(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003534
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】マイグレーション抑制剤およびそれを含有するチョコレート
(51)【国際特許分類】
A23G 1/36 20060101AFI20240105BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20240105BHJP
A21D 13/24 20170101ALN20240105BHJP
【FI】
A23G1/36
A21D13/80
A21D13/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102739
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】390028897
【氏名又は名称】阪本薬品工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村尾 友紀
(72)【発明者】
【氏名】村井 卓也
【テーマコード(参考)】
4B014
4B032
【Fターム(参考)】
4B014GB01
4B014GB04
4B014GK12
4B014GL06
4B014GQ05
4B032DB21
4B032DK09
4B032DK34
4B032DP64
(57)【要約】
【課題】複合菓子においてマイグレーション及び焼き菓子の白化を抑制するマイグレーション抑制剤およびそれを含有するチョコレートを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明では、構成するポリグリセリンの平均重合度が2~20であり、構成脂肪酸が炭素数12~18の飽和脂肪酸及び炭素数18~22の不飽和脂肪酸からなる群より選ばれる1種以上であり、HLBが8~17であるポリグリセリン脂肪酸エステルをチョコレートに添加することで上記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成するポリグリセリンの平均重合度が2~20であり、構成脂肪酸が炭素数8~18の飽和脂肪酸及び炭素数18~22の不飽和脂肪酸からなる群より選ばれる1種以上であり、HLBが8~17であるポリグリセリン脂肪酸エステルからなり、チョコレートに添加されることを特徴とするマイグレーション抑制剤。
【請求項2】
請求項1に記載のマイグレーション抑制剤を含有するチョコレート。
【請求項3】
構成するポリグリセリンの平均重合度が2~20であり、構成脂肪酸が炭素数12~18の飽和脂肪酸及び炭素数18~22の不飽和脂肪酸からなる群より選ばれる1種以上であり、HLBが8~17であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有するチョコレート。
【請求項4】
60℃で融解後、20℃で5日保存後の固体脂含量が65~90%であることを特徴とする請求項2又は3に記載のチョコレート。
【請求項5】
チョコレート中のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.05~5重量%であることを特徴とする請求項2~4のいずれかに記載のチョコレート。
【請求項6】
請求項2~5のいずれかに記載のチョコレートと焼き菓子を組み合わせた複合菓子。
【請求項7】
請求項2~5のいずれかに記載のチョコレートをテンパリング処理後、型を用いて成型し、焼き菓子と組み合わせることを特徴とする複合菓子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイグレーション抑制剤およびマイグレーション抑制剤を含有するチョコレートに関する。
【背景技術】
【0002】
チョコレートとビスケットやクッキーなどの焼き菓子類、クリーム類、フィリング類、ナッツ類などを組み合わせた菓子は複合菓子と呼ばれ、幅広い年代の層に人気のある嗜好品である。しかし、これらの複合菓子に用いられるチョコレートは焼き菓子、フィリング類からの油脂移行(マイグレーション)によって、チョコレートの軟化や表面が白くなるブルーム現象が起こりやすく、商品価値を著しく低下させてしまう。マイグレーションの詳細なメカニズムは不明であるが、チョコレートに比べ、焼き菓子類やフィリング類の油分が多く、その油分差によってチョコレート中へと液油が移行、拡散することが要因であると考えられている。
【0003】
複合菓子のマイグレーションを抑制する方法として、焼き菓子に配合する油脂に乳化剤を用いる方法がある。例えば、特許文献1では特定の固体脂含量(SFC)をもつ油脂に、特定の親油性のポリグリセリン脂肪酸エステルまたは親油性のショ糖脂肪酸エステルを配合した油脂組成物を用いる方法や、特許文献2では、特定のエステル交換油脂に、特定のショ糖エステルを配合した油脂移行耐性油脂組成物が提案されている。これらはいずれも、焼き菓子に使用する油脂が制限されてしまう問題があり、マイグレーションの抑制に関しても更なる改善が求められている。
【0004】
特許文献3ではチョコレートのブルーム現象を抑制する方法として、HLBが4~5のポリグリセリン脂肪酸エステルを非テンパリング型ハードバターを含む油脂組成物に特定量添加する方法が提案されている。しかし、非テンパリング型のチョコレートでしか効果が示されていないことや、複合菓子にした際のマイグレーションを抑制する効果は一切記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06-311845号公報
【特許文献2】特開2008-301731号公報
