(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035348
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】血管モデル
(51)【国際特許分類】
G09B 23/34 20060101AFI20240307BHJP
【FI】
G09B23/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139759
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 信圭
(72)【発明者】
【氏名】関下 明日香
【テーマコード(参考)】
2C032
【Fターム(参考)】
2C032CA03
2C032CA06
(57)【要約】
【課題】擬似血管から穿孔を通して外部に漏出した液体を容易かつ確実に観察することが可能な血管モデルの提供を目的とする。
【解決手段】血管モデル1は、血管を模擬した内腔11hを有する擬似血管11と、擬似血管11の外周を覆うように配置された支持部材21と、を備えている血管モデルであって、擬似血管11の長手方向に沿う外周の少なくとも一部に、擬似血管11の外周面11sと支持部材21とが離間可能な状態で接触配置された液体漏出検知領域Rが設けられている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管を模擬した内腔を有する擬似血管と、前記擬似血管の外周を覆うように配置された支持部材と、を備えている血管モデルであって、
前記擬似血管の長手方向に沿う外周の少なくとも一部に、前記擬似血管の外周面と前記支持部材とが離間可能な状態で接触配置された液体漏出検知領域が設けられていることを特徴とする血管モデル。
【請求項2】
前記擬似血管の内腔に、前記擬似血管の外周面にかかる圧力よりも高い圧力の液体が収容されている請求項1に記載の血管モデル。
【請求項3】
前記支持部材、または前記支持部材および前記擬似血管が、可視光に対して透明な材料で形成されている請求項1または請求項2に記載の血管モデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管モデルに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、冠動脈のバイパスとなる側副血管(コラテラルチャンネル)などような、湾曲した細く柔らかい血管が体内には存在する。このような血管にガイドワイヤ等の器具を挿入するような手技の際、血管を誤って穿通するリスクがより高まる。このため、上述のような手技を行うにあたり、あらかじめ高度で熟練した技術を習得する必要がある。
【0003】
上述のような技術を習得する方策として、例えば、体内の血管を模擬した訓練用の血管モデルが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような従来の血管モデルにおいては、実際の血管と同様な質感を有する血管自体は再現できる。しかしながら、より現実に近い手技を体感するためには、血管周囲の組織を含めた質感を模擬できるモデルがより好ましい。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、擬似血管から穿孔を通して外部に漏出した液体を容易かつ確実に観察することが可能な血管モデルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のいくつかの態様は、
(1)血管を模擬した内腔を有する擬似血管と、前記擬似血管の外周を覆うように配置された支持部材と、を備えている血管モデルであって、
前記擬似血管の長手方向に沿う外周の少なくとも一部に、前記擬似血管の外周面と前記支持部材とが離間可能な状態で接触配置された液体漏出検知領域が設けられていることを特徴とする血管モデル、
(2)前記擬似血管の内腔に、前記擬似血管の外周面にかかる圧力よりも高い圧力の液体が収容されている前記(1)に記載の血管モデル、並びに
(3)前記支持部材、または前記支持部材および前記擬似血管が、可視光に対して透明な材料で形成されている前記(1)または(2)に記載の血管モデル、である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、擬似血管から穿孔を通して外部に漏出した液体を容易かつ確実に観察することが可能な血管モデルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】血管モデルの一実施形態を示す概略的断面図である。
【
図2】
図1の血管モデルの使用状態を示す概略的断面図である。
【
図3】
図1の血管モデルの使用状態を示す概略的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の血管モデルは、血管を模擬した内腔を有する擬似血管と、上記擬似血管の外周を覆うように配置された支持部材と、を備えている血管モデルであって、上記擬似血管の長手方向に沿う外周の少なくとも一部に、上記擬似血管の外周面と上記支持部材とが離間可能な状態で接触配置された液体漏出検知領域が設けられている。
