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  • 特開-グリース組成物および転がり軸受 図1
  • 特開-グリース組成物および転がり軸受 図2
  • 特開-グリース組成物および転がり軸受 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035321
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】グリース組成物および転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/06 20060101AFI20240307BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20240307BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20240307BHJP
   C10M 115/08 20060101ALN20240307BHJP
   C10M 129/74 20060101ALN20240307BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20240307BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240307BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20240307BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20240307BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20240307BHJP
【FI】
C10M169/06
F16C19/06
F16C33/66 Z
C10M115/08
C10M129/74
C10N50:10
C10N30:00 Z
C10N40:02
C10N40:00 D
C10N20:02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139710
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】川村 隆之
【テーマコード(参考)】
3J701
4H104
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701EA63
3J701EA70
3J701FA31
3J701FA60
3J701GA01
3J701GA24
3J701XE03
3J701XE17
3J701XE33
3J701XE50
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB33A
4H104BB34C
4H104BE13B
4H104CD01A
4H104CD04A
4H104CJ02A
4H104DA02A
4H104EA02A
4H104LA08
4H104LA20
4H104PA01
4H104PA39
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】低発塵性、防錆性、高温高速耐久性を両立するグリース組成物、および該グリース組成物が封入された転がり軸受を提供する。
【解決手段】グリース組成物7は、基油と増ちょう剤と防錆剤とを含み、基油は、合成炭化水素油を主成分とし、かつ、エステル油を含まず、40℃における動粘度が40mm/s~90mm/sであり、増ちょう剤は、ジイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応して得られるジウレア化合物であり、モノアミン成分が、脂肪族モノアミンおよび脂環式モノアミンであり、基油と増ちょう剤との合計量に対して14質量%未満含まれ、防錆剤はソルビタン脂肪酸エステルを含み、JIS K 2220に準拠して測定される混和ちょう度が200~240である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と増ちょう剤と防錆剤とを含むグリース組成物であって、
前記基油は、合成炭化水素油を主成分とし、かつ、エステル油を含まず、40℃における動粘度が40mm/s~90mm/sであり、
前記増ちょう剤は、ジイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応して得られるジウレア化合物であり、前記モノアミン成分が、脂肪族モノアミンおよび脂環式モノアミンであり、前記基油と前記増ちょう剤との合計量に対して14質量%未満含まれ、