【特許文献3】特開2007-185123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明では、複合菓子のマイグレーション及び焼き菓子の白化を抑制することができるマイグレーション抑制剤、およびチョコレートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、構成するポリグリセリンの平均重合度が2~20であり、構成脂肪酸が炭素数8~18の飽和脂肪酸及び炭素数18~22の不飽和脂肪酸からなる群より選ばれる1種以上であり、HLBが8~17であるポリグリセリン脂肪酸エステルをチョコレートに添加することで上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、マイグレーション抑制剤として特定のポリグリセリン脂肪酸エステルを添加することで焼き菓子からチョコレートへの液油の進行を抑制できる。さらに、本発明のマイグレーション抑制剤は、高融点の極度硬化油や他の添加剤に比べて融点が低いため、チョコレートに添加した際に口どけへの影響も少ない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0010】
本発明の実施の形態のマイグレーション抑制剤は、ポリグリセリン脂肪酸エステルである。
【0011】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリン同士を脱水縮合したポリグリセリンと脂肪酸のエステル化反応によって得られ、ポリグリセリンの種類(重合度)、脂肪酸の種類(炭素数、二重結合の数)、エステル組成等により、多種類存在する。そして、その種類毎に異なる性質を示すことが知られている。
【0012】
本発明に係るポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンは、その平均重合度が限定されるものではないが、2~20であり、3~10であることが好ましい。ここで、平均重合度は、末端基分析法による水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)である。詳しくは、下記式(1)および下記式(2)から算出される。
分子量=74n+18 ・・・(1)
水酸基価=56110(n+2)/分子量・・・(2)
【0013】
上記式(2)中の水酸基価とは、ポリグリセリンに含まれる水酸基数の大小の指標となる数値であり、1gのポリグリセリンに含まれる遊離ヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数をいう。水酸化カリウムのミリグラム数は、社団法人日本油化学会編纂「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法、2003年度版」に準じて算出される。
【0014】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、炭素数8~18の飽和脂肪酸、炭素数18~22の不飽和脂肪酸からなる群より選ばれる1種以上である。炭素数8~18の飽和脂肪酸の具体例としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等が挙げられる。炭素数18~22の不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸およびその縮合物等が挙げられる。これらの中でも特に、チョコレートの口どけへの影響が少ない点から、ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸からなる群より選ばれる1種以上で構成されることが好ましい。
【0015】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、従来公知のエステル化反応により製造することができる。例えば、脂肪酸とポリグリセリンとを水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒の存在下でエステル化反応させることにより製造することができる。エステル化は、ポリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率が所望の値になるまで行われる。
【0016】
本発明に係るポリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率は5~100%であることが好ましく、5~60%であることがより好ましく、5~50%であることが最も好ましい。ここで、エステル化率とは、水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)、このポリグリセリンが有する水酸基数(n+2)、ポリグリセリンに付加する脂肪酸のモル数(M)としたとき、下記式(3)で算出される値である。
エステル化率(%)=(M/(n+2))×100・・・(3)
【0017】
本発明に係るポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBは8~17であり、好ましくは10~16である。HLBはアトラス法を用い、エステルのけん化価および脂肪酸の中和価から算出したものであり、以下の式(4)により算出する。また、式(4)中のけん化価および中和価は社団法人日本油化学会編纂「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法、2003年度版」に準じて測定する。
HLB=20×(1-けん化価/中和価)・・・(4)
【0018】
本発明でいうチョコレートは、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」(全国チョコレート業公正取引協議会) 乃至法規上の規定により限定されるものではなく、食用油脂、糖類を主原料とし、必要によりカカオ成分(カカオマス、ココアパウダー等)、乳製品、香料、乳化剤等を加え、チョコレート製造の工程(混合工程、微粒化工程、精練工程、冷却工程等の一部乃至全部)を経て製造されたもののことである。また、本発明におけるチョコレートは、ダークチョコレート、ミルクチョコレートの他に、ホワイトチョコレート、抹茶チョコレートやいちごチョコレートなどのカラーチョコレートも含むものである。
【0019】
本発明に係るチョコレートは、ポリグリセリン脂肪酸エステルを好ましくは0.05~5質量%含有し、より好ましくは0.2~1重量%含有する。
