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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035358
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】トナー用ワックス組成物
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/097 20060101AFI20240307BHJP
【FI】
G03G9/097 365
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139775
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】森重 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】吉村 健司
(72)【発明者】
【氏名】清水 湧太郎
【テーマコード(参考)】
2H500
【Fターム(参考)】
2H500AA08
2H500CA30
2H500EA42C
2H500EA44C
(57)【要約】
【課題】トナー中での保存安定性に優れ、高速印刷時においても印刷物の光沢ムラを抑制し、かつ光沢性を向上させることが可能なトナー用ワックス組成物を提供することである。
【解決手段】下記構造式(1)で表されるエステル化合物Aと下記構造式(2)で表される脂肪族ケトン化合物Bとを含有し、エステル化合物Aと脂肪族ケトン化合物Bとの質量比〔(A):(B)〕が0.1:99.9~30:70であるトナー用ワックス組成物。[構造式(1):HO-(CH)n-O-C(=O)-R](Rは炭素数15~24の直鎖飽和アルキル基、nは2~6の整数)[構造式(2):R-C(=O)-R](RおよびRはそれぞれ独立に直鎖アルキル基、RおよびRの合計炭素数は30~48)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)で表されるエステル化合物Aと下記構造式(2)で表される脂肪族ケトン化合物Bとを含有し、エステル化合物Aと脂肪族ケトン化合物Bとの質量比〔(A):(B)〕が0.1:99.9~30:70であるトナー用ワックス組成物。
エステル化合物A:
【化1】
(構造式(1)中のRは炭素数15~24の直鎖飽和アルキル基を表し、nは2~6の整数を表す。)
脂肪族ケトン化合物B:
【化2】
(構造式(2)中、RおよびRはそれぞれ独立に直鎖アルキル基を表し、RおよびRの合計炭素数は30~48である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、レーザープリンタなどの電子写真法や静電記録法などで記録される静電荷像の現像に使用されるトナーに対して好適に用いられるトナー用ワックス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機やプリンターなどの画像形成装置に使用されるトナーは、バインダー樹脂となる熱可塑性樹脂に、着色剤(カーボンブラック、磁性粉、顔料など)、荷電制御剤、ワックスを含み、必要に応じて、流動性付加剤、クリーニング助剤、転写助剤を更に含む。
この中で、ワックスは定着時にトナーが定着ロールに残存すること(フィルミング)を防止する離型剤として機能するとともに、熱可塑性樹脂の軟化を促進して定着性を向上させる機能を有する。
【0003】
一方、ワックスはトナー保管時にブリードすることで、トナー粒子同士のブロッキングの要因となることから、トナーの保存安定性を改善することが検討されている。
例えば特許文献1には、炭素数14~30の中から選ばれる直鎖飽和モノカルボン酸あるいはその混合物と、炭素数14~30の中から選ばれる直鎖飽和一価アルコールあるいはその混合物、または炭素数2~30の中から選ばれる2~6価の多価アルコールあるいはその混合物とを縮合反応し、その後にアルカリ水溶液を用いて中和して中和塩を遠心分離で除去することを特徴とするトナー用エステルワックスの製造方法が記載されており、本ワックスを用いることにより、保存安定性に優れたトナーが提供されることが記載されている。