前記防錆剤はソルビタン脂肪酸エステルを含み、
前記グリース組成物は、JIS K 2220に準拠して測定される混和ちょう度が200~240であることを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
前記ソルビタン脂肪酸エステルが、ソルビタントリオレエートであることを特徴とする請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記増ちょう剤において前記脂肪族モノアミンのモル数は前記脂環式モノアミンのモル数よりも大きいことを特徴とする請求項1または請求項2記載のグリース組成物。
【請求項4】
内輪と、外輪と、該内輪および外輪の間に介在する複数の転動体と、前記内輪および外輪の軸方向両端の開口部に設けられたシール部材と、軸受空間に封入されるグリース組成物とを有する転がり軸受であって、
前記グリース組成物が請求項1または請求項2記載のグリース組成物であることを特徴とする転がり軸受。
【請求項5】
保持器がポリアミド樹脂製保持器であることを特徴とする請求項4記載の転がり軸受。
【請求項6】
前記シール部材は、前記内輪および前記外輪の一方の部材に固定され、他方の部材に隙間をもって対向する非接触形のシール部材であることを特徴とする請求項4記載の転がり軸受。
【請求項7】
前記転がり軸受が、100℃~150℃の高温条件、かつ、dm・n値が50×10~180×10の高速条件で使用されることを特徴とする請求項4記載の転がり軸受。
【請求項8】
モータ用軸受であることを特徴とする請求項4記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物、および該グリース組成物が封入された転がり軸受に関し、特に、家電や産業機器などに用いられる産業機械用モータ、電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HEV)などに用いられる駆動用モータなどの高温高速回転で使用される転がり軸受に用いられるグリース組成物およびその転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータに代表される電機機械などの回転支持部に使用される軸受は、内部に潤滑用のグリースが封入されている。このような軸受では、当該グリースを鉄板もしくは芯金にゴム材を加硫接着したゴムシールなどの密封板(シール部材)を用いて密封する形式が一般的に採用されている。
【0003】
近年、これらの軸受は高温高速化が進み、更なる高温高速耐久性(グリース寿命の長寿命化)に優れることが要求されている。また、トルク低減のために非接触形のシール部材が使用されているが、高速化に伴い軸受内部のグリースから発生する油状の発塵物質がエンコーダなどの電子部品類に付着してトラブルを発生するおそれがある。
【0004】
例えば、EVやHEVの駆動用モータ軸受は120℃~150℃程度の環境下で使用される。このような駆動用モータ軸受のグリース組成物として、特定のジウレア化合物に特定のエステル油を使用したグリース組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/015413号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では低発塵性や防錆性について検討されておらず、低発塵性を維持して、防錆性、更なる高温高速耐久性が要求される近年のモータ軸受などのグリース組成物としては不十分である。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、低発塵性、防錆性、高温高速耐久性を両立するグリース組成物、および該グリース組成物が封入された転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のグリース組成物は、基油と増ちょう剤と防錆剤とを含むグリース組成物であって、上記基油は、合成炭化水素油を主成分とし、かつ、エステル油を含まず、40℃における動粘度が40mm/s~90mm/sであり、上記増ちょう剤は、ジイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応して得られるジウレア化合物であり、上記モノアミン成分が、脂肪族モノアミンおよび脂環式モノアミンであり、上記基油と上記増ちょう剤との合計量に対して14質量%未満含まれ、上記防錆剤はソルビタン脂肪酸エステルを含み、上記グリース組成物は、JIS K 2220に準拠して測定される混和ちょう度が200~240であることを特徴とする。
【0009】
上記ソルビタン脂肪酸エステルが、ソルビタントリオレエートであることを特徴とする。
【0010】