【0020】
本発明におけるチョコレートは、60℃で融解後、20℃で5日保存後の固体脂含量が65~90%であることが好ましく、70~85%であることがより好ましい。固体脂含量が65~90%の範囲であるチョコレートは、チョコレート内部に液油が入り込む吸油速度が遅く、マイグレーションの抑制効果が高いため好ましい。固体脂含量(Solid Fat Content、以下SFC)は、一定温度下で油脂中に存在する固体脂の含量(%)を示す。SFCの測定は、AOCS Official Method Cd 16b-93(1999)に準じ、卓上NMR(minispec mq20、BRUKER)により行った。
【0021】
本発明に係るチョコレートに含まれる油脂は、限定されないが、例えば、パーム油、ココアバター、シア脂、サル脂、イリッペ脂、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、乳脂等の植物油脂や動物油脂、並びにこれらを分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂の単品又は、これらの組み合わせ油脂の精製油を挙げることができる。これらの食用油脂は2種以上が組み合わされて使用される場合もある。チョコレート類に使用される油脂としては、チョコレートを製造する際のテンパリングの要否により、テンパリング型と非テンパリング型があるが、何れも用いることができる。
【0022】
テンパリング型油脂の原料としては、チョコレートの主成分であるココアバター、シア脂、サル脂、ハイオレイックひまわり油などのトリグリセリドの1,3位に選択的に飽和脂肪酸を導入した酵素エステル交換油脂、パーム油等の溶剤分別で得られるものが代表的である。
【0023】
本発明に係るチョコレートは、油脂およびポリグリセリン脂肪酸エステル以外にも、その他の成分として、例えば周知のチョコレート成分であるカカオ分(カカオマス、ココアパウダー等)、乳製品(全脂粉乳、脱脂粉乳、ホエー蛋白、粉末チーズ等)、糖類・甘味類(砂糖、乳糖、キシリトール、エリスリトール、アスパルテーム等)の他、公知の食品素材(例えば、澱粉、デキストリン、大豆蛋白、ナッツ類、抹茶、果物粉末等)や、香料、香辛料、乳化剤、着色料等を添加することができる。本発明のチョコレートは、上記成分の中で、糖類を20~70質量%含むことが好ましく、25~65質量%含むことがより好ましい。糖類としては、例えば、ブドウ糖、果糖、砂糖、麦芽糖、乳糖、パラチノース、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、トレハロース等が挙げられる。
【0024】
本発明のチョコレートは、チョコレート製造の常法により製造することができる。すなわち、原材料のミキシング、ロール掛け等によるリファイニング、コンチング工程の後、生地を冷却固化することにより製造することができる。
【0025】
本発明の複合菓子はクッキー、ビスケット、クラッカー、プレッツェル、ウエハース、パイ等の焼き菓子類や、ポテトチップス、ポップコーン等のスナック類、かりんとう、あられ等の油菓子類、バターケーキ、バタースポンジケーキ等のケーキ類、バタークリーム、シュガークリーム等のフィリングクリーム類、キャラメル、ソフトキャンディ等のキャンディ類、アーモンド、カシュー、マカデミア等のナッツ類などにチョコレートをトッピング、サンド、フィリング、包餡、注入、コーティングなどの方法により組み合わせた複合菓子類が挙げられる。
【実施例0026】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0027】
本発明に係る、合成例、実施例および比較例において、平均重合度が10のポリグリセリンに阪本薬品工業株式会社製「ポリグリセリン#750」を、平均重合度が4のポリグリセリンに阪本薬品工業株式会社製「ポリグリセリン#310」を使用した。
【0028】
<ポリグリセリン脂肪酸エステル1の合成>
平均重合度が10のポリグリセリン100gとミリスチン酸24.9gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性及び窒素気流下、250℃で反応させ、エステル化率8%のポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB16)を得た。
【0029】
<ポリグリセリン脂肪酸エステル2の合成>
平均重合度が10のポリグリセリン100gとラウリン酸31.2gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性及び窒素気流下、250℃で反応させ、エステル化率11%のポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB15)を得た。
【0030】
<ポリグリセリン脂肪酸エステル3の合成>
平均重合度が4のポリグリセリン100gとオレイン酸118.9gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性及び窒素気流下、250℃で反応させ、エステル化率23%のポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB9)を得た。
【0031】
<ポリグリセリン脂肪酸エステル4の合成>
平均重合度が10のポリグリセリン100gとカプリル酸24.2gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性及び窒素気流下、250℃で反応させ、エステル化率12%のポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB16)を得た。
【0032】
<ポリグリセリン脂肪酸エステル5の合成>
平均重合度が10のポリグリセリン100gとベヘン酸469.2gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性及び窒素気流下、250℃で反応させ、エステル化率96%のポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB3)を得た。