【0004】
また近年、複合機や商業印刷機等の複写装置には、生産効率の向上と省エネルギー化の観点から従来以上の超高速印刷に適応可能なトナーが求められている。
例えば特許文献2には、炭化水素ワックスとエステルワックスを混合することで、低温定着性および定着分離性に優れ、画像形成機器の部材への離型剤の付着が生じにくく、耐擦り性に優れた画像を形成可能なトナーが得られることが記載されており、このようなトナーを用いることで高速印刷への対応についても可能となることが期待される。
【0005】
さらに、これらの装置が用いられる商業印刷分野では、前述の超高速印刷条件下においても、銀塩写真やグラビア印刷によって得られる写真やポスターと同等以上のムラのない高い光沢性の付与された高画質な印刷物を安定的に提供することが求められてる。これに対して、ワックスは印刷物表層での結晶状態に差異が生じることにより光沢ムラが発生する原因となることが課題となっており、これらの課題を解決可能なワックスが求められている。
例えば特許文献3には、広い定着温度の範囲に渡って写真光沢に近い高光沢を示し、優れた低温定着性と、高い耐ホットオフセット特性、良好な保存安定性を両立する電子写真用トナーとして合成モノエステルワックスを用いたトナーが紹介されているが、このようなトナーについても、超高速印刷への対応が十分でなく、印刷物の光沢ムラを低減することもできない。
【0006】
また、特許文献4には、示差走査熱量(DSC)測定によるワックスの昇温時の吸熱ピーク温度と降温時の発熱ピーク温度の差、すなわち融点と凝固点の差が特定の範囲となるエステルワックスを用いることで、ワックスと結着樹脂であるポリエステル樹脂との親和性を調整し、ひいては画像定着時のワックスのブリード量を抑制し、ワックスに起因する光沢ムラの抑制を可能としたトナーが紹介されている。しかし、このようなワックスを用いる場合においても、結晶状態の差による光沢ムラを抑制するには十分でなく、また、高速印刷時においてはワックスのブリード量が不足することがあり、融点と凝固点の差が大きいため、ワックスの融解・凝固が不十分となる恐れがあり、高画質な印刷物を安定的に供給できるとは言えない。
このようにトナーには多くの要求特性があり、これらの要求特性を同時に満たすトナー用ワックスが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-32479号公報
【特許文献2】特開2020-187270号公報
【特許文献3】特開2019-53322号公報
【特許文献4】特開2021-170100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、トナー中での保存安定性に優れ、高速印刷時においても印刷物の光沢ムラを抑制し、かつ光沢性を向上させることが可能なトナー用ワックス組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、下記に示すエステル化合物Aと脂肪族ケトン化合物Bを特定の割合で含む組成物をトナー用ワックスとして使用した場合に、トナー中での保存安定性に優れ、高速印刷時においても印刷物の光沢ムラを抑制し、かつ光沢性を向上させることが可能なトナー用ワックス組成物を提供可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のトナー用ワックス組成物は、下記構造式(1)で表されるエステル化合物Aと下記構造式(2)で表される脂肪族ケトン化合物Bとを含有し、エステル化合物Aと脂肪族ケトン化合物Bとの質量比〔(A):(B)〕が0.1:99.9~30:70であるトナー用ワックス組成物である。
エステル化合物A:
【0011】
【化1】
【0012】
(構造式(1)中のRは炭素数15~24の直鎖飽和アルキル基を表し、nは2~6の整数を表す。)
脂肪族ケトン化合物B:
【0013】
【化2】
【0014】
(構造式(2)中、RおよびRはそれぞれ独立に直鎖アルキル基を表し、RおよびRの合計炭素数は30~48である。)
【発明の効果】
【0015】