上記増ちょう剤において上記脂肪族モノアミンのモル数は上記脂環式モノアミンのモル数よりも大きいことを特徴とする。
【0011】
本発明の転がり軸受は、内輪と、外輪と、該内輪および外輪の間に介在する複数の転動体と、上記内輪および外輪の軸方向両端の開口部に設けられたシール部材と、軸受空間に封入されるグリース組成物とを有する転がり軸受であって、上記グリース組成物が本発明のグリース組成物であることを特徴とする。
【0012】
保持器がポリアミド樹脂製保持器であることを特徴とする。
【0013】
上記シール部材は、上記内輪および上記外輪の一方の部材に固定され、他方の部材に隙間をもって対向する非接触形のシール部材であることを特徴とする。
【0014】
上記転がり軸受が、100℃~150℃の高温条件、かつ、dm・n値が50×10~180×10の高速条件で使用される。
【0015】
モータ用軸受であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のグリース組成物は、合成炭化水素油を主成分とし、かつ、エステル油を含まず、40℃における動粘度が40mm/s~90mm/sの基油と、ジイソシアネート成分とモノアミン成分(脂肪族モノアミンおよび脂環式モノアミン)とを反応して得られる、所定量のジウレア系増ちょう剤と、防錆剤としてソルビタン脂肪酸エステルとを含み、グリース組成物は、JIS K 2220に準拠して測定される混和ちょう度が200~240であるので、低発塵性(軸受外への油分流出防止)と、防錆性と、高温高速回転時の離油性(チャネリングでかき分けられたグリースから接触部への油分供給性)を両立できる。例えば、所定の基油および所定の増ちょう剤の組み合わせに対して、ソルビタン脂肪酸エステルを添加することにより、防錆性を付与しながら、基油の表面張力に影響せずに合成炭化水素油の低発塵性を維持できると考えられる。
【0017】
上記ソルビタン脂肪酸エステルが、ソルビタントリオレエートであるので、より防錆性に優れた低発塵性のグリース組成物となる。
【0018】
上記増ちょう剤において上記脂肪族モノアミンのモル数は上記脂環式モノアミンのモル数よりも大きいので、後述の実施例で示すように低発塵性により優れる。
【0019】
本発明の転がり軸受は、本発明のグリース組成物が軸受空間に封入されるので、例えば、モータなどの電機機械に用いられる軸受に適しており、その電機機械の高温高速化や信頼性向上に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の転がり軸受の一例である深溝玉軸受の断面図である。
図2】本発明の転がり軸受の他の例である深溝玉軸受の断面図である。
図3】本発明の転がり軸受を用いたモータの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のグリース組成物は、所定の基油と、所定の増ちょう剤と、所定の防錆剤を含むことを特徴としている。
【0022】
本発明のグリース組成物に用いる基油は、合成炭化水素油を主成分とし、かつ、エステル油を含まず、40℃における動粘度(混合油の場合は、混合油の動粘度)が40mm/s~90mm/sである。この動粘度は、40℃において40mm/s~70mm/sが好ましく、40mm/s~55mm/sがより好ましい。
【0023】
合成炭化水素油としてはポリ-α-オレフィン油(PAO油)がより好ましい。PAO油は、α-オレフィンまたは異性化されたα-オレフィンのオリゴマーまたはポリマーの混合物である。α-オレフィンの具体例としては、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、1-ドコセン、1-テトラドコセンなどが挙げられ、通常はこれらの混合物が使用される。
【0024】
基油は合成炭化水素油を主成分とし、その含有量は、基油全体に対して50質量%以上であり、好ましくは80質量%以上である。基油として、合成炭化水素油のみ(例えば、PAO油100%)を用いてもよい。
【0025】
本発明に用いる基油には、他の基油が含まれていてもよい。例えば、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などの鉱油、アルキルジフェニルエーテル油などのエーテル油、シリコーン油、フッ素油、およびこれらの混合油などを使用できる。ただし、本発明に用いる基油には、エステル油が含まれない。エステル油としては、二塩基酸と分岐アルコールの反応から得られるジエステル油、芳香族系三塩基酸と分岐アルコールの反応から得られる芳香族エステル油、多価アルコールと一塩基酸の反応から得られるポリオールエステル油などが挙げられる。実施例に示すように、基油がPAO油を主成分とし、エステル油を含む場合、発塵量が増加した。なお、ここでいうエステル油には、ソルビタン脂肪酸エステルは含まれない。