【0033】
【0034】
<実施例1>
クーベルチュールチョコレート(カカオ分36%)199.0gをステンレスボウルに秤量し、60℃の湯せんで完全に融解させた。チョコレートにポリグリセリン脂肪酸エステル1を1.0g添加し、60℃で均一に溶解させた。その後、ステンレスボウルを冷水につけてシリコンヘラでゆっくりと撹拌しながら26℃まで冷却した。再び湯せんにかけ、30℃になった時点でテンパリングを終了し、チョコレートを得た。
【0035】
<実施例2>
実施例1のポリグリセリン脂肪酸エステル1をポリグリセリン脂肪酸エステル2に変更したこと以外は実施例1と同様にしてチョコレートを調製した。
【0036】
<実施例3>
実施例1のポリグリセリン脂肪酸エステル1をポリグリセリン脂肪酸エステル3に変更したこと以外は実施例1と同様にしてチョコレートを調製した。
【0037】
<実施例4>
実施例1のポリグリセリン脂肪酸エステル1をポリグリセリン脂肪酸エステル4に変更したこと以外は実施例1と同様にしてチョコレートを調製した。
【0038】
<実施例5>
実施例1のクーベルチュールチョコレート(カカオ36%)を、クーベルチュールチョコレート(カカオ分58%)に変更したこと以外は実施例1と同様にしてチョコレートを調製した。
【0039】
<実施例6>
実施例2のクーベルチュールチョコレート(カカオ36%)を、クーベルチュールチョコレート(カカオ分58%)に変更したこと以外は実施例2と同様にしてチョコレートを調製した。
【0040】
<比較例1>
実施例1のポリグリセリン脂肪酸エステル1をポリグリセリン脂肪酸エステル5に変更したこと以外は実施例1と同様にしてチョコレートを調製した。
【0041】
<比較例2>
ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてチョコレートを調製した。
【0042】
<比較例3>
ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加せず、クーベルチュールチョコレート(カカオ分58%)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてチョコレートを調製した。
【0043】
<固体脂含量(SFC)の測定>
測定用サンプル管に融解したチョコレートを高さ4cm程度入れ、5℃の冷蔵庫で1時間冷却した。その後、その後、20℃の恒温機で5日間静置後にSFCを測定した。また、20℃で5日保存したサンプル管のチョコレートの上から2gのキャノーラ油を入れた。サンプル管を20℃/28℃(12時間/12時間)の温度サイクルにかけて保管し、25日後にSFCを測定した。
[SFCの評価基準]
5日後から25日後のSFCの変化率を下記式(5)から算出した。
変化率=(5日後のSFC-25日後のSFC)/5日後のSFC×100・・・(5)
◎:変化率が10%未満
○:変化率が10%以上20%未満
×:変化率が20%以上
【0044】
チョコレートのSFCの評価結果について表2に示した。
【0045】
【0046】
本発明のマイグレーション抑制剤とクーベルチュールチョコレート(カカオ36%)を用いた実施例1~4では25日後のSFCの変化率は20%未満となっており、本発明のマイグレーション抑制剤に該当しないポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた比較例1やポリグリセリン脂肪酸エステルを添加していない比較例2に比べて吸油速度が遅く、マイグレーションを抑制する効果が高いことが明らかとなった。また、カカオ成分が多いチョコレートを用いた実施例5、6においても25日後のSFCの変化率は20%未満となっており、ポリグリセリン脂肪酸エステルが無添加の比較例3に比べて吸油速度が遅く、マイグレーションを抑制する効果が高いことが明らかとなった。
【0047】
続いて、複合菓子のマイグレーション抑制に及ぼす影響を確認するため、ビスケットとチョコレートを組み合わせた複合菓子を調製した。
【0048】
<複合菓子の調製方法>
上記で得られたテンパリング直後のチョコレートをポリカーボネート製の型に約5g流し込み、チョコレート中にビスケットを表面が見えるように埋没させ、複合菓子を得た。5℃で15分間固化させたのち、20℃/28℃(12時間/12時間)の温度サイクルをかけて保管し25日後の外観を評価した。
【0049】
<外観の評価方法>
ビスケットの白変の度合いを数値化する方法として、HSL色空間を用いてビスケットの色味を評価した。デジタルカメラで撮影した複合菓子の焼き菓子部分の色を抽出し、抽出した色を、色合い(H)、鮮やかさ(S)、明るさ(L)に分解した。分解した3要素のうちSとLの値を用いて評価した。
Sは数値が大きいほど鮮やかで小さいほど灰色となる。また、Lは数値が大きいほど白色、小さいほど黒色となる。ビスケットがマイグレーションによって白化すると、S値は低下し、L値は上昇する。したがって、S値が高く、L値が低いものほどビスケットの白化が抑制されていることを示す。
[白化の評価]
◎:S値90以上、L値120未満
○:S値75以上かつL値120以上140未満、もしくは、
S値75以上90未満かつL値120未満
×:L値140以上、もしくは、S値75未満
【0050】
複合菓子の外観の評価結果について表3に示した。
【0051】
【0052】
本発明に係るポリグリセリン脂肪酸エステルからなるマイグレーション抑制剤を添加した実施例1~4のチョコレートを用いた複合菓子は、マイグレーション抑制剤無添加である比較例2のチョコレートを用いた場合に比べてS値は同等以上、L値は低くなっており、ビスケットの白化を抑制できていた。また、カカオ含量の多いチョコレートを用いた場合でも本発明のマイグレーション抑制剤を用いた実施例5、6は無添加の比較例3に比べて顕著にビスケットの白化を抑制していることが明らかとなった。さらに、実施例1~6では、ポリグリセリン脂肪酸エステルによる口どけや風味への影響も感じられなかった。