【0011】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明するが、本発明は、当該図面に記載の実施形態にのみ限定されるものではない。また、図面に示した各部の寸法は、実施内容の理解を容易にするために示した寸法であり、必ずしも実際の寸法に対応するものではない。
【0012】
図1は、血管モデルの一実施形態を示す概略的断面図である。
図1に示すように、血管モデル1は、概略的に、擬似血管11と、支持部材21とにより構成されている。
【0013】
擬似血管11は、血管を模擬した内腔11hを有する部材である。擬似血管11は、実際の血管と同程度の質感(柔軟性、強度など)を有すれば、特にその構成は限定されない。擬似血管11の内腔11hには、後述する液体を流通することができる。本実施形態の擬似血管11は、チューブ状の内層と、内層の外周を覆うように積層されたチューブ状の外層とで構成された擬似血管が例示されている。
【0014】
擬似血管11の内層および外層それぞれを構成する材料としては、例えば、シリコーン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。なお、内層は、物理架橋により構成されていてもよい。外層は、物理架橋と化学架橋とにより構成されていてもよい。外層が化学架橋(架橋剤を用いた架橋)を含むことで、擬似血管11の円周方向に収縮する応力が生じる。これにより、内層が圧縮応力を受けるため、例えば、擬似血管11を穿通する際、実際の血管により近い質感を得ることができる。
【0015】
擬似血管11の内腔11hに収容する液体としては、内腔11hを流通することができる限り、特に限定されない。液体としては、例えば、血液を模擬した擬似血液、生理食塩水などの薬液等が挙げられる。
【0016】
なお、擬似血管11の内腔11hには、擬似血管11の外周面11sにかかる圧力よりも高い圧力の液体が収容されていてもよい。すなわち、擬似血管11内の液体の圧力を、大気圧(1atm)よりも高い圧力に設定してもよい。この場合、例えば、何らかの原因で擬似血管11に穿孔が生じた場合、実際の血管と同じように、穿孔を通して擬似血管11から外部に液体を確実に漏出させることができる。また、液体の漏出の有無を、液体の圧力低下の有無に基づいて確認することができる。
【0017】
支持部材21は、擬似血管11の外周を覆うように配置された部材である。支持部材21は、血管が貫通する廻りの部位(例えば、皮下組織、筋肉組織などの組織)を模擬している。支持部材21は、模擬する部位に応じて硬さ等を適宜選択することができる。
【0018】
支持部材21を構成する材料としては、例えば、シリコーン系ゴム、アクリル系ゴム、オレフィン系ゴム、ポリウレタン等が挙げられる。これらの中では、シリコーン系ゴムが好ましく、シリコーンゴムとシリコーンオイルとの混合物を加熱硬化したものがより好ましい。これにより、血管周囲の実際の組織に近い質感を得ることができる。なお、シリコーンゴムとシリコーンオイルとの混合割合および加熱条件等は、模擬する部位の硬さ等に応じて適宜選択することができる。
【0019】
また、支持部材21、または支持部材21および擬似血管11は、可視光に対して透明な材料で形成されていてもよい。これにより、擬似血管11から漏出した液体を支持部材を21通して目視することができる。
【0020】
かかる場合、支持部材21を形成する透明な材料としては、例えば、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂等が挙げられる。擬似血管11を形成する透明な材料としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂等が挙げられる。
【0021】
ここで、擬似血管11の長手方向に沿う外周の少なくとも一部には、擬似血管11の外周面11sと支持部材21とが離間可能な状態で接触配置された液体漏出検知領域Rが設けられている。なお、液体漏出検知領域R以外の領域の擬似血管11と支持部材21とは固着されていてもよい。
【0022】
液体漏出検知領域Rを設ける部位は、擬似血管11の長手方向の全体に沿って設けられていてもよく、擬似血管11の長手方向の一部に沿って設けられていてもよい。本実施形態の液体漏出検知領域Rは、擬似血管11のうちのS字形状に湾曲する湾曲部Wの全体が含まれるように設けられている(
図1中の矢印Rで示した領域)。
【0023】
ここで、液体漏出検知領域Rにおける、擬似血管11の外周面11sと支持部材21と接触状態としては、擬似血管11からの液体の漏出により容易に離間することができる限り、単に物理的に接触している状態であってもよく、弱い結合力で結合(例えば、弱い粘着、弱い化学結合など)した状態のいずれであってもよい。
【0024】
例えば、後述の
図3に示すように、擬似血管11に穿孔11pが生じ、この穿孔11pを通して擬似血管11の外部に液体Lが漏出したとする。この場合、液体漏出検知領域Rでは、擬似血管11の外周面11sと支持部材21とが離間可能な状態で接触配置されているため、漏出した液体Lにより擬似血管11の外周面11sと支持部材21との境界部が容易に押し広げられる。これにより、擬似血管11の周囲に液体Lで満たされた貯留空間Cが形成される。
【0025】
形成された貯留空間Cは、血管モデル1の外部から観察することができる。観察手法としては、例えば、X線透過画像、超音波反射画像、MRI等を用いて観察する画像化装置を用いた観察手法、可視光に対して透明な材料で形成された支持部材21や擬似血管11を介し、目視や光学顕微鏡により観察する可視的な観察手法等を採用することができる。