【0026】
本発明のグリース組成物に用いる増ちょう剤は、ジイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応して得られるジウレア化合物である。本発明では、モノアミン成分として、脂肪族モノアミンおよび脂環式モノアミンが用いられる。ジイソシアネート成分としては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜などが挙げられる。脂肪族モノアミンとしては、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンなどが挙げられる。脂環式モノアミンとしては、シクロヘキシルアミンなどが挙げられる。
【0027】
増ちょう剤において、ジウレア化合物の原料となる脂肪族モノアミンと脂環式モノアミンとのモル数の関係は、特に限定されない。低発塵性の観点から、脂肪族モノアミンのモル数は、脂環式モノアミンのモル数よりも大きいことが好ましい。具体的には、モル比(脂肪族モノアミンのモル数/脂環式モノアミンのモル数)が1.0より大きく4.0以下であることが好ましく、1.5~3.0であることがさらに好ましい。
【0028】
基油に増ちょう剤としてジウレア化合物を配合してベースグリースが得られる。ジウレア化合物を増ちょう剤とするベースグリースは、基油中でジイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応させて作製する。増ちょう剤は、基油と増ちょう剤との合計量(100質量%)に対して14質量%未満含まれ、5質量%以上13質量%以下が好ましく、8質量%以上13質量%以下がより好ましく、10質量%以上13質量%以下がさらに好ましい。
【0029】
本発明のグリース組成物は、防錆剤としてソルビタン脂肪酸エステルを含む。ソルビタン脂肪酸エステルを添加することで、低発塵性を維持しながら、グリース組成物に防錆性を付与することができる。ソルビタン脂肪酸エステルとしては、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエートなどのソルビタン脂肪酸モノエステルや、ソルビタントリオレエートなどが挙げられる。これらの中でも、ソルビタントリオレエートが好ましい。
【0030】
ソルビタン脂肪酸エステルの配合量は、基油と増ちょう剤の合計量100質量部に対して、0.5~3質量部であることが好ましく、0.5~2質量部であることがより好ましく、0.5質量部~1.5質量部であることがさらに好ましい。これらの範囲にすることで、低発塵性と防錆性の両立を一層図りやすくなる。
【0031】
実施例に示すように、防錆剤として、アミン系防錆剤やコハク酸エステル系防錆剤を添加した場合、発塵量が増大する傾向が見られた。そのため、グリース組成物は、ソルビタン脂肪酸エステル以外のその他の防錆剤(アミン系防錆剤、コハク酸エステル系防錆剤、スルホネート系防錆剤など)は、含まないことが好ましい。
【0032】
また、本発明のグリース組成物には、必要に応じて公知の添加剤を添加できる。添加剤としては、例えば、アミン系、フェノール系、イオウ系化合物などの酸化防止剤;トリクレジルホスフェートなどのリン酸エステルや、トリクレジルホスファイトなどの亜リン酸エステル、チオホスフェート、チオホスファイト、アルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、アルキルジチオリン酸モリブデン(MoDTP)、ジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)などの極圧剤などが挙げられる。
【0033】
本発明のグリース組成物の混和ちょう度(JIS K 2220)は、200~240の範囲にある。高速回転性の観点では離油しやすい方が好ましく、低発塵性の観点では離油しにくい方が好ましい。本発明では、所定の基油と、所定の増ちょう剤と、所定の防錆剤を組み合わせた上で、ちょう度を上記範囲にすることで、低発塵性、防錆性、高速耐久性をバランスよく兼ね備えたグリース組成物となる。さらに、低発塵性の観点では、混和ちょう度は200~220の範囲にあることが好ましい。
【0034】
本発明のグリース組成物を封入してなる転がり軸受について、図1に基づいて説明する。図1は深溝玉軸受の断面図である。転がり軸受1は、外周面に内輪軌道面2aを有する内輪2と内周面に外輪軌道面3aを有する外輪3とが同心に配置され、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとの間に複数個の転動体4が配置される。この転動体4は、保持器5により保持される。また、内・外輪の軸方向両端開口部8a、8bがシール部材6によりシールされ、少なくとも転動体4の周囲に上述のグリース組成物7が封入される。図1のシール部材6は、内径リップが内輪2のシール溝内部で接触する接触形のシール部材である。内輪2、外輪3および転動体4は鉄系金属材料からなり、グリース組成物7が転動体4との軌道面に介在して潤滑される。