本発明のトナー用ワックス組成物はトナー中での保存安定性に優れ、高速印刷時においても印刷物の光沢ムラを抑制し、かつ光沢性を向上させることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本発明のトナー用ワックス組成物は、必須成分として、下記に示すエステル化合物Aと脂肪族ケトン化合物Bを含有する。
なお、本明細書において記号「~」を用いて規定された数値範囲は「~」の両端(上限および下限)の数値を含むものとする。例えば「2~5」は2以上5以下を表す。
【0017】
〔エステル化合物A〕
本発明におけるエステル化合物Aは、炭素数が16~25である直鎖飽和モノカルボン酸の中から選ばれる少なくとも1種の直鎖飽和モノカルボン酸と、炭素数が2~6である直鎖飽和アルキレングリコールの中から選ばれる少なくとも1種の脂肪族アルコールとから得られるモノエステル化合物であり、下記構造式(1)で表される。
【0018】
【化3】
【0019】
(構造式中のRは炭素数15~24の直鎖飽和アルキル基を表し、nは2~6の整数を表す。)
【0020】
エステル化合物Aの原料カルボン酸は、炭素数が16~25、好ましくは18~22の直鎖飽和モノカルボン酸である。原料カルボン酸の炭素数が小さすぎる場合には、ワックスが低温度で融解して、トナー中での保存安定性が著しく低下するおそれがある。一方、炭素数が大きすぎる場合にも、トナー中でのワックスの分散性が悪化し、保存安定性に悪影響を及ぼすおそれがある。
原料カルボン酸の具体例としては、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸等が挙げられる。これらの中でもステアリン酸が特に好ましい。
【0021】
エステル化合物Aの原料アルコールは、炭素数が2~6、好ましくは2~4の直鎖飽和アルキレングリコールである。炭素数が上記の範囲外であった場合、ワックスの融点が著しく低下し、保存安定性を損なう恐れがある。
また、原料アルコールのアルキル基が、例えば1、2-プロパンジオールのように、分岐構造を有する場合、または、例えばグリセリンやペンタエリスリトールのように、3価以上のアルコールであった場合、後述の脂肪族ケトン化合物Bと配合した際に、ワックスの結晶性を著しく低下させ、高速印刷への対応が困難となり、また、ワックスの結晶状態に起因する光沢ムラが発生するおそれがある。このような観点から、原料アルコールの具体例としては、エチレングリコール、1、4-ブタンジオール、1、6ヘキサンジオール等が挙げられる。これらの中でもエチレングリコール、1、4-ブタンジオールが特に好ましい。
上記直鎖飽和モノカルボン酸と上記直鎖飽和アルキレングリコールとから得られるエステル化合物Aとしては総炭素数が20~26であることが好ましく、特に好ましくは総炭素数が20~24であり、これらの中でもステアリン酸とエチレングリコールとからなるモノエステル化合物が好ましい。
【0022】
エステル化合物Aは、保存安定性の観点で、酸価は5mgKOH/g以下が好ましく、さらには3mgKOH/g以下が好ましく、特に1mgKOH/g以下が好ましい。
また、高速印刷時の光沢ムラ抑制の観点で、水酸基価は140mgKOH/g~190mgKOH/gが好ましく、さらには160mgKOH/g~180mgKOH/gが好ましい。
なお、酸価はJOCS(日本油化学会)2.3.1-1996に準拠して測定することができ、水酸基価はJOCS(日本油化学会)2.3.6.2-1996に準拠して測定することができる。
【0023】
エステル化合物Aの融点は60℃~80℃であることが好ましく、さらに好ましくは65℃~75℃である。融点が60℃未満では保存安定性が悪化するおそれがあり、80℃より高いと高速印刷時に溶解しないおそれがあり、トナー用ワックスとしての効果を発揮しない可能性がある。
エステル化合物Aの融点は、昇温速度毎分10℃の示差走査熱量分析(DSC)により測定することができ、DSC分析により測定される吸熱ピークのトップピークの温度を融点とすることができる。
【0024】
〔脂肪族ケトン化合物B〕
本発明における脂肪族ケトン化合物Bは、総炭素数が31~49である脂肪族ケトン化合物であり、下記構造式(2)で表される。
