動する。外輪側へ移動したグリースは、ノズルNzからのさらなる吐出圧を受けて外輪3の転走面3aと玉4との間に入り込む。このように、ノズルNzから吐出されるグリースが傾斜面56によって誘導されることで、その大半が外輪側へ移動する。その結果、外輪3の転走面3aと玉4との間の方が、内輪2の転走面2aと玉4との間よりも多くグリースが封入される。なお、グリースの充填量は、例えば、軸受空間の約1/10以上であり、約2/10以上が好ましい。
【0029】
従来の冠形保持器は、連結部のポケット開口側の端面が径方向に平行な平面で形成されている。つまり、本発明の保持器のように連結部は傾斜面を有していない。この従来の冠形保持器の場合、ノズルNzの先端から保持器の連結部へ向けて吐出されたグリースは、溝部周辺の軸受側部付近などに留まりやすく、その結果、初期漏れが懸念される。
【0030】
これに対し、図3の場合、初期グリースを、シールリップ61から離れた位置に、具体的には外輪3の転走面3aと玉4との間に、容易に配置しやすくできることからグリースの初期漏れを抑制できる。
【0031】
図2に戻り、傾斜面についてより詳細に説明する。保持器5は、連結部54において、外径側端部Eoにおける肉厚ho[mm]が、内径側端部Eiにおける肉厚hi[mm]よりも小さいこと(すなわち、ho/hi<1)が好ましい。ここで、本発明において、ho、hiとは、保持器本体51のポケット非開口側の底面B(軸方向に直交する面)を基準とした軸方向の肉厚である。また、1つの連結部54において、外径側端部Eoにおける肉厚、および内径側端部Eiにおける肉厚が周方向で変化する場合、外径側端部Eoにおける肉厚のうち最も厚い部分の肉厚をhoとし、内径側端部Eiにおける肉厚のうち最も薄い部分の肉厚をhiとする。
【0032】
このような保持器を、シール部材が外輪側に固定された転がり軸受の保持器として用いた場合、図1に示すように、その傾斜面は全面にわたって外輪側を向くように傾斜する。その結果、シールリップ61から離れた位置である外輪3の転走面3aと玉4との間に初期グリースが封入されやすい。
【0033】
ここで、上述した肉厚ho[mm]、肉厚hi[mm]と、玉4(例えば鋼球)の径Da[mm]については、下記式(1)~(3)の関係の少なくともいずれか1つを満たすことが好ましく、少なくともいずれか2つを満たすことがより好ましく、すべて満たすことが特に好ましい。
7≦Da≦17・・・(1)
0.7Da≦hi≦0.9Da・・・(2)
ho/hi≦0.9・・・(3)
【0034】
上記式(1)~(3)のすべてを満たすことにより、転がり軸受1が高速回転や高温下での回転により変形しやすい状況にある場合でも、保持器5が変形しにくいとともに、初期グリースが外輪3の転走面3aと玉4との間に配置されやすい。
【0035】
図1の形態において、外輪3の転走面3aの軸方向略中央部に初期グリースを配置するため、保持器5の外径側端部Eoは玉4の中央と保持爪の端部との間にあることが好ましい。式で表すと、上記式(1)および式(2)を満たすことが好ましい。また、上記式(1)の範囲において、玉4の径Daは、9≦Da≦15であることがより好ましく、11≦Da≦13であることがさらに好ましい。上記式(2)の範囲において、肉厚hiは、保持器5の機械的強度の観点からは0.8Da≦hi≦0.9Daであることがより好ましく、0.85Da≦hi≦0.9Daであることがさらに好ましい。
【0036】
また、上記式(3)の範囲において、ho/hiは、保持器を射出成形などにより成形する際の製造ばらつきや、保持器の機械的強度の観点からは0.5≦ho/hi≦0.9であることが好ましく、グリース誘導の観点からは0.5≦ho/hi≦0.7であることが好ましい。ho/hiが、0.7≦ho/hi≦0.9である場合、保持爪における内径側と外径側での玉の保持力のバランスに優れる。
【0037】
図4には、本発明の転がり軸受の他の例を示す。この転がり軸受の保持器5aは、連結部がポケット開口側、非開口側の両端面に傾斜面を有している。図4(a)は、深溝玉軸受の一部断面図であり、図4(b)は、保持器におけるポケット周辺の展開図である。
【0038】