【0035】
転がり軸受1において、内輪2、外輪3、転動体4の軸受部材を構成する鉄系金属材料は、軸受材料として一般的に用いられる任意の材料であり、例えば、高炭素クロム軸受鋼(SUJ1、SUJ2、SUJ3、SUJ4、SUJ5など;JIS G 4805)、浸炭鋼(SCr420、SCM420など;JIS G 4053)、ステンレス鋼(SUS440Cなど;JIS G 4303)、高速度鋼(M50など)、冷間圧延鋼などが挙げられる。
【0036】
保持器5は、鉄系材料や樹脂材料から形成される。鉄系材料としては、保持器材として一般的に用いられる任意の材料を使用でき、例えば、保持器用冷間圧延鋼板(SPCC;JIS G 3141)、ステンレス鋼(SUS440Cなど;JIS G 4303)、保持器用炭素鋼(JIS G 4051)、保持器用高力黄銅鋳物(JIS H 5102)などが挙げられる。また、樹脂材料としては、例えば、フェノール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド46樹脂などのポリアミド樹脂を樹脂母材とし、炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維と、他の添加剤を配合した樹脂材料などが用いられる。
【0037】
本発明の転がり軸受の他の形態について、図2に基づいて説明する。なお、図1の形態と同一の構成は同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。図1の深溝玉軸受では接触形のシール部材を用いたのに対して、図2の深溝玉軸受では非接触形のシール部材を用いている。深溝玉軸受9は、内・外輪の軸方向両端開口部がシール部材10によりシールされ、少なくとも転動体4の周囲に上述のグリース組成物7が封入される。このシール部材10は、内径リップと内輪2のシール溝内部とラビリンスすきまを形成し、非接触となっている。本発明のグリース組成物は低発塵性に優れることから、非接触形のシール部材を有する転がり軸受にも適用できる。また、シール部材を非接触形とすることで、一層の低トルク化を図ることができる。
【0038】
図1および図2では軸受として玉軸受について例示したが、本発明の転がり軸受は、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト円すいころ軸受、スラスト針状ころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受などとしても使用できる。
【0039】
本発明の転がり軸受は、例えば、産業機械用、電装機器用、または電気自動車駆動用のモータの回転子を支持するものとして使用できる。本発明の転がり軸受を、例えばモータに適用した一例を図3に示す。図3はモータの構造の断面図である。モータは、ジャケット11の内周壁に配置されたモータ用マグネットからなる固定子12と、回転軸13に固着された巻線14を巻回した回転子15と、回転軸13に固定された整流子16と、ジャケット11に支持されたエンドフレーム19に配置されたブラシホルダ17と、このブラシホルダ17内に収容されたブラシ18と、を備えている。上記回転軸13は、深溝玉軸受1と、該軸受1のための支持構造とにより、ジャケット11に回転自在に支持されている。該軸受1が本発明の転がり軸受である。
【0040】
本発明の転がり軸受を適用できるモータとしては、換気扇用モータ、燃料電池用ブロアモータ、クリーナモータ、ファンモータ、サーボモータ、ステッピングモータなどの産業機械用モータ、自動車のスタータモータ、電動パワーステアリングモータ、ステアリング調整用チルトモータ、ブロワーモータ、ワイパーモータ、パワーウィンドウモータなどの電装機器用モータ、電気自動車やハイブリッド自動車の駆動用モータなどが挙げられる。特に、低発塵性、防錆性が要求され、かつ、高温高速回転で使用されるような軸受に好適であり、モータ用軸受に限定されない。
【0041】
上述のように、本発明の転がり軸受は、高温かつ高速条件下での使用に適している。高温条件として、具体的には、軸受外輪の外径部温度が80℃以上であり、好ましくは100℃以上である。軸受外輪の外径部温度の上限は特に限定されないが、例えば180℃であり、150℃が好ましい。高速条件下として、具体的には、dm・n値が50×10以上であり、好ましくは70×10以上である。dm・n値の上限は特に限定されないが、例えば200×10であり、180×10である。例えば、EVやHEVの駆動用モータのグリース潤滑軸受は、100℃~150℃の高温条件、かつ、dm・n値が70×10~180×10の高速条件で使用される。本発明の転がり軸受はこのような使用環境下において、低発塵性や、防錆性、グリース寿命に優れる。