【0025】
【化4】
【0026】
(構造式(2)中、RおよびRはそれぞれ独立に直鎖アルキル基を表し、RおよびRの合計炭素数は30~48である。)
【0027】
上記構造式(2)において、直鎖アルキル基RおよびRは、保存安定性と高速印刷への対応の観点から、それぞれ独立して好ましくは炭素数15以上23以下であり、さらに好ましくは17以上21以下である。直鎖飽和脂肪族炭化水素基の炭素数が15未満であると、トナー保管時に染み出すことによってトナー同士のブロッキングを起こすおそれがある。一方、直鎖飽和脂肪族炭化水素基の炭素数が23を超えると融点が高くなりすぎ、高速印刷時に離型剤としての機能が不十分となるおそれがある。
構造式(2)で表される脂肪族ケトン化合物としては、具体的には、ジペンタデシルケトン、ジヘキサデシルケトン、ジヘプタデシルケトン、ジオクタデシルケトン、ジノナンデシルケトン、ジエイコシルケトン、ジヘンエイコシルケトン、ジドコシルケトン、ジトリコシルケトン、ジテトラコシルケトンが挙げられる。
【0028】
脂肪族ケトン化合物Bは、金属酸化物触媒の存在下、前述の直鎖飽和脂肪族炭化水素基を有するカルボン酸を、高温、好ましくは300~350℃の温度、高圧、好ましくは0.1~5MPaで反応し、脱炭酸して得ることができる。ここで、金属酸化物触媒としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛等が挙げられ、またカルボン酸としては、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸等が挙げられる。または、前述の直鎖飽和脂肪族炭化水素基を有するカルボン酸と金属酸化物触媒の代わりに、カルボン酸マグネシウム塩、カルボン酸カルシウム塩、カルボン酸亜鉛塩などのカルボン酸金属塩を用いてもよい。代表例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ベヘニン酸マグネシウム、ベヘニン酸カルシウム、ベヘニン酸亜鉛などである。
脂肪族ケトン化合物Bは、保存安定性の観点で、酸価は5mgKOH/g以下が好ましく、さらには3mgKOH/g以下が好ましく、特に1mgKOH/g以下が好ましい。なお、酸価はJOCS(日本油化学会)2.3.1-1996に準拠して測定することができる。
【0029】
脂肪族ケトン化合物Bの融点は70~100℃が好ましく、さらに好ましくは80~100℃である。融点が70℃未満では保存安定性が悪化するおそれがあり、100℃より高いと高速印刷時に溶融しないおそれがあり、トナー用ワックスとしての効果を発揮しない可能性がある。
脂肪族ケトン化合物Bの融点は、昇温速度毎分10℃の示差走査熱量分析(DSC)により測定することができ、DSC分析により測定される吸熱ピークのトップピークの温度を融点とすることができる。
【0030】
〔トナー用ワックス組成物〕
本発明のトナー用ワックス組成物は、上述のエステル化合物Aと脂肪族ケトン化合物Bとを含有し、エステル化合物Aと脂肪族ケトン化合物Bとの質量比〔(A):(B)〕が0.1:99.9~30:70であり、好ましくは1:99~15:85である。エステル化合物Aと脂肪族ケトン化合物Bの質量比が0.1:99.9~30:70を満たさない場合には本発明の効果が得られず、1:99~15:85を満たす場合には本発明の効果がより顕著に得られる。
【0031】
本発明のトナー用ワックス組成物は、高速印刷時の光沢ムラ抑制の観点から、冷却速度の差異によって生じる結晶化挙動の差異が小さいことが好ましく、その指標として、トナー用ワックス組成物を溶融状態から徐冷した時の結晶化エンタルピーΔHと、溶融状態から急冷した時の結晶化エンタルピーΔHの比(ΔH/ΔH)が、0.75以上であることが好ましく、0.80以上であることがさらに好ましく、特に0.85以上であることがさらに好ましい。
本発明においては、トナー用ワックス組成物を溶融状態から徐冷した時の結晶化エンタルピーΔHは、降温速度毎分2℃の示差走査熱量分析(DSC)により、180℃から30℃への降温時の発熱ピークの積分値を算出し、得られた積分値をΔHとした。また、溶融状態から急冷した時の結晶化エンタルピーΔHは、降温速度毎分10℃の示差走査熱量分析(DSC)により、180℃から30℃への降温時の発熱ピークの積分値を算出し、得られた積分値をΔHとした。