図4(a)に示すように、連結部54は、ポケット開口側の端面とその反対側の端面が平行に形成されている。具体的には、ポケット開口側の端面は、上述のように軸方向断面視での径方向に対して傾斜した傾斜面56であり、その反対側の端面も、軸方向断面視で傾斜面56と平行な傾斜面57となっている。また、図4(b)において、傾斜面56は外径側(紙面手前側)端部Eoから内径側(紙面奥側)端部Eiへ向かうにつれて底面Bからの高さが大きくなるように傾斜している。また、傾斜面57も同様に、外径側端部Eoから内径側端部Eiへ向かうにつれて底面Bからの高さが大きくなるように傾斜している。
【0039】
図4に示すように、連結部54は、ポケット52の開口側端面と反対側端面が平行に形成されることで、連結部54における肉厚が一定になりやすい。そのため、保持器5aを樹脂成形装置により製造する際にヒケが発生しにくい。また、軸受空間において、シールリップ付近にグリースが逃げ込める空間ができるため、グリースの初期漏れをさらに抑制できる。
【0040】
なお、連結部54において、ポケット非開口側の端面は、ポケット開口側の端面に対して平行でなくてもよく、例えば、図1に示すように、軸方向に直交した平面と平行に形成されていてもよい。
【0041】
図5に基づいて種々の傾斜面形状を有する樹脂製保持器について説明する。図5は、種々の樹脂製保持器を備えた転がり軸受の軸方向断面視での一部断面図である。
【0042】
図5(a)は、図1に示した深溝玉軸受である。図5(a)において、溝部の底面は、軸方向断面が1つの直線形状の傾斜面56となっている。
【0043】
図5(b)には、軸方向断面が2つの直線形状から構成され、ポケット開口側の反対側に凹んだ傾斜面を有する保持器5bを備えた深溝玉軸受11を示す。図5(b)において、傾斜面56bは、外径側の面Poと、内径側の面Piとを有している。内径側の面Piは、軸方向断面視での径方向に対して、外径側の面Poよりも大きく傾斜している。図5(a)に対し、ポケット間の体積が小さいため、軽量化となり、遠心力の発生を抑えることができる。また、必要な材料も減るため、コスト低減となる。
【0044】
図5(c)には、軸方向断面が2つの直線形状から構成され、ポケット開口側に突出した傾斜面を有する保持器5cを備えた深溝玉軸受12を示す。図5(c)において、傾斜面56cは、外径側の面Poと、内径側の面Piとを有している。外径側の面Poは、軸方向断面視での径方向に対して、内径側の面Piよりも大きく傾斜している。図5(a)に対し、外径側の面Poと、内径側の面Piの中間面の肉厚が厚くなるため、保持器の剛性を上げることができる。
【0045】
図5(b)および図5(c)に示した保持器5b、5cの場合、外径側の面Poと内径側の面Piは、内径側端面および外径側端面から等距離にある中間面上で接続されている。なお、外径側の面Poと内径側の面Piは、保持器5の中間面上で接続されずに、中間面よりも外径側で接続されてもよく、中間面よりも内径側で接続されてもよい。
【0046】
図5(d)には、軸方向断面が3つの直線形状から構成された傾斜面を有する保持器5dを備えた深溝玉軸受13を示す。図5(d)において、保持器5dの傾斜面56dは、外径側の面Poと、内径側の面Piと、外径側の面Poと内径側の面Piとを接続する軸方向と平行な接続面Pcと、を有している。内径側の面Piと外径側の面Poは、軸方向断面視での径方向に対して、略同じ角度で傾斜している。図5(d)において、接続面Pcは、上記中間面上に位置している。なお、外径側の面Poと内径側の面Piとは、上記中間面よりも外径側または内径側において接続面Pcにより接続されていてもよい。また、接続面Pcは、軸方向に対して傾斜した面であってもよい。グリースが鋼球により、かき分けられた場合でも、接続面Pcでシールリップ部に移動するグリースの一部を保持し、遠心力により外輪の転走面側に向かわせることが可能である。
【0047】
図5(e)には、軸方向断面が曲線形状から構成され、ポケット開口側の反対側に凹んだ傾斜面を有する保持器5eを備えた深溝玉軸受14を示す。図5(e)において、保持器5eの傾斜面56eは、外径側から内径側へ向かうにつれて、軸方向断面視での径方向に対する傾斜が大きくなっている。図5(a)に対し、ポケット間の体積が小さいため、軽量化となり、遠心力の発生を抑えることができる。また、必要な材料も減るため、コスト低減となる。