【実施例0042】
表1および表2に示す組成のグリース組成物をそれぞれ調製した。表1および表2中、基油と増ちょう剤と防錆剤の含有量は、ベースグリース(基油+増ちょう剤)に対する含有率(質量%)を示している。なお、表1および表2では、合成炭化水素油としてPAO油が用いられており、グリース組成物は基油と増ちょう剤と防錆剤のみからなっている。また、表1下記の1)~9)は、表2においても同じである。
【0043】
<発塵試験>
各グリース組成物をそれぞれ、非接触形のシール部材を備える玉軸受608(内径8mm、外径22mm、幅7mm)に封入して、試験用軸受を作製した。保持器として、実施例5では樹脂製保持器(ポリアミド66樹脂+ガラス繊維25質量%)を用い、それ以外では鉄製保持器を使用した。得られた試験用軸受を、アキシアル荷重9.8N、5000min-1で8時間、内輪回転させた。8時間の試験終了前の30分間(吸引量計9リットル)で発生した0.1μm以上の粒子径の発塵を、吸引量0.3リットル/分のパーティカルカウンターを用いて計測した。発塵量の評価について、3万個未満を「A」、3万個以上4.5万個以下を「B」、4.5万個超え6万個以下を「C」、6万個超えを「D」として表1および表2に併記する。
【0044】
<グリース寿命試験>
各グリース組成物をそれぞれ、非接触形のシール部材を備える玉軸受6204(内径20mm、外径47mm、幅14mm)に1.8g(全空間の38%に相当)封入して、試験用軸受を作製した。得られた試験用軸受を、軸受外輪の外径部温度150℃、アキシアル荷重67N、ラジアル荷重67Nの条件下で、15000min-1の回転速度で回転させて、焼付きに至るまでの時間を測定した。この条件のdm・n値は、50×10である。グリース寿命時間の評価について、2500時間超えを「A」、1500~2500時間を「B」、1000~1500時間未満を「C」、1000時間未満を「D」として表1および表2に併記する。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
表1に示すように、PAO油からなり、所定の動粘度を有する基油と、脂肪族モノアミンおよび脂環式モノアミンをモノアミン成分として用いたジウレア化合物からなる増ちょう剤と、ソルビタン脂肪酸エステルとを組み合わせた実施例1~7は、いずれの試験でも良好な結果を示した。保持器として樹脂製保持器を用いた場合(実施例5)は、鉄製保持器の場合に比べて、グリース寿命が延長した。また、増ちょう剤について、原料となるモノアミン成分として、脂肪族モノアミンを脂環式モノアミンよりもモル数で多くした場合に、低発塵性に優れる結果となった。
【0048】
表2に示すように、基油にエステル油を添加した場合(比較例1)は、基油粘度およびちょう度は、実施例1~7と同程度にあるにもかかわらず、発塵量が増大した。基油の粘度が低い比較例2は、グリース寿命が著しく低下した。防錆剤としてアミン系(アルキル芳香族スルホン酸のアミン塩)やコハク酸エステル系を用いた場合(比較例3、4)は、ソルビタン脂肪酸エステル(例えば実施例1)に比べて、発塵量が増大した。発塵量の増減は、基油の表面張力に影響しており、アミン系やコハク酸エステル系の防錆剤を添加することで、基油の表面張力が減少した結果、発塵量が増大したと推察される。ちょう度が200未満の場合(比較例6)、グリース組成物が硬くなることでグリース寿命が低下した。また、ちょう度が240超えの場合(比較例7)、グリース組成物が軟質となることで発塵量の増大に繋がった。
【0049】
以上より、本発明のグリース組成物は、所定の基油、所定の増ちょう剤、所定の防錆剤を組み合わせ、更にちょう度を最適化することにより、グリースからの離油を適正化し、低発塵性と防錆性と高速高温回転での長寿命化の両立を実現した。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のグリース組成物は、低発塵性、防錆性、高温高速耐久性を両立できるので、例えば、低発塵性が要求されるサーボモータやエンコーダなどの回転電気機械用転がり軸受、EVやHEVの駆動用モータ用軸受などに好適に利用できる。
【符号の説明】
【0051】
1 転がり軸受
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 シール部材
7 グリース
8a、8b 開口部
9 転がり軸受
10 シール部材
11 ジャケット
12 固定子
13 回転軸
14 巻線
15 回転子
16 整流子
17 ブラシホルダ
18 ブラシ
19 エンドフレーム
図1
図2
図3