【0032】
本発明のトナー用ワックス組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、エステル化合物Aと脂肪族ケトン化合物Bをそれぞれ合成した後に配合してトナー用ワックスとして製造しても良い。また、エステル化合物Aと脂肪族ケトン化合物Bとの質量比(A):(B)が上記範囲内の比率になるように合成材料の量を調節し、一括合成で製造しても良い。
エステル化合物Aと脂肪族ケトン化合物Bをそれぞれ合成した後に配合してトナー用ワックス組成物を製造する方法については、エステル化合物Aと脂肪族ケトン化合物Bを融点以上に加熱した上で、均一に混合した後に、冷却、微粒子化等を行うことが、品質のばらつきの観点から好ましい。
【0033】
本発明のトナー用ワックス組成物は、バインダー樹脂、着色剤、荷電制御剤などとともに配合され、通常の製法によってトナーが製造される。トナー中における本発明のトナー用ワックス組成物の配合量は、バインダー樹脂100質量部に対して、通常、1~10質量部である。トナー中には、本発明のトナー用ワックス組成物が単独、あるいは2種類以上混合して配合される。
【実施例0034】
以下に本発明のトナー用ワックス組成物の製造例、およびその評価方法を示すことで、本発明を更に具体的に説明する。
【0035】
〔エステル化合物Aの調製例〕
表1に、実施例及び比較例で用いたエステル化合物Aの酸価、水酸基価、及び融点を示す。
[エステル化合物A―1の調製]
温度計、窒素導入管、攪拌羽および冷却管を取り付けた3Lの4つ口フラスコに、エチレングリコールを800.0g(12.9mol)、ステアリン酸を1834.6g(6.4mol)加え、窒素気流下、200℃で反応させた後、250℃、30kPaの減圧条件下で留去した。得られたエステル粗生成物は2058.0gであり、酸価が2.0mgKOH/gであった。
本エステル粗生成物500gをヘプタン1000gと2-プロパノール1000gの混合溶媒に70℃で完全に溶解させた後、徐冷することで再結晶を行い、得られた沈殿物をろ過にて回収した。同様の手順で再結晶を3回行った後、回収した沈殿物を40℃にて真空乾燥することで、エステル化合物A―1を200g得た。
【0036】
[エステル化合物A―2の調製例]
直鎖飽和アルキレングリコールとして1,4-ブタンジオールを用い、原料仕込み量を変えたこと以外はエステル化合物A―1と同様の手順で、表1に示すエステル化合物A―2を得た。
[エステル化合物A―3の調製例]
直鎖飽和アルキレングリコールとして1,6-ヘキサンジオールを用い、原料仕込み量を変えたこと以外はエステル化合物A―1と同様の手順で、表1に示すエステル化合物A―3を得た。
[エステル化合物A―4の調製例]
直鎖飽和脂肪酸としてベヘニン酸を用い、原料仕込み量を変えたこと以外はエステル化合物A―1と同様の手順で、表1に示すエステル化合物A―4を得た。
[エステル化合物A―5の調製例]
直鎖飽和脂肪酸としてパルミチン酸を用い、原料仕込み量を変えたこと以外はエステル化合物A―1と同様の手順で、表1に示すエステル化合物A―5を得た。
[エステル化合物A―6の調製例]
直鎖飽和アルキレングリコールとして1,10-デカンジオールを用い、原料仕込み量を変えたこと以外はエステル化合物A―1と同様の手順で、表1に示すエステル化合物A―6を得た。
[エステル化合物A―7の調製例]
直鎖飽和アルキレングリコールの代わりに、グリセリンを用い、原料仕込み量を変えたこと以外はエステル化合物A―1と同様の手順で、表1に示すエステル化合物A―7を得た。
【0037】
【表1】
【0038】
〔脂肪族ケトン化合物Bの調製例〕
表2に、実施例及び比較例で用いた脂肪族ケトン化合物Bの酸価、及び融点を示す。
[脂肪族ケトン化合物B-1の調製例]