【0048】
図5(f)には、軸方向断面が曲線形状から構成され、ポケット開口側に突出した傾斜面を有する保持器5fを備えた深溝玉軸受15を示す。図5(f)において、保持器5fの傾斜面56fは、外径側から内径側へ向かうにつれて、軸方向断面視での径方向に対する傾斜が小さくなっている。図5(a)に対し、保持器の剛性を上げることができる。
【0049】
図5(e)および図5(f)に示した保持器5e、5fの場合、傾斜面56e、56fの軸方向断面での曲線形状の曲率は自由に設定できる。曲線形状の曲率は、例えば、一定とすることができる。また、内径側から外径側へ進むにつれて曲率が大きくなったり、小さくなったりするようにもできる。
【0050】
図6に基づいて、図2に示した保持爪とは異なる形状の保持爪を有する保持器について説明する。図6は、図2の他の例のポケット周辺の展開図である。図6に示すように、保持器5gは、保持爪53gの背面が図2における保持爪53の背面よりもポケット52gの反対側へ延びており、保持爪53gの基部の厚みがより大きい。これにより、金属製保持器よりも機械的強度に劣る樹脂製保持器であっても、保持爪53gによる玉の保持力により優れるとともに、軌道輪の転走面と玉との間にグリースを誘導する性能にも優れる。
【0051】
本発明の保持器本体は樹脂材から形成される。樹脂材としては、射出成形が可能であり、保持器材料として十分な耐熱性や機械的強度を有するものであれば、任意のものを使用できる。例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド46樹脂、ポリアミド6T樹脂、ポリアミド9T樹脂などのエンジニアリングプラスチックを樹脂母材とし、炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維(強化剤)と、他の添加剤を配合した樹脂組成物を使用できる。特に、強化剤を含んだ樹脂複合材料が好ましく、樹脂材のみで85MPa以上の引張強度を有し、複合材料全体に対して5~40質量%の強化剤を含んだ樹脂複合材料を用いることが好ましい。
【0052】
本発明の樹脂製保持器は、内輪および外輪からなる軌道輪と、内輪と外輪との間に介在する複数の転動体である玉と、この玉を保持する保持器と、軸受空間に封入されるグリースと、軌道輪の一方に固定されて軸受空間を密封するシール部材とを備えてなる転がり軸受の保持器として用いることができる。本発明の樹脂製保持器が、外輪に固定されたシール部材を備えた転がり軸受に用いられる場合、グリースの初期漏れ抑制の観点から、軸受の使用前の状態においてグリースが、外輪の転走面と、玉との間に封入されていることが好ましい。
【0053】
本発明の転がり軸受は、保持器が、環状の保持器本体上に、軸方向一方側に開口して転動体である玉を保持する複数のポケットを有する冠形の樹脂製保持器であり、軸受の使用前の状態においてグリースが、軌道輪の転走面と、玉との間に封入されている。
【0054】
本発明の転がり軸受は、冠形保持器を用いる形式の軸受であればよく、深溝玉軸受に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の樹脂製保持器は、グリースの初期漏れを抑制可能な、種々の用途における転がり軸受用の樹脂製冠形保持器として広く利用できる。また、グリース充填時に、専用の封入ノズルやノズルの交換作業が不要になることから、生産効率の向上にも繋がる。
【符号の説明】
【0056】
1、11、12、13、14、15 転がり軸受
2 内輪
2a 転走面
2b 摺接面
3 外輪
3a 転走面
4 玉
5、5a~5g 保持器(樹脂製保持器)
51 保持器本体
52、52g ポケット
53、53g 保持爪
54 連結部
55 溝部
56、56b~56f、57 傾斜面
6 シール部材
61 シールリップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6