【0026】
次に、
図2,
図3を参照しながら、血管モデル1の使用態様について説明する。ここでは、液体Lとして、血液と同程度の粘度を有する擬似血液L1を例示する。
【0027】
図2は、血管モデル1の使用するための装置の概略的断面図である。血管モデル1は、例えば、
図2に示すように、容器51の中に入れられた状態で使用してもよい。容器51には、コネクタ61と、コネクタ71と、圧力計81とが併設されている。
【0028】
コネクタ61は、擬似血管11の一端に接続され、擬似血管11の内腔11hに連通する内腔61hを有している。コネクタ61の内腔61hは、二つに分岐している。一方の内腔61h1には、止血弁V1を介し、図示していない擬似血液投入用のポンプから擬似血液L1が投入される。他方の内腔61h2には、止血弁V2を介し、ガイドワイヤGWなどの医療器具が挿入される。
【0029】
コネクタ71は、擬似血管11の他端に接続され、擬似血管11の内腔11hに連通する内腔71hを有している。本実施形態では、コネクタ71の端部は、止血弁V3で閉栓されている。
【0030】
圧力計81は、コネクタ71に接続され、擬似血管11内の擬似血液L1の圧力を測定する。圧力計81としては、例えば、実際の血管内を流れる血液の圧力を測定可能な血圧計の精度と同じ程度の精度を有する圧力計を用いてもよい。
【0031】
血管モデル1を使用する際は、まず、擬似血管11に擬似血液L1を投入する。具体的には、擬似血液L1は、圧力計81を見ながら所定の圧力になるように、コネクタ61の内腔61h1を介してポンプから擬似血管11の内腔11hに投入される。なお、所定の圧力としては、擬似血管11の血管壁に形成された穿孔11pを介し、擬似血液L1が擬似血管11から外部に漏出する圧力に設定することができる。所定の圧力としては、所望の漏出状態(出血状態)となるような圧力(実際の血圧)に設定してもよい。
【0032】
次に、ガイドワイヤGWを擬似血管11内に挿入する。具体的には、ガイドワイヤGWを、コネクタ61の内腔61h2を介して擬似血管11の内腔11hに挿入した後、ガイドワイヤGWの先端部を処置を行う部位まで前進させる。
【0033】
ここで、ガイドワイヤGWの操作中に、その先端により擬似血管11の血管壁を穿通し、擬似血管11の血管壁には穿孔11pが形成されたとする。その際、
図3に示すように、血管モデル1の液体漏出検知領域Rでは、穿孔11pを通して擬似血液L1が擬似血管11の外部に漏出する。漏出した擬似血液L1が擬似血管11の外周面11sと支持部材21との境界部に達すると、擬似血液L1の圧力により上記境界部が押し広げられ、擬似血管11の周囲に擬似血液L1で満たされた貯留空間Cが形成される。
【0034】
血管モデル1の使用中は、常時、貯留空間Cが形成されているか否かを観察する。貯留空間Cの有無およびその位置は、例えば、上述したような可視的な観察手法で観察してもよい。これにより、血管モデル1の使用中に、ガイドワイヤGWの穿通により生じた穿孔11pからの擬似血液L1の漏出の有無および漏出位置を視認することができる。なお、疑似血液L1の漏出の有無は、例えば圧力計81で得られた擬似血液L1の圧力をトラッキングすることで、疑似血管11内に収容する模擬血液L1の圧力低下の有無に基づいて確認することもできる。
【0035】
以上のように、血管モデル1は、上記構成であるので、液体漏出検知領域Rにおいて、擬似血管11から穿孔11pを通して外部に漏出した擬似血液L1(液体L)を容易かつ確実に観察することができる。このため、血管モデル1は、例えば、ガイドワイヤGWを用いた高度で熟練した技術を習得するための訓練に好適に使用することができる。
【0036】
なお、本開示は、上述した実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。上述した実施形態の構成のうちの一部を削除したり、他の構成に置換してもよく、上述した実施形態の構成に他の構成を追加等してもよい。
【0037】
例えば、上述した実施形態では、液体漏出検知領域Rが擬似血管11のうちの湾曲部Wの全体が含まれるように設けられた血管モデル1について説明した。しかしながら、液体漏出検知領域Rは、擬似血管11の少なくとも一部が含まれるように設けられていればよい。液体漏出検知領域Rは、擬似血管11の長軸方向に沿って、擬似血管11の外周面11s全体に設けられていてもよい。液体漏出検知領域Rは、擬似血管11の長軸方向に沿って、擬似血管11の外周面のうちの独立した二以上の部位に設けられていてもよい。
【0038】
また、上述した実施形態では、特定の材料により形成した2層(内層および外層)の擬似血管11を備えた血管モデル1について説明した。しかしながら、擬似血管は、本発明の効果を損なわない限り、公知のいずれの擬似血管であってもよい。
【0039】
また、上述した実施形態では、液体Lとして擬似血液L1を例示した。しかしながら、液体Lとしては、目的に応じ、薬液などの擬似血液L1以外の液体を適宜選定してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 血管モデル
11 擬似血管
11s 外周面
21 支持部材
R 液体漏出検知領域
L 液体
L1 擬似血液