1LのSUS製セパラブルフラスコに、ステアリン酸マグネシウム[製品名ニッサンエレクトールMM-2、日油(株)製ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸含有量;98%]を700.0g(1.18モル)を秤取り、窒素吹き込みで250℃まで昇温した。この時、材料に含有される水分は系外に留出させた。その後、窒素を2MPa圧入させ、温度を340~350℃に昇温し、8時間反応を続けた後、100℃まで冷却して、粗脂肪族ケトン化合物を得た。窒素吹き込み下100℃で該脂肪族ケトン化合物を100メッシュの金属ストレーナでろ過を行い、副生成物として生成した酸化マグネシウムをろ過した。また、ろ過して得られたワックスをステンレス製バットに排出し、室温で固化させて、ミキサーで粉砕した。得られた脂肪族ケトン化合物B-1(ジヘプタデシルケトン;RとRの合計炭素数=34)の酸価は0.2mgKOH/g、透明融点は85.8℃であった。
【0039】
[脂肪族ケトン化合物B-2の調製例]
1LのSUS製セパラブルフラスコに、ベヘニン酸[日油(株)製ベヘニン酸、ベヘニン酸含有量;97%、酸価=164.9mgKOH/g]を600.0g(1.8モル)と酸化マグネシウム35.6g(0.9モル)を秤取り、窒素吹き込みで250℃まで昇温した。この時、材料に含有される水分は系外に留出させた。その後、窒素を2MPa圧入させ、温度を340~350℃に昇温し、8時間反応を続けた後、100℃まで冷却して、粗脂肪族ケトン化合物を得た。窒素吹き込み下100℃で該脂肪族ケトン化合物を100メッシュの金属ストレーナでろ過を行い、副生成物として生成した酸化マグネシウムをろ過した。また、ろ過して得られたワックスをステンレス製バットに排出し、室温で固化させて、ミキサーで粉砕した。得られた脂肪族ケトン化合物B-2(ジヘンエイコシルケトン;RとRの合計炭素数=42)の酸価は0.4mgKOH/g、透明融点は94.5℃であった。
【0040】
〔脂肪族ケトン化合物B-3の調製例〕
1LのSUS製セパラブルフラスコに、ステアリン酸[日油(株)製ビーズステアリン酸さくら、ステアリン酸/パルミチン酸の混合物(質量比65/35)、酸価=207.8mgKOH/g]を600.0g(2.2モル)と酸化マグネシウム44.4g(1.01モル)を秤取り、窒素吹き込みで250℃まで昇温した。この時、材料に含有される水分は系外に留出させた。その後、窒素を2MPa圧入させ、更に温度を340~350℃に昇温し、8時間反応を続けた後、100℃まで冷却して、粗脂肪族ケトン化合物を得た。窒素吹き込み下100℃で該脂肪族ケトン化合物を100メッシュの金属ストレーナでろ過を行い、副生成物として生成した酸化マグネシウムをろ過した。また、ろ過して得られたワックスをステンレス製バットに排出し、室温で固化させて、ミキサーで粉砕した。得られた脂肪族ケトン化合物B-3(ジヘプタデシルケトン/ジペンタデシルケトン/ペンタデシルヘプタデシルケトンの混合物;RとRの合計炭素数=30~34)の酸価は0.3mgKOH/g、透明融点は78.4℃であった。また、GCによる分析の結果、脂肪族ケトン混合物の質量比は、ジヘプタデシルケトン/ジペンタデシルケトン/ペンタデシルヘプタデシルケトン=42/13/45であった。
【0041】
【表2】
【0042】
〔トナー用ワックス組成物の調製例〕
表3に、実施例及び比較例で用いたワックス組成物の組成と、溶融状態からの徐冷時の結晶化エンタルピーΔHと急冷時の結晶化エンタルピーΔHの比(ΔH/ΔH)を示す。調製方法は、次のとおりである。
撹拌羽、窒素導入管を取り付けた0.3L容のセパラブルフラスコに、エステル化合物Aと脂肪族ケトン化合物Bを表3に示した質量比で溶融混合させ、窒素気流下、150℃で1時間撹拌した。その後、冷却、固化、粉砕を経て、トナー用ワックス組成物を得た。
【0043】
【表3】
【0044】
〔評価方法〕
実施例および比較例で行った各種試験及び評価の方法は、次のとおりである。
【0045】
[エステル化合物A及び脂肪族ケトン化合物Bの試験]
(1)酸価の測定
JOCS(日本油化学会)2.3.1-1996に準拠し測定した。
(2)水酸基価の測定
JOCS(日本油化学会)2.3.6.2-1996に準拠し測定した。
【0046】
(3)融点の測定
示差走査熱量分析計として、株式会社日立ハイテクサイエンス社製の「DSC-7000X」を使用した。測定は、約10mgのエステル化合物A又は脂肪族ケトン化合物Bを試料ホルダーに入れ、レファレンス材料としてアルミナ10mgを用いて行い、昇温速度毎分10℃として30℃から180℃まで昇温した。なお、測定の前に、30℃から180℃までの昇温工程と180℃から30℃までの冷却工程を経たサンプルを測定試料として用いた。上記DSCにより測定された吸熱ピークのトップピークの温度を、エステル化合物A及び脂肪族ケトン化合物Bの融点とした。
【0047】
[トナー用ワックス組成物の結晶化エンタルピー測定及び比(ΔH/ΔH)の算出]
上記「(3)融点の測定」と同様の装置及び手順で、トナー用ワックス組成物を溶融状態から徐冷または急冷した時の結晶化エンタルピーを測定した。徐冷時の結晶化エンタルピーΔHは、降温速度毎分2℃の示差走査熱量分析(DSC)により、180℃から30℃への降温時におけるトナー用ワックス組成物の発熱ピークの積分値を算出し、得られた積分値をΔHとした。また、急冷時の結晶化エンタルピーΔHは、降温速度毎分10℃の示差走査熱量分析(DSC)により、180℃から30℃への降温時におけるトナー用ワックス組成物の発熱ピークの積分値を算出し、得られた積分値をΔHとした。得られた測定値から、徐冷時の結晶化エンタルピー(ΔH)と急冷時の結晶化エンタルピー(ΔH)の比(ΔH/ΔH)を算出した。
【0048】
[トナー用ワックス組成物の評価]
(1)トナー用ワックス組成物の保存安定性
ワックス組成物をバインダー樹脂に混合したときの保存安定性について、以下の方法で評価した。実施例1~9および比較例1~5のそれぞれについて、評価サンプルを作成した。具体的には、ポリエステル樹脂(製品名:ダイヤクロンER-508、三菱レイヨン社製)を95質量部、表3に示したワックス組成物を5質量部の割合で混合し、二軸混練機「ラボプラストミル」(東洋精機社製)を用いて溶融混練を行ない、樹脂混練物を得た。溶融混練は120℃、80rpm/分で約5分間行い、得られた樹脂混練物を粉砕し、粒径50μm以下に成形し、評価サンプルとした。
それぞれの評価サンプルについて、ガラスバイアルに評価サンプルである樹脂混練物5gを入れ、45℃に保たれた恒温槽に2週間静置し、バイアルをひっくり返し、力を加えることなくサンプルを取り出した。サンプルを取り出した際に、バイアルに沈着することなく流出し、かつ粒径が50μm以下に保たれているサンプルの質量をXとしたとき、耐ブロッキング率Rは以下の計算式(I)より算出される。
計算式(I): R=X(g)/5(g)
算出された耐ブロッキング率Rを下記の評価基準に照らし、保存安定性を評価した。このように算出された耐ブロッキング率Rの値が大きいほど、保存安定性に優れていると評価される。
<評価基準>
◎(非常に優れた保存安定性を示す):0.95≦R
〇(優れた保存安定性を示す):0.90<R<0.95
×(保存安定性が不十分である):0.90≧R
【0049】
(2)トナー用ワックス組成物の高速印刷応答性
高速印刷時にはワックス組成物は素早く溶融し、かつ素早く凝固する必要があることから、ワックス組成物の融点と凝固点の差ΔTが小さいことが好ましいといえる。そこで本発明では、ワックス組成物の融点と凝固点の差ΔTを算出し、ΔTを指標としてワックス組成物の高速印刷への応答性について評価した。具体的には、示差走査熱量分析計として、株式会社日立ハイテクサイエンス社製の「DSC-7000X」を使用した。測定は、約10mgのワックス組成物を試料ホルダーに入れ、レファレンス材料としてアルミナ10mgを用いて行い、昇温速度毎分10℃として30℃から180℃まで昇温した後、180℃から30℃まで冷却した。なお、測定の前に、30℃から180℃までの昇温工程と180℃から30℃までの冷却工程を経たサンプルを測定試料として用いた。上記DSCにより測定された昇温時の吸熱ピークのトップピークの温度を融解温度(Tpm)、降温時の発熱ピークのトップピークの温度を凝固温度(Tec)とした。
得られたトナー用ワックス組成物の融解温度(Tpm)および凝固温度(Tec)を用いて、以下の計算式(II)によって、融解温度と凝固温度の差ΔTを算出した。
計算式(II):ΔT=Tpm-Tec
算出されたΔTの値をもとに、以下の基準でワックス組成物の高速印刷への応答性を評価した。
<評価基準>
◎(超高速印刷にも対応可能である):12.0≧ΔT
〇(高速印刷に問題なく対応可能である):12.0<ΔT≦15.0
×(高速印刷には適さない):15.0<ΔT
【0050】
(3)トナー用ワックス組成物の光沢ムラ抑制効果
高速印刷時の光沢ムラ抑制効果について、以下の方法で評価した。実施例1~9および比較例1~5のそれぞれについて、10gのワックス組成物を融点以上の温度で融解させ、鏡面処理が施された直径20cmの金属製プレートに厚さ2mmの枠を挟み、枠内に融解液を流し込んで、金属プレートで上下から挟みこんで徐冷もしくは急冷することで、ワックス板を作成した。得られたワックス板について、株式会社堀場製作所製グロスチェッカIG-320を用いて、入射角60℃の条件で測定(10箇所の測定領域を評価)し、その平均値を光沢値とした。計算式(III)で求められる徐冷時の光沢値Gと急冷時の光沢値Gの差の絶対値ΔGが小さいほど光沢ムラの抑制効果に優れていると評価される。
計算式(III):ΔG=|G-G
<評価基準>
◎(冷却速度の差による光沢ムラ抑制に非常に優れる):1.0≧ΔG
〇(冷却速度の差による光沢ムラ抑制に優れる):1.0<ΔG≦2.0
×(冷却速度の差による光沢ムラ抑制に優れない):2.0<ΔG
【0051】
(4)トナー用ワックス組成物の光沢性向上
ワックスの光沢性向上効果について、以下の方法で評価した。実施例1~9および比較例1~5のそれぞれについて、上記光沢ムラ抑制効果の評価と同様に急冷条件での評価サンプルを作成し、その光沢度の平均値Gを求めた。ブランクサンプルの光沢度をGBlankとしたとき、ワックス組成物を添加することによる光沢性の向上効果を表す光沢性向上率Kは、以下の計算式(IV)で求められる。このように算出された光沢性向上率Kの値が大きいほど、光沢性向上効果に優れていると評価される。
計算式(IV):K=G/GBlank
<評価基準>
◎(光沢性を著しく向上させる):1.20<光沢性向上率K
〇(光沢性を向上させる):1.00<光沢性向上率K≦1.20
×(光沢性が向上しない):光沢性向上率K≦1.00
【0052】
〔評価結果〕
以上の実施例および比較例について、評価結果を表4および表5に示した。
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
【0055】
ワックス組成物W1~9を用いた実施例1~9では耐ブロッキング率Rが高いため、保管時のトナー中での保存安定性にも優れているといえる。さらに、ワックス組成物W1~9は融点と凝固点の差が小さく高速印刷に対応可能である。また、徐冷時の光沢値Gと急冷時の光沢値Gの差の絶対値ΔGがΔG≦2.0であることから高速印刷時においても印刷物の光沢ムラを抑制可能であり、さらに光沢性向上率KがK>1.00であることから印刷物の光沢性を向上可能であるといえる。
一方、エステル化合物Aを構成する直鎖飽和アルキレングリコールの炭素数nが本発明の範囲よりも大きいワックス組成物W10を用いた比較例1では、光沢ムラの抑制効果は確認できたが、保存安定性が悪化し、ワックス組成物の融点と凝固点の差が大きく高速印刷に対応できず、また、光沢性の向上効果も得られなかった。
エステル化合物Aを構成するアルコールが3価のアルコールであるワックス組成物W11を用いた比較例2では、本発明で奏するいずれの効果も得られなかった。
エステル化合物Aを含有しないワックス組成物W12を用いた比較例3では、保存安定性と高速印刷への応答性は確認できたが、光沢ムラの抑制効果と光沢性の向上効果が得られなかった。
エステル化合物Aの配合部数が本発明の範囲よりも高いワックス組成物W13を用いた比較例4では、光沢性の向上効果は確認できたが、保存安定性が悪化し、ワックス組成物の融点と凝固点の差が大きく高速印刷に対応できず、光沢ムラの抑制効果も得られなかった。
脂肪族ケトン化合物Bを含有しないワックス組成物W14を用いた比較例5では、本発明で奏するいずれの効果も得られなかった。